2020年3月14日土曜日

2020年3月14日 朝日朝刊7面 春闘、賃上げ率2%割れ ベア見送り相次ぎ 連合初回集計

今春闘の状況を伝える記事で、「連合は13日、今春闘で経営側から回答を得た労働組合について、1回目の集計結果を発表した。基本給の水準を引き上げるベースアップ(ベア)と、年齢を重ねると自動で増える定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は平均で1・91%。前年の初回集計を0・25ポイント下回り、7年ぶりに2%を割り込んだ。米中貿易摩擦などの影響で業績が悪化した製造業を中心に、ベア見送りが相次いだことが響いた。」というものである。
「会見で神津里季生(りきお)会長は、18年からベア額を非公表としているトヨタ自動車が今春闘でベアゼロを公表したことを挙げ、「経営側がことさらにベアゼロと言ったのか、釈然としない。この局面でマイナス心理を出すことはあってはならない」と述べた。
としているが、「今春闘は新型コロナウイルスの影響も受けている。全日本空輸は一時金の協議を延期し、ホンダの一時金の回答は11年ぶりの満額割れとなった。」と記事はいう。
最後に、明治安田生命保険チーフエコノミストの小玉祐一氏の「新型コロナが落ち着いたとしても、賃上げが鈍ることで、個人消費はさらに弱まる。景気回復のペースは遅れる可能性がある」とのコメントで結んでいる。

上記のトヨタ自働車の「ベアゼロ」の発表については、下記ブログで論評した記事に記されているが、「ベアの有無は毎年公表している」(経営側)とされている。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200310NY01.html
連合の神津会長としては、昨年まで好業績で春闘相場を引っ張ってきたトヨタが、「ベアゼロ」とするのは経営判断だとしても、マイナス心理が波及しないように、黙っていて欲しかったということなのであろう。
トヨタがベア額を非公表としてきたのは、自社の水準が春闘相場の目安となることを嫌ってのことであろうが、「ベアゼロ」も、対外的にではなく、対内的なメッセージの色合いが強いと思われる。とにもかくにも、トヨタは内向きの会社だと思う。
そのトヨタが、「ベアゼロ」を宣言し、その先には定昇も含めた賃金改革までも匂わせているように思われるのは、トヨタといえども、経営のグローバル化の波には抗しきれないからであろう。
事業の中核の自動車製造現場も、ITを利用した自動運転技術の台頭で、激変が起きている。かつての奥田会長は、「経営者はリストラするなら腹を切れ」といい、「終身雇用を維持しているトヨタは事業の変革に対応できない面がある」として格付けを引き下げた格付会社に激怒し、結局、業績によって事実上撤回させた。
そのトヨタが、日本的経営をどのように変革して、グローバル競争に対応しようとするのか。豊田社長が本気であるのなら、目が離せない。
2020年3月14日 日経朝刊19面 加給年金 誤解多く もらい損ねや後日返還も

「厚生年金に20年以上加入した人(以下、夫の場合で説明)が原則65歳になったときに年下の配偶者(同、妻)がいれば年39万円の「加給年金」が加算される。年金版の「家族手当」と呼ばれる制度だ。妻が65歳になると加給年金は打ち切られ、代わりに妻の年金に「振替加算」がつく。しかし加給年金や振替加算の仕組みは非常に複雑で誤解も多い。もらい損ねや、逆に過払いに伴う返還義務も発生しやすい。」との記事である。
 この「誤解でよくあるのが加給年金は妻を持つ人だけがもらえるということ。実際には65歳未満の妻のほか、一定年齢までの子供がいれば受給可能だ。」とし、年齢差が大きいほど有利だ。」と説明している。「妻は事実婚も対象だが、子供は法律上の子であることが必要。」とのことである。
「対象者の有無は原則、本人が65歳になった時点で判断される」ので、「再婚する時期を迷っているなら65歳未満がお得」(社会保険労務士の内田健治氏)というコメントも掲載されている。
そして、「妻らには年収850万円未満(または経費を引いた所得655万5000円未満)という条件があり、妻の年収が850万円以上の人は加給年金の受給をあきらめがちだ。しかし、おおむね5年以内に退職などで850万円未満に減るのが確実な場合は例外。勤務先から就業規則などに関する証明書をもらい、年金事務所に出せば加給年金がもらえる可能性がある。」と言う。
ただし、「老齢年金の繰り下げ受給との関係は要注意だ。基礎年金も厚生年金も受給開始は原則65歳からだが現在、最高70歳まで開始を繰り下げられ、遅らせるほど増額になる。ただ加給年金は厚生年金とセットの仕組み。厚生年金を繰り下げると加給年金はもらえないままになる。加給年金を受けたい場合は基礎年金だけの繰り下げにするのも選択肢だ。」としている。
その上で、「要注意なのは妻が受給権を得るまでは夫に加給年金が出ること」で、「例えば夫が65歳になったとき妻が60歳で、妻の受給開始年齢が63歳であれば、3年間もらえる。」が、誤解が多いとしている。
一方で、「はもらいすぎ」のケースもあるとし、「妻の厚生年金加入が20年以上の場合、妻の受給権発生時点で夫の加給年金は原則打ち切りになる。これを知らずに受給停止の届け出をしないと払い続けられてしまい、その分は後に返還しなければならなくなる」とし,
「こうした過払いは年金事務所ごとに年に数件以上発覚し続けている」(関西地方の年金事務所長)とのことである。
一方、「振替加算」は、「金額は妻の生年月日で異なり、80代は年20万円弱もらえる人もいるが、若いほど減り最低は年約1万5000円。1966年4月以降に生まれた人に振替加算はない。」というもので、「年上の夫に加給年金がついていれば、妻の65歳時点で振替加算は自動的に出る」が、年上妻は、「夫が65歳になると妻は振替加算をもらえる」が「自動ではなく、夫が65歳になる時点で振替加算の請求をする必要がある」のである。また、「
妻が年下でも、基礎年金を繰り上げ受給し夫に加給年金がつく前に妻が年金をもらい始めている場合は、請求しないともらえないことがある。」という。
最後に、都内のある年金事務所の職員は「最近も80代女性で本来なら年20万円弱ある振替加算が十数年分漏れていたのがわかった。時効期間である5年分しか払えなかった」と語る。特に振替加算の金額が大きい高齢女性の場合、疑問があれば積極的に年金事務所に問い合わせることが大事だ、と付け加えている。

加給年金・振替加算の仕組みは、次の通りである。
非常に複雑で、社会保険事務所でも間違えて大きな問題になったことがある。
プロでも間違えるのだから、個人でチェックするのは難しくはあるが、個人の場合には、自分のケースだけを考えればよいのであるから、丹念に調べれば、中身を理解することができるであろう。年金は大事な自分の財産なのだから、知らないで済ませるような事は避けた方がよい。最低限、きちんと年金事務所で説明してもらう必要があるだろう。
2020年3月14日 日経朝刊9面 仏統一地方選 年金焦点に 改革強行、与党に反発強く

「フランス統一地方選が15日と22日に実施される。地方選ながらマクロン仏大統領が主導する年金改革が最大の焦点だ。マクロン氏はパリなど主要都市で勝ち、内政の安定や欧州連合(EU)の求心力維持につなげたい考えだ。だが、年金改革への反発で政権支持率は2~3割台と低迷しており、与党「共和国前進」は苦戦を強いられている。」という記事である。
「選挙では、市町村にあたる約3万5千の自治体の地方議員約50万人を選ぶ。任期は6年。原則、拘束名簿式比例代表制をとり15日の第1回投票で候補を絞る。22日の第2回投票で当選した議員のうち通常第1党から首長が選ばれる。共和国前進は新しい政党のため初めて統一地方選に臨む。地方基盤を持たず、大都市を中心に候補者約1万人を立てている。」とのことである。
争点として、「共通して関心が高いのが年金改革だ。政府は42種類ある年金制度を一本化する改革案を2月に国民議会(下院)に提出。野党が4万を超える修正案を出して対抗したことから3月、決議なしに下院を通すという強硬手段を使い、法案を上院に送った。」とのことであるが、「憲法が認めた手続きだが仏調査会社が5日発表した世論調査によると、強硬手段は認められないと考える有権者が7割に上った。選挙で与党に逆風に働くとみられる。」としている。
記事は、「新型コロナの感染拡大も不確定要因となっている。新型コロナの感染を恐れる高齢者の棄権で投票率が下がれば、若者の支持者が相対的に多い極右国民連合が勢いづく可能性がある。」と結んでいる。

年金が政治や選挙の争点となる状況は、世界各国で生じている。まず、フランスの年金制度について見てみよう。それについては、厚生労働省の資料に加え、公益財団法人の年金シニアプラン総合研究機構が、次のように整理している。
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/shogaikoku-france.pdf
https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/France2018.pdf
上記の資料では、年金改革の内容には、あまり触れていないが、次のJETROのサイトに概要が掲載されている。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/ba381238697d01bf.html
要点は、分立している制度の一本化であるが、少子高齢化がフランスでも進行していることからすると、当然の方向性に思える。しかし、それは既得権への挑戦にもなる。
それ故、大規模なストライキなどが行われているのであるが、そうした状況については、次のブログ「年金改革なんで反対してるの?フランスの年金について考える」が参考になるだろう。
https://mousouadvisor.com/reforme-des-retraites/
翻って、日本の状況を見ると、1985年の年金大改革で、分立していた制度が再編され、全国民共通の基礎年金と、被用者についての厚生年金(その後に共済年金も一元化)という非常にシンプルな体系になっている。課題が残ってはいるが、今後の少子高齢化の一層の進行に向けて、先人の行った大改革は、日本にとっての大きな拠り所となっているように思う。なお、この大改革の内容について知りたい方は、次を参照されたい。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/densi-nenkin-oni.pdf
2020年3月14日 朝日朝刊6面 ●新型コロナ、内定取り消し事例も 企業に防止要請 厚労省確認
2020年3月14日 日経朝刊5面 ●内定取り消し回避 要請 政府「最大限の経営努力を」

朝日の記事は、「加藤勝信厚生労働相は13日の閣議後会見で、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて企業の採用内定取り消しが1件あったことを明らかにした。企業名などは明らかにしていないが、厚労省によると、製造業の企業に入社する予定だった今春に卒業する高校生1人だという。」というものである。
「各地のハローワークには企業から内定取り消しについての相談が複数寄せられているといい、ハローワーク側は休業補償の助成金を活用するなどして内定を取り消さないように助言している。」とのことであり、「厚労省はこの日、内閣官房や文部科学省、経済産業省と連名で、経団連などの経済団体に、新型コロナウイルスによる影響を理由に、今春採用予定の大学生や高校生の採用内定を取り消さないよう要請。内定取り消しを防ぐため、企業に「あらゆる手段を講じること」を求めた。」ということである。

一方の日経の記事は、「政府は13日、新型コロナウイルス感染拡大による影響で4月に入社予定の学生の内定取り消しを防ぐため、経済界に「最大限の経営努力」を要請した。就職活動中の学生には、エントリーシートの提出期限の延長やインターネットを活用した説明会・選考の実施などで配慮を求めた。感染拡大防止の観点から、企業説明会の中止が相次いでいることが背景にある。」としている。
さらに、「衛藤晟一・一億総活躍相は13日の閣議後会見で「学生がこれまでと異なる就職活動を強いられているのは事実。不安を覚えるのも無理はない」と指摘。「企業には特段の配慮をお願いしたい」と述べ、要請のため強制力はないものの、経済界に理解を求めた。」ことも紹介している。
次いで、「厚生労働省によると、政府は就職を控えた大学生が企業から内定を取り消されたケースを1件把握している。今後、感染症の影響が大きい観光業などを中心に、内定取り消しを検討する企業が相次ぐおそれがある。」とし、「政府は取り消しを防ぐための最大限の努力に加え、やむを得ず内定を取り消したり、入社時期を遅らせたりする場合には、対象者の就職先の確保や補償の要求に誠意を持って対応することを求めた。」としている。
一方、「現在の大学3年生に対しては採用面接の解禁を6月、内定を10月とする基本ルールは維持する。説明会の開催中止などで学生が十分な情報収集できない恐れが強まっているためエントリーシートの提出期限延長や積極的なウェブ説明会の開催で補うことを求めた。」と結んでいる。

とうとう恐れていた事態が、しかも早くやってきた。「内定取り消し」と聞いて、最初に思ったのは、もう来年春の内定が出ていて、それを取り消す事態が出てきたのか、と思っていたが、来月入社の話である。「内定」と言うが、学生からすれば、「確定」と思っていたことであろう。非常に深刻な事態と言える。
記事の要請書は、日経記事にもあるが、次の通りで、卒業・修了予定者等を、①2020年度、②2019年度に分けて要請している。
①2020年度卒業・修了予定者等について
 採用選考日程を後倒しにするなど柔軟な日程の設定や秋採用・通年採用などによる一層の募集機会の提供を行うとともに、その旨を積極的に情報発信すること 等
②2019年度卒業・修了予定者について
 内定取消しを防止するため、あらゆる手段を講じること。
 やむを得ない事情により採用内定の取消し又は採用時期の延期を行う場合には就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、補償等の要求には誠意を持って対応すること。

まさに、激震が走る内容である。今後も厳しい状況が想定される。ちなみに、前回の2008年のリーマン・ショックの際にも、内定取消が相次いだが、その時に、厚生労働省がまとめた資料は、次のようになっている。
一読すれば、深刻な状況が分かるであろう。事業所規模別では、従業員数300人以上での内定取消人数が多く、中堅以上の企業であっても、安心はできなかったことが分かる。

今、学生に求められるのは、ともかく就職できる企業・団体への準備を進めることである。
公務員志望の学生は急増するであろう。もともと志望であった学生は、試験などの準備に力を入れるとともに、民間での就職も考えるようにした方がよい。逆に、民間志望であった学生は、公務員についても視野に入れるべきであり、試験内容などの調査を急ぐべきである。
そして、内定段階に到った場合、間違っても簡単に断ったりしないことである。業界や企業の状況は、刻一刻と変化する。変化を十分に見定めてから断っても、決して遅くない。見方を変えれば、内定を取り消す企業は、ぎりぎりまで学生を確保しているわけである。ならば学生側も、ぎりぎりまで内定先を確保すべきであろう。
2020年3月14日 日経朝刊15面 (大機小機)新型コロナの経済リスク

「世界保健機関(WHO)が「パンデミック」とみなした新型コロナウイルスの世界的まん延は経済活動の甚大なマイナス要因となる。有効な手立てがあるのだろうか。」という論説である。
「人々の集合や移動が抑えられることが経済活動の足を引っ張る要因となる」今回のような事態には「マクロ経済政策はあまり効果がない」ということだが、供給サイドでは、「労働力が確保できないために世界の生産基地といわれる中国の工場が動かなくなる」ことにより、「国際的サプライチェーンがマヒし、多くの国で雇用が失われる」供給ショックには即効性のある対応策は存在しない、としている。
一方の需要サイドでは、旅行・観光業をはじめとする「サービス産業従事者が雇用の大部分を占める日米はじめ先進国経済は大きな打撃を受けざるをえまい」としている。「伝統的な不況対策は財政出動や減税による公的需要創出策が中心」だが、「人々が動けないことが原因であれば、これらの施策も効果はあまり期待できまい」とし、「日米で減税を主張する向きがあるが見当違いではないか」としている。
その上で、「注意すべきは、世界的な超金融緩和政策によって、かつてない規模に達した債務膨張のリスク」であり、「政府は企業の資金繰り対策に万全を期してほしい」とし、「パンデミックを早期に抑え込むことに全力を傾注するしか方法はない。それが最善の経済対策なのだ。」と結んでいる。

このように、供給サイドと需要サイドの両方で大きな問題が発生している状況は、欧米各国で「戦争」という言葉が出てきているように、戦時下の経済に似ている。戦時下では、不要不急のものに対する需要が急減し、対する供給も急減する。観光業や飲食店への打撃などと言っている場合ではないのであるが、特に日本では、まだまだ危機意識が薄いのではないか。
喫緊の問題は、生活必需品の提供が、国民全体に行き渡るのかどうかであろう。特に、雇用の減少により、衣食住といった基礎的な消費に支障をきたす人々の救済は、最優先である。そうした人々には、減税といった間接的景気刺激策ではなく、現金給付による直接的緊急的な支援が必要となる。結局のところ、観光や娯楽などのサービス産業は、そのような基礎的な基盤が整っていて初めて存在意義のあるものなのではないか。そのことが、今回のコロナ・ショックでの一番の教訓ではないかと思える。
2020年3月14日 日経朝刊8面 (Deep Insight)本気のオンライン社会へ

「通勤、通学、観戦、渡航――。新型コロナウイルスの感染拡大は、大勢が集まること、移動することのリスクを突きつけた。生活の営みや経済活動が止まらない社会を築けるか。人類の知恵と行動力が試される局面と言っていい。突破口はオンラインだ。」とする記事である。
「日本でも手探りながらテレワークを始める企業が増え、ネットで可能なことはネットでの機運がある。有事が去れば終了という程度のオンライン化では、強くしなやかな社会はできない。危機のたび混乱する。環境の変化や時代の要請にフィットしたオンライン社会へと本気で進みたい。それにはまず、古い考えを捨て、意識を変えなければだめだ。」というものである。
続けて、「人の思考や振る舞いは場所、時間にとらわれている」とし、「オンラインだからこその価値に目を向け、社会に埋め込む作業がいる。」とし、「最新の手法と工夫次第で、コミュニケーションの質を高められる」としている。その例として、「ネット会社ドワンゴのオンライン授業「N予備校」」と「オンライン診療」に言及し、「オンライン化にはオープン化が伴う」とし、「教育と医療も、目の前の「先生」がすべてでなく、多様な専門家の見方や意見に触れられる。」としている。「広い視野でアイデアやスキルを融合できるのがオンラインの醍醐味」で「新しい社会をつくる道具はある。一握りの人間が考えればすむテーマではない。」というのである。
一方、「オンラインにも弱点はある。電力と適切な管理なしには動かず、誤情報やコンピューターウイルスの脅威がある。」とし、「状況に応じてオンラインかオフラインか選び、何かに極端に依存しないこと」が必要だとし、「大量、画一、集合、一括。時空を超えるネットという利器をもちながら、社会構造は20世紀に効率的とされたものに縛られ、真の21世紀社会への移行を阻んでいないか。コロナ禍が私たちに問う。」と結んでいる。

確かに、コロナ・ショックでオンラインの利用は、飛躍的に高まった。G7の首脳会議ですら、電話会議でこなすことができるのである。通勤時間が省略され、仕事の効率性も高まっている。もちろん、オンラインでこなせる仕事ばかりではない。しかし、対応できる範囲は、様々な工夫で確実に広がっている。
一方で、「人と人との触れ合いが減る」という意見はある。「有事が去れば終了」となる可能性は捨てきれない。人間とは、ヒトとヒトとの関係そのものであると言われる。動物であるヒトが、他のヒトとの関わりの中で、社会性を身に着け、「人間」になるという考え方である。ただし、このような他者との関係も、対面的接触だけで構築されるものではない。書物などを通じて他者の考えなどを知ることは可能であり、オンライン技術は、そうしたことを促進する優秀なツールである。
一方で、「百聞は一見にしかず」とも言う。例えば、実際の演技や演奏を見ての感激は、それらをビデオで見た場合とは比較にならないであろう。もちろん、それでも疑似的な体験などにも大きなる効用があるわけであるが。
オンラインが活用できるからこそ、それでは対応できない実物の価値が高まるのである。「本気のオンライン社会」は、「本物の価値の尊重」をベースにしたものでなければならないように思う。