2020年4月19日日曜日

2020年4月19日 日経朝刊31面 ●氷河期世代 45歳の再挑戦 時代恨まず、前を向いて
2020年4月20日 日経朝刊3面 ●氷河期世代 450人を採用 政府、3年間で

最初の記事は、就職氷河期時代を経験した方が、兵庫県宝塚市役所に採用されたことに関するものである。
「初めて就職活動をしたのは1998年。いわゆる就職氷河期だった。バブル経済が崩壊し、企業は一斉に採用を絞った。街には内定をもらえない学生があふれた。」中で、「大手志向でとりあえず受けた」のはメーカーや金融など約50社。1社から内定が出たものの、自分がそこで働く姿を想像できず、どうしても入社に踏み切れなかった、という。
そして、「翌年、改めて同じくらいの数を受けたが、今度は1社も内定がもらえない。2年をかけて何とかコンビニの正社員に採用され「やっと落ち着いて働ける」と安堵した。
だが、いざ働き始めると、想像もしない生活が待っていた。早朝、深夜問わず携帯電話が鳴り、担当の店舗に駆けつける。ノルマを達成するため、クリスマスケーキやお中元の商品を自分で大量に買うこともあった。」とし、「耐えきれずに退職し、契約社員などの職を転々とした。採用面接の途中で面接官が携帯で誰かと話し始めたことすらあった。結果はもちろん不採用。「まともに話すら聞いてもらえないのか」。就職難の時代を恨んだ。
その後、非正規の公務員職に就いたが、常に「来年もここで働けるのだろうか……」と不安に駆られた。レールに乗り損ねた境遇を恥じ、正社員の座を射止めた高校や大学時代の友人と連絡を取ることもなかった。」とのことである。
そんな中、「これに応募してみたら?」という妹の助言で、「宝塚市の就職氷河期世代対象の採用」(採用予定は3人程度)に応募し、「時代を恨んでも仕方がない。前向きに生きよう」という気持ちになって、「合格」したというものである。
記事は、「初めての就職活動から20年がたった。時間はかかったが「自分の働く姿が、同世代の人が再挑戦するきっかけになるかもしれない」。45歳、折り返し付近で新たな人生が始まった。」として結んでいる。

後の記事は、「政府は2020年度から3年間で、就職氷河期世代から450人以上を中途採用する方針だ。初年度は157人を募集し、11月29日に統一採用試験を実施する。政府は22年度までに国全体で氷河期世代の正規雇用者を30万人増やす目標を掲げており、自治体や企業でも同世代を採用する動きが広がってきている。」というものである。
対象は、「1966年4月2日から86年4月1日までに生まれた人。中央省庁での事務職員や刑務官、入国警備官などの職種で募集する。」とのことである。「氷河期世代はバブル崩壊後の就職難で安定した職に就けなかったり、引きこもりになったりしている人が多い。」のに対し、ようやくにして救済措置が検討されることとなったわけである。
しかし、「新型コロナウイルスの感染拡大で労働市場全体が冷え込めば、氷河期世代の採用拡大も進まなくなる恐れがある。」と記事は結んでいる。

就職氷河期の救済対象者は、上記の通り、「1966年4月2日から86年4月1日までに生まれた人」ということである。その人達が、大学を22歳で卒業した年ということで見ると、1988年から2008年と幅広くなるが、この間には、二つの就職氷河期がある。
一つは、20世紀末のバブル崩壊であるが、1989年12月29日の大納会で、日経平均が終値の最高値38,915円87銭を付けた後に、失われた10年とも20年とも言われる長い経済の低迷期に入った時期である。最初の記事の方が、1988年(あるいは思い違いで1989年かも)に就活を行ったとすると、バブル崩壊の直前ということになる。恐らくは、それまでのバブル景気の中での先輩の就活などを踏まえての「大手志向」だったのだろうが、それが災いして内定1社だったのだろう。ところが、それも蹴ってしまう。翌1989年の就活が非常に厳しくなったのは当然で、山一證券や長期信用銀行といった大手金融機関すら破綻した時期である。
もう一つは、米国で住宅融資に関わるサブ・プライムローン債権の破綻によるリーマン・ショックである。これは2007年に発生したもので、その影響が2008年以降にも続いたわけである。
さて、今回のコロナ・ショックの影響は、どうだろうか。当初は、リーマン・ショックほどではないと言っていた経済評論家もいたが、そんな声は消え失せた。今は、バブル崩壊時ほどではないという声もあるが、経済指標では、過去最低の状況にある。
学生にとっては、振り返って、どの程度の衝撃だったかは、どうでもよいことであろう。喫緊の関心事は、就活がどうなるのか、であろう。ここでも、バブル崩壊後に採用を抑え過ぎて苦労した企業は、その轍を踏まないのではないかとか、自粛が解除されたら、経済活動は急激に活発になるはずで、人手不足になる可能性がある、といった楽観的予想もある。
だが、そうならなかったら、どうするのか。そうなったとしても、時期がずれたら、というような事を、就活を行う学生は、真っ先に考えるべきである。内定が得られた場合には、どんな会社であっても、最後の最後まで手放してはならない。過去の経験からして、現在雇用されている従業員すら雇用不安に怯えている状況の中、新卒採用の優先度が高まるはずはない。
ともかくも内定を確保した上で、今後伸びていく業界を考えるとすれば、第4次産業革命を牽引するIT業界ということになろうが、誰もが同じ事を考えるはずだし、要求される知識や技能のレベルは高い。それでも、どんな業界・企業に入ろうとも、IT知識は必須になるから、昨年度までの学生が経験していないオンライン講義の経験などは、貴重である。結局、講義に身を入れることが、自分を守る近道ということになるのではないか。
2020年4月19日 朝日朝刊23面 ●大学封鎖、逆境の春 学生「学費減額して」/就活ほぼストップ

「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの大学が校内への立ち入りを禁じている。自宅待機を余儀なくされ、就職活動も中断するなど学生たちの日常は一変した。大学側は外出自粛の長期化を見すえ、授業のオンライン化などの対応に追われている。」という記事である。各大学の状況が報じられ、就活にも大きな影響が出てきているとしている。
一方で、「オンライン授業を準備する大学が増えている。4月10日時点の文部科学省の調査によると、全国の大学(短大を含む)の48%が「遠隔授業を実施する」と回答。「検討中」も36%あった。」とし、東京大や法政大、パソコンやポータブルWiFiを貸し出している国際基督教大の例が紹介されている。
これに対し、「文科省も対応を急ぐ。3月下旬、省令で定める授業のルールの弾力化を各大学に通知し、対面授業ができない場合、同時双方向型授業のほか、オンラインでの質疑応答の機会があればリポート提出などによる代用を認めた。卒業に必要な124単位のうち60単位まで、となっているオンライン授業の上限を見直す用意もあるとした。」とのことである。
「ただ、都内の大学教員は教え子の学生について「スマートフォンは必需品でも、パソコンやタブレット端末はほぼ持っていない」。多くの学生がリポート作成などを大学のパソコン室でやっているという。「急ごしらえの対策で対応しきれるのか」」との声も紹介されている。「学生の通信料金負担の軽減枠の拡大を求める声」や「ネット上では学費の一部返還を求める署名活動も始まった」とのことである。

今回のコロナ・ショックで、世界各国に比して、日本が大きく遅れていることが明らかになった点が2つある。一つは、PCR検査で、SURSやMURSの危機に襲われた韓国などに比べると、日本の感染症対策の状況は著しく遅れている。自衛隊の救護活動で二次感染が生じていないことが称賛されているが、それは、細菌戦への備え故であろう。
そして、もう一つがIT活用の遅れである。オンライン教育も惨憺たる状況であるが、企業でのテレワークなども、十分な対応ができていない状況であることが明るみに出た。海外からは、何せ、サイバーセキュリティ担当の桜田義孝元大臣が、「パソコンは使わない」(実際は、「使えない」だろう)と公言しているくらいだから、と冷笑されているのであろう。
だが、とても笑いごとではないのは、大学教員の中には、オンライン講義に対応できていない人は少なくなく、大わらわで、基礎的な操作方法の講習をしているような有様であることである。
大学でも、企業でも、さらには個人でも、対面が大事というような牧歌的というか時代遅れの状況には、もはや戻れない。コロナ・ショックで、IT技術を核とする第4次産業革命は、世界中を席捲している。遅ればせながら、わが日本においてすら、である。