2020年3月17日火曜日

2020年3月17日 日経朝刊16面 パナソニック、AI人材ら採用に力 年収最高で1250万円
2020年3月19日 日経朝刊15面 ソニーの若手・中堅、年収最大250万円高く 横並び見直し

最初の記事は、「パナソニックは16日、人工知能(AI)やデータサイエンスなど先端技術の知見を持つ研究者を採用する新たな方針を発表した。研究実績や保有資格に応じ、年収は750万~1250万円を想定する。新卒、既卒を問わずに募る。新規事業の創出などにつなげる。」というものである。
「博士号取得者ら数人を1年更新の嘱託社員として採用する。雇用期間は最長5年。家電や電子部品といった事業部門をまたぐ本社直轄の研究開発部門で働いてもらう。クラウドやディープラーニング(深層学習)関連など幅広いテーマの研究者を募集し、テーマの持ち込みも受け付ける。」としている。
なお、「2021年度の新卒採用で選考期間の延長を検討していると公表した。新型コロナウイルスの感染拡大で会社説明会の一部が中止になるなど、影響が出ていることに対応する。」とのことでもある。

次の記事は、「ソニーは2020年度、優秀な若手・中堅の従業員の年収を、最大で標準よりも250万円高くする。一般的な係長未満に相当する「上級担当者モデル」の従業員が対象。横並びの給与体系を見直し、貢献度の高い社員に報いる。若手・中堅社員の処遇を改善し、「GAFA」と呼ばれる米IT大手などとの業界の枠を超えた人材獲得競争に備える。」というもので、「19年度から新入社員の初任給にも差をつける取り組みを進めている。人工知能(AI)などの先端領域で高い能力を持つ人材については、年間給与を最大2割増しとしている。」とのことである。また、「20年春の労使交渉で、日立製作所やパナソニックで構成する電機大手の統一交渉には参加していない。電機業界だけでなく他分野にも負けない高水準を示し、優秀な人材確保につなげる。」としている。

AIをはじめとする先端技術の重要性が高まる中、そうした高度専門人材に対する獲得競争が熾烈になってきている。そのことが横並びの春闘にも影響を及ぼしているわけで、年功序列・終身雇用の日本型雇用を破壊する可能性も出てきている。
だが、パナソニックの「1年更新の嘱託社員として採用する。雇用期間は最長5年」では、大した人材は集まらないだろう。これなら博士号を取得したのにもかかわらず非常勤として働くしかない大学教員と大差ないからである。「雇用期間は最長5年」は、正社員と同じ期限のない労働契約への移行を阻止するためだろうが、そこまで「助っ人」として位置付けるのであれば、給与は数千万とする必要があり、「年収は750万~1250万円を想定」なら、言っちゃあ悪いが、中途半端な人材しか集まらないだろう。要するに、まるで分っていない、のである。
ソニーの方は、「新入社員の初任給にも差をつける」とのことであるが、この戦略は、新卒者等の中で先端専門技術の習得上有利な者を特別扱いしようということである。日本の大学教育や新卒採用の状況を踏まえると、一定の効果はありそうだが、問題は入社後である。「優秀な若手・中堅の従業員の年収を、最大で標準よりも250万円高くする」というのでは、はっきり言って「GAFA」への対抗などできるわけはない。これは、高度専門人材の給与が他の社員より大幅に多くなるのを抑止するという考え方だろうが、恐らくは、折角育てた高度専門人材に愛想を尽かされて流出させてしまう、ということになるだろう。
両社ともに、日本的経営というか、社員間のバランスといったものに固執しているわけだが、それ故にグローバル人材獲得競争に敗れつつある、という現実を直視していない。
もっとも、そのような高度専門人材の入社が、社業にどれだけ貢献するものなのか見極めできない、という点はあるのだろう。これはその通りで、社風との相性もあり、入れてみなければ分からない。その点から、パナソニックの嘱託社員というか、有期雇用社員としての採用も分からないではない。問題は、ケチくさい給与水準である。イメージで言えば、雇用期間を5年とした場合、その期間で普通の社員の最低1.5倍くらいの給与にしないと、良い人材が採れるとは思えない。すなわち、普通というか課長クラスの年収が1千万円であるのなら、5年間で7千5百万円が必要ということである。これを5年契約の年間1千5百万円ではなく、1年契約・更新5年までとするなら年間2千万円(5年間になると総額1億円)ということになるだろう。非常に高度な専門人材を1年契約で獲得しようとするのなら、役員並みの給与が必要になるだろう。
このような姿が、現実に起きているのが、日本のプロ野球である。外人枠は特別待遇となっているが、彼らの活躍に依存している球団も多い。そして、有能な日本人選手も、活躍の場と好待遇を求めて、次々と大リーグに向かうようになっている。その先導をしたのが、野茂投手とイチロー野手で、だから彼らは裏切り者と罵られたのである。それでも、彼らの決断と活躍がなければ、日本のプロ野球の水準は低迷していたままだったであろう。
さて、パナソニックやソニーなどの日本企業は、野茂やイチローに匹敵する高度専門人材を育てた上で、その人が望むなら快く外に送り出し、その活躍に拍手を送れるだろうか。問われているのは、そこまでの覚悟であり、度量であろう。

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