2020年1月19日日曜日

2020年1月19日 日経 朝刊 39面 出せぬ辞表、退職代行で 「自分で話すのが筋だが…」


「会社を辞めさせてほしい」と申し出た社員に、社長が「仕事があるだろう。とにかく会社に来い!」と怒鳴るところから始まる記事である。結局、この社員は、「退職代行」の会社に頼り、「会社と全く接触しないまま退職が実現した。」そうである。

人手不足の会社の中では、この社長のような違法な退職抑止が行き渡っているように思われる。追い込まれた社員が、「退職代行」にすがる気持ちも、分からないではない。ただし、記事にあるように、「業者が会社と交渉をすると、弁護士法が禁じる非弁行為に当たる可能性がある」し、「代金を支払っても事態が進まないといったトラブル例」もあるそうである。
その会社で働く意欲をなくした社員を、無理やりに働かせるのは、拷問とも言える。社員側も、明快な意思表示をすべきだし、退職通知を「内容証明郵便」で送れば済むのではないかと思うが、拷問的引き留めは、悪徳業者による「たこ部屋」の強制労働と等しいものであるのだから、労働行政で取り締まるべきであろう。こうした労働者が、有償の業者に頼らなければならない状況を放置しているのなら、税金で食わせてもらっている労働基準監督署など、不要ではないか。
2020年1月19日 朝日 朝刊 7面 (フォーラム)「妖精さん」どう思う?:1 現状は
2019年11月12日 朝日 朝刊 3面 (老後レス時代 エイジングニッポン:2)動けぬ「会社の妖精さん」

年を取っても働き続ける――日本はそんな社会に近づいています。一方で、産業構造の変化などから、企業でベテラン社員が築いてきたスキルと業務がかみ合わず、やる気を失っている現実もあります。こうした「働かない」中高年を「妖精さん」と名付けた若手社員の記事を掲載したところ、様々な反響を呼びました。」ということに関する特集記事である。
「妖精さん」の言葉は、2019年11月12日朝日朝刊3面の記事に現れたものである。
日本を代表する大手メーカーを数年前に辞めた元社員の女性(34)はこう証言した。会社に「妖精さん」がいた――。フレックスタイムを使って午前7時前に出社、タイムカードを押してから食堂へ。コンビニで買ったご飯を食べ、スポーツ新聞を読んでゆったり過ごし、他の社員が出社する9時前に静かに自席に戻っていく。その実態は、メーカーに勤める50代後半で、働いていないように見える男性たち。朝の数時間しか姿を見せないので、若手の間で「妖精さん」と呼んでいる。」というものである。
結構、衝撃を感じた記事だったが、大きな反響があったようで、この特集記事に到ったものである。
記事で、立教大の中原淳教授は、長期雇用を守るために起こる「生産性と賃金が見合わない状況」は、どの世代でも生じるとし、「仕事に対して人を用意するのが健全な状態です。スキルを磨いて気持ちよく働ければみんな幸せです。」としている。そして、「年金など社会保障制度の改革も急がれます。」ともしている。
一方、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長は、これまでの正社員のようにムチャクチャに働かされることなく、職務や職場、労働時間が「限定」された「無期雇用」の労働者である「ジョブ型正社員」を推奨しているが、これは「仕事がなくなれば整理解雇されるという点で、これまでの「正社員」とは違います。」とのことである。そして、「ジョブ型正社員の普及を目指すなら、社会保障制度の強化が必要です。」としている。
読者からも、いろんな声が届いているようである。「昔は妖精じゃなくて妖怪と言った。若い時はああなりたくはないと思ったが、年をとったら自分がそうなってしまった。」60代男性)というものもあった。

「妖精さん」の存在を認める企業も社員も、甘えの構造の中にいるとしか思えない。こうした事態は、大企業の中だからこそ許容されるものであり、中小企業であれば、会社が潰れてしまうであろう。最大の問題は、「仕事」と「スキル」のミスマッチであるが、それは、今後、AIの本格活用によって拡大するものと思われる。賃金を成果(生産性という言葉が安易に使われるが、あいまいな感じがする)と連動させる動きは、今後も強まるであろうし、そうでなければ、企業はグローバル競争を生き抜いていけないであろう。そうなれば、当然の事ながら、労働者間の賃金格差は拡大する。
そこで検討すべき課題となっているのが、BI(ベーシック・インカム)である。「新しい技能を身につける努力が50代にも、若い世代にも望まれます。」という状況の中では、会社を離れてでもスキルの刷新をしなければならない場面が訪れるであろう。その時に、所得が絶たれることとなれば、どうにもなるまい。BIの実現には多くの課題があるが、その途への模索が必要な時期になっている。この課題は、「ジョブ型社会」の欧米諸国でも同様であり、「ジョブ型正社員」の導入だけで解決に向かうようには思われない。