2020年2月29日土曜日

2020年2月29日 日経朝刊28面 定年後のお金、3分法で使う 日常の生活費 年金で賄って

経済コラムニストの大江英樹氏による解説で、「資産管理には「資産3分法」や「財産3分法」という考え方があります。リスク分散のため一つの資産に集中せず、異なる複数の資産で持つべきであるとの考え方です。運用では「株式・債券・不動産」に分けたり、不動産の代わりに金を入れるのも一般的です。」というものである。
その上で、定年シニアが実践したい3分法」として、ご自身の経験をベースに、「(1)年金収入(2)定年後の勤労収入(3)定年までに蓄えた資産や退職金――の3つに区分し、異なる使途に充てるというものです。」を紹介している。特に、年金収入については、「公的年金は定年退職後の日常の生活費に充て、支出すべてを公的年金で賄えるようにコントロールします。」としており、「行き当たりばったりだと老後の生活プランが大きく狂いかねません。」と警告している。

「金を入れるのも一般的」とは思えないが、財産3分法は、現役時代の考え方としても、貯蓄・株式・不動産の3つにリスク分散する方がよいとされている。このアドバイスは、収入源についての3分法ということになる。
しかし、私自身の状況を考えても、公的年金で日常の生活費のすべてを賄うのは、難しいのではないか。実際のところは、なるべくそのように心がけながらも、不足分を私的年金(企業年金や個人年金)あるいは勤労収入や資産の取り崩しで賄っているケースが多いのではないかと思われる。
しかし、このような対応のうち、私的年金による補完対応が、今後は難しくなってくるものと思われる。企業年金における主力であった確定給付型の企業年金制度が減少してきており、退職金を年金として受給できる選択肢がなくなってきているからである。この減少の一方で、退職金の前払資金を個人が運用する確定拠出年金制度(企業型)への切り替えが増えているが、たとえ運用がそこそこうまくいったとしても、定年後に年金として受け取る途は、運用商品の一つである個人年金を購入するしかなく、実際には一時金で受給する人が大半である。この状況は、個人が老後に向けて自身の資金を託す確定拠出年金制度(個人型)においても同様である。
なお、これまでのシニア世代においては、確定給付型の企業年金制度での年金選択は一般的ではなかったが、それには理由があった。老後の安全・安心を図る上でも、住居の確保は重大な問題であり、持ち家を確保することが優先課題だったのである。それ故に、定年退職時において、退職金やそれが変じた企業年金の一時金受給により、住宅ローンの残金を返済するという用途が一般的だったのである。ところが、いざとなった時に売却して資金を得る持ち家の価値の方も、少子高齢化の進展で空き家が大きな社会問題となっているように、急減してきている。
そのような状況下において、年金を選択する退職者は少しづつ増えてきていた。ところが、そのことが、不透明な投資環境の中で、確定給付型の企業年金制度の側の負担を大きくすることになっていったのである。このような年金受給権者の増加が、企業が確定給付型企業年金から確定拠出年金に切り替える最大の要因であると思われる。
かくして、今後は、私的年金に頼りにくい状況になっていく。しかも、公的年金も、同じく少子高齢化の影響で、今後は縮減が避けられない状況にある。そうした状況変化に対しては、どのように対応すればよいのであろうか。
一つは、可能な限り、公的年金の受給を後倒し(年金用語では「繰下げ」)とすることである。繰下げにすれば、年金額は増額されることになる。その理由は、年金の受給期間が短くなるので、受給期待総額が変わらないように増額しても、基本的に年金財政には影響がないからである。この繰下げによる増額率は月あたり0.7%で、65歳からの受給を現在の最長可能年齢である70歳まで繰下げれば、年金額は42%増となる。しかも、それが死ぬまで続くのである。さらに、この最長年齢は75歳まで延長されようとしている。
もう一つは、やはり私的年金を年金として受給する選択肢を拡張することである。現在は、自営業者によっての国民年金基金からの年金受給と、会社員にとっての確定給付企業年金からの年金受給しかないが、後者は、前述したように制度自体が減少しつつある。企業にとっては、退職者の管理が何十年にもわたって必要となる確定給付企業年金の維持は、ますます困難な状況になっている。特に中小企業にとっては、事務管理の負担も大きいであろうし、退職者の視点からしても、一般的に経営基盤が脆弱な中小企業の制度に、虎の子の退職金を預けるのには二の足を踏むこともあるだろう。
このような観点から、私は、確定給付企業年金や確定拠出年金、さらには退職金の資金も受け入れて年金という権利に転換する、次のような「年金給付機構」(仮称)を、長年にわたって提唱している。
いずれにしても、寿命が延びた次の世代は、長く働くことが必要になってくる。その就労の後の老後の所得保障をきっちりと支える必要があることは、これまでと変わるものではない。その点を見据えた私的年金の再構築は、喫緊の課題であろう。
2020年2月29日 日経朝刊17面 (大機小機)新型コロナ、リーマン級だが一過性

「大機小機」の方は、「新型コロナウイルスによる感染症の拡大は日本経済に大きな影を投げかけている(以下これをコロナショックと呼ぶ)。今後、2020年1~3月期の経済の実態が明らかになるにつれて、このコロナショックの深刻な全体像が見えてくるはずだ。」との論説である。
「ショックが日本経済に影響を及ぼす主なルートは次の3つ」として、①サービス輸出(外国人観光客の消費)の減少、②財の輸出の減少、③不要不急の外出が控えられることによる経済活動の萎縮、をあげている。
そして、「コロナショックの衝撃はリーマン・ショック並みとなりそう」だが、「リーマン・ショック級の影響が出るが一過性」というのが、今回のコロナショックの特徴だとしている。
その上で、「今こそ本物の緊急経済対策の出番」とし、「信用保証などで短期的な売り上げの落ち込みが雇用や経営に影響しないように配慮すべきだろう。」と結んでいる。

コロナショックの影響は、広範にわたっており、「リーマン・ショック」になぞらえる議論が多くなっているが、果して、「リーマン・ショック並み」の規模で、「一過性」ということに収まるのだろうか。そもそも、ここでいう「一過性」の意味が、よく分からない。例えば、「リーマン・ショック」は一過性だったとしているのだろうか。東日本大震災ですら、また発生する可能性が少ないということなら、「一過性」になり得る。
影響が長く広範に続くかどうかという点でいうと、コロナショックは、リーマン・ショックの比ではないのではないか。リーマン・ショックは、突き詰めればカネの問題であり、世界中でカネ不足が起きたことによって、金融機関や企業の活動に制約が生じて、経済活動の停滞をもたらした。コロナショックでも世界的な株価の暴落によって、その様相を呈しているが、さらに深刻だろうと思うのは、ヒトの活動にも大きな制約や影響を及ぼしていることである。上記③の外出抑制による消費レベルにとどまらず、生産現場などの供給レベルにも、大きな影響を及ぼしている。
このコロナショックの震源地が中国であったことは、世界経済を牽引してきたとされる中国の社会・経済体制の脆弱性を浮き彫りにしたといえるであろう。中国からの観光客に依存し、中国での生産に依存してきた日本にとって、その影響は、世界中のどの国よりも大きいのではないか。国内での感染蔓延を抑止するためには、早期に中国からの入国を抑制すべきであったと思うが、そうしなかった(今も全面的にはしていない)のには、こうした依存性があったのであろう。結果として、同じく入国規制を行わなかった韓国では感染者が急増しており、検査体制が整わずに十分な感染検査すら行えていない日本では、感染者数の実態把握すら行えていない。
「一旦感染が収まれば、V字回復になるはず」と記事はしている。どのような事態においても、収束すれば、それまでの抑制が解除され、回復することにはなる。しかし、東日本大震災に見られるように、回復したとしても、惨事の傷跡は長く残り得る。未来志向は大事だが、惨事と向き合って様々な対応を行うことは、それ以上に大事であろう。雇用や経営への影響が短期的な「一過性」で済むようには、私には思えない。