2020年4月2日木曜日

2020年4月2日 日経朝刊5面 GPIFの損失額最大 1~3月、新型コロナ直撃 外国資産比率上げ 振れ幅一段と
2020年4月4日 朝日朝刊7面 年金運用、17兆円超赤字 1~3月期、株安で

2020年3月25日 日経朝刊5面 GPIF理事長に農中出身・宮園氏 市場対応・組織立て直し課題
2020年4月5日 日経朝刊6面 GPIF理事長 宮園雅敬氏 年金制度 安定へかじ取り

最初の日経の記事は、「新型コロナウイルスによる株式市場の乱高下が公的年金の運用を揺さぶっている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2020年1~3月の運用実績は、損失額が四半期として最大に膨らむ見通し。GPIFは14年から株式の運用比率を高め、1日からは運用資産に占める外国債券の目標比率を引き上げた。相場の影響を受けやすい面が出ている。」というものである。
「GPIFは1日、最高投資責任者(CIO)に米ゴールドマン・サックス出身の植田栄治氏(52)を充てる人事を正式に発表した。理事長には元企業年金連合会理事長の宮園雅敬氏が同日付で就任しており、逆風下、新体制で運用のかじ取りを担う。」としている。
「GPIFは19年4~12月に9兆4241億円の収益を上げている。ただ、1~3月に生じた損失で19年度の運用実績は8兆6000億円程度の赤字となったもよう。通年で運用損益が赤字になるのは4年ぶりだ。」とのことである。
なお、「日銀のマイナス金利政策で日本国債の利回りが低迷する中、GPIFは3月31日、運用資産に占める外国債券の比率を従来の15%から25%に引き上げた。一方国内債は35%から25%に減らし、これまで40%だった外国資産は50%に増やした。」が、「ただ海外資産の増加で、為替相場などの変動が運用資産に与える短期的な影響は大きく、振れ幅も大きくなりやすい。」としている。その上で、「国債などの安全資産に資金を振り向けるべきだとの声もある。だが、全資産を日本国債で運用すると、60年代には積立金が枯渇し、高齢者の年金給付に支障が出る。」としている。

次の朝日の記事も、基本的には同じ内容であるが、日経記事が、野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算によるものであるのに対し、「今年1~3月期の運用成績が17兆円を超える赤字になるとの試算を厚生労働省がまとめた」という点に違いがある。「四半期ベースでは過去最大の赤字幅で、2019年度全体では約8兆円の赤字になる見通しだ。14年に株式の運用比率を引き上げたことで、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株安の影響をもろに受けた。」としている。
「GPIFは14年から年金資産に占める株式の運用比率を計5割に増やしており、株安の影響を受けやすくなっている。高橋則広・前理事長は3月31日の記者会見で「あくまで狙いは長期的なリターン。評価損益が下がっても年金給付に影響は全くない」と述べた。ただ、厳しい運用環境が続けば、将来の年金水準に響く可能性がある。各年度の運用成績の公表は例年7月だが、GPIFは公表前倒しも検討している。」と結んでいる。

一方、このような状況の中、最初の日経記事にもあるように、GPIFの体制変更が行われている。3月25日の日経記事では、「女性職員との特別な関係を疑われかねない行為があったとの内部通報に適切に対応しなかった」として「高橋理事長に懲戒処分」が出たことで、農中出身の宮園氏が選ばれたとしているが、「農中で人事部長や総合企画部長などを歴任」した経験に、組織統治の強化を託すことになる、としている。その上で、「揺れる組織を立て直し、荒れる相場に機動的に対応することがまずは求められる。」と結んでいる。また、4月1日就任後の5日付日経記事では、「100年先まで見据えた年金制度の安定をどう維持するか。かじ取りの一翼を担う「100年の航海」が始まる。」とし、「2019年に企業年金連合会の理事長に就いたばかりで、当初は就任の要請を固辞したという。それでも「年金の世界に身を投じたのだから内部異動のようなものだ」と周囲に語り、就任を決めた。」とし、人となりを紹介している。

まず、4月4日付朝日の厚生労働省試算であるが、検索してみたものの、確認することができなかった。「試算」ということで、次の公式発表にも含まれていない。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/tsumitate/index.html
それでも、大幅なマイナスであることは確実であろう。
一方、GPIFの体制変更は、次のようになっている。
https://www.gpif.go.jp/topics/personnel_0401.pdf
理事長に加え、理事2名が退任ということで、大幅な変更になっているが、その背景にとして、次のような陰謀説まで囁かれているようである。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20191122-00151972/
真偽はともかく、何ともやりきれない話だが、巨額のカネがある所では、スキャンダルの芽は尽きない。国民の老後のための大事な資金を扱っているということだけは、忘れないようにしてもらいたいものである。
2020年4月2日 朝日夕刊7面 ●(取材考記)メール1通で「人生の道を断たれた」
2020年4月4日 朝日朝刊3面 ●コロナで内定取り消し、「まさか自分が…」 減少傾向、感染拡大で一変
2020年4月5日 日経朝刊2面 ●「内定取り消し」学生を自治体が支援 臨時雇用広がる

最初の記事は、内定取り消しにあった母娘の例について、榊原謙記者が述べたものである。首都圏に住む女子学生(22)が3月半ばに内定先のIT企業から「お出しした内定を取り消したく存じます」というメールを受け取ったところから書き出している。「入社まで2週間あまり。ショックで返信も電話もできなかった。」のは無理もない。「大事な娘になんてことをしてくれたのか」という母(50)の怒りも当然であろう。このメールを見せた友人の反応は「謝ってないよね」ということで、「先方から届いたのはこのメールのみ。事情を説明する電話もなかった。」という。
「内定を出した時点で労働契約は成立しているはず」だが、「社会経験や力の差を背景に『どうせ学生はこちらの意向に従うだろう』とひどい対応をする企業は多い」(労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は指摘)という実態が横行しているようである。
女子学生はいま就職活動に必死で、「小学校で教わるはずの『悪いことをしたら謝る』という常識すらない大人たちから道を断たれた。激しいいらだちを感じる。メール1通で済ませようと考える大人たち、そしてこの社会への不安もある」としている。「取材の後、女子学生側に会社から謝罪と一定の誠意を示したいとする連絡はあったという。だが、母娘が受けた衝撃と傷は消えていない。」と記事は結んでいる。

次の記事は、「就職の内定取り消しを受けた新規卒業者の数が、2019年度卒は3年ぶりに前年度を上回ったことが厚生労働省の集計でわかった。新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化し、直前に採用を見直した企業が出ているためだ。突然、就職口を失った若者は、悪化する労働市場で再度の就職活動を強いられている。」というものである。
最初の記事と同様に、西日本在住の女性(22)に、内定先のサービス業の外資系企業から「業務がないため採用を中止します。他社で就職先を探してください」という1通のメールが届いた例を紹介している。
実は、「これまでも景気変動や災害があるたびに、立場の弱い新卒者が内定を取り消されてきた」のであり、「2018年度卒は、リーマン・ショック後で最も少ない35人だった。だが、新型コロナで状況は一変している。」という状況である。
「厚労省は、内定取り消しをした企業などにはハローワークへの連絡を求めている。雇用維持の助成金の拡充などを説明して再考を求めると、撤回する例も複数あるという。」としている。

最後の記事は、「全国の自治体で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で内定取り消しを受けた学生を臨時雇用する動きが広がっている」というもので、「神戸市は最大100人の採用枠を設け、千葉県成田市も募集を始めた。一時的に働く場を設けることで、経済環境の激変の影響を受けた若者を支えたい考えだ。」という。
また、「群馬県桐生市も同様の事情を抱える若者5人程度を非常勤職員として採用予定」、「千葉県成田市も内定を取り消された学生らを対象に、21年3月末までの期限付き職員として募集を始めた」、「内定を取り消された学生だけでなく、離職した人も含めて臨時に採用するのは大阪府豊中市」ということである。
「同様の取り組みは民間でも相次いでいる」とし、家電量販店のノジマや畜産・外食の平田牧場(山形県酒田市)の例も紹介されている。また、「東京商工会議所は内定を取り消された若者ら向けに、各地の商議所の会員企業の求人情報を掲載するインターネット上の掲示板を設けている。」とのことである。

東京商工会議所の「採用情報緊急掲示板」は、次の通りである。
https://www.tokyo-cci.or.jp/covid-19/saiyo/
一方、内定取消について、厚生労働省は、次のように掲示している。
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/koyou/q7.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000608831.pdf
「覆水盆に返らず」と言う。内定取消を行った企業が、思い直して入社させてくれるとは思えない。また、そんな仕打ちをした企業に、学生の方も、もう関わりたくないとも思うであろう。けれども、力を振り絞って再び就活に戻る前に、是非ともしておく必要があることがある。それは、「通報」である。一つは、大学の就職指導課であり、もう一つは、ハローワークである。どちらも新たな就活の支援をしてくれるかもしれないが、それ以上に大事なのは、そのようないい加減な企業を許さないという姿勢である。
企業の中には、内定を取り消しておきながら、素知らぬ顔で、また求人を行うものもある。さらに悪質な企業には、内定は取り消さず、入社後にイジメによって退社に追い込むものもあり得る。泣き寝入りをすれば、結局、そうした悪質な企業を容認することになる。だから、「通報」だけは、すべきである。
厚生労働省の報道姿勢には、問題がある。学生にとって死活問題である内定取消について、これだけ大きな問題になっているにも関わらず、きちんとした情報開示が行われていない。上記記事には、内定取消の件数などが記載されているが、そうしたデータは、厚生労働省のHPには見当たらない。また、内定取消を行った企業については、学生などの関係者に注意喚起するためにも、企業名を公表すべきであると思うが、それも行われていない。だったら、学生は、どうするだろうか。「#内定取り消し」というツイッターも立ち上がっているから、口コミで情報共有することになるだろう。そうすると、いい加減な情報が紛れ込む可能性もある。それが、正しい情報を提供しないことに対する報いであって、結局、真っ当な企業のためにならないわけである。