2020年11月17日火曜日

★今回の論点:来年度以降の就活は、さらに厳しくなる。

2020年11月17日日経夕刊2面「「既卒3年新卒扱い」効果は 就活の緊張感なくす恐れ」

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏によるコラム「就活のリアル」欄における論説である。

「コロナ禍で就職氷河期の再来が危惧されている」ことに対して、「厚労相、文科相、一億総活躍相が経済団体首脳と、卒業後3年以内の既卒者を新卒扱いとすることを話し合った」ことから書き出している。この要請は、次の通りである。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1-img/2r9852000000wgtr.pdf

氏の主張の要点は、「好景気と氷河期の採用規模の違いは、大企業でみると半減となっているが、全体では1~2割減のレベル」ということであり、「氷河期だと、大企業が欲しがるような優秀な学生は、第1志望は無理でも、第2志望・第3志望あたりには受かっているのだ。逆に言うと、すべて落ちるくらいだと、好況期になっても第1志望に受かるのは難しいだろう。」ということである。そして、「「既卒3年大丈夫だから」と学生が就活に本腰を入れてかからず、すぐ諦める悪い風潮のみがまん延してしまうことが一番の問題」と結んでいる。

この記事の標題を見た時には、少し違和感を感じた。そもそも、日本は従来の新卒一発採用から脱却して、職務内容を明確にしたジョブ型雇用に転換すべきである、とされている。その観点からすると、新卒一括採用の中での「就活の緊張感」を論じる必要があるのだろうかという疑問を抱いたのである。

しかし、記事の中身を読むと、その新卒一括採用の慣行にどっぶり浸かっている学生に対する警鐘であることが分かった。安易に、「今年はあきらめて来年を狙います」と言う学生に対し、氏は、「今年、ある程度の企業に一つも受からないのに、景気回復したら第1志望に入れるなんてことはないよ」と伝えているそうである。

ジョブ型雇用においては、新卒・既卒の区別は無意味である。しかし、依然として新卒一括採用につながっている年功序列・正社員長期雇用の慣行が根強いことを、行政の「既卒3年新卒扱い」は物語っているわけである。一方の企業は、記事にあるように、「大企業はこれが何の意味も持たないことを知っている。お付き合い程度に「既卒OK」と書いているのだろう。」ということになるわけである。

同じような事は、かつて大学入試でもあった。私が大学を受験したのは1970年春だったが、大学紛争で前年の1969年春の東大入試は中止になった。何が何でも東大という人は、翌年、すなわち私の受験した1970年春に受験したわけだが、そのあおりを受けて、他の大学の競争率も軒並み上がる結果となった。

就活でも、同様の事となる。さらに悪いのは、来年の就活の見通しがさらに暗いことである。企業にとって、業績の先行きが見えない時は、人件費の抑制を考えざるを得ず、新卒採用は、真っ先に抑制されることとなり、それは何年か続く。一方、好況になると、一斉に採用強化に乗り出すので、採用難に陥ることになるのである。少子化で若年労働力は大きく減ってきているのであるが、この「右往左往」とも言える状況は過去からあまり変わらず、特に大企業を目指す学生にとっては、就活する年の景気動向に振り回されることになる。

一方で、そうやって折角入った大企業でも、入社3年以内に3割の新入社員が辞めていくとされている。「大企業」という名につられただけで、仕事内容が自分に向いていないこともあるのだろう。

卒業の年に、人生が決まるわけではない。大学入試の場合でも、失敗を引きずって何年も浪人するのでは、精神的に追いつめられることも多いだろう。人それぞれの人生ではあるが、大企業でなくても内定を得られた企業とはご縁があるわけだから、ちゃんと仕事内容などを把握して、働き始める方がよいのではないだろうか。氏の説くように、「今年ダメなら来年」というような安易な考えが最も危険であろう。

2020年10月17日土曜日

2020年10月17日朝日朝刊14面(社説)社会保障改革 「本丸」から逃げるな

 「政府の全世代型社会保障検討会議が約4カ月ぶりに開かれた」ことに対する社説である。

「少子化対策にテーマを絞り、首相の肝いりの不妊治療への保険適用や男性の育休取得を促す方策などを話し合った」ことに対し、「若い世代向けの施策の充実を、社会保障改革の目玉にする考えなのだろう」としている。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/

これに対し、社説では、「国民が社会保障に抱く最大の不安は、少子高齢化で制度を維持できるのか、必要な給付は守られるのかだ。聞こえの良い話だけでなく、「痛み」の分かち合いも含め、将来不安に応える議論にするべきだ」としている。

そして、首相は「めざす社会像は自助、共助、公助、そして絆」と繰り返すばかりで、「共助や公助をどう見直すのか、どこまで自助を求めるのか、具体的な中身はいっこうに語らない」とし、「少子高齢化に本気で向き合うならば、目の前の問題と中長期の課題を分け、腰を据えて議論する必要がある」と結んでいる。

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社説の中で言及しているのは、消費税の引き上げ問題と、政府の「給付抑制策として75歳以上で一定以上の所得がある人の医療費負担を1割から2割に引き上げる案」であるが、必ずしも、それらを強力に推進すべきものとはしていない。

「それで少子高齢社会を乗り切れるわけではない」というのであるが、ならば、どのような方策が考えられるか、その方向性を示さないと、単なる批判に終わるのではないか。

現在、コロナ禍で、所得格差の問題が深刻化し、貧困への対策が重大な政策課題となっている。消費税問題で首相がすぐにトーンダウンしたのも、目の前の問題とは、あまりに隔絶した課題であるためであろう。中長期の課題を、目の前の問題に織り込むのは難しいが、それがチグハグだと、将来に禍根を残すことになる。国民一律に支給された定額給付金を、一時しのぎと考えるのではなく、将来に向けての国民の最低限の生活保障の一里塚とできるのかどうか、それが重要な論点だと思うのだが、どうか。

2020年5月10日日曜日

★今回の論点:内定取消への対処の心構え

2020年5月10日 日経 朝刊 27面 ●消えた内定 救った寺 「導かれた縁」夢諦めない

この記事は、2月に新型コロナで「今回の内定を取り消しとさせていただきます」というメールを受け取った学生が、万松寺のグループ会社に入社し、「1カ月前には想像できなかった未来です」としていることを紹介したものである。
「誰にも言い出せなかった。大学の卒業式もちょっと顔を出しただけで、そそくさと退散した。」という状況の中、母の「仕方ないよ。切り替えられるまで、しばらくバイト続けたらいいんじゃない」という言葉に少しだけ気持ちが軽くなり、父の「万松寺が採用を始めたそうだよ」という言葉でホームページを調べて、「面接を受けさせていただけませんか」というメールを送るところまでたどり着く。
そして、「面接は数日後。気さくな人柄の面接官に緊張がほぐれた。終了後「内定します」と告げられた。帰り道はうれしくて笑みが止まらなかった。後日、父はスーツを買ってくれた。「いつか返せよ」。出世払いを約束した。」ということになったそうである。
一方の「万松寺は今年度の新規採用を予定していなかった」が、住職の大藤元裕さんが「自分のせいではなく不幸になる学生がいるのなら、手を差し伸べたい」ということで、急きょ募集を決めたのだそうである。「運か必然かは分からないが、導かれた縁。降りかかった試練を、彼がどれだけプラスに捉えていけるかだと思う」と将来に期待をかけているとのことである。
最後は、「腐らなくてよかった。祖父母に見守られながら一生懸命頑張りたい」として、こんな時代だからこそ明るく、前向きに生きていくと誓った、と記事は結んでいる。
なお、記事では、「大学生の就職内定率は近年右肩上がりだった」が、「新型コロナウイルスの感染拡大で内定取り消しの動きが顕在化。21年春の就職活動では会社説明会やセミナーが軒並み延期となっており、学生は就職氷河期やリーマン・ショック後のような苦戦を強いられる可能性がある。」とし、「内定を取り消された学生を自治体が採用するといった救済の動きも出ている。行き場を失う人が増えれば、さらに対策が求められそうだ。」と補足している。

まさに、「捨てる神あれば、拾う神あり」(この場合は仏だが)である。人生の縁は、どこに転がっているか分からない。ただ、単なる縁ということではなく、家族の思いやりに包まれて、自分でも思い切って行動したからこその結果である。
「長い人生、多少の挫折は未来への糧になる」と言われても、当事者にとっては、慰めにもならず、愚弄された気持ちにすらなるであろう。だが、それでも、今回のコロナ・ショックでも分かるように、何が起きるか分からないのである。例えば、憧れの旅行業界に就職できた人も、今は仕事もなく待機を余儀なくされている。国内外を問わず、大手の航空会社ですら、倒産が囁かれる状況にある。ほんの少し前に、一体、誰が、このような事態を想像したであろうか。
進化論を唱えたダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」としている。激変する環境は、見方を変えればチャンスでもあるのだから、変化に柔軟に対応することが求められるのである。希望を捨ててはならず、努力を投げ出してはならない。

2020年5月9日土曜日

★今回の論点:オンライン教育の効用と課題

2020年5月9日 朝日夕刊1面 ●オンライン授業、大学手探り 参加人数超え入れず

この記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて学内への立ち入りを禁止する全国の大学が、続々とオンライン授業を始めている。…だが、4月に先行した大学ではトラブルも発生。どんな課題が見えてきたのか。」というものである。
「文部科学省が4月23日現在で集計したところ、全国の大学の99%がオンライン授業を「実施」「検討中」としていた。だが、4月に始めた大学では「動作が遅い」「授業に参加できない」といったトラブルが相次いだ。全国大学生活協同組合連合会が4月に実施したアンケートでは、オンライン授業中に通信が「かなり途切れ、ストレスを感じる」「時々途切れる」と回答した学生は4割近くに達した。」とのことである。
加えて、「オンライン授業を行う上でのもう一つのネックは、学生の通信環境だ。昭和女子大(東京都)の高木俊雄准教授のゼミ生による同大学生へのアンケートでは、回答者155人のうち98%は自宅にネット環境が整っているとしたが、「通信制限がない」は55%にとどまった。」としている。
「そんな中、こうした動きと一線を画すオンライン授業をしているのが、共愛学園前橋国際大(前橋市)だ。今月7日から、文字・文書資料が中心で通信負荷の低いシステムを活用している。学生の1割程度が動画配信を中心とした授業を受けられる環境にない、と見込むためだ。」という学校もある。「(1)テレビ会議システムなどを使う同時双方向型(2)授業の動画などを学生が好きな時間に受講するオンデマンド型(3)テキスト配信型がある。」が、大森昭生学長は「モバイル端末の入手も難しい状況で、無理を強いて取り残される学生を生まないことを第一に考えた。データ容量を気にせずスマホで双方向性を担保できるのが大きい」としているそうである。

今回のコロナ・ショックで明るみに出たのは、感染症対策と情報機器の活用において、日本は世界で大きく後れをとっているという事実である。前者については、一向に増えないPCR検査が、やろうとしても機器と人員が圧倒的に不足していることが明るみにでた。
そして、後者については、はかどらないテレ・ワークに加えて、オンライン教育での、この惨憺たる有様を見て、絶句した人も多いのではないだろうか。そこには、マリオ・ブラザーズなどのテレビゲームで世界を席巻した面影すらない。
この状態で、IT人材が不足しているなどと企業が言っているのが笑わせる。そもそも、新卒一括採用で、協調性重視の仲良しグループを形成してきた帰結が、この有様なのである。専門家の育成・処遇を怠ってきたツケは大きい。
そして、大学教育の現場でも、目を覆う混乱が生じている。教員の中には、パソコンの操作すら覚束ないのではないかと思える人もいる。オンライン教材と聞けば、自分が俳優みたいになって動画配信する必要があると思い込んでいる人もいる。
もっとも、企業や大学ばかりではない。東京都が毎日発表していた新型コロナの感染者数が誤っていたのは、各保健所からのFAX連絡が未着や重複だったからでそうである。もう何年も前に、米国の年金研究者と話をしていた時、日本ではFAXを日常的に使っていると伝えると、目を丸くして驚き、米国ではスミソニアン博物館まで行かないと見られないのではないかと言っていたのが、冗談とはほど遠い現実だったのだと思い起こされる。
日本を訪れる外国人が、無料のWIFIが少ないことに困惑し、有料の通信網の金額の高さに驚愕していたことが、実は日本の後進性の証なのだということが、あからさまになった今後、果して、どのように社会を変革すればよいのだろうか。
新型コロナが、幕末の黒船、第二次世界大戦での敗戦に続く、未曾有の危機であるが大きなチャンスでもあるという契機になるのかどうかは、これからの我々日本人一人ひとりの取り組みにかかっている。

2020年5月8日金曜日

2020年5月8日 日経夕刊9面 ●在宅就活、学生奮闘 志望見つめ直す機会に ウェブ面接に戸惑い
2020年5月10日 朝日朝刊1面 ●就活一変、戸惑う学生 コロナで説明会オンライン化

最初の記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が求められるなか、来春卒業の学生たちが「在宅就活」に奮闘している。」というものである。
「対面での面接や会社説明会が軒並み延期や中止となり、自宅で戸惑いながら「ウェブ面接」や情報収集に取り組む。慣れない環境に企業側も手探りだが、志望先を見つめ直す機会にと前向きに捉える学生もいる。」としている。
「就職情報会社のディスコ(東京)が3月下旬に全国の企業を対象に実施した調査によると、新型コロナの影響でウェブ面接を導入した企業は24.1%で、もともと実施予定だった企業と合わせて36.0%に上った。ウェブセミナーを実施した企業は半数を超えた。一方で対面での面接を延期した企業は少なくない。」とのことである。
「ディスコの武井房子上席研究員は「ウェブ上でのやりとりには限界があり、人柄を重視する日本の新卒採用の現場で今後も導入が進むかは分からない」とみる。学生にとっては時間や場所の制約が小さく、企業との接点を増やせる利点があるとし「自分の知らない業界や企業にも積極的に目を向け、有意義な就職活動に生かしてほしい」と話す。」と結んでいる。

後の記事は、「例年夏にかけて本格化する大学生の就職活動が、新型コロナウイルスの影響で様変わりしている。会社説明会は軒並み中止され、対面での面接試験もめどが立たない。オンラインでの選考が急速に広がるなか、学生たちを支える大学も対応に追われている。」というものである。
「就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが各地で予定していた合同企業説明会も5月末まで中止になった。多くの企業は対面での説明会や面接を取りやめ、オンライン選考に切り替えている。」としている。「この前まで売り手市場だったのに、一気に採用が抑制されないかが気がかりだ」との学生の声も掲載されている。
大学側でも、金沢工業大のテレビ会議システムを使った履歴書の添削、明治大でのオンライン会議システムでのグループ相談会、近畿大でのホームページにウェブ採用に関する記事の掲示、神田外語大でのオンラインでの「OBOG交流会」、などの動きが出てきているそうである。
一方、「就職情報会社の学情が4月1~10日、来春卒業予定の大学生・大学院生を調べたところ、就職活動をしていない学生が34・9%と前年より21・6ポイント増えた。」という。「リクルートキャリアの調査によると、来春卒業する大学生の4月1日時点の就職内定率は31・3%と過去最高を更新する一方、企業側には採用活動を後ろ倒しにする傾向も出ている。」ともしている。
最後は、法政大の児美川孝一郎教授の「先輩と同じペースで考えなくていい。大事なのはまず落ち着くこと。冷静に対応してほしい」とのコメントで結んでいる。

まず、「この前まで売り手市場だったのに」とか「先輩と同じペース」といった甘い考え方は捨てることである。「高い内定率」という報道も一部にあるが、あくまでもコロナ・ショックより前の状況であり、何の参考にもならないので、焦る必要はない。
だが、「就職活動をしていない学生」の割合が高いのは、気がかりである。大学や企業が開催してくれる説明会やセミナーなどに参加することだけが就活ではない。そもそも、そのような受け身の就活の機会は激減している。大事なのは、自分自身で業界や企業の研究をし、興味を持った企業にホームページ上からアプローチしてみるといった積極的な行動である。この際に、大企業を中心にすることは、オススメしない。大企業には、同じように考える学生からのアプローチが急増しているはずで、採用担当者もイチイチ取り合ってはいられないから、公式の採用の日程や手法で進めていくはずだからである。
今の時期は、規模に関わりなく、関心の持てる企業に接触し、あわよくば内定を得ることに注力すべきである。そううまく運ぶとは思えないが、自分で行動して結果を生み出すことは、今後の就活においても貴重な経験になる。
焦る必要はないが、何もせずに無為に時を過ごしてはならない。そのことは、講義の受講なども含めた日常生活の万端に通じることである。

2020年5月6日水曜日

2020年5月6日 日経朝刊1面 ●学費減免 2割満たず 国立大5校のみ 支援拡充が急務 30大学調査
2020年5月6日 日経朝刊23面 ●政府や大学、生活困窮の学生に支援 米・カナダには規模見劣り
2020年5月9日 朝日朝刊3面 ●困窮学生に10万円、要望 公明 文科相検討「思いは同じ」

最初の記事は、「新型コロナウイルスの影響でアルバイト先を失うなどした学生に対する主な大学30校の経済的支援で、学費の減免措置を取っているのが国立大5校にとどまることが分かった。緊急事態宣言の延長を受け、安倍晋三首相は「アルバイト学生への支援」を明言したが、主要国と比べて支援策は十分とはいえない状況だ。」というものである。
「日本経済新聞が5日までに全国の国公立大と私立大のうち学生数上位の各15校に学費の減免制度について聞いたところ、30校中、制度の新設・拡充を決めたのは、東京大や大阪大など国立大5校と全体の2割に届かず、私立大は1校もなかった。」とのことである。
「大学生(昼間部)約290万人のうち8割強がアルバイトに従事している。」状況の中、「経済的に困窮し退学を検討していると答えた学生は全体の20.3%に達した。」ということで、「首相は4日の記者会見で、学生への支援について「与党の検討を踏まえ速やかに追加的な対策を講じる」と述べており、追加の経済対策の焦点に浮上しつつある。」と結んでいる。

次の記事は、最初の記事を受けたもので、「政府は4月に始まった低所得世帯向けの学費減免制度の対象に、新型コロナで家計が急変した世帯を加え、2020年度補正予算に7億円を計上した。追加措置として授業料の納付猶予や減免を大学に要請し、対応した大学への助成などが浮かんでいる。」としている。
その上で、「ただ、世界に目を向けると、支援の規模は十分とは言えない。米国は生活に困窮する学生に、各大学を通じて総額100億ドル(約1兆円)を援助する政策を決めた。カナダも総額約6900億円の支援計画を公表しており、5月から8月まで月10万円を給付する。」とのことである。
最後は、「桜美林大の小林雅之教授(教育社会学)は「今後の社会を担う若者のため、政府は大学と連携すべきだ。現在の支援制度を周知した上で、減免制度の受給基準を緩和することを検討してほしい」と強調する。幅広い学生に対し、学費減免や返済不要の奨学金を迅速に行き渡らせることが求められている。」と結んでいる。

最後の記事は、与党内の公明党の動きである。「公明党の斉藤鉄夫幹事長は8日、萩生田光一文部科学相と会談し、新型コロナウイルスの感染拡大で生活が苦しくなった大学生らに1人10万円の現金給付を求める提言書を手渡した。斉藤氏によると、萩生田氏は「思いは同じだ。早急にやりたい」と述べ、前向きな姿勢を示したという。」としている。
「対象は、外国人留学生を含む専門学校生や大学生、大学院生で、住民税が非課税となる収入水準の学生や学業や生活のためアルバイトが必要な学生の最大50万人を想定する。予算規模は500億円の見通しで、1次補正予算の予備費を充てることを軸としている。」としている。

コロナ・ショックが、様々な影響を及ぼしている。学業や生活に困窮する学生への対応も、一つの大きな課題である。しかし、一方で、事業者への家賃補助の話も出てきている。どこまでの広がりがあり、事後的に、どれだけの影響が残るのか、計り知れない。
政府の対応を見ていると、モグラ叩きの様相に思える。最低限の生活保障という憲法にも明記されている責務への対応が、これまで蔑ろにされてきたことが露呈した、と言えるのではないだろうか。
もっとも、「言うは易く、行うは難し」ということではある。「無い袖は振れない」ということで、最終的には財源、すなわち国力の問題になる。だが、迷走する場当たり対応を見ていると、当座の救援と、将来への投資が、明確に区別して意識されてはいないのではないかという気がしてならない。
例えば、大学生への学費等の支援は、何故に正当化されるのであろうか。世間には、大学まで行ける人は恵まれているという感情もあり得るだろう。また、別の例として、利幅の薄い商いをしている商店などと、1本数万円という高級酒を提供している銀座の店とでは、補償といっても一律に考えられるものではないという面もある。
「給付」は、所詮、将来の税金で賄うしかない。何故、すぐに「給付」の話になるのか、まったく理解できない。ただで貰えるものなら、何でも誰でも欲しい、というのが人情だろう。しかし、そうやってばらまけば、将来にツケがくるのが明らかである。
そこで出てくるのが、困っている人に限定して給付する、という考え方である。確かに、これなら国民の理解は得やすい。ところが、最大の問題は、「誰が困っているのか」の認定である。そこに、人手や手間をかけると、迅速な支給に到らず、費用もかさむことになる。
その点で、「全国民1人10万円支給」は、正しい政策転換であるが、何故に、これを非課税にするのか、まったく理解できない。野党が主張するように課税対象にすれば、高所得者は辞退するかもしれず、辞退しなくても後で応分の税負担を求めることができる。
もっと真剣に考えるべきは、最後のセーフティートとされる生活保護の積極的活用である。私は、生活保護を貸付方式に転換し、もっと利用しやすくすべきだと、ずっと主張してきた。
生活保護で、当面の生活資金が得られるようにできれば、命の心配はなくなる。そうすれば、新型コロナ終息後の生活に向けての計画も、落ち着いて考えることができるようになるだろう。その意味で、貸付方式の生活保護は、恩恵・慈善的なものではなくなり、将来への投資と位置付けられるものになる。
今回のコロナ・ショックで、改めて、ベーシック・インカムの検討の必要性が認識されている。その検討にあたっては、貸付方式の生活保護も視野に入れる必要があると確信する。

2020年5月2日土曜日

2020年5月2日  日経朝刊17面 年金 繰り下げで増やす 貯蓄や収入確保が前提

ねんきん定期便を見て「年金が少ない。間違っているのでは」という56歳の会社員の事例をベースに、「繰り下げ受給」の制度を解説するものである。
「通常は65歳からの受給開始を66歳以降に遅らせると、1カ月につき0.7%金額が増える。現在の上限である70歳を選べば最大42%増になる。60歳を過ぎてもできる、国も後押しする年金の増やし方だ。しかも2022年4月からは上限年齢が75歳に上がる見通し。そうなれば年金額は最大で84%も増える計算だ。」としている、
また、「65歳を過ぎてもらい始めたら利用できない。だが、年金受給者でも受取額を増やしたい人は、当然いる。もっと幅広く使える増額法はないか。」ということに対しては、「厚生年金に入って長く働くことだ。厚生年金の上限は原則70歳なので、65歳を過ぎて年金をもらっていても、加入して働けば増額が可能だ。」としている。
加えて、記事の補足で、「60歳まで前倒しも可能」とし、「繰り上げ受給」にも触れている。「コロナ禍で収入が減ったシニアが繰り上げの相談にくるようになった」(ある社会保険労務士)とのことで、「当面の生活費を補うためとみられるが、年金は受給を始めると原則変更できない。減った金額が一生続くことも知っておきたい。」と結んでいる。

長生きのリスクを考えると、一生もらえる公的年金の受給開始を遅らせて増額年金を受給することは、有力な選択肢になる。ところが、実際に「繰り下げ受給」を選択する人の割合は、非常に少ない。
上記資料の繰下げの12ページには、「利用率は概ね約1%程度」と記されている。
利用率が低い理由の一つとして、現在の60歳以上の人の中には、65歳まで特別支給の厚生年金を受け取っている人が多く、65歳時点で本則の厚生年金および基礎年金の受給の選択を行う必要が生じた際に、そのまま受給を続けようとする向きが多いことが考えられる。
また、厚生年金の受給を遅らせた(繰り下げた)場合、配偶者分の加給年金も受給できなくなるので、その影響を考える必要があるという点もある。さらに、共働きの場合には、配偶者の遺族年金に及ぼす影響の考慮も必要になる。
このように複雑であるため、年金事務所で確認する必要があるのだが、日本年金機構のパンフレットを見ても、どうしていいかは分からないだろう。
これは、個々のケースで違いが生じるためであるが、繰下げ受給を推奨する政府の立場と、慎重な物言いが必要となる現場の感覚との間には、ズレがあることにはなる。
一番選択しやすいのは、65歳まで支給されていなかった基礎年金の繰り下げであろう。これなら、それまでの生活費に組み込まれていなかったわけであるから、対応しやすい。
なお、一生減額が続く「繰り上げ受給」の選択者は減ってきていたが、記事にあるような、新型コロナの影響があるとすると気がかりである。年金の「繰り上げ受給」は、最後の手段でなければならないが、「年金は破綻するから早くもらわないと損」というような無責任なマスコミ報道を真に受ける人もいるであろう。このように高齢者を惑わす報道は、「年金詐欺」と言っても差し支えないものであると思う。