2020年4月30日木曜日

2020年4月30日 日経朝刊2面 ●(社説)「9月入学」は幅広い国民的な議論で
2020年4月30日 日経朝刊3面 ●9月入学 国際化に利点 米欧では主流、留学しやすく
2020年4月30日 日経朝刊3面 ●(きょうのことば)9月入学 東大が一時導入検討

最初の社説は、「新型コロナウイルスの感染拡大で学校の再開時期が見通せないなか、入学や始業の時期を9月に変更する案が政策課題として浮上してきた」ことを論じるものである。「国の会計年度や、企業の採用慣行との整合性がとれるかなど、社会的な影響は大きい」が、「秋入学が主流の海外の大学と足並みをそろえることで高等教育の国際化を進める好機だとの指摘もある。論点を整理し、教育現場の実情も踏まえた丁寧な議論を望みたい。」としている。

続く3面の記事では、「9月入学は国際競争力の向上や人材育成に利点がある。海外では秋入学が主流で、米国の一部の州や英国、フランスなどの欧州各国、中国が9月入学の体制を取る。日本のような4月入学は少数派だ。いまは海外の大学への留学や日本への留学生の受け入れには双方に時期の壁がある。これが撤廃できれば留学しやすくなり国際交流を促せる。」とし、「学生が海外で高水準の研究に触れれば、将来的に日本の競争力を高めることにつながる。留学をきっかけに海外での就職もしやすくなり、国際人材が増える。」と評価している。
「これまでは日本の採用制度が9月入学導入への大きな壁となってきた。最近は日本の企業も通年採用を取り入れるなど、環境は変化しつつある。」として、日立製作所、東芝、AGCなどの動きに触れている。
もちろん、課題もあり、公的資格試験のスケジュール、年度制を基準にした法令改正の見直しも必要となり、提言をした全国知事会では、慎重意見も出た、としている。

3面の「きょうのことば」では、社説も上記の記事も触れている東京大学の2011年の秋入学への移行検討案に言及している。この案は、結局、他大学が追随せず、実現しなかったが、「明治時代の初期は日本も9月入学だった。国の会計年度を4月からに切り替えたことなどから、大正時代にかけて4月入学に移行した」としている。

9月入学が急浮上しているのは、コロナ・ショックによる休校で、4月から9月までの年度前半について、多くの学校で、授業や講義が行われていない状況がある。設備などを整えることのできる学校は、次々とオンライン授業・講義に移っているが、対応できない学校の生徒・学生は置き去りとなっており、学習格差が深刻になってきている。9月入学の急浮上も、取り残されている学生からのSNSによる切実な訴えを一つの契機にしている。
制度を変える時は、必ず賛否が入り混じる。非常時を理由にする変更には、拙速であるという慎重論が必ず出て来るし、この社説でも、そんなニュアンスを匂わせている。それでもなお、全国知事会が提言に到った教育格差という実態は重い。
慎重論の背景には、もう一つ重大な日本人の心象がある。それは、サクラである。卒業・入学の時期に咲く桜は、いかにも新しい季節の到来を思わせる。なればこそ、明治時代の9月入学が4月入学に変更されても、すんなりと国民に受け入れられてきたのであろう。
何でも海外の状況に合わせる必要はないが、経済活動も教育研究もグローバル連携の中で進められている状況下では、学生の海外留学にすら負の影響を与えている4月入学を、この国難の時期に見直すことには大きな意味があるであろう。当然のことながら、影響を受ける世代への最大限の配慮が必要ではあるが。

2020年4月28日火曜日

2020年4月28日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル) 就活環境、来年は悪化の恐れ 「氷河期」ほどは落ち込まず

就活理論編で、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による論説である。
「来年の就活に関しては今年より悪化するものになるはずだ。それは、リーマン・ショック後の状況に似るだろう。」としながらも、「どの数字を見ても、リーマン後は90年代から2000年の氷河期世代ほどは落ち込んでいないのだ。」としている。
そして、「その理由はいくつか挙げられる」とし、「30~50歳世代の採用がそれほど多くないので、余剰人員が少ない」「55~65歳世代の採用が多かったので、定年退職者が多い」「氷河期の採用絞り込みがその後の企業体力低下につながったことへの反省がある」などを挙げている。
そして、「体感的には好況期はいくらでも有名企業に入れて、不況になると就職自体が難しいと感じるかもしれないが、それは間違いだ。好況期には確かに、自分の実力よりも一つ格上の企業に入れる。そして不況期には志望ランクを一つ下げねばならない。ただそれは、いずれも通常期よりも多少上下するだけだ。天国から地獄に急降下するわけではない。そこを忘れないでほしい。」と結んでいる。

この論説は、その前の2020年4月14日付日経夕刊2面の「(就活のリアル)コロナで企業の採用は 決して氷河期ではない」の注意事項を述べたというより、率直に言えば、意見変更を図ったものと思われる。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/04/20200414NY02.html
すなわち、「決して氷河期ではない」として学生に安心感を与えるには、ほど遠い状況であることを踏まえて、厳しい状況であることを知らしめようとしたものと思われる。
それでも、2000年の氷河期世代ほどではなく、「天国から地獄に急降下するわけではない」としているわけだが、学生相手であることに鑑みれば、いささか甘過ぎる注意喚起ではないかと思われる。
就活をする学生にとっては、自分達が生まれたばかりの2000年と比較されても、まったく実感が湧かないであろう。2007年のリーマンショックにしたところで、かろうじて先輩などからの体験談が耳に入るかどうかということであろう。
つまり、学生の比較対象は、ほんの数年前の就活天国だった時であろう。だとすれば、間違いなく、「天国から地獄に急降下する」ことになる。
学生にとっては、昨年までの就活スケジュールや先輩の体験談が、まったく役に立たない状況である。この状況で、焦ったり浮足立ってみても、まったく益はないわけであるから、海老原氏には、それを落ち着かせようとする意図はあるのだろうと思う。
しかし、就活戦線は、間違いなく、熾烈化する。それに備える一番の対策は、WEB面接のノウハウの習得なども大事だが、本業である学業関連の学習を進めることであろう。それには、大学が準備する講義だけでなく、就活で必要となる筆記試験対策の学習も含まれる。
採用数を厳選する時、客観的な指標の一つとなるのが、筆記試験の成績である。だから、公務員試験で筆記試験の成績の比重が高いわけだが、民間企業でも、その傾向が強くなることが考えられる。たとえ、結果的に筆記試験の重みが少なかったとしても、学習したことが無になることはない。「自身の成長のための努力」、実は、それこそが最も人生で重要なことなのではないか。

2020年4月26日日曜日

2020年4月26日 日経朝刊3面 国民年金保険料を減免 コロナで収入急減なら
2020年5月2日 朝日朝刊4面 国民年金保険料の免除、減収者向け基準緩和

いずれの記事も同じ内容であるが、日経の記事は、制度実施前の動向報道であるのに対し、朝日の記事は制度実施に伴う案内記事である点に違いがある。

日経記事は、「厚生労働省は国民年金の保険料について、収入が大幅に減少した人を免除や猶予の対象にしやすくする。新型コロナウイルス感染症の影響が広がり、国内に約170万人とされるフリーランスなどで収入が急減するケースが増えているため、基準を緩めて支援する。」としている。
「国民年金は自営業者やフリーランス、非正規社員などが加入する。加入者は約1500万人で、2020年度の保険料は月1万6540円。」で、「どんな人が免除・猶予の対象になるかは現在、2年前の所得で判断している。この場合、新型コロナによる影響を反映できないため、2月以後の月収が急減している人も対象に加える。」とのことである。
一方、「会社員らが加入する厚生年金も特例が設けられ、延滞金なしで保険料の納付猶予を受けられる。新型コロナの影響で売り上げが20%以上減少するなどした企業が対象だ。」としている。

朝日記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で収入が減った人を対象に、5月1日から国民年金保険料の免除基準が緩和された。主な加入者の自営業者や非正規労働者、フリーランスは休業要請による影響を受けやすいためだ。学生を対象に納付を猶予する制度も合わせて緩和した。」というものである。
「大学や専門学校などの学生には、本人の前年所得が118万円以下なら国民年金保険料の納付が猶予される「学生納付特例」がある。今回、休業要請でアルバイトが減った学生もいることから、2月以降の所得が年間換算して118万円以下なら特例の対象にする。」としている。

詳しい案内は、日本年金機構に掲載されている。
「新型コロナウィルス感染症の影響による減収を事由とする国民年金保険料免除について」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/0430.html
「【事業主の皆様へ】「厚生年金保険料納付猶予相談窓口」の設置について」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202004/20200422.html
このような報道に触れた場合には、必ず、該当機関の情報をチェックするようにした方がよい。ただし、制度実施後でないと参照することはできない。
なお、「厚生年金保険料納付猶予」については、注意すべき点がある。事業主には、事業主負担分のみならず、従業員負担分についても納付の義務がある。納付猶予は、両方の保険料についての措置であるが、従業員分は徴収していながら、納付猶予を申請する事業主も多いと思われる。万一にも、納付猶予のままで企業が倒産すれば、従業員分の保険料も納付されていない状況になり、将来の年金額に反映されないリスクがある。したがって、従業員としては、給与明細をきちんと保管し、自分の保険料が事業主に徴収されていることを証明できる状況にしておく必要がある。
倒産といった場合のみならず、過去には、事業主が従業員分を納付せずにネゴばばしていたケースもあった。事業主に徴収されたことが証明できれば、年金額に反映することとなるので、気をつけるべきである。

2020年4月24日金曜日

2020年4月24日 朝日朝刊2面 ●(時時刻刻)学生困窮 バイト激減、実家も頼れず

「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、退学に追い込まれかねない学生が各地にいる。親の収入減やアルバイト先の休業などで、学費や生活費が払えない状況になったためだ。国の支援制度では救いきれない仲間のために学生たちが自ら動き出し、独自の支援策を始めた大学や自治体もある。」という記事である。
金沢大3年の男子学生の「生きていけるか不安で眠れない。給付型奨学金を拡充してもらうなどしないと、秋には退学か休学をしなければならなくなる」や、広島市の公立大3年の女子学生の「大学生活をあきらめたくない」と、大学まで往復4時間かかる実家に戻ることを考え始めた、などが紹介され、学生団体「FREE」の新型コロナの影響に関する学生アンケートの結果では、「回答した全国120校の514人のうち、退学を「少し考える」「大いに考える」との回答は計40人で、13人に1人に上った。」という。
追い込まれた学生の支援を始めた大学や、自治体が学生を支援するケースも出てきているはいるようである。

「だが、大半の大学は学費の減免には踏み込んでいない。都内の有名私大も学費の延納や奨学金制度の充実を図る一方、学費については「提供するサービスや中長期にわたる施設設備の整備・維持を包括的に考慮して定めており、履修科目数や授業回数などで定めていない」と説明する。」という状況のようである。学校システム全体を9月入学に移行する案も浮上しているが、そうなると、経営を維持できない大学が少なからず出て来る、との見方もある。
この構造は、居酒屋などの休業の場合と同じであり、休業しても、人件費はかさむ。大学の場合には、教職員の給与を支払う必要があるのである。一方の学生側からすれば、講義が提供されていないのに、という思いも出て来るだろう。
今回の新型コロナの事態が発生するまで、かくも日本の教育におけるIT化が遅れていることに危機感を持っていた教育関係者は少ないのではないか。講義をしないのに学費をとるのは、来店しない顧客から料金を徴収するようなもので、まともな状況ではない。一方、オンライン講義が行き渡れば、学生は物理的な大学の場所に縛られることなく、自由に魅力的な講義を受講することも可能になってくる。新型コロナ後の世界は、学問においても、それ以前とは、大きく異なるものになりそうである。

2020年4月23日木曜日

2020年4月23日 日経朝刊2面 (社説)問題多い年金法案の拙速審議は許されぬ

「国会が年金関連法改正案の審議を始めた。厚生労働省が実施した2019年の財政検証結果を受けた法案だが、制度の長期的な持続性を高める策を十分に盛り込んだとは言いがたい。」とする社説である。
「制度の持続性を高めるカギは、経済がデフレ基調のときに年金のマイナス改定を可能にしたり、基礎年金の最低保障機能を充実させたりする改革にある。だが法案は将来世代への視点が弱く、これらの課題解決には力不足である。」としている。
法案の主な内容は、①働く高齢者への年金支給のあり方、②非正規社員の厚生年金への加入促進、③年金をもらい始める年齢の上限引き上げ、の3点とし、①は「厚生年金の支給開始は65歳への引き上げ途上にあり、大きな意義は見いだしにくい」、②は「会社員の夫をもつパート主婦は、新たに求められる保険料負担を避け就業時間を減らす可能性が強い。流通業などの人手不足問題には逆風になる」、③は「基準年齢を70歳に引き上げたうえで、繰り上げ・繰り下げの範囲を65~75歳にするなど、年金財政を好転させる改革を求めたい」としている。
その上で、「現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定を可能にするルールを見送った点だ。デフレ基調が続けば、そのツケは将来世代に及ぶ。経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化すべきである。」「基礎年金が著しく目減りする副作用をどう和らげるか。消費税収などを活用して安定した公費財源を確保するのが、政治の責任であろう。」としているものである。

今回の法改正案の概要は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/000601826.pdf
この内容自体は、それぞれ意義のあるものであろうと思うが、社説の言うように、本質的な問題点を十分に討議した上のものとは思えない、言わば、小手先の改革案である。
では、本質的な問題点とは何か。それは、社説の言うように、支給開始の「基準年齢を70歳に引き上げ」であり、「基礎年金が著しく目減りする副作用」への配慮である。
社説では、「経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化」に力点が置かれているように感じられる。そこが、「基礎年金の機能劣化」を最大の問題と考える筆者とのスタンスの違いである。
ともあれ、最大の課題を置き去りにした法案が、「答弁に立つ厚労相は新型コロナウイルス問題で多忙をきわめる。人びとの関心がコロナ危機に向いている間に成立していた、ということがないようにすべきだ。」という点は、まったく同感である。






2020年4月22日水曜日

2020年4月22日 朝日朝刊10面 ●(経済気象台)採用担当の創意工夫で
2020年4月23日 日経夕刊1面 ●インターン採用を一部解禁 就活ルール見直し
2020年4月24日 日経朝刊5面 ●コロナ、採用慣行の改革迫る 「インターン直結」一部解禁へ

最初の記事は、「いまだに収束の気配がない新型コロナウイルスの感染拡大。その影響で、2021年春に卒業予定の学生たちの就職活動が混乱している」という書き出しのものである。
「3月1日に解禁された各企業の説明会やリクナビやマイナビといった就職支援会社主催の合同説明会が、感染拡大防止でほとんど中止され」、「企業はウェブ説明会などを通じて候補者の母集団をつくろうとしているが、現在の状況が続いた場合、今後予定される面接や筆記試験などの選考活動にも影響が出てくることは必至であろう。」としている。
その上で、「学生たちの意識としては、会社説明会のウェブ化は大半が許容しているが、その後の面接などの選考過程は、対面形式を望む学生が多いようである」という調査を紹介し、「この点に関しては、採用する側の企業の担当者も同様であろう」としている。
そして、「来年度以降の採用人数を決めかねている企業も多いのではないだろうか」、「今年の採用活動は例年に比べてかなり長引くことが予想される」と続け、「こういう時期こそ担当者の創意工夫の見せどころではないだろうか」と結んでいる。

次の夕刊の記事は、「政府と経団連は新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、採用活動を柔軟にするよう企業に呼びかける。授業の再開が遅れている高校や大学に配慮し、選考時期の分散を進め、採用の通年化を加速する。大学院生についてインターンシップ(就業体験)からの直接の採用も解禁する方向で、就活ルールを主導する政府が調整を急ぐ。」というものである。
これは、萩生田光一文部科学相と経団連の中西宏明会長が4月23日午後にテレビ会議を開いたことに関連するもので、翌日の記事も、この内容をフォローしたものである。
「コロナ危機は春の新卒一括採用に偏重した日本型の慣行の硬直性を露呈させた」とする一方、「インターンシップからの採用をルールとして認めれば就活時期の分散や通年化に弾みがつく」とし、「経団連と政府で足並みをそろえ、見直しの検討を急ぐ。まず大学院生について早ければ年内に解禁し2021年春入社から適用される見通しだ。院生は専門的な研究を仕事に生かす「ジョブ型雇用」につながる側面もある。」としている。
「両者が合意したのは大きく2点ある。選考や採用の時期の通年化をめざすことと、インターンシップ(就業体験)を柔軟に運用することだ。企業の採用活動と、学生の就職活動が十分に進まない状況に対応する狙いだ。」と報じている。
そして、「中西氏はテレビ会議後、「採用試験プロセスを変えるなど工夫がいる」と述べた。採用や選考の時期の分散を経団連の会員企業に呼びかけていく方針だ。学生の卒業時期が遅れた場合は、企業の入社時期を柔軟に変えることも検討する。」としている。
その上で、「学生優位の売り手市場だった就活の状況は変わってきた。これまでの人手不足が一転し、需要急減や休業などで人手が余る企業が増えている。就職情報会社のディスコ(東京・文京)が3月下旬に実施した企業調査では、約1割が21年卒の採用予定数を「下方修正する見込み」と答えた。企業と学生の双方にとって厳しい状況が続くと見込まれる中、迅速な対応が欠かせない。」と結んでいる。

最初の記事の「担当者の創意工夫の見せどころ」というのは、とても、その程度のレベルの話ではないと思うが、後の2つの記事の「萩生田光一文部科学相と経団連の中西宏明会長の会議」については、これから就活を本格化する4年生にとって気になる情報だろう。学校の9月入学に向けた動きも出てきており、3年生にとっても関心が高いものと思われる。
萩生田光一文部科学相の会議後の記者会見の模様は、次の通りである。
関係する部分は、9分経過後であり、文字ではリンク後の通りである。
https://www.youtube.com/watch?v=WxHmUTwTAbg&nofeather=True
記者)
 昨日の経団連・中西会長とのテレビ会議に関連して伺います。会談の内容と合意事項などがあれば教えていただきたいということと、就活の日程については、政府が示したスケジュールに関して、6月1日から面接など選考開始という日程感を示されていますが、そこら辺の日程が今後変わる可能性があるのかということ、及び一部報道で、インターン採用の解禁という趣旨の記事も出ておりましたが、インターンをめぐっては文科、厚労、経産のですね、3省による合意事項というものもあると私は理解しているんですが、そこについて、何か具体的な検討というのをされているのか確認させてください。
大臣)
 まず、昨日、中西経団連会長らと、また経団連と大学からなる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」において、3月31日にまとめられた報告書について説明をいただき、あわせて懇談をさせていただきました。その中で、就職活動に関しては、同協議会の議論を踏まえ、将来的な日本の採用・雇用の在り方を見据えた「就職・採用活動日程に関する考え方」の検討が必要との認識を共にしたところですが、加えて、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、来年春に卒業する予定の学生が不安を抱いていることについて、私からお話しをさせていただきました。ご指摘のとおり、6月1日の日程感は今のところ変更はないやに聞いておりますけれども、しかし、同時にですね、例えば、会社訪問などができないような環境にありますので、そういったものに、例えば、ウェブでの面接ですとか、あるいはその、今までは1回しか採用試験がなかったものも複数回行うなどの様々な配慮をして、今年の学生たちが不利益を被らないようにしてくれということを会長にもお願いをして理解をいただいたところでございます。また、インターンシップの件なんですけれども、産学協議会が掲げた10のアクションプランにおいて、今後、大学と企業において多様で複線的なインターンシップの目的・意義・内容・期間等について、産学及び社会的な共通認識を改めて確立することと承知をしております。この共通認識の検討を踏まえて、文科省としては、関係府省と連携して、いわゆるインターンシップの3省合意の在り方を含め、Society5.0時代に求められる国の役割とインターンシップの推進の方向性を検討していくべきと考えておるところでございます。この合意した当時、平成の始めの頃、6年7年の頃だったと思いますけど、あの頃は、どちらかというと囲い込みのようなインターンシップで、1日ワンデイでもそれでインターンシップを行ったみたいなことで内定につながるような誤解があって、そうではなくて企業側も、一定程度働きぶりを見て、その延長で仕事が向いているとか向いてないとか判断する意味でのインターンシップというのは有効な部分もあると思いますので、既に決定した、ごめんなさい平成9年ですね、9年の基本的な考え方を含めて、今後の新しい採用の在り方も、今後、経済界の人たちとも話合いをしていきたいと思っています。冒頭申し上げた、大学の皆さんとの未来に関する産学協議会って、これ、初めての試みで、どっちかというと、今まで大学側も企業側に、外に向かって要望したり、時には文句を言ったりしてましたし、企業側も大学に対して物足りなさを申し上げてたのが、四つに組んで話合いをして、非常に風通しがよくなったということを報告を受けてますので、こういう機会を続けながら、いい意味での就職活動、学生たちが複線的に様々なチャレンジができて、自分に合う仕事を見つけられるような環境作りというのを文科省としては応援していきたいなと思っています。
2020年4月22日 朝日朝刊6面 ●内定取り消し者へ就活相談 リクルートが専用サービス

「リクルートキャリアは20日、新型コロナウイルスの影響で企業から採用内定を取り消された既卒の就職希望者のために、専用の就活相談サービスを始めた」との記事である。
「同社のホームページから新型コロナ対応の特設サイトを通じて申し込むと、通常は学生だけが対象のサービス「リクナビ就職エージェント」に登録でき、電話相談や求人情報の紹介などのサービスが無料で受けられる。登録期間は5月31日までの予定。内定取り消しを受けた人を積極採用したい企業などとつなげる。通常は紹介成立時に企業から受け取っている手数料も無料にするという。」としている。

「リクナビ就職エージェント」のサイトは、次である。
http://job.rikunabi.com/agent/
通常の学生用の就活サイトであるので、内定取消で、切羽詰まった学生からは、少し利用し辛いと感じるかもしれない。もっとも、このサイトを利用して就活して内定した学生にとっては、リクナビIDをすでに取得済みだろうから、そうでもないのかもしれないが。
内定取消に対して、厚生労働省は、きちんとした情報サイトを開設していないようである。検索して出て来るのは次のサイトであるが、これは前回のリーマン・ショックの際の情報であると思われる。
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/26.html
そもそも、このようなサイトを立ち上げる場合、時点を明確にするのは、基本中の基本である。ところが、冒頭に記述がなく、「来年3月新規学校卒業者の採用内定が取り消されるという事案が発生」と、いつのことかもわからない記述から始まっている。これでは、切実な思いで情報を求めている関係者に、失望を与える結果になるであろう。
すでに、今回のコロナ・ショックの経済や社会に及ぼす影響は、前回のリーマン・ショックの比ではないという認識が、専門家のみならず国民各層に共有されてきている。この期に及んでも、学生にとっても社会にとっても重大な事態である内定取消に関する情報が、きちんと参照できるようになっていないのは、役所の怠慢というものではないか。
国民の気持ちに寄り添っていないという点では、怠慢と拙速の差異はあるが、欠陥品だらけで回収に追い込まれたアベノマスクと、共通している。

2020年4月19日日曜日

2020年4月19日 日経朝刊31面 ●氷河期世代 45歳の再挑戦 時代恨まず、前を向いて
2020年4月20日 日経朝刊3面 ●氷河期世代 450人を採用 政府、3年間で

最初の記事は、就職氷河期時代を経験した方が、兵庫県宝塚市役所に採用されたことに関するものである。
「初めて就職活動をしたのは1998年。いわゆる就職氷河期だった。バブル経済が崩壊し、企業は一斉に採用を絞った。街には内定をもらえない学生があふれた。」中で、「大手志向でとりあえず受けた」のはメーカーや金融など約50社。1社から内定が出たものの、自分がそこで働く姿を想像できず、どうしても入社に踏み切れなかった、という。
そして、「翌年、改めて同じくらいの数を受けたが、今度は1社も内定がもらえない。2年をかけて何とかコンビニの正社員に採用され「やっと落ち着いて働ける」と安堵した。
だが、いざ働き始めると、想像もしない生活が待っていた。早朝、深夜問わず携帯電話が鳴り、担当の店舗に駆けつける。ノルマを達成するため、クリスマスケーキやお中元の商品を自分で大量に買うこともあった。」とし、「耐えきれずに退職し、契約社員などの職を転々とした。採用面接の途中で面接官が携帯で誰かと話し始めたことすらあった。結果はもちろん不採用。「まともに話すら聞いてもらえないのか」。就職難の時代を恨んだ。
その後、非正規の公務員職に就いたが、常に「来年もここで働けるのだろうか……」と不安に駆られた。レールに乗り損ねた境遇を恥じ、正社員の座を射止めた高校や大学時代の友人と連絡を取ることもなかった。」とのことである。
そんな中、「これに応募してみたら?」という妹の助言で、「宝塚市の就職氷河期世代対象の採用」(採用予定は3人程度)に応募し、「時代を恨んでも仕方がない。前向きに生きよう」という気持ちになって、「合格」したというものである。
記事は、「初めての就職活動から20年がたった。時間はかかったが「自分の働く姿が、同世代の人が再挑戦するきっかけになるかもしれない」。45歳、折り返し付近で新たな人生が始まった。」として結んでいる。

後の記事は、「政府は2020年度から3年間で、就職氷河期世代から450人以上を中途採用する方針だ。初年度は157人を募集し、11月29日に統一採用試験を実施する。政府は22年度までに国全体で氷河期世代の正規雇用者を30万人増やす目標を掲げており、自治体や企業でも同世代を採用する動きが広がってきている。」というものである。
対象は、「1966年4月2日から86年4月1日までに生まれた人。中央省庁での事務職員や刑務官、入国警備官などの職種で募集する。」とのことである。「氷河期世代はバブル崩壊後の就職難で安定した職に就けなかったり、引きこもりになったりしている人が多い。」のに対し、ようやくにして救済措置が検討されることとなったわけである。
しかし、「新型コロナウイルスの感染拡大で労働市場全体が冷え込めば、氷河期世代の採用拡大も進まなくなる恐れがある。」と記事は結んでいる。

就職氷河期の救済対象者は、上記の通り、「1966年4月2日から86年4月1日までに生まれた人」ということである。その人達が、大学を22歳で卒業した年ということで見ると、1988年から2008年と幅広くなるが、この間には、二つの就職氷河期がある。
一つは、20世紀末のバブル崩壊であるが、1989年12月29日の大納会で、日経平均が終値の最高値38,915円87銭を付けた後に、失われた10年とも20年とも言われる長い経済の低迷期に入った時期である。最初の記事の方が、1988年(あるいは思い違いで1989年かも)に就活を行ったとすると、バブル崩壊の直前ということになる。恐らくは、それまでのバブル景気の中での先輩の就活などを踏まえての「大手志向」だったのだろうが、それが災いして内定1社だったのだろう。ところが、それも蹴ってしまう。翌1989年の就活が非常に厳しくなったのは当然で、山一證券や長期信用銀行といった大手金融機関すら破綻した時期である。
もう一つは、米国で住宅融資に関わるサブ・プライムローン債権の破綻によるリーマン・ショックである。これは2007年に発生したもので、その影響が2008年以降にも続いたわけである。
さて、今回のコロナ・ショックの影響は、どうだろうか。当初は、リーマン・ショックほどではないと言っていた経済評論家もいたが、そんな声は消え失せた。今は、バブル崩壊時ほどではないという声もあるが、経済指標では、過去最低の状況にある。
学生にとっては、振り返って、どの程度の衝撃だったかは、どうでもよいことであろう。喫緊の関心事は、就活がどうなるのか、であろう。ここでも、バブル崩壊後に採用を抑え過ぎて苦労した企業は、その轍を踏まないのではないかとか、自粛が解除されたら、経済活動は急激に活発になるはずで、人手不足になる可能性がある、といった楽観的予想もある。
だが、そうならなかったら、どうするのか。そうなったとしても、時期がずれたら、というような事を、就活を行う学生は、真っ先に考えるべきである。内定が得られた場合には、どんな会社であっても、最後の最後まで手放してはならない。過去の経験からして、現在雇用されている従業員すら雇用不安に怯えている状況の中、新卒採用の優先度が高まるはずはない。
ともかくも内定を確保した上で、今後伸びていく業界を考えるとすれば、第4次産業革命を牽引するIT業界ということになろうが、誰もが同じ事を考えるはずだし、要求される知識や技能のレベルは高い。それでも、どんな業界・企業に入ろうとも、IT知識は必須になるから、昨年度までの学生が経験していないオンライン講義の経験などは、貴重である。結局、講義に身を入れることが、自分を守る近道ということになるのではないか。
2020年4月19日 朝日朝刊23面 ●大学封鎖、逆境の春 学生「学費減額して」/就活ほぼストップ

「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの大学が校内への立ち入りを禁じている。自宅待機を余儀なくされ、就職活動も中断するなど学生たちの日常は一変した。大学側は外出自粛の長期化を見すえ、授業のオンライン化などの対応に追われている。」という記事である。各大学の状況が報じられ、就活にも大きな影響が出てきているとしている。
一方で、「オンライン授業を準備する大学が増えている。4月10日時点の文部科学省の調査によると、全国の大学(短大を含む)の48%が「遠隔授業を実施する」と回答。「検討中」も36%あった。」とし、東京大や法政大、パソコンやポータブルWiFiを貸し出している国際基督教大の例が紹介されている。
これに対し、「文科省も対応を急ぐ。3月下旬、省令で定める授業のルールの弾力化を各大学に通知し、対面授業ができない場合、同時双方向型授業のほか、オンラインでの質疑応答の機会があればリポート提出などによる代用を認めた。卒業に必要な124単位のうち60単位まで、となっているオンライン授業の上限を見直す用意もあるとした。」とのことである。
「ただ、都内の大学教員は教え子の学生について「スマートフォンは必需品でも、パソコンやタブレット端末はほぼ持っていない」。多くの学生がリポート作成などを大学のパソコン室でやっているという。「急ごしらえの対策で対応しきれるのか」」との声も紹介されている。「学生の通信料金負担の軽減枠の拡大を求める声」や「ネット上では学費の一部返還を求める署名活動も始まった」とのことである。

今回のコロナ・ショックで、世界各国に比して、日本が大きく遅れていることが明らかになった点が2つある。一つは、PCR検査で、SURSやMURSの危機に襲われた韓国などに比べると、日本の感染症対策の状況は著しく遅れている。自衛隊の救護活動で二次感染が生じていないことが称賛されているが、それは、細菌戦への備え故であろう。
そして、もう一つがIT活用の遅れである。オンライン教育も惨憺たる状況であるが、企業でのテレワークなども、十分な対応ができていない状況であることが明るみに出た。海外からは、何せ、サイバーセキュリティ担当の桜田義孝元大臣が、「パソコンは使わない」(実際は、「使えない」だろう)と公言しているくらいだから、と冷笑されているのであろう。
だが、とても笑いごとではないのは、大学教員の中には、オンライン講義に対応できていない人は少なくなく、大わらわで、基礎的な操作方法の講習をしているような有様であることである。
大学でも、企業でも、さらには個人でも、対面が大事というような牧歌的というか時代遅れの状況には、もはや戻れない。コロナ・ショックで、IT技術を核とする第4次産業革命は、世界中を席捲している。遅ればせながら、わが日本においてすら、である。

2020年4月16日木曜日

2020年4月15日 日経夕刊6面 年金繰り下げ 利用の注意点 長生き妻「基礎のみ」お薦め

この「家計のギモン」というコラムは、「年金をもらい始める時期を遅らせると受取額が増えると聞きました。近く75歳まで可能になるようですが、制度を利用する際の注意点を教えてください。」という質問に、社会保険労務士の森本幸人氏が答えているものである。
氏の説明は、まず、「老齢年金の受給開始は原則65歳ですが、希望すれば60~70歳の好きな時期からもらい始めることができます。66歳以降に遅らせることを「繰り下げ」受給といい、1カ月遅らせるごとに年金額は0.7%増えます。単純計算すると70歳からでは65歳からより金額が42%増えます。この間の年金はゼロですが、それをしのげば増えた年金額を終身でもらうことができます。」という基本からである。
そして、「国は繰り下げの上限を75歳まで延ばす方針です。国会で法案が成立すれば、2022年4月から可能になります。75歳からもらい始めると、65歳からより金額が84%増える計算です。」とし、「繰り下げを選ぶのが得かは、どれほど長生きするかによります。」「繰り下げは男性より長生きする確率が高い女性に向いた制度といえます。」としている。
ただし、「注意したいのは、妻の老齢厚生年金が夫が亡くなった後にもらう遺族厚生年金(通常は夫の老齢厚生年金の4分の3)より少ないケースで、よくある事例です。この場合、遺族厚生年金は妻の老齢厚生年金を差し引いた額しか支給されません。妻が自分の老齢厚生年金を繰り下げて増額しても、遺族厚生年金との合計額では変わらないことになります。」ということで、「老齢厚生年金と老齢基礎年金(国民年金)は別々に繰り下げることができ、後者は繰り下げして増額しても遺族厚生年金が減ることはありません。遺族厚生年金との合計で考えると、女性は老齢基礎年金だけ繰り下げるのがお薦めといえます。」と結んでいる。

森本氏の説明は、専門家として過不足がないが、質問者は、自分でちゃんと確認する必要があるだろう。法改正前の現在の制度については、次が参考になるであろう。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/0000000011_0000026998.pdf
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/0000000004_0000000099.pdf
少し分かりにくく思うかもしれないが、自分自身の年金のことなのだから、森本氏の回答ともども、よく読みこんだ上で、最寄りの年金事務所で確認するとよい。
相談窓口は、次のようになっている。
https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/index.html
https://www.nenkin.go.jp/section/tel/index.html
ただし、年金事務所は混み合うことが多いから、上記の予約相談にするか、下記の「ねんきんネット」の利用が、オススメである。大事な自分の年金なら、自分で確認する労をいとわないようにすべきである。
https://www.nenkin.go.jp/n_net/index.html

2020年4月14日火曜日

2020年4月14日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)コロナで企業の採用は 決して氷河期ではない

就活理論編担当の雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による解説である。
「就活をめぐる風景が、ここ1~2カ月で一変した。言うまでもないが、コロナウイルス禍によるものだ」とし、「就活生、その親、そして大学関係者はあまりの急変に面食らっているのではないか。以下、本年の就活がどのようなものになっていくかを、ざっと話していきたい。」というものである。
その上で、「新卒採用というのは、企業にとってかなり大きな経営事項の一つだ。だから採用人数やそれにかかる予算、プロセス設計などは相当早くから決めている」が、今回のコロナウイルス禍が「重大なものだと本気になって認識したのは、1月20日に中国の習近平主席から公式な発表があってからだろう」とし、「抜本的な採用削減までは踏み込めない企業が多いと読む。各所に調整して採用計画を大幅に見直しができないからだ」と言う。
結論として、「採用数は減少するが、激減とまではいかないだろう。それはすなわち、今までのバブル的な採用売り手市場が終わっただけで、決して氷河期ではない。普通に戻るだけだと思っている。」としているのである。

海老原氏の考察には含蓄があり、「なるほど」と思うことが多いが、今回については、見立て違いであろう。コロナ・ショックの衝撃は、もはやリーマン・ショックの比ではなく、就職氷河期に突入するのは、まず間違いないと思う。
氏の考察の論拠は、日本企業の採用計画の硬直性ということであるが、平時ならばともかく、この非常時に採用計画を見直さない企業は、まずあり得ない。今春に入社予定であった人についてさえ、内定取消や自宅待機が続発している状況である。
また、日本企業の行動の中に、「横並び」がある。本来、企業の採用計画は、自社の業務遂行上の必要性を最優先して決定すべきものであるが、常に他社の動向を窺っているのが、日本企業の体質である。コロナ・ショックによって業績急降下の業界や企業からは、当然に、採用計画の大幅見直しが出て来るであろう。そのことは、必ず他社にも飛び火する。これは、オイル・ショックやリーマン・ショックの際にも発生した歴史的状況であり、今回が例外である兆しは窺われない。こうした風土は、トイレットペーパーの買い占め騒動に見られるような日本人気質にも根差している面があるように思われる。
そもそも「空前の人手不足」ということで発生していた昨年度までの売り手市場にも、同様の横並び意識が関わっていたものと思われる。海老原氏は、この記事でも言及している下記の4ケ月前の記事で「遠からず不況が来る可能性がある」と警告し、その通りになったわけだが、氏の見立てが今回は違っていると思うのは、氏の想定していた「不況」が経済サイクルの循環の中のものであったのに対し、今回のコロナ・ショックは、それこそ百年に1回程度の「大恐慌」に当たるものである点である。これを、各国首脳は、「戦争」とまで表現し、安倍首相も「第三次世界大戦」と述べたという。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200128NY02.html
就活に臨む学生は、絶対に油断してはならない。世界中の万人にとって、このコロナ・ショックは、未曾有の危機なのである。

2020年4月10日金曜日

2020年4月10日 朝日朝刊23面 ●内定者、パワハラで自死 パナ子会社、「行き過ぎ」認める

「就職内定先の人事課長からパワーハラスメントを受け、大学4年の男子学生(22)が入社2カ月前にみずから命を絶ったと、遺族の代理人弁護士らが9日に記者会見して公表した。人事課長は配属への決定権をちらつかせながら、内定者のSNS交流サイトに毎日書き込むように強要するなどしていたという。」との記事である。会社側も取材に「行き過ぎた行為があった」と認めた、という。
記事では、「男子学生は2019年2月に死亡。パナソニックの完全子会社「パナソニック産機システムズ」(東京)から新卒採用の内定を得ていた。同社では研修の一環として、SNS交流サイトに内定者20人を全員登録させていた。人事課長(当時)は、毎日ログインして投稿にコメントすることなどを求めたという。」としている。
「人事課長は18年7月ごろから、SNSに「書き込まない人は去ってもらいます」などと、内定者を精神的に追い込むような言葉を投稿するようになった。「邪魔です」などと内定辞退に言及したり、入社後の過重労働を示唆したりしていた。」ということで、「弁護士らは会社側の協力を得て約1年にわたり調査をした結果、課長のハラスメント行為で精神疾患を発症し、自殺につながったとみている。会社に損害賠償を求めるという。」と記事はしている。
ところが、「入社内定者が就職予定の企業からパワーハラスメントを受けても、現状では労災保険の対象外」なのである。「6月からまず大企業に職場でのパワハラ対応を義務づける「パワハラ防止法」の付帯決議では、就職活動中の学生などへのハラスメント対策も求めている」とううことではあるが。
これに対し、「パナソニック産機システムズは、「採用担当者により、行き過ぎた指導が行われていたことは事実。男子学生の自殺の動機についても一部責任がある」と認めた。再発防止に向けて昨年8月に「社内風土改善推進室」をつくり、内定者が相談できるハラスメント相談窓口を新設したという。」と記事は結んでいる。

パナソニック産機システムズのホームページは、次の通りである。
会社概要によれば、設立は2009年4月1日、資本金は301百万円で、社員数は約1,600名で、事業内容は、業務用設備機器・システムの販売・施工・サービスとのことで、アジア11ケ国に海外関連会社がある。
立派な大手企業であり、「私たちの仕事の考え方」として、次のように述べている。
「私たちはパナソニックグループにおける業務用設備機器・システムの直販・サービス・エンジニアリング会社です。お客様とのコミュニケーションを深め、信頼関係を築き、本当にお客様が必要としているものは何かを一緒に考え 3つのソリューションによって永続的に価値を提供し続けてまいります。」
これだけの企業が、何故に、このような愚劣な人事課長を野放しにしていたのか。内定を得た時には、亡くなった学生ご本人もご家族も、大いに喜んだであろう。まさか、こんな事になろうとは誰も思わなかったであろう。
だが、大手企業といえども、問題のある企業は、少なくない。就活においても、セクハラや、この例のようなパワハラは、まれな事とは言い切れないのが現状である。内定段階で、ここまでのパワハラは珍しいように思うが、入社後に、それまでとは打って変わって態度を急変する企業は、少なからずあると思われる。その事は、折角入社した新入社員が、3年以内に3割退社するという状況にも現れている。
SNSを強制登録させ、強制記入まで強いていたというのは、まさしく人権侵害であり、決して許されるものではない。内定を得た学生からすれば、できるだけスムーズかつ穏便に会社と馴染んでいこうとするのであろうが、これは、そうした気持ちも織り込んだ上での卑劣な犯罪的行為である。
こうした行為に対しては、どのように対応すればいいのであろうか。まず、絶対に自分だけで抱えこまないことである。記事では、友人に「きつい」「死にたい」と話していたということだが、直ちに行うべきことは、本人でも友人でも、大学の就職指導課に相談することである。親にも相談すると良いが、古い体験の親世代だと、「会社に入ればいろいろあるから、多少の事は我慢した方がよい」などと思う可能性もある。一番効果的なのは、大学の就職指導課への相談を経て、管轄の労働基準局に通報することである。
同じ境遇にあった内定学生は、20人という。仲間の自殺は、彼らにも暗い影をもたらしたことであろう。「邪魔です」といった罵詈雑言に従って何人かの学生が辞退し、会社に通報していれば、この人事課長は処分されていたかもしれない。もっとも、この程度の人物を人事課長にしていることからすると、会社の体質なのかもしれないが。
生きるために会社に入って働くのである。それを妨げる会社と折り合いを付けようとしても、ろくなことにはならないだろう。

2020年4月7日火曜日

2020年4月7日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル) エントリー先どう増やす 上田晶美
2020年4月7日 日経朝刊14面 ●来春大卒内定、8ポイント上昇 4月34%民間調べ 早期選考影響か

最初の夕刊の記事は、ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による就活実務編で、「エントリー数を増やすことは必要だと思うのですが、どうやって増やせばいいのかがわかりません」という質問に対して、「私がお勧めしたいのは、今エントリーしている会社のライバル会社にエントリーしてみようというものだ。」というものである。
しごく普通の考え方だが、「こう言うと素直な学生は驚く」というのだから驚く。それは、学生の選択基準が、「大学の説明会に来てくれた中から、いいなと思った会社にエントリーした」ということだからだそうである。
就活でまず大事なのは、どんな仕事をしたいのかを考えることである。例えば、金融機関に興味があるのなら、そこでの仕事がどのようなものなのか、まず業界研究を行う必要がある。その上で、その業界のいくつかの企業にエントリーするわけだから、その時点では、「ライバル企業」もへったくれもない。エントリーシートが通過して初めて、その企業の関係者と接触し、企業風土を知ることになるわけである。
「いいなと思った会社」ということで、仕事内容もチェックしないような就活なら、失礼ながら失敗は目に見えている。なので、「同業他社と比較検討するため」にも、同じ業界の他社にエントリーすべきとの上田氏のアドバイスは正しく、そうすれば業界共通のところは出来ているわけだから、エントリーシートの作成の手間も省けよう。

ところで、次の朝刊の方の記事は、「大手就職情報会社のディスコ(東京・文京)は6日、2021年春に卒業予定の学生の内定率が4月1日時点で34.7%だったと発表した」というものである。「前年同月を8.3ポイント上回った。インターンシップ(就業体験)に参加した学生への早期選考が内定率を押し上げたようだ。」としている。
コロナ・ショックの中、驚きの結果だが、「調査は同社の就職情報サイトに登録する大学生と大学院生を対象に4月1~5日にインターネットで実施。1299人から回答を得た。」ということで、サンプル数は非常に少ない。その発表内容は、次の通りである。
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/21gaku_soku04.pdf
「内定を獲得した学生のうち、就職先を決めて就活を終了したのは全体の1割程度」とのことであるが、非常に危険である。現在、コロナ・ショックで、企業の業績や採用姿勢には、不透明な点が多い。「大半は内定を持ちながら就活を継続している」というのは賢明だし、また、大手企業の採用活動が本格化するのはこれからであるから、当然でもある。
本格的な就活はこれからなのだから、学生にとっては、焦ることなく、気を引き締めて活動に臨むことが必要であろう。

2020年4月2日木曜日

2020年4月2日 日経朝刊5面 GPIFの損失額最大 1~3月、新型コロナ直撃 外国資産比率上げ 振れ幅一段と
2020年4月4日 朝日朝刊7面 年金運用、17兆円超赤字 1~3月期、株安で

2020年3月25日 日経朝刊5面 GPIF理事長に農中出身・宮園氏 市場対応・組織立て直し課題
2020年4月5日 日経朝刊6面 GPIF理事長 宮園雅敬氏 年金制度 安定へかじ取り

最初の日経の記事は、「新型コロナウイルスによる株式市場の乱高下が公的年金の運用を揺さぶっている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2020年1~3月の運用実績は、損失額が四半期として最大に膨らむ見通し。GPIFは14年から株式の運用比率を高め、1日からは運用資産に占める外国債券の目標比率を引き上げた。相場の影響を受けやすい面が出ている。」というものである。
「GPIFは1日、最高投資責任者(CIO)に米ゴールドマン・サックス出身の植田栄治氏(52)を充てる人事を正式に発表した。理事長には元企業年金連合会理事長の宮園雅敬氏が同日付で就任しており、逆風下、新体制で運用のかじ取りを担う。」としている。
「GPIFは19年4~12月に9兆4241億円の収益を上げている。ただ、1~3月に生じた損失で19年度の運用実績は8兆6000億円程度の赤字となったもよう。通年で運用損益が赤字になるのは4年ぶりだ。」とのことである。
なお、「日銀のマイナス金利政策で日本国債の利回りが低迷する中、GPIFは3月31日、運用資産に占める外国債券の比率を従来の15%から25%に引き上げた。一方国内債は35%から25%に減らし、これまで40%だった外国資産は50%に増やした。」が、「ただ海外資産の増加で、為替相場などの変動が運用資産に与える短期的な影響は大きく、振れ幅も大きくなりやすい。」としている。その上で、「国債などの安全資産に資金を振り向けるべきだとの声もある。だが、全資産を日本国債で運用すると、60年代には積立金が枯渇し、高齢者の年金給付に支障が出る。」としている。

次の朝日の記事も、基本的には同じ内容であるが、日経記事が、野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算によるものであるのに対し、「今年1~3月期の運用成績が17兆円を超える赤字になるとの試算を厚生労働省がまとめた」という点に違いがある。「四半期ベースでは過去最大の赤字幅で、2019年度全体では約8兆円の赤字になる見通しだ。14年に株式の運用比率を引き上げたことで、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な株安の影響をもろに受けた。」としている。
「GPIFは14年から年金資産に占める株式の運用比率を計5割に増やしており、株安の影響を受けやすくなっている。高橋則広・前理事長は3月31日の記者会見で「あくまで狙いは長期的なリターン。評価損益が下がっても年金給付に影響は全くない」と述べた。ただ、厳しい運用環境が続けば、将来の年金水準に響く可能性がある。各年度の運用成績の公表は例年7月だが、GPIFは公表前倒しも検討している。」と結んでいる。

一方、このような状況の中、最初の日経記事にもあるように、GPIFの体制変更が行われている。3月25日の日経記事では、「女性職員との特別な関係を疑われかねない行為があったとの内部通報に適切に対応しなかった」として「高橋理事長に懲戒処分」が出たことで、農中出身の宮園氏が選ばれたとしているが、「農中で人事部長や総合企画部長などを歴任」した経験に、組織統治の強化を託すことになる、としている。その上で、「揺れる組織を立て直し、荒れる相場に機動的に対応することがまずは求められる。」と結んでいる。また、4月1日就任後の5日付日経記事では、「100年先まで見据えた年金制度の安定をどう維持するか。かじ取りの一翼を担う「100年の航海」が始まる。」とし、「2019年に企業年金連合会の理事長に就いたばかりで、当初は就任の要請を固辞したという。それでも「年金の世界に身を投じたのだから内部異動のようなものだ」と周囲に語り、就任を決めた。」とし、人となりを紹介している。

まず、4月4日付朝日の厚生労働省試算であるが、検索してみたものの、確認することができなかった。「試算」ということで、次の公式発表にも含まれていない。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/tsumitate/index.html
それでも、大幅なマイナスであることは確実であろう。
一方、GPIFの体制変更は、次のようになっている。
https://www.gpif.go.jp/topics/personnel_0401.pdf
理事長に加え、理事2名が退任ということで、大幅な変更になっているが、その背景にとして、次のような陰謀説まで囁かれているようである。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20191122-00151972/
真偽はともかく、何ともやりきれない話だが、巨額のカネがある所では、スキャンダルの芽は尽きない。国民の老後のための大事な資金を扱っているということだけは、忘れないようにしてもらいたいものである。
2020年4月2日 朝日夕刊7面 ●(取材考記)メール1通で「人生の道を断たれた」
2020年4月4日 朝日朝刊3面 ●コロナで内定取り消し、「まさか自分が…」 減少傾向、感染拡大で一変
2020年4月5日 日経朝刊2面 ●「内定取り消し」学生を自治体が支援 臨時雇用広がる

最初の記事は、内定取り消しにあった母娘の例について、榊原謙記者が述べたものである。首都圏に住む女子学生(22)が3月半ばに内定先のIT企業から「お出しした内定を取り消したく存じます」というメールを受け取ったところから書き出している。「入社まで2週間あまり。ショックで返信も電話もできなかった。」のは無理もない。「大事な娘になんてことをしてくれたのか」という母(50)の怒りも当然であろう。このメールを見せた友人の反応は「謝ってないよね」ということで、「先方から届いたのはこのメールのみ。事情を説明する電話もなかった。」という。
「内定を出した時点で労働契約は成立しているはず」だが、「社会経験や力の差を背景に『どうせ学生はこちらの意向に従うだろう』とひどい対応をする企業は多い」(労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は指摘)という実態が横行しているようである。
女子学生はいま就職活動に必死で、「小学校で教わるはずの『悪いことをしたら謝る』という常識すらない大人たちから道を断たれた。激しいいらだちを感じる。メール1通で済ませようと考える大人たち、そしてこの社会への不安もある」としている。「取材の後、女子学生側に会社から謝罪と一定の誠意を示したいとする連絡はあったという。だが、母娘が受けた衝撃と傷は消えていない。」と記事は結んでいる。

次の記事は、「就職の内定取り消しを受けた新規卒業者の数が、2019年度卒は3年ぶりに前年度を上回ったことが厚生労働省の集計でわかった。新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化し、直前に採用を見直した企業が出ているためだ。突然、就職口を失った若者は、悪化する労働市場で再度の就職活動を強いられている。」というものである。
最初の記事と同様に、西日本在住の女性(22)に、内定先のサービス業の外資系企業から「業務がないため採用を中止します。他社で就職先を探してください」という1通のメールが届いた例を紹介している。
実は、「これまでも景気変動や災害があるたびに、立場の弱い新卒者が内定を取り消されてきた」のであり、「2018年度卒は、リーマン・ショック後で最も少ない35人だった。だが、新型コロナで状況は一変している。」という状況である。
「厚労省は、内定取り消しをした企業などにはハローワークへの連絡を求めている。雇用維持の助成金の拡充などを説明して再考を求めると、撤回する例も複数あるという。」としている。

最後の記事は、「全国の自治体で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で内定取り消しを受けた学生を臨時雇用する動きが広がっている」というもので、「神戸市は最大100人の採用枠を設け、千葉県成田市も募集を始めた。一時的に働く場を設けることで、経済環境の激変の影響を受けた若者を支えたい考えだ。」という。
また、「群馬県桐生市も同様の事情を抱える若者5人程度を非常勤職員として採用予定」、「千葉県成田市も内定を取り消された学生らを対象に、21年3月末までの期限付き職員として募集を始めた」、「内定を取り消された学生だけでなく、離職した人も含めて臨時に採用するのは大阪府豊中市」ということである。
「同様の取り組みは民間でも相次いでいる」とし、家電量販店のノジマや畜産・外食の平田牧場(山形県酒田市)の例も紹介されている。また、「東京商工会議所は内定を取り消された若者ら向けに、各地の商議所の会員企業の求人情報を掲載するインターネット上の掲示板を設けている。」とのことである。

東京商工会議所の「採用情報緊急掲示板」は、次の通りである。
https://www.tokyo-cci.or.jp/covid-19/saiyo/
一方、内定取消について、厚生労働省は、次のように掲示している。
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/koyou/q7.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000608831.pdf
「覆水盆に返らず」と言う。内定取消を行った企業が、思い直して入社させてくれるとは思えない。また、そんな仕打ちをした企業に、学生の方も、もう関わりたくないとも思うであろう。けれども、力を振り絞って再び就活に戻る前に、是非ともしておく必要があることがある。それは、「通報」である。一つは、大学の就職指導課であり、もう一つは、ハローワークである。どちらも新たな就活の支援をしてくれるかもしれないが、それ以上に大事なのは、そのようないい加減な企業を許さないという姿勢である。
企業の中には、内定を取り消しておきながら、素知らぬ顔で、また求人を行うものもある。さらに悪質な企業には、内定は取り消さず、入社後にイジメによって退社に追い込むものもあり得る。泣き寝入りをすれば、結局、そうした悪質な企業を容認することになる。だから、「通報」だけは、すべきである。
厚生労働省の報道姿勢には、問題がある。学生にとって死活問題である内定取消について、これだけ大きな問題になっているにも関わらず、きちんとした情報開示が行われていない。上記記事には、内定取消の件数などが記載されているが、そうしたデータは、厚生労働省のHPには見当たらない。また、内定取消を行った企業については、学生などの関係者に注意喚起するためにも、企業名を公表すべきであると思うが、それも行われていない。だったら、学生は、どうするだろうか。「#内定取り消し」というツイッターも立ち上がっているから、口コミで情報共有することになるだろう。そうすると、いい加減な情報が紛れ込む可能性もある。それが、正しい情報を提供しないことに対する報いであって、結局、真っ当な企業のためにならないわけである。

2020年4月1日水曜日

2020年4月1日 日経朝刊3面 東レ・ニプロ・富士急 評価損 企業年金の運用成績も悪化

「世界的な株安の影響で、保有株や出資先企業の株価下落で評価損を計上する企業が相次ぐ。東レは31日、17年に出資した香港企業の株価が下落し、187億円の損失を計上すると発表した。企業年金の運用成績も悪化しており、2020年1~3月の運用利回りは四半期ベースで8年半ぶりのマイナス幅となった。」という記事である。
企業年金に絞ると、「ウイリス・タワーズワトソンが30日時点で、約110の企業年金のデータをもとに推計した1~3月の運用利回りはマイナス3.9%となった。マイナスになるのは5四半期ぶり。マイナス幅は11年7~9月(マイナス4.8%)以来の大きさだ。」という。
「退職者への給付額が決まっている企業年金の場合、運用が目標に届かないことが続き、積み立て不足が膨らむと企業側が追加で費用計上する必要がある。」とし、「資産規模が約8000億円と国内有数の企業年金であるNTT企業年金の1~3月の運用利回りもマイナスとなった。」と結んでいる。

株価急落の状況であるから、日本の企業年金の資産運用状況は当然厳しい。過去の確定給付型の企業年金の運用利回り(修正総合利回りが時価ベース)は、次の通りである。
https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/shisanunyo/shisanunyo01.html
2019年度の運用利回りは、2007-8年度のリーマン・ショックの時以来の大幅なマイナスになるであろう。
だが、それでも、中期的に見れば、日本の確定給付企業年金の資産運用は、割合に健闘しているとも言える。今回のコロナ・ショックによる株価の下落は、リーマン・ショックを上回るが、運用資産の構成を見ると、その時よりも国内株式・外国株式の比重を減らしているようだから、安心できるものではないが、今回も持ちこたえられるかもしれない。ただ、本業が不振な中で、企業年金の費用負担も増えることになるので、企業経営者にとっては頭が痛いであろう。
もっと深刻と考えられるのは、個人が運用する確定拠出年金の方である。運用資産の中での預貯金の割合が大きいと批判されてきたが、老後のための資産であってみれば、安全重視とするのは当然で、預貯金の割合が大きいままの加入者にとっては、損失は、さほどではないであろう。問題は、口車に乗って内外株式の投資割合を増やした加入者である。投資に不慣れとされる人々は、株価の下落で、狼狽的に投資割合を引き下げたのではないか。そうすると、損失を確定することになり、株式相場が反転しても、その利益は得られない。確定給付型の企業年金が、リーマン・ショック時に内外株式が大幅に下落したにもかかわらず持ちこたえたのは。基本となる投資資産の割合を変更せず、むしろ株式価格の下落によって株式への投資割合が下がったので買い増しに動いたからと思われるが、そうした冷静な投資行動を、経験の浅い個々人の加入者には望むべくもないであろう。
もっと悲惨なのは、投資商品を選択しなかった場合の「指定運用方法」が、株式の投資信託に設定されている制度の加入者である。確かに、制度の構造として、選択しないこと自体に非があり、その場合に株式投資信託に掛金が振り向けられても、文句を言える筋合いのものではない。しかし。「選択しない」人が、「積極的にリスクを取る」とは、誰も考えないであろう。そもそも、確定拠出年金(企業型)の多くは、退職金から切り替えたものである。企業が支給してくれる退職金を当てにしていたのに、それが確定拠出年金に切り替わり、おまけに選択してリスクを取ったわけではないのに、コロナ・ショックの株式下落で大損した、これで文句を言わない人を見つけるのは難しいだろう。
退職金も、形を変えた確定拠出年金も、法的に義務付けられているわけではないのに、他社の動向を睨みながら、企業が従業員のために設定している制度ではないのか。それが、かえって恨みを買うようになるのは本末転倒だが、その原因を作ったのは、指定運用商品として愚かな選択をした企業自身であり、自業自得というものだろう。
2020年4月1日 朝日朝刊7面 ●1日インターン廃止 新型コロナ対応で採用機会増も要請 大学・経団連
2020年4月1日 日経朝刊5面 ●内定取り消し、就活も混乱 東商主導で中小求人

朝日の記事は、「学生らの就職活動と大学・大学院での教育のあり方を話し合う大学と経団連の協議会が31日、1日だけの就業体験「ワンデーインターンシップ」を認めないことにした。授業のある平日が採用活動に使われているとの批判が強く、就職情報会社の団体も認めないと宣言している。」というものである。
「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で、「中西宏明経団連会長と大学側の山口宏樹・就職問題懇談会座長(埼玉大学学長)らがテレビ会議を開き、インターンシップのルールを「原則、長期休暇期間を中心にする」と決めた。大学の場合、1~2年生向けは就業体験を通じたキャリア教育だが、3~4年生向けは就職を意識したものとし、企業側がこれらの違いを学生らに説明するよう求めた。」としている。
また、「ほかにも、採用方法や時期を多様化していくことで一致。新卒一括採用を維持しながら専門スキルを持った転職者や未就職者、外国人や留学から帰国した学生らを通年採用する考えだ。」とのことである。中西会長は「ウェブでの採用面接や説明会だけではなく、学生に対し企業としてメッセージを届ける手段を考えていく必要がある」と話した、としている。

日経の記事は、東京商工会議所が、「31日、内定を取り消された今春卒業の学生などに中小企業の求人情報を紹介する掲示板を開設した」ことに加え、「2021年春卒の就活生に対しては経団連がウェブ説明会の拡充など柔軟な対応を会員企業に要請する」としている。
また、「衛藤晟一・一億総活躍相は31日、日商の三村氏や経団連の中西宏明会長と会談し、21年春に卒業する学生を対象にした就活ルールの順守を求めた」とし、「衛藤氏は新型コロナへの対応で「みんなで力を合わせてやっていかないといけない」と求め、中西氏は「学生が心置きなく企業を選択できるような状況をなんとかつくっていきたい」と応えた。」と報じている。
一方、「学習院大学が就職情報会社に対し、2021年卒業予定の学生の採用活動を4月末まで停止するよう要望したことがわかった。現在、企業は集団で実施する説明会などが開けない状態が続いている。」ともしている。

朝日記事の「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の動向については、すでに次のブログで論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200321AY06.html
それが、正式に公表されたわけである。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/028.html

一方、日経記事の東京商工会議所による内定取消への対応についても、次のブログで言及している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/04/20200402AY07.html
政府から日本商工会議所に対する「2021年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」については、次の通りである。この要請は、日本経団連に対しても行われており、会員企業に周知されている。
https://www.jcci.or.jp/20200331yousei.pdf
https://www.keidanren.or.jp/announce/2020/0331.html

来春の就職を目指す学生にとっては、従来の就活とは様変わりの状況となっており、戸惑いは隠せないだろう。しかし、逆に見れば、5月連休明けまでは、じっくりと企業や業界を吟味する時間ができたことになる。今のうちに、候補先となる企業を、ホームページや有価証券報告書などで調査し、エントリーシートの作成を準備しておくのがよいであろう。また、公務員試験の問題集を購入して勉強すれば、試験の準備になるだけでなく、民間企業を志望する場合でも、学力テスト対策の一助となり、一石二鳥であろう。

もう一つ、候補先としてチェックしておいた方がよいと思われるのが、上記の東京商工会議所の「緊急的に新規採用に取り組んでいる企業」である。次のサイトの下部の業種欄にチェックを入れれば、登録企業を把握することができる。
https://www.tokyo-cci.or.jp/covid-19/saiyo/
これらの企業は、必ずしも優良とは限らない。事業が順調に回転していて人手不足なのであればよいが、従業員が使い捨て同様で人手が足りない場合もあり得るからである。その点では、別の資料などでのチェックも欠かせないが、少なくとも、今春卒業者の内定取消に対して救いの手を差し伸べている点においては、身勝手に内定取消を行った企業とは真逆の存在であることには間違いない。候補に入れておく価値はあるだろう。