2020年4月1日水曜日

2020年4月1日 日経朝刊3面 東レ・ニプロ・富士急 評価損 企業年金の運用成績も悪化

「世界的な株安の影響で、保有株や出資先企業の株価下落で評価損を計上する企業が相次ぐ。東レは31日、17年に出資した香港企業の株価が下落し、187億円の損失を計上すると発表した。企業年金の運用成績も悪化しており、2020年1~3月の運用利回りは四半期ベースで8年半ぶりのマイナス幅となった。」という記事である。
企業年金に絞ると、「ウイリス・タワーズワトソンが30日時点で、約110の企業年金のデータをもとに推計した1~3月の運用利回りはマイナス3.9%となった。マイナスになるのは5四半期ぶり。マイナス幅は11年7~9月(マイナス4.8%)以来の大きさだ。」という。
「退職者への給付額が決まっている企業年金の場合、運用が目標に届かないことが続き、積み立て不足が膨らむと企業側が追加で費用計上する必要がある。」とし、「資産規模が約8000億円と国内有数の企業年金であるNTT企業年金の1~3月の運用利回りもマイナスとなった。」と結んでいる。

株価急落の状況であるから、日本の企業年金の資産運用状況は当然厳しい。過去の確定給付型の企業年金の運用利回り(修正総合利回りが時価ベース)は、次の通りである。
https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/shisanunyo/shisanunyo01.html
2019年度の運用利回りは、2007-8年度のリーマン・ショックの時以来の大幅なマイナスになるであろう。
だが、それでも、中期的に見れば、日本の確定給付企業年金の資産運用は、割合に健闘しているとも言える。今回のコロナ・ショックによる株価の下落は、リーマン・ショックを上回るが、運用資産の構成を見ると、その時よりも国内株式・外国株式の比重を減らしているようだから、安心できるものではないが、今回も持ちこたえられるかもしれない。ただ、本業が不振な中で、企業年金の費用負担も増えることになるので、企業経営者にとっては頭が痛いであろう。
もっと深刻と考えられるのは、個人が運用する確定拠出年金の方である。運用資産の中での預貯金の割合が大きいと批判されてきたが、老後のための資産であってみれば、安全重視とするのは当然で、預貯金の割合が大きいままの加入者にとっては、損失は、さほどではないであろう。問題は、口車に乗って内外株式の投資割合を増やした加入者である。投資に不慣れとされる人々は、株価の下落で、狼狽的に投資割合を引き下げたのではないか。そうすると、損失を確定することになり、株式相場が反転しても、その利益は得られない。確定給付型の企業年金が、リーマン・ショック時に内外株式が大幅に下落したにもかかわらず持ちこたえたのは。基本となる投資資産の割合を変更せず、むしろ株式価格の下落によって株式への投資割合が下がったので買い増しに動いたからと思われるが、そうした冷静な投資行動を、経験の浅い個々人の加入者には望むべくもないであろう。
もっと悲惨なのは、投資商品を選択しなかった場合の「指定運用方法」が、株式の投資信託に設定されている制度の加入者である。確かに、制度の構造として、選択しないこと自体に非があり、その場合に株式投資信託に掛金が振り向けられても、文句を言える筋合いのものではない。しかし。「選択しない」人が、「積極的にリスクを取る」とは、誰も考えないであろう。そもそも、確定拠出年金(企業型)の多くは、退職金から切り替えたものである。企業が支給してくれる退職金を当てにしていたのに、それが確定拠出年金に切り替わり、おまけに選択してリスクを取ったわけではないのに、コロナ・ショックの株式下落で大損した、これで文句を言わない人を見つけるのは難しいだろう。
退職金も、形を変えた確定拠出年金も、法的に義務付けられているわけではないのに、他社の動向を睨みながら、企業が従業員のために設定している制度ではないのか。それが、かえって恨みを買うようになるのは本末転倒だが、その原因を作ったのは、指定運用商品として愚かな選択をした企業自身であり、自業自得というものだろう。
2020年4月1日 朝日朝刊7面 ●1日インターン廃止 新型コロナ対応で採用機会増も要請 大学・経団連
2020年4月1日 日経朝刊5面 ●内定取り消し、就活も混乱 東商主導で中小求人

朝日の記事は、「学生らの就職活動と大学・大学院での教育のあり方を話し合う大学と経団連の協議会が31日、1日だけの就業体験「ワンデーインターンシップ」を認めないことにした。授業のある平日が採用活動に使われているとの批判が強く、就職情報会社の団体も認めないと宣言している。」というものである。
「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で、「中西宏明経団連会長と大学側の山口宏樹・就職問題懇談会座長(埼玉大学学長)らがテレビ会議を開き、インターンシップのルールを「原則、長期休暇期間を中心にする」と決めた。大学の場合、1~2年生向けは就業体験を通じたキャリア教育だが、3~4年生向けは就職を意識したものとし、企業側がこれらの違いを学生らに説明するよう求めた。」としている。
また、「ほかにも、採用方法や時期を多様化していくことで一致。新卒一括採用を維持しながら専門スキルを持った転職者や未就職者、外国人や留学から帰国した学生らを通年採用する考えだ。」とのことである。中西会長は「ウェブでの採用面接や説明会だけではなく、学生に対し企業としてメッセージを届ける手段を考えていく必要がある」と話した、としている。

日経の記事は、東京商工会議所が、「31日、内定を取り消された今春卒業の学生などに中小企業の求人情報を紹介する掲示板を開設した」ことに加え、「2021年春卒の就活生に対しては経団連がウェブ説明会の拡充など柔軟な対応を会員企業に要請する」としている。
また、「衛藤晟一・一億総活躍相は31日、日商の三村氏や経団連の中西宏明会長と会談し、21年春に卒業する学生を対象にした就活ルールの順守を求めた」とし、「衛藤氏は新型コロナへの対応で「みんなで力を合わせてやっていかないといけない」と求め、中西氏は「学生が心置きなく企業を選択できるような状況をなんとかつくっていきたい」と応えた。」と報じている。
一方、「学習院大学が就職情報会社に対し、2021年卒業予定の学生の採用活動を4月末まで停止するよう要望したことがわかった。現在、企業は集団で実施する説明会などが開けない状態が続いている。」ともしている。

朝日記事の「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の動向については、すでに次のブログで論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200321AY06.html
それが、正式に公表されたわけである。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/028.html

一方、日経記事の東京商工会議所による内定取消への対応についても、次のブログで言及している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/04/20200402AY07.html
政府から日本商工会議所に対する「2021年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」については、次の通りである。この要請は、日本経団連に対しても行われており、会員企業に周知されている。
https://www.jcci.or.jp/20200331yousei.pdf
https://www.keidanren.or.jp/announce/2020/0331.html

来春の就職を目指す学生にとっては、従来の就活とは様変わりの状況となっており、戸惑いは隠せないだろう。しかし、逆に見れば、5月連休明けまでは、じっくりと企業や業界を吟味する時間ができたことになる。今のうちに、候補先となる企業を、ホームページや有価証券報告書などで調査し、エントリーシートの作成を準備しておくのがよいであろう。また、公務員試験の問題集を購入して勉強すれば、試験の準備になるだけでなく、民間企業を志望する場合でも、学力テスト対策の一助となり、一石二鳥であろう。

もう一つ、候補先としてチェックしておいた方がよいと思われるのが、上記の東京商工会議所の「緊急的に新規採用に取り組んでいる企業」である。次のサイトの下部の業種欄にチェックを入れれば、登録企業を把握することができる。
https://www.tokyo-cci.or.jp/covid-19/saiyo/
これらの企業は、必ずしも優良とは限らない。事業が順調に回転していて人手不足なのであればよいが、従業員が使い捨て同様で人手が足りない場合もあり得るからである。その点では、別の資料などでのチェックも欠かせないが、少なくとも、今春卒業者の内定取消に対して救いの手を差し伸べている点においては、身勝手に内定取消を行った企業とは真逆の存在であることには間違いない。候補に入れておく価値はあるだろう。