2020年3月25日水曜日

2020年3月25日 日経朝刊2面 GPIF、外債比率10ポイント引き上げへ 高利回り投資シフト、円安要因の可能性
2020年4月1日 朝日朝刊4面 年金運用、外債シフト 新年度から 国債利回り見込めず
2020年4月1日 日経朝刊7面 GPIF、海外運用に傾斜 資産構成改定、外債比率25%に 為替リスク高まる

最初の記事は、スクープ的な速報で、「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は資産構成の見直しで、外国債券の比率を10ポイント引き上げて25%とする方針だ。…25%ずつとしている国内外の株式は現状を維持する。」というものである。「見直しは5年半ぶり。30日に開く社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の専門部会に諮り、31日に発表する。」としている。
記事で注目しているのは、「外債と外国株を合わせた外国資産の割合は50%に達し、為替の変動が運用に与える影響は拡大する。」という点で、「地方公務員共済組合連合会と国家公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団の3共済もGPIFと歩調を合わせる見通しで、計約190兆円(19年3月末時点)に上る運用資産の一部が外債投資に向かえば為替相場の円安要因となる。」としている。

2番目の記事は、上記の記事内容の3月31日の正式発表を受けたものである。過去からの経緯として、「以前はリスクの低い国内債券が大半だったが、14年の見直しで国内外の株の割合を計5割に倍増させた。短期的に資産価値が変動するリスクも高まっているため、今回は株は増やさない判断をした。一方、国債など国内債券に比べて利回りが見込める外国債券を増やすことにしたという。」とし、SMBC日興証券の末沢豪謙アナリストの「米国債などの金利はプラス圏で推移しているための判断だろう。ただ、外国債券は為替リスクもあり、信用力の低い外国債はデフォルト(債務不履行)のリスクもあることに注意が必要」との指摘を紹介している。
そして、政府は「市場の一時的な変動に過度にとらわれるべきではない」(加藤勝信厚労相)との立場だが、中長期的に運用がうまくいかないと将来の年金水準に響く可能性もある、と記事は結んでいる。
■公的年金の運用資産構成(現在→変更後)
 国内株25%→25% 外国株25%→25% 国内債券35%→25%↓ 外国債券15%→25%↑

最後の記事も、朝日記事と同様の内容であるが、「日本国債の投資収益が低迷する中、利回りの高い資産の比率を高める狙いだが、為替変動による短期的な資産変動は大きくなり、海外リスクが高まる。」点に着目している。「実際の運用構成が基本ポートフォリオからずれる許容幅も改める。外国債は目標値から6%、外国株は7%までの乖離(かいり)を認めることとした。これにより、最大で国民の年金積立金の63%が海外の資産で運用される可能性がある。」としている。
その上で、GPIFの高橋則広理事長の「国債は安全な資産ではあるが、金利がマイナスであるものに投資していいのか、ずっと組織の中でも悩んでいた」「海外の方が利回りや物価の上昇率が高いという格差が埋められない中で、利回りを海外に求める結果として外債が増えた」「仮に1%でも10年で約10%になる。100円で購入しても、90円までは問題がない」という発言を引いている。

GPIFの運用資産構成の変更については、2020年3月30日の社会保障審議会資金運用部会に資料が掲載されており、厚生労働大臣からの諮問が、社会保障審議会で了承されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10574.html
やはり気になるのは、上記記事にあるような海外投資の割合の大きさと、前回変更されたままの株式投資の割合の大きさである。どちらも、投資収益を大きく変動させるものである。今回のコロナ・ショックによる内外株式の急落で、株式比率の大きい公的年金の資産運用は、民間の企業年金を上回る打撃を受けることになる。資産運用では、短期的に一喜一憂すべきではないが、リスクの大きさが許容できる範囲のものであるのかどうかは、不断の検証やチェックが必要であろう。株頼み、海外頼みが、日本の年金受給者のための資産の運用として適切なのか、疑問が残る。
2020年3月25日 日経 夕刊2面 「年金食堂」無料で月4万食 ロシア

「ロシアで年金受給者に無料で昼食を提供する「年金食堂」が広がり始めた。小さなカフェの取り組みが注目されて支援を集め、3都市で毎月4万食を提供する。背景には貧富の差が縮まらず、多くの高齢者が困窮するロシアの現状がある。」という記事である。
「きっかけはサンクトペテルブルクのカフェだった。17年11月、店主のアレクサンドラ・シニャクさんが高齢男性から代金を受け取るのをためらって無料で食事を振る舞った。本格的に年金受給者に無料で昼食を提供し始めると利用者が増加。借金も膨らみ、家も抵当に入れたが、動画サイトで取り組みが紹介されたことで、食材の提供や寄付、ボランティアが集まり始めた。」としている。
「背景には高齢者の深刻な貧困がある。連邦統計局によると、19年の年金受給者約4600万人の平均受給額は月約1万4000ルーブル(約2万3000円)。政府が定める必要最低限の生活費(約1万1000ルーブル)をやや上回る水準にとどまる。18年には受給開始年齢を段階的に引き上げる年金改革の実施が決まり、全国的な抗議運動に発展した。」としている。
これに対し、「政権も年金改革で低下した支持を取り戻したい考えだ。プーチン大統領が提案した改憲案では「物価に応じて年金支給額を少なくとも年に1回見直す」と明記した。4月22日に予定する改憲の是非を問う全国投票で賛成票を集める狙いもある。独立系調査機関レバダセンターによる世論調査では改憲で支持する点として、「年金の定期的な見直し」が最多の92%を占めた。」という。
その上で、「ただ改憲が生活改善につながるとの期待は薄い。サンクトペテルブルクで月約2万ルーブルの年金で暮らす男性(84)は「大統領が居座るための改憲に希望はない。ソ連時代の方が福祉が充実して安定していた」。貧困層は人口の約13%と高止まりしている。社会主義のソ連に郷愁を抱く国民も増え、レバダセンターの18年末の調査では「ソ連崩壊を残念に思う」との回答が05年以降で最多の66%に達した。」とのことである。
記事では、補足として、「プーチン政権の年金改革」について、「ロシアで2019年から始まった年金の受給開始年齢を男女ともに段階的に5歳ずつ引き上げることを柱とする改革。受給開始年齢は23年までに男性が65歳、女性が60歳になる。プーチン大統領が18年に年金改革法案に署名して成立した。」とし、「財政負担の軽減や労働人口の確保が狙いとされる。発表後にプーチン氏の支持率が約8割から6割台に急落し、抗議運動が広がった。プーチン氏は女性の受給開始年齢の引き上げを当初案の63歳から60歳に見直す譲歩策を示し、理解を求めた。」と記している。

どの国でも、国民は高齢化しており、年金制度の改革が必要であるが、その実行は難しい。そのことが、独裁プーチンのロシアでも例外ではないことを知らしめる記事である。
ロシアの年金制度の概要については、少し古いが、次の「年金シニアプラン総合研究機構」の調査報告を参照されたい。
ロシアの年金改革の柱は、年金支給開始年齢の引き上げだが、60歳を65歳に延長するのは、日本人からすると当然に思えるであろう。それでも反発が強いのは、年金額の水準が低いことに加えて、ロシア人の平均寿命が、今後は高齢化すると想定されているが、現時点では短く(下記のWHO資料86ページでは、2018年の男子で66.4歳)、年金受給期間が僅かな期間になるという点があるようである。
このロシアの状況を、日本とは無縁のものと考えてよいのであろうか。私には、とても、そう思えない。2019年財政検証の結果によれば、基本ケースと考えられるケースⅢ(人口中位)において、基礎年金(1人分)の所得代替率は、2047年度以降は13.2%に下落する。正社員として上乗せの厚生年金を十分にもらえればともかく、非正規労働を長く続けざるを得なかった就職氷河期時代の人々などは、現役世代の1割ちょっとの年金で、高騰していく医療・介護の保険料も賄わなければいけなくなるのである。
対策を考えるのは容易ではないが、少なくとも、長く働く(働ける)ことを基軸とし、国民が分断ではなく連帯して立ち向かわなければならない課題であることは、間違いない。