2020年1月26日日曜日

2020年1月26日 朝日朝刊7面 (フォーラム)「妖精さん」どう思う?:2 手立ては

2020年1月19日 朝日朝刊7面の「現状編」の続編で、「長年勤めていたら世の中が変わり、経験やスキルを発揮できる担務や居場所は社内で与えられなくなった。そして「働かない」状態になった中高年社員を若手が「妖精さん」と名付けました。でも、働く人生はまだ続きます。ベテラン勢の能力を生かし、不公平感を改めていくには。手立てを探ります。」というものである。
チェンジウェーブの大隅聖子顧問は、取材インタビューに対して、「働かない「妖精さん」、それほどいません。単に仕事を与えられていないだけです。」とし、「まず任せる仕事をしっかり切り出すこと」が必要だとする一方、「例えば5人のチームにシニアを1人交ぜるのは難しい。リーダーが気を使ってしまい、負担になるからです。」としている。そして、「再雇用されたシニアで人気があるのは、自分で手足を動かせる人です。」とし、「でも、ずっと同じ組織にいれば、かつての部下や後輩から気を使われてしまうのは避けられない。むしろ思い切って別の会社に移って力を発揮した方がカッコイイと思います。」としている。
一方、千葉経済大の藤波美帆准教授は、「ポイントは「中高年層も戦力」という認識を会社全体で共有できているかどうか。」で、「高齢者が高い士気で仕事に取り組めていれば、生産性や業績にプラスの効果があるという調査結果も出ています。」としている。そして、「65歳までの希望者全員を雇う法的義務」について、「多くはいちど定年退職してもらってから非正規職員として再雇用するため、賃金が下がります。仕事や役割が変わらないのに、賃金が下がるのは「同一労働同一賃金」の点で問題ですが、仕事や役割が変わって下がるのであれば、きちんと説明することです。」と言う。その上で、「若手社員と中高年社員の板挟みになる管理職への支援も欠かせません。年上の部下に対するマネジメントはトレーニングを積まないと難しい。」としている。
また、記事では、「賃金下げず、士気もキープ」している会社の例として、「定年を60歳から65歳へ延ばし」た太陽生命保険や、ファミリーレストランを展開するすかいらーくホールディングス(HD)の例を上げている。
記事では、「妖精さん」に対する読者からのいくつかの声を紹介した上で、真鍋弘樹編集委員が、「人口減、「分断」してる場合じゃない」として、「世代間ギャップ」「非正規と正規雇用の分断」が浮かんでくるが、「日本経済全体の競争力と、個人の働きがいや職務に応じた公平な処遇を両立するには」「人口減少という危機が逆にチャンスになるのではないでしょうか」とし、「一つの会社に人生を頼り切らず、拘束もされない。不安定雇用におびえることもない。誰もが、そんな働き方ができる社会が目標です。」としている。

現状編への論評では、「ジョブ型正社員」の導入だけでは問題の解決につながらないことを述べた。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/01/20200119AA07.html
そもそも、拘束をされない雇用は、「安定雇用」に結び付くものではない。経営側と労働者側のニューズがマッチして初めて、そのような雇用が成立し得るわけだが、経営環境は変動するので、そのような幸福な関係は長続きするものではない。日本型雇用制度と言われる年功序列・終身雇用というシステムは、経済の高度成長期に確立したものであるが、恩恵を受けた主体は男性の正社員であり、女性は結婚・育児で、そのような男性正社員を家庭で支えることを暗黙の前提としていた。男女平等の気運の拡大の中、バブル崩壊後の経済低迷期には、そのことがあからさまとなり、男性正社員の保護を優先し、女性主体だが男性の一部についても非正規労働者の身分に追いやり、それまでの「日本型雇用」を維持してきたのである。これには、男性正社員主体の企業内組合も加担してきた。
「妖精さん」と呼んでも、実のところは高齢の男性である。「非正規と正規雇用の分断」は、今に始まったものではなく、その分断での恩恵を享受してきたくせに、自分がその立場に立ったら騒ぎ出し、果ては給与泥棒とも言える「妖精」どころか「乞食」に似た存在になり下がっているわけである。
「世代間ギャップ」の本質は、そのような特権を享受してきた中高年齢層に対しての、とてもそんな未来になるとは思えない若年層によるものであるが、見方によっては、それこそが企業内改革を進める原動力になるのかもしれない。
しかしながら、企業内での対応には限界がある。経営環境が激変し事業内容の変化も必要となる中では、必要な人材の中身や時期は大きく変動する。そのような変動に対応するには、1社にしがみついていても展望は拓かれない。厳しいことだが、自分自身で一本立ちし、求められる仕事に求められる時期に向かうことが必要になってきている。「包丁一本、さらしに巻いて」というのが、生き方の原点になりつつあるのではないか。