2020年3月10日火曜日

2020年3月10日 日経夕刊1面 パナソニック、年金増額で代替 春季交渉、ベア圧縮検討
2020年3月11日 日経夕刊1面 トヨタ、7年ぶりベアゼロ 春季交渉 賃上げ縮小相次ぐ
2020年3月12日 朝日朝刊1面 トヨタ、7年ぶりベアゼロ
2020年3月12日 朝日朝刊8面 トヨタ労組、外れた思惑 寄り添った要求・集会中止、でもベアゼロ
2020年3月12日 朝日朝刊3面 春闘、ベア見送り続々 賃上げ率「2%割れ」も
2020年3月12日 日経朝刊1面 主要企業、賃上げ慎重 トヨタ・日本製鉄、ベアゼロ回答 春季交渉
2020年3月12日 日経朝刊3面 縮む賃金 競争力に影響も 春季交渉、一律ベア限界
2020年3月12日 日経朝刊2面 (社説)賃上げを再起動するときだ

最初の10日付日経夕刊の記事は、11日に大企業の集中回答日を迎える春闘についてのもので、「パナソニックは2020年の春季労使交渉で、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善を、年金の増額で代替する方向であることが10日、明らかになった。実質的な賃上げとし、ベアを圧縮する狙いがある。」というものである。
「電機各社はこれまでベアによる基本給の底上げで統一し、一律の金額で交渉してきた。」が、「電機の賃金改善のスタイルが変わる可能性がある。」としている。
内容としては、「従業員が運用する企業型の確定拠出年金(DC)について、会社側が支出する掛け金を増やす方向で労組側と調整に入った。企業型DCは従業員が公社債や株式など投資方法を選び、年金運用する制度だ。改善額は1000円が軸。会社側はかねて「人への投資」の多様化を労組に働きかけていた。基本給の底上げより総額の人件費負担を抑えられる利点もある。」としているが、「労組側は「現在の不安解消も重要」との姿勢だ。あくまでベアによる基本給の底上げを求めており、交渉の決着までは曲折がありそうだ。」というものである。「ベア離れの背景にあるのは先行きの不透明感だ。中国経済の減速などで2020年3月期の最終利益は前期比3割減と予想し、新型コロナウイルスの影響で下振れする可能性もある。」と結んでいる。

次の11日付日経夕刊の記事は、「2020年の春季労使交渉は11日に集中回答日を迎え、賃上げ額の大幅な縮小が相次いだ。」ことの速報で、「トヨタ自動車は基本給を底上げするベースアップ(ベア)について13年以来、7年ぶりに見送ると回答した。日本製鉄など鉄鋼大手もベアゼロとなった。グローバル化やデジタル化に伴う競争激化に加え、米中貿易戦争などによる景気悪化を受け、会社側の強い危機感が反映されるかたちとなった。」としている。
春闘のリード役とされる「トヨタの会社側は11日午前、愛知県豊田市の本社で労働組合に対して回答した。トヨタはこれまでベアについて、金額を非公表としながらも、原資を確保して配分してきた。20年の交渉では、評価によってベアに一段の差をつける配分方法を労使で検討していた。だが、会社側は一律色の強いベアそのものをゼロにすることに踏み込んだ。」とのことである。河合満副社長は「これ以上、賃金を引き上げるのは競争力を失うことにつながりかねない」と発言していたそうである。
また、日産自動車も前年実績より低い解答である他、「賃上げ見直しの流れは幅広い産業に広がった。目立ったのが鉄鋼で、日本製鉄はベア相当の賃金改善を見送ると発表した。」とのことであり、電機連合傘下のパナソニックは「ベアと確定拠出年金の掛け金増加分をそれぞれ500円出すかたちとなった。」とのことである。「各産業の交渉で、消費税増税、新型コロナウイルスの感染拡大などによる先行き不透明感から経営側が賃上げに慎重になっている。」と結んでいる。

3番目から、11日の春闘についての大企業の集中回答状況に関する12日付の記事が続く。
まず、朝日朝刊1面では、「トヨタ自動車や鉄鋼大手3社が基本給を底上げするベースアップ(ベア)をいずれも7年ぶりに見送るなど、前年実績を下回る回答が相次いだ。米中貿易摩擦の長期化に新型コロナウイルスの感染拡大が加わり、世界経済が見通せないことが響いた。」としている。
「トヨタ自動車は、賃上げ額のうちベアをゼロとする回答を出した。」「自動車大手ではマツダも7年ぶりのベアゼロ回答だった。」「2年に1度交渉する方式をとる鉄鋼業界も、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の大手3社が労組の求める月3千円のベアを見送ることで足並みをそろえた。」としている。

続く3面の記事は、回答状況を少し詳しく述べたもので、「大企業のベアと定期昇給を合わせた賃上げ率は前年まで6年連続で2%を上回ってきたが、「2%割れ」の可能性が出てきた。」としている。
長年、相場の先導役とされてきたトヨタ自動車については、「7年ぶりにベアゼロの回答を出した。河合満副社長は記者会見で「激しい競争や厳しい経営環境のなか、いかに雇用と処遇を守るかという観点で悩んだ結果だ」と説明した。新型コロナウイルスの感染拡大や中国市場の動向は回答に織り込んでいないとしている。」と報じている。「自動車業界では、マツダもベアゼロの回答。ホンダはベアが前年実績を下回る500円の回答だった。三菱自動車、スズキもベアやベア相当額が前年実績を割り込んだ。」としている。
また、「産別組織・電機連合が回答のばらつきを容認した電機業界も振るわない。経団連会長を出す日立製作所が前年実績を上回るベア1500円を回答したものの、1千円の回答が多かった。」とし、「東芝は前年実績と同じ1千円に加え、福利厚生施設で使えるポイントを月300円相当つけた。パナソニックとNECは、1千円の内訳に企業型の確定拠出年金(DC)の掛け金増額分や福利厚生ポイントを含めており、純粋なベア額はこれを下回る。」そうである。
一方、組合側の反応については、電機や自動車など製造業大手の労組でつくる金属労協の高倉明議長が「国内外の経済が日に日に悪化する中、交渉は最後までもつれた」と語ったことに触れ、「米中貿易摩擦で業績が悪化した企業が多いうえ、英国の欧州連合(EU)離脱に加え、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が追い打ちとなり、世界経済の先行きは急速に不透明感を増している。経営側は将来にわたって人件費を膨らませるベアに消極的になった。」としている。また、「金属労協傘下の56組合のうち、賃上げを獲得したのは38組合にとどまり、前年と比較可能な組合の平均引き上げ額は前年実績を101円下回った。一時金を獲得した26組合のうち18組合が前年実績を下回った。」としている。
この状況に対し、日本総合研究所の山田久・主席研究員は「『ゼロ回答』の続出も心配したが、各社の回答をみると踏ん張ったところもある。賃上げの流れはかろうじて維持されている印象だ」と語ったそうである。
その上で、記事は今後の展望に移り、「交渉のヤマ場は非製造業や中小企業に移るが、新型コロナウイルスの影響がより大きく回答に反映される可能性がある。厚生労働省がまとめる大企業の平均賃上げ率は、前年実績が定期昇給を含めて2・18%。6年連続で2%台を維持していたが、今回は前年を下回りそうだ。」とし、「安倍政権は大規模な金融緩和による円安で企業業績を上向かせ、それを賃上げにつなげて消費を拡大させる「好循環」を掲げ、14年春闘から経済界に賃上げを求める「官製春闘」を主導した。だが、昨年から政権の賃上げ圧力が弱まるにつれ、経営側のベアへのこだわりも後退した。」としている。
そして、「一方で安倍政権のもとで賃金水準が低い非正規雇用者が増加。働き手の4割近くを非正規が占めた結果、正社員の賃金を上げても働き手全体の平均賃金は伸び悩み、19年の名目賃金は6年ぶりに前年を下回った。景気の腰折れ懸念が強まるなか、政権が描いた「好循環」はさらに遠のいた。」と結んでいる。

続く8面の記事では、「トヨタ自動車の今春闘の労使交渉は、異例の展開が相次いだ。」とし、「回答日の朝までもつれたトヨタの労使交渉。ベースアップ(ベア)を含む賃上げを要求したトヨタ労組の西野勝義委員長は11日の記者会見で、最後までベアにこだわったと強調した。」としている。
まず、「トヨタ労組が2月に出した要求内容がそもそも異例だった。ベアの金額について、各社員の評価に応じてつける差を、より広げるという提案が盛り込まれた。横並びの一律的な賃上げを和らげる狙い。経営側に寄り添うものともいえた。」もので、「労使の対立色を薄める」ために「今春闘では交渉終盤の3月上旬、数千人の社員が気勢をあげる毎年恒例の大集会も中止」したとしているが、「それでも、労組が最もこだわった「ベア」の要求は通らなかった」としている。
一方、「ベアゼロの公表も異例」で、「2018年の春闘以来、経営側はベア額を非公表にしている。しかし、トヨタが自社で運営するウェブメディア「トヨタイムズ」は11日、「賃金制度改善(ベア)分は含めていない」と公表した。「ベアの有無は毎年公表している」(経営側)のが理由だった。」としている。これに対し、労組の西野委員長は「(中小企業などに)影響してしまうのでは」と懸念を示したが、公表自体は「隠せるものでもない」と容認した、としている。

一方、日経1面の方では、同じく集中回答の状況について、「トヨタ自動車は基本給を底上げするベースアップ(ベア)について13年以来、7年ぶりに見送ると回答した。日本製鉄など鉄鋼大手もベアゼロとするほか、電機大手でもベアの伸びは鈍い。グローバルでの競争激化に米中貿易戦争や新型コロナウイルスの問題も加わり、賃上げに慎重な企業が目立つ。」とじ、「経団連の中西宏明会長は同日、記者団に「経済情勢が不透明ななか(賃上げで)従業員に報おうという姿勢は全体として感じられた」と述べた」としている。

また、3面では、「右肩上がりの時代には社員の意欲を向上させる効果も大きかった一律ベアだが、その役割を終えつつある。グローバル化とデジタル化が急速に進む時代。日本企業に求められているのは実力本位の処遇で生産性を引き上げ、イノベーションを通じて賃金を上げる好循環だ。」としている。
トヨタ自動車は、「これからを考えれば、高い水準にある賃金を上げ続けることは、競争力を失うことになる」とし、「会社側はベアは出さないものの賃金内の定期昇給分について、社員個々人の評価に応じて差をつける割合の拡大を検討する。今の賃金制度の枠組みを維持しつつ、かつ時代に見合った優秀な人に報いるための苦肉の策が今回のベアゼロ回答だった。」としている。
そして、「ベアから距離を置く企業はトヨタにとどまらない。マツダもベア相当の賃上げを見送ると回答した。代わりに組合員1人当たり月1500円相当分の自己啓発や働き方改革などを目的とした特別の基金をつくる。パナソニックはベア以外に企業型の確定拠出年金の拠出額増をあわせることで「賃金」増とし、従業員に報いた。」としている。
また、「電機大手の中で最高のベア1500円と回答した日立製作所も問題意識は同じだ」とし、「日立労使が今春の協議で時間を割いたのは個々の社員の職務を明確にし、専門能力に応じて処遇する「ジョブ型」雇用の議論だ。同制度に見合った人材を内外から募るため、職務に必要な能力を細かに記載した「職務記述書」(ジョブディスクリプション)など新たな制度を4月に導入する。日立幹部は「近い将来、職種や職務によって報酬体系が異なり、一律ベアの意味は無くなる」と語った、としている。
背景には、「日本生産性本部のデータでは、日本の1人あたりの労働生産性は米国の6割。米調査会社ギャラップによると、日本の「熱意あふれる社員」の割合は6%にとどまり、139カ国中132位と最低ランクにある。」という状況がある。「14年以降、政府は「官製春闘」の形で企業に賃上げを促してきたが、生産性や競争力は今なお高まっていない。年功制を基本に一律で賃金を上げるやり方は、経済全体が右肩上がりで成長する時代には社員のやる気向上にもつながった。相次ぐベアゼロはこうした日本型雇用が転換点を迎えたことを示している。」と記事はしている。
一方、「急変する競争環境を見据え2020年の春季労使交渉で経営側がベアゼロなどの厳しい回答を出したことで、個人消費を冷やす懸念がある。14年から6年連続で2%を超えてきた賃上げ率は、今春は「2%台を割り込みそうだ」(日本総合研究所の山田久副理事長)との見方も出ている。」とし、「米中摩擦や消費増税の影響で減速した日本経済は、新型コロナウイルスの影響でさらに下振れする恐れがある。景気下支えには個人消費の活性化が欠かせないが、鈍い賃上げが妨げになりかねない。」としている。第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストの「今後の景気次第では雇用への悪影響も考えられる」とのコメントも掲載されている。
「大手が軒並み賃上げに慎重となるなか、焦点になりそうなのが交渉が続いている中小企業だ」とし、機械・金属関連の中小メーカーを中心に構成するものづくり産業労働組合(JAM)の安河内賢弘会長の「今のところ中小の労組の賃上げは健闘している」「大手に比べ景気の影響が遅れて出る面もあり、先行きに不透明感はある」との話を掲載している。

以上を踏まえた2面の社説では、「なぜ賃金の上昇が低調で、経済を活性化できないでいるのか。政府、経営者、労働組合の3者それぞれが、原因と向き合い、賃上げを再起動する必要がある。」としている。
「米中貿易摩擦による企業収益の減速や新型コロナウイルス問題が、経営者を賃上げに慎重にさせたのはやむを得ない面があろう。」が、「環境変化に翻弄されず、賃金を伸ばしていける基盤づくりを企業は目指さなければならない。」というものである。
そして、「まず問題なのは日本企業が資金を持て余していること」とし、「経営者は自社の強みを生かす明確な成長戦略を描き、付加価値の高い事業の創造に向けて積極的に投資する必要がある。」としている。
一方、「人工知能(AI)関連や医療など成長分野で企業の事業機会を増やすため、政府は規制改革を強力に進めるべきだ。社会保険料の増加が賃上げを抑えている面もあり、社会保障改革も重要だ。」としている。
そして、「同じ業界でも企業の事業は違いが大きくなっており、労組が同じ時期に一斉に賃上げを要求して経営側に圧力をかける方式の効果には限界がある。生産性を高めて賃金を上げるという視点が要る。」とし、「デジタル化が進むなかで企業が成長するには成果重視の処遇制度が欠かせない。賃金制度改革に労組も積極的になるべきである。」と結んでいる。

上記の記事にあるように、日本での賃金交渉のシステムは、変革を迫られているようである。では、どのような形に向かっていくのであろうか。それを考察するたけには、諸外国の状況を調べることが有効であろう。
https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/16578/031001090001.pdf
上記の『日本の賃金改革と労使関係』は、2014年に同志社大学社会学部の石田光男教授が書かれたものである。「図1 世界と日本の雇用労働改革」に「先進諸外国の賃金決定の仕組み」が示されているが、それによると、日本の賃金の国際的に見たときの特徴は、①企業レベルでの交渉が基軸という意味で著しく分権的、②個々人の働き方が評価されるのが当然という意味で著しく個別的、とされている。そして、図示されている英米・ドイツ・スウェーデンでは、1980 年代から2000 年代にかけて分権化と個別化が進んだが、日
本は首尾一貫してこれ以上分権化も個別化もあり得ない極北に位置、とされている。
https://www.jil.go.jp/institute/discussion/documents/dps_04_011.pdf
もう一つ、上記の論文『諸外国の集団的労働条件決定システム』は、大分古い2004年に独立行政法人労働政策研究・研修機構の池添弘邦研究員によって書かれたものである。取り上げているのは、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカの4か国であるが、 労働条件決定の主たるアクターが、独仏では産別組織、英米では事業所内労使と分析し、各国において、法は労使関係をその枠組みないしは手続きの面から規整しサポート、としている。その上で、比較検討から導出されうる私見として、日本における集団的労使関係法制の再考論点につき、団体交渉ルートの整理・統合の検討、協約・協定の有利原則の積極的肯定、労使協議制・従業員代表制の必要性の検討、を挙げている。なお、有利原則とは、「労働協約に定められた労働条件よりも有利な内容を定める個別の労働契約の効力を認めること」としている。
上記のうちでは、ドイツが少し参考になるかもしれない。「集団的労働条件は、産別交渉によって締結される労働協約により実現される。労働協約は、一般的に、賃金体系と格付けを決定する賃金基本協約、賃金額を定める賃金協約、それら以外の労働条件を定める一般協約で構成される。業種によっては全国協約もあるが、地域協約もある。他方、企業協約は少ない。」とし、「実際的にも法的にも、協約規制は最低労働条件としての意味を持つ。このことから、ドイツにおいては、労働協約の有利原則が肯定されている。」とのことである。
これらの比較から見ると、日本が直接的に参考にできる国は見当たらない。分権的・個別的という点で、日本は極端であり、最低労働条件という位置づけの協約もないので、正社員に比しての非正規の待遇格差が大きな問題となり得るわけである。ついでに言えば、年功序列を背景とする昇給分と生活改善分のべース・アップという区分はなく、後者は、職務給が採用されている欧米には存在しない概念である。
上記記事の最後にある「成果重視の処遇制度」であるが、各国との比較で考えると、日本の賃金システムの方が、個別性が高い。なればこそ、企業内組合主体の賃金交渉では、一律的な昇給のしばりをかけて、個々人での格差拡大を抑止しているのではないか。もし、その個々人での格差拡大を容認せざるを得ないのであれば、ドイツのように、産別組合主体での最低労働条件の設定に切り替える必要があるように思われる。一方で、そのように転換した場合、企業内組合の意義や役割は大きく低下し、経営側が享受してきた「労使協調」という名の馴れ合いも変化を迫られる。「成果重視の処遇制度」に突き進むなら、そこまでの覚悟が経営側にも必要になるであろう。
2020年3月10日 日経朝刊9面 マイナス金利 回避に限界 メガ銀襲う預金の大波 大口法人に負担転嫁も

この記事は、「日銀のマイナス金利政策が新たな局面を迎えている。これまでマイナス金利の適用を免れてきたメガバンクが、いよいよ適用条件に抵触する公算が大きくなってきた。超低金利で行き場を失ったマネーが大量に預金に流れ込んでいることが背景にある。メガバンクへのマイナス金利の適用は、負担を大口の法人預金に転嫁する導火線になるかもしれない。」というものである。
そもそも、「日銀のマイナス金利政策は、銀行が日銀に預けている当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を課すというもの。余ったお金を日銀に積んでおけば自動的に金利収入が得られる仕組みを改め、投融資に振り向けさせることでお金を回りやすくするのが狙いだ。」というもので、日銀の当座預金は、(1)0.1%の金利の基礎礎残高、(2)金利ゼロ%のマクロ加算残高(所要準備額と貸出増加支援制度での借入金額)、(3)マイナス0.1%の金利を適用する政策金利残高((1)と(2)を上回るもの)の3階層に分かれており、(3)が日銀の政策金利で、利下げはマイナス金利の深掘りを意味する、ということになっている。
対して、「メガバンクは導入当初の16年3月には(3)のマイナス0.1%の適用残高が2兆円を超えていたが、同5月の10億円を最後に適用残高はゼロが続く。余剰資金を日銀に積まず、運用や海外での融資などに振り向ける工夫をしてきたためだ。」という。
一方で、「マイナス金利を許容しているのが信託銀行や外国銀行だ。20年1月時点で信託銀行のマイナス金利適用残高は9兆4580億円、外国銀行も6兆6380億円に上る。単純にマイナス0.1%をかけると信託銀行の負担は94億円になる。」とのことであるが、「最終的に国民が負担しているということだ」(ある日銀幹部)ということになる。
それは、「信託銀行は公的年金や企業年金などの運用を受託している」からで、「マイナス金利導入前、金融機関が日々の資金をやり取りする銀行間取引市場は、信託銀行にとって待機資金の運用先だった」が、「こうした取引の金利もマイナス圏に沈没。年金の原資を高リスクの投資に振り向けるわけにもいかず、待機資金が日銀の当座預金に積み上がっている。」ということで、「信託銀行はマイナス金利の適用に伴う負担を顧客である公的年金や年金基金などに求めている。年金の受け手は国民であり、突きつめれば国民がマイナス金利を負担しているというわけだ。」ということである。
一方のメガバンクの方も、「今年半ばにもマイナス金利の適用を避けられなくなりそうだ」ということだが、それは、「海外での買収資金くらいしか資金需要がない」(メガバンク幹部)ことによるそうである。「マイナス金利が適用されれば、信託銀行と同じように顧客への転嫁論も現実味を帯びる」ことになるが、「マイナス金利をかけたり、管理手数料を取ったりするとしても一律ではない」(メガバンク幹部)ということになるようである。
そんな中、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う金融市場の動揺を抑えるため、米連邦準備理事会(FRB)は3日に緊急利下げを実施した。日銀は現時点では「潤沢な資金供給」(黒田東彦総裁)を前面に打ち出し、既存の枠内での対策を柱にすえるが、9日の円相場は一時1ドル=101円台に突入した。円高抑止のためのマイナス金利の深掘りも視野に入ってくる。」わけであるが、「苦境に陥る企業の資金繰り支援に汗をかいてほしいときに、後ろから撃つようなことはしにくい」(日銀幹部)という状況である。
「マイナス金利の深掘りで銀行経営が厳しくなれば、企業を支える本来の役割にも影響が出かねない。」が、「メガバンクに迫るマイナス金利の足音は、導入から4年たったマイナス金利政策の狙いが円高対策に偏り、当初の目的を達成できていないことを映している。」と記事は結んでいる。

マイナス金利について、日銀が作成した資料は、次の通りである。
https://www.boj.or.jp/announcements/education/exp/data/exp01.pdf
これは、2016年3⽉に発表された資料であるが、目標としたインフレは達成できていない。また、「⽇本の会社は、全体でみると、史上最⾼の収益になっていて、経済は良い⽅
向に向かっています。それに、この政策はとても強⼒です。いずれ『プラス』の効果がはっきり出てきて、明るくなってくると思います。」 としていたが、そうなってはおらず、さらに「マイナス金利の深掘り」ということになれば、その影響は甚大であろう。
また、「⽇本の⾦融機関は、リーマンショックでも傷ついていないし、とても健全です。去年もたくさん収益を上げています。⽇銀の預⾦でもマイナス⾦利にするのは⼀部だけにして、あまり銀⾏が困らないようにしました。」 としているが、コロナ・ショックで貸出需要は大きく減るであろうし、預金金利を実質マイナスにしたり、手数料を引き上げたりする動きも目に付くようになっている。金利を引き上げる状況にはないものの、マイナス金利となっている中での金融政策には限界があり、日本は今、にっちもさっちもいかない状況になっているのではないかと思われる。
2020年3月10日 朝日朝刊9面 「追い出し部屋」法廷闘争へ 東芝子会社を提訴 原告「らちあかず」
2020年3月10日 朝日朝刊33面 配属の無効求め提訴 東芝系社員「追い出し部屋」

最初の記事は、「東芝の主要子会社に社員から「追い出し部屋」と呼ばれる部署がつくられた問題が、法廷で争われることになった。」というものである。「背景にあるのは、景気が不透明さを増すなか、前倒しで人員削減を進める企業の動きの広がりだ。希望退職を募った上場企業は2019年に判明しただけで36社。かつて厳しい批判を浴びた追い出し部屋のような例は表面化していないが、募集人数は6年ぶりに1万人を超えた。」としている。
この提訴は、「東芝に入社後、IT技術者としておもに原発関連のシステム開発を担当」していた原告が、分社化された会社で「45歳以上を対象に昨年3月末での希望退職を募ると、環境が一変する。上司との面談で「あなたの職場がなくなる」などと応募を促され、拒み続けたら、業務センターに異動になった。」ことに端を発し、「スキルやキャリアがまったく生かせない仕事に回された。会社に抗議したが、誠意ある回答が返ってこない。提訴しないとらちがあかなくなった」というものである。代理人の弁護士は「辞めてもらえなかったから追い出し部屋に行かせて、重労働をさせた。一連の行為に違法性があるかがポイントだ」と指摘しているそうである。
記事の解説では、希望退職で「目立つのは、業績が堅調にもかかわらず実施する「黒字リストラ」だ。…売上高が伸びない中でも人件費を減らすことで、利益を確保しようという経営戦略だ。」とし、「ほとんどの実施企業が、退職金を積み増したり次の就職先を支援したりして、あくまで「自主的な退職」という形をとる。」が、「実際には指名解雇のようなやり方も少なくない」(電機・情報ユニオンの森英一書記長)との指摘もあるとしている。
最後は、「新型コロナウイルスの感染拡大で景気が一段と冷え込めば、リストラに踏み切る企業がさらに増え、雇用をめぐるトラブルも増える可能性がある。」と締めくくっている。

次の記事は、同じ朝刊の別面で、この訴訟の要点をまとめたもので、「会社側が「不当な動機・目的」などで異動を命じることは、人事権の乱用で違法になり得る。」が、原告は「異動の必要性や人選の基準について詳しい説明を受けていないという。東芝は「訴状が手元に届いていないので、コメントはできない」(広報)としている。」という状況を報じている。

「追い出し部屋」とは、何とも禍々しい心のざわつく言葉である。これが社会問題となった状況や、その実態の一例については、次などを参照されたい。
https://roudou-pro.com/columns/56/
https://toyokeizai.net/articles/-/272177
一言でいえば、これは、会社によるイジメである。正社員については、雇用慣行としても解雇が制限されており、会社の事業継続を図るために従業員を解雇する整理解雇については、判例で、「①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③解雇する従業員選定の合理性 、④手続の相当性」の4条件が必要であることが確定している。詳しくは、次を参照されたい。
https://roudou-pro.com/columns/103/
しかし、会社としては、年功序列で賃金のかさむ中高年の社員を減らしたいわけで、そのために「希望」退職を募るわけである。そして、これに応じなければ、人事権を行使して、単調であったり不毛であったりする仕事を割り当てて、本人が嫌気を出して辞めるように仕向けるのである。「追い出し部屋」は、そのような社員を集めた所である。なお、希望退職拒否ばかりでなく、転勤拒否の社員に対しても、同じ仕打ちが行われかねない。また、こうした人に同情的な同僚に対しても、不利益が発生しうる。すなわち、ある理由でイジメが始まると、それはエスカレートしていき、周りは巻き込まれるのを恐れてシカトするようになり、孤立無援の中で疲弊して、集団からの離脱や、悲惨な場合には、自殺にまで至るということが、会社の中でも起こり得るわけである。
このイジメのために会社が有しているツールが、仕事を割り当てる権利たる人事権である。これが良い方向に作用すれば、不採算の部門を閉鎖した余剰人員を他部門に配置転換して雇用を守る、ということになるわけで、1970年代半ばのオイルショックの時などは、そのような日本的経営だからこそ、危機を乗り切れたという評価があった。
ところが、悪い方向に作用すると、辞めさせたい社員に、重要性が乏しく、中には全く意味のない仕事を割り当てて、その社員の意欲と能力を奪うわけである。この手法は、「追い出し部屋」だけでなく、意味のある仕事を与えない「窓際族」を生み出すことにもつながっていた。「窓際族」は、まだ体面を保てるが居心地を悪くさせるものであったが、企業には、その余裕がなくなり、「追い出し部屋」に移ったわけである。
見方によっては、給与が確保されるのなら、それでも良いと思われるかもしれない。だが、会社は甘くない。そういう精神的に強いというか鈍い人には、根をあげるような単純重労働の肉体作業が待っている。精神的に弱いというか普通の人は、無価値な仕事をさせられて、会社にも社会にも必要とされていないという疎外感に追い込まれるわけである。
イジメが犯罪なら、「追い出し部屋」も犯罪だろう。だが、上記に述べたように、会社には人事権があり、違法性を追求するには困難がある。また、社内の労働組合は、人事権の容認と引き換えに雇用保障を得ていることから、この問題では全く当てにならない。被害者が、多くのケースで社外の労働組合などの支援を受けているのには、そのような事情がある。
では、どうすればいいのだろうか。まず、会社は、自分を守ってくれているのではなく、利用しているのだという認識を、しっかり持つ必要があるだろう。この認識の元に、自分も会社を利用してやろうという気持ちが必要である。それで、対等ということになる。ただし、利用の仕方は、自分の状況により異なる。
まず、自分が新卒入社である場合、とにかく必死に仕事を覚えることである。大学などで多少知識を得ていても、実際の仕事では、おいそれと活用できるものではない。仕事には、それなりのコツがあるから、それを懸命に身に着けるべきなのである。この期間は、3年から5年くらいとすべきであろう。身に着けた技能を発揮して会社に貢献できる相思相愛とも言える期間と合算すると、5年から10年というところであろう。居心地が良ければ、そのまま会社に残ってもよいが、さらなる飛躍を望むのであれば、卒業して次の段階に進むべきである。残った場合には、会社にとっての自分の利用価値が、以降は次第に落ちていくことをキチンと認識していくべきである。年功序列は崩れていくから、給与がどんどん上がっていくことも期待薄であろう。
卒業する場合には、自分の技能や能力を高く評価してくれる会社に転職することになるだろう。自信があれば起業してもよいと思うが、そちらに向かうには、経営のセンスと覚悟が不可欠である。この転職後の期間は、一応、5年から10年くらいがメドになると思うが、会社との相性が良ければ、もっと長く勤めてもよいだろう。なお、相性が合わないと思う場合には、さっさと別の転職先を探す方がよい。「包丁一本さらしに巻いて」の気概が必要となる時期である。
最後に、高齢期になった場合である。それまで、1社ないし2社程度で会社生活を過ごしてきた場合には、自分にも会社にも、相互依存性が染みついている可能性がある。そのマンネリが力を奪うのである。この時期には、新たな技能を身につけるのは難しいし、身に着けても活用できる期間は少ない。それよりも貢献が可能なのは、会社の中であれ外であれ、身に着けた技能を後進に伝えることであろう。自分が主役ではなく、サポーターとして活躍することが望ましい時期である。もちろん、気力も能力もある人は、起業するのもいいし、フリーランスとして仕事を請け負ってもよい。いずれにしろ、この時期は、それまでの職業生活の集大成の時期である。
以上、ざっと私なりのイメージを述べたが、人生の進むべき道を決めるのは、貴方自身である。かけがえのない貴方の人生は、貴方のものなのだから。
2020年3月10日 日経夕刊2面 ●就活のリアル 説明会や面接ウェブ化 時間に余裕しっかり企業研究

ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による就活実務編の解説である。「新型コロナウイルス対策の影響は社会全体に強烈なインパクトを与えている」中で、「3月1日の就活情報の解禁日に説明会の予定がビッシリ入っていたのに、急にすべてが中止となり戸惑っています」と、「就活生から困惑の相談が押し寄せている」とし、「小中高等学校の休校に倣って登校を禁じている大学もあり、学生は孤立無援状態だ。」としている。
これに対し、「この事態が就活業界に歴史的な大転換をもたらす予感もある。ウェブ化である。説明会はウェブ配信になり、面接はウェブ面接へと、非対面にとって代わられそうな勢いを感じる。もちろんここ数年、その流れはあったのだが、ここまでドラスチックな変革は予想できなかった。」としている。
「混乱しているのは学生だけでなく会社側も同じである。」し、「ウェブ説明会は一方通行で質問できないことが一番の心配である」としているものの、「ウェブ化はマイナス面だけではない。プラス面を探してみるならば、一番大きな点は面接に行く移動の時間と費用がかからないことだ。就活にかかる費用のトップは交通費である。特に地方在住の学生には朗報である。」としている。
そして、「経済面と時間の余裕を見込むことができる」ので、「今やるべきことは何か。しっかりと企業研究を進めることだ。」とし、「じっくり企業のホームページを読んでウェブ説明会に参加し、エントリーシートを出すことだ。」と言し、todoリストに「加えることがあるとすればウェブ面接の練習くらいだ。企業も学生もお互い試行錯誤の解禁日となった。しっかり乗り切りたい。」と結んでいる。

実務編なら、まず、最も重要な事を記すべきではないか。それは、来年春に向けた就活は、これまでとは様変わりになり、リーマン・ショック後に訪れた就職氷河期の再来の先駆けになるリスクがあることである。すでに、経済活動の自粛に加え、株価も暴落して、大きな不安が渦巻いている。中小企業をはじめとする倒産は避けられず、経済情勢や企業環境は、様変わりの状況になる可能性が高い。「空前の人手不足」とされてきたが、今後は、「空前の仕事不足」になる可能性があることを、頭に叩き込んでおく必要があろう。
また、記事にもあるが、「特に地方在住の学生には朗報」とされるウェブ化は、一方で、東京都内の大学の学生の優位性を失わせる。来春に向けた就活には、心して臨む必要があると思われる。
記事での「todoリスト」は、この連載の以前の記事にかかるもので、当ブログでも論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200204NY02.html
上田氏は、付け加えるのは「ウェブ面接の練習くらい」としているが、上記のように就活の環境が激変しているのに、少々甘すぎるのではないか。
学生は、まずWEB面接について、できるだけ多くの情報を集めるべきである。「練習」だと、カメラ映りをよくしましょうとか、応対をハキハキしましょうとか、末節の話が出てくると思うが、そんなことよりも、まず仕組みをよく知る必要がある。ネット上にも様々な情報があると思うが、例えば、次のような知識が必要であると思う。
https://it-trend.jp/online_job_interview/article/612-0002
https://boxil.jp/mag/a5587/
これらは一例に過ぎないが、学生目線とは違うのが、お分かりだろうか。そう、これは導入する企業に向けたセールス資料である。「仕組み」を理解する上では、企業目線に立つ必要があり、企業側でのメリット・デメリットにも、目を向けられるわけである。
また、自分自身の情報を発信する努力も必要になるだろう。これについても、次のブログで言及している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200302AA27.html
可能なら、是非、この機会に自己紹介の動画をネットにあげてみて欲しい。学生が企業の情報を求めているのと同様に、企業も学生の情報を求めている。お互いのコミュニケーションが強化されれば、ミスマッチも少なくなるだろう。