2020年4月23日木曜日

2020年4月23日 日経朝刊2面 (社説)問題多い年金法案の拙速審議は許されぬ

「国会が年金関連法改正案の審議を始めた。厚生労働省が実施した2019年の財政検証結果を受けた法案だが、制度の長期的な持続性を高める策を十分に盛り込んだとは言いがたい。」とする社説である。
「制度の持続性を高めるカギは、経済がデフレ基調のときに年金のマイナス改定を可能にしたり、基礎年金の最低保障機能を充実させたりする改革にある。だが法案は将来世代への視点が弱く、これらの課題解決には力不足である。」としている。
法案の主な内容は、①働く高齢者への年金支給のあり方、②非正規社員の厚生年金への加入促進、③年金をもらい始める年齢の上限引き上げ、の3点とし、①は「厚生年金の支給開始は65歳への引き上げ途上にあり、大きな意義は見いだしにくい」、②は「会社員の夫をもつパート主婦は、新たに求められる保険料負担を避け就業時間を減らす可能性が強い。流通業などの人手不足問題には逆風になる」、③は「基準年齢を70歳に引き上げたうえで、繰り上げ・繰り下げの範囲を65~75歳にするなど、年金財政を好転させる改革を求めたい」としている。
その上で、「現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定を可能にするルールを見送った点だ。デフレ基調が続けば、そのツケは将来世代に及ぶ。経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化すべきである。」「基礎年金が著しく目減りする副作用をどう和らげるか。消費税収などを活用して安定した公費財源を確保するのが、政治の責任であろう。」としているものである。

今回の法改正案の概要は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/000601826.pdf
この内容自体は、それぞれ意義のあるものであろうと思うが、社説の言うように、本質的な問題点を十分に討議した上のものとは思えない、言わば、小手先の改革案である。
では、本質的な問題点とは何か。それは、社説の言うように、支給開始の「基準年齢を70歳に引き上げ」であり、「基礎年金が著しく目減りする副作用」への配慮である。
社説では、「経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化」に力点が置かれているように感じられる。そこが、「基礎年金の機能劣化」を最大の問題と考える筆者とのスタンスの違いである。
ともあれ、最大の課題を置き去りにした法案が、「答弁に立つ厚労相は新型コロナウイルス問題で多忙をきわめる。人びとの関心がコロナ危機に向いている間に成立していた、ということがないようにすべきだ。」という点は、まったく同感である。