2020年2月5日水曜日

2020年2月5日 日経朝刊21面 (大機小機)デジタル経済と安倍政権のレガシー

「本来自分のデータの価値は自分に帰属するはずだが、プラットフォーマーが人工知能(AI)やアルゴリズムを活用して初めて市場価値となる。」という状況の中、「個人情報保護を厳しくして勝手な利用を制限したり、不公正取引の観点から優越的地位の乱用を防いだりする対応が始まっている。だが、それだけでは格差拡大は収まらない。」とし、「社会規範、モラルの再構築」が必要であるとする論説である。
そして、「OECD統計による比較では、我が国の税・社会保障再分配後の平等度は大きく低下し、先進国中で最も低い部類に属する。」という状況下でも、「アベノミクスは、かたくなにトリクルダウンに固執し、本格的な税・社会保障改革に手を付けないままだ。」と批判し、「所得再分配こそ今日の国家に与えられた役割で、これに本格的に取り組んでこそ安倍長期政権のレガシーをつくることになる。」と結んだものである。

興味深い論説であるが、このところ、アベノミクスの弊害を説く論説が目につくようになっている。先にプログに書いた次も、その一つである。
 https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200204AA12.html
結局、長期政権の弊害が露わになってきているということだが、「社会規範、モラルの再構築」に最も遠いのが安倍首相なのだから、所得再分配など望むべくもない。モリカケ問題に始まり、今回の桜騒動における安倍首相の国会答弁なとは、これで一国の首相なのかと天を仰がざるを得ない有様である。長期政権への忖度を続けてきた官僚達も、さすがに自分達だけを悪者にして乗り切ろうとする宰相の姿には、愛想が尽きているのではないか。IR汚職や選挙活動費・政治資金問題など、相次ぐ不祥事は、「組織はサンマやイワシと同じで頭から腐る」の典型例であろう。モラルなき社会からの脱却の第一歩は、頭を替えることなのではないか。
2020年2月5日 日経朝刊1面 働くシニアの年金減額、22年4月から縮小 制度改正、就労を後押し

下記のブログで取り上げた「70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする法改正案」閣議決定に関するものであるが、この記事の焦点は、「在職老齢年金」の見直しに当たっている。
 https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200204NY01.html
「現在は賃金と年金の合計額が月28万円を超えると年金が減る。2022年4月からはこの基準を月47万円に上げる。」という改正案である。この「在職老齢年金」による年金減額は、60歳から65歳までの厚生年金被保険者にかかるものであるが、「厚生年金の受給開始を65歳に上げる時期に差があるため、対象者は男女で異なる。男性は1957年4月2日~61年4月1日生まれ(58~62歳)、女性は57年4月2日~66年4月1日生まれ(53~62歳)で将来の年金が増える可能性がある。」ということである。
ただし、公的年金の財政的には、「年金支給額は約3千億円増えその分は将来世代の年金が減る。」としている。

「働けば年金が減る」という在職老齢年金制度は、少子高齢化の急速な進展を背景とした高齢者の就労促進という国策に、まったくそぐわない。そのため、厚生労働省は、65歳以上の在職老齢年金制度(高在労)についても、減額対象所得の引き上げを検討したのだが、月額62万円では高過ぎると言われ、月額50万円に下げても、そんな高給者の年金を増やす必要があるのかとの反発が大きく、結局、高在労の見直しはあきらめ、60歳から65歳未満の在職老齢年金制度(低在労)のみの改正案としたのである。
それでも、「働けば年金が減る」というのは、いかにもおかしい。一方で、高給者を優遇するのはおかしいというのも正論である。この矛盾を正すのは、年金制度の枠内では難しく、税制と連携した「税と社会保障の一体改革」が必要になるはずだが、今回の改正案では連携の気運は乏しく、結局は、空回りの議論に終わったといえよう。もっとも、低在労に見直しも大事な事だという指摘は多く、私もそう思う。
ともあれ、一般の国民にとって、65歳を超えて働くという状況は、これから始まるものである。「70歳現役社会」というのなら、「働けば年金が減る」という仕組みの見直しは必須であり、税制と連携した再度の検討が必要となるのも、そう遠い将来ではないだろう。
2020年2月5日 日経朝刊7面 (中外時評)米国ゆがめる「赤の恐怖」

小竹洋之論説委員によるもので、「1950年2月9日、米南部ウェストバージニア州ホィーリング。ジョセフ・マッカーシー上院議員の有名な演説が、ソ連との冷戦に臨む米国に災いをもたらした。」という書き出しである。この「排斥的な扇動者の台頭によって、第2次世界大戦後の「赤狩り」は頂点に達する。ソ連の原爆開発や中国の共産化などに強い危機感を抱いた米国は「反共ヒステリー」の状態に陥り、曖昧な根拠で多くの要人を糾弾したのである。」としている。
そして、「マッカーシーの演説から70年。いまの米国は中国との新冷戦のさなかにある。」とし、「米国は国際テロ組織アルカイダによる2001年9月の同時テロにも過剰反応し、アフガニスタン・イラク戦争の泥沼にはまったといわれる。中国の影におびえるあまり、かつての過ちを繰り返してほしくはない。」と結んでいる。

この記事に描かれた「赤の恐怖(Red Scare)」をベースとした「赤狩り」は、多くの米国民の脳裏に染みついているようである。当時の状況は、それほどに熾烈だったと思われるが、その様子は、『ビッグコミックオリジナル』誌の山本おさむ氏の連載マンガ『赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD』にも、生々しく描かれている。
https://bigcomicbros.net/comic/akagari/
記事では、中国との冷戦の行方を気にしているが、「赤の恐怖」は今年2020年11月の米大統領選にも、大きな影を落としている。現在、民主党の予備選が行われているが、若者に大きな支持を得ているのが、バーニー・サンダース上院議員である。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200209AA01.html
しかし、急進左派とされる彼が、大統領になるのは難しいと見込まれている。共和党支持者の富裕層の抵抗もあるだろうが、最も大きな要素は、「左派」=「赤」=「恐怖」という短絡的な大衆の思考にあるように思われる。若者には、そのような桎梏がないから、純粋な応援ができるのだとも思われる。
ウソや職権乱用の塊でありながら、経済好調を背景に、弾劾裁判をも一蹴したトランプ大統領が、再選されるのかどうか。その振る舞いは、わが国の安倍首相の状況にもつながる。一部には、トランプ大統領が再選されるようなら、仲の良い安倍首相が続投した方がよいのではないかという声まである。
山本おさむ氏のマンガでは、「赤狩り」の一派は、当時の大統領選でニクソン候補を推し、対立するケネディ候補を失脚させようと動いたように描かれている。どこまで史実に忠実なのかは分からないが、「さも、ありなん」と思わせる展開である。だが、結局、ケネディ大統領が誕生することとなった。
トランプ大統領の再選を許すのか、それとも、「赤狩り」の桎梏を離れて、新たな大統領が誕生するのか、今度の米大統領選は、米国のみならず世界の今後の情勢を左右する。