2020年11月17日火曜日

★今回の論点:来年度以降の就活は、さらに厳しくなる。

2020年11月17日日経夕刊2面「「既卒3年新卒扱い」効果は 就活の緊張感なくす恐れ」

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏によるコラム「就活のリアル」欄における論説である。

「コロナ禍で就職氷河期の再来が危惧されている」ことに対して、「厚労相、文科相、一億総活躍相が経済団体首脳と、卒業後3年以内の既卒者を新卒扱いとすることを話し合った」ことから書き出している。この要請は、次の通りである。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1-img/2r9852000000wgtr.pdf

氏の主張の要点は、「好景気と氷河期の採用規模の違いは、大企業でみると半減となっているが、全体では1~2割減のレベル」ということであり、「氷河期だと、大企業が欲しがるような優秀な学生は、第1志望は無理でも、第2志望・第3志望あたりには受かっているのだ。逆に言うと、すべて落ちるくらいだと、好況期になっても第1志望に受かるのは難しいだろう。」ということである。そして、「「既卒3年大丈夫だから」と学生が就活に本腰を入れてかからず、すぐ諦める悪い風潮のみがまん延してしまうことが一番の問題」と結んでいる。

この記事の標題を見た時には、少し違和感を感じた。そもそも、日本は従来の新卒一発採用から脱却して、職務内容を明確にしたジョブ型雇用に転換すべきである、とされている。その観点からすると、新卒一括採用の中での「就活の緊張感」を論じる必要があるのだろうかという疑問を抱いたのである。

しかし、記事の中身を読むと、その新卒一括採用の慣行にどっぶり浸かっている学生に対する警鐘であることが分かった。安易に、「今年はあきらめて来年を狙います」と言う学生に対し、氏は、「今年、ある程度の企業に一つも受からないのに、景気回復したら第1志望に入れるなんてことはないよ」と伝えているそうである。

ジョブ型雇用においては、新卒・既卒の区別は無意味である。しかし、依然として新卒一括採用につながっている年功序列・正社員長期雇用の慣行が根強いことを、行政の「既卒3年新卒扱い」は物語っているわけである。一方の企業は、記事にあるように、「大企業はこれが何の意味も持たないことを知っている。お付き合い程度に「既卒OK」と書いているのだろう。」ということになるわけである。

同じような事は、かつて大学入試でもあった。私が大学を受験したのは1970年春だったが、大学紛争で前年の1969年春の東大入試は中止になった。何が何でも東大という人は、翌年、すなわち私の受験した1970年春に受験したわけだが、そのあおりを受けて、他の大学の競争率も軒並み上がる結果となった。

就活でも、同様の事となる。さらに悪いのは、来年の就活の見通しがさらに暗いことである。企業にとって、業績の先行きが見えない時は、人件費の抑制を考えざるを得ず、新卒採用は、真っ先に抑制されることとなり、それは何年か続く。一方、好況になると、一斉に採用強化に乗り出すので、採用難に陥ることになるのである。少子化で若年労働力は大きく減ってきているのであるが、この「右往左往」とも言える状況は過去からあまり変わらず、特に大企業を目指す学生にとっては、就活する年の景気動向に振り回されることになる。

一方で、そうやって折角入った大企業でも、入社3年以内に3割の新入社員が辞めていくとされている。「大企業」という名につられただけで、仕事内容が自分に向いていないこともあるのだろう。

卒業の年に、人生が決まるわけではない。大学入試の場合でも、失敗を引きずって何年も浪人するのでは、精神的に追いつめられることも多いだろう。人それぞれの人生ではあるが、大企業でなくても内定を得られた企業とはご縁があるわけだから、ちゃんと仕事内容などを把握して、働き始める方がよいのではないだろうか。氏の説くように、「今年ダメなら来年」というような安易な考えが最も危険であろう。