2020年2月11日火曜日

2020年2月11日 日経朝刊15面 (一目均衡)「黒船」フィデリティの衝撃

「日本の資産運用ビジネスを変える」と意気込むフィデリティ証券の考え方や動向を取り上げたものである。同社は、「金融庁の認可を前提に、年内にも「投資助言代理業」として登録し、投資家1人ずつに運用をアドバイスする。」とのことであり、「取り扱いのある600本超の投信の手数料撤廃はその第1段階にすぎない。」という。
当たり前の戦略のように思うが、「証券・運用業界はざわついた。将来、日本の個人向け金融で手数料がとれるのはアドバイザリーのみとなり、「単純な売買の取り次ぎや執行は無料化に向かう」(日本資産運用基盤グループの大原啓一社長)という認識は広がりつつある。」のだという。
同社は、「第2段階では、すでに実績のあるロボットアドバイザリーツールも導入し、基本的な資産構成の提案や入れ替えを効率的にできるようにする。」そうで、「日本でもグローバル水準のサービスを持ち込む方針に切り替えた。」とのことである。
そして、「笛吹けど踊らず」だった日本の資産運用ビジネスが大きく動く気配がする、と論説は結んでいる。

改めて見てみると、日本で投資が一般化しなかったのは、当然に思える。「日本の個人金融ビジネスは現状、特殊な市場だ。中核となるべき低コストのインデックス(指数連動)型や日本株投信はそれほど成長せず、毎月分配型やレバレッジ型が幅をきかせる。」というのは、まともな投資の状況ではない。
「単純な売買の取り次ぎや執行」で手数料がとれるから、乗り替えと称して、必要もない有価証券の売買を投資家に勧めてきたのが、証券業界の体質であろう。当たり前のことを「黒船」と大騒ぎするのは、後進性を象徴するもので、投資鎖国の現状を物語る以外の何物でもない。
一方で、日本人は、「サービスは無料」と考えていると言われて久しい。細やかなサービスは、その質の分だけの対価に値する、という考え方は、今でもあまり浸透していないように思える。例えば、美味しい料理なら、どんどん値段を上げていってもよいという考え方に対し、そんなことをすれば庶民が食べられなくなるとして値段の引き上げを抑え、長く顧客になってもらうというような考え方が、根強くあるように思われる。
どちらの考え方にも理はあるが、商品やサービスの回転が非常に速くなっている現代では、長期的な関係に依存するだけではうまく行かないことも多いのではないだろうか。
ともあれ、市場の開放や拡大は、新たな商品やサービスを生み出す。それによる活性化が魅力を引き出し高めることは、投資市場においても例外ではあるまい。
2020年2月11日 日経朝刊5面 日本の40年後、高齢化でGDP25%下振れ IMF報告

「国際通貨基金(IMF)は10日、日本の経済情勢を分析する対日報告書を公表した。少子高齢化の影響で40年後の実質GDP(国内総生産)が25%下振れする可能性があると警告し、非正規労働者の技術訓練など労働市場の構造改革を求めた。」という記事である。
「今回の報告書では19年の消費税増税で日本の実質経済成長率は20年が0.7%、21年は0.5%にとどまると試算。政府は20年度に1.4%の成長を見込んでおり、見解の差は鮮明だ。物価上昇率もそれぞれ1.1%、1.2%と日銀が目指す2%には届かないと分析した。」とのことである。
「長期的なリスクとしては少子高齢化と人口減少を挙げた。現行の政策を続けた場合、40年後の日本のGDPは12~17年並みの成長率を維持できた場合に比べて25%も下振れすると結論づけた。」とし、「経済力を高めるには労働生産性の引き上げが欠かせないと指摘し、非正規労働者のスキルアップへ「同一労働同一賃金」の徹底などを求めた。」としている。

ほぼ記事全文を参照することになったが、IMFの発表を探すと、次が見つかる。
https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/02/10/na021020-japan-demographic-shift-opens-door-to-reforms
https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/02/07/pr2039-japan-imf-executive-board-concludes-2019-article-iv-consultation
だが、この日本語の内容は、記事には、そのままはつながらない。そこで、英文資料を探してみると、次が出てくる。
https://www.imf.org/en/Publications/CR/Issues/2020/02/07/Japan-2019-Article-IV-Consultation-Press-Release-Staff-Report-and-Statement-by-the-Executive-49032
https://www.imf.org/~/media/Files/Publications/CR/2020/English/1JPNEA2020001.ashx  (このリンクで、PDFがダウンロードされる)

このIMFの報告書については、NHKも取り上げており、「社会保障費の増加による財政悪化に対処するためには、歳出の削減に加えて、2030年までに消費税率を今の10%から15%に、2050年までに20%に段階的に引き上げることや、富裕層の資産に対する新たな課税制度を導入することが必要だと提案しています。」としている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200211/k10012280881000.html

人口が減少すれば、GDPが小さくなるのは避けられまい。その減少を少しでも減らす努力も大事だが、国民の豊かさとしては、全員に行き渡るような、より公平な分配も考える必要があるだろう。その分配問題は、世界中で課題となっているものであり、日本でも、もっと本気で検討する必要があるのではないか。