2020年3月10日火曜日

2020年3月10日 朝日朝刊9面 「追い出し部屋」法廷闘争へ 東芝子会社を提訴 原告「らちあかず」
2020年3月10日 朝日朝刊33面 配属の無効求め提訴 東芝系社員「追い出し部屋」

最初の記事は、「東芝の主要子会社に社員から「追い出し部屋」と呼ばれる部署がつくられた問題が、法廷で争われることになった。」というものである。「背景にあるのは、景気が不透明さを増すなか、前倒しで人員削減を進める企業の動きの広がりだ。希望退職を募った上場企業は2019年に判明しただけで36社。かつて厳しい批判を浴びた追い出し部屋のような例は表面化していないが、募集人数は6年ぶりに1万人を超えた。」としている。
この提訴は、「東芝に入社後、IT技術者としておもに原発関連のシステム開発を担当」していた原告が、分社化された会社で「45歳以上を対象に昨年3月末での希望退職を募ると、環境が一変する。上司との面談で「あなたの職場がなくなる」などと応募を促され、拒み続けたら、業務センターに異動になった。」ことに端を発し、「スキルやキャリアがまったく生かせない仕事に回された。会社に抗議したが、誠意ある回答が返ってこない。提訴しないとらちがあかなくなった」というものである。代理人の弁護士は「辞めてもらえなかったから追い出し部屋に行かせて、重労働をさせた。一連の行為に違法性があるかがポイントだ」と指摘しているそうである。
記事の解説では、希望退職で「目立つのは、業績が堅調にもかかわらず実施する「黒字リストラ」だ。…売上高が伸びない中でも人件費を減らすことで、利益を確保しようという経営戦略だ。」とし、「ほとんどの実施企業が、退職金を積み増したり次の就職先を支援したりして、あくまで「自主的な退職」という形をとる。」が、「実際には指名解雇のようなやり方も少なくない」(電機・情報ユニオンの森英一書記長)との指摘もあるとしている。
最後は、「新型コロナウイルスの感染拡大で景気が一段と冷え込めば、リストラに踏み切る企業がさらに増え、雇用をめぐるトラブルも増える可能性がある。」と締めくくっている。

次の記事は、同じ朝刊の別面で、この訴訟の要点をまとめたもので、「会社側が「不当な動機・目的」などで異動を命じることは、人事権の乱用で違法になり得る。」が、原告は「異動の必要性や人選の基準について詳しい説明を受けていないという。東芝は「訴状が手元に届いていないので、コメントはできない」(広報)としている。」という状況を報じている。

「追い出し部屋」とは、何とも禍々しい心のざわつく言葉である。これが社会問題となった状況や、その実態の一例については、次などを参照されたい。
https://roudou-pro.com/columns/56/
https://toyokeizai.net/articles/-/272177
一言でいえば、これは、会社によるイジメである。正社員については、雇用慣行としても解雇が制限されており、会社の事業継続を図るために従業員を解雇する整理解雇については、判例で、「①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③解雇する従業員選定の合理性 、④手続の相当性」の4条件が必要であることが確定している。詳しくは、次を参照されたい。
https://roudou-pro.com/columns/103/
しかし、会社としては、年功序列で賃金のかさむ中高年の社員を減らしたいわけで、そのために「希望」退職を募るわけである。そして、これに応じなければ、人事権を行使して、単調であったり不毛であったりする仕事を割り当てて、本人が嫌気を出して辞めるように仕向けるのである。「追い出し部屋」は、そのような社員を集めた所である。なお、希望退職拒否ばかりでなく、転勤拒否の社員に対しても、同じ仕打ちが行われかねない。また、こうした人に同情的な同僚に対しても、不利益が発生しうる。すなわち、ある理由でイジメが始まると、それはエスカレートしていき、周りは巻き込まれるのを恐れてシカトするようになり、孤立無援の中で疲弊して、集団からの離脱や、悲惨な場合には、自殺にまで至るということが、会社の中でも起こり得るわけである。
このイジメのために会社が有しているツールが、仕事を割り当てる権利たる人事権である。これが良い方向に作用すれば、不採算の部門を閉鎖した余剰人員を他部門に配置転換して雇用を守る、ということになるわけで、1970年代半ばのオイルショックの時などは、そのような日本的経営だからこそ、危機を乗り切れたという評価があった。
ところが、悪い方向に作用すると、辞めさせたい社員に、重要性が乏しく、中には全く意味のない仕事を割り当てて、その社員の意欲と能力を奪うわけである。この手法は、「追い出し部屋」だけでなく、意味のある仕事を与えない「窓際族」を生み出すことにもつながっていた。「窓際族」は、まだ体面を保てるが居心地を悪くさせるものであったが、企業には、その余裕がなくなり、「追い出し部屋」に移ったわけである。
見方によっては、給与が確保されるのなら、それでも良いと思われるかもしれない。だが、会社は甘くない。そういう精神的に強いというか鈍い人には、根をあげるような単純重労働の肉体作業が待っている。精神的に弱いというか普通の人は、無価値な仕事をさせられて、会社にも社会にも必要とされていないという疎外感に追い込まれるわけである。
イジメが犯罪なら、「追い出し部屋」も犯罪だろう。だが、上記に述べたように、会社には人事権があり、違法性を追求するには困難がある。また、社内の労働組合は、人事権の容認と引き換えに雇用保障を得ていることから、この問題では全く当てにならない。被害者が、多くのケースで社外の労働組合などの支援を受けているのには、そのような事情がある。
では、どうすればいいのだろうか。まず、会社は、自分を守ってくれているのではなく、利用しているのだという認識を、しっかり持つ必要があるだろう。この認識の元に、自分も会社を利用してやろうという気持ちが必要である。それで、対等ということになる。ただし、利用の仕方は、自分の状況により異なる。
まず、自分が新卒入社である場合、とにかく必死に仕事を覚えることである。大学などで多少知識を得ていても、実際の仕事では、おいそれと活用できるものではない。仕事には、それなりのコツがあるから、それを懸命に身に着けるべきなのである。この期間は、3年から5年くらいとすべきであろう。身に着けた技能を発揮して会社に貢献できる相思相愛とも言える期間と合算すると、5年から10年というところであろう。居心地が良ければ、そのまま会社に残ってもよいが、さらなる飛躍を望むのであれば、卒業して次の段階に進むべきである。残った場合には、会社にとっての自分の利用価値が、以降は次第に落ちていくことをキチンと認識していくべきである。年功序列は崩れていくから、給与がどんどん上がっていくことも期待薄であろう。
卒業する場合には、自分の技能や能力を高く評価してくれる会社に転職することになるだろう。自信があれば起業してもよいと思うが、そちらに向かうには、経営のセンスと覚悟が不可欠である。この転職後の期間は、一応、5年から10年くらいがメドになると思うが、会社との相性が良ければ、もっと長く勤めてもよいだろう。なお、相性が合わないと思う場合には、さっさと別の転職先を探す方がよい。「包丁一本さらしに巻いて」の気概が必要となる時期である。
最後に、高齢期になった場合である。それまで、1社ないし2社程度で会社生活を過ごしてきた場合には、自分にも会社にも、相互依存性が染みついている可能性がある。そのマンネリが力を奪うのである。この時期には、新たな技能を身につけるのは難しいし、身に着けても活用できる期間は少ない。それよりも貢献が可能なのは、会社の中であれ外であれ、身に着けた技能を後進に伝えることであろう。自分が主役ではなく、サポーターとして活躍することが望ましい時期である。もちろん、気力も能力もある人は、起業するのもいいし、フリーランスとして仕事を請け負ってもよい。いずれにしろ、この時期は、それまでの職業生活の集大成の時期である。
以上、ざっと私なりのイメージを述べたが、人生の進むべき道を決めるのは、貴方自身である。かけがえのない貴方の人生は、貴方のものなのだから。

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