2020年3月25日水曜日

2020年3月25日 日経 夕刊2面 「年金食堂」無料で月4万食 ロシア

「ロシアで年金受給者に無料で昼食を提供する「年金食堂」が広がり始めた。小さなカフェの取り組みが注目されて支援を集め、3都市で毎月4万食を提供する。背景には貧富の差が縮まらず、多くの高齢者が困窮するロシアの現状がある。」という記事である。
「きっかけはサンクトペテルブルクのカフェだった。17年11月、店主のアレクサンドラ・シニャクさんが高齢男性から代金を受け取るのをためらって無料で食事を振る舞った。本格的に年金受給者に無料で昼食を提供し始めると利用者が増加。借金も膨らみ、家も抵当に入れたが、動画サイトで取り組みが紹介されたことで、食材の提供や寄付、ボランティアが集まり始めた。」としている。
「背景には高齢者の深刻な貧困がある。連邦統計局によると、19年の年金受給者約4600万人の平均受給額は月約1万4000ルーブル(約2万3000円)。政府が定める必要最低限の生活費(約1万1000ルーブル)をやや上回る水準にとどまる。18年には受給開始年齢を段階的に引き上げる年金改革の実施が決まり、全国的な抗議運動に発展した。」としている。
これに対し、「政権も年金改革で低下した支持を取り戻したい考えだ。プーチン大統領が提案した改憲案では「物価に応じて年金支給額を少なくとも年に1回見直す」と明記した。4月22日に予定する改憲の是非を問う全国投票で賛成票を集める狙いもある。独立系調査機関レバダセンターによる世論調査では改憲で支持する点として、「年金の定期的な見直し」が最多の92%を占めた。」という。
その上で、「ただ改憲が生活改善につながるとの期待は薄い。サンクトペテルブルクで月約2万ルーブルの年金で暮らす男性(84)は「大統領が居座るための改憲に希望はない。ソ連時代の方が福祉が充実して安定していた」。貧困層は人口の約13%と高止まりしている。社会主義のソ連に郷愁を抱く国民も増え、レバダセンターの18年末の調査では「ソ連崩壊を残念に思う」との回答が05年以降で最多の66%に達した。」とのことである。
記事では、補足として、「プーチン政権の年金改革」について、「ロシアで2019年から始まった年金の受給開始年齢を男女ともに段階的に5歳ずつ引き上げることを柱とする改革。受給開始年齢は23年までに男性が65歳、女性が60歳になる。プーチン大統領が18年に年金改革法案に署名して成立した。」とし、「財政負担の軽減や労働人口の確保が狙いとされる。発表後にプーチン氏の支持率が約8割から6割台に急落し、抗議運動が広がった。プーチン氏は女性の受給開始年齢の引き上げを当初案の63歳から60歳に見直す譲歩策を示し、理解を求めた。」と記している。

どの国でも、国民は高齢化しており、年金制度の改革が必要であるが、その実行は難しい。そのことが、独裁プーチンのロシアでも例外ではないことを知らしめる記事である。
ロシアの年金制度の概要については、少し古いが、次の「年金シニアプラン総合研究機構」の調査報告を参照されたい。
ロシアの年金改革の柱は、年金支給開始年齢の引き上げだが、60歳を65歳に延長するのは、日本人からすると当然に思えるであろう。それでも反発が強いのは、年金額の水準が低いことに加えて、ロシア人の平均寿命が、今後は高齢化すると想定されているが、現時点では短く(下記のWHO資料86ページでは、2018年の男子で66.4歳)、年金受給期間が僅かな期間になるという点があるようである。
このロシアの状況を、日本とは無縁のものと考えてよいのであろうか。私には、とても、そう思えない。2019年財政検証の結果によれば、基本ケースと考えられるケースⅢ(人口中位)において、基礎年金(1人分)の所得代替率は、2047年度以降は13.2%に下落する。正社員として上乗せの厚生年金を十分にもらえればともかく、非正規労働を長く続けざるを得なかった就職氷河期時代の人々などは、現役世代の1割ちょっとの年金で、高騰していく医療・介護の保険料も賄わなければいけなくなるのである。
対策を考えるのは容易ではないが、少なくとも、長く働く(働ける)ことを基軸とし、国民が分断ではなく連帯して立ち向かわなければならない課題であることは、間違いない。

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