2020年3月23日月曜日

2020年3月23日 朝日朝刊29面 ●就活、答えはひとつじゃない 新型コロナ影響、不安な学生へ先輩語る

「来春卒業予定の大学3年生らを対象にした就職・採用活動の説明会が1日、解禁されました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で説明会が中止になるなど、不安も少なからずあるなか、就職活動にどんな心構えで臨めばいいのか、社会人の先輩に聞いてみました。」という特集記事である。

まず、DeNA会長・南場智子さん(57)の話であるが、自身の体験談として、「コンサルタント会社(マッキンゼー・アンド・カンパニー)に勤める先輩に誘われて行った説明会で格好良さにひかれ、たまたまその会社に内定しました。一番ダメな例です。自分の将来についてちゃんと考えなかったし、他の選択肢も考えていなかった。だから、入社してから苦労しました。先輩の指示の意味もわからず、焦って夜遅くまで働いて寝不足になる。周りの評価を気にして、自信がなくなる悪循環に陥っていました。」とし、「「昨年10月のDeNAの内定式では、内定者に「自分のことをうんと好きになってきてほしい」と話しました。期待に応えられない悔しさや同期との比較が気になり自信がなくなってしまう中で、自分の個性を大切にしてほしいという願いからでした。」としている。
そして、「これは、就活生にも言えると思います。就活では、足りないところをどう見せるかばかりを考えるのではなく、自分の大好きなところはどんなことかを考えてきてほしいと思います。DeNAでは自分らしさを出せるように、面接や内定式でも思い思いの服装で参加してもらっています。」とし。「会社は多様な人材がいる方が発展します。ただ、あえて言えば表面的には静かな人でも、アグレッシブな人でも良いのですが、芯は「真面目で頑張り屋」な人を求めたい。」としている。
続けて、「状況が悪いときでも、組織が強ければ必ず乗り越えられる。仕事に真摯(しんし)に取り組む社員の存在はすごく頼もしく感じます。だから、私は採用を大事にしています。」とする。
一転して、「日本の教育には、一つの答えを正しいとする価値観があります。そして「間違えない達人」をつくるんです。就職活動でも、企業や会社に偏差値や序列があるかのような情報が出回り、大企業に向かっていく。でも、職業選択に偏差値なんてあるわけないじゃないですか。夢中になって仕事をして社会貢献するという醍醐味を知ることで人は成長できるのです。」とし、「日本は少子高齢化など様々な問題に直面しています。前例がないわけだから、その対処方法にはユニークさが必要になる。「こうであらねばならない」ではなく、自分の個性を解き放って成長してほしいです。」と結んでいる。

一方、作家の万城目学さん(44)は、「私はいわゆる就職氷河期世代です。4回生(4年生)の時には、小説家になりたいという漠然とした気持ちがあるような段階で就職活動をしました。何をやりたいかもわからず、とりあえずネームバリューのある企業に応募しましたが、一次面接で落ちてばかり。途中で「もうええか」と就活をやめてしまいました。その後、小説を書き始めたのですが、書きながら「すぐには小説家にはなれない」と感じ、翌年に再び就職活動をしました。」としている。
そして、「1回目があったので、就活は本気で取り組まないといけないことはわかっていました。そこで私が立てた戦略はあまり働かない会社に入ろう、ということです。今思えば、ずいぶん上から目線かもしれませんね。当時は説明会で、モーレツに働くことを社員が武勇伝のように語る会社がたくさんありました。小説を書くためには仕事以外の時間がほしいし、家族とも過ごしたいし、土日は家にいたい。だから、そういった会社は選択肢から外しました。」とし、「本当に面接での受けが悪かったですね。僕は、具体的な作業を一緒にしたら、だれよりもできるという自信はあるんです。でも、面接では自由闊達(かったつ)にしゃべれない。わずかな時間でフィーリングが合うというタイプではないんですね。僕の場合は、採用課長が最終面接でうまく声をかけてくれて、なんとか素材メーカーから内定をもらいました。」としている。
その上で、「就職活動って苦しいですよね、良いことないですもん。私も落ち込んではノートにぽつんと黒電話の落書きを描き、「鳴らない電話」と名付けていました。就職活動のような苦行には、メンタルの持ち方が大事かもしれません。すごく結果の悪かった日でも、明日のためには気持ちの切り替えが大切です。引きずるともっと自信がなくなるので、忘れることがいいんじゃないでしょうか。」とし、「本当は1秒でも早く内定を取って就活を終えてほしいですけれど、そうもいかない。就活生は本当につらいですよね。今は売り手市場だからって、自分の時より楽だとか言いたくもないし、いつかは決まると言うのも無責任だし。ただ、働き出したら、もっと多くの悩みに出合います。たいしたことないんですよ、その会社に行けるか、行けないかは。あまり大きなことと捉えすぎないでほしいです。」と結んでいる。

そして記事では、「リクルートキャリア就職みらい研究所が3月6~8日に企業の人事担当者へ行った調査では、2021年卒の採用活動に新型コロナウイルスの感染拡大の影響が「ある」との回答が58.4%、「現時点ではないが、今後は影響がありそう」との回答が29.7%だった。」とし、「影響が「ある」「ありそう」と回答した人事担当者685人に課題を聞いたところ「採用スケジュールの見直し」を挙げた人が76.6%で最も多かった。具体的な影響としては、グループ面接に影響があるとしたのが248人、エントリーシートなど書類選考に影響があるとの回答が180人だった。書類選考への影響では、日程を変更して実施する予定とする企業が50%にのぼった。」としている。
また、「採用予定数を当初の計画から変更するかを尋ねると、「変更しない」が48.2%と半数近くを占めた。「(増減を)検討中」と答えた企業は29.5%、「減らす」とした企業は12.7%だった。同研究所の増本全所長は「依然として企業の採用意欲はあるが、スケジュールを遅らせる企業が多い。学生は不安になると思うが、冷静に志望企業のスケジュールを確認することや積極的な情報収集を心がけてほしい」と話す。」とし、「「会社説明会は3年生の3月、面接は4年生の6月解禁」とする大学生の就職・採用活動の日程ルールは、2020年春に卒業する学生まで主導してきた経団連に代わり、政府がルールをつくり、企業に守るように要請している。」が、「就職活動は前倒しされている。就職情報会社ディスコの調査では、説明会解禁の3月1日時点で内々定を得た学生は前年実績より2.0ポイント多い15.9%だった。」としている。

コロナ・ショックの状況下でも、「説明会解禁の3月1日時点で内々定を得た学生は前年実績より2.0ポイント多い15.9%」というのは驚きだが、「内々定」というのは、「内定」とは異なり、口約束レベルのものであり、また、コロナ・ショックによる状況激変で、非常に不安定な状態になるであろう。「内定取消」には社会的な批判も大きく、補償問題が出て来る可能性があるが、面接解禁の6月より前の「内々定」は、掟破りの行為であるから、関係する企業だけでなく学生側にも問題があるとみなされるはずで、言ってみれば風前の灯の状況になる。
記事のお二人の話を見てみると、南場智子氏は、会長という経営者の立場に立っており、学生からすると、思い出話的な印象になるだろう。ただ、「自分の個性を大切にしてほしい」という点は、確かに重要なことで、就活の中では見失いがちであるから、しんどい時は、少し休息をとって、自分は何をしたいのかなど、目前の就活の事ではなく、自分の未来を考える時間を取った方がいい。「職業選択に偏差値なんてあるわけない」のは、結婚と同じようなものだと考えればいい。誰もが憧れるスターと結婚しても、それで幸せになれるとは限らない。長い人生と、この人となら一緒に歩める、という気持ちが大事であろう。しかも、その幸せは、結婚したらつかめるというものではない。夫婦がお互いにたゆまぬ努力を重ねて初めて、結婚生活の幸せが手に入るのである。就職だって同じ事で、一番大事なことは、この会社なら自分なりにやっていけそうと感じられることである。それは、規模でも給与でもなく、他人が羨むかどうかではない。自分自身を大切にしなければ幸せになれないのは、就職でも同じである。
一方の万城目学氏の方は、「小説家になりたい」という思いを大事にしつつ、「すぐには小説家にはなれない」というか、要するに、食っていかなければならないということで、就職活動をしたのであろう。「あまり働かない会社に入ろう」というのはもっての他の考え方だが、「具体的な作業を一緒にしたら、だれよりもできるという自信はある」ということだから、無駄な時間は過ごしたくないということであり、実は、こういう人は非常に仕事ができることが多い。限られた時間を、いかに有効に過ごすか、というのは人生の大きなテーマであり、そういう考え方の人には無駄な動きが少ないからである。その上で、氏は「就職活動って苦しい」としながら、「たいしたことない」と言い切る。長い人生において、あの学校に受かったら、あの会社には入れたら、あの人と結婚できたら、と転機になりそうな事はありそうに思えるものだが、そうなったとしても、そうならなかったとしても、人生は続いていく。「決定的な瞬間」というのは、実は、ありそうでないものなのである。例えば、オリンピックで金メダルを取れれば死んでもいいと思っていても、そうなればなったで、その後の人生は続く。人間の人生の価値を決めるのは、所詮、自分自身以外にはない。「人もうらやむ」なんて、どうでもいいのである。自分で自分を褒めてあげられるかどうか、頑張った自分を一番良く知っているのは、貴方自身なのだから。

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