2020年11月17日火曜日

★今回の論点:来年度以降の就活は、さらに厳しくなる。

2020年11月17日日経夕刊2面「「既卒3年新卒扱い」効果は 就活の緊張感なくす恐れ」

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏によるコラム「就活のリアル」欄における論説である。

「コロナ禍で就職氷河期の再来が危惧されている」ことに対して、「厚労相、文科相、一億総活躍相が経済団体首脳と、卒業後3年以内の既卒者を新卒扱いとすることを話し合った」ことから書き出している。この要請は、次の通りである。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1-img/2r9852000000wgtr.pdf

氏の主張の要点は、「好景気と氷河期の採用規模の違いは、大企業でみると半減となっているが、全体では1~2割減のレベル」ということであり、「氷河期だと、大企業が欲しがるような優秀な学生は、第1志望は無理でも、第2志望・第3志望あたりには受かっているのだ。逆に言うと、すべて落ちるくらいだと、好況期になっても第1志望に受かるのは難しいだろう。」ということである。そして、「「既卒3年大丈夫だから」と学生が就活に本腰を入れてかからず、すぐ諦める悪い風潮のみがまん延してしまうことが一番の問題」と結んでいる。

この記事の標題を見た時には、少し違和感を感じた。そもそも、日本は従来の新卒一発採用から脱却して、職務内容を明確にしたジョブ型雇用に転換すべきである、とされている。その観点からすると、新卒一括採用の中での「就活の緊張感」を論じる必要があるのだろうかという疑問を抱いたのである。

しかし、記事の中身を読むと、その新卒一括採用の慣行にどっぶり浸かっている学生に対する警鐘であることが分かった。安易に、「今年はあきらめて来年を狙います」と言う学生に対し、氏は、「今年、ある程度の企業に一つも受からないのに、景気回復したら第1志望に入れるなんてことはないよ」と伝えているそうである。

ジョブ型雇用においては、新卒・既卒の区別は無意味である。しかし、依然として新卒一括採用につながっている年功序列・正社員長期雇用の慣行が根強いことを、行政の「既卒3年新卒扱い」は物語っているわけである。一方の企業は、記事にあるように、「大企業はこれが何の意味も持たないことを知っている。お付き合い程度に「既卒OK」と書いているのだろう。」ということになるわけである。

同じような事は、かつて大学入試でもあった。私が大学を受験したのは1970年春だったが、大学紛争で前年の1969年春の東大入試は中止になった。何が何でも東大という人は、翌年、すなわち私の受験した1970年春に受験したわけだが、そのあおりを受けて、他の大学の競争率も軒並み上がる結果となった。

就活でも、同様の事となる。さらに悪いのは、来年の就活の見通しがさらに暗いことである。企業にとって、業績の先行きが見えない時は、人件費の抑制を考えざるを得ず、新卒採用は、真っ先に抑制されることとなり、それは何年か続く。一方、好況になると、一斉に採用強化に乗り出すので、採用難に陥ることになるのである。少子化で若年労働力は大きく減ってきているのであるが、この「右往左往」とも言える状況は過去からあまり変わらず、特に大企業を目指す学生にとっては、就活する年の景気動向に振り回されることになる。

一方で、そうやって折角入った大企業でも、入社3年以内に3割の新入社員が辞めていくとされている。「大企業」という名につられただけで、仕事内容が自分に向いていないこともあるのだろう。

卒業の年に、人生が決まるわけではない。大学入試の場合でも、失敗を引きずって何年も浪人するのでは、精神的に追いつめられることも多いだろう。人それぞれの人生ではあるが、大企業でなくても内定を得られた企業とはご縁があるわけだから、ちゃんと仕事内容などを把握して、働き始める方がよいのではないだろうか。氏の説くように、「今年ダメなら来年」というような安易な考えが最も危険であろう。

2020年10月17日土曜日

2020年10月17日朝日朝刊14面(社説)社会保障改革 「本丸」から逃げるな

 「政府の全世代型社会保障検討会議が約4カ月ぶりに開かれた」ことに対する社説である。

「少子化対策にテーマを絞り、首相の肝いりの不妊治療への保険適用や男性の育休取得を促す方策などを話し合った」ことに対し、「若い世代向けの施策の充実を、社会保障改革の目玉にする考えなのだろう」としている。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/

これに対し、社説では、「国民が社会保障に抱く最大の不安は、少子高齢化で制度を維持できるのか、必要な給付は守られるのかだ。聞こえの良い話だけでなく、「痛み」の分かち合いも含め、将来不安に応える議論にするべきだ」としている。

そして、首相は「めざす社会像は自助、共助、公助、そして絆」と繰り返すばかりで、「共助や公助をどう見直すのか、どこまで自助を求めるのか、具体的な中身はいっこうに語らない」とし、「少子高齢化に本気で向き合うならば、目の前の問題と中長期の課題を分け、腰を据えて議論する必要がある」と結んでいる。

ーーーー

社説の中で言及しているのは、消費税の引き上げ問題と、政府の「給付抑制策として75歳以上で一定以上の所得がある人の医療費負担を1割から2割に引き上げる案」であるが、必ずしも、それらを強力に推進すべきものとはしていない。

「それで少子高齢社会を乗り切れるわけではない」というのであるが、ならば、どのような方策が考えられるか、その方向性を示さないと、単なる批判に終わるのではないか。

現在、コロナ禍で、所得格差の問題が深刻化し、貧困への対策が重大な政策課題となっている。消費税問題で首相がすぐにトーンダウンしたのも、目の前の問題とは、あまりに隔絶した課題であるためであろう。中長期の課題を、目の前の問題に織り込むのは難しいが、それがチグハグだと、将来に禍根を残すことになる。国民一律に支給された定額給付金を、一時しのぎと考えるのではなく、将来に向けての国民の最低限の生活保障の一里塚とできるのかどうか、それが重要な論点だと思うのだが、どうか。

2020年5月10日日曜日

★今回の論点:内定取消への対処の心構え

2020年5月10日 日経 朝刊 27面 ●消えた内定 救った寺 「導かれた縁」夢諦めない

この記事は、2月に新型コロナで「今回の内定を取り消しとさせていただきます」というメールを受け取った学生が、万松寺のグループ会社に入社し、「1カ月前には想像できなかった未来です」としていることを紹介したものである。
「誰にも言い出せなかった。大学の卒業式もちょっと顔を出しただけで、そそくさと退散した。」という状況の中、母の「仕方ないよ。切り替えられるまで、しばらくバイト続けたらいいんじゃない」という言葉に少しだけ気持ちが軽くなり、父の「万松寺が採用を始めたそうだよ」という言葉でホームページを調べて、「面接を受けさせていただけませんか」というメールを送るところまでたどり着く。
そして、「面接は数日後。気さくな人柄の面接官に緊張がほぐれた。終了後「内定します」と告げられた。帰り道はうれしくて笑みが止まらなかった。後日、父はスーツを買ってくれた。「いつか返せよ」。出世払いを約束した。」ということになったそうである。
一方の「万松寺は今年度の新規採用を予定していなかった」が、住職の大藤元裕さんが「自分のせいではなく不幸になる学生がいるのなら、手を差し伸べたい」ということで、急きょ募集を決めたのだそうである。「運か必然かは分からないが、導かれた縁。降りかかった試練を、彼がどれだけプラスに捉えていけるかだと思う」と将来に期待をかけているとのことである。
最後は、「腐らなくてよかった。祖父母に見守られながら一生懸命頑張りたい」として、こんな時代だからこそ明るく、前向きに生きていくと誓った、と記事は結んでいる。
なお、記事では、「大学生の就職内定率は近年右肩上がりだった」が、「新型コロナウイルスの感染拡大で内定取り消しの動きが顕在化。21年春の就職活動では会社説明会やセミナーが軒並み延期となっており、学生は就職氷河期やリーマン・ショック後のような苦戦を強いられる可能性がある。」とし、「内定を取り消された学生を自治体が採用するといった救済の動きも出ている。行き場を失う人が増えれば、さらに対策が求められそうだ。」と補足している。

まさに、「捨てる神あれば、拾う神あり」(この場合は仏だが)である。人生の縁は、どこに転がっているか分からない。ただ、単なる縁ということではなく、家族の思いやりに包まれて、自分でも思い切って行動したからこその結果である。
「長い人生、多少の挫折は未来への糧になる」と言われても、当事者にとっては、慰めにもならず、愚弄された気持ちにすらなるであろう。だが、それでも、今回のコロナ・ショックでも分かるように、何が起きるか分からないのである。例えば、憧れの旅行業界に就職できた人も、今は仕事もなく待機を余儀なくされている。国内外を問わず、大手の航空会社ですら、倒産が囁かれる状況にある。ほんの少し前に、一体、誰が、このような事態を想像したであろうか。
進化論を唱えたダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」としている。激変する環境は、見方を変えればチャンスでもあるのだから、変化に柔軟に対応することが求められるのである。希望を捨ててはならず、努力を投げ出してはならない。

2020年5月9日土曜日

★今回の論点:オンライン教育の効用と課題

2020年5月9日 朝日夕刊1面 ●オンライン授業、大学手探り 参加人数超え入れず

この記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて学内への立ち入りを禁止する全国の大学が、続々とオンライン授業を始めている。…だが、4月に先行した大学ではトラブルも発生。どんな課題が見えてきたのか。」というものである。
「文部科学省が4月23日現在で集計したところ、全国の大学の99%がオンライン授業を「実施」「検討中」としていた。だが、4月に始めた大学では「動作が遅い」「授業に参加できない」といったトラブルが相次いだ。全国大学生活協同組合連合会が4月に実施したアンケートでは、オンライン授業中に通信が「かなり途切れ、ストレスを感じる」「時々途切れる」と回答した学生は4割近くに達した。」とのことである。
加えて、「オンライン授業を行う上でのもう一つのネックは、学生の通信環境だ。昭和女子大(東京都)の高木俊雄准教授のゼミ生による同大学生へのアンケートでは、回答者155人のうち98%は自宅にネット環境が整っているとしたが、「通信制限がない」は55%にとどまった。」としている。
「そんな中、こうした動きと一線を画すオンライン授業をしているのが、共愛学園前橋国際大(前橋市)だ。今月7日から、文字・文書資料が中心で通信負荷の低いシステムを活用している。学生の1割程度が動画配信を中心とした授業を受けられる環境にない、と見込むためだ。」という学校もある。「(1)テレビ会議システムなどを使う同時双方向型(2)授業の動画などを学生が好きな時間に受講するオンデマンド型(3)テキスト配信型がある。」が、大森昭生学長は「モバイル端末の入手も難しい状況で、無理を強いて取り残される学生を生まないことを第一に考えた。データ容量を気にせずスマホで双方向性を担保できるのが大きい」としているそうである。

今回のコロナ・ショックで明るみに出たのは、感染症対策と情報機器の活用において、日本は世界で大きく後れをとっているという事実である。前者については、一向に増えないPCR検査が、やろうとしても機器と人員が圧倒的に不足していることが明るみにでた。
そして、後者については、はかどらないテレ・ワークに加えて、オンライン教育での、この惨憺たる有様を見て、絶句した人も多いのではないだろうか。そこには、マリオ・ブラザーズなどのテレビゲームで世界を席巻した面影すらない。
この状態で、IT人材が不足しているなどと企業が言っているのが笑わせる。そもそも、新卒一括採用で、協調性重視の仲良しグループを形成してきた帰結が、この有様なのである。専門家の育成・処遇を怠ってきたツケは大きい。
そして、大学教育の現場でも、目を覆う混乱が生じている。教員の中には、パソコンの操作すら覚束ないのではないかと思える人もいる。オンライン教材と聞けば、自分が俳優みたいになって動画配信する必要があると思い込んでいる人もいる。
もっとも、企業や大学ばかりではない。東京都が毎日発表していた新型コロナの感染者数が誤っていたのは、各保健所からのFAX連絡が未着や重複だったからでそうである。もう何年も前に、米国の年金研究者と話をしていた時、日本ではFAXを日常的に使っていると伝えると、目を丸くして驚き、米国ではスミソニアン博物館まで行かないと見られないのではないかと言っていたのが、冗談とはほど遠い現実だったのだと思い起こされる。
日本を訪れる外国人が、無料のWIFIが少ないことに困惑し、有料の通信網の金額の高さに驚愕していたことが、実は日本の後進性の証なのだということが、あからさまになった今後、果して、どのように社会を変革すればよいのだろうか。
新型コロナが、幕末の黒船、第二次世界大戦での敗戦に続く、未曾有の危機であるが大きなチャンスでもあるという契機になるのかどうかは、これからの我々日本人一人ひとりの取り組みにかかっている。

2020年5月8日金曜日

2020年5月8日 日経夕刊9面 ●在宅就活、学生奮闘 志望見つめ直す機会に ウェブ面接に戸惑い
2020年5月10日 朝日朝刊1面 ●就活一変、戸惑う学生 コロナで説明会オンライン化

最初の記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が求められるなか、来春卒業の学生たちが「在宅就活」に奮闘している。」というものである。
「対面での面接や会社説明会が軒並み延期や中止となり、自宅で戸惑いながら「ウェブ面接」や情報収集に取り組む。慣れない環境に企業側も手探りだが、志望先を見つめ直す機会にと前向きに捉える学生もいる。」としている。
「就職情報会社のディスコ(東京)が3月下旬に全国の企業を対象に実施した調査によると、新型コロナの影響でウェブ面接を導入した企業は24.1%で、もともと実施予定だった企業と合わせて36.0%に上った。ウェブセミナーを実施した企業は半数を超えた。一方で対面での面接を延期した企業は少なくない。」とのことである。
「ディスコの武井房子上席研究員は「ウェブ上でのやりとりには限界があり、人柄を重視する日本の新卒採用の現場で今後も導入が進むかは分からない」とみる。学生にとっては時間や場所の制約が小さく、企業との接点を増やせる利点があるとし「自分の知らない業界や企業にも積極的に目を向け、有意義な就職活動に生かしてほしい」と話す。」と結んでいる。

後の記事は、「例年夏にかけて本格化する大学生の就職活動が、新型コロナウイルスの影響で様変わりしている。会社説明会は軒並み中止され、対面での面接試験もめどが立たない。オンラインでの選考が急速に広がるなか、学生たちを支える大学も対応に追われている。」というものである。
「就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが各地で予定していた合同企業説明会も5月末まで中止になった。多くの企業は対面での説明会や面接を取りやめ、オンライン選考に切り替えている。」としている。「この前まで売り手市場だったのに、一気に採用が抑制されないかが気がかりだ」との学生の声も掲載されている。
大学側でも、金沢工業大のテレビ会議システムを使った履歴書の添削、明治大でのオンライン会議システムでのグループ相談会、近畿大でのホームページにウェブ採用に関する記事の掲示、神田外語大でのオンラインでの「OBOG交流会」、などの動きが出てきているそうである。
一方、「就職情報会社の学情が4月1~10日、来春卒業予定の大学生・大学院生を調べたところ、就職活動をしていない学生が34・9%と前年より21・6ポイント増えた。」という。「リクルートキャリアの調査によると、来春卒業する大学生の4月1日時点の就職内定率は31・3%と過去最高を更新する一方、企業側には採用活動を後ろ倒しにする傾向も出ている。」ともしている。
最後は、法政大の児美川孝一郎教授の「先輩と同じペースで考えなくていい。大事なのはまず落ち着くこと。冷静に対応してほしい」とのコメントで結んでいる。

まず、「この前まで売り手市場だったのに」とか「先輩と同じペース」といった甘い考え方は捨てることである。「高い内定率」という報道も一部にあるが、あくまでもコロナ・ショックより前の状況であり、何の参考にもならないので、焦る必要はない。
だが、「就職活動をしていない学生」の割合が高いのは、気がかりである。大学や企業が開催してくれる説明会やセミナーなどに参加することだけが就活ではない。そもそも、そのような受け身の就活の機会は激減している。大事なのは、自分自身で業界や企業の研究をし、興味を持った企業にホームページ上からアプローチしてみるといった積極的な行動である。この際に、大企業を中心にすることは、オススメしない。大企業には、同じように考える学生からのアプローチが急増しているはずで、採用担当者もイチイチ取り合ってはいられないから、公式の採用の日程や手法で進めていくはずだからである。
今の時期は、規模に関わりなく、関心の持てる企業に接触し、あわよくば内定を得ることに注力すべきである。そううまく運ぶとは思えないが、自分で行動して結果を生み出すことは、今後の就活においても貴重な経験になる。
焦る必要はないが、何もせずに無為に時を過ごしてはならない。そのことは、講義の受講なども含めた日常生活の万端に通じることである。

2020年5月6日水曜日

2020年5月6日 日経朝刊1面 ●学費減免 2割満たず 国立大5校のみ 支援拡充が急務 30大学調査
2020年5月6日 日経朝刊23面 ●政府や大学、生活困窮の学生に支援 米・カナダには規模見劣り
2020年5月9日 朝日朝刊3面 ●困窮学生に10万円、要望 公明 文科相検討「思いは同じ」

最初の記事は、「新型コロナウイルスの影響でアルバイト先を失うなどした学生に対する主な大学30校の経済的支援で、学費の減免措置を取っているのが国立大5校にとどまることが分かった。緊急事態宣言の延長を受け、安倍晋三首相は「アルバイト学生への支援」を明言したが、主要国と比べて支援策は十分とはいえない状況だ。」というものである。
「日本経済新聞が5日までに全国の国公立大と私立大のうち学生数上位の各15校に学費の減免制度について聞いたところ、30校中、制度の新設・拡充を決めたのは、東京大や大阪大など国立大5校と全体の2割に届かず、私立大は1校もなかった。」とのことである。
「大学生(昼間部)約290万人のうち8割強がアルバイトに従事している。」状況の中、「経済的に困窮し退学を検討していると答えた学生は全体の20.3%に達した。」ということで、「首相は4日の記者会見で、学生への支援について「与党の検討を踏まえ速やかに追加的な対策を講じる」と述べており、追加の経済対策の焦点に浮上しつつある。」と結んでいる。

次の記事は、最初の記事を受けたもので、「政府は4月に始まった低所得世帯向けの学費減免制度の対象に、新型コロナで家計が急変した世帯を加え、2020年度補正予算に7億円を計上した。追加措置として授業料の納付猶予や減免を大学に要請し、対応した大学への助成などが浮かんでいる。」としている。
その上で、「ただ、世界に目を向けると、支援の規模は十分とは言えない。米国は生活に困窮する学生に、各大学を通じて総額100億ドル(約1兆円)を援助する政策を決めた。カナダも総額約6900億円の支援計画を公表しており、5月から8月まで月10万円を給付する。」とのことである。
最後は、「桜美林大の小林雅之教授(教育社会学)は「今後の社会を担う若者のため、政府は大学と連携すべきだ。現在の支援制度を周知した上で、減免制度の受給基準を緩和することを検討してほしい」と強調する。幅広い学生に対し、学費減免や返済不要の奨学金を迅速に行き渡らせることが求められている。」と結んでいる。

最後の記事は、与党内の公明党の動きである。「公明党の斉藤鉄夫幹事長は8日、萩生田光一文部科学相と会談し、新型コロナウイルスの感染拡大で生活が苦しくなった大学生らに1人10万円の現金給付を求める提言書を手渡した。斉藤氏によると、萩生田氏は「思いは同じだ。早急にやりたい」と述べ、前向きな姿勢を示したという。」としている。
「対象は、外国人留学生を含む専門学校生や大学生、大学院生で、住民税が非課税となる収入水準の学生や学業や生活のためアルバイトが必要な学生の最大50万人を想定する。予算規模は500億円の見通しで、1次補正予算の予備費を充てることを軸としている。」としている。

コロナ・ショックが、様々な影響を及ぼしている。学業や生活に困窮する学生への対応も、一つの大きな課題である。しかし、一方で、事業者への家賃補助の話も出てきている。どこまでの広がりがあり、事後的に、どれだけの影響が残るのか、計り知れない。
政府の対応を見ていると、モグラ叩きの様相に思える。最低限の生活保障という憲法にも明記されている責務への対応が、これまで蔑ろにされてきたことが露呈した、と言えるのではないだろうか。
もっとも、「言うは易く、行うは難し」ということではある。「無い袖は振れない」ということで、最終的には財源、すなわち国力の問題になる。だが、迷走する場当たり対応を見ていると、当座の救援と、将来への投資が、明確に区別して意識されてはいないのではないかという気がしてならない。
例えば、大学生への学費等の支援は、何故に正当化されるのであろうか。世間には、大学まで行ける人は恵まれているという感情もあり得るだろう。また、別の例として、利幅の薄い商いをしている商店などと、1本数万円という高級酒を提供している銀座の店とでは、補償といっても一律に考えられるものではないという面もある。
「給付」は、所詮、将来の税金で賄うしかない。何故、すぐに「給付」の話になるのか、まったく理解できない。ただで貰えるものなら、何でも誰でも欲しい、というのが人情だろう。しかし、そうやってばらまけば、将来にツケがくるのが明らかである。
そこで出てくるのが、困っている人に限定して給付する、という考え方である。確かに、これなら国民の理解は得やすい。ところが、最大の問題は、「誰が困っているのか」の認定である。そこに、人手や手間をかけると、迅速な支給に到らず、費用もかさむことになる。
その点で、「全国民1人10万円支給」は、正しい政策転換であるが、何故に、これを非課税にするのか、まったく理解できない。野党が主張するように課税対象にすれば、高所得者は辞退するかもしれず、辞退しなくても後で応分の税負担を求めることができる。
もっと真剣に考えるべきは、最後のセーフティートとされる生活保護の積極的活用である。私は、生活保護を貸付方式に転換し、もっと利用しやすくすべきだと、ずっと主張してきた。
生活保護で、当面の生活資金が得られるようにできれば、命の心配はなくなる。そうすれば、新型コロナ終息後の生活に向けての計画も、落ち着いて考えることができるようになるだろう。その意味で、貸付方式の生活保護は、恩恵・慈善的なものではなくなり、将来への投資と位置付けられるものになる。
今回のコロナ・ショックで、改めて、ベーシック・インカムの検討の必要性が認識されている。その検討にあたっては、貸付方式の生活保護も視野に入れる必要があると確信する。

2020年5月2日土曜日

2020年5月2日  日経朝刊17面 年金 繰り下げで増やす 貯蓄や収入確保が前提

ねんきん定期便を見て「年金が少ない。間違っているのでは」という56歳の会社員の事例をベースに、「繰り下げ受給」の制度を解説するものである。
「通常は65歳からの受給開始を66歳以降に遅らせると、1カ月につき0.7%金額が増える。現在の上限である70歳を選べば最大42%増になる。60歳を過ぎてもできる、国も後押しする年金の増やし方だ。しかも2022年4月からは上限年齢が75歳に上がる見通し。そうなれば年金額は最大で84%も増える計算だ。」としている、
また、「65歳を過ぎてもらい始めたら利用できない。だが、年金受給者でも受取額を増やしたい人は、当然いる。もっと幅広く使える増額法はないか。」ということに対しては、「厚生年金に入って長く働くことだ。厚生年金の上限は原則70歳なので、65歳を過ぎて年金をもらっていても、加入して働けば増額が可能だ。」としている。
加えて、記事の補足で、「60歳まで前倒しも可能」とし、「繰り上げ受給」にも触れている。「コロナ禍で収入が減ったシニアが繰り上げの相談にくるようになった」(ある社会保険労務士)とのことで、「当面の生活費を補うためとみられるが、年金は受給を始めると原則変更できない。減った金額が一生続くことも知っておきたい。」と結んでいる。

長生きのリスクを考えると、一生もらえる公的年金の受給開始を遅らせて増額年金を受給することは、有力な選択肢になる。ところが、実際に「繰り下げ受給」を選択する人の割合は、非常に少ない。
上記資料の繰下げの12ページには、「利用率は概ね約1%程度」と記されている。
利用率が低い理由の一つとして、現在の60歳以上の人の中には、65歳まで特別支給の厚生年金を受け取っている人が多く、65歳時点で本則の厚生年金および基礎年金の受給の選択を行う必要が生じた際に、そのまま受給を続けようとする向きが多いことが考えられる。
また、厚生年金の受給を遅らせた(繰り下げた)場合、配偶者分の加給年金も受給できなくなるので、その影響を考える必要があるという点もある。さらに、共働きの場合には、配偶者の遺族年金に及ぼす影響の考慮も必要になる。
このように複雑であるため、年金事務所で確認する必要があるのだが、日本年金機構のパンフレットを見ても、どうしていいかは分からないだろう。
これは、個々のケースで違いが生じるためであるが、繰下げ受給を推奨する政府の立場と、慎重な物言いが必要となる現場の感覚との間には、ズレがあることにはなる。
一番選択しやすいのは、65歳まで支給されていなかった基礎年金の繰り下げであろう。これなら、それまでの生活費に組み込まれていなかったわけであるから、対応しやすい。
なお、一生減額が続く「繰り上げ受給」の選択者は減ってきていたが、記事にあるような、新型コロナの影響があるとすると気がかりである。年金の「繰り上げ受給」は、最後の手段でなければならないが、「年金は破綻するから早くもらわないと損」というような無責任なマスコミ報道を真に受ける人もいるであろう。このように高齢者を惑わす報道は、「年金詐欺」と言っても差し支えないものであると思う。

2020年4月30日木曜日

2020年4月30日 日経朝刊2面 ●(社説)「9月入学」は幅広い国民的な議論で
2020年4月30日 日経朝刊3面 ●9月入学 国際化に利点 米欧では主流、留学しやすく
2020年4月30日 日経朝刊3面 ●(きょうのことば)9月入学 東大が一時導入検討

最初の社説は、「新型コロナウイルスの感染拡大で学校の再開時期が見通せないなか、入学や始業の時期を9月に変更する案が政策課題として浮上してきた」ことを論じるものである。「国の会計年度や、企業の採用慣行との整合性がとれるかなど、社会的な影響は大きい」が、「秋入学が主流の海外の大学と足並みをそろえることで高等教育の国際化を進める好機だとの指摘もある。論点を整理し、教育現場の実情も踏まえた丁寧な議論を望みたい。」としている。

続く3面の記事では、「9月入学は国際競争力の向上や人材育成に利点がある。海外では秋入学が主流で、米国の一部の州や英国、フランスなどの欧州各国、中国が9月入学の体制を取る。日本のような4月入学は少数派だ。いまは海外の大学への留学や日本への留学生の受け入れには双方に時期の壁がある。これが撤廃できれば留学しやすくなり国際交流を促せる。」とし、「学生が海外で高水準の研究に触れれば、将来的に日本の競争力を高めることにつながる。留学をきっかけに海外での就職もしやすくなり、国際人材が増える。」と評価している。
「これまでは日本の採用制度が9月入学導入への大きな壁となってきた。最近は日本の企業も通年採用を取り入れるなど、環境は変化しつつある。」として、日立製作所、東芝、AGCなどの動きに触れている。
もちろん、課題もあり、公的資格試験のスケジュール、年度制を基準にした法令改正の見直しも必要となり、提言をした全国知事会では、慎重意見も出た、としている。

3面の「きょうのことば」では、社説も上記の記事も触れている東京大学の2011年の秋入学への移行検討案に言及している。この案は、結局、他大学が追随せず、実現しなかったが、「明治時代の初期は日本も9月入学だった。国の会計年度を4月からに切り替えたことなどから、大正時代にかけて4月入学に移行した」としている。

9月入学が急浮上しているのは、コロナ・ショックによる休校で、4月から9月までの年度前半について、多くの学校で、授業や講義が行われていない状況がある。設備などを整えることのできる学校は、次々とオンライン授業・講義に移っているが、対応できない学校の生徒・学生は置き去りとなっており、学習格差が深刻になってきている。9月入学の急浮上も、取り残されている学生からのSNSによる切実な訴えを一つの契機にしている。
制度を変える時は、必ず賛否が入り混じる。非常時を理由にする変更には、拙速であるという慎重論が必ず出て来るし、この社説でも、そんなニュアンスを匂わせている。それでもなお、全国知事会が提言に到った教育格差という実態は重い。
慎重論の背景には、もう一つ重大な日本人の心象がある。それは、サクラである。卒業・入学の時期に咲く桜は、いかにも新しい季節の到来を思わせる。なればこそ、明治時代の9月入学が4月入学に変更されても、すんなりと国民に受け入れられてきたのであろう。
何でも海外の状況に合わせる必要はないが、経済活動も教育研究もグローバル連携の中で進められている状況下では、学生の海外留学にすら負の影響を与えている4月入学を、この国難の時期に見直すことには大きな意味があるであろう。当然のことながら、影響を受ける世代への最大限の配慮が必要ではあるが。

2020年4月28日火曜日

2020年4月28日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル) 就活環境、来年は悪化の恐れ 「氷河期」ほどは落ち込まず

就活理論編で、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による論説である。
「来年の就活に関しては今年より悪化するものになるはずだ。それは、リーマン・ショック後の状況に似るだろう。」としながらも、「どの数字を見ても、リーマン後は90年代から2000年の氷河期世代ほどは落ち込んでいないのだ。」としている。
そして、「その理由はいくつか挙げられる」とし、「30~50歳世代の採用がそれほど多くないので、余剰人員が少ない」「55~65歳世代の採用が多かったので、定年退職者が多い」「氷河期の採用絞り込みがその後の企業体力低下につながったことへの反省がある」などを挙げている。
そして、「体感的には好況期はいくらでも有名企業に入れて、不況になると就職自体が難しいと感じるかもしれないが、それは間違いだ。好況期には確かに、自分の実力よりも一つ格上の企業に入れる。そして不況期には志望ランクを一つ下げねばならない。ただそれは、いずれも通常期よりも多少上下するだけだ。天国から地獄に急降下するわけではない。そこを忘れないでほしい。」と結んでいる。

この論説は、その前の2020年4月14日付日経夕刊2面の「(就活のリアル)コロナで企業の採用は 決して氷河期ではない」の注意事項を述べたというより、率直に言えば、意見変更を図ったものと思われる。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/04/20200414NY02.html
すなわち、「決して氷河期ではない」として学生に安心感を与えるには、ほど遠い状況であることを踏まえて、厳しい状況であることを知らしめようとしたものと思われる。
それでも、2000年の氷河期世代ほどではなく、「天国から地獄に急降下するわけではない」としているわけだが、学生相手であることに鑑みれば、いささか甘過ぎる注意喚起ではないかと思われる。
就活をする学生にとっては、自分達が生まれたばかりの2000年と比較されても、まったく実感が湧かないであろう。2007年のリーマンショックにしたところで、かろうじて先輩などからの体験談が耳に入るかどうかということであろう。
つまり、学生の比較対象は、ほんの数年前の就活天国だった時であろう。だとすれば、間違いなく、「天国から地獄に急降下する」ことになる。
学生にとっては、昨年までの就活スケジュールや先輩の体験談が、まったく役に立たない状況である。この状況で、焦ったり浮足立ってみても、まったく益はないわけであるから、海老原氏には、それを落ち着かせようとする意図はあるのだろうと思う。
しかし、就活戦線は、間違いなく、熾烈化する。それに備える一番の対策は、WEB面接のノウハウの習得なども大事だが、本業である学業関連の学習を進めることであろう。それには、大学が準備する講義だけでなく、就活で必要となる筆記試験対策の学習も含まれる。
採用数を厳選する時、客観的な指標の一つとなるのが、筆記試験の成績である。だから、公務員試験で筆記試験の成績の比重が高いわけだが、民間企業でも、その傾向が強くなることが考えられる。たとえ、結果的に筆記試験の重みが少なかったとしても、学習したことが無になることはない。「自身の成長のための努力」、実は、それこそが最も人生で重要なことなのではないか。

2020年4月26日日曜日

2020年4月26日 日経朝刊3面 国民年金保険料を減免 コロナで収入急減なら
2020年5月2日 朝日朝刊4面 国民年金保険料の免除、減収者向け基準緩和

いずれの記事も同じ内容であるが、日経の記事は、制度実施前の動向報道であるのに対し、朝日の記事は制度実施に伴う案内記事である点に違いがある。

日経記事は、「厚生労働省は国民年金の保険料について、収入が大幅に減少した人を免除や猶予の対象にしやすくする。新型コロナウイルス感染症の影響が広がり、国内に約170万人とされるフリーランスなどで収入が急減するケースが増えているため、基準を緩めて支援する。」としている。
「国民年金は自営業者やフリーランス、非正規社員などが加入する。加入者は約1500万人で、2020年度の保険料は月1万6540円。」で、「どんな人が免除・猶予の対象になるかは現在、2年前の所得で判断している。この場合、新型コロナによる影響を反映できないため、2月以後の月収が急減している人も対象に加える。」とのことである。
一方、「会社員らが加入する厚生年金も特例が設けられ、延滞金なしで保険料の納付猶予を受けられる。新型コロナの影響で売り上げが20%以上減少するなどした企業が対象だ。」としている。

朝日記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で収入が減った人を対象に、5月1日から国民年金保険料の免除基準が緩和された。主な加入者の自営業者や非正規労働者、フリーランスは休業要請による影響を受けやすいためだ。学生を対象に納付を猶予する制度も合わせて緩和した。」というものである。
「大学や専門学校などの学生には、本人の前年所得が118万円以下なら国民年金保険料の納付が猶予される「学生納付特例」がある。今回、休業要請でアルバイトが減った学生もいることから、2月以降の所得が年間換算して118万円以下なら特例の対象にする。」としている。

詳しい案内は、日本年金機構に掲載されている。
「新型コロナウィルス感染症の影響による減収を事由とする国民年金保険料免除について」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/0430.html
「【事業主の皆様へ】「厚生年金保険料納付猶予相談窓口」の設置について」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202004/20200422.html
このような報道に触れた場合には、必ず、該当機関の情報をチェックするようにした方がよい。ただし、制度実施後でないと参照することはできない。
なお、「厚生年金保険料納付猶予」については、注意すべき点がある。事業主には、事業主負担分のみならず、従業員負担分についても納付の義務がある。納付猶予は、両方の保険料についての措置であるが、従業員分は徴収していながら、納付猶予を申請する事業主も多いと思われる。万一にも、納付猶予のままで企業が倒産すれば、従業員分の保険料も納付されていない状況になり、将来の年金額に反映されないリスクがある。したがって、従業員としては、給与明細をきちんと保管し、自分の保険料が事業主に徴収されていることを証明できる状況にしておく必要がある。
倒産といった場合のみならず、過去には、事業主が従業員分を納付せずにネゴばばしていたケースもあった。事業主に徴収されたことが証明できれば、年金額に反映することとなるので、気をつけるべきである。

2020年4月24日金曜日

2020年4月24日 朝日朝刊2面 ●(時時刻刻)学生困窮 バイト激減、実家も頼れず

「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、退学に追い込まれかねない学生が各地にいる。親の収入減やアルバイト先の休業などで、学費や生活費が払えない状況になったためだ。国の支援制度では救いきれない仲間のために学生たちが自ら動き出し、独自の支援策を始めた大学や自治体もある。」という記事である。
金沢大3年の男子学生の「生きていけるか不安で眠れない。給付型奨学金を拡充してもらうなどしないと、秋には退学か休学をしなければならなくなる」や、広島市の公立大3年の女子学生の「大学生活をあきらめたくない」と、大学まで往復4時間かかる実家に戻ることを考え始めた、などが紹介され、学生団体「FREE」の新型コロナの影響に関する学生アンケートの結果では、「回答した全国120校の514人のうち、退学を「少し考える」「大いに考える」との回答は計40人で、13人に1人に上った。」という。
追い込まれた学生の支援を始めた大学や、自治体が学生を支援するケースも出てきているはいるようである。

「だが、大半の大学は学費の減免には踏み込んでいない。都内の有名私大も学費の延納や奨学金制度の充実を図る一方、学費については「提供するサービスや中長期にわたる施設設備の整備・維持を包括的に考慮して定めており、履修科目数や授業回数などで定めていない」と説明する。」という状況のようである。学校システム全体を9月入学に移行する案も浮上しているが、そうなると、経営を維持できない大学が少なからず出て来る、との見方もある。
この構造は、居酒屋などの休業の場合と同じであり、休業しても、人件費はかさむ。大学の場合には、教職員の給与を支払う必要があるのである。一方の学生側からすれば、講義が提供されていないのに、という思いも出て来るだろう。
今回の新型コロナの事態が発生するまで、かくも日本の教育におけるIT化が遅れていることに危機感を持っていた教育関係者は少ないのではないか。講義をしないのに学費をとるのは、来店しない顧客から料金を徴収するようなもので、まともな状況ではない。一方、オンライン講義が行き渡れば、学生は物理的な大学の場所に縛られることなく、自由に魅力的な講義を受講することも可能になってくる。新型コロナ後の世界は、学問においても、それ以前とは、大きく異なるものになりそうである。

2020年4月23日木曜日

2020年4月23日 日経朝刊2面 (社説)問題多い年金法案の拙速審議は許されぬ

「国会が年金関連法改正案の審議を始めた。厚生労働省が実施した2019年の財政検証結果を受けた法案だが、制度の長期的な持続性を高める策を十分に盛り込んだとは言いがたい。」とする社説である。
「制度の持続性を高めるカギは、経済がデフレ基調のときに年金のマイナス改定を可能にしたり、基礎年金の最低保障機能を充実させたりする改革にある。だが法案は将来世代への視点が弱く、これらの課題解決には力不足である。」としている。
法案の主な内容は、①働く高齢者への年金支給のあり方、②非正規社員の厚生年金への加入促進、③年金をもらい始める年齢の上限引き上げ、の3点とし、①は「厚生年金の支給開始は65歳への引き上げ途上にあり、大きな意義は見いだしにくい」、②は「会社員の夫をもつパート主婦は、新たに求められる保険料負担を避け就業時間を減らす可能性が強い。流通業などの人手不足問題には逆風になる」、③は「基準年齢を70歳に引き上げたうえで、繰り上げ・繰り下げの範囲を65~75歳にするなど、年金財政を好転させる改革を求めたい」としている。
その上で、「現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定を可能にするルールを見送った点だ。デフレ基調が続けば、そのツケは将来世代に及ぶ。経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化すべきである。」「基礎年金が著しく目減りする副作用をどう和らげるか。消費税収などを活用して安定した公費財源を確保するのが、政治の責任であろう。」としているものである。

今回の法改正案の概要は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/000601826.pdf
この内容自体は、それぞれ意義のあるものであろうと思うが、社説の言うように、本質的な問題点を十分に討議した上のものとは思えない、言わば、小手先の改革案である。
では、本質的な問題点とは何か。それは、社説の言うように、支給開始の「基準年齢を70歳に引き上げ」であり、「基礎年金が著しく目減りする副作用」への配慮である。
社説では、「経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化」に力点が置かれているように感じられる。そこが、「基礎年金の機能劣化」を最大の問題と考える筆者とのスタンスの違いである。
ともあれ、最大の課題を置き去りにした法案が、「答弁に立つ厚労相は新型コロナウイルス問題で多忙をきわめる。人びとの関心がコロナ危機に向いている間に成立していた、ということがないようにすべきだ。」という点は、まったく同感である。






2020年4月22日水曜日

2020年4月22日 朝日朝刊10面 ●(経済気象台)採用担当の創意工夫で
2020年4月23日 日経夕刊1面 ●インターン採用を一部解禁 就活ルール見直し
2020年4月24日 日経朝刊5面 ●コロナ、採用慣行の改革迫る 「インターン直結」一部解禁へ

最初の記事は、「いまだに収束の気配がない新型コロナウイルスの感染拡大。その影響で、2021年春に卒業予定の学生たちの就職活動が混乱している」という書き出しのものである。
「3月1日に解禁された各企業の説明会やリクナビやマイナビといった就職支援会社主催の合同説明会が、感染拡大防止でほとんど中止され」、「企業はウェブ説明会などを通じて候補者の母集団をつくろうとしているが、現在の状況が続いた場合、今後予定される面接や筆記試験などの選考活動にも影響が出てくることは必至であろう。」としている。
その上で、「学生たちの意識としては、会社説明会のウェブ化は大半が許容しているが、その後の面接などの選考過程は、対面形式を望む学生が多いようである」という調査を紹介し、「この点に関しては、採用する側の企業の担当者も同様であろう」としている。
そして、「来年度以降の採用人数を決めかねている企業も多いのではないだろうか」、「今年の採用活動は例年に比べてかなり長引くことが予想される」と続け、「こういう時期こそ担当者の創意工夫の見せどころではないだろうか」と結んでいる。

次の夕刊の記事は、「政府と経団連は新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、採用活動を柔軟にするよう企業に呼びかける。授業の再開が遅れている高校や大学に配慮し、選考時期の分散を進め、採用の通年化を加速する。大学院生についてインターンシップ(就業体験)からの直接の採用も解禁する方向で、就活ルールを主導する政府が調整を急ぐ。」というものである。
これは、萩生田光一文部科学相と経団連の中西宏明会長が4月23日午後にテレビ会議を開いたことに関連するもので、翌日の記事も、この内容をフォローしたものである。
「コロナ危機は春の新卒一括採用に偏重した日本型の慣行の硬直性を露呈させた」とする一方、「インターンシップからの採用をルールとして認めれば就活時期の分散や通年化に弾みがつく」とし、「経団連と政府で足並みをそろえ、見直しの検討を急ぐ。まず大学院生について早ければ年内に解禁し2021年春入社から適用される見通しだ。院生は専門的な研究を仕事に生かす「ジョブ型雇用」につながる側面もある。」としている。
「両者が合意したのは大きく2点ある。選考や採用の時期の通年化をめざすことと、インターンシップ(就業体験)を柔軟に運用することだ。企業の採用活動と、学生の就職活動が十分に進まない状況に対応する狙いだ。」と報じている。
そして、「中西氏はテレビ会議後、「採用試験プロセスを変えるなど工夫がいる」と述べた。採用や選考の時期の分散を経団連の会員企業に呼びかけていく方針だ。学生の卒業時期が遅れた場合は、企業の入社時期を柔軟に変えることも検討する。」としている。
その上で、「学生優位の売り手市場だった就活の状況は変わってきた。これまでの人手不足が一転し、需要急減や休業などで人手が余る企業が増えている。就職情報会社のディスコ(東京・文京)が3月下旬に実施した企業調査では、約1割が21年卒の採用予定数を「下方修正する見込み」と答えた。企業と学生の双方にとって厳しい状況が続くと見込まれる中、迅速な対応が欠かせない。」と結んでいる。

最初の記事の「担当者の創意工夫の見せどころ」というのは、とても、その程度のレベルの話ではないと思うが、後の2つの記事の「萩生田光一文部科学相と経団連の中西宏明会長の会議」については、これから就活を本格化する4年生にとって気になる情報だろう。学校の9月入学に向けた動きも出てきており、3年生にとっても関心が高いものと思われる。
萩生田光一文部科学相の会議後の記者会見の模様は、次の通りである。
関係する部分は、9分経過後であり、文字ではリンク後の通りである。
https://www.youtube.com/watch?v=WxHmUTwTAbg&nofeather=True
記者)
 昨日の経団連・中西会長とのテレビ会議に関連して伺います。会談の内容と合意事項などがあれば教えていただきたいということと、就活の日程については、政府が示したスケジュールに関して、6月1日から面接など選考開始という日程感を示されていますが、そこら辺の日程が今後変わる可能性があるのかということ、及び一部報道で、インターン採用の解禁という趣旨の記事も出ておりましたが、インターンをめぐっては文科、厚労、経産のですね、3省による合意事項というものもあると私は理解しているんですが、そこについて、何か具体的な検討というのをされているのか確認させてください。
大臣)
 まず、昨日、中西経団連会長らと、また経団連と大学からなる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」において、3月31日にまとめられた報告書について説明をいただき、あわせて懇談をさせていただきました。その中で、就職活動に関しては、同協議会の議論を踏まえ、将来的な日本の採用・雇用の在り方を見据えた「就職・採用活動日程に関する考え方」の検討が必要との認識を共にしたところですが、加えて、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、来年春に卒業する予定の学生が不安を抱いていることについて、私からお話しをさせていただきました。ご指摘のとおり、6月1日の日程感は今のところ変更はないやに聞いておりますけれども、しかし、同時にですね、例えば、会社訪問などができないような環境にありますので、そういったものに、例えば、ウェブでの面接ですとか、あるいはその、今までは1回しか採用試験がなかったものも複数回行うなどの様々な配慮をして、今年の学生たちが不利益を被らないようにしてくれということを会長にもお願いをして理解をいただいたところでございます。また、インターンシップの件なんですけれども、産学協議会が掲げた10のアクションプランにおいて、今後、大学と企業において多様で複線的なインターンシップの目的・意義・内容・期間等について、産学及び社会的な共通認識を改めて確立することと承知をしております。この共通認識の検討を踏まえて、文科省としては、関係府省と連携して、いわゆるインターンシップの3省合意の在り方を含め、Society5.0時代に求められる国の役割とインターンシップの推進の方向性を検討していくべきと考えておるところでございます。この合意した当時、平成の始めの頃、6年7年の頃だったと思いますけど、あの頃は、どちらかというと囲い込みのようなインターンシップで、1日ワンデイでもそれでインターンシップを行ったみたいなことで内定につながるような誤解があって、そうではなくて企業側も、一定程度働きぶりを見て、その延長で仕事が向いているとか向いてないとか判断する意味でのインターンシップというのは有効な部分もあると思いますので、既に決定した、ごめんなさい平成9年ですね、9年の基本的な考え方を含めて、今後の新しい採用の在り方も、今後、経済界の人たちとも話合いをしていきたいと思っています。冒頭申し上げた、大学の皆さんとの未来に関する産学協議会って、これ、初めての試みで、どっちかというと、今まで大学側も企業側に、外に向かって要望したり、時には文句を言ったりしてましたし、企業側も大学に対して物足りなさを申し上げてたのが、四つに組んで話合いをして、非常に風通しがよくなったということを報告を受けてますので、こういう機会を続けながら、いい意味での就職活動、学生たちが複線的に様々なチャレンジができて、自分に合う仕事を見つけられるような環境作りというのを文科省としては応援していきたいなと思っています。
2020年4月22日 朝日朝刊6面 ●内定取り消し者へ就活相談 リクルートが専用サービス

「リクルートキャリアは20日、新型コロナウイルスの影響で企業から採用内定を取り消された既卒の就職希望者のために、専用の就活相談サービスを始めた」との記事である。
「同社のホームページから新型コロナ対応の特設サイトを通じて申し込むと、通常は学生だけが対象のサービス「リクナビ就職エージェント」に登録でき、電話相談や求人情報の紹介などのサービスが無料で受けられる。登録期間は5月31日までの予定。内定取り消しを受けた人を積極採用したい企業などとつなげる。通常は紹介成立時に企業から受け取っている手数料も無料にするという。」としている。

「リクナビ就職エージェント」のサイトは、次である。
http://job.rikunabi.com/agent/
通常の学生用の就活サイトであるので、内定取消で、切羽詰まった学生からは、少し利用し辛いと感じるかもしれない。もっとも、このサイトを利用して就活して内定した学生にとっては、リクナビIDをすでに取得済みだろうから、そうでもないのかもしれないが。
内定取消に対して、厚生労働省は、きちんとした情報サイトを開設していないようである。検索して出て来るのは次のサイトであるが、これは前回のリーマン・ショックの際の情報であると思われる。
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/26.html
そもそも、このようなサイトを立ち上げる場合、時点を明確にするのは、基本中の基本である。ところが、冒頭に記述がなく、「来年3月新規学校卒業者の採用内定が取り消されるという事案が発生」と、いつのことかもわからない記述から始まっている。これでは、切実な思いで情報を求めている関係者に、失望を与える結果になるであろう。
すでに、今回のコロナ・ショックの経済や社会に及ぼす影響は、前回のリーマン・ショックの比ではないという認識が、専門家のみならず国民各層に共有されてきている。この期に及んでも、学生にとっても社会にとっても重大な事態である内定取消に関する情報が、きちんと参照できるようになっていないのは、役所の怠慢というものではないか。
国民の気持ちに寄り添っていないという点では、怠慢と拙速の差異はあるが、欠陥品だらけで回収に追い込まれたアベノマスクと、共通している。

2020年4月19日日曜日

2020年4月19日 日経朝刊31面 ●氷河期世代 45歳の再挑戦 時代恨まず、前を向いて
2020年4月20日 日経朝刊3面 ●氷河期世代 450人を採用 政府、3年間で

最初の記事は、就職氷河期時代を経験した方が、兵庫県宝塚市役所に採用されたことに関するものである。
「初めて就職活動をしたのは1998年。いわゆる就職氷河期だった。バブル経済が崩壊し、企業は一斉に採用を絞った。街には内定をもらえない学生があふれた。」中で、「大手志向でとりあえず受けた」のはメーカーや金融など約50社。1社から内定が出たものの、自分がそこで働く姿を想像できず、どうしても入社に踏み切れなかった、という。
そして、「翌年、改めて同じくらいの数を受けたが、今度は1社も内定がもらえない。2年をかけて何とかコンビニの正社員に採用され「やっと落ち着いて働ける」と安堵した。
だが、いざ働き始めると、想像もしない生活が待っていた。早朝、深夜問わず携帯電話が鳴り、担当の店舗に駆けつける。ノルマを達成するため、クリスマスケーキやお中元の商品を自分で大量に買うこともあった。」とし、「耐えきれずに退職し、契約社員などの職を転々とした。採用面接の途中で面接官が携帯で誰かと話し始めたことすらあった。結果はもちろん不採用。「まともに話すら聞いてもらえないのか」。就職難の時代を恨んだ。
その後、非正規の公務員職に就いたが、常に「来年もここで働けるのだろうか……」と不安に駆られた。レールに乗り損ねた境遇を恥じ、正社員の座を射止めた高校や大学時代の友人と連絡を取ることもなかった。」とのことである。
そんな中、「これに応募してみたら?」という妹の助言で、「宝塚市の就職氷河期世代対象の採用」(採用予定は3人程度)に応募し、「時代を恨んでも仕方がない。前向きに生きよう」という気持ちになって、「合格」したというものである。
記事は、「初めての就職活動から20年がたった。時間はかかったが「自分の働く姿が、同世代の人が再挑戦するきっかけになるかもしれない」。45歳、折り返し付近で新たな人生が始まった。」として結んでいる。

後の記事は、「政府は2020年度から3年間で、就職氷河期世代から450人以上を中途採用する方針だ。初年度は157人を募集し、11月29日に統一採用試験を実施する。政府は22年度までに国全体で氷河期世代の正規雇用者を30万人増やす目標を掲げており、自治体や企業でも同世代を採用する動きが広がってきている。」というものである。
対象は、「1966年4月2日から86年4月1日までに生まれた人。中央省庁での事務職員や刑務官、入国警備官などの職種で募集する。」とのことである。「氷河期世代はバブル崩壊後の就職難で安定した職に就けなかったり、引きこもりになったりしている人が多い。」のに対し、ようやくにして救済措置が検討されることとなったわけである。
しかし、「新型コロナウイルスの感染拡大で労働市場全体が冷え込めば、氷河期世代の採用拡大も進まなくなる恐れがある。」と記事は結んでいる。

就職氷河期の救済対象者は、上記の通り、「1966年4月2日から86年4月1日までに生まれた人」ということである。その人達が、大学を22歳で卒業した年ということで見ると、1988年から2008年と幅広くなるが、この間には、二つの就職氷河期がある。
一つは、20世紀末のバブル崩壊であるが、1989年12月29日の大納会で、日経平均が終値の最高値38,915円87銭を付けた後に、失われた10年とも20年とも言われる長い経済の低迷期に入った時期である。最初の記事の方が、1988年(あるいは思い違いで1989年かも)に就活を行ったとすると、バブル崩壊の直前ということになる。恐らくは、それまでのバブル景気の中での先輩の就活などを踏まえての「大手志向」だったのだろうが、それが災いして内定1社だったのだろう。ところが、それも蹴ってしまう。翌1989年の就活が非常に厳しくなったのは当然で、山一證券や長期信用銀行といった大手金融機関すら破綻した時期である。
もう一つは、米国で住宅融資に関わるサブ・プライムローン債権の破綻によるリーマン・ショックである。これは2007年に発生したもので、その影響が2008年以降にも続いたわけである。
さて、今回のコロナ・ショックの影響は、どうだろうか。当初は、リーマン・ショックほどではないと言っていた経済評論家もいたが、そんな声は消え失せた。今は、バブル崩壊時ほどではないという声もあるが、経済指標では、過去最低の状況にある。
学生にとっては、振り返って、どの程度の衝撃だったかは、どうでもよいことであろう。喫緊の関心事は、就活がどうなるのか、であろう。ここでも、バブル崩壊後に採用を抑え過ぎて苦労した企業は、その轍を踏まないのではないかとか、自粛が解除されたら、経済活動は急激に活発になるはずで、人手不足になる可能性がある、といった楽観的予想もある。
だが、そうならなかったら、どうするのか。そうなったとしても、時期がずれたら、というような事を、就活を行う学生は、真っ先に考えるべきである。内定が得られた場合には、どんな会社であっても、最後の最後まで手放してはならない。過去の経験からして、現在雇用されている従業員すら雇用不安に怯えている状況の中、新卒採用の優先度が高まるはずはない。
ともかくも内定を確保した上で、今後伸びていく業界を考えるとすれば、第4次産業革命を牽引するIT業界ということになろうが、誰もが同じ事を考えるはずだし、要求される知識や技能のレベルは高い。それでも、どんな業界・企業に入ろうとも、IT知識は必須になるから、昨年度までの学生が経験していないオンライン講義の経験などは、貴重である。結局、講義に身を入れることが、自分を守る近道ということになるのではないか。
2020年4月19日 朝日朝刊23面 ●大学封鎖、逆境の春 学生「学費減額して」/就活ほぼストップ

「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの大学が校内への立ち入りを禁じている。自宅待機を余儀なくされ、就職活動も中断するなど学生たちの日常は一変した。大学側は外出自粛の長期化を見すえ、授業のオンライン化などの対応に追われている。」という記事である。各大学の状況が報じられ、就活にも大きな影響が出てきているとしている。
一方で、「オンライン授業を準備する大学が増えている。4月10日時点の文部科学省の調査によると、全国の大学(短大を含む)の48%が「遠隔授業を実施する」と回答。「検討中」も36%あった。」とし、東京大や法政大、パソコンやポータブルWiFiを貸し出している国際基督教大の例が紹介されている。
これに対し、「文科省も対応を急ぐ。3月下旬、省令で定める授業のルールの弾力化を各大学に通知し、対面授業ができない場合、同時双方向型授業のほか、オンラインでの質疑応答の機会があればリポート提出などによる代用を認めた。卒業に必要な124単位のうち60単位まで、となっているオンライン授業の上限を見直す用意もあるとした。」とのことである。
「ただ、都内の大学教員は教え子の学生について「スマートフォンは必需品でも、パソコンやタブレット端末はほぼ持っていない」。多くの学生がリポート作成などを大学のパソコン室でやっているという。「急ごしらえの対策で対応しきれるのか」」との声も紹介されている。「学生の通信料金負担の軽減枠の拡大を求める声」や「ネット上では学費の一部返還を求める署名活動も始まった」とのことである。

今回のコロナ・ショックで、世界各国に比して、日本が大きく遅れていることが明らかになった点が2つある。一つは、PCR検査で、SURSやMURSの危機に襲われた韓国などに比べると、日本の感染症対策の状況は著しく遅れている。自衛隊の救護活動で二次感染が生じていないことが称賛されているが、それは、細菌戦への備え故であろう。
そして、もう一つがIT活用の遅れである。オンライン教育も惨憺たる状況であるが、企業でのテレワークなども、十分な対応ができていない状況であることが明るみに出た。海外からは、何せ、サイバーセキュリティ担当の桜田義孝元大臣が、「パソコンは使わない」(実際は、「使えない」だろう)と公言しているくらいだから、と冷笑されているのであろう。
だが、とても笑いごとではないのは、大学教員の中には、オンライン講義に対応できていない人は少なくなく、大わらわで、基礎的な操作方法の講習をしているような有様であることである。
大学でも、企業でも、さらには個人でも、対面が大事というような牧歌的というか時代遅れの状況には、もはや戻れない。コロナ・ショックで、IT技術を核とする第4次産業革命は、世界中を席捲している。遅ればせながら、わが日本においてすら、である。

2020年4月16日木曜日

2020年4月15日 日経夕刊6面 年金繰り下げ 利用の注意点 長生き妻「基礎のみ」お薦め

この「家計のギモン」というコラムは、「年金をもらい始める時期を遅らせると受取額が増えると聞きました。近く75歳まで可能になるようですが、制度を利用する際の注意点を教えてください。」という質問に、社会保険労務士の森本幸人氏が答えているものである。
氏の説明は、まず、「老齢年金の受給開始は原則65歳ですが、希望すれば60~70歳の好きな時期からもらい始めることができます。66歳以降に遅らせることを「繰り下げ」受給といい、1カ月遅らせるごとに年金額は0.7%増えます。単純計算すると70歳からでは65歳からより金額が42%増えます。この間の年金はゼロですが、それをしのげば増えた年金額を終身でもらうことができます。」という基本からである。
そして、「国は繰り下げの上限を75歳まで延ばす方針です。国会で法案が成立すれば、2022年4月から可能になります。75歳からもらい始めると、65歳からより金額が84%増える計算です。」とし、「繰り下げを選ぶのが得かは、どれほど長生きするかによります。」「繰り下げは男性より長生きする確率が高い女性に向いた制度といえます。」としている。
ただし、「注意したいのは、妻の老齢厚生年金が夫が亡くなった後にもらう遺族厚生年金(通常は夫の老齢厚生年金の4分の3)より少ないケースで、よくある事例です。この場合、遺族厚生年金は妻の老齢厚生年金を差し引いた額しか支給されません。妻が自分の老齢厚生年金を繰り下げて増額しても、遺族厚生年金との合計額では変わらないことになります。」ということで、「老齢厚生年金と老齢基礎年金(国民年金)は別々に繰り下げることができ、後者は繰り下げして増額しても遺族厚生年金が減ることはありません。遺族厚生年金との合計で考えると、女性は老齢基礎年金だけ繰り下げるのがお薦めといえます。」と結んでいる。

森本氏の説明は、専門家として過不足がないが、質問者は、自分でちゃんと確認する必要があるだろう。法改正前の現在の制度については、次が参考になるであろう。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/0000000011_0000026998.pdf
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/0000000004_0000000099.pdf
少し分かりにくく思うかもしれないが、自分自身の年金のことなのだから、森本氏の回答ともども、よく読みこんだ上で、最寄りの年金事務所で確認するとよい。
相談窓口は、次のようになっている。
https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/index.html
https://www.nenkin.go.jp/section/tel/index.html
ただし、年金事務所は混み合うことが多いから、上記の予約相談にするか、下記の「ねんきんネット」の利用が、オススメである。大事な自分の年金なら、自分で確認する労をいとわないようにすべきである。
https://www.nenkin.go.jp/n_net/index.html

2020年4月14日火曜日

2020年4月14日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)コロナで企業の採用は 決して氷河期ではない

就活理論編担当の雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による解説である。
「就活をめぐる風景が、ここ1~2カ月で一変した。言うまでもないが、コロナウイルス禍によるものだ」とし、「就活生、その親、そして大学関係者はあまりの急変に面食らっているのではないか。以下、本年の就活がどのようなものになっていくかを、ざっと話していきたい。」というものである。
その上で、「新卒採用というのは、企業にとってかなり大きな経営事項の一つだ。だから採用人数やそれにかかる予算、プロセス設計などは相当早くから決めている」が、今回のコロナウイルス禍が「重大なものだと本気になって認識したのは、1月20日に中国の習近平主席から公式な発表があってからだろう」とし、「抜本的な採用削減までは踏み込めない企業が多いと読む。各所に調整して採用計画を大幅に見直しができないからだ」と言う。
結論として、「採用数は減少するが、激減とまではいかないだろう。それはすなわち、今までのバブル的な採用売り手市場が終わっただけで、決して氷河期ではない。普通に戻るだけだと思っている。」としているのである。

海老原氏の考察には含蓄があり、「なるほど」と思うことが多いが、今回については、見立て違いであろう。コロナ・ショックの衝撃は、もはやリーマン・ショックの比ではなく、就職氷河期に突入するのは、まず間違いないと思う。
氏の考察の論拠は、日本企業の採用計画の硬直性ということであるが、平時ならばともかく、この非常時に採用計画を見直さない企業は、まずあり得ない。今春に入社予定であった人についてさえ、内定取消や自宅待機が続発している状況である。
また、日本企業の行動の中に、「横並び」がある。本来、企業の採用計画は、自社の業務遂行上の必要性を最優先して決定すべきものであるが、常に他社の動向を窺っているのが、日本企業の体質である。コロナ・ショックによって業績急降下の業界や企業からは、当然に、採用計画の大幅見直しが出て来るであろう。そのことは、必ず他社にも飛び火する。これは、オイル・ショックやリーマン・ショックの際にも発生した歴史的状況であり、今回が例外である兆しは窺われない。こうした風土は、トイレットペーパーの買い占め騒動に見られるような日本人気質にも根差している面があるように思われる。
そもそも「空前の人手不足」ということで発生していた昨年度までの売り手市場にも、同様の横並び意識が関わっていたものと思われる。海老原氏は、この記事でも言及している下記の4ケ月前の記事で「遠からず不況が来る可能性がある」と警告し、その通りになったわけだが、氏の見立てが今回は違っていると思うのは、氏の想定していた「不況」が経済サイクルの循環の中のものであったのに対し、今回のコロナ・ショックは、それこそ百年に1回程度の「大恐慌」に当たるものである点である。これを、各国首脳は、「戦争」とまで表現し、安倍首相も「第三次世界大戦」と述べたという。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200128NY02.html
就活に臨む学生は、絶対に油断してはならない。世界中の万人にとって、このコロナ・ショックは、未曾有の危機なのである。

2020年4月10日金曜日

2020年4月10日 朝日朝刊23面 ●内定者、パワハラで自死 パナ子会社、「行き過ぎ」認める

「就職内定先の人事課長からパワーハラスメントを受け、大学4年の男子学生(22)が入社2カ月前にみずから命を絶ったと、遺族の代理人弁護士らが9日に記者会見して公表した。人事課長は配属への決定権をちらつかせながら、内定者のSNS交流サイトに毎日書き込むように強要するなどしていたという。」との記事である。会社側も取材に「行き過ぎた行為があった」と認めた、という。
記事では、「男子学生は2019年2月に死亡。パナソニックの完全子会社「パナソニック産機システムズ」(東京)から新卒採用の内定を得ていた。同社では研修の一環として、SNS交流サイトに内定者20人を全員登録させていた。人事課長(当時)は、毎日ログインして投稿にコメントすることなどを求めたという。」としている。
「人事課長は18年7月ごろから、SNSに「書き込まない人は去ってもらいます」などと、内定者を精神的に追い込むような言葉を投稿するようになった。「邪魔です」などと内定辞退に言及したり、入社後の過重労働を示唆したりしていた。」ということで、「弁護士らは会社側の協力を得て約1年にわたり調査をした結果、課長のハラスメント行為で精神疾患を発症し、自殺につながったとみている。会社に損害賠償を求めるという。」と記事はしている。
ところが、「入社内定者が就職予定の企業からパワーハラスメントを受けても、現状では労災保険の対象外」なのである。「6月からまず大企業に職場でのパワハラ対応を義務づける「パワハラ防止法」の付帯決議では、就職活動中の学生などへのハラスメント対策も求めている」とううことではあるが。
これに対し、「パナソニック産機システムズは、「採用担当者により、行き過ぎた指導が行われていたことは事実。男子学生の自殺の動機についても一部責任がある」と認めた。再発防止に向けて昨年8月に「社内風土改善推進室」をつくり、内定者が相談できるハラスメント相談窓口を新設したという。」と記事は結んでいる。

パナソニック産機システムズのホームページは、次の通りである。
会社概要によれば、設立は2009年4月1日、資本金は301百万円で、社員数は約1,600名で、事業内容は、業務用設備機器・システムの販売・施工・サービスとのことで、アジア11ケ国に海外関連会社がある。
立派な大手企業であり、「私たちの仕事の考え方」として、次のように述べている。
「私たちはパナソニックグループにおける業務用設備機器・システムの直販・サービス・エンジニアリング会社です。お客様とのコミュニケーションを深め、信頼関係を築き、本当にお客様が必要としているものは何かを一緒に考え 3つのソリューションによって永続的に価値を提供し続けてまいります。」
これだけの企業が、何故に、このような愚劣な人事課長を野放しにしていたのか。内定を得た時には、亡くなった学生ご本人もご家族も、大いに喜んだであろう。まさか、こんな事になろうとは誰も思わなかったであろう。
だが、大手企業といえども、問題のある企業は、少なくない。就活においても、セクハラや、この例のようなパワハラは、まれな事とは言い切れないのが現状である。内定段階で、ここまでのパワハラは珍しいように思うが、入社後に、それまでとは打って変わって態度を急変する企業は、少なからずあると思われる。その事は、折角入社した新入社員が、3年以内に3割退社するという状況にも現れている。
SNSを強制登録させ、強制記入まで強いていたというのは、まさしく人権侵害であり、決して許されるものではない。内定を得た学生からすれば、できるだけスムーズかつ穏便に会社と馴染んでいこうとするのであろうが、これは、そうした気持ちも織り込んだ上での卑劣な犯罪的行為である。
こうした行為に対しては、どのように対応すればいいのであろうか。まず、絶対に自分だけで抱えこまないことである。記事では、友人に「きつい」「死にたい」と話していたということだが、直ちに行うべきことは、本人でも友人でも、大学の就職指導課に相談することである。親にも相談すると良いが、古い体験の親世代だと、「会社に入ればいろいろあるから、多少の事は我慢した方がよい」などと思う可能性もある。一番効果的なのは、大学の就職指導課への相談を経て、管轄の労働基準局に通報することである。
同じ境遇にあった内定学生は、20人という。仲間の自殺は、彼らにも暗い影をもたらしたことであろう。「邪魔です」といった罵詈雑言に従って何人かの学生が辞退し、会社に通報していれば、この人事課長は処分されていたかもしれない。もっとも、この程度の人物を人事課長にしていることからすると、会社の体質なのかもしれないが。
生きるために会社に入って働くのである。それを妨げる会社と折り合いを付けようとしても、ろくなことにはならないだろう。

2020年4月7日火曜日

2020年4月7日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル) エントリー先どう増やす 上田晶美
2020年4月7日 日経朝刊14面 ●来春大卒内定、8ポイント上昇 4月34%民間調べ 早期選考影響か

最初の夕刊の記事は、ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による就活実務編で、「エントリー数を増やすことは必要だと思うのですが、どうやって増やせばいいのかがわかりません」という質問に対して、「私がお勧めしたいのは、今エントリーしている会社のライバル会社にエントリーしてみようというものだ。」というものである。
しごく普通の考え方だが、「こう言うと素直な学生は驚く」というのだから驚く。それは、学生の選択基準が、「大学の説明会に来てくれた中から、いいなと思った会社にエントリーした」ということだからだそうである。
就活でまず大事なのは、どんな仕事をしたいのかを考えることである。例えば、金融機関に興味があるのなら、そこでの仕事がどのようなものなのか、まず業界研究を行う必要がある。その上で、その業界のいくつかの企業にエントリーするわけだから、その時点では、「ライバル企業」もへったくれもない。エントリーシートが通過して初めて、その企業の関係者と接触し、企業風土を知ることになるわけである。
「いいなと思った会社」ということで、仕事内容もチェックしないような就活なら、失礼ながら失敗は目に見えている。なので、「同業他社と比較検討するため」にも、同じ業界の他社にエントリーすべきとの上田氏のアドバイスは正しく、そうすれば業界共通のところは出来ているわけだから、エントリーシートの作成の手間も省けよう。

ところで、次の朝刊の方の記事は、「大手就職情報会社のディスコ(東京・文京)は6日、2021年春に卒業予定の学生の内定率が4月1日時点で34.7%だったと発表した」というものである。「前年同月を8.3ポイント上回った。インターンシップ(就業体験)に参加した学生への早期選考が内定率を押し上げたようだ。」としている。
コロナ・ショックの中、驚きの結果だが、「調査は同社の就職情報サイトに登録する大学生と大学院生を対象に4月1~5日にインターネットで実施。1299人から回答を得た。」ということで、サンプル数は非常に少ない。その発表内容は、次の通りである。
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/21gaku_soku04.pdf
「内定を獲得した学生のうち、就職先を決めて就活を終了したのは全体の1割程度」とのことであるが、非常に危険である。現在、コロナ・ショックで、企業の業績や採用姿勢には、不透明な点が多い。「大半は内定を持ちながら就活を継続している」というのは賢明だし、また、大手企業の採用活動が本格化するのはこれからであるから、当然でもある。
本格的な就活はこれからなのだから、学生にとっては、焦ることなく、気を引き締めて活動に臨むことが必要であろう。

2020年4月2日木曜日

2020年4月2日 日経朝刊5面 GPIFの損失額最大 1~3月、新型コロナ直撃 外国資産比率上げ 振れ幅一段と
2020年4月4日 朝日朝刊7面 年金運用、17兆円超赤字 1~3月期、株安で

2020年3月25日 日経朝刊5面 GPIF理事長に農中出身・宮園氏 市場対応・組織立て直し課題
2020年4月5日 日経朝刊6面 GPIF理事長 宮園雅敬氏 年金制度 安定へかじ取り

最初の日経の記事は、「新型コロナウイルスによる株式市場の乱高下が公的年金の運用を揺さぶっている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2020年1~3月の運用実績は、損失額が四半期として最大に膨らむ見通し。GPIFは14年から株式の運用比率を高め、1日からは運用資産に占める外国債券の目標比率を引き上げた。相場の影響を受けやすい面が出ている。」というものである。
「GPIFは1日、最高投資責任者(CIO)に米ゴールドマン・サックス出身の植田栄治氏(52)を充てる人事を正式に発表した。理事長には元企業年金連合会理事長の宮園雅敬氏が同日付で就任しており、逆風下、新体制で運用のかじ取りを担う。」としている。
「GPIFは19年4~12月に9兆4241億円の収益を上げている。ただ、1~3月に生じた損失で19年度の運用実績は8兆6000億円程度の赤字となったもよう。通年で運用損益が赤字になるのは4年ぶりだ。」とのことである。
なお、「日銀のマイナス金利政策で日本国債の利回りが低迷する中、GPIFは3月31日、運用資産に占める外国債券の比率を従来の15%から25%に引き上げた。一方国内債は35%から25%に減らし、これまで40%だった外国資産は50%に増やした。」が、「ただ海外資産の増加で、為替相場などの変動が運用資産に与える短期的な影響は大きく、振れ幅も大きくなりやすい。」としている。その上で、「国債などの安全資産に資金を振り向けるべきだとの声もある。だが、全資産を日本国債で運用すると、60年代には積立金が枯渇し、高齢者の年金給付に支障が出る。」としている。

次の朝日の記事も、基本的には同じ内容であるが、日経記事が、野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算によるものであるのに対し、「今年1~3月期の運用成績が17兆円を超える赤字になるとの試算を厚生労働省がまとめた」という点に違いがある。「四半期ベースでは過去最大の赤字幅で、2019年度全体では約8兆円の赤字になる見通しだ。14年に株式の運用比率を引き上げたことで、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株安の影響をもろに受けた。」としている。
「GPIFは14年から年金資産に占める株式の運用比率を計5割に増やしており、株安の影響を受けやすくなっている。高橋則広・前理事長は3月31日の記者会見で「あくまで狙いは長期的なリターン。評価損益が下がっても年金給付に影響は全くない」と述べた。ただ、厳しい運用環境が続けば、将来の年金水準に響く可能性がある。各年度の運用成績の公表は例年7月だが、GPIFは公表前倒しも検討している。」と結んでいる。

一方、このような状況の中、最初の日経記事にもあるように、GPIFの体制変更が行われている。3月25日の日経記事では、「女性職員との特別な関係を疑われかねない行為があったとの内部通報に適切に対応しなかった」として「高橋理事長に懲戒処分」が出たことで、農中出身の宮園氏が選ばれたとしているが、「農中で人事部長や総合企画部長などを歴任」した経験に、組織統治の強化を託すことになる、としている。その上で、「揺れる組織を立て直し、荒れる相場に機動的に対応することがまずは求められる。」と結んでいる。また、4月1日就任後の5日付日経記事では、「100年先まで見据えた年金制度の安定をどう維持するか。かじ取りの一翼を担う「100年の航海」が始まる。」とし、「2019年に企業年金連合会の理事長に就いたばかりで、当初は就任の要請を固辞したという。それでも「年金の世界に身を投じたのだから内部異動のようなものだ」と周囲に語り、就任を決めた。」とし、人となりを紹介している。

まず、4月4日付朝日の厚生労働省試算であるが、検索してみたものの、確認することができなかった。「試算」ということで、次の公式発表にも含まれていない。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/tsumitate/index.html
それでも、大幅なマイナスであることは確実であろう。
一方、GPIFの体制変更は、次のようになっている。
https://www.gpif.go.jp/topics/personnel_0401.pdf
理事長に加え、理事2名が退任ということで、大幅な変更になっているが、その背景にとして、次のような陰謀説まで囁かれているようである。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20191122-00151972/
真偽はともかく、何ともやりきれない話だが、巨額のカネがある所では、スキャンダルの芽は尽きない。国民の老後のための大事な資金を扱っているということだけは、忘れないようにしてもらいたいものである。
2020年4月2日 朝日夕刊7面 ●(取材考記)メール1通で「人生の道を断たれた」
2020年4月4日 朝日朝刊3面 ●コロナで内定取り消し、「まさか自分が…」 減少傾向、感染拡大で一変
2020年4月5日 日経朝刊2面 ●「内定取り消し」学生を自治体が支援 臨時雇用広がる

最初の記事は、内定取り消しにあった母娘の例について、榊原謙記者が述べたものである。首都圏に住む女子学生(22)が3月半ばに内定先のIT企業から「お出しした内定を取り消したく存じます」というメールを受け取ったところから書き出している。「入社まで2週間あまり。ショックで返信も電話もできなかった。」のは無理もない。「大事な娘になんてことをしてくれたのか」という母(50)の怒りも当然であろう。このメールを見せた友人の反応は「謝ってないよね」ということで、「先方から届いたのはこのメールのみ。事情を説明する電話もなかった。」という。
「内定を出した時点で労働契約は成立しているはず」だが、「社会経験や力の差を背景に『どうせ学生はこちらの意向に従うだろう』とひどい対応をする企業は多い」(労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は指摘)という実態が横行しているようである。
女子学生はいま就職活動に必死で、「小学校で教わるはずの『悪いことをしたら謝る』という常識すらない大人たちから道を断たれた。激しいいらだちを感じる。メール1通で済ませようと考える大人たち、そしてこの社会への不安もある」としている。「取材の後、女子学生側に会社から謝罪と一定の誠意を示したいとする連絡はあったという。だが、母娘が受けた衝撃と傷は消えていない。」と記事は結んでいる。

次の記事は、「就職の内定取り消しを受けた新規卒業者の数が、2019年度卒は3年ぶりに前年度を上回ったことが厚生労働省の集計でわかった。新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化し、直前に採用を見直した企業が出ているためだ。突然、就職口を失った若者は、悪化する労働市場で再度の就職活動を強いられている。」というものである。
最初の記事と同様に、西日本在住の女性(22)に、内定先のサービス業の外資系企業から「業務がないため採用を中止します。他社で就職先を探してください」という1通のメールが届いた例を紹介している。
実は、「これまでも景気変動や災害があるたびに、立場の弱い新卒者が内定を取り消されてきた」のであり、「2018年度卒は、リーマン・ショック後で最も少ない35人だった。だが、新型コロナで状況は一変している。」という状況である。
「厚労省は、内定取り消しをした企業などにはハローワークへの連絡を求めている。雇用維持の助成金の拡充などを説明して再考を求めると、撤回する例も複数あるという。」としている。

最後の記事は、「全国の自治体で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で内定取り消しを受けた学生を臨時雇用する動きが広がっている」というもので、「神戸市は最大100人の採用枠を設け、千葉県成田市も募集を始めた。一時的に働く場を設けることで、経済環境の激変の影響を受けた若者を支えたい考えだ。」という。
また、「群馬県桐生市も同様の事情を抱える若者5人程度を非常勤職員として採用予定」、「千葉県成田市も内定を取り消された学生らを対象に、21年3月末までの期限付き職員として募集を始めた」、「内定を取り消された学生だけでなく、離職した人も含めて臨時に採用するのは大阪府豊中市」ということである。
「同様の取り組みは民間でも相次いでいる」とし、家電量販店のノジマや畜産・外食の平田牧場(山形県酒田市)の例も紹介されている。また、「東京商工会議所は内定を取り消された若者ら向けに、各地の商議所の会員企業の求人情報を掲載するインターネット上の掲示板を設けている。」とのことである。

東京商工会議所の「採用情報緊急掲示板」は、次の通りである。
https://www.tokyo-cci.or.jp/covid-19/saiyo/
一方、内定取消について、厚生労働省は、次のように掲示している。
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/koyou/q7.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000608831.pdf
「覆水盆に返らず」と言う。内定取消を行った企業が、思い直して入社させてくれるとは思えない。また、そんな仕打ちをした企業に、学生の方も、もう関わりたくないとも思うであろう。けれども、力を振り絞って再び就活に戻る前に、是非ともしておく必要があることがある。それは、「通報」である。一つは、大学の就職指導課であり、もう一つは、ハローワークである。どちらも新たな就活の支援をしてくれるかもしれないが、それ以上に大事なのは、そのようないい加減な企業を許さないという姿勢である。
企業の中には、内定を取り消しておきながら、素知らぬ顔で、また求人を行うものもある。さらに悪質な企業には、内定は取り消さず、入社後にイジメによって退社に追い込むものもあり得る。泣き寝入りをすれば、結局、そうした悪質な企業を容認することになる。だから、「通報」だけは、すべきである。
厚生労働省の報道姿勢には、問題がある。学生にとって死活問題である内定取消について、これだけ大きな問題になっているにも関わらず、きちんとした情報開示が行われていない。上記記事には、内定取消の件数などが記載されているが、そうしたデータは、厚生労働省のHPには見当たらない。また、内定取消を行った企業については、学生などの関係者に注意喚起するためにも、企業名を公表すべきであると思うが、それも行われていない。だったら、学生は、どうするだろうか。「#内定取り消し」というツイッターも立ち上がっているから、口コミで情報共有することになるだろう。そうすると、いい加減な情報が紛れ込む可能性もある。それが、正しい情報を提供しないことに対する報いであって、結局、真っ当な企業のためにならないわけである。

2020年4月1日水曜日

2020年4月1日 日経朝刊3面 東レ・ニプロ・富士急 評価損 企業年金の運用成績も悪化

「世界的な株安の影響で、保有株や出資先企業の株価下落で評価損を計上する企業が相次ぐ。東レは31日、17年に出資した香港企業の株価が下落し、187億円の損失を計上すると発表した。企業年金の運用成績も悪化しており、2020年1~3月の運用利回りは四半期ベースで8年半ぶりのマイナス幅となった。」という記事である。
企業年金に絞ると、「ウイリス・タワーズワトソンが30日時点で、約110の企業年金のデータをもとに推計した1~3月の運用利回りはマイナス3.9%となった。マイナスになるのは5四半期ぶり。マイナス幅は11年7~9月(マイナス4.8%)以来の大きさだ。」という。
「退職者への給付額が決まっている企業年金の場合、運用が目標に届かないことが続き、積み立て不足が膨らむと企業側が追加で費用計上する必要がある。」とし、「資産規模が約8000億円と国内有数の企業年金であるNTT企業年金の1~3月の運用利回りもマイナスとなった。」と結んでいる。

株価急落の状況であるから、日本の企業年金の資産運用状況は当然厳しい。過去の確定給付型の企業年金の運用利回り(修正総合利回りが時価ベース)は、次の通りである。
https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/shisanunyo/shisanunyo01.html
2019年度の運用利回りは、2007-8年度のリーマン・ショックの時以来の大幅なマイナスになるであろう。
だが、それでも、中期的に見れば、日本の確定給付企業年金の資産運用は、割合に健闘しているとも言える。今回のコロナ・ショックによる株価の下落は、リーマン・ショックを上回るが、運用資産の構成を見ると、その時よりも国内株式・外国株式の比重を減らしているようだから、安心できるものではないが、今回も持ちこたえられるかもしれない。ただ、本業が不振な中で、企業年金の費用負担も増えることになるので、企業経営者にとっては頭が痛いであろう。
もっと深刻と考えられるのは、個人が運用する確定拠出年金の方である。運用資産の中での預貯金の割合が大きいと批判されてきたが、老後のための資産であってみれば、安全重視とするのは当然で、預貯金の割合が大きいままの加入者にとっては、損失は、さほどではないであろう。問題は、口車に乗って内外株式の投資割合を増やした加入者である。投資に不慣れとされる人々は、株価の下落で、狼狽的に投資割合を引き下げたのではないか。そうすると、損失を確定することになり、株式相場が反転しても、その利益は得られない。確定給付型の企業年金が、リーマン・ショック時に内外株式が大幅に下落したにもかかわらず持ちこたえたのは。基本となる投資資産の割合を変更せず、むしろ株式価格の下落によって株式への投資割合が下がったので買い増しに動いたからと思われるが、そうした冷静な投資行動を、経験の浅い個々人の加入者には望むべくもないであろう。
もっと悲惨なのは、投資商品を選択しなかった場合の「指定運用方法」が、株式の投資信託に設定されている制度の加入者である。確かに、制度の構造として、選択しないこと自体に非があり、その場合に株式投資信託に掛金が振り向けられても、文句を言える筋合いのものではない。しかし。「選択しない」人が、「積極的にリスクを取る」とは、誰も考えないであろう。そもそも、確定拠出年金(企業型)の多くは、退職金から切り替えたものである。企業が支給してくれる退職金を当てにしていたのに、それが確定拠出年金に切り替わり、おまけに選択してリスクを取ったわけではないのに、コロナ・ショックの株式下落で大損した、これで文句を言わない人を見つけるのは難しいだろう。
退職金も、形を変えた確定拠出年金も、法的に義務付けられているわけではないのに、他社の動向を睨みながら、企業が従業員のために設定している制度ではないのか。それが、かえって恨みを買うようになるのは本末転倒だが、その原因を作ったのは、指定運用商品として愚かな選択をした企業自身であり、自業自得というものだろう。
2020年4月1日 朝日朝刊7面 ●1日インターン廃止 新型コロナ対応で採用機会増も要請 大学・経団連
2020年4月1日 日経朝刊5面 ●内定取り消し、就活も混乱 東商主導で中小求人

朝日の記事は、「学生らの就職活動と大学・大学院での教育のあり方を話し合う大学と経団連の協議会が31日、1日だけの就業体験「ワンデーインターンシップ」を認めないことにした。授業のある平日が採用活動に使われているとの批判が強く、就職情報会社の団体も認めないと宣言している。」というものである。
「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で、「中西宏明経団連会長と大学側の山口宏樹・就職問題懇談会座長(埼玉大学学長)らがテレビ会議を開き、インターンシップのルールを「原則、長期休暇期間を中心にする」と決めた。大学の場合、1~2年生向けは就業体験を通じたキャリア教育だが、3~4年生向けは就職を意識したものとし、企業側がこれらの違いを学生らに説明するよう求めた。」としている。
また、「ほかにも、採用方法や時期を多様化していくことで一致。新卒一括採用を維持しながら専門スキルを持った転職者や未就職者、外国人や留学から帰国した学生らを通年採用する考えだ。」とのことである。中西会長は「ウェブでの採用面接や説明会だけではなく、学生に対し企業としてメッセージを届ける手段を考えていく必要がある」と話した、としている。

日経の記事は、東京商工会議所が、「31日、内定を取り消された今春卒業の学生などに中小企業の求人情報を紹介する掲示板を開設した」ことに加え、「2021年春卒の就活生に対しては経団連がウェブ説明会の拡充など柔軟な対応を会員企業に要請する」としている。
また、「衛藤晟一・一億総活躍相は31日、日商の三村氏や経団連の中西宏明会長と会談し、21年春に卒業する学生を対象にした就活ルールの順守を求めた」とし、「衛藤氏は新型コロナへの対応で「みんなで力を合わせてやっていかないといけない」と求め、中西氏は「学生が心置きなく企業を選択できるような状況をなんとかつくっていきたい」と応えた。」と報じている。
一方、「学習院大学が就職情報会社に対し、2021年卒業予定の学生の採用活動を4月末まで停止するよう要望したことがわかった。現在、企業は集団で実施する説明会などが開けない状態が続いている。」ともしている。

朝日記事の「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の動向については、すでに次のブログで論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200321AY06.html
それが、正式に公表されたわけである。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/028.html

一方、日経記事の東京商工会議所による内定取消への対応についても、次のブログで言及している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/04/20200402AY07.html
政府から日本商工会議所に対する「2021年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」については、次の通りである。この要請は、日本経団連に対しても行われており、会員企業に周知されている。
https://www.jcci.or.jp/20200331yousei.pdf
https://www.keidanren.or.jp/announce/2020/0331.html

来春の就職を目指す学生にとっては、従来の就活とは様変わりの状況となっており、戸惑いは隠せないだろう。しかし、逆に見れば、5月連休明けまでは、じっくりと企業や業界を吟味する時間ができたことになる。今のうちに、候補先となる企業を、ホームページや有価証券報告書などで調査し、エントリーシートの作成を準備しておくのがよいであろう。また、公務員試験の問題集を購入して勉強すれば、試験の準備になるだけでなく、民間企業を志望する場合でも、学力テスト対策の一助となり、一石二鳥であろう。

もう一つ、候補先としてチェックしておいた方がよいと思われるのが、上記の東京商工会議所の「緊急的に新規採用に取り組んでいる企業」である。次のサイトの下部の業種欄にチェックを入れれば、登録企業を把握することができる。
https://www.tokyo-cci.or.jp/covid-19/saiyo/
これらの企業は、必ずしも優良とは限らない。事業が順調に回転していて人手不足なのであればよいが、従業員が使い捨て同様で人手が足りない場合もあり得るからである。その点では、別の資料などでのチェックも欠かせないが、少なくとも、今春卒業者の内定取消に対して救いの手を差し伸べている点においては、身勝手に内定取消を行った企業とは真逆の存在であることには間違いない。候補に入れておく価値はあるだろう。

2020年3月27日金曜日

2020年3月27日 日経朝刊16面 ●新型コロナで「内定取り消し」 4要件満たなければ無効

「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、4月入社予定の新卒学生らの待遇が不安定になっている。入社予定の会社に内定を取り消されたり、当面の自宅待機を指示されたりした場合、法的にはどう理解し、どう対応すればいいのだろうか。」という記事である。
まず、「厚生労働省によると、3月25日時点で新型コロナの影響で学生の内定を取り消した会社は20社、計30人が確認された」とし、「様々な会社で内定取り消しが発生する可能性がある」と続けた上で、「内定は、法的には企業と入社予定者の間に労働契約が交わされた状態を指す」ので「労働契約法が定める「解雇権の乱用」の規定が適用されるため、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない内定取り消しは無効」としている。
そこで、「確認しておきたいのは、整理・解雇の要件」とし、「企業が深刻な経営悪化などを理由として内定を取り消すことは整理解雇として認められる。ただし(1)人員整理の必要性がある(2)解雇回避のために最大限の努力をした(3)解雇対象者の選定が合理的(4)手続きが妥当――の4つの条件をすべて満たすことが必要」と解説している。
したがって、「内定を取り消すのは非常にハードルが高く、業績見通しが厳しいといった程度では認められない。労働問題に詳しい嶋崎量弁護士によると、内定取り消しが有効になるのは倒産が不可避だったり、倒産を避けるため整理解雇が欠かせなかったりする場合に限られる。」と述べている。
その上で、「内定取り消しより可能性が高い」のは、「企業が内定者に4月以降に自宅待機を命じたり、入社辞退を強要したりすることだ」としているが、「企業側の責任で社員を休業させた場合は、労働基準法に基づき社員に平均賃金の60%の休業手当を払わねばならない。」ことになる。
記事では、嶋崎弁護士の「立場の弱い学生などは、企業側の働きかけに応じてしまうケースも考えられるが、応じる必要はない。会社側が事実上、一方的に内定を取り消す権利はないので、簡単に応じてはいけない」との指摘で結んでいる。

この記事で理解しておかなければならないのは、就活で内定段階まで到った場合、学生であっても、労働者として保護されるという点である。こうした保護は、実は、アルバイトの場合にも適用されるものが多い。就活をするのなら、次の『知って役立つ労働法』などを参照して、最低限の知識は、身に着けておいた方がいいだろう。
https://www.mhlw.go.jp/content/000507287.pdf
一方、厚生労働省は、内定取消が重大な事態であるので、有期契約労働者、パートタイム労働者及び派遣労働者の雇用維持等に対する配慮と併せて、経済団体等に要望を行っている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10497.html
やっと内定に到ったのに、それを取り消されるのではたまったものではないだろうが、新たな道へ進むにしても、労働者としての自覚や意識を持つことは大切であり、そのことは、無事に入社できた場合であっても同じである。

なお、下記のNHKの番組「入社式直前 一転の内定取消も… 新型コロナウイルス」では、実際に内定取消にあった学生の生々しい状況が報じられている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200331/k10012358941000.html?utm_int=detail_contents_news-related_001
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200331/k10012360101000.html






2020年3月25日水曜日

2020年3月25日 日経朝刊2面 GPIF、外債比率10ポイント引き上げへ 高利回り投資シフト、円安要因の可能性
2020年4月1日 朝日朝刊4面 年金運用、外債シフト 新年度から 国債利回り見込めず
2020年4月1日 日経朝刊7面 GPIF、海外運用に傾斜 資産構成改定、外債比率25%に 為替リスク高まる

最初の記事は、スクープ的な速報で、「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は資産構成の見直しで、外国債券の比率を10ポイント引き上げて25%とする方針だ。…25%ずつとしている国内外の株式は現状を維持する。」というものである。「見直しは5年半ぶり。30日に開く社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の専門部会に諮り、31日に発表する。」としている。
記事で注目しているのは、「外債と外国株を合わせた外国資産の割合は50%に達し、為替の変動が運用に与える影響は拡大する。」という点で、「地方公務員共済組合連合会と国家公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団の3共済もGPIFと歩調を合わせる見通しで、計約190兆円(19年3月末時点)に上る運用資産の一部が外債投資に向かえば為替相場の円安要因となる。」としている。

2番目の記事は、上記の記事内容の3月31日の正式発表を受けたものである。過去からの経緯として、「以前はリスクの低い国内債券が大半だったが、14年の見直しで国内外の株の割合を計5割に倍増させた。短期的に資産価値が変動するリスクも高まっているため、今回は株は増やさない判断をした。一方、国債など国内債券に比べて利回りが見込める外国債券を増やすことにしたという。」とし、SMBC日興証券の末沢豪謙アナリストの「米国債などの金利はプラス圏で推移しているための判断だろう。ただ、外国債券は為替リスクもあり、信用力の低い外国債はデフォルト(債務不履行)のリスクもあることに注意が必要」との指摘を紹介している。
そして、政府は「市場の一時的な変動に過度にとらわれるべきではない」(加藤勝信厚労相)との立場だが、中長期的に運用がうまくいかないと将来の年金水準に響く可能性もある、と記事は結んでいる。
■公的年金の運用資産構成(現在→変更後)
 国内株25%→25% 外国株25%→25% 国内債券35%→25%↓ 外国債券15%→25%↑

最後の記事も、朝日記事と同様の内容であるが、「日本国債の投資収益が低迷する中、利回りの高い資産の比率を高める狙いだが、為替変動による短期的な資産変動は大きくなり、海外リスクが高まる。」点に着目している。「実際の運用構成が基本ポートフォリオからずれる許容幅も改める。外国債は目標値から6%、外国株は7%までの乖離(かいり)を認めることとした。これにより、最大で国民の年金積立金の63%が海外の資産で運用される可能性がある。」としている。
その上で、GPIFの高橋則広理事長の「国債は安全な資産ではあるが、金利がマイナスであるものに投資していいのか、ずっと組織の中でも悩んでいた」「海外の方が利回りや物価の上昇率が高いという格差が埋められない中で、利回りを海外に求める結果として外債が増えた」「仮に1%でも10年で約10%になる。100円で購入しても、90円までは問題がない」という発言を引いている。

GPIFの運用資産構成の変更については、2020年3月30日の社会保障審議会資金運用部会に資料が掲載されており、厚生労働大臣からの諮問が、社会保障審議会で了承されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10574.html
やはり気になるのは、上記記事にあるような海外投資の割合の大きさと、前回変更されたままの株式投資の割合の大きさである。どちらも、投資収益を大きく変動させるものである。今回のコロナ・ショックによる内外株式の急落で、株式比率の大きい公的年金の資産運用は、民間の企業年金を上回る打撃を受けることになる。資産運用では、短期的に一喜一憂すべきではないが、リスクの大きさが許容できる範囲のものであるのかどうかは、不断の検証やチェックが必要であろう。株頼み、海外頼みが、日本の年金受給者のための資産の運用として適切なのか、疑問が残る。
2020年3月25日 日経 夕刊2面 「年金食堂」無料で月4万食 ロシア

「ロシアで年金受給者に無料で昼食を提供する「年金食堂」が広がり始めた。小さなカフェの取り組みが注目されて支援を集め、3都市で毎月4万食を提供する。背景には貧富の差が縮まらず、多くの高齢者が困窮するロシアの現状がある。」という記事である。
「きっかけはサンクトペテルブルクのカフェだった。17年11月、店主のアレクサンドラ・シニャクさんが高齢男性から代金を受け取るのをためらって無料で食事を振る舞った。本格的に年金受給者に無料で昼食を提供し始めると利用者が増加。借金も膨らみ、家も抵当に入れたが、動画サイトで取り組みが紹介されたことで、食材の提供や寄付、ボランティアが集まり始めた。」としている。
「背景には高齢者の深刻な貧困がある。連邦統計局によると、19年の年金受給者約4600万人の平均受給額は月約1万4000ルーブル(約2万3000円)。政府が定める必要最低限の生活費(約1万1000ルーブル)をやや上回る水準にとどまる。18年には受給開始年齢を段階的に引き上げる年金改革の実施が決まり、全国的な抗議運動に発展した。」としている。
これに対し、「政権も年金改革で低下した支持を取り戻したい考えだ。プーチン大統領が提案した改憲案では「物価に応じて年金支給額を少なくとも年に1回見直す」と明記した。4月22日に予定する改憲の是非を問う全国投票で賛成票を集める狙いもある。独立系調査機関レバダセンターによる世論調査では改憲で支持する点として、「年金の定期的な見直し」が最多の92%を占めた。」という。
その上で、「ただ改憲が生活改善につながるとの期待は薄い。サンクトペテルブルクで月約2万ルーブルの年金で暮らす男性(84)は「大統領が居座るための改憲に希望はない。ソ連時代の方が福祉が充実して安定していた」。貧困層は人口の約13%と高止まりしている。社会主義のソ連に郷愁を抱く国民も増え、レバダセンターの18年末の調査では「ソ連崩壊を残念に思う」との回答が05年以降で最多の66%に達した。」とのことである。
記事では、補足として、「プーチン政権の年金改革」について、「ロシアで2019年から始まった年金の受給開始年齢を男女ともに段階的に5歳ずつ引き上げることを柱とする改革。受給開始年齢は23年までに男性が65歳、女性が60歳になる。プーチン大統領が18年に年金改革法案に署名して成立した。」とし、「財政負担の軽減や労働人口の確保が狙いとされる。発表後にプーチン氏の支持率が約8割から6割台に急落し、抗議運動が広がった。プーチン氏は女性の受給開始年齢の引き上げを当初案の63歳から60歳に見直す譲歩策を示し、理解を求めた。」と記している。

どの国でも、国民は高齢化しており、年金制度の改革が必要であるが、その実行は難しい。そのことが、独裁プーチンのロシアでも例外ではないことを知らしめる記事である。
ロシアの年金制度の概要については、少し古いが、次の「年金シニアプラン総合研究機構」の調査報告を参照されたい。
ロシアの年金改革の柱は、年金支給開始年齢の引き上げだが、60歳を65歳に延長するのは、日本人からすると当然に思えるであろう。それでも反発が強いのは、年金額の水準が低いことに加えて、ロシア人の平均寿命が、今後は高齢化すると想定されているが、現時点では短く(下記のWHO資料86ページでは、2018年の男子で66.4歳)、年金受給期間が僅かな期間になるという点があるようである。
このロシアの状況を、日本とは無縁のものと考えてよいのであろうか。私には、とても、そう思えない。2019年財政検証の結果によれば、基本ケースと考えられるケースⅢ(人口中位)において、基礎年金(1人分)の所得代替率は、2047年度以降は13.2%に下落する。正社員として上乗せの厚生年金を十分にもらえればともかく、非正規労働を長く続けざるを得なかった就職氷河期時代の人々などは、現役世代の1割ちょっとの年金で、高騰していく医療・介護の保険料も賄わなければいけなくなるのである。
対策を考えるのは容易ではないが、少なくとも、長く働く(働ける)ことを基軸とし、国民が分断ではなく連帯して立ち向かわなければならない課題であることは、間違いない。

2020年3月24日火曜日

2020年3月24日 日経朝刊33面 ●(私見卓見)新入社員の評価の意識転換を

この記事の論評については、下記の「年金時事通信」の20-005号として登載しています。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/tusin201405.htm
2020年3月24日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)エントリー社数の目安 コロナ影響考慮し多めに

ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による就活実務編である。「何社ぐらいエントリーすればいいものでしょうか?」との学生からの質問に対し、「学生が会社にエントリーする数はここ3年間毎年減り続けている。マイナビの調査によれば、2017年卒の3月の平均エントリー数は30.6社、18年卒は27.9社、19年卒は20.7社となっている。売り手市場による影響が大きいと思われるが、インターンシップで事前選考が進んでいることなど、選考手法の多様化も考えられる。」としている。
その上で、新型コロナウイルスの影響を受けている今年について、「エントリーは少なすぎても多すぎても納得内定に結びつかない危険性があるため、ある程度の目安は持っておいた方がいいと思う。」とし、その理由は、「そこから現実的な企業研究が始まるという側面があるからだ。」としている。
そして、「エントリーして説明会に行き、エントリーシートを提出し、筆記試験に受かれば面接に行けるというのが通常の就職試験のパターンになる。その面接も大手企業の場合は3回はある。それらの合否はもちろん会社側から出されるのだが、実は面接が進む過程で学生の方からも検討していくのである。」としている。
続けて、「自分のビジョンに合っている会社かどうか、働きやすい職場なのかどうか、実際に面接のために会社を訪問して、人や会社を見ながら、次の選考に進むかどうか、相性を見きわめていくものなのだ。受けているエントリー数が少なすぎると、その検討過程に入れる会社が少なくなってしまい、ミスマッチが起きてしまう危険性がある。」としつつも「手当たり次第、気になる会社にたくさんエントリーすればいいかというと、それはそれで弊害がある。広げすぎると企業研究が十分できずに内容の薄いエントリーシートになってしまう。通過できず、結局面接に行ける会社は一握りになってしまいかねない。」としている。
最後に、「エントリー数の目安としては今年も20社程度か」としつつ、「新型コロナの影響があり、ウェブでの説明会や面接が増えていることを鑑みると、少し多めにエントリーする方がいいように思う。」と結んでいる。

言っていることは間違いないと思うが、平時の対応という気がする。今や、コロナショックで、就活は非常時のものとなった。「2017年卒の3月の平均エントリー数は30.6社」はおろか、はっきり言って、手当たり次第くらいのエントリーが必要であろう。
もちろん、「広げすぎると企業研究が十分できずに内容の薄いエントリーシート」になる懸念はある。しかし、今年については、「入りたい会社」の前に、「入れそうな会社」を確保することが、最も重要になる。それくらいに、就活をめぐる状況は激変する。
そもそも、エントリーシートには、何を書くのか。次のリクナビの資料を見てみよう。
https://job.rikunabi.com/contents/entrysheet/4570/
この中で、企業によって異なるのは、「志望動機」のみである。後は、企業によって様式が異なる場合はあるだろうが、基本的に同じで構わない。はっきり言って、20社に絞ろうと、50社にしようと、大して手間はかからないのである。
そもそも、その志望動機にしたところで、ほとんどの学生が自社の事など知らないのは、企業にだって分かっている。だから、付け焼刃のもので構わない、ただ一つ重要なのは、学生が自社の事を何も調べずに応募しているのかどうかである。したがって、最低限、その会社のHPとかに目を通し、自分なりに関心を持った仕事の事を加えた方がよい。
もっとも、大会社の場合、何を書いても大学名などで選別してしまうことはあり得る。だから、エントリーシートが通過したかどうかに、過度に重きを置く必要はない。縁がなかったものと考えて、割り切ればよい。とにかく、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」「犬も歩けば棒に当たる(良い意味の方)」なのであるから、玉は、沢山打った方がいいのである。
ただし、一つだけ留意点がある。自分が、応募した会社に出した書類や、その結果は、きちんとファイルして残しておくべきである。その会社のHPの概要も綴じておくとよい。また、面接などに進んだ場合には、その日時、場所、相手方、内容など、いわゆる5W1Hの区分にそって簡記したものを残しておく方がよい。数が多いと、きちんと記録に残しておかないと混乱するからである。
また、内定に向かって順調に進んでいると思える場合であっても、常に、他の候補先や応募可能先はないか、気を配るべきである。うまく進んでいるのに、相手に悪いとか思う必要はない。他にも検討しているか聞かれた場合でも、「御社に絞っています」くらいのことは言って構わない。逆に、学生が企業に他の学生の採用も検討していますかと聞いた場合、「君だけです」というのは明白なウソであり、そうでなければ採用担当は務まらない。もし、それでも気になる(就活に失敗する可能性大だがの)場合には、公務員試験にはチャレンジしていますと言えばいいだろう。
最後に、もう一度言う。エントリーは、可能な限り多くすべきである。ただし、応募先は、きちんと自分で管理すること。後になって焦って数を増やすと、次のリーマンショックの時のような事態に、なりかねない。
https://news.careerconnection.jp/?p=86782

2020年3月23日月曜日

2020年3月23日 日経朝刊5面 ●大卒採用 来春4.2%増 文系11年ぶり減 本社1次集計
2020年3月24日 日経朝刊17面 ●(ビジネス激変 経営者の見方) 企業の新卒採用減も

最初の記事は、「日本経済新聞社が22日まとめた2021年春入社の新卒採用計画調査(1次集計)で、大卒採用計画が20年春実績見込み比4.2%増と11年連続のプラスとなった。文科系は1.4%減と11年ぶりにマイナスに転じた。19年10月の消費増税などの影響もあって非製造業を中心に採用を抑制する動きが目立った。新型コロナウイルスの感染拡大も今後の採用計画への懸念材料となってきた。」という書き出しである。
続けて、「大卒採用計画はリーマン・ショック後に企業の採用意欲が回復した11年度から11年連続でプラスが続いた。プラス幅は前年の7.5%増から鈍化した。製造業は5.2%増、非製造業は3.8%増だった。業種別ではレジャー(14.8%減)、百貨店・スーパー(8.3%減)のほか、空運(28.4%減)や海運(15.4%減)も減少が目立った。一方で電機(7.3%増)や精密機械(5.5%増)が増加した。」としている。
また、「IT(情報技術)人材などを求める動きは依然として堅調で、大卒理工系は11.2%増と前年の10.8%増を上回る。20年春入社で採用計画に対して内定者を確保できなかった未達の比率が9.8%に達し、需給ギャップが拡大しているためと見られる。計画未達はデータの算出を始めた08年以降13年連続となった。」そうである。
一方、「新型コロナの影響で企業業績が悪化し、採用計画を抑制する懸念も高まっている。ディスコの武井房子上席研究員は「小売企業や中国に拠点を構える企業などで採用を抑える動きが出てくる可能性がある」と指摘する。「急激な採用抑制は、社内の組織の年齢構成を維持する上で支障が出るため考えにくい」(浜銀総合研究所の遠藤裕基主任研究員)との声もあった。」と結んでいる。

次の記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大で企業の新卒採用活動が揺れている。例年3月から本格化する2021年春入社に向けた企業の採用説明会は大規模イベントの自粛要請で中止が相次ぐ。今後、新卒採用や学生の就職活動はどう変わるのか。就活支援大手ディスコ(東京・文京)の新留正朗社長に聞いたというインタビュー記事である。
まず、新型コロナの企業の新卒採用活動への影響については、「21年春入社の採用活動は不透明になってきた。もともと今年は7月下旬に東京五輪が開幕する予定だったため、選考活動を6月中に終わらせようと考える企業が多かった。ただ、新型コロナで3月に採用説明会を開けない企業が多く、今後の採用スケジュールは後ろにずれるだろう。経済への影響が長引き景気が冷え込むと、企業が採用数を減らす可能性もある」との回答である。
次いで、ウェブ上での採用説明会や面接については、「当社は11年にウェブ説明会のサービスを始めたが、普及には至っていなかった。20年は一気に広がる年になるだろう。ウェブ説明会は地方や海外の学生にとって企業を知る機会創出にもつながる。初期選考などをウェブに置き換えれば、地方や海外の学生にとっても交通費負担が減り、就職チャンスが増える」という見方を示している。
そして、リアルからウェブへの説明会や面接の全面移行については、「ウェブへの全面移行は簡単ではない。学生から人気の高い有名な大手企業はウェブ説明会で学生を集められるが、そうでない企業は集客が難しいだろう。依然としてリアルの採用説明会には利点がある。例えば、合同の採用説明会では、中堅・中小や法人向けビジネスを展開する企業など、学生からの認知度が低い企業は、合同説明会に集まった学生に能動的に働きかけられる」としている。
続けて、ウェブ採用普及に向けた課題については、「企業側にとっては学生が説明をどう受け止めたか捉えにくい。集団面接では誰が発言しているかわかりにくく、評価しにくいという企業の声もあった。一部はウェブに置き換えても、最終面接などでリアルな場で会話をしながら学生を説得したい企業もある」「学生にとっても採用説明会は企業の話を聞くだけでなく、会社全体の雰囲気や社員の表情などから企業を見極めることも大切だ。ウェブでは限界がある。企業にウェブ採用が使われ始め、様々な課題は洗い出される。今後のサービスの質の向上につながるだろう」との見解である。

最初の記事だと、2021年春入社の新卒入社の就活も、これまでとあまり変わらないような印象を受けるかもしれないが、そんな事はあり得ない。この1次集計は、3月4日までの回答をベースにしているが、それ以降の状況も激変している。それを、日経平均株価で見ると、次のようになっている。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_market-nikkeistock
すなわち、2月下旬に下落した株価は、3月に入って一段と急落しているのである。また、このアンケートの回答を担当しているのは、人事部などの部局であろうが、基本的な考え方は前例踏襲であろう。「急激な採用抑制は、社内の組織の年齢構成を維持する上で支障が出るため考えにくい」というのは、人事部的には当然の発想であるが、危機に当たっての経営者の判断とは大きな隔たりが生じる。記事で言及しているリーマン・ショックの際には、年齢構成など考える余地もなく、企業は生き残りに必死になった。今回のコロナ・ショックは、リーマン級を超えるものと思われ、とても楽観できる状況にはない。

二つの記事に出て来る就活支援大手ディスコのコメントの要諦は、「21年春入社の採用活動は不透明になってきた」「企業が採用数を減らす可能性もある」という点にある。東京オリンピック・パラリンピックも延期は確実になった。企業が学生の内定を急ぐ必要は、まったくなくなったわけである。採用スケジュールは、夏から秋にかけてにずれ込み、コロナが一段落しなければ、冬場にもかかってくると考えるべきであろう。
学生にとっては、長く辛い就活が続くことになる。当面を考えると、採用試験などの日程が毎年決まっている公務員などに、まず注力した方がよいのではないか。採用数が絞られると、必ず学力テストの比重が高くなる。公務員試験の問題は、その学力を測るバロメーターにもなるから、延期された説明会などで浮いた時間を活用するための格好の準備素材になるであろう。資格試験の勉強に打ち込むのもよい。
とにかく、昨年までの就活ノウハウは、通用しない。これからが長丁場の戦いである。多少の息抜きは必要だろうが、日々、無駄な時間を過ごすことのないようにする必要がある。それはあたかも、大学入試の受験準備に似ている。
2020年3月23日 朝日朝刊29面 ●就活、答えはひとつじゃない 新型コロナ影響、不安な学生へ先輩語る

「来春卒業予定の大学3年生らを対象にした就職・採用活動の説明会が1日、解禁されました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で説明会が中止になるなど、不安も少なからずあるなか、就職活動にどんな心構えで臨めばいいのか、社会人の先輩に聞いてみました。」という特集記事である。

まず、DeNA会長・南場智子さん(57)の話であるが、自身の体験談として、「コンサルタント会社(マッキンゼー・アンド・カンパニー)に勤める先輩に誘われて行った説明会で格好良さにひかれ、たまたまその会社に内定しました。一番ダメな例です。自分の将来についてちゃんと考えなかったし、他の選択肢も考えていなかった。だから、入社してから苦労しました。先輩の指示の意味もわからず、焦って夜遅くまで働いて寝不足になる。周りの評価を気にして、自信がなくなる悪循環に陥っていました。」とし、「「昨年10月のDeNAの内定式では、内定者に「自分のことをうんと好きになってきてほしい」と話しました。期待に応えられない悔しさや同期との比較が気になり自信がなくなってしまう中で、自分の個性を大切にしてほしいという願いからでした。」としている。
そして、「これは、就活生にも言えると思います。就活では、足りないところをどう見せるかばかりを考えるのではなく、自分の大好きなところはどんなことかを考えてきてほしいと思います。DeNAでは自分らしさを出せるように、面接や内定式でも思い思いの服装で参加してもらっています。」とし。「会社は多様な人材がいる方が発展します。ただ、あえて言えば表面的には静かな人でも、アグレッシブな人でも良いのですが、芯は「真面目で頑張り屋」な人を求めたい。」としている。
続けて、「状況が悪いときでも、組織が強ければ必ず乗り越えられる。仕事に真摯(しんし)に取り組む社員の存在はすごく頼もしく感じます。だから、私は採用を大事にしています。」とする。
一転して、「日本の教育には、一つの答えを正しいとする価値観があります。そして「間違えない達人」をつくるんです。就職活動でも、企業や会社に偏差値や序列があるかのような情報が出回り、大企業に向かっていく。でも、職業選択に偏差値なんてあるわけないじゃないですか。夢中になって仕事をして社会貢献するという醍醐味を知ることで人は成長できるのです。」とし、「日本は少子高齢化など様々な問題に直面しています。前例がないわけだから、その対処方法にはユニークさが必要になる。「こうであらねばならない」ではなく、自分の個性を解き放って成長してほしいです。」と結んでいる。

一方、作家の万城目学さん(44)は、「私はいわゆる就職氷河期世代です。4回生(4年生)の時には、小説家になりたいという漠然とした気持ちがあるような段階で就職活動をしました。何をやりたいかもわからず、とりあえずネームバリューのある企業に応募しましたが、一次面接で落ちてばかり。途中で「もうええか」と就活をやめてしまいました。その後、小説を書き始めたのですが、書きながら「すぐには小説家にはなれない」と感じ、翌年に再び就職活動をしました。」としている。
そして、「1回目があったので、就活は本気で取り組まないといけないことはわかっていました。そこで私が立てた戦略はあまり働かない会社に入ろう、ということです。今思えば、ずいぶん上から目線かもしれませんね。当時は説明会で、モーレツに働くことを社員が武勇伝のように語る会社がたくさんありました。小説を書くためには仕事以外の時間がほしいし、家族とも過ごしたいし、土日は家にいたい。だから、そういった会社は選択肢から外しました。」とし、「本当に面接での受けが悪かったですね。僕は、具体的な作業を一緒にしたら、だれよりもできるという自信はあるんです。でも、面接では自由闊達(かったつ)にしゃべれない。わずかな時間でフィーリングが合うというタイプではないんですね。僕の場合は、採用課長が最終面接でうまく声をかけてくれて、なんとか素材メーカーから内定をもらいました。」としている。
その上で、「就職活動って苦しいですよね、良いことないですもん。私も落ち込んではノートにぽつんと黒電話の落書きを描き、「鳴らない電話」と名付けていました。就職活動のような苦行には、メンタルの持ち方が大事かもしれません。すごく結果の悪かった日でも、明日のためには気持ちの切り替えが大切です。引きずるともっと自信がなくなるので、忘れることがいいんじゃないでしょうか。」とし、「本当は1秒でも早く内定を取って就活を終えてほしいですけれど、そうもいかない。就活生は本当につらいですよね。今は売り手市場だからって、自分の時より楽だとか言いたくもないし、いつかは決まると言うのも無責任だし。ただ、働き出したら、もっと多くの悩みに出合います。たいしたことないんですよ、その会社に行けるか、行けないかは。あまり大きなことと捉えすぎないでほしいです。」と結んでいる。

そして記事では、「リクルートキャリア就職みらい研究所が3月6~8日に企業の人事担当者へ行った調査では、2021年卒の採用活動に新型コロナウイルスの感染拡大の影響が「ある」との回答が58.4%、「現時点ではないが、今後は影響がありそう」との回答が29.7%だった。」とし、「影響が「ある」「ありそう」と回答した人事担当者685人に課題を聞いたところ「採用スケジュールの見直し」を挙げた人が76.6%で最も多かった。具体的な影響としては、グループ面接に影響があるとしたのが248人、エントリーシートなど書類選考に影響があるとの回答が180人だった。書類選考への影響では、日程を変更して実施する予定とする企業が50%にのぼった。」としている。
また、「採用予定数を当初の計画から変更するかを尋ねると、「変更しない」が48.2%と半数近くを占めた。「(増減を)検討中」と答えた企業は29.5%、「減らす」とした企業は12.7%だった。同研究所の増本全所長は「依然として企業の採用意欲はあるが、スケジュールを遅らせる企業が多い。学生は不安になると思うが、冷静に志望企業のスケジュールを確認することや積極的な情報収集を心がけてほしい」と話す。」とし、「「会社説明会は3年生の3月、面接は4年生の6月解禁」とする大学生の就職・採用活動の日程ルールは、2020年春に卒業する学生まで主導してきた経団連に代わり、政府がルールをつくり、企業に守るように要請している。」が、「就職活動は前倒しされている。就職情報会社ディスコの調査では、説明会解禁の3月1日時点で内々定を得た学生は前年実績より2.0ポイント多い15.9%だった。」としている。

コロナ・ショックの状況下でも、「説明会解禁の3月1日時点で内々定を得た学生は前年実績より2.0ポイント多い15.9%」というのは驚きだが、「内々定」というのは、「内定」とは異なり、口約束レベルのものであり、また、コロナ・ショックによる状況激変で、非常に不安定な状態になるであろう。「内定取消」には社会的な批判も大きく、補償問題が出て来る可能性があるが、面接解禁の6月より前の「内々定」は、掟破りの行為であるから、関係する企業だけでなく学生側にも問題があるとみなされるはずで、言ってみれば風前の灯の状況になる。
記事のお二人の話を見てみると、南場智子氏は、会長という経営者の立場に立っており、学生からすると、思い出話的な印象になるだろう。ただ、「自分の個性を大切にしてほしい」という点は、確かに重要なことで、就活の中では見失いがちであるから、しんどい時は、少し休息をとって、自分は何をしたいのかなど、目前の就活の事ではなく、自分の未来を考える時間を取った方がいい。「職業選択に偏差値なんてあるわけない」のは、結婚と同じようなものだと考えればいい。誰もが憧れるスターと結婚しても、それで幸せになれるとは限らない。長い人生と、この人となら一緒に歩める、という気持ちが大事であろう。しかも、その幸せは、結婚したらつかめるというものではない。夫婦がお互いにたゆまぬ努力を重ねて初めて、結婚生活の幸せが手に入るのである。就職だって同じ事で、一番大事なことは、この会社なら自分なりにやっていけそうと感じられることである。それは、規模でも給与でもなく、他人が羨むかどうかではない。自分自身を大切にしなければ幸せになれないのは、就職でも同じである。
一方の万城目学氏の方は、「小説家になりたい」という思いを大事にしつつ、「すぐには小説家にはなれない」というか、要するに、食っていかなければならないということで、就職活動をしたのであろう。「あまり働かない会社に入ろう」というのはもっての他の考え方だが、「具体的な作業を一緒にしたら、だれよりもできるという自信はある」ということだから、無駄な時間は過ごしたくないということであり、実は、こういう人は非常に仕事ができることが多い。限られた時間を、いかに有効に過ごすか、というのは人生の大きなテーマであり、そういう考え方の人には無駄な動きが少ないからである。その上で、氏は「就職活動って苦しい」としながら、「たいしたことない」と言い切る。長い人生において、あの学校に受かったら、あの会社には入れたら、あの人と結婚できたら、と転機になりそうな事はありそうに思えるものだが、そうなったとしても、そうならなかったとしても、人生は続いていく。「決定的な瞬間」というのは、実は、ありそうでないものなのである。例えば、オリンピックで金メダルを取れれば死んでもいいと思っていても、そうなればなったで、その後の人生は続く。人間の人生の価値を決めるのは、所詮、自分自身以外にはない。「人もうらやむ」なんて、どうでもいいのである。自分で自分を褒めてあげられるかどうか、頑張った自分を一番良く知っているのは、貴方自身なのだから。

2020年3月21日土曜日

2020年3月21日 朝日夕刊6面 ●就活サイトと大学「平日インターンNO」 「学業に悪影響」、情報掲載せず

「授業がある時期の平日に実施するインターンシップは認めない――。就職情報サイトを運営するリクルートキャリアやマイナビなどで作る団体と、国公私立の大学などの団体が19日、共同声明を発表した。就職活動をめぐり立場が異なることが多い就職情報会社と大学が共同声明を出すのは初めて。今月末に開かれる経団連と大学などで作る協議会もこの声明を支持する見通しだ。」との書き出しの記事である。
続けて、「声明は、多くが大学3年生から参加するインターンシップが、実質的に採用選考プロセスとなっていることや、授業がある時期の平日に実施するものがあるとして、学生の学業に悪影響が出ていると指摘。長期休暇中や休日に実施するインターンシップしか認めないと宣言した。1日で行う単なる会社説明会を言い換えて使う企業が多いとされる「ワンデーインターンシップ」という表記を、就職情報サイトで使わないことを宣言した。」という。
そして、「情報サイト側のマイナビの浜田憲尚専務は「今後は企業が授業に支障を及ぼすような平日に実施するインターンシップの情報は、各社のサイトに掲載しない」。私立大の団体で就職問題を担当する明治大の土屋恵一郎学長は「これまで大学と就職業者の関係は良くなかったが、現状を改善するためには連携が必要。大学と業者がタッグを組むことができた画期的な声明だ」と語った。」と結んでいる。

記事の共同声明「学修経験時間の尊重に向けたインターンシップの取り組み」については、次の通りである。
https://www.shidairen.or.jp/files/user/20190319kyodoseimei.pdf
この「ワンデー(1日)インターンシップ」や「学業に影響する平日の開催」の原則廃止については、2月10日に経団連が方針を決定し、3月末に開く大学側との産学協議会で計画の採択を提案予定とのことである。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020021000985&g=eco
もともと、1日インターンは、2017年4月10日に、経団連がインターンの最低日数要件を削除したことから蔓延したものである。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2017/030_kaitei.html
一応、「インターンシップ本来の趣旨を踏まえ、教育的効果が乏しく、企業の広報活動や、その後の選考活動につながるような1日限りのプログラムは実施しないことを明記した。」としていたが、チェックも罰則もなく、実質的に骨抜きの制約だった。
そもそも、1日インターが、「単なる企業説明会や会社見学が大半」になるのは当たり前で、企業による学生との早期接触という協定破り以外の何物でもないわけだが、その横行を実質的に容認するものだったわけである。
今回、経団連が方針転換しても、有効に機能するのかという懸念はあるが、少なくとも経団連中核の大企業は順守せざるを得ないわけだから、その影響は小さくない。また、折しもコロナ・ショックで、就活は売り手市場から氷河期に向かうものと考えられ、企業側もじっくり学生を選別する必要があるという状況にもマッチしている。
建て前とは別に、インターンへの参加が、学生にとって就活に有利であったことは間違いない。中には、「内々定」に到ったという例もあったようだが、極めて稀な例外であり、今後の就活では、企業側にそこまで焦って学生を確保すべき誘因はなくなるであろう。掟破りのインターンに振り回されて学業が疎かになるようでは、本末転倒である。まず、学業にしっかり励んで、あやふやな情報に踊らされないようにすることが、これからの就活では大事になる。

2020年3月20日金曜日


2020年3月20日 朝日朝刊6面 日本ガイシの新制度 60歳超えても賃金は下げない


記事は、「60歳を超えても昔と変わらずお金を稼げるサラリーマンは珍しい。ところが、「65歳まで賃金が下がらない」制度を始めた東証1部企業がある。創業101年のセラミックス大手、日本ガイシ(名古屋市)だ。」という書き出しで、「もともとは60歳を超えると1年更新で再雇用され、賃金は半分に落ちていた。2017年春に始まった新制度は定年を65歳にし、賃金水準は維持する。山田忠明・常務執行役員は「厳しく言えば、60前と同様に働いてほしいというメッセージ」と話す。」というものである。
その背景として、「公的年金の支給開始年齢の引き上げにあわせ、希望者全員を65歳まで雇うことが13年施行の改正高年齢者雇用安定法で義務づけられた。バブル期の採用増もあり、日本ガイシでは今後、毎年100人規模の社員が60歳を迎える。「戦力化」は待ったなしの課題だが、半分の処遇でモチベーションを保つのは難しい。出した答えが、以前と変わらない賃金で報いることだった。」としている。
しかし、「ただ、単に60歳超の賃金を増やせば会社の負担は急増する。そこで、全体の賃金制度も改め、子育て世代の昇給を早める一方、ベテランの伸びを緩やかにした。ここで得た「節約分」に企業年金分のお金を加え、それでも足らない数億円は会社が負担した。「働いて稼いでくれたらマイナスにはならない」。大島卓社長ら経営陣もGOサインを出し、労組との協議で、健康や介護の事情に配慮した短時間勤務や週3日勤務の仕組みも整えた。」とのことである。
その上で、「「人生100年時代」を迎え、政府は本人が希望すれば70歳まで働ける機会をつくる努力義務を企業に課す方針だ。「戦力」として働く60歳超の待遇の見直し議論は、多くの労使で今後避けられなくなる。」と結んでいる。

背景となっている「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正は、次の通りである。
そして、2019年の「高年齢者の雇用状況」は、次のようになっている。
企業の雇用確保措置への対応は、①「定年制の廃止」(2.7%)、②「定年の引上げ」(19.4%)、③「継続雇用制度の導入」(77.9%)に分かれるが、記事の日本ガイシは、③の1年更新で再雇用から、②の定年65歳、に移ったわけである。
再雇用では、正社員から非正規雇用に身分変更となるから賃金の再設定が可能であり、引き下げが普通だが、定年延長なら正社員の身分は継続するので、賃金は基本的に下げられない。その点では、珍しくも何ともないのだが、結局のところ、記事は、③→②の変更が珍しいと言っているわけである。
だが、実際に、そのような変更をしているか、あるいは初めから定年延長にしている企業は増えている。そのことは、次の5年前の2014年資料と比較してみれば分かる。
すなわち、5年前は、①「定年制の廃止」(2.7%)、②「定年の引上げ」(15.6%)、
③「継続雇用制度の導入」(81.7%)であったから、対象企業に変化はあるものの、定年延長企業が増えていることは間違いない。
その定年延長の場合の最大の問題は、賃金カーブの修正である。すなわち、旧定年前の給与を従来より下げて、定年延長後につなげるわけである。これは、年功賃金の修正ということになる。
しかし、企業の先行きが不透明になってきている中、いわば「余生」が延びる高齢従業員にとっては受け入れやすいかもしれないが、若年の従業員にとっては、先輩よりも給与上昇の見込みが抑えられる上に、さらに上司として居座られる期間が長くなるわけだから、たまったものではない。よって、本格的に対応しようとすれば、賃金カーブのみならず、終身雇用のあり方にも変更を加えなければならないことになる。
そこまでの認識が進めば、「定年」には意味がなくなる。「定年」は、そもそも、その年齢までの雇用保障であり、年齢差別的なものである。業績や貢献による処遇を行う上では、むしろ邪魔になるわけであり、そのような理解に立てば、「定年撤廃」に向かうことになるであろう。「年齢差別」を禁止している米国などには、「定年」はない。
ただ、「定年」が根付いており、正社員と非正規労働者との間で歴然とした身分差別が許容されている日本の現状からすると、「定年撤廃」には踏み込みにくいのは事実であろう。
「定年撤廃」は、正社員としての身分格差を温存する「定年延長」とは真逆とも言える。
正社員と非正規という区分も意味を失い、業績と貢献による処遇を求められることになる。よって、全般的には、正社員の給与は下落し、非正規労働者(この区分は無意味になるが)の給与は上昇する。「同一労働同一賃金」への道も開けるであろう。だから、正社員主体の組合が抵抗することになるだろうが。

2020年3月19日木曜日

2020年3月19日 日経朝刊17面 ●新型コロナで内定取り消し 企業、救済に名乗り
2020年3月20日 朝日朝刊9面 内定取り消し21人 半数は宿泊・飲食業 新型コロナ

最初の日経の記事は、 「新型コロナウイルスの感染拡大が企業の採用にも影響を及ぼし始めている。中小企業などで2020年4月に入社予定の学生の内定を取り消す動きが出ており、こうした学生を救おうと採用に乗り出す動きがある。学生優位の売り手市場といわれるなか、新入社員も新型コロナに翻弄される。」というものである。
記事では、救済に名乗りをあげた企業として、眼鏡専門店のオンデーズ(東京・品川)、伊藤忠商事子会社で携帯電話の販売代理店大手のコネクシオ、家電量販店のノジマ、「カラオケパセラ」などを展開するニュートン(東京・新宿)の例が紹介され、就職情報大手のディスコの武井房子上席研究員の「業績に影響が出そうな旅行業界や中国に拠点のある会社で内定取り消しが発生する可能性がある」とのコメントが掲載されている。
次いで、「新型コロナの影響で企業の経営が厳しい場合でも一方的な内定取り消しは難しい」として、労働や雇用の法律に詳しい高仲幸雄弁護士の「安易な内定取り消しは裁判で無効とされるリスクがある」「企業は内定者に一定の金銭を支払って内定の解約で合意を得るなど他の策も検討すべきだ」とのコメントを掲載している。
最後は、「内定取り消しの事例は08年のリーマン・ショック後や11年の東日本大震災後にもあり社会問題になった。」と結んでいる。
関連で、「厚生労働省は18日、新型コロナウイルス感染症の拡大による今春就職予定の学生らへの採用内定取り消しが17日時点で12社20人に達したと明らかにした。内訳は高校生が5社12人、大学生や専門学校生などが7社8人だった。いずれも新型コロナによる業績不振が原因で、宿泊業や飲食業が4社10人となった。」ことも報じられており、「政府は13日に経団連や日本商工会議所などに最大限の経営努力で内定取り消しを回避するように要請している。」ことにも触れられている。

次の朝日の記事は、基本的に同様の内容であるが、「加藤勝信厚生労働相は19日の閣議後会見で、新型コロナウイルス感染拡大の影響による企業の採用内定取り消しが、18日時点で13社計21人にのぼることを明らかにした。厚労省は企業向けの助成金を活用するなどして、企業に内定を取り消さないよう改めて呼びかけている。」と報じている。
時点の違いのためか、日経記事より1人多いが、「21人の内訳は、3月に卒業する高校生13人、大学生ら8人。業界別では、観光客の減少で打撃を受けている「宿泊業・飲食サービス業」が10人で最も多いという。13日時点で同省が確認した内定取り消しは高校生の1人だった。各地のハローワークには企業から内定取り消しに関する相談が寄せられているといい、今後さらに増える可能性がある。」としている。また、「内定取り消しなどを防ぐため、厚労省は雇用を維持した企業で一定の要件を満たした場合に支給する「雇用調整助成金」の要件を新型コロナウイルス対策の特例として緩和しており、この活用を呼びかけている。」とのことである。
関連で、日経記事と同様に、「感染拡大の影響などで内定を取り消された学生について、企業が積極的に採用をめざす動きが出ている。主に飲食店やサービス業といった人手不足が深刻な業界で、この機会に人材を確保するねらいがある。」ことも報じている。
例としては、牛丼チェーンの松屋フーズ、カレー店のチェーンを展開するゴーゴーカレーグループ、うどん店を展開するグルメ杵屋(大阪市)やとんかつ店の平田牧場(山形県酒田市)、総合スーパーのユニー(愛知県稲沢市)、食品スーパーのベルク(埼玉県鶴ケ島市)、眼鏡専門店を運営するビジョンメガネ(大阪市)を挙げている。

内定取消が、いよいよ広がってきているが、一方で、救済に臨む企業も出てきたという記事である。もちろん、そうした企業も、「善意」だけでそうするわけではない。事態が落ち着いたら人手不足が再燃すると考えているのであろう。来月4月入社が取り消された学生にとっては、藁にも縋る思いであろうし、とにかくチャレンジする方がよい。
ただし、来年春入社の就活生にとっては、注意すべき点がある。普通に考えれば、このように手を差し伸べる企業は経営状況が悪くないように思えるが、一点だけ、必ずチェックしておかなければならない点がある。それは、中途退職率である。大量に採用し、大量に退職しているという連鎖になっている場合、職場環境に問題がある場合が多い。
しかし、残念ながら、この中途退職率は、企業の開示義務情報とはなっていない。そのため、実情を把握することは困難である。一つの方法は、ネット上の口コミをチェックすることである。当てにならないものや、悪意によるものもあるので、過度に信用するのは危険だが、一応の企業風土を感じ取ることはできよう。企業側が真実でないと言うのなら、そもそも中途退職率を公表すべきなのだが、勝手に出されている情報も信用できない。
より客観的なデータとしては、有価証券報告書や会社四季報での従業員数と平均年齢が参考になり得る。採用が大量で退職が少ないのなら、従業員数と平均年齢は、基本的には増加しているはずである。もっとも、定年退職者が多い場合には、そうならないので、過去何年かのデータを並べてみる必要がある。
ともあれ、就活では、最低限、志望企業のHPの熟読に加え、有価証券報告書や会社四季報に何度も目を通し、業界他社の状況とも比較するなどの分析努力が不可欠であろう。

なお、上記記事にかかる厚生労働省の関連資料は、次の通りである。
<上記が3月13日の加藤厚労大臣の記者会見で、内定取消(この時点では1名)関連は、以下の通り。記事の19日の記者会見の概要は、まだ掲載されていない。>
記者:今回の感染症拡大の影響で、就職が決まっていた学生さんの内定の取り消しですとか、入社時期の延期といった事態が起きています。それに対しての受け止めと、厚労省として何か企業に要請していくとか、何らかの対応はお考えでしょうか。
大臣:一つは、内定の取り消しがあったというのは確か国会でも申し上げたと思いますが、まだ1件と承知をしております。内定を取り消しする場合には届け出をすることになっていますので。また、そもそも内定取り消しというのはいわば労働契約が成立したと認められる場合については、まさに客観的な合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない取り消しは無効と、これは通常の解雇と一緒でありますから、企業の皆さん方には採用内定の取り消し防止をするため、最大限の経営努力を行うようお願いをさせていただいておりまして、これらについては、経済団体等に対して、今回の一連の雇用調整助成金の特別措置等をそれぞれ周知する際に、重ねてそうしたお願いもしております。また、採用内定の取り消しを受けられた方については、ハローワーク等において学校とも連携しながら新たな就職先の確保に取り組むなど、丁寧に就職支援を行っていきたいと思っております。引き続き、そういった届け出の状況等々に注視をしていきたいと思います。
<上記は、採用内定取消防止に関する企業側への要請と学生側への注意喚起である。>

2020年3月18日水曜日

2020年3月18日 日経夕刊6面 障害年金、上乗せの条件は? 厚年の加入中に初診日

質疑応答形式の記事で、「50代会社員で4月からは自営業となります。体調に違和感があり、退職したら病院で診てもらおうと考えていましたが、知人から「それでは年金が減るかもしれない」と言われました。どういうことでしょうか。」という質問に、社会保険労務士の望月厚子氏が回答するという形のものである。
まず、「公的年金は定年退職後などの生活を支える「老齢年金」のほかに、公的年金へ加入中などに重い病気やケガに見舞われるリスクに対応する「障害年金」もある」とし、「障害年金の額は原因となる病気などについて初めて医師の診察を受けた日、「初診日」にどの公的年金に入っていたかで違いが生じる」ことを述べている。
そして、「初診日が会社員として厚生年金に加入している期間であれば、年金請求は退職後でも審査に通れば、障害厚生年金が障害基礎年金に上乗せされます。一方、退職して自営業となり、初診日が国民年金の加入者に変わった後だと障害基礎年金のみとなる」としている。
金額等については、「障害基礎年金の額は障害が最も重い1級は約98万円で、年齢条件などを満たす子がいれば約22万円などの加算があります。障害厚生年金は1級なら厚生年金の報酬比例部分の1.25倍となり、条件を満たす配偶者がいれば加給年金が加算されます。これが障害基礎年金と合計されるので支給額が増えます。障害厚生年金は障害が比較的軽い3級でも年金があるうえ、3級よりさらに軽い場合も一時金の制度があります。障害基礎年金は1.2級の年金のみですから、支給の可能性も広がります。」としている。
また、「障害年金の対象の病気などには、がんや認知症なども含まれます。それらの病名だけで障害認定されるわけではなく、国が定めた基準に該当する障害状態にあるかが審査されますが、一般に思われるより対象の幅は広いといえます。」とし、「障害年金の制度をきちんと知り、健康不安や自覚症状があるなら在職中の早い時期に診察を受けるほうが安心でしょう。」と結んでいる。

制度の概要については記事の通りであるが、より詳しくは、次で確認するとよい。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/04.pdf
同じ障害年金でも、障害基礎年金と障害厚生年金とでは、保護の考え方に違いがある。障害基礎年金は、「国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。」(国民年金法第1条)にあるように、国民全体を保護するものであるが、障害厚生年金は、「この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」(厚生年金保険法第1条)となっており、労働者(及びその遺族)を保護するものとなっている。
その違いの表れとして、障害厚生年金においては、記事にあるように、障害の程度が軽い「3級でも年金があるうえ、3級よりさらに軽い場合も一時金の制度」があるわけである。
ただ、1985年の基礎年金創設によって、厚生年金は基礎年金の上乗せの制度とされている。また、働き方の多様化により、労働契約の形をとらずに働いている人も増えている。公的年金において、「国民」と「労働者」とを、どのように区分して取り扱うのかは、今後の大きな課題と考えられる。
なお、障害年金受給者についての最新の資料は次で、情報公開の頻度には問題があると思われる。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000075345.pdf
米国のコロナ・ショックに対する財政対応を、記事で見てみよう。
2020年3月18日 朝日夕刊1面 米、1兆ドル財政出動案 財務長官「米国人に直ちに小切手送付を検討」
2020年3月18日 日経夕刊1面 米、1兆ドル経済対策案 現金給付や給与税免除
2020年3月19日 朝日朝刊3面 米、財政出動1兆ドル検討 危機対応、リーマン規模
2020年3月19日 日経朝刊1面 米、1人1000ドル給付も 1兆ドル経済対策案 与野党、市場にらみ攻防
2020年3月19日 日経朝刊3面 米、短期決戦の巨額経済対策 「雇用維持が先」の声
2020年3月19日 日経夕刊1面 米、現金給付5000億ドル 経済対策案 企業支援にも5000億ドル
2020年3月21日 朝日朝刊4面 1人1200ドル給付 中小に3000億ドル 米、経済対策原案
2020年3月21日 日経朝刊3面 米、現金給付1人1200ドル 共和案
2020年3月24日 日経朝刊2面 米2兆ドル対策、協議難航 大統領選へ駆け引き
2020年3月26日 日経朝刊3面 米与野党、2兆ドル対策合意 過去最大 企業支援に9000億ドル
2020年3月28日 日経朝刊3面 米、企業・個人に安全網 2兆ドル経済対策成立へ
2020年3月28日 朝日夕刊6面 米、2兆ドル超対策成立 史上最大、経済下支え 新型コロナ
2020年3月28日 日経夕刊1面 米2兆ドル経済対策成立 新型コロナ 下院議長「追加策を検討」
2020年3月29日 朝日朝刊8面 2兆ドル超経済対策、成立 米国、史上最大の財政出動 新型コロナ

まず、3月18日の夕刊1面で、朝日・日経ともに、米トランプ政権と米議会が17日(現地)に「個人へ現金を直接配る措置を含め、1兆ドル(約107兆円)規模を視野に入れた大型の財政出動の検討に入った」ことを伝えている。
続く3月19日の報道では、「トランプ大統領は1人当たり1000ドルを目安に3月中にも現金給付する案を主張、給与税の減免も検討する」(日経朝刊1面)、「ムニューシン財務長官が「米国人に直ちに小切手を送ることを検討する」とし、2週間以内に給付したいとの意向を表明」(朝日朝刊3面)を伝えている。ただし、「野党・民主党には休業対策など雇用安全網の充実を求める声も強く、与野党協議では政策の優先順位が問われそうだ」(日経朝刊3面)とし、また、「野党・民主党は現金給付から高所得層を除外するよう求めており、対象や規模を巡って政権と与野党の調整が続いている」(日経夕刊1面)としている。
さらに、3月21日の報道では、共和党原案「年間所得7万5千ドル(約840万円)未満の米国民1人当たり1200ドルの現金給付」(朝日朝刊4面、日経朝刊3面)が報じられている。その後の報道では、「野党・民主党が企業の救済策に反対し、採決が遅れる可能性」(日経3月24日朝刊2面)が指摘されていたが、「トランプ米政権と与野党の議会指導部は25日未明に最終合意」(日経3月26日朝刊3面)と伝えられている。
そして3月28日には、「法案成立の見通し」(日経朝刊1面)から、法案成立(朝日夕刊6面、日経夕刊1面)の報道に到っている。
最後の朝日3月29日朝刊8面では、「米国で27日、史上最大規模の2兆ドル(約220兆円)超の経済対策が決まった」とし、「我が国への戦時レベルの投資だ」(共和党の上院トップ、マコネル院内総務)との認識の下で、経済対策として、「家族4人の平均的世帯当たり計3400ドルの給付や、雇用支援のための中小企業向け融資(予算規模約3500億ドル)、失業給付の拡充(2500億ドル)、航空産業などの産業支援(5千億ドル)などが柱」の対応が行われたとしている。

まさに、怒涛の10日間であるが、さすがに米国の決断は早いと思わざるを得ない。翻って我が国では、4月7日の緊急事態宣言後ですらも、自粛要請を求める施設の調整に手間取り、東京都による緊急事態措置の発表は4月10日にずれ込んだ。新型コロナは時間との闘いとされている中での時間の浪費であるが、国側には、施設に対する自粛要請は2週間後という意見が強かったそうだから、驚くというより呆然とする。この危機感のなさは、一体何なのだろう。有事立法とか、憲法を踏みにじる対応をしておきながら、最も肝心な国民の命を守るという責務への自覚が、まるで感じられない。
話を米国に戻すと、確かにスピーディな対応であるが、このコロナ・ショックでは、米国の現行制度の脆弱さが露呈している。一つは、言うまでもなく、公的医療の不備である。トランプ政権では、新型コロナ検査を無償としたが、感染していた場合、適切な医療が受けられる保証は、どこにもない。高額な民間保険に入っていなければどうにもならないし、入っていても治療費は高額にのぼるとされている。シカゴなどでは黒人の死亡率は白人の5倍とのことだが、これは医療アクセス格差を反映しているのであろう。
もう一つは、早急な現金給付が行われた裏側には、失業給付が貧弱な面があるようである。このことは、上記の記事の中でも、野党・民主党の「休業対策など雇用安全網の充実を求める声」にも現れている。この現金給付は、まるで「ベーシック・インカム」みたいとする論評があったが、その裏には、欧州と比べて貧弱な雇用安全網があるわけである。
最後に、所得制限について触れておきたい。「金持ちに配る必要があるのか」という反発は分かる。しかし、このような緊急対策では、何よりもスピード感が求められる。いちいち所得審査をしていたのでは、対応が遅れ、手遅れになりかねない。金持ちであろうと、住民登録を元に、一律の給付を行えばよいのでないか。そして、後で年間所得に対する課税で対応すればよいのではないか。日本でも所得制限の話があるが、馬鹿げている。バラマキだと声高に非難する人には、アホな事ばかり言っていないで知恵を出せ、と言いたいところである。

2020年3月17日火曜日

2020年3月17日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)消えゆく製造・販売人材 女性・高齢者層は急減へ

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による就活理論編である。「今回は、大卒以外の人材、たとえば製造や技能や販売、サービスなどの職務については、どのように補充をすればいいか、を考えておきたい。」というものである。
まず、「こうした人材の欠乏感は大卒ホワイトカラー職のそれとは大きく異なる。」とし、「大卒人材は少子高齢化の中でも30年で1.6倍にも増えている」が、「高卒で働く人は30年前の5分の1にまで減っている。新規人材の基礎数は信じられないほどに細っているのだ。」とし、「加えて、販売やサービス部門では中途参加する人材として、主婦や高齢者のパート労働が今まではあったのだが、先細り感が日に日に色濃くなっている。」としている。
そして、「過去、日本社会には性別役割分担という差別的な風習が色濃く残ったため、既婚女性は家事育児のために、職場を離れる傾向が強かった。」が、「近年は人手不足の中で男女共同参画が進み、家事・育児と並立して既婚女性が継職できる環境が整ってきた。そのため、「主婦パート」の新規就労者がこれまでのようには見込みにくくなりそうだ。」としている。
さらに、「高齢者の就労についても実は今が端境期にある」とし、「就業率が劇的に伸びているのは、65~74歳の前期高齢者のみ」であるが、「2022年以降、第一次ベビーブーム世代が75歳に達するため、彼らが激減していくのだ。」としている。そして、「日本の雇用は、…非ホワイトカラー領域から脆弱になっていく」とし、「採用永久氷河期」ともいえるだろう」としている。
最後に、この難題への対応として、一つは、「AI(人工知能)やIT(情報技術)を用いた無人化・省力化投資」であり、「技能実習生、特定技能資格就労などの外国人材の受け入れなども有力な選択肢」としている。そしてもう一つは、「非ホワイトカラー領域で、今までになかった人材確保術が静かに浸透しつつある」とのことだが、その方法は次回に回すと結んでいる。

コロナ・ショックで雇用市場が激変する少し前は、「人手不足倒産・廃業」の動きが目立ってきていた。黒字だが、顧客へのサービスを行う人材がいないので、やむを得ず手じまう、というのである。コロナ・ショックで様相は一変し、外出自粛などで仕事の方が激減し、人の方が余るという現象が生じているが、氏の洞察は、混乱が収まれば、従来、高卒・主婦・高齢者が対応してきた非ホワイトカラー領域は、「採用永久氷河期」になるというのである。一方、コロナ・ショックの出入国規制で、すでに農業や飲食店など多くの分野で不可欠な働き手となっていた外国人材が入国できなくなり、現場では悲鳴があがっているようだが、さらに今後も受け入れを拡大することには異論もあり、私自身も反対である。
この記事の主張を裏付けるものとして、次の内閣府の資料を見てみよう。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_2.html
第2-2-1図「就業者数の変化率(2005年度~2015年度)」では、「就業構造は、第3次産業化が進んでいる」ことが示されている。
第2-2-2図「労働需給ミスマッチの大きい職業」では、「介護サービス等で需要超過、総合事務員等で供給超過」の状況が示されている。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_4.html
上記が、この資料の「第2章 多様化する職業キャリアの現状と課題」のまとめであるが、そこには、次のように記されている。
「AI等がより一般的になると、就業構造の変化はさらに激しくなると予想され、特に既に供給超過である総合事務員等は、機械化による影響を大きく受ける可能性が高い。専門的な知識だけでなく、コミュニケーション能力、状況把握能力等の機械に代替されにくいスキルを習得し、活用していくことが重要である。」
だからと言って、急に専門能力などが身に着けられるわけではないだろう。必要なのは、変化に対応してたゆまぬ努力を続けるという姿勢であり、自分自身で問題を考え、取り組んでいく自主性であろう。就活で内定先が決まっても、そこは終着点ではなく、出発点であるという認識が必要である。
やさしい経済学 日本型雇用、改革の行方
2020年3月17日 日経 朝刊 29面 (1)春季労使交渉の異変
2020年3月18日 日経 朝刊 33面 (2)「三種の神器」の功罪
2020年3月19日 日経 朝刊 31面 (3)経年劣化と時代の変化
2020年3月20日 日経 朝刊 25面 (4)低い労働生産性の実像
2020年3月23日 日経 朝刊 15面 ●(5)熱帯びる人材獲得競争
2020年3月24日 日経 朝刊 33面 (6)「ジョブ型」と「メンバー型」
2020年3月25日 日経 朝刊 32面 (7)成果主義導入の教訓
2020年3月26日 日経 朝刊 29面 (8)苦悩する労働組合
2020年3月27日 日経 朝刊 31面 (9)賃上げ原資の配分方法
2020年3月30日 日経 朝刊 13面 (10)「ジョブ型」普及の課題
2020年3月31日 日経 朝刊 33面 (11)あるべき理想の姿

労働経済学についての第一人者の一人である京都大学博士(経済学)で日本総合研究所の山田久副理事長によるコラム/やさしい経済学欄における全11回にわたる解説である。通して見れば、この問題についての大きな流れや問題の所在を理解することができるであろう。
各回の詳細を紹介することは、著作権に触れるレベルになる可能性もあり、何より、記事に目を通されるのが一番であるから、以下では、ざっと概要を見ることとする。

第1回では、今季の春季労使交渉(春闘)では「本質的な異変」が生じているとして、トヨタの組合が個人の成果に応じた配分に要求を転換したことと、経団連の年功賃金の見直しを通じた年収ベースでの賃上げの主張に触れ、「背景にはデジタル技術革新に伴う産業構造の大変革」があるとし、「本シリーズでは、大きな転換期にある日本型の雇用・賃金制度の現状と、今後の行方を考えます」としている。

第2回では、日本型雇用慣行には、終身雇用、年功賃金、企業内組合という「三種の神器」があるとし、「そのメリットが際立ったのは石油危機後の対応」で、「わが国では組合が企業の立ち直りを優先して賃上げ要求を抑制し、早期のインフレ鎮静に成功」としている。こうした日本型雇用慣行は、「1980年代には日本企業の強さの原動力として世界から称賛」されたが、「その対象は主に大企業に勤める男性正社員」とし、「長時間労働の常態化や転居を伴う転勤など、従業員やその家族の生活へのマイナス面が問題視」されることもあったとしている。

第3回では、「1990年代に入るとデジタル技術が飛躍的に進歩し、商品・事業サイクルは短くなりました。生え抜き重視で内部育成偏重となっていた人材活用の限界があらわになった」とし、「高齢化する日本では年功賃金が高コスト化」し、「企業は正社員の新卒採用を大幅に減らし、低賃金で雇用調整が容易な非正規労働者を増やし」た結果、「正規・非正規の二重構造が社会問題」となったとしている。さらに、正社員の処遇の「成果主義は一部の優秀な人材の処遇を高める一方で、多くの従業員の給与は抑え、全体として人件費を抑制」としている。そして、「日本経済全体としてみれば付加価値額は増えず、労働生産性は低迷を続けた」としている。

第4回では、「労働生産性の向上は、日本企業・日本経済にとって最重要課題」としつつ、「わが国企業の競争力は高い品質」「サービスの品質では日本の方が高いことを示唆」とし、「改善型イノベーション」に秀でているのは、「長期勤続で横並び的に処遇する日本型雇用慣行が、高い職務規律の維持と、組織ノウハウ蓄積に役立った」からとしている。一方で、「革新型イノベーション」の弱さが指摘できるとしている。

第5回では、「経団連が日本型雇用の見直しの必要性をうたう背景には、企業を取り巻く内外環境の激変」があるとし、市場構造が「商品単体/プロダクト・アウト」主体から、「モノ・サービス一体化/マーケット・イン」重視にシフトし、技術構造も「熟練技能/擦り合わせプロセス」重視から、「アルゴリズム化/組み合わせプロセス」重視へと大きく変化している環境では、わが国企業が得意とする「改善型イノベーション」より「革新型イノベーション」が重要になり、それを「先導するプロフェッショナルな人材を外部から調達する場合、生え抜き重視・内部育成偏重の日本型雇用の弱点が大きく露呈」するとしている。

第6回では、経団連が導入を提案する欧米流の「ジョブ型」雇用は「まず仕事ありき」の制度であるが、わが国は「まず人ありき」で、わが国の労働組合は企業別で、「労働者は職業よりも勤め先企業に帰属意識」を持つとしている。さらに、「重要な違いは人材育成の仕組み」とし、わが国では「職場での業務を行いながらの指導が主」で、結果として、「欧米では事業不振を理由とした整理解雇のハードルは低くなりますが、わが国では労働組合の抵抗が強いという違いが生まれてきました」としている。

第7回では、「日本企業でも様々な改革」が進んでいるとし、「タレント・マネジメント」や、「新規事業をスピーディーに立ち上げるため中途採用を増やしたり、優秀な人材確保のために既存制度とは別枠で処遇したりする例」もみられるとしている。さらに、「黒字リストラ」で、「業績堅調でも早期・希望退職を募るケース」が一部で出てきたとしている。そして、「人材獲得競争が激化し選別人事の色彩が強まると、「普通の人々」のモチベーション維持が課題となります。この点が新たな成果主義成功のカギ」としている。

第8回では、「わが国の労働組合は企業ごとに組成」という点に触れ、「結果として非正規労働者の労働条件を十分には改善できませんでした」としている。そして、「労働組合は横の連携を深め、一企業の枠を超えた社会全体での雇用保障という発想を持って、非正規も含めた労働者全体の処遇改善に本気で取り組む必要があります。企業も組合の意義を理解し、双方が緊張と協調のバランスのとれた労使関係を構築していくことが望まれます」としている。

第9回では、「市場構造・技術構造の変化を踏まえれば、日本企業は外部の経営資源を積極的に取り入れることが不可欠で、「革新型イノベーション」の担い手である優秀な人材を厚遇することは重要」であるが、一方で、「多くの企業の強みは「改善型イノベーション」に基づく製品・サービスの品質の高さ」にあり、「現場力を維持・向上させるには、労働者の士気を高め、その貢献に広く報いることが必要」としている。そして、「競争力を維持・強化する新たな賃上げ原資配分方法の構築に向け、労使の真摯な議論」が求められるとしている。

第10回では、「革新型イノベーション」には、欧米の「ジョブ型」雇用が有利であるが、それがうまく機能するには、「企業間労働移動を支える社会インフラが必要」で「職業コミュニティー」が重要としている。それには一定の時間がかかるので、「就社型雇用とジョブ型雇用の「ハイブリッド」を目指すのが妥当かつ現実的」というのである。

最後の第11回では、OECDの2018年の報告書の分析に触れ、「労使交渉の在り方として(1)集権的か分権的か(2)産業・部門間の調整度合いが強いか弱いか――で加盟国を分類。それぞれの労働市場のパフォーマンスを比較したところ、米英が分類される分権的タイプより、多くの北部欧州諸国が属する調整度の強いタイプが、総じて優れたパフォーマンスを示していました」としている。そして、日本型と欧米型の「ハイブリッド」雇用システムの構築にも、「セーフティーネットの充実」が必要であり、「持続的な能力開発は個人と企業の共存共栄をもたらすカギです。全ての労働者に十分な教育投資が行き渡るよう、官民協力した支援策が求められます」と結んでいる。

振り返って見ると、よく整理された解説であることが、改めて分かる。しかし、日本型と欧米型の「ハイブリッド」雇用システムの成立・有効性については、疑問がある。
それは、日本で特徴的な企業内組合は、そもそも、経営側が、産業横断的に労働者が団結して経営に介入してくるのを防ぐために容認・推奨してきたものだからである。その結果、従業員は、社会ではなく、会社に関心を持ち、依存するようになっていった。この状況を批判的に表す言葉として、「社畜」がある。この考え方は、労働者に深く染みついており、会社などの組織を守るためなら、犯罪的不正を犯すことも厭わない状況が生まれている。談合問題しかり、自殺者まで出した森友問題しかりである。内部通報システムが十分に機能しない根本原因も同じである。
また、そもそも、企業側は、個々の労働者の職業能力を伸ばすことを最優先に考えているとは言えないのではないか。転勤や配転などには、その必要性が疑われるものも少なくない。人事権という伝家の宝刀で、労働者に威圧を与えていることは随所に見受けられる。
そして、そのような労働者の希望や適性を無視し、あるいは、そうした貢献に公平公正な処遇で報いることを軽視してきた結果が、労働生産性の低下・労働意欲の減退につながっているのではないか。
「革新型イノベーション」によって、個々人の貢献に大きな格差がつくようになった以上、それが賃金や処遇の格差につながることは避けられない。企業内で留意すべきことは、その格差、特に、低賃金層における状況が、産業横断的に見て、許容される範囲のものかどうかの確認であろう。その点では、企業内組合が出て来る余地はなく、産業別組合の力点は、最低賃金の水準の妥当性確保に向かうことになるのであろう。
それでも、労働者や産業によっては、許容水準を超える格差が生まれ得る。そこにこそ必要となるのが、セーフティネットであり、再教育投資である。すなわち、企業は、企業内格差が、特に低賃金の労働者について許容可能な範囲にとどまっているのかどうかを常にチェックする必要があり、政府は、企業内では対応できない格差の拡大に対し、低賃金者には保護を、高所得者には負担を求め、セーフティネットを整備・強化する必要があるということである。もちろん、労働者にも、意欲を持ち、能力を高める努力が要求されよう。
2020年3月17日 日経朝刊16面 パナソニック、AI人材ら採用に力 年収最高で1250万円
2020年3月19日 日経朝刊15面 ソニーの若手・中堅、年収最大250万円高く 横並び見直し

最初の記事は、「パナソニックは16日、人工知能(AI)やデータサイエンスなど先端技術の知見を持つ研究者を採用する新たな方針を発表した。研究実績や保有資格に応じ、年収は750万~1250万円を想定する。新卒、既卒を問わずに募る。新規事業の創出などにつなげる。」というものである。
「博士号取得者ら数人を1年更新の嘱託社員として採用する。雇用期間は最長5年。家電や電子部品といった事業部門をまたぐ本社直轄の研究開発部門で働いてもらう。クラウドやディープラーニング(深層学習)関連など幅広いテーマの研究者を募集し、テーマの持ち込みも受け付ける。」としている。
なお、「2021年度の新卒採用で選考期間の延長を検討していると公表した。新型コロナウイルスの感染拡大で会社説明会の一部が中止になるなど、影響が出ていることに対応する。」とのことでもある。

次の記事は、「ソニーは2020年度、優秀な若手・中堅の従業員の年収を、最大で標準よりも250万円高くする。一般的な係長未満に相当する「上級担当者モデル」の従業員が対象。横並びの給与体系を見直し、貢献度の高い社員に報いる。若手・中堅社員の処遇を改善し、「GAFA」と呼ばれる米IT大手などとの業界の枠を超えた人材獲得競争に備える。」というもので、「19年度から新入社員の初任給にも差をつける取り組みを進めている。人工知能(AI)などの先端領域で高い能力を持つ人材については、年間給与を最大2割増しとしている。」とのことである。また、「20年春の労使交渉で、日立製作所やパナソニックで構成する電機大手の統一交渉には参加していない。電機業界だけでなく他分野にも負けない高水準を示し、優秀な人材確保につなげる。」としている。

AIをはじめとする先端技術の重要性が高まる中、そうした高度専門人材に対する獲得競争が熾烈になってきている。そのことが横並びの春闘にも影響を及ぼしているわけで、年功序列・終身雇用の日本型雇用を破壊する可能性も出てきている。
だが、パナソニックの「1年更新の嘱託社員として採用する。雇用期間は最長5年」では、大した人材は集まらないだろう。これなら博士号を取得したのにもかかわらず非常勤として働くしかない大学教員と大差ないからである。「雇用期間は最長5年」は、正社員と同じ期限のない労働契約への移行を阻止するためだろうが、そこまで「助っ人」として位置付けるのであれば、給与は数千万とする必要があり、「年収は750万~1250万円を想定」なら、言っちゃあ悪いが、中途半端な人材しか集まらないだろう。要するに、まるで分っていない、のである。
ソニーの方は、「新入社員の初任給にも差をつける」とのことであるが、この戦略は、新卒者等の中で先端専門技術の習得上有利な者を特別扱いしようということである。日本の大学教育や新卒採用の状況を踏まえると、一定の効果はありそうだが、問題は入社後である。「優秀な若手・中堅の従業員の年収を、最大で標準よりも250万円高くする」というのでは、はっきり言って「GAFA」への対抗などできるわけはない。これは、高度専門人材の給与が他の社員より大幅に多くなるのを抑止するという考え方だろうが、恐らくは、折角育てた高度専門人材に愛想を尽かされて流出させてしまう、ということになるだろう。
両社ともに、日本的経営というか、社員間のバランスといったものに固執しているわけだが、それ故にグローバル人材獲得競争に敗れつつある、という現実を直視していない。
もっとも、そのような高度専門人材の入社が、社業にどれだけ貢献するものなのか見極めできない、という点はあるのだろう。これはその通りで、社風との相性もあり、入れてみなければ分からない。その点から、パナソニックの嘱託社員というか、有期雇用社員としての採用も分からないではない。問題は、ケチくさい給与水準である。イメージで言えば、雇用期間を5年とした場合、その期間で普通の社員の最低1.5倍くらいの給与にしないと、良い人材が採れるとは思えない。すなわち、普通というか課長クラスの年収が1千万円であるのなら、5年間で7千5百万円が必要ということである。これを5年契約の年間1千5百万円ではなく、1年契約・更新5年までとするなら年間2千万円(5年間になると総額1億円)ということになるだろう。非常に高度な専門人材を1年契約で獲得しようとするのなら、役員並みの給与が必要になるだろう。
このような姿が、現実に起きているのが、日本のプロ野球である。外人枠は特別待遇となっているが、彼らの活躍に依存している球団も多い。そして、有能な日本人選手も、活躍の場と好待遇を求めて、次々と大リーグに向かうようになっている。その先導をしたのが、野茂投手とイチロー野手で、だから彼らは裏切り者と罵られたのである。それでも、彼らの決断と活躍がなければ、日本のプロ野球の水準は低迷していたままだったであろう。
さて、パナソニックやソニーなどの日本企業は、野茂やイチローに匹敵する高度専門人材を育てた上で、その人が望むなら快く外に送り出し、その活躍に拍手を送れるだろうか。問われているのは、そこまでの覚悟であり、度量であろう。

2020年3月16日月曜日

官製ワーキングプア
2020年3月16日 朝日夕刊9面 1 正職員と格差、納得できない
2020年3月17日 朝日夕刊7面 2 15年働いた経験、無視ですか
2020年3月18日 朝日夕刊5面 3 「労災に差別」届いた遺族の声
2020年3月19日 朝日夕刊11面 4 非正規こそ労働基本権が必要

官製ワーキングプアについて、現場を踏まえて報じるという4日連続の特集記事である。「約64万人(16年時点)まで膨れあがった非正規。低処遇に苦しむ人が多く「官製ワーキングプア」とも呼ばれる。」としている。

第1回目は、自治労中央執行委員の野角(のずみ)裕美子(59)氏の「私はみなさんと同じ非正規だった。私の仕事は非正規の処遇改善と雇用安定です」という講演での言葉から書き出している。自治労沖縄県本部が設立した非正規公務員の連絡協議会総会での話である。
「自治労は地方自治体の労働組合で構成する全国組織。ナショナルセンター・連合を支える有力組織で傘下の組合員は約80万人いる」が、「総合組織局強化拡大局長という肩書もある野角は、28人いる中央執行委員の一人。その立場は他の委員と大きな違いがある。自治労傘下組合員の多くは正職員だが、野角は非正規労組の出身だ」とのことである。
記事では、「子育てが一段落したころ、野角は東京都町田市の図書館に応募し、採用された」野角氏が、「正職員との格差を感じる」ようになり、「嫌だったのが正職員に賞与がある6月と12月。黙っていても周囲が浮かれているのがわかる。」「仕事は同じ。何の違いがあるのか」」と思ったことや「非正規の同僚が妊娠した時も格差を感じた。正職員が休暇に入る時は祝福されるのに、非正規が休むと微妙な空気が流れる」といった体験に触れている。
そして、「07年ごろ、民間委託の話が浮上したことをきっかけに、非正規労組を立ち上げた」とし、「野角は委員長に名乗りを上げ、一歩一歩、処遇改善を勝ちとってきた」とする。そして、自治労本部から「中央執行委員に」と声がかかったのは13年のお盆直前だったそうである。
問題の背景には、「公務員の法律は、正職員を前提につくられている。各自治体の考えで非正規を増やしてきたため、特別職や臨時職など法律上の採用根拠はバラバラ。賞与を払う根拠もはっきりしていなかった」点がある。
そして、「17年5月に地方公務員法が改正され、今年4月から「会計年度任用職員」という新制度が始まる。非正規のほとんどが新制度に移るとみられるが、新制度への批判は多い。賞与を払う一方、月額報酬を減らそうとする自治体がある。採用が1年ごとで不安定さも変わらない」が、野角は「法改正は水準を上げるためのスタート」「やっと法律に位置づけられる。法改正されて具体的にやることがわかる」と前向きにとらえているとのことである。
最後に、今年1月にあった自治労の中央執行委員会で、「会計年度任用職員の労働条件について要求書を出していない組合が3割もあった」ことに、「2年半前からわかっていたのに。まだまだひとごと。処遇改善は人材確保にもプラス。自治労として取り組むべき課題だ」と野角は驚き、怒りをあらわにしたそうであるが、記事は。「野角の任期は残り2年を切った」と結んでいる。

第2回目の記事は、「2月20日、東京・新宿にそびえる都庁38階の東京都労働委員会の審問室。伊藤信子(67)が大田区の保育園で働けるかどうか。区との話し合いは大詰めだった」との書き出しである。
「15年間、大田区の保育園で働いている伊藤は幼稚園教諭の資格をもつ」そうであるが、「午後4時半から7時半までの3時間、「延長番」と呼ばれる勤務につく」ものの、「最初は公務員になっていいなと思った。ところが、だんだん正職員との差が気になりだした」としている。
そして、「4回の更新上限があった。3年を過ぎたころから不安が募った。1年空ければ再び応募できるが、採用される保証はない。その間の勤務先はどうすればいいのか。組合を作って交渉し、在職したまま応募できるようにした」とし、引き継ぎノートへの「今日はボーナスが出ます」との正職員の書き込みに、「格差がむなしくなってくる」と感じたとしている。
そして、非正規公務員の人たちのための新しい制度「会計年度任用職員」が今年4月から大田区でも始まり、「部署によってバラバラだった勤務パターンが五つに整理された」が、「伊藤と同じ3時間勤務も経過措置の特例としてあった。しかし、伊藤は条件にあてはまらないと言われた」と言う。「延長番」は正職員と伊藤の2人体制。東京都の基準では2人とも保育士資格が必要だという。「月80時間勤務すれば保育士と同じ知識や経験があると認められる可能性があるが、月66時間の伊藤は条件を満たさない」というのである。
そこで、「月66時間でも15年の経験がある。それなのに1年でも80時間経験させればいいというのは矛盾。今までの時間を無視するのは納得できない。なぜ15年がゼロになるのか」と大田区と交渉を続け、「交渉は労働委員会に持ち込まれた。勤務時間を変更した上で、3時間で働き続けられる条件を大田区が提示。2月20日の話し合いでは、これまでの保育実績を考慮して選考することも表明した」と言う。
記事は、「声を出さなければ何も変わらない。みな同じ公務員です」との伊藤氏の声で結んでいる。

第3回目は、「労災手続きがなくても市長に補償請求ができるから北九州市の条例は違法ではない」との書き出しである。この訴訟の原告である森下眞由美(57)氏の娘である佳奈氏は、「大量の薬を飲んで亡くなった。27歳だった」という。
佳奈氏は、12年4月、北九州にある戸畑区役所の子ども・家庭相談コーナーの相談員(非正規職)になったが、翌年1月、佳奈は体調を崩し大分県内の自宅に戻り、うつ病と診断されたそうである。
そして、ご両親は、「自死遺族支援弁護団に連絡し、紹介されたのが佃だ。佃はまず労災を請求した。ところが、労働基準監督署は「対象ではない」。次に北九州市に請求したが、「非正規や遺族の請求は認めていない」と門前払いされた。条例で定める規則がそうなっているというのだ」という。
記事では、非正規公務員の「労災(公務災害)制度は複雑」としている。「民間企業の労働者には労災保険がある。公務員でも土木や建築、運送、教育など「現業」と呼ばれる職場は同じ労災保険の対象。それ以外の地方公務員は、地方公務員災害補償法という別の制度だ」とし、「問題は、佳奈のように、現業でない非正規公務員。法律では各自治体が条例や規則で定めることになっている。総務省の古いひな型では、本人や遺族は申請できないことになっていた」そうで、「自治体によっては規則を変えたり、運用で請求できるようにしたりしているところもある。ところが、北九州市は古いままだった」という。
そこで、ご両親は、「ここまでの差別があっていいのか?」と17年8月に「請求権を認めない条例は違法」と国家賠償訴訟を起こし、「非正規公務員の労災制度に大きな矛盾があることを世の中に広く知らしめた」というわけである。
その後、「18年7月初め、眞由美は、野田聖子総務相(当時)に手紙を出す。野田からはすぐに見直しを確約する返事が届いた。7月20日には、総務省がひな型を変更して自治体に通知。北九州市も10月に規則を改正し、被災職員本人や遺族も申請できるようにした。眞由美の思いは、政府を動かし、条例も変えた」という。
最後に、「福岡高裁で退けられた国家賠償訴訟はその後最高裁に上告。佳奈の死は上司のパワハラが原因だったとして、補償を求める訴訟も福岡地裁で続いている」と結んでいる。

最後の第4回目は、「非正規公務員問題に取り組むNPO「官製ワーキングプア研究会」の事務所は東京都新宿区にある。2月2日の日曜日、昼過ぎに訪れると、4本の回線にひっきりなしにかかってくる電話の対応にメンバーが追われていた」という書き出しであり、「4月から新制度の「会計年度任用職員」が始まるために開かれた電話相談。「月給が減る」「更新されない」。2日間で計91件の問い合わせがあった」としている。
そして、「安田真幸(まさき)(72)も電話に対応した一人だ。安田は東京都杉並区の元職員。今は、自ら立ち上げた個人加盟ユニオン「連帯労働者組合・杉並」の執行役員だ。40年以上前、大学を卒業して公務員試験を目指し、東京都庁でアルバイトをしていたことがある」が、「半年ほどたった時のことだ。「名前を変えてくれないか」と上司から言われた。アルバイトは半年更新が原則で、本来は半年以上続けられないからだ」ということになり、「「年収が減るだろう」と社会保険を辞退することに合意する書類にサインすることも求められた」ところから、「これは一体何だ?」と疑問が湧いたという。そして、「その後都庁に入り杉並区役所に配属された。区の正職員組合で活動したが、1989年に脱退。個人加盟できる労組を立ち上げた」というわけである。
そして、「会計年度任用職員」制度で安田が一番問題だと考えるのは、労働基本権の扱いだ。地方公務員法(地公法)で公務員の労働基本権は制約されている。スト権はなく、労働協約を結ぶことはできない。非正規公務員も同じ扱いだが、例外がある。「特別職」だ」とし、「特別職は本来専門職で、恒常的な仕事は考えられていない。それなのに、自治体が非正規を増やすときに特別職を使った。非正規公務員の3分の1を占め、学校や保育園など多くの職場にいる」という。そして、「特別職に労働基本権があることを活用して、自治体と団体交渉を行い、労働協約を結んできた労組は少なくない」と、「2000年代に入ると、多くの成果が出始めた」と安田はいうとしている。
「ところが、会計年度任用職員を導入する地公法改正で、特別職として採用する条件は厳格になる。特別職の多くは会計年度任用職員に移り、他の公務員と同じように労働基本権が制約されるため、安田の目には「法改正は労働基本権を奪うのが目的だ」と映る」というのである。 
そして、「安田は労働基本権を使って団体交渉をしてきた三つの労働組合とともに17年、法改正が団結権を保護する国際労働機関(ILO)の条約に違反すると申し立てた。不受理にはなったが、ILOにある専門家委員会に働きかけを続けた」ところ、「その後、今年2月に発表された専門家委員会の年次報告書には、安田らの労組名とともに「長年保持してきた労働組合権が奪われないよう労使関係システムの検討を政府に要請する」と書かれた」とし、「報告書自体に拘束力はないが、今後の運動にどう生かしていくか。「正職員は身分保障がされている。不安定な非正規公務員こそ、労働基本権が必要だ」。安田は次の一手を模索している」と記事は結んでいる。

この記事のきっかけとなったのは、「会計年度任用職員」という制度である。これについて、総務省自治行政局公務員部は、次のように説明している。(資料がきちんと閲覧できない状態での掲示は、自己チェックもできていない杜撰さだが。)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638276.pdf
課題であった点として、「厳しい地方財政の状況が継続する中、教育、子育てなど増大し多様化する行政需要に対応するため、地方公務員における臨時・非常勤職員数は増加」し、「これまでにも平成26年総務省通知等により助言を行ってきたが、地方公共団体によっては制度の趣旨に沿わない任用が行われており(課題1・2)、また、処遇上の課題(課題3)もある」状況だったとしている。(3ページ)
 課題1:通常の事務職員も「特別職」で任用
 課題2:採用方法等が明確に定められていないため、一般職非常勤職員としての任用が進まない
 課題3:労働者性の高い非常勤職員に期末手当の支給ができない
そこで、地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律(平成29年法律第29号)が制定されたわけであるが、その概要は、次の通りである。(4ページ)
 1.地方公務員法の一部改正【適正な任用等を確保】
  (1)特別職の任用及び臨時的任用の厳格化
  (2)一般職の非常勤職員の任用等に関する制度の明確化
 2.地方自治法の一部改正【会計年度任用職員に対する給付を規定】
   ○会計年度任用職員について、期末手当の支給が可能となるよう、給付に関する規定を整備する。
そして、これらの内容について、下記のように説明されている。
  特別職の任用及び臨時的任用の厳格化(8ページ)
   ①専門的な知識経験又は識見を有すること
   ②当該知識経験等に基づき事務を行う労働者性の低い職であること
   ③事務の種類は、助言、調査、診断又は総務省令で定める事務であること
   の全ての要件に該当する職に限定
  臨時的任用の適正確保(9ページ)
   ○臨時的任用は、緊急の場合等、正規の任用手続きを経るいとまのないときに特例的に認められるものであることから、国家公務員の取扱いを踏まえ、「常勤職員に欠員を生じた場合」に限定
   ○改正法に基づく臨時的任用職員は、フルタイムで任用され、常勤職員が行うべき業務に従事するとともに、給料、旅費及び手当が支給
  会計年度任用職員の募集・任用・服務(10ページ)
   ○募集・任用にあたっては、できる限り広く募集を行うなど、適切な募集を行った上で、競争試験又は選考により、客観的な能力実証を行う必要(常勤職員は競争試験によることが原則)
   ○会計年度任用職員には地方公務員法の服務に関する規定が適用され、懲戒処分等の対象となる(パートタイムの会計年度任用職員は、営利企業への従事等の制限が対象外)
  再度の任用(11ページ)
   ○再度の任用は、あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理すべきであり、任期ごとに客観的な能力実証に基づき、十分な能力を持った者を任用することが必要
   ○不適切な「空白期間」は是正する必要※「空白期間」とは新たな任期と前の任期との間に一定の期間を設けること
  会計年度任用職員の給与水準(12ページ)
   ○会計年度任用職員の初任給決定については、職務経験等の要素を考慮して定めることが適当。
   ○会計年度任用職員の給与水準については、基本的には常勤職員の給料表に紐付けた上で、上限を設定することが適当。
  会計年度任用職員に対する給付の考え方(全体像)(13ページ)
    フルタイム:給付体系給料・旅費・手当を支給可能
    パートタイム:報酬・費用弁償・期末手当を支給可能
  会計年度任用職員の勤務時間・休暇等(14ページ)
   ○職務の内容や標準的な職務の量に応じた適切な勤務時間を設定すること
   ○国の非常勤職員との権衡の観点等を踏まえ、必要な休暇等の制度を整備すること

以上の全体像をざっと見ると、この改正自体が悪いようには思えない。これに対する問題点を指摘したものとして、自治労連新潟公務公共一般労働組合の坂井雅博執行委員長による「論文『会計年度任用職員』導入による公務員制度の大転換」がある。
https://www.jichiken.jp/article/0080/
論文では、「公務運営のあり方そのものをも、変質させる危険性」に言及し、「「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務運営」の原則が崩されている実態を追認し、固定化するものでもあります。ここには、非正規化をすすめてきた政府や地方自治体の責任には、いっさい触れられていません。それどころか、住民の暮らしに密着した仕事のほとんどを、非正規職員に担わせることを正当化するものとなっています。」としている。
しかし、自治労自体の責任は、どうなのか。正規職員の利権を守るために、非正規職員についての格差を黙認・温存していたのではないのか。第1回目と第2回目の記事では、嫌だったのは「正規職員との格差」とされている。それは、自治労が正規職員の利益を最優先してきたことを物語るものではないのか。
もちろん、移行期の問題として、兼業禁止や給与減額→賞与への振り替え、といった問題は生じている。では、自治労に、正規職員の分を削っても非正規職員の賞与に回すべきだとの思いはあるのか。第1回目では、「会計年度任用職員の労働条件について要求書を出していない組合が3割もあった」とされているところである。
第3回目の労災の問題は、新制度によって、基本的に解決するのではないかと思われるが、ここにも自治労の支援は窺われない。
第4回目の労働基本権の問題は、非正規職員だけの問題ではない。くだんのILOの専門家委員会の年次報告書は、ちょっとWEB上では確認できなかったが、「日本の公務員の労働基本権問題(ILO第87号条約「結社の自由・団結権保護」)」について、基準適用委員会(CAS)の個別審査案件になっていることは確認できる。
http://www.jichiro.gr.jp/intr/7743
「不安定な非正規公務員こそ、労働基本権が必要」とする見方には、賛成できない。制度のハザマの中で、非正規職員が有していた唯一正規職員より有利なものであった労働基本権が奪われることに対する怒りは分かるが、本来、正規・非正規を問わずに確保されるべき労働基本権ではないのか。

総括して言えば、『会計年度任用職員』の導入は、まだ正規・非正規の格差が広範に残る中で、十分なものとは言えない。しかし、それでも「同一労働同一賃金」の方向に向けた一定の改善ではある。同じ公務員として、さらに同じ労働者として、正規・非正規の格差の解消のために、一致協力して臨むべきであろう。

2020年3月15日日曜日

2020年3月15日 日経朝刊2面 ●公務員の転職希望が急増 大手サイト登録最高/20代、外資やITへ

「公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。」という記事である。
 「人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。」としている。30代女性の「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」との声も掲載されている。
「新卒者の減少に加え、人手不足で転職市場が活況になっていることも一因とみられる。」「民間企業との人材獲得競争もあり、公務員の志望者は減少している。」と記事はしているが、「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」ということで、「2019年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。」とのことである。
「慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。」ということで、「有能な若手の流出は組織の人員構成をいびつにし、将来の行政機能の低下も懸念される。年次主義の見直しや業務プロセスの効率化などの改革が欠かせない。」と記事は結んでいる。

就活事情からすると、コロナ・ショックで雇用が安定している公務員への就職希望は増えるものと思われるが、その途もバラ色というわけにはいかないようである。
2019年8月の「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000540524.pdf
52ページの「もう、拘牢省とは言わせない。」という叫びには、切羽詰まったものが感じられる。
やり甲斐が感じられない一因としては、長期の安倍政権の中で、国民のための業務遂行が、政権のための辻褄合わせに堕している点もあるのではないか。森友事件が典型的であり、自殺した若手官僚の妻の訴えは、多くの官僚にとって他人事ではないであろう。
政権の危機感のなさは、コロナ・ショックで緊急事態宣言が出された今になってすら蔓延している。何としても集団感染を回避しようとしている東京都の施設に対する営業自粛要請に、国が難癖をつけているのである。理容室・美容室のような濃厚接触場所への自粛要請は当然ではないか。ホームセンターは議論がありそうだが、百貨店まで対象外にしようとするのは訳が分からない。恐らく、対象となりそうな業界が、必死に政治家に働きかけているのであろう。
そもそもの強制力を伴わない自粛要請の効果に対してすら諸外国は懐疑的だが、現場の必死の思いに冷水を浴びせる国の姿勢には、呆れかえるしかない。恐らく、その無意味な交渉の矢面に立たされているであろう厚生労働官僚が、やる気を失ったとしても、「むべなるかな」としか言いようがない。この国は、今や崩壊の瀬戸際にある。
2020年3月15日 日経朝刊32面 社会人とは何か? 山崎ナオコーラ

「社会人」という不思議な日本語がある、という書き出しの作家山崎ナオコーラ氏による随筆である。「「収入を得られる職業に就いている人」を指しての使用が多いように思う。主婦や主夫、年金生活者が含まれない文脈で使われているのをよく見かける。さらに、正社員のみを指すような文章を見かけることもある。フリーター、派遣社員、芸術家、休業者などは「社会人」という言葉で表現されることが少ない。定収入信仰だ。」としている。
続けて、「けれども『大辞林』で「社会人」を引いてみると、「(1)学校や家庭などの保護から自立して、実社会で生活する人。(2)(スポーツなどで)プロや学生ではなく、企業に籍を置いていること。(3)社会を構成している一人の人間。」とある。(2)のイメージが強くて、企業の雰囲気が漂う言葉になっているのかもしれない。」とする。
そして、「スポーツに関係のないシーンで使われる「社会人」は(1)と(3)の意味のはずであり、主婦もフリーターも芸術家も真に「社会人」だ。それなのに、会社に通って、礼儀正しく過ごし、自分の収入で生活する、というイメージは根強い。」と言う。
しかし、「とはいえ少しずつ変わってきているのかもしれない」とし、「フリーランス」のご自身のお子さんの保育園入園での経験を記している。そして、「働き方の多様性が認められる社会が始まっているのではないか。派遣社員もフリーターも「社会人」だ。私も、きっと堂々と働いていい。明るい光に感じられた。」としとぃる。
その上で、「おそらくこれからは、雑談で雰囲気を動かしたり、消費の選択で経済社会を動かしていく主婦や主夫もはっきりと「社会人」と呼ばれるようになる。いや、…あと5年で主婦と主夫という言葉はなくなる。…家庭運営者も「社会人」だ。」としている。
一方、「主婦の年収を計算して社会評価に繋(つな)げようという考え方も世間にあるが、私は反対だ。家庭運営者は、パートナーに雇われているのでも、家族を顧客と見なしているのでもない。社会を良くする高度な職業だ。年収で社会評価を下す時代は終わりだ。もう、金は物差しにならない。」とし、「よく「女性の社会進出」「女性が輝く社会」といったフレーズを見かけるが、これもおかしい。どうも、「金に繋がる職業に就くことが社会進出」「収入を得ることで、やっと輝ける」という意味が透けて見える。」と続けて、「コーヒーを飲むだけの小説でも経済小説になり得ると考えている。育児も介護も趣味もすべて社会活動だ。」と結んでいる。

興味深い視点である。私自身の経験からして、「社会人になる」とか「社会で出る」というのは、学生時代を卒業して会社に入る、という感覚を持っていた。と同時に、この随筆には、「社会人」という言葉への反発と憧憬が窺われて、その点も新鮮だった。
一方で、「世間」という言葉がある。「世間様に顔向けできない」とか「世間の風は冷たい」とか、すぐにはマイナスのイメージしか出てこないが、これは「社会」よりも、もっと範囲の広いもので、「家庭」外の世界を意味するように思われる。
山崎氏が最初に挙げている「社会人」のイメージからは、「会社人間」という言葉が出て来る。会社第一主義に染まった人々という感じだが、「会社」か「社会」かという価値観の相克の場面でも使われる。並びとしては、「家庭」→「社会」→「国家」ということになり、勤め人にとっては、「会社」が「社会」の大きな要素を占めるということになるのだろう。「社会」には、「地域」や「世間」というものも含まれるのだろう。
ともあれ、いろいろな考えの浮かぶ随筆である。
2020年3月15日 日経朝刊8面 ●新型コロナ、中国の新卒採用市場に打撃

「新型コロナウイルスの感染拡大の影響が中国の大学生の就職活動にも及んでいる。」との記事である。「求人企業による新卒採用イベントなどが中止になったほか、人の移動が制限されて面接会場に行けなかったり、春節(旧正月)休暇後に大学に戻れなかったりするなど、多くの学生が苦慮している。」という。
記事では、「2020年夏に卒業したら学習塾の講師として働くことになっていた。だが、内定をもらっていた塾の担当者から突然、「しばらく自宅で待機するように」との連絡があった。中国政府当局からの要請で当面、塾を閉鎖せざるを得なくなったためだ。授業再開のメドは立っておらず、途方に暮れている。」学生の例が紹介されている。
そして、「新型コロナの感染拡大は中国経済を直撃し、事業拡大をためらうだけでなく、新卒者採用を手控える企業も急増している。中国の求人サイト「BOSS直聘」が春節明け後の3週目に掲載した大学卒業予定者向けの求人件数は前年同期比44%減となった。運営会社によると、業種別では広告業界などは70%超の大幅減となり、減少幅が比較的小さい医療業界でさえも、前年同期を8.8%下回った。」とし、「中国では大卒者が右肩上がりに増えており、20年夏が終わるまでに最大で874万人規模の新卒者が労働市場に加わる見通しだ。だが、そのうち何人が就職できるかは不透明な状況だ。」という。
また、「これまでの努力がすべて水の泡になった」と嘆く大学生の例も紹介されており、「専攻はコンピューター工学で、卒業後は「中国のシリコンバレー」と呼ばれる広東省深圳市でキャリア人生を始めるつもりだった。就職希望の3社での面接日程もすでに決まっていた。」が、「公共交通機関などが停止となるなど人の移動が大きく制限され、面接会場に行くことができなかった。インターネットを使った面接を行う企業も増えている」が、「大学にすぐに戻れそうにないし、いつ卒業できるかわからない。こんな人を企業が雇うはずがない」と語っていると言う。
また、「新卒者ではなく、即戦力となる経験者の採用を優先する企業も目立つ。」とし、「斬新なアイデアを持つ若い人材は貴重な存在だが、新卒者を雇う余裕はない」という経営者のコメントがあり、採用者は「いずれも経験者で、新卒者は含まれていない」という例もあるとのことである。
最後に、「新卒者の就職を促そうと、政府当局は企業に採用活動期間の延長を要請したほか、軍や農村部の政府機関で新卒者採用数を増やす方針を明らかにした。深圳や北京などの都市部では人の移動制限が段階的に緩和され、平常時に戻る兆しが出てきた。だが、就活生への打撃はあまりにも大きい。」と結んでいる。

中国の就職事情は知らなかったが、こと新型コロナがらみとなると、中国で起きていることは、世界中に飛び火することになりそうである。現在、欧米各国で起きている大都市の封鎖やイタリアでの医療崩壊などがそうであるが、新卒者の就活も、その一つであろう。
就職予定先の企業から自宅待機を要請されて途方に暮れる、いつ卒業できるか分からない状態で就活を強いられる、経験者優先で新卒者は採用されない、といった記事の状況は、確実に日本にも訪れるであろう。「就活生への打撃はあまりにも大きい」わけで、身を引き締めて就活に臨む必要がある。もはや、昨年までの就活状況ではない。