2020年3月20日金曜日


2020年3月20日 朝日朝刊6面 日本ガイシの新制度 60歳超えても賃金は下げない


記事は、「60歳を超えても昔と変わらずお金を稼げるサラリーマンは珍しい。ところが、「65歳まで賃金が下がらない」制度を始めた東証1部企業がある。創業101年のセラミックス大手、日本ガイシ(名古屋市)だ。」という書き出しで、「もともとは60歳を超えると1年更新で再雇用され、賃金は半分に落ちていた。2017年春に始まった新制度は定年を65歳にし、賃金水準は維持する。山田忠明・常務執行役員は「厳しく言えば、60前と同様に働いてほしいというメッセージ」と話す。」というものである。
その背景として、「公的年金の支給開始年齢の引き上げにあわせ、希望者全員を65歳まで雇うことが13年施行の改正高年齢者雇用安定法で義務づけられた。バブル期の採用増もあり、日本ガイシでは今後、毎年100人規模の社員が60歳を迎える。「戦力化」は待ったなしの課題だが、半分の処遇でモチベーションを保つのは難しい。出した答えが、以前と変わらない賃金で報いることだった。」としている。
しかし、「ただ、単に60歳超の賃金を増やせば会社の負担は急増する。そこで、全体の賃金制度も改め、子育て世代の昇給を早める一方、ベテランの伸びを緩やかにした。ここで得た「節約分」に企業年金分のお金を加え、それでも足らない数億円は会社が負担した。「働いて稼いでくれたらマイナスにはならない」。大島卓社長ら経営陣もGOサインを出し、労組との協議で、健康や介護の事情に配慮した短時間勤務や週3日勤務の仕組みも整えた。」とのことである。
その上で、「「人生100年時代」を迎え、政府は本人が希望すれば70歳まで働ける機会をつくる努力義務を企業に課す方針だ。「戦力」として働く60歳超の待遇の見直し議論は、多くの労使で今後避けられなくなる。」と結んでいる。

背景となっている「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正は、次の通りである。
そして、2019年の「高年齢者の雇用状況」は、次のようになっている。
企業の雇用確保措置への対応は、①「定年制の廃止」(2.7%)、②「定年の引上げ」(19.4%)、③「継続雇用制度の導入」(77.9%)に分かれるが、記事の日本ガイシは、③の1年更新で再雇用から、②の定年65歳、に移ったわけである。
再雇用では、正社員から非正規雇用に身分変更となるから賃金の再設定が可能であり、引き下げが普通だが、定年延長なら正社員の身分は継続するので、賃金は基本的に下げられない。その点では、珍しくも何ともないのだが、結局のところ、記事は、③→②の変更が珍しいと言っているわけである。
だが、実際に、そのような変更をしているか、あるいは初めから定年延長にしている企業は増えている。そのことは、次の5年前の2014年資料と比較してみれば分かる。
すなわち、5年前は、①「定年制の廃止」(2.7%)、②「定年の引上げ」(15.6%)、
③「継続雇用制度の導入」(81.7%)であったから、対象企業に変化はあるものの、定年延長企業が増えていることは間違いない。
その定年延長の場合の最大の問題は、賃金カーブの修正である。すなわち、旧定年前の給与を従来より下げて、定年延長後につなげるわけである。これは、年功賃金の修正ということになる。
しかし、企業の先行きが不透明になってきている中、いわば「余生」が延びる高齢従業員にとっては受け入れやすいかもしれないが、若年の従業員にとっては、先輩よりも給与上昇の見込みが抑えられる上に、さらに上司として居座られる期間が長くなるわけだから、たまったものではない。よって、本格的に対応しようとすれば、賃金カーブのみならず、終身雇用のあり方にも変更を加えなければならないことになる。
そこまでの認識が進めば、「定年」には意味がなくなる。「定年」は、そもそも、その年齢までの雇用保障であり、年齢差別的なものである。業績や貢献による処遇を行う上では、むしろ邪魔になるわけであり、そのような理解に立てば、「定年撤廃」に向かうことになるであろう。「年齢差別」を禁止している米国などには、「定年」はない。
ただ、「定年」が根付いており、正社員と非正規労働者との間で歴然とした身分差別が許容されている日本の現状からすると、「定年撤廃」には踏み込みにくいのは事実であろう。
「定年撤廃」は、正社員としての身分格差を温存する「定年延長」とは真逆とも言える。
正社員と非正規という区分も意味を失い、業績と貢献による処遇を求められることになる。よって、全般的には、正社員の給与は下落し、非正規労働者(この区分は無意味になるが)の給与は上昇する。「同一労働同一賃金」への道も開けるであろう。だから、正社員主体の組合が抵抗することになるだろうが。

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