2020年2月4日火曜日

2020年2月4日 日経夕刊1面 70歳までの就業機会確保 企業の努力義務に 改正案決定
2020年2月5日 朝日朝刊3面 70歳まで就労機会、関連法案閣議決定 企業に努力義務
2020年2月5日 日経朝刊5面 70歳現役社会へ一歩 シニア雇用、法改正案閣議決定

2月4日の日経夕刊1面の記事は、「政府は4日、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定」ことを伝えている。「今国会で成立すれば2021年4月にも適用する見通しだ。」という。

これについて、2月5日の朝日朝刊3面の記事は、「70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法改正案」に焦点を当て、現行法で企業に義務付けている(1)定年の廃止(2)定年の延長(3)定年後に再び雇うなどの継続雇用、という三つの選択肢の延長に加えて、(4)別の会社への再就職(5)フリーランスとして独立(6)起業を助ける(7)社会貢献活動への参加支援、の選択肢を加え、これら七つの選択肢のいずれかを設けるよう努力義務を課す、としている。(5)~(7)は企業から離れて収入が不安定になるおそれがあるため、「収入が途切れないように企業に対して従業員やその勤め先と業務委託契約を結び続けるといった対応を求める。」そうである。

一方、2月5日の日経朝刊5面の方は、「意欲のある人が長く働ける環境を整える狙いだが、企業には人件費の負担増につながる可能性もある」とし、「企業が活力を保てるよう、年功型賃金など雇用慣行の見直しも欠かせなくなる。」としている。
その上で、「企業が従業員の年齢を理由に一律で退職させる定年制は「年齢差別」として、英米では原則として禁じている。今回の改正法案ではまず、努力義務として就業機会の確保を求め、義務化も視野に入れる。日本も長期的には年齢差別をなくす方向に動いている。」と見ている。
そして、「定年制度は企業の新陳代謝を促す仕組みとして機能してきた面もある」とし、「欧米では職務を明確に定めた「ジョブ型雇用」が定着しているため、年齢に関係なく働ける」と続けている。

このような状況について、一部に、理解が進んでいない面があるが、「定年延長」と「定年撤廃」は、まるで異なる。「定年延長」の先に「定年撤廃」があるという誤解は、「働ける期間が長くなる→いつまでも働ける」という幻想によるものであろうが、「定年撤廃」は、英米のように、成績次第で解雇する(される)ということであり、「解雇を金銭で解決する仕組み」も視野に入ってくるものである。
定年のない英米での解雇の厳しさの例として、野球の大リーグで、選手が一番緊張するのは、クリスマスの時だという記事を見た事がある。ロッカーを開けると、「今日で解雇」という張り紙があり、新年を迎えることができないというのである。外資系の企業でも、解雇されるとパソコンの使用不可どころか、事務所への入室もできなくなり、後日、宅急便で私物が送られてくるという記事も見たことがある。噂に尾ひれがつく分はあるが、退職者の送別会が行われる日本文化とは別物であることは確かのようである。
そうした一方で、フリーランスのような働き方が増えているのは、企業に縛られたくないという面もあるだろうが、企業が雇用保障を嫌って請負契約のようなものに転換しているという面もあるだろう。正社員を増やさずに、非正規社員を増やしてきたのと同じ構造である。
「70歳現役社会」は甘くなく、若いうちから働く能力に磨きをかける必要があることを十分に自覚すべきである。考えて見れば、それが当然の事なのだから。
2020年2月4日 日経朝刊7面 運用会社、代替投資を強化 手数料競争が変革迫る

「大手運用会社がビジネスモデルの転換を迫られている。収益源としていた投資信託で手数料引き下げ競争が起きていることから、ヘッジファンドや不動産といった比較的高い手数料が見込めるオルタナティブ(代替投資)に進出している。」との記事である。
オルタナティブは、「複雑な運用手法や、流動性が低い投資先を管理するノウハウが必要なため、信託報酬が相対的に高い。」ためである。「低金利に悩み、ある程度リスクをとっても運用したいという投資家からの需要」が、その背景にある。
この記事は、基本的には個人の投資についてのものだが、企業年金の方では、一足先にオルタナ投資が導入されており、「2019年8~10月に700超の企業年金基金や厚生年金基金が答えた日経企業年金実態調査では、「今後増やす」と回答した比率が最も高い資産はオルタナティブだった。」という状況にある。

さて、このオルタナ投資を、どう考えればよいのであろうか。これに注目が集まるのは、債券や株式といった伝統的資産への投資が、低金利や不透明な投資環境の中で、思ったようなパフォーマンスをあげられないことによる。「代替」というのは、そのような伝統的な投資対象に代わるものということで名づけられたものである。
私は、1月末に米国年金会議に出席し、それについてブログにも書いた。
 https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200124.html
実は、その会議の中でも、オルタナ投資が取り上げられていた。
 https://www.asppa.org/sites/asppa.org/files/DOCs/LA_Pension/WS26-%20Alternative%20Investments%20in%20Retirement%20Plans.pdf
そこで、その概要を、ざっとご紹介しよう。
オルタナ投資は、給付建て制度(DB)から始まったものであるが、この資料では、掛金建て制度(DC)での取り扱いについて触れている。
米国での法規制にからむので、禁止取引、受託者責任、差別禁止の観点が、まず述べられている。例えば、差別禁止では、高給の従業員だけが利用できるものではないのか、といった具合である。
また、気を付けなければならない問題として、流動性の問題が指摘されている。これは、オルタナ投資は、債券や株式と違って、市場で簡単に売買できるものではなく、換金や処分に制限があったり時間を要するものが多いことによる。
上記資料では、いろいろなタイプのオルタナ投資について、事例を示して注意点を述べているが、オルタナ投資で重要なのは、流動性の他に、透明性である。すなわち、実際には、どのような投資対象に、どのように投資しているかという中身である。
ところが、その把握が難しい。オルタナ投資の提供側の言い分は、それこそが「企業秘密」であって、様々な工夫をしているから成果があがっているのであり、そのノウハウは全面的には開示できないというのである。
これは、都合の良い言い分で、実際のところ、日本の企業年金でも、「AIJ事件」という詐欺事件が起き、多くの企業年金が多額の資産を失っている。それは、「オルタナ投資」を前面に打ち出していたわけではなさそうだが、透明性を欠くという点では同列である。
現代投資理論では、様々な投資対象を組み込むことによって、リスクを減らして最良のリターンを追及することができるとしている。中には、オルタナ投資の収益の債券や株式との連動度合(相関係数)は小さいので、分散投資の意味があるとするものもあるが、中身が分からないのなら、戯言と言うしかない。
先行したDBの資産運用では、外貨建て資産への投資やオルタナ投資で、痛い目にあっている経験がある。手数料の安いパッシブ運用が増えて儲からなくなった運用会社が、手数料目当てでオルタナ投資の販売に力を入れるのは、そもそも胡散臭い。投資することが悪いとは言わないが、「分からないものには手を出さない」ことが賢明なのは、古来からの真実であろう。
2020年2月4日 朝日朝刊12面 (経済気象台)7年間は何だったのか

「日銀が2%の物価目標を掲げ、できるだけ早期に実現すると宣言したのが2013年1月。それから7年経ったが、今も実現するめどは立っていない。」という書き出しで、「異次元緩和という大胆な政策転換」を振り返り、「7年間のアベノミクスは結局何だったのか。」と問いかける論説である。

黒田日銀総裁が「異次元緩和」に踏み切った時、首を傾げる経済学者やエコノミストが多かった。それまでの正統的な白川前総裁の方針とは大きく違っていたからである。ところが、その円安誘導・低金利政策で企業活動が活発化し、経済が回復してくると、一転して「アベノミクス」をもてはやす論調になった。言わば、「白を黒が言いくるめる」状況になったのである。
政権を奪取したものの、東日本大震災・原発事故の対応にもたつき、経済界や官僚との関係もしっくりしていなかった旧民主党政権は、経済不振の状況の中で、国民の失望を招いていたから、なおさらに「アベノミクス」景気が歓迎されたのであろう。そのことが、このところ驕りや不正が露わになった安倍政権を長期化させた最大の原因と言えよう。それは、あたかもカルロス・ゴーンの栄光と凋落を思わせるもので、「驕る平家は久しからず」、「絶対的権力は絶対的に腐敗する」のである。
そして今、「アベノミクス」の弊害が、誰の目にも明らかになってきている。マイナスにまで落ち込んだ超低金利政策は、資金調達側の国や企業は大いに潤わせたが、資金供給側の家計は疲弊し、国民生活の不安は高まる一方である。安倍首相が民主党時代に比べて経済は良くなったとしているが、日本の競争力は世界30位で、1997年以降で最低にまで落ち込んでいる。
 https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20190806.html
一方、円安政策は、日本企業の輸出競争力は高めたが、相対的に日本を安売りする結果となった。インバウンド効果への期待も、相対的に日本が割安になっていることによるであろう。
もちろん、状況は変化するので、物事の比較は簡単ではない。リーマンショックを受けた就職氷河期と、好況による人手不足で就職状況が改善した現況とを比較すれば、若年層の安倍政権支持率が高いのも分からないではない。また、少子高齢化の急速な進展というr重い課題に対しては、どんな政権でも、有効な対策を打つことは難しいだろう。
それでも、腐敗して弊害の方が目立つようになった政権を放置していたのでは、日本の未来は拓かれまい。若い世代の新しい風が、今こそ必要とされているのではないか。
2020年2月4日 日経夕刊2面 (就活のリアル)「todoリスト」で解禁に備え 段取り書き出し、不安解消

上田晶美氏による就活実務編である。
「3月の就活エントリー開始を前に、何を準備すればいいでしょうか?」と大学3年生から質問を受けたことに対し、「あまりにもやることが多くて、何から手を着けていいかわからないというのが、質問した学生の本意だろう。」として、エントリーシート、筆記試験、面接という3段階についての「todoリスト」を作成して準備することをアドバイスしているものである。

学生にとって、「todoリスト」は初めて聞く言葉かもしれない。一方、会社員にとっては、スケジュール管理のツールであり、「就活はビジネスの予行演習」と上田氏が言う通りである。ただ、「todo」という言葉は、米国流のもので、少しハイカラな感じを与えるので使われているが、「やるべき事リスト」なら古来からあり、学生でも、これまで自分なりに管理してきたであろうから、そんなに構えることはない。
記事の最後は、「志望業界の決定」が先決としているが、これが学生にとっては一番難しいことではないかと思う。就職情報誌や業界研究の書籍などで、あれこれ考えるのだろうが、そう簡単に決められるものではないだろう。
孫氏の兵法では、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」とされている。対象となり得る業界や企業の研究も必要だが、その前に、自分はどんな事に興味があるのか、得意不得意からみた適性は何か、などの分析が重要だろう。人気の業界とか、友人の動向とか、給与の多さといったことばかりに気をとられていると、手当たり次第に応募して、門前払いで落ち込んでやる気をなくすことにもなりかねない。
就職は、結婚と並ぶ人生の最大の転機である。人気のタレントと結婚できたら嬉しいというような浮かれた気持ちでは、幸福な結婚生活は遅れまい。就職でも、自分との相性や、この会社となら長くやっていけそうだと思えることが重要であることは、結婚と同じである。