2020年1月31日金曜日

2020年1月31日 日経朝刊27面 (私見卓見)日本も携帯番号での送金を
2020年1月25日 日経朝刊5面 スマホ決済、気づけば借金 若者に多重債務リスク
2020年1月25日 日経夕刊3面 NY市、現金お断りの店禁止へ 法案可決、低所得者に配慮

最初の「私見卓見」での論説は、麗沢大学の中島真志教授によるもので、「キャッシュレス化には実は2つの局面がある。店舗と消費者間の決済を指す「B2C決済」と、個人と個人の決済を指す「P2P決済」だ」とし、「社会全体でキャッシュレス化を進めるにはP2P決済も欠かせないが、日本では議論が抜け落ちている。」というものである。
教授は、海外で普及する「携帯番号送金」の仕組みに言及し、「最も成功しているのがスウェーデンの「スウィッシュ」で、国民の7割以上が利用するサービスだ」としている。そして、「裏で稼働しているのは既存の銀行間の決済システム(日本でいえば全銀システム
)」であるが、「日本では各行がバラバラにキャッシュレス決済を打ち出し、利用者は使い勝手が悪い。」ので、「銀行界が一丸となって「日本版スウィッシュ」を導入すべき」と結んでいる。

これに関連するのが、上記2番目の記事で、「多重債務者が再び増え始めている」ことの背景にあるのが「スマートフォンを使う買い物と簡単な借り入れの増加だ。キャッシュレス決済の普及もあり、個人が気づかないうちに多額の借金を抱えるリスクにさらされている。」というものである。
「スマホを使う新しいサービスは買い物と借り入れのハードルを下げる」ことになり、「キャッシュレス決済の普及でさらに広がる可能性が高い」ということである。これに対し、記事では、小野仁司弁護士は「貸金業のみが与信とは限らず、キャッシュレス決済を含めた若者の実態把握が必要だ」と話す、とし、また、ニッセイ基礎研究所の井上智紀氏は「借り入れに依存せざるを得ない世帯が増えている可能性がある」と指摘する、としている。

一方、3番目の記事は、ニューヨーク市が現金で支払いができない「キャッシュレス店舗」の禁止に乗り出した、というものである。「同市市議会が小売店や飲食店が現金による支払いを拒否し、クレジットカードなどに限ることを禁じる法案を賛成多数で可決」したのは、「クレジットカードを作れない低所得者層を保護する目的がある」とのことである。
法案提出の議員は、「カードを持つことができない有色人種の地域社会に差別的な効果をもたらす」と説明したそうである。「ニューヨーク市の調査によると、2019年時点で全世帯の11.2%が銀行口座を持たず、21.8%は口座はあるがローンの支払いなどに限られ、カードを十分に利用できない状態だった。」だそうである。

以上を踏まえて、キャッシュレスについて考えて見ると、日本の場合、海外に比較して現金での買い物などの比率が高いとされているが、それを支えているのが、全国津々浦々にあるATM網である。銀行はATMを減らしているが、ゆうちょのATMは各所にある上に、今では広く普及しているコンビニATMが利用できる。
キャッシュレスだろうと、利用する上では、預金残高の裏付けが必要である。それがなければ、キャッシングで借入となるのが注意すべき点で、金利が高う上に、キャッシュレスだと使い過ぎの歯止めがかかりにくい。クレジットカードのリボ払いなどは論外で、高利貸しと何ら変わるところはない。
現金での生活は、収入の範囲内での支出という身の丈の合ったものになるし、災害時にはキャッシュレス対応機器が停止することもあるので、現金の方が都合がよい。
それでもキャッシュレス化が進んでいるのは、「電子商取引(EC)のポイント目当てでクレジットカードを作り、スマホにひも付けてコンビニエンスストアなどでQRコード決済する。」という流れによる。極めつけは、昨年10月の消費税増税に合わせて導入されたキャッシュレス還元である。貴重な増収財源を使っての還元は、一体何を目的としているのか分かりにくいが、増税感の先送りであろう。その先には、マイナンバー還元も控えているという。
「私見卓見」での教授は、このようなキャッシュレスの負の側面には触れていない。紙面の制約もあろうし、主張がキャッシュレス推進の立場だからだろうが、受け手の読者としては、慎重に受け止める必要があるだろう。

もう一つ気になるのは、携帯番号という媒介手段である。実のところ、これが到るところに蔓延している。実感としては、若者にとっては、マイナンバーよりも普及していると思われるが、果して、その保護は十分なのだろうか。携帯といっても大方はスマホだろうが、それを紛失すると大事で、財布を落とした場合の比ではない。マイナンバーのセキュリティを気にする人は多いが、携帯番号のセキュリティ管理も、もっと強化する必要があるのではないか。社会問題となっている「振り込め詐欺」も、高齢者にスマホ決済が行き渡れば、スマホ送金に切り替わって、ますます摘発が難しくなるだろう。

2020年1月28日火曜日

2020年1月28日 日経夕刊2面 (就活のリアル)不況が来たら…心構えは 優秀な学生 採用の機会に

海老原嗣生氏による「就活理論編」の解説である。
「遠からず不況が来る可能性がある。その時は、少子高齢化とはまったく関係なく大卒人材は「人余り」となる。」という書き出しである。そして、「不況こそチャンスにすべきだ。とりわけ、中堅・中小企業はそこを心してほしい。」とするものである。その趣旨は、「2020年1月14日 日経夕刊2面 (就活のリアル)人材獲得、企業は長期視点で」の記事と同じである。
そして、「学生や教職関連の読者にも言っておきたい」とし、「不況になると、名ばかりで実力のない企業はボロが出て消えていくので、本物が見えやすくなる。」とし、「企業も自分も存分に成長を楽しむような、そんな就職先を見つけるのは案外、不況期の方がよいのだ。」というのである。

まことに、おっしゃる通りだと思うが、学生にとっての選択は、なかなか難しくもある。不況になると、企業は採用を手控え、特に大企業に入社することは難しくなる。学生(親もだが)というのは、そうした困難を乗り越えて内定を獲得することを成果と考えがちなものである。それでも、一つの会社で定年まで勤め上げる時代ではない。学生の最大の武器は「若さ」であり、何度でも挑戦できることである。企業の選択でも、そのような柔軟性のあるものを見つけていく必要があるだろう。これからの就活は、卒業して入社したら終わりということではないのだから。

2020年1月27日月曜日

2020年1月27日 日経朝刊19面 男女平等、日本は過去最低 上野千鶴子氏に聞く

「世界経済フォーラムが2019年末に発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は153カ国中、過去最低の121位となった。下落する一方の日本に今、何が必要なのか。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)の上野千鶴子理事長に話を聞いた。」というインタビュー記事である。
まず、ランキングが2018年の110位から大きく下がったことについて、理事長は、「悪化したのではなく、変化しなかったのです。諸外国が大きく男女平等を推進している間、日本は何もしなかった。だから結果として順位を下げたのです」とし、例として、「国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本に出す勧告」で、「選択的夫婦別姓などを早くから指摘されているのに何もしない。」ことも上げている。
次に、「女性活躍推進法などの法整備は進みました。」という指摘に対しては、「罰則規定がないので実効性がありません。…法律を作った効果はゼロといえます」と「罰則規定が必要」とし、「こんな骨抜きの法律に対してメディアも鈍感すぎます」と皮肉っている。
続いて、「2020年に女性管理職を30%にするという目標も達成は難しそう」という点については、「最初に聞いたときはなぜ50%じゃないの?と思いました。」「他の国は強制力のあるクオータ制を導入して社会を変えてきました。」のに、「日本では『クオータ制は日本の風土に合わない』と否定的」だが、その「言葉が意味するのは『合理的な説明ができない』ということです。」としている。
また、「この状況から脱するには何が必要か」については、「家事や育児など女性が外で働くことを妨げている負担をアウトソーシングする必要があります」と明解な答えである。
そして、「女性の側の抵抗も根強いのでは」との疑問には、「インフラが変われば、意識はあっという間に変わります。それを痛感したのは介護保険。」で、「導入時には『自宅に他人を入れるなんてとんでもない』と否定的」だったのが様変わりとしている。また、「育児を家事労働者に委託」するには、「北欧のように公共サービスにするか、米国のように市場化するか。日本は後者に舵(かじ)を切り始めています。実現には安い労働力の確保が必要ですし、階層格差が前提です」としている。
次いで、「育児休業の期間を延ばすなどの施策」に対しては、「育児休業ははあまりいい制度とは思いません。」とし、「乳児と24時間向き合う"べったり休業"」になるので、「父親の取得を義務化すべき」とし、「スウェーデンも導入時には反対する男性もいたけれど、やったら大歓迎でした」としている。
最後の「働く女性は3000万人を超えましたが、6割が非正規雇用です。男女の賃金格差も大きな問題です。」との指摘には、「シンプルな解決方法があります。最低賃金を全国一律で1500円にすること。年2000時間で300万円の収入になります。この年収額は夫婦の関係を変える分岐点です。パートナーの年収が300万円を超えると生活水準が変わり、お互い相手が辞めないように、という力学が働きます」と解説策を示している

以上のインタビュー内容を踏まえて、取材に当たった女性面編集長の中村奈都子氏と南優子氏は、「海外は同じ問題を解決するため、過去にあらゆる方法をとってきた。成功例はいくつもあるから、後発の日本は外国の成功・失敗に学べばいい」と上野氏は話すが、「風土とはなにかを明らかにし、どうしたいのか議論する場を広げたい。」と結んでいる。

報道対象の報告書は、「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2020」である。地域・国別のランキングは表3(26・26ページ)に掲載されており、日本については、31ページに概要が、201・202ページに詳細が掲載されている。
その内容については、記事でも記述しており、「ランキングは4つの分野で構成される。日本は教育(91位)、健康(40位)に対して経済(115位)、政治(144位)が著しく劣るのが特徴だ。さらに詳しく見ると、政治における「閣僚の男女比」(139位)と「国会議員の男女比」(135位)、経済分野での「管理職の男女比」(131位)に行き着く。改善ポイントははっきりしている。」ということになっている。
ジェンダー研究の第一人者である上野氏の指摘は的確かつ明確で、このような人を女性問題担当大臣にすれば、話は一挙に進むような気がする。だが、「政権与党に本気で変える気がない」のだから、どうしようもないとも思う。
女性面編集長らは、「風土」の議論が必要なようなコメントをしているが、そもそも、反対には合理的理由がないのであるから、それは反対論者の思う壺であろう。ちゃんと進める気があるのなら、分野ごとに並べてみて、日本のランキングが低い部分について、各国の施策を並べ、日本でできている点・いない点を整理してみればよい。
東アジアでの日本の順位は18位/20国で、中国や韓国にも抜かれて実質ビリとも言える状況である。この状況で、「風土」などと言い出せば、世界中の笑い者だろう。

2020年1月26日日曜日

2020年1月26日 朝日朝刊7面 (フォーラム)「妖精さん」どう思う?:2 手立ては

2020年1月19日 朝日朝刊7面の「現状編」の続編で、「長年勤めていたら世の中が変わり、経験やスキルを発揮できる担務や居場所は社内で与えられなくなった。そして「働かない」状態になった中高年社員を若手が「妖精さん」と名付けました。でも、働く人生はまだ続きます。ベテラン勢の能力を生かし、不公平感を改めていくには。手立てを探ります。」というものである。
チェンジウェーブの大隅聖子顧問は、取材インタビューに対して、「働かない「妖精さん」、それほどいません。単に仕事を与えられていないだけです。」とし、「まず任せる仕事をしっかり切り出すこと」が必要だとする一方、「例えば5人のチームにシニアを1人交ぜるのは難しい。リーダーが気を使ってしまい、負担になるからです。」としている。そして、「再雇用されたシニアで人気があるのは、自分で手足を動かせる人です。」とし、「でも、ずっと同じ組織にいれば、かつての部下や後輩から気を使われてしまうのは避けられない。むしろ思い切って別の会社に移って力を発揮した方がカッコイイと思います。」としている。
一方、千葉経済大の藤波美帆准教授は、「ポイントは「中高年層も戦力」という認識を会社全体で共有できているかどうか。」で、「高齢者が高い士気で仕事に取り組めていれば、生産性や業績にプラスの効果があるという調査結果も出ています。」としている。そして、「65歳までの希望者全員を雇う法的義務」について、「多くはいちど定年退職してもらってから非正規職員として再雇用するため、賃金が下がります。仕事や役割が変わらないのに、賃金が下がるのは「同一労働同一賃金」の点で問題ですが、仕事や役割が変わって下がるのであれば、きちんと説明することです。」と言う。その上で、「若手社員と中高年社員の板挟みになる管理職への支援も欠かせません。年上の部下に対するマネジメントはトレーニングを積まないと難しい。」としている。
また、記事では、「賃金下げず、士気もキープ」している会社の例として、「定年を60歳から65歳へ延ばし」た太陽生命保険や、ファミリーレストランを展開するすかいらーくホールディングス(HD)の例を上げている。
記事では、「妖精さん」に対する読者からのいくつかの声を紹介した上で、真鍋弘樹編集委員が、「人口減、「分断」してる場合じゃない」として、「世代間ギャップ」「非正規と正規雇用の分断」が浮かんでくるが、「日本経済全体の競争力と、個人の働きがいや職務に応じた公平な処遇を両立するには」「人口減少という危機が逆にチャンスになるのではないでしょうか」とし、「一つの会社に人生を頼り切らず、拘束もされない。不安定雇用におびえることもない。誰もが、そんな働き方ができる社会が目標です。」としている。

現状編への論評では、「ジョブ型正社員」の導入だけでは問題の解決につながらないことを述べた。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200119AA07.html
そもそも、拘束をされない雇用は、「安定雇用」に結び付くものではない。経営側と労働者側のニューズがマッチして初めて、そのような雇用が成立し得るわけだが、経営環境は変動するので、そのような幸福な関係は長続きするものではない。日本型雇用制度と言われる年功序列・終身雇用というシステムは、経済の高度成長期に確立したものであるが、恩恵を受けた主体は男性の正社員であり、女性は結婚・育児で、そのような男性正社員を家庭で支えることを暗黙の前提としていた。男女平等の気運の拡大の中、バブル崩壊後の経済低迷期には、そのことがあからさまとなり、男性正社員の保護を優先し、女性主体だが男性の一部についても非正規労働者の身分に追いやり、それまでの「日本型雇用」を維持してきたのである。これには、男性正社員主体の企業内組合も加担してきた。
「妖精さん」と呼んでも、実のところは高齢の男性である。「非正規と正規雇用の分断」は、今に始まったものではなく、その分断での恩恵を享受してきたくせに、自分がその立場に立ったら騒ぎ出し、果ては給与泥棒とも言える「妖精」どころか「乞食」に似た存在になり下がっているわけである。
「世代間ギャップ」の本質は、そのような特権を享受してきた中高年齢層に対しての、とてもそんな未来になるとは思えない若年層によるものであるが、見方によっては、それこそが企業内改革を進める原動力になるのかもしれない。
しかしながら、企業内での対応には限界がある。経営環境が激変し事業内容の変化も必要となる中では、必要な人材の中身や時期は大きく変動する。そのような変動に対応するには、1社にしがみついていても展望は拓かれない。厳しいことだが、自分自身で一本立ちし、求められる仕事に求められる時期に向かうことが必要になってきている。「包丁一本、さらしに巻いて」というのが、生き方の原点になりつつあるのではないか。

2020年1月24日金曜日

2020年1月23・24日 米国企業年金会議(米国ロサンゼルス)

米国の企業年金制度と401(k)制度の最新状況についての会議が行われ、参加した。
会議日程と各パートの概要は、次の通りである。
 http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/20200123conference.pdf
この会議に参加した理由であるが、米英の企業年金では、給付建て(DB)制度が衰退し、掛金建て(DC)制度が主流となっている。そのためか、国際年金会議への米英の年金専門家の参加が非常に少なくなっており、その少数の参加者の発表にも、あまり参考になるものが感じられない状況であった。
今回のこの会議は、米国内のアクチュリーや専門家を対象としたもので、ワークショップの議題を、DCとDBとで半々にしていることから、米国の企業年金の現状を知る上で参考になるのではないかと考えた次第である。
感想として、議題は多岐にわたり、米国企業年金の最新状況を知ることはできた。ただ、当然の事ながら、米国内の専門家を相手にしているものなので、非常に細かい点にまで言及しており、部外者としては分かりにくいものも多かった。また、DCとDBとで半々ではあったが、DBの衰退が随所に感じられる内容であった。それでも、米国企業年金の最新状況を理解する上では、貴重な機会であった。
参加者数は、プレゼンターも含めて、リストでは約170名であったが、会議後援の会社も含まれており、実際の専門家の参加者は、100名程度ではなかったかと思われる。各会議では、聴衆側の中央にマイクが設定され、質問があればプレゼン中でも自由に発言できるようになっていた。また、参加の専門家(全米年金専門家・アクチュアリー協会の会員や登録アクチュアリーなど)に対して、継続教育の単位が付与されることとなっていた。
2020年1月24日 ★ロサンゼルスの交通事情(続)

前回の「ロサンゼルスの交通事情」について反響があったので、補足しておきたい。
追記するのは、ロサンゼルスのホテルからロサンゼルス国際空港(LAX)までのタクシーについてである。

宿泊したのは、Hilton Los Angeles/Universal Cityであったが、このホテルはロサンゼルスの名物観光施設のUniversal Studioに隣接しており、歩いても10分とかからない距離にある。当初、このホテルで会議が行われるのは、さすがにワーク&バランスを考えた欧米人らしいと思ったが、実際には参加者はほとんど単独で、配偶者などの同行はなく、会議の前後にUniversal Studioに立ち寄った形跡はなかった。
ちなみに、Universal Studioは大阪にもあり、行ったことがあるが、大混雑だった。ロスのUniversal Studioは、何十年も前に家族連れで訪れたことがあるが、アトラクションも新設・入替で、今ではまったく別物である。
これについて、ロス空港の入管で、宿泊ホテル名を見た職員が、「Universal Studioには行くのか?そりゃあ遅すぎるだろう。今から行ったって満員だぜ。」と言われて驚いた。到着したのは平日水曜日の朝9時で、ホテル到着も午前中だったから、Universal Studioを見るのには支障はないと思っていたからである。
実際には、ホテルに到着して、無料のシャトルバスで向かったところ、日本の感覚では、ガラガラの状態だった。疲れ果てていて入場できず、結局、その後も時間がなくて外側の観光・飲食施設を回った程度であったが。

以上で、長々とホテルについて書いたのは、ロス市内のヒルトンは別格でも、この郊外のホテルもヒルトンの名にふさわしい高級ホテルで、隣接ホテルのシェラトンとともに、Universal Studioまでのシャトルバスを共同運航しているような格式であることを伝えたかったからである。さて、そのホテルで、タクシーのピックアップは、どうだったのか。
会議日程の最後までいるとフライトの時間的余裕がなくなるので、少し早めに切り上げることとし、念のために、ホテルにタクシーを予約しようとしたところ、「タクシーは、呼べば20分くらいで、いくらでも来るよ」と言われた。まあ、呼べば迎車料金がかかるかもしれないので、出発予定の15時の20分前からホテルの前で待つことにした。

ところが、待っても待ってもタクシーが来ない。先着の乗客が2名いたが、彼らもイライラしながら待っている様子だった。そのうちに、何人かがホテル玄関に現れ、Uberに乗って、さっさと行ってしまった。さすがに気になって聞いてみると、シェラトンの方で大規模な会議があり、そちらにタクシーをとられているらしいとのこと。当方としては、とにかく待つしかないが、ホテルの担当者も、さすがに気になったようで、何回か電話をかけて、知り合いのタクシーに回ってもらうようにしていた。結局、乗車できたのは15時20分頃で、40分近く待っていた。その上に、一つ前の乗客がダウンタウンまでということで、我々に譲ってくれた上での話である。

これが、米国有数の高級ホテル・チェーンで起きたことである。どう考えても、走っているタクシーの数が少ないとしか思えない。我々もUberを使えばよかったのだが、登録には携帯番号が必要であり、旅先では登録が難しかったことがある。また、Uberの運転手は基本的には素人で、プロのタクシー運転手の方が良いと思った点もあるし、万一の事故の場合のことも考えた結果である。空港までの運賃は来た時と同じ110ドル(チップ込み)だった。なお、次男が米国サンノゼに在住しているが、その嫁は、タクシーには乗ったことがなく、乗り方も分からないという。Uberなどが当たり前だそうである。

また、ロスでは、2028年にオリンピックが予定されており、空港の整備もその一環だそうであるが、タクシー運転手によると、「オリンピックは政治家の領域」で、ロスには家賃高騰によってホームレスが溢れているとのことだった。

ついでに、ロスの後はサンノゼの次男を訪ねたが、買い物などは次男のカードでしてもらい、後で日本から持参したドル現金で清算したが、「ドル札を見たり使ったりする機会はほとんどない」と言っていた。ただ、「チップに困るので、1ドル札は嬉しい」とのことだった。レストランなどでも、カードでの支払い時にチップを追加するのが一般的だが、いわゆる枕銭は、キャッシュレス化の進展の中で消滅しているのではないかと気になった。その背景には、環境保護の観点から、連泊の場合、シーツやタオルの取り替えを抑制していることもある。

以上が、追記である。なお、キャッシュレス化については、次の記事も参照されたい。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200131NA27.html

2020年1月23日木曜日

2020年1月23日ロサンゼルスにて
1月22日に日本を発ち、現在、ロサンゼルスのホテルである。時差は日本の方が17時間進んでおり、現在当地は23日の午前4時頃だが、日本では午後9時(21時)頃になる。
主目的は、現地で本日23日と明日24日に行われる年金会議への出席であるが、今回分では、ホテルに到着するまでの道中記を記してみたい。

まず、日本での住まいは池袋に近いので、JRの成田エクスプレスを利用した。乗り換えなしで成田空港でが行けるためだが、以前に比べると、成田エクスプレスの利用者は、かなり減った感じである。やはり、時間(間隔含む)や料金では、日暮里発の京成スカイライナーに分があるようである。

成田空港(第1ターミナル)では、フライトまで時間があるので、出国審査の前に、クレジットカードのラウンジ(空港ビル5F)を利用した。以前はクレジットカードでラウンジが分かれていたが、統合されたようで広くなっており、アルコールも1杯無料だった。ビジネスクラスなどの出国審査後のラウンジの利便性には比べるべくもないが、まあ一息つくことはできる。

出発便のANAの搭乗手続きは、最悪だった。これまでの経験では、エコノミークラスの場合、機体後方の座席から搭乗案内を行っており、合理的だと感じたものだが、今回は全席一斉で区分を行っておらず、長蛇の列ができていた。工夫がないと無駄が生じる。

さて、ロサンゼルス空港に到着してからだが、入国審査が面倒臭くなっている。ESTAで事前申請が義務付けられている上に、機械で個人情報を登録する必要があるのだが、それを行った上で、さらに係官が指紋採取などの作業を重複して行っている。何のための二重作業が分からず、いずれ機械登録主体になるのかもしれないが、現状は煩わしい。

煩わしいのは、ようやく空港を出て、市内に向かう交通機関についてもである。実は、ここで大きな変化が起きている。従来、市内に向かう便利で安価な手段は、(利便性に劣る公共交通機関を除くと)空港シャトルだった。乗合にすれば費用を抑えられたのだが、これが2019年末に事実上廃止された。事実上というのは、継続している会社もあるのだが、悪評やトラブルが頻発しているのである。

廃止の理由だが、Uberなどの自家用車による乗用サービスが拡大したことによる。このことは、空港施設にも甚大な影響を与えており、客を求めて殺到する自家用車で大混雑しており、ロサンゼルス空港では、各ターミナルを出たところから乗車できたのを取りやめ、タクシーやUberなどを集めた乗り場としてLAX-itを新設している。その乗り場まではターミナル間の無料シャトルで向かえるのだが、そのための乗車場所がはっきり分からず、結局、歩いて向かう(20分程度)羽目になってしまった。

さて、LAX-itでだが、もう主体は、Uberなどのサービスに移っている。今回は、Uberなどのアプリ登録を行っていなかったため、タクシーを利用したが、乗客はまばらだった。今回のホテル(会議場)は、郊外のユニバーサルスタジオ近くだったため、空港シャトルでも60ドル以上の費用見込みだったが、タクシー利用で110ドル(チップ込み)を要してしまった。Uberなどなら、恐らく半値くらいだったと思うし、乗車前に料金が確認できてクレジット払いなので、現金の心配がない。空港シャトルも、事前料金把握・クレジット払いだったのだが、乗り場がLAX-itになり、押し寄せる自家用車の大群の中では、乗客と設定した時間通りの乗車が行えず、トラブル頻発になったのであろう。

「百聞は一見にしかず」というが、このようなUberなどのサービスを当たり前の事として東京五輪に押し寄せてくる外国人旅行客を考えると、交通機関についても万全の受け入れ態勢と言えるかどうか疑わしい。幸い、日本の場合には、公共交通機関の電車やバスが充実しているが、タクシー利用とUberなどのサービスのせめぎ合いは、激しいものがあるだろう。ロサンゼルス空港の状況を見ると、もはや空港タクシーは生き延びてはいけないのではないかと思う。「時代の波」を、倍近く払わざるを得なかった料金で考えさせられた。
2020年1月23日 日経 朝刊 23面 家族の変化と社会保障(4)子どもが持つ経済的意義

「やさしい経済学」欄における東北大学の若林准教授による連載解説記事である。 「家族の変化と社会保障」というテーマに関心を抱いた。

今回の内容は、「子どもが持つ経済的意義」ということで、「両親は子どもを持つことによる便益が費用を上回ったときのみ、もう1人子どもを持つことを選択します。この限りにおいて、経済学的には子どもの数が「少なすぎる」ことはなく、適切な数の子どもが生まれているといえるので、少子化は問題ではありません。」というものである。
その次に、「子を持つという行動は社会の第三者に便益(もしくは費用)をもたらすのでしょうか。つまり子どもに外部性はあるのでしょうか。」ということを論じており、「日本の公的年金制度は、勤労者世代が支払う税や保険料が高齢者世代の給付に使われる賦課方式です。すなわち、子どもをもう1人産むことは、親以外の第三者の生活をよくする便益を発生させます。」としている。
さらに続けて、「少子化は社会的に問題だとの主張がなされますが、そもそもそうした主張は、公的年金が賦課方式となっていることに起因します。親が希望する子どもの数よりも、制度を維持するために必要とされる子どもの数が多くなるためです。自分が将来受け取る年金を積み立てておく積立方式では、支払った年金保険料は将来自分が受け取るので、第三者の便益にはなりません。」としている。
最後に、「したがって外部性は発生せず、子どもの数が少なすぎるとはいえないのです。少子化が問題だという議論に、経済学的な根拠を見いだすのはなかなか難しいように思います。」と結んでいる。

この「経済学的議論」には、違和感を感じる。子どもの外部性が生じるのは、「公的年金が賦課方式」だからで、「積立方式」なら外部性は生じない、と言っているが、それは、積立方式なら、「自分の所得の範囲内で自分の老後の費用も賄われる、故に、子ども(自分の子でも他人の子でも)に依存することはない。」という理屈によるのであろう。
しかし、ならば、自分が成人になるまでの費用は、誰が賄っているのか。それは、親になるわけだが、この論説の考え方は、子育ての費用は、子育ての便益と一致しているはずであり、親に対する負債として残るものではないということになろう。だが、それは実態に合うものなのであろうか。
私は、子育ての便益の中には、子が老後に面倒をみてくれる期待も含まれるものと考える。人の寿命には不確実性があるわけだが、子の存在は、その不確実性に対する保険の役割を果たす面があると思うのである。
年金制度が「積立方式」なら、という議論に対しては、そもそも年金制度がなかったら、人は老後のために積み立てるものなのか、という根本的な疑問がある。子がいれば子に期待する分がある一方、子がいなければ自力で準備するしかない。
年金制度は、結局のところ、この子による親の扶養を、家族単位から社会単位に転換したものである。その仕組みが成り立つには、扶養を受ける親と扶養をする子どもの数(および期間)が均衡していなければならない。少子化が、この均衡を崩すのは、実は、「子どもを持たない人が、年金制度によって、他人の子どもに扶養してもらう」からに他ならない。
誤解lを招くのは、「現役のうちに老後のための保険料を支払っている」という年金制度のレトリックによるわけだが、そもそも、それは真実ではない。真実は、自分の親の扶養のために保険料という形で費用を分担しているわけである。この公的年金制度の本質からして、公的年金制度が積立方式で運営されることは、あり得ないのである。
結局、この論説には、以上のような考察が欠落している。そもそも、子どもの意義を、経済的側面に限定して論じること自体に、無理があるのではないか。

2020年1月22日水曜日

2020年1月22日 日経 夕刊 7面 (十字路)「株式貯蓄」再び?

「株式貯蓄」という言葉は、1980年代に証券会社が編み出したもので、「比較的リスクが低い優良株への長期投資を個人に促すという戦略」にかかるものだそうである。
「再び?」としている背景には、「2018年度の上場企業全体(変則決算を除く)の支払配当額は14兆円に上る。加えて日本独特の株主優待もある。」ということがある。「今の高配当の恩恵を直接には享受できていない。しかし、高齢化が進むとインカムゲインはさらに重要になる。その主役のはずの債券投資にはリターンが無いに等しく、しかも、日本では個人が買える玉(ぎょく)が少なすぎる。」として、株式を貯蓄のように利用したらどうかというのである。

確かに、低金利の状況の中、預金金利はスズメの涙だし、債券投資は、クーポン金利を得るものではなく、さらなる金利低下による価格上昇狙いのものとなっている。しかし、だからといって配当狙いの株式投資に進むのがよいとは、いちがいには言い切れない。配当は一つの着眼点だが、満期のない株式への投資の最終的な成果は、売却時の価格水準によることになる。「高齢化が進むとインカムゲインはさらに重要」ということに目をつけて「毎月配当型の投信」が大々的に売られてきたが、投資収益が振るわず、元本を毀損したものもあり、金融庁から販売自粛を迫られるに到った。個別の株式では違法配当になって抑止されるものの、配当重視で株式投資を考えることの危険性は、十分に認識する必要があるだろう。
2020年1月22日 日経 朝刊 19面 (大機小機)国家規模のスマートシュリンクを

「そろそろ人口問題についての基本姿勢を再考すべきではないか」「現実を踏まえて我々は人口1億人に固執するのをやめるべきだ」とし、「人口が減っても国民一人一人の福祉水準を維持・向上できる」社会を目指すべきだ、とする論説である。
そして、これからは国全体が、賢く人口減少と共存する「スマートシュリンク」を目指すべきではないか、と結んでいる。

この論説の論調に異論はないが、国家規模の「スマートシュリンク」の中身は、何なのだろうか。個人規模なら、「断捨離」として、不要な物を捨て、「足るを知る」暮らしが考えられる。そこから推察すると、日本の現状はどうなるのか。今年は東京オリンピックと浮かれており、大阪万博だ、カジノIRだと、とても必要とは思えない催しが目白押しである。結果的に、不要な物を作り、その維持費や後始末に、将来世代が追われることになるのではないか。「スマートシュリンク」がまず必要なのは、政治家をはじめとする日本人の頭の中のように思える。
2020年1月22日 日経 朝刊 7面 (中外時評)2050年からの警鐘

上級論説委員の藤井彰夫による論説で、1997年元旦からの連載企画「2020年からの警鐘」を振り返り、「当時から識者は少子高齢化の問題を指摘していたが、結局、抜本的な対策はとられず、昨年の国内出生数はついに90万人を割り込んだ」遠い将来に感じられた「2020年」がついにやってきた、という書き出しである。
そして、「問題の本質は、識者の多くが将来の危機を認識しながら、結局、改革が進まなかったことだ。少子高齢化も日本型雇用の行き詰まりも決して「想定外」の危機ではない。」としている。
そして、「給付抑制や増税など痛みを伴う改革は避けられない」とし、先送りしていけば、30年後には再び「わかっていたのになぜやらなかったのか」と後悔することにならないだろうか、と警鐘を鳴らすものである。

今に固執すると未来は展望しにくくなる。未来から今を考えると、今の課題が浮かび上がってくることになる。この記事の要点は、そこであろう。一方、日本の政財界のリーダーは高齢化している。30年後の2050年に、自らは生存していないと考える人も、少なくないであろう。なればこそ、若いリーダーが必要なのである。スウェーデンの環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんの切実な訴えが耳に入らないような年代の人では、もうダメなのである。そんな例には、事欠かない。米国のムニューシン財務長官は、「大学で経済を勉強してきてから、我々に説明してほしいものだ」と皮肉ったそうだが、情けないものであり、学問の意義も理解していない愚か者としか思えない。
週刊モーニング2020年1月22日(第6号)『ドラゴン桜2』

今回は、少し目先を変えて、標記のマンガについて、紹介してコメントしたい。
『ドラゴン桜』は、三田紀房氏による著作で、テレビドラマにもなったが、荒れた三流高校を、東大合格者を出して、立て直すという物語である。この『ドラゴン桜2』は、その続編にあたる。どちらも受験テクニックを織り交ぜ、受験生心理や教員の指導方針を、風刺を混ぜて浮き彫りにするもので、非常に興味深い。この続編では、SNSなどの今風のツールの活用も織り込んでいる。

ところで、今回、このマンガを取り上げたのは、作中で年金制度について、言及しているからである。主人公の桜木理事が、集まった生徒に対して、次のように言っている。
 「君たちが70歳になる55年後、今とは全く違う社会に変わっていることは確実だ」
 「現在は70歳の多くはすでに仕事を辞めて老後の生活に入っているだろうが、55年後はみんな元気で働いているかもしれない」
 「みんな元気で働けば年金は必要ない。国は制度そのものを廃止するだろう」
 「年金をやめれば国民の面倒を見なくてすむ。その上で税金は多く納めさせたい」
 「そのためにも国民には一生働いてもらいたい。働いて死ぬまで税金を払って欲しい。これが国の本音だ」
そして、次のように続ける。
 「文句を言わず、ただ国の制度に従って働き続ける国民であってほしいのだ」
 「国民を他の言葉に言い換えると・・・馬車馬」
このマンガでは、馬車馬にならないために「東大に行け」と煽り、生徒達が拍手喝采するという進行になっている。ご都合主義だが、ロジックとして説得力のあるように構成されている。

さて、このマンガが提起している問題を、どのように考えればよいのだろうか。まず、東大に行っても、税金を私的に流用して説明責任を果たさない総理の擁護に必死になっている高級官僚の有様を見れば、東大に行くことが解決策にはなりそうもあるまい。
そもそも、年金制度は廃止されるのだろうか。それが正しい方向なのだろうか。少子高齢化の進行で、長生きして子供も少なくなれば、長く働くことが必要になることは、誰にでも分かる。マンガの論調は、そのこと自体にも、否定的なものが感じられる。
このような問題については、もし年金制度がなかったら、と考えてみるのが参考になる。人は、いつまでも働くことはできない。老後の時期は、たとえ後倒しになっても、誰にでも訪れる。もし年金制度がなかったら、その時に頼りになるのは、現役時代から形成したお金なのだろうか。もちろん、それも大事ではある。しかし、自分だけで、自分の老後を賄うことができるのだろうか。その前に、親の老後は、どうするのか。自分を育ててくれた親は、それなりの出費をしている。育てなければ、その分の資産が残っているはずである。ならば、育ててもらった子供には、親の老後に対する一定の扶養責任があるだろう。一方、自分の子育ては、どうか。子供を育てるには費用がかかる。育てなければ、その分を老後に回すことができるのに。だから、親が、子供に老後の一定の扶養を期待することには必然性がある。実に、年金制度は、この世代間連鎖、輪廻を、家族内責任から社会的責任に切り替えたものに他ならない。
年金制度が不要だとか、廃止すべきだとか、あるいは、自分の老後は自分で積み立てるべきだと言っている連中は、この根本を忘れている。そうした連中は、自分の老後のことに頭が一杯で、親の老後のことなど眼中にない。何故か。親の扶養は、年金が担当してくれているからである。
さて、今一度、聞いてみよう。年金は必要ないのか。その時、親子は、どのようにして生きていくのか。
2020年1月22日 日経 朝刊 2面 (社説)雇用のあり方をめぐる突っ込んだ議論を
2020年1月22日 日経 朝刊 5面 雇用「脱一律」で人材磨く 経団連春季指針 世界標準の環境に

「2020年の春季労使交渉に向け経団連がまとめた経営側の指針」に対する社説である。
「目先の賃上げだけでなく、持続的に企業が成長するための本質的な議論をすべきだという経団連の考え方は理解できる」とし、「労働組合も経団連の問題意識を真摯に受け止めるべきだ」としている。その上で、「時代遅れになっている雇用制度の改革論議が産業界全体で進むことを期待したい」としつつ、「通年で協議する場を設け会社の将来像を含め議論を深めるべきだ」と結んでいる。

経団連の「経営労働政策特別委員会報告」の内容については、5面で報じている。「年功序列賃金など日本型雇用制度の見直しに重点を置いた。海外で一般的な職務を明確にして働く「ジョブ型」雇用も広げるべきだと訴えた。」と要点を整理している。中西宏明会長は、「新卒一括採用と終身雇用、年功序列を柱とする日本型雇用制度」について、「現状の制度では企業の魅力を十分に示せず、意欲があり優秀な若年層や高度人材、海外人材の獲得が難しくなっている」と指摘し、「海外への人材流出リスクが非常に高まっている」と危機感を示したという。

経団連の考え方は理解できるが、「時代遅れになっている雇用制度」を作り上げ、維持してきた主体は、経営側である。「ジョブ型」の場合、その業務に関わる労働者が結集して職種別労働組合を結成するのが自然の流れであるが、日本の企業は、労働者が会社を超えて団結するのを嫌い、企業内組合にとどめることに力を入れてきた。「日本型雇用制度」は、そのような、「社会」より「会社」を重視させるための仕組みだったわけである。「ジョブ型」なら、自分の能力が十分に活用できない会社とは、さっさと縁を切って、新たな活躍の場を求めることになるだろう。「海外への人材流出リスク」という認識は甘いのであり、国内でも、「社外への人材流出リスク」は高まるし、それが「外部からの人材獲得チャンス」ともなるわけである。そうなった場合、既存の概念にどっぷり染まった大企業は、解体的変革を迫られる可能性があるわけだが、さて本当に、その途に進んで行けるのか。日本型雇用の都合の良いところだけ残して、「ジョブ型」の利点を取り入れようとしても、そうは問屋が卸さない。
社説が言及している「成果重視の賃金制度の必要性がバブル崩壊後から叫ばれながら、浸透していない」真の原因は、そこにある。物事を成すには、まず「隗より始めよ」と言う。年功序列で成り上がった経営幹部を一掃する覚悟がなければ、真の改革は為し得まい。

2020年1月22日 朝日 朝刊 10面 (経済気象台)若者の未来に期待

「2020年代、世界の技術革新はさらに進む」という変化の中で、「自ら考え、自ら改善行動ができる学び」をしっかりやっていくことが、これからを生きていく大事な要素となる、という論説である。「文系理系と分ける時代でもない。幅広い教養と自分の得意分野をみがいて専門性を身につける。未来のあるべき姿を描き、現実とのギャップを縮めていくのが真にやるべきことだろう。」とし、「未来志向の経営者として学び直さなくては、と年の初めに誓った。」と結んでいる。

「自ら考え、自ら改善行動ができる学び」は、多くの人が口にするようになっているが、我々日本人にとって、大きな課題であると思う。この「学び」の中の重要な要素は、自身の考えをキチンと発信し、他者の考えを受け止めて、相互の対話によって相乗的に知を高めていくことであろう。特に、インターネットの活用によって、地理的・時間的制約から解放された英知の共有は、自身を成長させ、社会を変革する力を持つ。しかし、この点で、日本人は発信力が弱いように思える。私は現在、大学で教えているが、質問や意見を促しても、「大勢の前で発言するのは気後れする」として、発言をしない学生がほとんどである。しかし、アンケートに書かせてみると、様々な意見が出てくる。
「沈黙は金」「出る杭は打たれる」と、積極的な言動を抑止する「金言」も多い。しかし、黙っていては分かってもらえないし、沈黙は、体制への消極的賛成となる。一言発する勇気、それが人の交流には欠かせない。
2020年1月22日 朝日 朝刊 7面 春闘一律賃上げ、経団連「適さぬ」 日本型雇用、変革求める
2020年1月23日 朝日 朝刊 6面 連合会長「格差是正に力」 「日本型雇用」見直しを批判 春闘

経団連が「21日、今春闘で経営側の指針となる経営労働政策特別委員会(経労委)報告を発表」したことを受けた記事である。

22日の記事では経営側の考え方を伝えており、「年功型賃金や新卒一括採用、終身雇用などの日本型雇用システムの見直し」を前面に掲げ、「欧米で主流とされ、年功ではなく仕事の内容で賃金が決まる「ジョブ型」との併用を呼びかけた」としている。

一方、23日の記事では、労働側の考え方として、連合の神津里季生会長が、22日の記者会見で、「大企業と中小企業、正社員と非正規社員の賃金格差の是正に力を入れる考えを示した」としている。また、「日本的な雇用の良い部分が毀損されてきたことが(格差が広がった)今日を招いている」と批判したそうである。

「春闘」は、「春季闘争」の略で、労働組合が毎年春に賃上げ要求を中心とする闘争のことであるが、かつては交通機関のストライキなどもあり、大きな影響力を持ったが、バブル崩壊後の経済低迷期には、賃金は上昇が抑えられ、春闘の意義が問われたこともあった。ここ数年は、年功を反映した定期昇給に加え、一時は死語のようになっていた賃金水準全体を底上げする「ベースアップ(ベア)」も行われるようになっているが、これには安倍政権の意向も大きく、「官製春闘」とも呼ばれていた。
今回は、賃金上昇に拘る連合に対して、経営側は「日本的雇用」の見直しを重要課題に掲げているわけだが、そうせざるを得ないほどに、労働市場が変容しており、「日本的」に拘ると世界的な潮流に取り残されるという思いがあるようである。
一方の連合は、「日本的雇用」を評価するような言い方をしているが、それは、既存の考え方に固執している感じで、今後の労働市場のあり方についての考察が欠けているように思われる。「格差の拡大」と非正規雇用の増大は、切り離すことができないが、かつての連合は、「日本的雇用」の中核である正社員を保護するために、経営側が進める非正規拡大を容認してきたし、その事を後に自己批判したはずである。今回のコメントには、その反省に立った考え方が窺われない。フリーランス的な働き方が増加している中で、労働組合は、どのように対応していけばいいのか。今や、労働組合にとっても、正念場であるはずなのだが。

2020年1月21日火曜日

2020年1月21日 日経夕刊2面 (就活のリアル )内定辞退は礼を尽くして メールだけでは軽すぎる

上田晶美氏による「就活実務編」です。自身が開発した「内定辞退セット」に、まず言及している。
内定辞退の際には、「自分なりに内定をもらったありがたみをよく考えて、それを断る重みを肝に銘じ、礼を尽くして辞退すればよい。それにはメールだけでは軽すぎる。」とし、「社会人への第一歩としてメールではなく手紙を出そう。」というのである。

この考え方は結構であるが、そうしなければならないとは思えない。「メールもスルー」というのは、入社の意思が確認できないから論外である(そもそも、こんな学生に内定を出したのが間違い)だが、普段は書いたこともない手紙を学生に書かせようとするのは、過剰な対応ではないか。
企業の方だって、学生を不採用にする時には、「今後のご活躍をお祈りします」という「お祈りメール」で済ませる時代である。学生の方も、メールで何ら差支えないのではないか。
「電話に出ない」というのは、当たり前であって、私だって出ない。電話であれこれと翻意を促すのは、キャッチセールスみたいなものだが、実のところ、内定辞退による自分の成績や追加の負担を気にする人事担当者の思惑によるものであることも多いだろう。仮に、翻意したところで、入社後にネチネチいじめられるリスクもある。
要するに、今の時代、メールでよいと思うが、その文面は注意して書き、内定をもらった感謝と、自分なりに他の道に進む決意を丁寧に伝えればよいであろう。それに対して、「分かりました。頑張って下さい。」と返ってこないような企業なら、内定辞退は大正解であろう。
2020年1月21日 日経 朝刊 9面 損保ジャパン系証券、企業型DCにロボアド
2020年1月10日 日経 朝刊 2面 "企業型確定拠出年金、老後資金に大きな差

高コスト投信なお 商品見直し進まず"

「損保ジャパン日本興亜DC証券は企業型の確定拠出年金(DC)でロボットアドバイザーを導入する」という記事である。「企業型DCの加入者がアプリ上で4項目の質問に回答すると、リスク許容度に応じて資産配分や運用商品の組み合わせを提示する。」という。

一方、2020年1月10日の記事は、「選べる商品は企業ごとに格差が激しく、老後資金に大きな影響を及ぼしかねない。」というもので、「企業型で高コスト投信が除外されないまま加入者が買い続けている」要因の一つとして、「運用商品の選定にかかわる運営管理機関(運管)の姿勢」をあげている。「大企業には低コストの商品を提示するが、力の弱い中小企業には出し惜しみする」(中堅上場企業)との指摘が多かった、とのことである。また、県立広島大学の村上恵子教授は「取引先金融機関の商品に偏る傾向もみられ、加入者の利益が最重要視されていない可能性を感じた。今も変わらないようだ」と指摘しているとのことである。

運用商品の選択に悩む加入者は多いと思うので、当然出てくるサービスではある。ただし、運営管理機関は、特定の運用商品の推奨や排除は禁止されている。その点はどうなのかということが気になる。
また、そもそも、2020年1月10日の記事のように、運営管理機関自体が金融機関であるから、自社系列の投資信託などを優先提示しているのではないかという危惧もある。制度創設時には、運用商品を提供する金融機関は運営管理機関から外すべきであるとの声も上がったが、そうなると運営管理機関のなり手がなくなるのではないかとの意見が出て、容認されることとなった経緯がある。ロボットやAIのアドバイスといっても、基本的に仕組みが透明であるわけではなく、人間の恣意が入る可能性もあるから、注意する必要があるだろう。
2020年1月21日 朝日 朝刊 21面 年金のギモン、学生が考えた もらえる額は? 共働きや単身も試算

この記事は、2019年12月7日に開催された第4回 ユース年金学会の模様を紹介したものである。
http://www.pension-academy.jp/youth/
ユース年金学会は、私も所属している日本年金学会が「次代を担う若者たちが年金についてどのように考え、どのような方策を望むか生の声を聴く貴重な機会」として開催しているもので、提唱した慶応大の駒村康平教授が記事でおっしゃっておられるように、「未来に利害関係を持つ若い世代が双方向で考えることが大事」である。
記事で取り上げられているのは2チームであるが、発表したのは5チームである。今年は、ペーパーレス化ということで、発表要旨だけでなく、発表スライドも掲載されているので、関心のあるものには、是非目を通していただきたい。
個人的には、記事にもある愛知県立大の『政府は公的年金の財政方式をどのように説明してきたのか ―白書からの考察』が、一番興味深かった。
2020年1月21日 朝日 朝刊 13面 (インタビュー)ラディカルにいこう

米国の政治経済学者グレン・ワイル氏に対するインタビュー記事である。「私有財産も、1人1票も、廃止しよう」として、「34歳の学者がその前提や常識に疑問を突きつけ、世界で論争を呼んでいる。」という。その主張の根底にあるのは、「技術の進歩に社会制度が追いついていない。デジタル時代に見合う制度に革新すべきです」というものである。
そのための方策の一つとして、「私有財産の廃止」を掲げる。「私有財産は独占」として、「企業や個人はその資産の利用権を市場で売り買いする」ものとしている。「共有資産の利用料として集めた税金を、ベーシックインカムなどの形で全員に還元することでさらに平等になる。」というのである。
また、政治投票における「1人1票」も問題とし、「有権者に一定のポイントを配り、それを元手に票を『買う』仕組み」を提唱している。「関心や切実さに応じて、特定の議題に複数の票を投じられるようにします。」というのである。
その他、「一般市民が移民の身元を引き受けて利益を得る仕組み」も提唱しているそうであるが、「ラディカルな構想で社会の目指すべき姿を示し、人々を触発することが欠かせません」というのである。

氏の著書を読んだことはないし、そもそも氏の存在を知らなかったので、適切な論評ができる気はしないが、記事から感じた事を述べてみたい。
唐突過激に見える「私有財産の廃止」は、よく考えてみると興味深い。「利用料」は、問題となっている財産への課税である。世界的に、所得に対する課税が行き詰まり、代替策として消費に対する課税が強化されてきているが、財産に対する課税を強化しないと公平にはならないが、一国内で対応することは難しくなっている。利用料」は、財産の保有者ではなく、利用者に課税するものであるから、この難点を解決する可能性がある。また、金持ちによる子孫への財産移転による富の偏在、貧困の連鎖の抑止につながる可能性もある。
「1人1票」ではなく、複数ポイントの付与も興味深い発想だが、かえって特定の利権のための集ポイント運動が激化して混乱しないのかという気もする。
何より大事なのは、既存の仕組みが行き詰まっているのだから、一から考え直してみようという姿勢だろう。過去のしがらみのない若者だからできることであり、未来を変革して切り開いてきたのは、いつも若者なのだから、耳を傾ける必要があろう。

2020年1月20日月曜日

2020年1月20日 日経 朝刊 14面 (経済教室)AI、人間の敵ではない

慶大の鶴光太郎教授による論説で、「人工知能(AI)により人間の雇用が奪われてしまう」という危惧に対して、「証拠に基づいた厳密な検討が必要」とするものである。
「AIとロボットを同じように考えるのは適切ではない」とし、「AIに特化した実証分析は緒についたばかりであるが、今のところ雇用や賃金への悪影響はみられない。」とし、「人間とAIは、補完的関係構築をどこまでも目指していくべきだろう。」と結んでいる。

学者としては、こういう分析でいいのだろう。しかし、実際の労働者にとっては、「実証分」を待っていて、仕事がなくなることが分かったのでは遅いのである。
例えば、自動運転が実用化されれば、タクシーやバスの運転手は失業する。自動運転車は、AIではなくロボットだというような戯言は、彼らにとってはどうでもよい。AIとロボットの厳密な区別など、何の意味も持たないことである。
もっとも、新たな技術の登場で、仕事の総量が減るとは限らない。陳腐化した技能は排除されても、新たな技術を用いた仕事が生まれてきたのが、人類の歴史である。
だが、今危惧されているのは、そのような技術を活用して巨額の富を独占できる企業や個人が(今でも)生まれる一方、多くの労働者が、仕事を失うか、失わなくても熟練を要しない低賃金の仕事に追いやられるのではないかということである。
人類が生み出すAIやロボットは、人類の敵であるべきではないし、そうならないように統制すべきであるのは当然の事だが、それらによる利便性の向上が人類全体の利益となるようにするにはどうすればよいのか、課題の本質は、そこにある。
2020年1月20日 日経 朝刊 7 (核心)大波が招く 人づくり競争

原田亮介論説委員長による論説で、「デジタル化とグローバル化の大波があらゆる産業の基盤を掘り起こしつつある。過去と非連続なディスラプション(断絶)を乗り切るには、人材の再教育が欠かせない。」というものである。
各社での取り組みを紹介し、「若手社員にはキャリア形成を重視する傾向が強まっている。終身雇用や年功賃金だけで社員をつなぎ留められると考えるのは時代遅れだろう。社内人材の能力を磨き、成長基盤を固める――。人づくりの大競争こそが日本経済を復活に導く王道になる。」と結んでいる。

示唆に富む内容であるが、「社内人材」に重きを置く点は、「時代遅れ」であろう。「終身雇用や年功賃金」を本気で見直すと、「仕事に見合った人材」が必要になるが、仕事に最適な人材は、社内にいるとは限らず、広く社外にも求める必要があるのではないか。これは例えば、映画製作において、様々な専門家を集めて仕事を行うようなものであり、製作中は専門家としての能力を発揮するが、完成後は解散して個々人の立場に戻るということである。
これからの仕事は、このようなプロジェクト型になると、私は思っている。日本人は器用で、見様見真似で作業を行い、それを改善工夫して立派な製品などを作り出してきたのであるが、そのような仕事の仕方が、専門家中心となる時代に役立つとは思えない。
人材育成についても、団体作業に向くような人間を集め、突出した存在を評価するよりは協調性を評価してきたのが、一括採用・年功賃金・終身雇用というシステムであったと思うが、技術革新の激しい時代には、通用するものではない。
これからの時代の人材育成は、一人で立つ専門性を身に着けるようにすることだと思うが、思考力・想像力を育てるために大学入試に記述式を導入するという程度の発想力しかない文部科学省が牛耳る学校教育には、多くは期待できないだろうと暗たんたる気持ちになってしまう。
2020年1月20日 日経 朝刊 5面 利便追求、重なった誤算 もがくヤマトとセブン


「ヤマトとセブン。昭和のほぼ同じ時期に事業を開始し、生活に溶け込むまでになった。」が、「お客様のため」という錦の御旗のもとで、利便性を追求したサービスや商品の連打が皮肉にも徒(あだ)となった、という記事である。
記事では、「生活者の利便性の捉え方は時代とともに変化する」ので、令和の持続可能な「お客様のため」にどう作り直すか、が課題としている。

この記事を見て、かつてのサッカーの日本代表のトルショ監督が、日本代表が強くなるためには、コンビニと宅急便がある」ようではダメだ、とおっしゃったことを思います。コンビニと宅急便に象徴される利便性は日本の特徴だと思うが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということではないか。
その観点からすると、記事が、「お客様のため」を強調しているのが気になる。ヤマトとセブンの方式が行き詰まっているのは、サービスを提供する従業者に過大な負担がかかっているからであろう。それも、低コストでの提供ということで、ヤマトではサービス残業が、セブンでは残業代等の不払いが表面化し、セブンでは日本人を雇うことが難しく、外国人のアルバイトなどに頼っている状況である。労働基準法の中身を知らないような外国人労働者(日本人の学生バイトも同様のようだが)を適正・適法に処遇しているのか、疑わしいのではないかと思ってしまう。
問題は、過剰なサービスを抑制することではないか。サービス向上が様々な革新につながることは事実で、温水洗浄便座などは外国人が驚嘆するものであり誇らしいが、従業者に過大な負担をかけ続ける仕事は、改善され排除されていくべきものであろう。それについては、消費者も、便益の低下を甘受すべきである。「三方一両損」のような、一見、みなが損をするようでも、関係者間で調和のとれた仕組みが、長続きするのではないか。
2020年1月20日 日経 朝刊 3面 巨大ITが生む格差 労働分配率の反転みえず

マサチューセッツ工科大のデービッド・オーター教授へのインタビュー記事である。「スーパースター企業」の出現により、収益の取り分が株主や経営者に偏り、労働者に向かいづらくなったというのが、教授の考え方だそうである。
「イノベーション(革新)を起こした一握りの企業が圧倒的なシェアやネットワークを持ち、低コストで優れた商品やサービスを大量に売ることができる。たくさん人を雇ったり、高い賃金を支払ったりする必要性が薄れる一方、株主や経営者は過去の時代とは不釣り合いなほど巨額の利益を得るようになった。」ことが格差を生む一因になっており、「社会全体の労働分配率はさらに下がる」という見方である。
「仕事がなくなってしまうのではないか」という不安に対しては、「社会的に問題なのは仕事が不足することではなく、比較的スキルの低い仕事の割合が増えていることだ」としている。
そして、「すぐに効くような解決策は見いだしづらいが、政府は労働分配率を反転させるための策を十分に検討する必要がある」と結んでいる。

そう目新しい分析や意見があるわけでもないが、現状への危機感は感じられる。問題は、政府が「労働分配率を反転させるための策」を見出せるかどうかだが、巨大企業への税負担を強化するどころか、そうした企業を自国に誘致しようとして各国が法人税引き下げ競争に励んでいる有様では、一国内での対応は難しいものがある。さて、世界は、今後どのような方向に向かっていくのであろうか。
2020年1月20日 日経 朝刊 2面 (社説)格差是正の政策を誤っていないか

「グローバル化やデジタル化は経済的な成功の条件を塗り替え、新たな環境に適応できる者と適応できない者の二極化を促した。」ことで格差が拡大したことに対し、「政府が地に足の着いた施策を確実に実現し、包摂的な経済や社会をつくる努力を続けたい。」とするものであるが、「欧州ではいったん導入した富裕税を撤回した国が少なくない。資本逃避などの弊害も無視できないからである。」とし、「サンダース氏やウォーレン氏が唱える国民皆保険なども、巨額の財源を要する非現実的な公約だ。」として、切り捨てている社説である。

何を主張したいのか、さっぱり分からない。「政策を誤っていないか」というのなら、代替策を提示しているのかと思いきや、「危うい排斥とばらまき」を批判するだけで、何ら建設的な議論に役立つものはない。お題目的問題提起と受け止めるべきなのであろうが、これが、新聞社を代表する「社説」なのかと思うと、何ともやるせない。
2020年1月20日 朝日 朝刊 33面 (職場のホ・ン・ネ)残業は管理職ばかり

「銀行の課長職です。会社は定時退社や有休取得を勧めてきます。若手社員は当然のように午後6時にはいなくなります。仕事量は減っていません。気がつけば、中間管理職ばかりが夜のオフィスで働いています。」というものである。「我々が若手の頃は上司が残業していると帰りづらく、気の利く上司が早く帰るよう心がけていました。」というものである。

この投書だか取材だか分からないものを、朝日新聞は、何故掲載したのだろうか。その意図を疑う。恒常的な残業が発生するのは、仕事量と人員とがマッチしていない場合ばかりでなく、管理職が無能である場合もある。この記事の場合、後者であるとしか思えない。その上に、「上司が残業していると帰りづらく」と、暗に無意味な気遣い残業まで求めているのである。なるほど、こんな管路職なら、無駄な残業が続くだろうし、経営も傾くであろう。
本来の「仕事量と人員とがマッチしていない場合」に手を打つ責任を負うのが管理職である。仕事の中には、突発的な緊急事態で、残業がやむなく発生するものもある。その「いざ鎌倉」の場合に備え、あるいは、より仕事を効率的に行うための研鑽の時間を確保するために、残業で心身を消耗することは避けるべきであろう。「気の利く上司が早く帰るよう心がけていました」という自分勝手な管理者がのさばっている会社なら、潰れてしまえ。
2020年1月20日 朝日 朝刊 33面 待遇改善?…非正規公務員の困惑 新制度「会計年度任用職員」の記事に反響
2019年12月2日 朝日 朝刊 29面 ボーナス出ても月給が減るなんて… 非正規公務員、来春スタートの「会計年度任用職員」

「今年4月に始まる非正規公務員の新制度「会計年度任用職員」の記事を昨年12月に掲載しました。待遇改善を目指すはずが、必ずしも狙い通りにはなっていない事例を紹介したところ、読者からも同じような事例のメールを頂きました。新制度での募集は今年に入って本格化していますが、当事者の困惑はおさまっていないようです。」という書き出しで始まる記事である。
くだんの記事は、上記の2019年12月2日付朝日朝刊29面のもので、「すべての非正規公務員をボーナス支給の対象にすることが目的」の制度整備のはずなのに、「実態はボーナスを支払う代わりに月額を減らす自治体が目立ちます」というものだった。
前回の記事で寄せられたものとして、「年収が減る」ケース(初回ボーナス、対象4月分のみ)や「パートタイムに移行」(15分残業扱い、退職金は出ず)が紹介されている。

この「会計年度任用職員」の制度は、同一労働同一賃金の考え方に沿って、不合理な差別的待遇を禁止しようとしたもので、「パートタイムの会計年度任用職員はボーナス、フルタイムの場合はボーナスだけでなく退職金など他の手当も対象になる。」というものだが、骨抜きにしようとしているわけである。範を示すべき自治体がこの有様では、民間でも、様々な違法・脱法の行為が蔓延するだろう。嘆かわしいが、それが、この国の実態なのであり、それを見つめることから始めるしかあるまい。
2020年1月20日 朝日 朝刊 6面 (声)富の再分配で米大統領に対抗を

朝日新聞への投書で、「米大統領選に向け、民主党の台湾系米国人で実業家のアンドリュー・ヤン氏が最低生活保障制度(ベーシックインカム)を掲げ、世論の支持を広げているという」ことから、「AIや自動化でどんなに効率良く商品が生産されても、それを買う消費者がいなければ企業は成り立たない。」とし、「富の再分配に応えることで資本主義は生き残れると考える。日本も、賃金の上昇が望み薄の昨今、ヤン氏の主張に学ぶべき点はある。」と結んでいるものである。

限られた字数の中で、簡潔に要点をまとめておられ、正直、感服する。主張には、まったく同感である。この投書の質的水準は、記事内での論説よりも高いのではないか。朝日新聞には、もっと問題の本質を衝いた論説を期待したい。
2020年1月20日 日経 朝刊 1面 「違反」残業なお300万人 月80時間超 人手不足、管理職の負担増

「大企業の残業に罰則付き上限が導入された20194月以降も月80時間超の残業をしている人が推計で約300万人に上ることが総務省の調査で分かった。」という記事である。
「働き方改革の動きが広がる中で統計上の残業が減らない理由の一つは、これまで隠れていた残業が表に出てきたためだ。」という。「もう一つは部下の残業時間を抑えたしわ寄せも受ける形で、管理職の労働時間が高止まりしているためだ。」ともしている。
そして、「生産性の向上を伴わずに残業時間だけを減らすと、働き手の手取り収入が減り、それが消費を下押しする構図に日本経済がはまりかねない。労働時間を厳しく管理するだけでなく、収益を高める生産性向上と一体的に進め、その果実を働き手にも還元する好循環をつくることが課題になる。」と結んでいる。

まず、「サービス残業」が論外であり、これまで時間管理が厳格に行われてこなかったことに一番の問題がある。時間を売っている労働者に対する経営者による搾取であり、もっと厳格に管理し、不払賃金の時効期間を延長し、ペナルティも強化すべきであろう。
管理職の残業について、不思議に思うのは、管理職には残業手当はつかないのではないか。もちろん、過労死対策から、管理職についても時間管理は必要であろう。だが、一般の従業員から管理職の方に残業が移ることが問題視されるのには違和感がある。そもそもの残業は管理職が一般の従業員に命じるものではないのか。時間やコストの管理が強化されて減る残業は、もともと管理職が命じるべき残業の範疇に入るべきものではなかったのではないか。管理職には業務や人員を適正に管理する義務があり、自分の「残業」が増えるのは、その管理がずさんだからであろう。同情すべき余地があるとは思えない。
最後に、「生産性の向上」は、残業時間の減少の影響にとどまらずに、「働き手の手取り収入」が減ることにつながり得る。所定内賃金を減らすことはできなくても、賃金の上昇抑制要因には、なり得る。「効率を上げると賃金が減る」というパラドックス的な現象に対しては、個々の従業員の労働の価値を引き上げていくしかないが、非正規労働者の多用に見られるように、企業では、むしろ「使い捨て労働」が蔓延している。これを抑止するための一つの方策は、最低賃金の引き上げによる賃金水準の底上げだが、日経新聞は、これに対して、生産性に見合った賃金という考え方を損なうものとして、反対してきた。
賃金を生産性に見合ったものにすることを徹底するなら、生活を維持する糧は、賃金以外に求めるしかない。それが、ベーシック・インカムの考え方であるが、そこまで踏み込まずに、残業減の影響だけを論じているのが、この記事の限界と言えるであろう。

2020年1月19日日曜日

2020年1月19日 日経 朝刊 39面 出せぬ辞表、退職代行で 「自分で話すのが筋だが…」


「会社を辞めさせてほしい」と申し出た社員に、社長が「仕事があるだろう。とにかく会社に来い!」と怒鳴るところから始まる記事である。結局、この社員は、「退職代行」の会社に頼り、「会社と全く接触しないまま退職が実現した。」そうである。

人手不足の会社の中では、この社長のような違法な退職抑止が行き渡っているように思われる。追い込まれた社員が、「退職代行」にすがる気持ちも、分からないではない。ただし、記事にあるように、「業者が会社と交渉をすると、弁護士法が禁じる非弁行為に当たる可能性がある」し、「代金を支払っても事態が進まないといったトラブル例」もあるそうである。
その会社で働く意欲をなくした社員を、無理やりに働かせるのは、拷問とも言える。社員側も、明快な意思表示をすべきだし、退職通知を「内容証明郵便」で送れば済むのではないかと思うが、拷問的引き留めは、悪徳業者による「たこ部屋」の強制労働と等しいものであるのだから、労働行政で取り締まるべきであろう。こうした労働者が、有償の業者に頼らなければならない状況を放置しているのなら、税金で食わせてもらっている労働基準監督署など、不要ではないか。
2020年1月19日 朝日 朝刊 7面 (フォーラム)「妖精さん」どう思う?:1 現状は
2019年11月12日 朝日 朝刊 3面 (老後レス時代 エイジングニッポン:2)動けぬ「会社の妖精さん」

年を取っても働き続ける――日本はそんな社会に近づいています。一方で、産業構造の変化などから、企業でベテラン社員が築いてきたスキルと業務がかみ合わず、やる気を失っている現実もあります。こうした「働かない」中高年を「妖精さん」と名付けた若手社員の記事を掲載したところ、様々な反響を呼びました。」ということに関する特集記事である。
「妖精さん」の言葉は、2019年11月12日朝日朝刊3面の記事に現れたものである。
日本を代表する大手メーカーを数年前に辞めた元社員の女性(34)はこう証言した。会社に「妖精さん」がいた――。フレックスタイムを使って午前7時前に出社、タイムカードを押してから食堂へ。コンビニで買ったご飯を食べ、スポーツ新聞を読んでゆったり過ごし、他の社員が出社する9時前に静かに自席に戻っていく。その実態は、メーカーに勤める50代後半で、働いていないように見える男性たち。朝の数時間しか姿を見せないので、若手の間で「妖精さん」と呼んでいる。」というものである。
結構、衝撃を感じた記事だったが、大きな反響があったようで、この特集記事に到ったものである。
記事で、立教大の中原淳教授は、長期雇用を守るために起こる「生産性と賃金が見合わない状況」は、どの世代でも生じるとし、「仕事に対して人を用意するのが健全な状態です。スキルを磨いて気持ちよく働ければみんな幸せです。」としている。そして、「年金など社会保障制度の改革も急がれます。」ともしている。
一方、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長は、これまでの正社員のようにムチャクチャに働かされることなく、職務や職場、労働時間が「限定」された「無期雇用」の労働者である「ジョブ型正社員」を推奨しているが、これは「仕事がなくなれば整理解雇されるという点で、これまでの「正社員」とは違います。」とのことである。そして、「ジョブ型正社員の普及を目指すなら、社会保障制度の強化が必要です。」としている。
読者からも、いろんな声が届いているようである。「昔は妖精じゃなくて妖怪と言った。若い時はああなりたくはないと思ったが、年をとったら自分がそうなってしまった。」60代男性)というものもあった。

「妖精さん」の存在を認める企業も社員も、甘えの構造の中にいるとしか思えない。こうした事態は、大企業の中だからこそ許容されるものであり、中小企業であれば、会社が潰れてしまうであろう。最大の問題は、「仕事」と「スキル」のミスマッチであるが、それは、今後、AIの本格活用によって拡大するものと思われる。賃金を成果(生産性という言葉が安易に使われるが、あいまいな感じがする)と連動させる動きは、今後も強まるであろうし、そうでなければ、企業はグローバル競争を生き抜いていけないであろう。そうなれば、当然の事ながら、労働者間の賃金格差は拡大する。
そこで検討すべき課題となっているのが、BI(ベーシック・インカム)である。「新しい技能を身につける努力が50代にも、若い世代にも望まれます。」という状況の中では、会社を離れてでもスキルの刷新をしなければならない場面が訪れるであろう。その時に、所得が絶たれることとなれば、どうにもなるまい。BIの実現には多くの課題があるが、その途への模索が必要な時期になっている。この課題は、「ジョブ型社会」の欧米諸国でも同様であり、「ジョブ型正社員」の導入だけで解決に向かうようには思われない。

2020年1月18日土曜日

2020年1月18日 日経 朝刊 11面 NTT、非正規・正社員の手当平等に 労組はベア2%要求へ

「NTTは4月から非正規社員の手当を正社員と同じ基準で支給する」という記事である。「4月から深夜などに勤務シフトを変更した際に支給している手当や、災害時の復旧作業の手当などを全組合員に支給する。」「このほか19年7月から順次、非正規社員も慶弔休暇などを取得できるようにした。」というもである。

同じ労働者である以上、「同一労働同一賃金」は当然の事である。記事の深夜手当や災害復旧作業手当、あるいは慶弔休暇などは、当たり前の事で、これまで支払われてこなかったことに呆れる。しかし、そうした差別が、組合が強いと言われるNTTでも、当然の労使慣行だったわけである。
日本は、国際労働機関(ILO)の8つの基本労働条約のうち、「強制労働の廃止」(105号条約)と「雇用と職業における差別待遇の禁止」(111号)の2条約に批准していない。111号条約が雇用に関する差月待遇を禁止しているのである。
口では従業員重視と言う経営者は少なくないが、このお粗末な現状が、日本の現実である。
2020年1月18日 日経 朝刊 3面 (きょうのことば)生産年齢人口 経済成長・社会保障支える

「生産年齢人口」とは、「生産活動を中心となって支える人口」のことで、「経済協力開発機構(OECD)は15~64歳の人口と定義している」ものである。日本では、少子化が問題シされているが、「国連の資料によると、世界の生産年齢人口は2020年時点で50億8000万人。新興国を中心とする人口増で、50年には61億3000万人と20%増える見通しだ。」ということである。
記事では、人口が減少している日本において、「生産活動を持続して社会保障制度も維持するためには、女性や高齢者の社会進出が求められるほか、外国人労働者の受け入れなども課題となる。ロボット技術などを活用して作業を自動化したり、負担を軽減したりする取り組みも始まっている。」としている。

生産年齢人口が増加することで経済成長が押し上げられる効果は、「人口ボーナス」と呼ばれている。一方、減少することによる逆効果は、「人口オーナス」(onus、重荷)と呼ばれている。ただ、人口が増えれば経済成長率が高くなり、減れば低くなるというような単純なものではない。貧しい国での人口増の負担は、口減らしという悲劇につながることもある。
先進国が人口減少となっても、世界全体での人口は増加する見込みである。1972年にローマクラブが発表した報告書『成長の限界』は、人口増加率と経済成長率が持続すれば,食糧不足,資源の枯渇,汚染の増大によって地球と人類は 100年以内,おそらく 50年以内に成長の限界に達し,人口と工業力の制御不可能な減少という破滅的結果が発生せざるをえないと警告した。その警告は、環境問題などに見られるように、現実の危機となっている。
経済成長と人類の存続の問題は、グレタさんが危機感をもって訴えたもので、各国が自国第一主義をとれば破滅的結果になることを警告したものである。だが、現状、地球の未来は、明るくない。
2020年1月18日 日経 朝刊 1面 中国経済、高齢化の影 昨年6.1%成長に減速 迫る「団塊」退職、しぼむ内需
2020年1月18日 日経 朝刊 2面 (社説)中国は「国進民退」改め安定成長めざせ

「中国経済に少子高齢化の影が忍び寄ってきた」ことに関する記事である。「2019年の実質国内総生産(GDP)成長率は6.1%にとどまり、18年から0.5ポイントも縮小した。米国との貿易戦争が主因だが、生産年齢人口の減少による個人消費の弱含みも無視できない。」としている。
その背景には、「中国では1564歳の生産年齢人口は13年の10億人をピークに減り始めた。一人っ子政策で出産を抑えたため、総人口に占める生産年齢人口の比率は10年に75%まで上昇し、日本(ピーク時に70%)よりも高い。」という点がある。また、「60歳定年が中国では厳格に実施されており、仮に1559歳を生産年齢人口とすると22年からは毎年約1千万人(約1%)ずつ減る。」という状況もあるようである。
「未富先老(豊かになる前に老いる)」という言葉が現実問題となっており、「19年には中国社会科学院が「公的年金の積立金が35年に底をつく」との試算を公表した。」とのことである。

一方の社説は、この状況に対して、「中国が発表する公式統計には常に水増し疑惑が付きまとってきた」として、実態は、さらに厳しいのではないかと推測し、「国有企業の優遇と民業の厳しさを意味する「国進民退」」を改めるように求めている。

世界経済を牽引してきたとされる中国だが、その内実は、記事のように盤石なものではない。一方、「一人っ子政策」が批判されるが、国が貧しい状態の中では、養える国民の数にも限度がある。日本でも、太平洋戦争時の「産めよ、増やせよ」から、戦後は一転して「産児制限」が実施されることになった。国の経済力と養える国民の関係の例は、幕末のペリー来航の際に、当時の日本で生じていた赤子の間引きや姥捨状況は、開国して貿易で国を豊かにすれば解消するのではないかとも言われていた。当時の国民数は3千万人程度とされているが、1億円にも膨れ上がった状況からすると、一定の真実かもしれない。
ともあれ、急成長に伴う歪みは、日本も経験したことである。少子高齢化の重荷に、どのように日本が対処するのかは、世界中が注目している。その対処が中国にも参考になるようであれば、それは日本の世界的貢献の一つとなるであろう。

2020年1月17日金曜日

2020年1月17日 日経 夕刊 3面 「世界最高の国」ランク、首位スイスで日本は3位

米誌「USニューズ&ワールド・リポート」が発表した2020年の「世界最高の国」ランキングで日本は3位となった、という記事である。「2019年調査の2位から順位を1つ落とした」そうである。「スイスが4年連続首位となったほか、上位10カ国には、ドイツや英国、スウェーデンなど欧州勢が目立った。」という。

元の米誌ソース(https://www.usnews.com/news/best-countries/overall-rankingsを見てみよう。「Overall Best Countries Ranking」の評価基準は、「ペンシルベニア大学ウォートン校の研究チームなどが開発した評価モデル」に基づくものだそうであるが、次のようになっている。
 アドベンチャー(2%)、市民権(15.88%)、文化的影響(12.96%)、起業家精神(17.87%)、遺産(1.13%)、発動機(14.36%)、ビジネス向け(11.08%)、権力(7.95%)、生活の質(16.77%)
内容の分かりにくい項目もあるが、日本の場合、次の評価となっている。
 Adventure:3.2(34位)、Citizenship:5.0(17位)、Cultural Influence:7.0(6位)、Entrepreneurship:9.3(2位)、Heritage:7.0(10位)、Movers:7.8(5位)、
 Open for Business:5.7(25位)、Power:6.2(7位)、Quality of Life:6.5(14位)
4年連続1位のスイスは、次のようになっている。
 Adventure:5.1(14位)、Citizenship:9.3(7位)、Cultural Influence:5.6(10位)、Entrepreneurship:8.8(5位)、Heritage:3.2(31位)、Movers:4.5(19位)、
 Open for Business:9.22位)、Power:3.0(13位)、Quality of Life:8.8(7位)
見比べてみると、日本の場合、Entrepreneurship(起業家精神)の順位が高いが、その内容は、「世界の他の地域と繋がり、教育を受けた人口、起業家精神、革新的で、資本への容易なアクセス、熟練した労働力、技術的専門知識、透明なビジネス慣行、よく発達したインフラ、よく発達した法的枠組みを提供します。」となっている。文化的影響や権力も、順位が高い。

この手の世界ランキングには、日本も、かつては血道をあげて順位を上げようとしたことがあった。今回の順位に、15位の中国や20位の韓国は、不満をもらしているそうである。一つの基準に過ぎず、世界最高の国第3位と言われてもピンとこないが、順位の高い点を大事にするだけでなく、順位の低い点に改善の余地がないのかどうかを吟味するという当たり前のことが、有用利用ということになるだろう。

2020年1月14日火曜日

2020年1月14日 日経夕刊2面 (就活のリアル)人材獲得、企業は長期視点で

こちらは、この就活コラムのもう一人の専門家である雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏によるものである。海老原氏の解説は、欧米の事情も踏まえたもので、労働市場のあるべき姿を展望していて、興味深い。
この回では、「大学生の新卒採用が売り手市場なのは、少子化とは関係のない、好景気による一時的なものだ」という視点からスタートしている。「不況が来れば氷河期は襲来する」というのが、過去の歴史だというのである。
その上で、「中堅・中小企業の経営者に考えてほしいことがある」としているのだが、それは、「不況の時に、思い切って人材を大量確保するのはどうか」ということである。「採用市場全体が縮小する中では、好況期よりも量・質ともに満足のいく人材を獲得できるはずだ。30年来、雇用を見続けてきたが、伸びた企業は必ずこの手法をとっている。」というのである。そして、「経営が苦しくなった企業が従業員の雇用を維持するため休業手当などを国が払う」雇用調整助成金の活用も視野に入れるべきだとする。

私も、1974年の大学卒業以来、自身や後輩の就職活動を見てきたが、日本企業の人事は、まるで進歩がないと思わざるを得ない。好況期に大量の採用をし、不況期には極端に絞り込み。これは、資産運用で言うと、高値の時に買い付けて、安値の時に売り出すようなもので、まったく逆であって、てんで儲かるはずはない。それでも、他社がやるからやる、やらないとトップから何してるんだと言われかねないという企業体質なのである。日本的雇用の限界を口にする経営者は数多いが、その会社の人事政策を見れば、まずトップを変えた方がいいのではないかと思うことが少なくないであろう。

2020年1月7日火曜日

2020年1月7日 日経夕刊2面(就活のリアル)インターン時期ごとの目的 夏落ちても冬に受けて

この就活コラムは、二人の専門家が担当している。一人jは、ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表で、主として、実務的な事について論じている。
この回では、「夏のインターンシップ」と「冬のワンデーインターンシップ」について述べて、「企業にとって位置づけが違う場合が多い」としている。
「夏の3日以上のインターンシップは…優秀層の取り込みをねらっている企業が多い」とし、「本選考よりも激戦であり、難関と言われるくらい」としている。一方、「(冬の)ワンデーインターンシップは実質の会社説明会であり、企業の目的は広く採用のための母集団を形成するもの」としている。
こうした違いから、夏落ちても、冬のインターンを遠慮なく受ければいいと言うのである。

内容については、その通りだが、そもそも企業がインターンに血道を上げ、学生の学業にも支障をきたしている状況は、いただけない。特に、冬のワンデーインターンは、単なる顔合わせの意味しかなく、何のためにやっているのか首をひねらざるを得ない。恐らく、一番大きな理由は、他社もやっているから、ということだろう。「新卒一括採用」には問題があるとしながら、こうした「横並び体質」が日本の企業の実態である。
さらに、夏のインターンも、数日程度で、インターン生の資質を見極めることなど、できるとは思えない。海外のインターンは、もっと実務に徹しているようだが、日本のインターンは、お客様扱いのきらいもあると聞く。
それでも、就活に悩む学生にとっては、他の学生に遅れまいとすることになるだろう。だが、その結果の新入社員は、3年で3割退職するとも言われている。罪作りな話で、日本の人事管理のお粗末さを示すものである。

2020年1月5日日曜日

202015 日経朝刊31面 1964→2020 貧困今もそばに ひとり親支援なお足りず

この記事は、まず、「前回東京五輪から2年後の1966年」に、厚生省(現厚生労働省)の低消費水準世帯(消費水準が生活保護世帯の平均を下回る層)の調査打ち切り」が行われた事実から始まっている。そして、この高度成長期に消えた調査に代えて、「政府は2009年、標準的所得の半分未満で暮らす「相対的貧困」の割合(06年時点)を初めて公表した。その率15.7%、約6人に1人。」事態を報じている。
「2015年のひとり親世帯の相対的貧困率は、実に50.8%に達する。」という状況であり、「2020年の今、貧困の問題はどこか遠くではなく、私たちのすぐそばにある。」と結んでいる。

マザーテレサは、来日の際、日本人を「豊かな国の心貧しき人々」と評した。そう言われても仕方のない貧困の現実が、日本にはある。少子化が進み、「子どもは社会の宝」と位置付けられるべき状況の中で、子供の貧困は深刻で、虐待も後を絶たない。社会的連帯、世代内・世代間の助け合いの意識、年金制度を支えるのは、まさに、その点であるのだが、日本の未来に希望は持てるのだろうか。

2020年1月4日土曜日

202014  日経朝刊15面  年金改革、増える選択肢 受給額、物価ほど増えず

この記事は、「公的年金制度の改正案が1月から始まる予定の通常国会に提出され、成立に向けて動き出す。現役世代は、何が変わり何が変わらないかを知り、今後の生活設計に生かしたい。」という趣旨のものである。改正案の「最重要項目は短時間労働者への厚生年金の適用拡大」で、「受給開始時期の選択肢拡大」も盛り込まれた、としている。また、65歳未満の「在職老齢年金制度」と、「在職定時改定」にも言及している。
さらに、「標準報酬月額」の上限引き上げ(月額65万円)についても触れ、最後に、「賃金・物価の伸びを基にした本来の年金改定率から、現役世代の人数や平均余命の伸びを勘案したスライド調整率が差し引かれる」マクロ経済スライドにより、「2020年以降も年金はさほど増えないことを念頭に、生活設計するのがよいだろう。」と結んでいる。

公的年金制度の改正動向について、要領良くまとめている記事である。そうした改正の経緯については、社会保障審議会年金部会などの資料を参照する必要があるが、公的年金は、負担を担う現役にとっても、給付を受ける受給者にとっても、大きな影響があるから、常にチェックしておく必要があるだろう。
202014  日経朝刊2面 (社説)次代拓く人材を() 産業構造の変化捉えた高等教育に

この社説は、「経済産業省は、AIの技術競争に必要な人材が10年後に数十万人不足すると予測。高等教育機関は、産業構造の変化に応える課題解決型の教育・研究にカジを切る時だ。」とするものである。「大学とは違い、ものづくりの実践的な技術を習得する高等専門学校(高専)」に言及しているが、「高専の多くは地方都市にあり、学生は必ずしも偏差値エリートではない。」とする一方で、「大都市圏の富裕層の子どもほど高学歴で、将来の収入や職業選択で有利な傾向が読み取れる。」としている。、

この「将来の収入や職業選択で有利な傾向」とは何なのか。ここには、「有名大学→有名企業→高収入で安定」という構図が見てとれる。前段で、さんざん大きな変化に言及していたのに、である。
そもそも、文系・理系という区分まかり通っている現状がおかしい。理系の大学で博士号を取得しても、日本の企業は適正に評価していない。大学を牛耳る文部科学省の幹部は、文系出身で、科学の何たるかを理解しているようには思えない。いや、文部科学省のみならず、他の官庁の幹部も文系出身で、政治家にも、理系出身は少ない。
文系か理系かは、数学ができるかどうかで決まり、理系の最優秀層は、収入と地位が高い医者を目指す、そんな時代は、今も終わりを告げたようには思えない。
日本では、スペシャリストとジェネラリストという区分もまかり通ってきた。前者は、「専門バカ」と言われることもあり、企業内で適切に評価されていないのは、博士と同じである。
企業経営でも、スペシャリストが必要となっていることが、日本では十分に理解されているようには思えない。一言でいえば、「プロ」の時代なのであり、そのことを心底感じられなければ、高等教育も変わるまいし、期待しても無駄だろう。



2020年1月3日金曜日

202013  日経朝刊1  「逆境の資本主義」(2)働き方縛る もの作りの残像 労働の「賞味期限」長く


この記事は、ケインズが「2030年までに経済問題が解決し、自由な時間をどう使うかが人類の大きな課題になると述べた」のに対し、現在は、「人工知能(AI)やロボットによる代替が進み、世界の労働者の3割にあたる最大8億人の仕事が失われる」という予測も出てきており、「働かなくてもよくなるのか、働けなくなるのか。その捉え方は違えど、労働の未来は大きく二極化する。」というものである。
「時間や肉体ではなく知で勝負する時代」となり、「新しい時代に合った制度や人材教育にどうかじを切るか。新しい競争が始まった。」というのである。


この問題は、深刻さを増している。「2時間で200万円」稼ぐ人もいれば、どんなに働いても、ワーキング・プワーから抜け出せない人もいる。格差は拡大の一途を辿っていると思うが、本来、所得再分配によって、格差の是正を図るべき国が、グローバル競争の中で、競争力を持つ巨大企業の法人税の引き下げ競争を行うなど、機能不全とも言うべき状況に陥っているように見える。救いは、災害支援におけるボランティアの活動に見られるような無償奉仕活動の拡大だが、政策としてどのような対応するのか、重い課題が表面化している。

2020年1月1日水曜日

202011  日経朝刊3面 中西経団連会長 年頭インタビュー 「雇用制度全般の見直しを」

この記事は、経団連の中西宏明会長が年頭インタビューで、「雇用制度全般の見直しを含めた取り組みが大事だ」と語った、というものである。
「新卒一括採用、終身雇用、年功序列型賃金が特徴の日本型雇用は効果を発揮した時期もあった」が、「雇用制度全般の見直しを含めた取り組みが重要だ」とするものである。

指摘されていることは、大分前から課題となっているが、改革は進んでいない。「新卒一括採用、終身雇用、年功序列型賃金」を一言で総括すると、若者の能力発揮を抑制し、中高年齢層の利益を擁護するものと言えよう。だが、その仕組みの中で地位を上り詰めた中西会長の言葉で、改革が進むものなのかどうか、極めて疑わしい。
ダーウィンは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」と言った。経団連のような高齢者団体が経済を牛耳っている間は、変化は加速しないのではないか。

202011日 日経朝刊2面(社説)次世代に持続可能な国を引き継ごう

この社説は、第1に「企業の変革」として、「年功賃金の見直しや多様な雇用形態の実現」を求めるものである。第2に、「国が責任をもって少子化対策や持続可能な社会保障への転換を推進」として、「高齢者も応能負担必要」とするものである。象徴としては、医療費の現役並み3割負担への引き上げを求めている。第3は、国に「エネルギー・環境政策を一体として立案し、工程表をつくること」を求めている。
そして、「政治の強いリーダーシップ」によって、「持続可能な国づくりの具体策を競う年にしてほしい」と結んでいる。

いずれも、現在の日本の社会構造を変革するものであるが、大きな障害がある。それは、産業界にしろ政界にしろ、長老支配がまかり通っていることである。いずれのリーダーも、世界全体と比べれば、既得権にまみれた高齢者である。ましてや、人口の半分を占め、次世代育成の中核となる女性リーダーの登用は、遅々として進んでいない。
「老人は過去に生き、若者は未来に生きる。」といい、伊庭貞剛は、「事業の進歩発達に最も害をするものは、青年の過失ではなくて、老人の跋扈(ばっこ)である」と喝破した。若者、特に女性に未来を委ねる度量なくして、「持続可能な国」にはならないのではないか。