2020年2月12日水曜日

2020年2月12日 日経夕刊6面 確定拠出年金の終わらせ方 換金予定なら事前にリスク減
2020年2月13日 日経夕刊7面 (投信番付)海外REIT型に資金流入 毎月分配、シニアに人気

最初の記事は、Q&Aスタイルで、50代の会社員「企業型の確定拠出年金に加入しています。60歳になったら運用してきた資金はどうすべきでしょうか。」という質問に、ファイナンシャルプランナーの高橋忠寛氏が答えるという体裁である。
回答の方は、「60歳になりすぐ使う予定があるなら、50代から徐々に預金などリスクの低い商品中心に切り替えましょう。換金するタイミングで急な相場変動が起き、想定した金額を受け取れないリスクを減らすためです。」という常識的なものである。
「しばらく手を付ける予定がないのであれば、株式中心のままの運用の継続を勧めます。最長で70歳まで非課税で運用できます。その後は一般の課税口座に移して運用するのも手です。」ともし、受給の仕方には、一時金と年金とがあるが、「現状では一時金受け取りを選ぶ人が大半です。」とし、「一時金で受け取った資金をきちんと管理することは安心した老後生活にとって不可欠です。」としている。

一方、後の記事は、「海外の不動産投資信託(REIT)に投資するファンドへ資金が戻りつつある。」というもので、「半年で最も資金が流入したのは「ダイワ・US-REIT・オープン(毎月決算型)Bコース(為替ヘッジなし)」の750億円強。同期間の騰落率は6.9%だった。毎月分配型は資金を取り崩しながら運用するシニア層中心に根強い人気がある。」としている。
毎月分配型でも、「普通分配金の割合を示す分配金健全度も改善し、元本を払い戻す特別分配金を支払うファンドは減っている。」とのことだが、「老後の備えなど将来に向けた長期の資産形成を考える場合、運用収益の一部を分配金として毎月支払う毎月分配型への投資は複利効果の恩恵を最大限に得られないので留意しておきたい。」と結んでいる。

毎月分配型の問題点については、下記のブログで指摘したところである。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200202NA02.html
「元本を払い戻す特別分配金」は論外で、それで運用手数料をとっているのは、悪質な詐欺行為に等しい。
なお、「為替ヘッジなし」の「海外の不動産投資信託(REIT)」の場合には、為替差損が先送りされる可能性がある。本来、為替変動が大きい商品が、「毎月分配」などという安定配当に向いているはずはない。購入者は、そのことを理解していないのではないか。

一方で、毎月分配型が「シニア層中心に根強い人気」なのは、日本で私的企業年金が行き詰まっている証左でもある。「現役期は確定拠出年金で運用」→「退職後は毎月分配型投信で受給」というパターンが定着してきているわけである。
そのことの何が問題なのか、という人もいるだろう。確定拠出年金制度が創設される前は、税制適格退職年金制度(適年)が広範に普及しており、現役期の運用は、一括して企業が責任を負っていた。適年が廃止された主因の一つは、「年金に結び付いていない」ということだったが、今の確定拠出年金も、年金に結び付いていないことは同じではないか。
この点は、社会保障審議会の企業年金・個人年金部会でも課題とされ、確定拠出年金で蓄積された資産を、企業年金連合会が実施している「通算企業年金」に移せるようにすることも課題とされたが、実現していない。確定拠出年金制度の中で年金給付を望む場合には、結局、個人年金商品を購入することになるが、割高であり、拠出終了後の税制優遇は、制度の管理手数料も取られて魅力が薄いので、一時金で流出しているわけである。
適年の廃止で、企業年金の加入者は、中小企業を中心に500万人減った。自己責任での運用を迫られる確定拠出年金への中小企業の移行は少なく、大企業でも、多くの加入者は、損失を恐れて元本確保型の運用を選択している。それでは老後資金の形成につながらないという大義名分の下で、加入者本人が投資商品を選択しない場合に、金融機関が手数料を稼げる投資信託を自動選択することも緩和された。
従業員・加入者の利益を重視する私的年金改革は、このところ行われておらず、公務員が税制優遇を享受できる個人型確定拠出年金(イデコ)への対象者拡大と加入期間延長が、このところの「企業年金・個人年金改革」の中核である。日本の私的年金は、少子高齢化の進展の中で、その期待される役割を果たせる方向に向かっているようには思えない。
2020年2月12日 日経夕刊6面 定年後の働き方とお金(中) 厚生年金、高収入で減額も

問答方式の記事で、「定年後も元気なうちはバリバリ働かないといけないと思ったんだけど、稼ぎすぎると年金が減らされてしまう」「会社員などが加入している厚生年金の月額と働いて得た給与などの月額の合計が一定の基準額を超えると、厚生年金が減ったり支給停止になったりする」という在職老齢年金を話題にしているものである。
「60代前半の基準額を28万円から47万円に引き上げる方針」や「65歳以降も働いて厚生年金の保険料を払う人について…毎年1回計算して年金額に反映する仕組みに変える」という「在職定時改定」が、法案として審議されることにも触れられている。
また、「年金の受給を遅らせるとお得」ということで、「働き続けていて年金収入に頼らなくていい人は、繰り下げて受給額を増やす手もある」「65歳時点の年金額を基準に受給を1カ月繰り下げるごとに0.7%増額する」として、繰り下げ支給の仕組みにも触れている。また、「年金の繰り下げをしたからといって在職老齢年金の基準額を気にしなくていいわけではない」とし、「減額された金額を基に将来の年金額が増額されるから」と注意点も明確である。
なお、この記事でのコメントで、社会保険労務士の森本幸人氏は、「最良の老後対策は夫婦で一年でも長く厚生年金に加入しながら働き、将来の年金額を増やすことでしょう」としつつ、「フリーランスで収入を増やしたりするのも手」とし、「働き長生きに備えるか、家族で話し合うことが重要です。」と結んでいる。

バランスの良い記事で、読者に親しみやすい問答形式で、この問題についての、ほとんどすべての事項に触れている。法改正の動向は、当ブログでも論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200205NA01.html
注意を付け加えるとすれば、「年金の受給開始年齢は、自ら申請することで早めたり遅らせたりすることができる」という点であるが、「遅らせる」申請は必要ではない。「支給開始」を請求するだけであり、請求しなければ、自動的に遅らせたことになる。この選択を求める通知が65歳になった時点で日本年金機構から来るが、多くの人は、「もらえるものなら、今からもらった方がよい」と考えるようで、支給開始の選択をする傾向があるようである。
誤解があるのは、請求せずに遅らせたとしても、65歳から請求時点までの年金がもらえなくなるわけではない点である。各期の年金受給の時効期間は5年間であり、5年以内の分は、遡って一時金で支給される。このことを知っていれば、慌てて支給請求する必要はまったくなく、70歳までの5年間の間に、遡って増額前の年金を受給した方がいいの、それとも税額後の年金を今後受給した方がいいのかを、冷静に考えることができることになる。少なくとも、直ちに年金をもらい始めても、結局、低金利の預金とかにするのなら、年率4.2%で増加して死ぬまで支払われる年金の選択肢を持ったままの方がよいのではないか。
年金は、「知って得する」ということはあまりないかもしれないが、「知らないで損する」ことは少なくない。このような記事を契機として、自分に関係する年金については、自ら正しい知識を求めるようにした方がよいであろう。そのために、最も有益なのは、日本年金機構の各種のパンフレットである。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/index.html
断片的な伝聞や、不安やお得情報と題すると売れる週刊誌などの情報を鵜呑みにすると、思わぬ落とし穴に落ちることもある。例えば、「年金は破綻するから、保険料は払わない方がいい」と書いている輩が、自分ではしっかりと年金保険料を支払っていることは、大いにあり得る。自分で調べ、考える努力を怠ってはならないことは、世間のすべてのことに当てはまるだろう。
2020年2月12日 朝日朝刊4面 メガバンク、企業年金見直し相次ぐ 確定給付の利率変動、実質減額に

「長引く低金利を受け、メガバンクが相次いで企業年金を見直している。三井住友銀行は6月から、みずほフィナンシャルグループ(FG)は10月から、確定給付年金の利率を変動型に改める方針。今の金利環境下では利率が下がるため、実質的な減額となる。」という記事である。
「三井住友銀行も終身年金分の給付利率を6月以降に変動制へ変える。」とし、「変更前に拠出した掛け金分は減額分を補う制度も導入する。」とのことである。「三菱UFJ銀行は11年から変動制へ切り替えたという。」としている。
「厚生労働省によると、確定給付型の導入企業は08年に36・4%あったが、18年に14・1%に減少。確定拠出型はこの間に6・0%から11・4%に増えた。確定給付型の給付利率を変動に改める流れも2000年代前半ごろから続いている。」と結んでいる。

少し不思議な記事である。みずほフィナンシャルグループのこの年金制度変更については、昨年2019年11月下旬に各紙やNHKが一斉に報じている。付加的価値があるとすれば、「メガバンクが相次いで」という点になるだろうが、ならば、三井住友銀行がメインの記事になるのではないか。
ともあれ、「給付利率を変動型」にしたということなのだが、そんなことは一般企業では当たり前の事で、正直、ここまで変更が遅かったのか、としか思えない。
この記事を最初に見た時は、いよいよ「リスク分担型」の確定給付企業年金に切り替えたのか、と思ったが、そうではないようである。なお、三井住友銀行の「変更前に拠出した掛け金分は減額分を補う制度」というのは、「リスク対応掛金」の事ではないかと思われる。「リスク分担型」制度は、企業が掛金を多めに拠出する代わりに、運用が不振なら給付を減額する仕組みで、「リスク対応掛金」は、企業が掛金を多めに拠出して、運用不振に備えるものである。それらの仕組みの概要は、次の資料の40-45ページを参照されたい。
 https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/000509684.pdf
「リスク分担型」制度は、企業に追加の掛金負担が基本的には生じないので、確定給付企業年金を退職給付会計の退職給付債務に計上しなくてもよいという極めて姑息な考え方から出てきたものであるが、労働組合の同意が得られにくいだけでなく、極めて複雑な制度である。労使のためになるとは到底考えられないものである。企業年金の制度設計を担う金融機関でも、まったく採用の動きがないことが露呈したと言えよう。
気がかりなのは、確定給付企業年金の採用企業が減少してきていることである。私は、この背景には、受給権者分の債務が加入者分との対比で増加しており、企業活動に寄与しない退職者分であることから、運用不振の場合の穴埋めが、株主にも現役の従業員にも、理解してもらえない点にあると思っている。ソニーが2018年10月に確定給付企業年金から全面的に確定拠出年金に移行するとの方針を発表した背景には、この点が大きいと思っている。その観点からすると、退職給付債務について、加入者分と退職者分とを区分していない現況は、企業の将来の動向を見る上で、不足があるともいえるであろう。
また、「確定拠出型」が増えているとしているが、中小企業では、元の退職金の規模が小さく投資教育の負担もあって、活用されていない。確定給付企業年金の方も、退職者の管理が必要になるため活用されておらず、税制適格退職年金の廃止によって、中小企業は企業年金から離脱した形になっている。中小企業を企業年金に復帰させるのが最大の課題であるはずだが、この点での検討や対応は、遅れている。