2020年4月10日金曜日

2020年4月10日 朝日朝刊23面 ●内定者、パワハラで自死 パナ子会社、「行き過ぎ」認める

「就職内定先の人事課長からパワーハラスメントを受け、大学4年の男子学生(22)が入社2カ月前にみずから命を絶ったと、遺族の代理人弁護士らが9日に記者会見して公表した。人事課長は配属への決定権をちらつかせながら、内定者のSNS交流サイトに毎日書き込むように強要するなどしていたという。」との記事である。会社側も取材に「行き過ぎた行為があった」と認めた、という。
記事では、「男子学生は2019年2月に死亡。パナソニックの完全子会社「パナソニック産機システムズ」(東京)から新卒採用の内定を得ていた。同社では研修の一環として、SNS交流サイトに内定者20人を全員登録させていた。人事課長(当時)は、毎日ログインして投稿にコメントすることなどを求めたという。」としている。
「人事課長は18年7月ごろから、SNSに「書き込まない人は去ってもらいます」などと、内定者を精神的に追い込むような言葉を投稿するようになった。「邪魔です」などと内定辞退に言及したり、入社後の過重労働を示唆したりしていた。」ということで、「弁護士らは会社側の協力を得て約1年にわたり調査をした結果、課長のハラスメント行為で精神疾患を発症し、自殺につながったとみている。会社に損害賠償を求めるという。」と記事はしている。
ところが、「入社内定者が就職予定の企業からパワーハラスメントを受けても、現状では労災保険の対象外」なのである。「6月からまず大企業に職場でのパワハラ対応を義務づける「パワハラ防止法」の付帯決議では、就職活動中の学生などへのハラスメント対策も求めている」とううことではあるが。
これに対し、「パナソニック産機システムズは、「採用担当者により、行き過ぎた指導が行われていたことは事実。男子学生の自殺の動機についても一部責任がある」と認めた。再発防止に向けて昨年8月に「社内風土改善推進室」をつくり、内定者が相談できるハラスメント相談窓口を新設したという。」と記事は結んでいる。

パナソニック産機システムズのホームページは、次の通りである。
会社概要によれば、設立は2009年4月1日、資本金は301百万円で、社員数は約1,600名で、事業内容は、業務用設備機器・システムの販売・施工・サービスとのことで、アジア11ケ国に海外関連会社がある。
立派な大手企業であり、「私たちの仕事の考え方」として、次のように述べている。
「私たちはパナソニックグループにおける業務用設備機器・システムの直販・サービス・エンジニアリング会社です。お客様とのコミュニケーションを深め、信頼関係を築き、本当にお客様が必要としているものは何かを一緒に考え 3つのソリューションによって永続的に価値を提供し続けてまいります。」
これだけの企業が、何故に、このような愚劣な人事課長を野放しにしていたのか。内定を得た時には、亡くなった学生ご本人もご家族も、大いに喜んだであろう。まさか、こんな事になろうとは誰も思わなかったであろう。
だが、大手企業といえども、問題のある企業は、少なくない。就活においても、セクハラや、この例のようなパワハラは、まれな事とは言い切れないのが現状である。内定段階で、ここまでのパワハラは珍しいように思うが、入社後に、それまでとは打って変わって態度を急変する企業は、少なからずあると思われる。その事は、折角入社した新入社員が、3年以内に3割退社するという状況にも現れている。
SNSを強制登録させ、強制記入まで強いていたというのは、まさしく人権侵害であり、決して許されるものではない。内定を得た学生からすれば、できるだけスムーズかつ穏便に会社と馴染んでいこうとするのであろうが、これは、そうした気持ちも織り込んだ上での卑劣な犯罪的行為である。
こうした行為に対しては、どのように対応すればいいのであろうか。まず、絶対に自分だけで抱えこまないことである。記事では、友人に「きつい」「死にたい」と話していたということだが、直ちに行うべきことは、本人でも友人でも、大学の就職指導課に相談することである。親にも相談すると良いが、古い体験の親世代だと、「会社に入ればいろいろあるから、多少の事は我慢した方がよい」などと思う可能性もある。一番効果的なのは、大学の就職指導課への相談を経て、管轄の労働基準局に通報することである。
同じ境遇にあった内定学生は、20人という。仲間の自殺は、彼らにも暗い影をもたらしたことであろう。「邪魔です」といった罵詈雑言に従って何人かの学生が辞退し、会社に通報していれば、この人事課長は処分されていたかもしれない。もっとも、この程度の人物を人事課長にしていることからすると、会社の体質なのかもしれないが。
生きるために会社に入って働くのである。それを妨げる会社と折り合いを付けようとしても、ろくなことにはならないだろう。