2020年3月15日日曜日

2020年3月15日 日経朝刊2面 ●公務員の転職希望が急増 大手サイト登録最高/20代、外資やITへ

「公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。」という記事である。
 「人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。」としている。30代女性の「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」との声も掲載されている。
「新卒者の減少に加え、人手不足で転職市場が活況になっていることも一因とみられる。」「民間企業との人材獲得競争もあり、公務員の志望者は減少している。」と記事はしているが、「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」ということで、「2019年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。」とのことである。
「慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。」ということで、「有能な若手の流出は組織の人員構成をいびつにし、将来の行政機能の低下も懸念される。年次主義の見直しや業務プロセスの効率化などの改革が欠かせない。」と記事は結んでいる。

就活事情からすると、コロナ・ショックで雇用が安定している公務員への就職希望は増えるものと思われるが、その途もバラ色というわけにはいかないようである。
2019年8月の「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000540524.pdf
52ページの「もう、拘牢省とは言わせない。」という叫びには、切羽詰まったものが感じられる。
やり甲斐が感じられない一因としては、長期の安倍政権の中で、国民のための業務遂行が、政権のための辻褄合わせに堕している点もあるのではないか。森友事件が典型的であり、自殺した若手官僚の妻の訴えは、多くの官僚にとって他人事ではないであろう。
政権の危機感のなさは、コロナ・ショックで緊急事態宣言が出された今になってすら蔓延している。何としても集団感染を回避しようとしている東京都の施設に対する営業自粛要請に、国が難癖をつけているのである。理容室・美容室のような濃厚接触場所への自粛要請は当然ではないか。ホームセンターは議論がありそうだが、百貨店まで対象外にしようとするのは訳が分からない。恐らく、対象となりそうな業界が、必死に政治家に働きかけているのであろう。
そもそもの強制力を伴わない自粛要請の効果に対してすら諸外国は懐疑的だが、現場の必死の思いに冷水を浴びせる国の姿勢には、呆れかえるしかない。恐らく、その無意味な交渉の矢面に立たされているであろう厚生労働官僚が、やる気を失ったとしても、「むべなるかな」としか言いようがない。この国は、今や崩壊の瀬戸際にある。
2020年3月15日 日経朝刊32面 社会人とは何か? 山崎ナオコーラ

「社会人」という不思議な日本語がある、という書き出しの作家山崎ナオコーラ氏による随筆である。「「収入を得られる職業に就いている人」を指しての使用が多いように思う。主婦や主夫、年金生活者が含まれない文脈で使われているのをよく見かける。さらに、正社員のみを指すような文章を見かけることもある。フリーター、派遣社員、芸術家、休業者などは「社会人」という言葉で表現されることが少ない。定収入信仰だ。」としている。
続けて、「けれども『大辞林』で「社会人」を引いてみると、「(1)学校や家庭などの保護から自立して、実社会で生活する人。(2)(スポーツなどで)プロや学生ではなく、企業に籍を置いていること。(3)社会を構成している一人の人間。」とある。(2)のイメージが強くて、企業の雰囲気が漂う言葉になっているのかもしれない。」とする。
そして、「スポーツに関係のないシーンで使われる「社会人」は(1)と(3)の意味のはずであり、主婦もフリーターも芸術家も真に「社会人」だ。それなのに、会社に通って、礼儀正しく過ごし、自分の収入で生活する、というイメージは根強い。」と言う。
しかし、「とはいえ少しずつ変わってきているのかもしれない」とし、「フリーランス」のご自身のお子さんの保育園入園での経験を記している。そして、「働き方の多様性が認められる社会が始まっているのではないか。派遣社員もフリーターも「社会人」だ。私も、きっと堂々と働いていい。明るい光に感じられた。」としとぃる。
その上で、「おそらくこれからは、雑談で雰囲気を動かしたり、消費の選択で経済社会を動かしていく主婦や主夫もはっきりと「社会人」と呼ばれるようになる。いや、…あと5年で主婦と主夫という言葉はなくなる。…家庭運営者も「社会人」だ。」としている。
一方、「主婦の年収を計算して社会評価に繋(つな)げようという考え方も世間にあるが、私は反対だ。家庭運営者は、パートナーに雇われているのでも、家族を顧客と見なしているのでもない。社会を良くする高度な職業だ。年収で社会評価を下す時代は終わりだ。もう、金は物差しにならない。」とし、「よく「女性の社会進出」「女性が輝く社会」といったフレーズを見かけるが、これもおかしい。どうも、「金に繋がる職業に就くことが社会進出」「収入を得ることで、やっと輝ける」という意味が透けて見える。」と続けて、「コーヒーを飲むだけの小説でも経済小説になり得ると考えている。育児も介護も趣味もすべて社会活動だ。」と結んでいる。

興味深い視点である。私自身の経験からして、「社会人になる」とか「社会で出る」というのは、学生時代を卒業して会社に入る、という感覚を持っていた。と同時に、この随筆には、「社会人」という言葉への反発と憧憬が窺われて、その点も新鮮だった。
一方で、「世間」という言葉がある。「世間様に顔向けできない」とか「世間の風は冷たい」とか、すぐにはマイナスのイメージしか出てこないが、これは「社会」よりも、もっと範囲の広いもので、「家庭」外の世界を意味するように思われる。
山崎氏が最初に挙げている「社会人」のイメージからは、「会社人間」という言葉が出て来る。会社第一主義に染まった人々という感じだが、「会社」か「社会」かという価値観の相克の場面でも使われる。並びとしては、「家庭」→「社会」→「国家」ということになり、勤め人にとっては、「会社」が「社会」の大きな要素を占めるということになるのだろう。「社会」には、「地域」や「世間」というものも含まれるのだろう。
ともあれ、いろいろな考えの浮かぶ随筆である。
2020年3月15日 日経朝刊8面 ●新型コロナ、中国の新卒採用市場に打撃

「新型コロナウイルスの感染拡大の影響が中国の大学生の就職活動にも及んでいる。」との記事である。「求人企業による新卒採用イベントなどが中止になったほか、人の移動が制限されて面接会場に行けなかったり、春節(旧正月)休暇後に大学に戻れなかったりするなど、多くの学生が苦慮している。」という。
記事では、「2020年夏に卒業したら学習塾の講師として働くことになっていた。だが、内定をもらっていた塾の担当者から突然、「しばらく自宅で待機するように」との連絡があった。中国政府当局からの要請で当面、塾を閉鎖せざるを得なくなったためだ。授業再開のメドは立っておらず、途方に暮れている。」学生の例が紹介されている。
そして、「新型コロナの感染拡大は中国経済を直撃し、事業拡大をためらうだけでなく、新卒者採用を手控える企業も急増している。中国の求人サイト「BOSS直聘」が春節明け後の3週目に掲載した大学卒業予定者向けの求人件数は前年同期比44%減となった。運営会社によると、業種別では広告業界などは70%超の大幅減となり、減少幅が比較的小さい医療業界でさえも、前年同期を8.8%下回った。」とし、「中国では大卒者が右肩上がりに増えており、20年夏が終わるまでに最大で874万人規模の新卒者が労働市場に加わる見通しだ。だが、そのうち何人が就職できるかは不透明な状況だ。」という。
また、「これまでの努力がすべて水の泡になった」と嘆く大学生の例も紹介されており、「専攻はコンピューター工学で、卒業後は「中国のシリコンバレー」と呼ばれる広東省深圳市でキャリア人生を始めるつもりだった。就職希望の3社での面接日程もすでに決まっていた。」が、「公共交通機関などが停止となるなど人の移動が大きく制限され、面接会場に行くことができなかった。インターネットを使った面接を行う企業も増えている」が、「大学にすぐに戻れそうにないし、いつ卒業できるかわからない。こんな人を企業が雇うはずがない」と語っていると言う。
また、「新卒者ではなく、即戦力となる経験者の採用を優先する企業も目立つ。」とし、「斬新なアイデアを持つ若い人材は貴重な存在だが、新卒者を雇う余裕はない」という経営者のコメントがあり、採用者は「いずれも経験者で、新卒者は含まれていない」という例もあるとのことである。
最後に、「新卒者の就職を促そうと、政府当局は企業に採用活動期間の延長を要請したほか、軍や農村部の政府機関で新卒者採用数を増やす方針を明らかにした。深圳や北京などの都市部では人の移動制限が段階的に緩和され、平常時に戻る兆しが出てきた。だが、就活生への打撃はあまりにも大きい。」と結んでいる。

中国の就職事情は知らなかったが、こと新型コロナがらみとなると、中国で起きていることは、世界中に飛び火することになりそうである。現在、欧米各国で起きている大都市の封鎖やイタリアでの医療崩壊などがそうであるが、新卒者の就活も、その一つであろう。
就職予定先の企業から自宅待機を要請されて途方に暮れる、いつ卒業できるか分からない状態で就活を強いられる、経験者優先で新卒者は採用されない、といった記事の状況は、確実に日本にも訪れるであろう。「就活生への打撃はあまりにも大きい」わけで、身を引き締めて就活に臨む必要がある。もはや、昨年までの就活状況ではない。