2020年1月31日金曜日

2020年1月31日 日経朝刊27面 (私見卓見)日本も携帯番号での送金を
2020年1月25日 日経朝刊5面 スマホ決済、気づけば借金 若者に多重債務リスク
2020年1月25日 日経夕刊3面 NY市、現金お断りの店禁止へ 法案可決、低所得者に配慮

最初の「私見卓見」での論説は、麗沢大学の中島真志教授によるもので、「キャッシュレス化には実は2つの局面がある。店舗と消費者間の決済を指す「B2C決済」と、個人と個人の決済を指す「P2P決済」だ」とし、「社会全体でキャッシュレス化を進めるにはP2P決済も欠かせないが、日本では議論が抜け落ちている。」というものである。
教授は、海外で普及する「携帯番号送金」の仕組みに言及し、「最も成功しているのがスウェーデンの「スウィッシュ」で、国民の7割以上が利用するサービスだ」としている。そして、「裏で稼働しているのは既存の銀行間の決済システム(日本でいえば全銀システム
)」であるが、「日本では各行がバラバラにキャッシュレス決済を打ち出し、利用者は使い勝手が悪い。」ので、「銀行界が一丸となって「日本版スウィッシュ」を導入すべき」と結んでいる。

これに関連するのが、上記2番目の記事で、「多重債務者が再び増え始めている」ことの背景にあるのが「スマートフォンを使う買い物と簡単な借り入れの増加だ。キャッシュレス決済の普及もあり、個人が気づかないうちに多額の借金を抱えるリスクにさらされている。」というものである。
「スマホを使う新しいサービスは買い物と借り入れのハードルを下げる」ことになり、「キャッシュレス決済の普及でさらに広がる可能性が高い」ということである。これに対し、記事では、小野仁司弁護士は「貸金業のみが与信とは限らず、キャッシュレス決済を含めた若者の実態把握が必要だ」と話す、とし、また、ニッセイ基礎研究所の井上智紀氏は「借り入れに依存せざるを得ない世帯が増えている可能性がある」と指摘する、としている。

一方、3番目の記事は、ニューヨーク市が現金で支払いができない「キャッシュレス店舗」の禁止に乗り出した、というものである。「同市市議会が小売店や飲食店が現金による支払いを拒否し、クレジットカードなどに限ることを禁じる法案を賛成多数で可決」したのは、「クレジットカードを作れない低所得者層を保護する目的がある」とのことである。
法案提出の議員は、「カードを持つことができない有色人種の地域社会に差別的な効果をもたらす」と説明したそうである。「ニューヨーク市の調査によると、2019年時点で全世帯の11.2%が銀行口座を持たず、21.8%は口座はあるがローンの支払いなどに限られ、カードを十分に利用できない状態だった。」だそうである。

以上を踏まえて、キャッシュレスについて考えて見ると、日本の場合、海外に比較して現金での買い物などの比率が高いとされているが、それを支えているのが、全国津々浦々にあるATM網である。銀行はATMを減らしているが、ゆうちょのATMは各所にある上に、今では広く普及しているコンビニATMが利用できる。
キャッシュレスだろうと、利用する上では、預金残高の裏付けが必要である。それがなければ、キャッシングで借入となるのが注意すべき点で、金利が高う上に、キャッシュレスだと使い過ぎの歯止めがかかりにくい。クレジットカードのリボ払いなどは論外で、高利貸しと何ら変わるところはない。
現金での生活は、収入の範囲内での支出という身の丈の合ったものになるし、災害時にはキャッシュレス対応機器が停止することもあるので、現金の方が都合がよい。
それでもキャッシュレス化が進んでいるのは、「電子商取引(EC)のポイント目当てでクレジットカードを作り、スマホにひも付けてコンビニエンスストアなどでQRコード決済する。」という流れによる。極めつけは、昨年10月の消費税増税に合わせて導入されたキャッシュレス還元である。貴重な増収財源を使っての還元は、一体何を目的としているのか分かりにくいが、増税感の先送りであろう。その先には、マイナンバー還元も控えているという。
「私見卓見」での教授は、このようなキャッシュレスの負の側面には触れていない。紙面の制約もあろうし、主張がキャッシュレス推進の立場だからだろうが、受け手の読者としては、慎重に受け止める必要があるだろう。

もう一つ気になるのは、携帯番号という媒介手段である。実のところ、これが到るところに蔓延している。実感としては、若者にとっては、マイナンバーよりも普及していると思われるが、果して、その保護は十分なのだろうか。携帯といっても大方はスマホだろうが、それを紛失すると大事で、財布を落とした場合の比ではない。マイナンバーのセキュリティを気にする人は多いが、携帯番号のセキュリティ管理も、もっと強化する必要があるのではないか。社会問題となっている「振り込め詐欺」も、高齢者にスマホ決済が行き渡れば、スマホ送金に切り替わって、ますます摘発が難しくなるだろう。