2020年2月14日金曜日

2020年2月14日 朝日夕刊10面 正社員との待遇差、「日本郵便是正を」 150人提訴
2020年2月15日 朝日朝刊3面 非正社員の待遇差、改善求め150人提訴 日本郵便、賞与や手当巡り

「日本郵便で働く非正社員ら約150人が14日、正社員との格差是正を求める訴訟を全国6地裁で起こした。ボーナスや手当、休暇の格差が、正社員と非正社員との間に不合理な格差をもうけることを禁じた労働契約法に違反すると主張している。」という記事である。
「今年4月には「同一労働同一賃金」に関連する法律や指針(ガイドライン)が施行されるが、各企業がどう対応するかは労使交渉や司法判断に委ねられている部分が大きい。異例の規模の訴訟を起こすことで会社側に是正を求めるという。」としている。
「原告側によると、格差是正を求めているのは、ボーナスのほか、住居手当、年末年始勤務手当、祝日手当、扶養手当など。労働契約が無期か有期かで不合理な格差をもうけてはいけないとする労契法20条に違反するとして、損害賠償を請求している。」そうである。
翌日の朝刊記事は、これをフォローしたもので基本的に同じ内容であるが、「訴状によると、正社員と非正社員の間で賞与や祝日手当の支給額に大きな差があるほか、住居手当、年末年始勤務手当、扶養手当などは正社員だけに支給されている。」と、より具体的な記述になっている。
「日本郵便を被告とする訴訟は、東京・大阪・福岡の各高裁で判決が出ている。一部で原告の請求が認められたが、現在は最高裁に移っている。」とのことで、「地裁や高裁では賞与の差を不合理だとした判決はないが、代理人の棗(なつめ)一郎弁護士は「賞与は10倍から20倍の差がある。賞与の格差が縮まるような判決が出てくれば、非正規労働者の生活はかなり楽になる」と話す。」としている。

この訴訟への朝刊の論評で、沢路毅彦編集委員は、「労働契約法20条が禁じる正社員と非正社員の不合理な待遇差」について、政府は「同一労働同一賃金」の関連法を整備し、「今年4月から大企業に、来年4月から中小企業にそれぞれ適用する。合わせて何が不合理かを具体的に示した指針(ガイドライン)をまとめた。」ことに触れつつ、手当については差別禁止や是正の判決が出てきているが、「指針は基本給や賞与については、職業経験や能力などに基づく違いを認めるとしながらも、「業績への貢献に応じて支給する場合、貢献に応じた部分について正社員と同じように支給しなければならない」などとしており、どこまでの待遇差なら許容されるかが依然としてあいまいだ。日本郵便をめぐる一連の訴訟が企業現場に与える影響は大きい。」と結んでいる。

労働契約法(2007年12月5日制定)は、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」(この条項は2012年に追加)について、次のように規定している。
「第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」
これについて、厚生労働省は、次のように説明していた。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/index.html
「同一労働同一賃金」の関連法は、「パートタイム・有期雇用労働法」(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律、2018年7月6日交付改正であるが、これについての厚生労働省の説明資料は、次のようになっている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
だが、ガイドラインも、「現時点で、今回のガイドラインを守っていないことを理由に、行政指導等の対象になることはありません。」という位置づけのものであり、法の趣旨については、今後、訴訟を含めた社会的合意形成によって、定着が図られていくことになるであろう。

この同一労働同一賃金の関連で、もう一つ念頭に置いておかなければならないのが、国際労働機関(ILO)の基本条約である第111号「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」に、日本が未批准であることである。
https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_239068/lang--ja/index.htm
この問題については、当ブログでも取り上げている。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200118NA11.html
また、次の東京新聞の記事でも取り上げられている。「未批准はわずか13カ国です。G7では日本と米国のみ未批准です。」とのことである。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/seikatuzukan/2015/CK2015011402000182.html
政府が、「同一労働同一賃金」に基づく「働き方改革」を進めたいのなら、早急に
第111号条約(と第105号条約)の批准を行うべきであろう。本気の改革であるのなら、何ら支障はないのではないか。
2020年2月14日 日経朝刊1面 企業の終身年金、支給抑制可能に 長寿化で財務負担増 総額は維持
2020年2月14日 日経朝刊3面 (きょうのことば)企業年金 確定給付は940万人加入

1面の記事は、「長寿化で企業年金の負担が増している」ことに対し、「企業の財務負担を抑えるため、厚生労働省は平均余命が延びたら年間の支給額を減らせる仕組みを2021年度にも導入する。」というものである。
「厚労省が制度変更を検討するのは、確定給付のうち受給者が亡くなるまで年金を払い、長生きする人が増えると企業の支出も増える終身年金だ。」ということで、「厚労省は政省令を改正し、企業の負担増を抑える仕組みをつくる。5年に1度公表する寿命計算のベースとなる「死亡率」の改定に合わせ、企業が保証期間後の支払額を自動的に調整できるようにする。まだ年金を受け取っていない加入者の3分の2の同意を得たうえ、労使で規約を結ぶことを条件とする。」という対応だそうである。
「政府は高齢化に向けた企業年金の改革で、確定拠出で積み立てのできる加入期間を延ばし、受給額を増やすための法案を今国会に提出する予定だ。一方で確定給付は大きな見直しが実施されてこなかった。」が、「今後は長生きすることを前提に、老後の資金を手当てする取り組みが大切だ。公的年金が先細りするなか、高齢者が長く働いて所得を得られる社会づくりが重要になる。」と結んでいる。

一方、2面の用語解説では、「2019年3月末の加入者は確定給付が940万人、確定拠出が688万人だ。」とし、「少子高齢化で公的年金の給付水準が低下する中、企業年金の重要性は高まっている。退職後、企業年金などを活用しながら公的年金の受給開始時期を繰り下げれば、その分だけ公的年金の年間受給額が増えるためだ。厚生労働省は老後の資産形成を促すため、企業年金に長く加入し将来の受給額を増やせるようにするための法案を今国会に提出する方針だ。」としている。

厚生労働省による今国会への提出法案は、上記の記事にあるように、「確定拠出で積み立てのできる加入期間を延ばし、受給額を増やすための法案」で、「確定給付は大きな見直しが実施されてこなかった。」状況である。
その点では、この確定給付企業年金での終身年金の調整にも、意義がないわけではない。
しかし、確定給付企業年金における終身年金の比重が小さいことは、社会保障審議会企業年金・個人年金部会の資料(下記の24ページ)でも報告されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000494946.pdf
資料の表には、確定拠出年金(企業型)を記されているが、この場合の終身年金は、生命保険会社が提供する投資商品としての「個人年金」であり、そもそも提供主体にとっての安全度を見た割高なものであり、実際の選択率は非常に少ない。
一方の確定給付企業年金には、制度として死に体となった厚生年金基金制度からの移行が多いと思われるが、「基金」という形態を維持した基金型での終身年金の実施割合が高いのは、厚生年金基金制度において終身年金が義務付けられていたことの名残であろう。
規約型の方には、新設された確定給付企業年金も含まれるが、2016年の方が2011年よりも終身年金の実施割合が少しだが高いようになっているのは、そもそも、税制適格退職年金(適年)の廃止によって確定給付企業年金の実施企業が減少しているためと思われ、終身年金の採用企業が増えたわけではないであろう。
欧米の企業年金では、確定給付型では終身年金が事実上義務付けられており、長寿化によるコスト増を嫌った企業が確定拠出型に移っていった。だが、日本では有期年金でも可としており、実際にも有期年金の設計が一般的である。このことが、確定給付型→確定拠出型への急激な移行(英米では、確定給付型は死滅状態)を抑止した一因と思われる。
したがって、この終身年金の設計緩和が確定給付企業年金の存続に及ぼす影響は、限定的なものと考えられる。ただし、あまり意味がないわけでもないと思うのは、個々の企業ではなく、解散や中途脱退の加入者の年金資金を受け入れて通算年金として支給している企業年金連合会にとっては、終身年金の提供リスクの軽減に役立つのではないか。

ともあれ、確定給付企業年金制度の存続・普及に向けて、この改善策の寄与度合いは低いだろう。特に、適年の廃止によって企業年金から離脱した中小企業にとっては、この施策の持つ意味は、無に等しい。大企業にとっても、確定給付企業年金の維持を困難にさせているのは、増え続ける可能性のある退職者の存在ではないかというのが、私の見立てである。ゼロ金利という厳しい投資環境の中では、企業責任の確定給付型→個人責任の確定拠出型へと流れていくのが当然であるという見方もあるだろう。しかし、ならば企業責任の退職金が広範に残っているのは何故なのか。また、リーマン・ショックという大波を受けつつも、日本では、それなりの規模で確定給付企業年金が残っているのは、何故なのか。
問題を解決するためには、事態の総括的な分析が不可欠であろう。さもなくば、「企業年金の重要性は高まっている」と言ってみたところで、無意味になる。