2020年3月9日 日経夕刊2面 ●採用の条件「禁煙」が登場 健康重視の企業、卒煙促す
「3月に入り、来春新卒採用活動が本格化しています。今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、大規模な合同説明会の中止が相次ぐといった異変が起きていますが、企業の採用活動自体にも昨年から一風変わった動きが見られます。それは喫煙者の排除です。今年はさらに広がりそうな気配です。」という記事である。
「その背景にあるのは改正健康増進法による規制強化です。受動喫煙防止を目的に今年4月から職場も原則屋内禁煙になります。規制強化を先取りし、就業時間の喫煙を就業規則で禁じる企業も増えています。」とのことである。
SOMPOひまわり生命の応募条件への「非喫煙者もしくは入社時点で喫煙されない方」の明記、ファイザーの「喫煙の有無を採用活動中に確認し、喫煙者は原則入社を断っています。」という対応などを上げ、SCSKの小林良成・人事グループ長の「喫煙は健康リスクを高める。体を壊してしまっては本人のためにならず、会社としても末永く活躍してもらえない。禁煙は経営上も会社に利点のある健康経営の一環です」という説明で結んでいる。
喫煙に対しては、世界的規模での抑止が進んでいる。記事では、「日本人の喫煙率はそもそも低下傾向」として、厚生労働省の「平成30年国民健康・栄養調査」に言及している。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000584138.pdf
喫煙については、上記の24ページで、「現在習慣的に喫煙している者の割合は17.8%であり、男女別にみると男性 29.0%、女性8.1%である。この10年間でみると、いずれも有意に減少している。年齢階級別にみると、30~60歳代男性ではその割合が高く、習慣的に喫煙している者は3割を超えている。」としている。
一方、個人の自由にかかる行動を就活上で規制できるのかという点について、記事では、「企業の採用活動では、法律などの制約がなければ原則として「採用の自由」が認められています。」としている。ただ、若干の疑義が残るのは、例えば、「未婚者に限る」というような条件は、「採用の自由」には認められないだろう。喫煙の場合には、「受動喫煙」の問題があって、個人の嗜好に関するものというレベルを超えているのである。
日本国憲法第14条は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定している。だが、採用活動においても、この基本原則通りに行われているとは言い難い面がある。男女差別は公然と行われてきたから、「男女雇用機会均等法」の制定が必要になったわけである。他にも、問題とされてきた事態は少なくない。
しかし、「喫煙」については、WHOの「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が、2005年2月27日に、「世界的には公衆衛生分野における初めての多数国間条約として本条約が発効されました。」ということになっており、日本も署名している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/tobacco/index.html
この条約は、「たばこの消費等が健康に及ぼす悪影響から現在および将来の世代を保護することを目的とし、たばこに関する広告、包装上の表示等の規制とたばこの規制に関する国際協力について定めるものである。」のであり、よって条約を締結している日本においても、「たばこの規制」につながる措置は適切とされるわけである。
この規制は、電子タバコにも及んできている。近い将来、麻薬と同様の取り扱いを受ける可能性すらある。学生は、就活対応というレベルを超えて、社会人になる前に喫煙と縁を切った方がいいのである。
2020年3月9日月曜日
2020年3月9日 日経朝刊11面 「仕事と対価」に入念な点検 同一労働同一賃金、来月から
「4月から始まる正規と非正規の従業員の間で不合理な格差を禁じる「同一労働同一賃金」ルールの施行を前に、大企業が対応に追われている。正社員や派遣社員の雇用状況や待遇、各種の手当てなどを確認したり見直したりする過程で、様々な問題が浮かび上がっている。労務トラブルを防ぐためにも「仕事と対価」の入念な点検が必要になっている。」という記事である。
まず、「企業の労務担当者と顧問弁護士の間で、賃金や手当の最終チェックが大詰めを迎えている。4月からは正社員と非正規労働者の業務内容が同じ場合、基本給や手当などの待遇差が禁じられる。」が、「何の職務の対価か説明できない手当が問題→基本給に組み込む方向で調整」というように、「正社員向けの手当」の整理を迫られているそうである。
そして、「4月の施行前に企業がとる対応策は大きく3つ、(1)正規・非正規の職務内容の確認、(2)待遇差がある場合は説明できる理由を明確に、(3)必要ならば賃金体系を見直す、ことだ」としている。
続けて、「正規・非正規の待遇差を禁じる厚生労働省のガイドラインには、対象に「家族手当」や「住宅手当」が入っていない。」が合理的な理由が必要であり、賞与など賃金体系の見直しが必要になる場合もある。としている。
ただし、「正社員の待遇を一方的に下げる「不利益変更」にならないようにすることだ。同一労働同一賃金の制度の趣旨は、非正規社員の待遇を正規並みに引き上げることだ。」が、「企業の中には人件費が増えると警戒するところもある。」とし、「労組は経営側と安易に合意しないことが大切だ」という弁護士のコメントに触れている。
その上で、「日本国内の労働者全体に占める非正規の割合は4割に上る。同一労働同一賃金のルールは、パート、有期雇用、派遣という3タイプの非正規労働者と、無期雇用・フルタイムで働く正規労働者との間の不合理な待遇差を禁じるものだ。」とし、「規定はパートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法に盛り込まれている。企業は職務内容が同じ場合に雇用形態の違いだけで差別的に取り扱ってはならないとする「均等待遇」と、職務内容が違う場合は違いに応じてバランスのとれた待遇にする「均衡待遇」を確保することが求められる。罰則の規定はない。」としている。
そして、「専門家は正規と非正規の待遇差を巡る訴訟は増えると予測する。待遇差を問う裁判も相次いでいる。」とし、最高裁での「物流大手のハマキョウレックス(浜松市)と運送会社の長沢運輸(横浜市)の2つの訴訟」(「精勤手当」など一部手当について不合理な格差に当たると判断)や、東京高裁での「東京メトロの子会社メトロコマース」の逆転判決(契約社員に退職金制度を適用しなかったのは不合理)に触れ、「4月から事業者に説明義務が課されれば、非正規労働者が正規との差額を知りやすくなる。」としている。
その上で、「非正規労働者にとって透明で働きやすい環境が提供できれば優秀な人材を獲得しやすくなる」とし、水町勇一郎東大教授の「魅力的な制度のある会社には人が集まる。経営者は労務担当者と連携し、独創的な改革を進めることが求められている」とのコメントを掲載している。
一方、「同一労働同一賃金のルールを定めるには、労使協議で合意を得ることが前提だ。労働者代表として交渉する労働組合が正社員中心では、非正規の従業員の声は十分、反映されにくい。労組自身も変化が求められている。」とし、「正社員より身分が不安定なことが多い非正規の従業員の待遇改善にも労組の支援が必要だ。だが立場の違いを乗り越えられず、組織化ができていない場合も多い。」としている。
また、「人材派遣会社も、新ルールへの対応が求められる。(1)人材を派遣している先の企業に待遇をあわせるか、(2)派遣会社の労使で協定を結び、同業種・同地域の一般労働者の平均賃金にあわせる方式のどちらかを選ぶことになる。」としているが、多数派になるとみられている労使協定方式を結ぶ場合は、「労働者の過半数で組織する労働組合などと賃金の決め方で合意する必要がある」とし、「人材派遣会社は派遣社員の処遇について、6月の労働者派遣事業の事業報告提出までに対応しなければならず、各社とも準備を急いでいる。」と結んでいる。
いよいよ4月実施が目前に迫った「同一労働同一賃金」に関する記事である。厚生労働省も、「同一労働同一賃金特集ページ」を設けて準備している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
ガイドラインの概要も示されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000470304.pdf
また、「派遣労働者の同一労働同一賃金について」も掲載されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
一方、関連する訴訟も、記事にあるように増えており、今後も増加が予想されている。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87784
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88627
日本における「同一労働同一賃金」は、欧米の「均等待遇」とは異なり、一定の差別を「均衡待遇」として容認している。しかし、そのレベルの是正ですら、このような大騒ぎになるのであるから、これまで、いかに不当な差別が横行していたのかが分かる。不十分であるとは思うが、雇用慣行を変えるきっかけとなることには期待したい。
「4月から始まる正規と非正規の従業員の間で不合理な格差を禁じる「同一労働同一賃金」ルールの施行を前に、大企業が対応に追われている。正社員や派遣社員の雇用状況や待遇、各種の手当てなどを確認したり見直したりする過程で、様々な問題が浮かび上がっている。労務トラブルを防ぐためにも「仕事と対価」の入念な点検が必要になっている。」という記事である。
まず、「企業の労務担当者と顧問弁護士の間で、賃金や手当の最終チェックが大詰めを迎えている。4月からは正社員と非正規労働者の業務内容が同じ場合、基本給や手当などの待遇差が禁じられる。」が、「何の職務の対価か説明できない手当が問題→基本給に組み込む方向で調整」というように、「正社員向けの手当」の整理を迫られているそうである。
そして、「4月の施行前に企業がとる対応策は大きく3つ、(1)正規・非正規の職務内容の確認、(2)待遇差がある場合は説明できる理由を明確に、(3)必要ならば賃金体系を見直す、ことだ」としている。
続けて、「正規・非正規の待遇差を禁じる厚生労働省のガイドラインには、対象に「家族手当」や「住宅手当」が入っていない。」が合理的な理由が必要であり、賞与など賃金体系の見直しが必要になる場合もある。としている。
ただし、「正社員の待遇を一方的に下げる「不利益変更」にならないようにすることだ。同一労働同一賃金の制度の趣旨は、非正規社員の待遇を正規並みに引き上げることだ。」が、「企業の中には人件費が増えると警戒するところもある。」とし、「労組は経営側と安易に合意しないことが大切だ」という弁護士のコメントに触れている。
その上で、「日本国内の労働者全体に占める非正規の割合は4割に上る。同一労働同一賃金のルールは、パート、有期雇用、派遣という3タイプの非正規労働者と、無期雇用・フルタイムで働く正規労働者との間の不合理な待遇差を禁じるものだ。」とし、「規定はパートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法に盛り込まれている。企業は職務内容が同じ場合に雇用形態の違いだけで差別的に取り扱ってはならないとする「均等待遇」と、職務内容が違う場合は違いに応じてバランスのとれた待遇にする「均衡待遇」を確保することが求められる。罰則の規定はない。」としている。
そして、「専門家は正規と非正規の待遇差を巡る訴訟は増えると予測する。待遇差を問う裁判も相次いでいる。」とし、最高裁での「物流大手のハマキョウレックス(浜松市)と運送会社の長沢運輸(横浜市)の2つの訴訟」(「精勤手当」など一部手当について不合理な格差に当たると判断)や、東京高裁での「東京メトロの子会社メトロコマース」の逆転判決(契約社員に退職金制度を適用しなかったのは不合理)に触れ、「4月から事業者に説明義務が課されれば、非正規労働者が正規との差額を知りやすくなる。」としている。
その上で、「非正規労働者にとって透明で働きやすい環境が提供できれば優秀な人材を獲得しやすくなる」とし、水町勇一郎東大教授の「魅力的な制度のある会社には人が集まる。経営者は労務担当者と連携し、独創的な改革を進めることが求められている」とのコメントを掲載している。
一方、「同一労働同一賃金のルールを定めるには、労使協議で合意を得ることが前提だ。労働者代表として交渉する労働組合が正社員中心では、非正規の従業員の声は十分、反映されにくい。労組自身も変化が求められている。」とし、「正社員より身分が不安定なことが多い非正規の従業員の待遇改善にも労組の支援が必要だ。だが立場の違いを乗り越えられず、組織化ができていない場合も多い。」としている。
また、「人材派遣会社も、新ルールへの対応が求められる。(1)人材を派遣している先の企業に待遇をあわせるか、(2)派遣会社の労使で協定を結び、同業種・同地域の一般労働者の平均賃金にあわせる方式のどちらかを選ぶことになる。」としているが、多数派になるとみられている労使協定方式を結ぶ場合は、「労働者の過半数で組織する労働組合などと賃金の決め方で合意する必要がある」とし、「人材派遣会社は派遣社員の処遇について、6月の労働者派遣事業の事業報告提出までに対応しなければならず、各社とも準備を急いでいる。」と結んでいる。
いよいよ4月実施が目前に迫った「同一労働同一賃金」に関する記事である。厚生労働省も、「同一労働同一賃金特集ページ」を設けて準備している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
ガイドラインの概要も示されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000470304.pdf
また、「派遣労働者の同一労働同一賃金について」も掲載されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
一方、関連する訴訟も、記事にあるように増えており、今後も増加が予想されている。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87784
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88627
日本における「同一労働同一賃金」は、欧米の「均等待遇」とは異なり、一定の差別を「均衡待遇」として容認している。しかし、そのレベルの是正ですら、このような大騒ぎになるのであるから、これまで、いかに不当な差別が横行していたのかが分かる。不十分であるとは思うが、雇用慣行を変えるきっかけとなることには期待したい。
2020年3月9日 日経朝刊14面 高校の文・理コース分け 労働生産性低迷の要因に
2020年3月8日 朝日朝刊4面 仮想通貨を発明し、消えた「サトシ」
最初の記事は、関西学院大学の村田治学長による論説で、「国際学力テストの数学の成績と国の経済成長率や生産性は正の相関関係にあるのに、数学の成績がトップクラスの日本が当てはまらないのは、高校の2、3年で文系・理系に分かれ、数学の学習をやめる生徒が多いからだと指摘」し、「読解力、数学、科学の3つのリテラシーの中で、これからの世界において特に重要と考えられるのが数学リテラシーである。」として、「一刻も早く、高校段階での理系と文系のコース別編成を止め、全ての生徒が数学3まで学べようにすべきだと考える。」と主張しているものである。
その考え方として、昨年12月に発表された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA2018年)」で、「数学や科学のスコアはそれぞれOECD加盟国では1位と2位を維持した。」とし、「昨年3月に経済産業省が発表した報告書「数理資本主義の時代」において、「第4次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先に進むために、どうしても欠かすことのできない科学が三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」とうたわれている。」ことを指摘している。また、「昨年6月に統合イノベーション戦略推進会議の報告書「AI戦略 2019」が発表されたが、人工知能(AI)や情報科学の理解には微分、線型代数、統計学の数学能力が欠かせないといわれている。」ことにも言及している。
その上で、「数学に絞ると、OECD加盟国中で09年は4位、12年は2位、15年は1位、18年も1位とトップクラスにある。この傾向は03年から変わらず、数学の学力は15年間トップクラスを維持している。」が、「国際学力テストの数学スコアと経済成長率等の間には正の相関関係が観察されるとの研究成果がある。」のに、「わが国の労働生産性は18年のデータによるとOECD加盟国中21位、16~18年の労働生産性の平均成長率は約0.56%とOECD加盟国中20位である。」という状況になっているとしている。
そして、「この謎を解く鍵はPISAの実施年齢にあると考えられる。PISAは高校1年生が対象となる。従って、高校1年生までは、わが国の高校生の数学リテラシーはOECD加盟国でトップクラスであることは間違いない。」が、「多くの高校は早ければ2年生、遅くとも3年生になると文系と理系にコースを分ける。」という状況なので、「一刻も早く、高校段階での理系と文系のコース別編成を止め、全ての生徒が数学3まで学べようにすべきだと考える。」というわけである。
次いで、「そのためには、初等・中等教育段階から数学それ自体の面白さを生徒に伝える工夫も必要となる。」とし、「一部の私立大学では、こうした風潮に危機感を抱き、受験科目に数学を加える動きも出てきた。入試改革の隠れたテーマの一つである。」と結んでいる。
一方、上記の2番目の記事は、朝日新聞の「シンギュラリティー」(特異点)特集記事の一つで、「仮想通貨を発明し、消えた「サトシ」」についてのものである。
出張先の欧州で「サトシ・ナカモトって、日本語でどんな意味?」と聞かれたそうだが、
「サトシとは、世界初の仮想通貨(暗号資産)ビットコインの生みの親と言われる謎の天才技術者」のことなのである。「2008年10月に、「ビットコイン」という9ページの英語の論文をネット上に投稿。そこで提唱したのが、仮想通貨を可能にした理論、ブロックチェーンだった。」わけである。
その論文を契機として、「ブロックチェーンは、世界各地のコンピューターが対等につながるピア・ツー・ピア(P2P)と呼ばれる分散型の仕組みで、その中で暗号化された記録の連鎖(チェーン)が取引を記録・保証する。国家や中央銀行などの「中央」が介在する余地はない。技術者の間で少しずつ話題になり、翌年、ビットコインの運用が始まった。」のである。
ところが、「サトシの正体をめぐってはその名の響きから、世界的なミステリーを解くカギが日本にあると考える人もいる。」が、正体は分からず、「内容から読み取れたのは、既存の金融システムに対する強い不信感だった。」というのである。
これについて、黎明(れいめい)期からビットコインに携わってきてマウント・ゴックス社を世界最大の仮想通貨交換所に育てたマルク・カルプレスは、「今まで名前のあがった人物に本物のサトシはいない」とし、「本人が名乗り出ない以上、私が言うべきではない」「日本はテクノロジーで世界の最先端だった。それに敬意を表して、日本人の名前にしたのかもしれません」としているそうである。
一方、その取材の過程の中で出会ったのが、都内でIT企業を経営する古橋智史(さとし)(31)で、「2年ほど前から、天才と呼ばれた技術者の生涯を追っている」そうである。その技術者が金子勇であり、「02年、高速でデータをやり取りできるファイル共有ソフト「ウィニー」を開発し、ブロックチェーンの先駆けとなるP2P技術の実用化に成功した。無料で公開無料で公開され、多くの人が音楽や映像の交換に使うようになったが、違法コピーの温床にもなった。金子は04年に著作権法違反の幇助(ほうじょ)容疑で逮捕。最高裁で11年に無罪が確定したものの、2年後に急性心不全で死去した。42歳の若さだった。」という人物である。
古橋は「日本がつぶしてしまった才能だと思う。出る杭が打たれる社会を変えないと、日本に未来はない」とし、「事件を改めて世に問おうと映画化を企画し、映画祭のコンテストで優勝。資金を集め、事件の真相に迫ろうと奔走」しており、古橋に協力する弁護士の壇俊光は、金子の弁護団で事務局長を務め、今年1月の都内の講演で「金子の死を早めた責任は私にもある。発明家を犯罪者にしてはいけないと、罰金判決を受け入れず闘うよう促したから」と胸中を語ったそうである。
裁判では、日本のインターネットの父と呼ばれる慶応大教授の村井純も証人に加わり、「ウィニーの開発が著作権法違反の幇助なら、インターネットを開発した私も幇助になってしまう」とも述べている中で、「日本ではP2Pなどの技術開発は停滞し、米欧に大きく後れを取った。「萎縮効果は抜群だった」と壇は振り返っているという。
講演を聞いた国際大学GLOCOM客員教授の城所岩生は「欧米版ウィニーを開発した北欧の技術者はその後、インターネット電話のスカイプで大成功した。米国でナップスターを開発した技術者も時の人になった。金子さんは、日本に生まれて不幸だったかもしれない」としているそうである。
そんな中、「金子こそがサトシだ」という仮説の発信者は、ブロックチェーンの専門家で起業家の仲津正朗で、「金子と交流のあった技術者の理論や、P2Pの仕組みなど技術的な共通点に加え、サトシの論文ににじむ「既存システムへの不信感」を、仲津は金子に重ね合わせている。」そうである。「ビットコインのような存在が世の中に必要だ、と悟る体験がサトシにはあったはず。才能と時間を国家に空費させられた金子にとって、それがウィニー事件だった」と仲津は言っているそうである。
記事は、「サトシが保有するとされる100万ビットコイン(約9千億円相当)が一度も使われていないことも、本物のサトシが名乗り出ないことも「サトシ=金子」と考えれば説明がつく。さまざまな反論はあるが、仲津は「議論を呼ぶこと自体が私の狙い」と語る。」とし、「悲劇の英雄が、姿を変えて活躍する。この仮説は義経伝説にも似て、日本人の心に響く。もし金子がサトシとしてあの論文を書いたのなら、天国で何を思うのだろうか。」と整理している。
そして、最後に「ビットコインは仮想通貨として花開き、現在の時価総額は約15兆円。サトシが「存在しないこと」によって本当の分散型ネットワークが実現した。一方でブロックチェーン技術は、米フェイスブックが進めるデジタル通貨「リブラ」や中国のデジタル人民元計画に採用されるなど、巨大権力の道具になりつつある。2人の天才が求めた自由は実現するのか。そして日本社会は、新たなイノベーションを育めるのか。今ほど試されている時はない。」と結んでいる。
まず、最初の記事であるが、次の「国立教育政策研究所」のサイトで公開されている。
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
2018年の結果についてのOECDの分析では、「数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベル。調査開始以降の長期トレンドとしても、安定的に世界トップレベルを維持」「読解力は、OECD平均より高得点のグループに位置するが、前回より平均得点・順位が統計的に有意に低下。長期トレンドとしては、統計的に有意な変化が見られない「平坦」タイプ」と、記事にある通りである。
一方、経済産業省の発表報告書『数理資本主義の時代 ~数学パワーが世界を変える~』は、次のサイトに掲載されている。
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/risukei_jinzai/20190326_report.html
ここに、記事にある「第一に数学、第二に数学、そして第三に数学」と記されているわけである。この報告書は、産業界と大学の有識者による意見交換会を踏まえたものである。
統合イノベーション戦略推進会議の報告書「AI戦略 2019」は、次である。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/pdf/aisenryaku2019.pdf
また、米国の経済学者ハヌシェック(Eric A. Hanushe)によるPISAなどの国際学力テストのスコアの経済成長率等への影響分析は、次のようなものがある。
http://hanushek.stanford.edu/publications/high-cost-low-educational-performance-long-run-impact-improving-pisa-outcomes
このように、この記事での論説は、多くのエビデンスに基づいた質の高いものである。理系と文系という諸外国では一般的ではない区分の撤廃も、私がかねてより主張しているところであり、大いに賛成する。
しかし、それでも、少し気がかりな面がある。それは、「全ての生徒が数学3まで学べようにすべき」という過剰とも思える数学礼賛である。もちろん、本人が学習を選択するのなら、何ら問題はない。だが、国民全員が高騰数学の知識を身に着けるべきだという考え方につながると、話は違ってくる。それは、「国民全員が英語を習得すべき」とし、今は「英会話」に力点を移している英語教育の愚の轍を、また踏みかねないからである。
記事で、「数学それ自体の面白さを生徒に伝える工夫も必要」としているように、PISAの点数が良いとされる日本でも、小学校中学校時代から、多くの算数・数学嫌いが続出している。「面白さ」は、教える側の技量にもよるが、受ける側の興味によるところが大きい。
日本の学校教育では、「得手を伸ばす」ことよりも、「不得手を減らす」ことに重点が置かれてきたように思う。「得手を伸ばす」のなら、数学ができなくても構わないのである。実のところ、そうした平均点人間を作ってきたことが、今は、日本の教育の大きな問題点となっているのではないか。「得手を伸ばす」ことを主眼にするなら、人の数だけ道はあることになる。そして、この場合、得意分野で競合することが少ないから、別の得意分野の人のパフォーマンスを素直に褒めることができるだろう。しかし、「不得手を減らす」ことで道を狭めると、人々での間の競争意識が強くなる。そうなると、ライバルの好成績は素直には称賛できず、嫉妬の対象になりかねないわけである。
日本のこの問題を、露わにしたのが、2番目の記事の3人の大天才、村井純氏、金子勇氏、そしてサトシ・ナカモト氏と言えるだろう。筆頭に、裁判の証人だった村井純氏を挙げているのは、彼自身が「ミスター・インターネット」とされる大天才であるのに、日本社会が、それにふさわしい評価と待遇を提供しているとは思えないからである。金子勇氏は、あまりに悲惨だし、サトシ・ナカモト氏が実在する日本人であるとしても、日本社会がその才能にふさわしい評価ができるかどうか、疑わしい。そんな例は、枚挙に暇がない。大リーグに渡って活躍した野茂英雄投手も、イチロー野手も、その挑戦を後押しするどころが、失敗するに決まっている、思いあがっている、裏切り者といった罵声を浴びて向かっていったのである。金子勇氏も、有罪を認めて罰金を払ってでも、外国に行った方が良かっただろう。青色発光ダイオード(LED)を開発してノーベル物理学賞を共同受賞した中村修二氏も、日本では不遇で、海外では「スレイブ(奴隷)・ナカムラ」と呆れられていた。
天才が、「日本に生まれて不幸」なら、そんな国に未来がないのは当然である。
(なお、サトシの論文については、次のブログを参照されたい。)
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/2020215NY17.html
2020年3月8日 朝日朝刊4面 仮想通貨を発明し、消えた「サトシ」
最初の記事は、関西学院大学の村田治学長による論説で、「国際学力テストの数学の成績と国の経済成長率や生産性は正の相関関係にあるのに、数学の成績がトップクラスの日本が当てはまらないのは、高校の2、3年で文系・理系に分かれ、数学の学習をやめる生徒が多いからだと指摘」し、「読解力、数学、科学の3つのリテラシーの中で、これからの世界において特に重要と考えられるのが数学リテラシーである。」として、「一刻も早く、高校段階での理系と文系のコース別編成を止め、全ての生徒が数学3まで学べようにすべきだと考える。」と主張しているものである。
その考え方として、昨年12月に発表された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA2018年)」で、「数学や科学のスコアはそれぞれOECD加盟国では1位と2位を維持した。」とし、「昨年3月に経済産業省が発表した報告書「数理資本主義の時代」において、「第4次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先に進むために、どうしても欠かすことのできない科学が三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」とうたわれている。」ことを指摘している。また、「昨年6月に統合イノベーション戦略推進会議の報告書「AI戦略 2019」が発表されたが、人工知能(AI)や情報科学の理解には微分、線型代数、統計学の数学能力が欠かせないといわれている。」ことにも言及している。
その上で、「数学に絞ると、OECD加盟国中で09年は4位、12年は2位、15年は1位、18年も1位とトップクラスにある。この傾向は03年から変わらず、数学の学力は15年間トップクラスを維持している。」が、「国際学力テストの数学スコアと経済成長率等の間には正の相関関係が観察されるとの研究成果がある。」のに、「わが国の労働生産性は18年のデータによるとOECD加盟国中21位、16~18年の労働生産性の平均成長率は約0.56%とOECD加盟国中20位である。」という状況になっているとしている。
そして、「この謎を解く鍵はPISAの実施年齢にあると考えられる。PISAは高校1年生が対象となる。従って、高校1年生までは、わが国の高校生の数学リテラシーはOECD加盟国でトップクラスであることは間違いない。」が、「多くの高校は早ければ2年生、遅くとも3年生になると文系と理系にコースを分ける。」という状況なので、「一刻も早く、高校段階での理系と文系のコース別編成を止め、全ての生徒が数学3まで学べようにすべきだと考える。」というわけである。
次いで、「そのためには、初等・中等教育段階から数学それ自体の面白さを生徒に伝える工夫も必要となる。」とし、「一部の私立大学では、こうした風潮に危機感を抱き、受験科目に数学を加える動きも出てきた。入試改革の隠れたテーマの一つである。」と結んでいる。
一方、上記の2番目の記事は、朝日新聞の「シンギュラリティー」(特異点)特集記事の一つで、「仮想通貨を発明し、消えた「サトシ」」についてのものである。
出張先の欧州で「サトシ・ナカモトって、日本語でどんな意味?」と聞かれたそうだが、
「サトシとは、世界初の仮想通貨(暗号資産)ビットコインの生みの親と言われる謎の天才技術者」のことなのである。「2008年10月に、「ビットコイン」という9ページの英語の論文をネット上に投稿。そこで提唱したのが、仮想通貨を可能にした理論、ブロックチェーンだった。」わけである。
その論文を契機として、「ブロックチェーンは、世界各地のコンピューターが対等につながるピア・ツー・ピア(P2P)と呼ばれる分散型の仕組みで、その中で暗号化された記録の連鎖(チェーン)が取引を記録・保証する。国家や中央銀行などの「中央」が介在する余地はない。技術者の間で少しずつ話題になり、翌年、ビットコインの運用が始まった。」のである。
ところが、「サトシの正体をめぐってはその名の響きから、世界的なミステリーを解くカギが日本にあると考える人もいる。」が、正体は分からず、「内容から読み取れたのは、既存の金融システムに対する強い不信感だった。」というのである。
これについて、黎明(れいめい)期からビットコインに携わってきてマウント・ゴックス社を世界最大の仮想通貨交換所に育てたマルク・カルプレスは、「今まで名前のあがった人物に本物のサトシはいない」とし、「本人が名乗り出ない以上、私が言うべきではない」「日本はテクノロジーで世界の最先端だった。それに敬意を表して、日本人の名前にしたのかもしれません」としているそうである。
一方、その取材の過程の中で出会ったのが、都内でIT企業を経営する古橋智史(さとし)(31)で、「2年ほど前から、天才と呼ばれた技術者の生涯を追っている」そうである。その技術者が金子勇であり、「02年、高速でデータをやり取りできるファイル共有ソフト「ウィニー」を開発し、ブロックチェーンの先駆けとなるP2P技術の実用化に成功した。無料で公開無料で公開され、多くの人が音楽や映像の交換に使うようになったが、違法コピーの温床にもなった。金子は04年に著作権法違反の幇助(ほうじょ)容疑で逮捕。最高裁で11年に無罪が確定したものの、2年後に急性心不全で死去した。42歳の若さだった。」という人物である。
古橋は「日本がつぶしてしまった才能だと思う。出る杭が打たれる社会を変えないと、日本に未来はない」とし、「事件を改めて世に問おうと映画化を企画し、映画祭のコンテストで優勝。資金を集め、事件の真相に迫ろうと奔走」しており、古橋に協力する弁護士の壇俊光は、金子の弁護団で事務局長を務め、今年1月の都内の講演で「金子の死を早めた責任は私にもある。発明家を犯罪者にしてはいけないと、罰金判決を受け入れず闘うよう促したから」と胸中を語ったそうである。
裁判では、日本のインターネットの父と呼ばれる慶応大教授の村井純も証人に加わり、「ウィニーの開発が著作権法違反の幇助なら、インターネットを開発した私も幇助になってしまう」とも述べている中で、「日本ではP2Pなどの技術開発は停滞し、米欧に大きく後れを取った。「萎縮効果は抜群だった」と壇は振り返っているという。
講演を聞いた国際大学GLOCOM客員教授の城所岩生は「欧米版ウィニーを開発した北欧の技術者はその後、インターネット電話のスカイプで大成功した。米国でナップスターを開発した技術者も時の人になった。金子さんは、日本に生まれて不幸だったかもしれない」としているそうである。
そんな中、「金子こそがサトシだ」という仮説の発信者は、ブロックチェーンの専門家で起業家の仲津正朗で、「金子と交流のあった技術者の理論や、P2Pの仕組みなど技術的な共通点に加え、サトシの論文ににじむ「既存システムへの不信感」を、仲津は金子に重ね合わせている。」そうである。「ビットコインのような存在が世の中に必要だ、と悟る体験がサトシにはあったはず。才能と時間を国家に空費させられた金子にとって、それがウィニー事件だった」と仲津は言っているそうである。
記事は、「サトシが保有するとされる100万ビットコイン(約9千億円相当)が一度も使われていないことも、本物のサトシが名乗り出ないことも「サトシ=金子」と考えれば説明がつく。さまざまな反論はあるが、仲津は「議論を呼ぶこと自体が私の狙い」と語る。」とし、「悲劇の英雄が、姿を変えて活躍する。この仮説は義経伝説にも似て、日本人の心に響く。もし金子がサトシとしてあの論文を書いたのなら、天国で何を思うのだろうか。」と整理している。
そして、最後に「ビットコインは仮想通貨として花開き、現在の時価総額は約15兆円。サトシが「存在しないこと」によって本当の分散型ネットワークが実現した。一方でブロックチェーン技術は、米フェイスブックが進めるデジタル通貨「リブラ」や中国のデジタル人民元計画に採用されるなど、巨大権力の道具になりつつある。2人の天才が求めた自由は実現するのか。そして日本社会は、新たなイノベーションを育めるのか。今ほど試されている時はない。」と結んでいる。
まず、最初の記事であるが、次の「国立教育政策研究所」のサイトで公開されている。
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
2018年の結果についてのOECDの分析では、「数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベル。調査開始以降の長期トレンドとしても、安定的に世界トップレベルを維持」「読解力は、OECD平均より高得点のグループに位置するが、前回より平均得点・順位が統計的に有意に低下。長期トレンドとしては、統計的に有意な変化が見られない「平坦」タイプ」と、記事にある通りである。
一方、経済産業省の発表報告書『数理資本主義の時代 ~数学パワーが世界を変える~』は、次のサイトに掲載されている。
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/risukei_jinzai/20190326_report.html
ここに、記事にある「第一に数学、第二に数学、そして第三に数学」と記されているわけである。この報告書は、産業界と大学の有識者による意見交換会を踏まえたものである。
統合イノベーション戦略推進会議の報告書「AI戦略 2019」は、次である。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/pdf/aisenryaku2019.pdf
また、米国の経済学者ハヌシェック(Eric A. Hanushe)によるPISAなどの国際学力テストのスコアの経済成長率等への影響分析は、次のようなものがある。
http://hanushek.stanford.edu/publications/high-cost-low-educational-performance-long-run-impact-improving-pisa-outcomes
このように、この記事での論説は、多くのエビデンスに基づいた質の高いものである。理系と文系という諸外国では一般的ではない区分の撤廃も、私がかねてより主張しているところであり、大いに賛成する。
しかし、それでも、少し気がかりな面がある。それは、「全ての生徒が数学3まで学べようにすべき」という過剰とも思える数学礼賛である。もちろん、本人が学習を選択するのなら、何ら問題はない。だが、国民全員が高騰数学の知識を身に着けるべきだという考え方につながると、話は違ってくる。それは、「国民全員が英語を習得すべき」とし、今は「英会話」に力点を移している英語教育の愚の轍を、また踏みかねないからである。
記事で、「数学それ自体の面白さを生徒に伝える工夫も必要」としているように、PISAの点数が良いとされる日本でも、小学校中学校時代から、多くの算数・数学嫌いが続出している。「面白さ」は、教える側の技量にもよるが、受ける側の興味によるところが大きい。
日本の学校教育では、「得手を伸ばす」ことよりも、「不得手を減らす」ことに重点が置かれてきたように思う。「得手を伸ばす」のなら、数学ができなくても構わないのである。実のところ、そうした平均点人間を作ってきたことが、今は、日本の教育の大きな問題点となっているのではないか。「得手を伸ばす」ことを主眼にするなら、人の数だけ道はあることになる。そして、この場合、得意分野で競合することが少ないから、別の得意分野の人のパフォーマンスを素直に褒めることができるだろう。しかし、「不得手を減らす」ことで道を狭めると、人々での間の競争意識が強くなる。そうなると、ライバルの好成績は素直には称賛できず、嫉妬の対象になりかねないわけである。
日本のこの問題を、露わにしたのが、2番目の記事の3人の大天才、村井純氏、金子勇氏、そしてサトシ・ナカモト氏と言えるだろう。筆頭に、裁判の証人だった村井純氏を挙げているのは、彼自身が「ミスター・インターネット」とされる大天才であるのに、日本社会が、それにふさわしい評価と待遇を提供しているとは思えないからである。金子勇氏は、あまりに悲惨だし、サトシ・ナカモト氏が実在する日本人であるとしても、日本社会がその才能にふさわしい評価ができるかどうか、疑わしい。そんな例は、枚挙に暇がない。大リーグに渡って活躍した野茂英雄投手も、イチロー野手も、その挑戦を後押しするどころが、失敗するに決まっている、思いあがっている、裏切り者といった罵声を浴びて向かっていったのである。金子勇氏も、有罪を認めて罰金を払ってでも、外国に行った方が良かっただろう。青色発光ダイオード(LED)を開発してノーベル物理学賞を共同受賞した中村修二氏も、日本では不遇で、海外では「スレイブ(奴隷)・ナカムラ」と呆れられていた。
天才が、「日本に生まれて不幸」なら、そんな国に未来がないのは当然である。
(なお、サトシの論文については、次のブログを参照されたい。)
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/2020215NY17.html
2020年3月7日土曜日
2020年3月7日 朝日朝刊12面 (声)涙 主婦が働くって欲なことなのか
2020年3月8日 朝日朝刊8面 女性の賃金、男性より16%低く―― UNウィメン・UNDP報告
最初の記事は、73歳の女性からの投書で。「35歳のころ、まだ子育て中だった私は、周囲よりひと足先に半日パートへと、つまり、社会へと飛び立った。」が、待っていたのは「子供を放ったらかしにして。子供とお金とどっちが大事なの」「そんなに働いちゃ、お金がたまってしょうがないでしょ」という周囲からのバッシングだったというものである。
「主婦が外で働くのは欲だから。私は外でなんか働かないわ」「そうだよな。俺は妻を働かせないよ」と夫婦そろって私を笑った人たちもいたそうで、「男性は社会で働いてもいいが、女性が社会で働くことは、それほど欲なことなのだろうか――。」と感慨を振り返ったものである。
次の記事は、「国連が定める国際女性デー(3月8日)を前に、UNウィメンと国連開発計画(UNDP)が5日、政治や労働など各分野で女性の置かれた現状をまとめた報告書をそれぞれ発表した。」というものである。
UNウィメンの報告書は、「男女の平等性」に関するもので、「世界の国レベルの議会で女性議員が占める割合は25%で、1995年の11%からは改善したが、低水準だった。また、閣僚の半数以上が女性の国は14カ国のみ。8割の国に男女平等についての国家的な計画があるが、資金や人材が投入されているのはその3分の1だった。」「女性の賃金は世界的に見て男性より16%低く、管理職は4人に1人。」としており、ニューヨークで会見したUNウィメンのムランボヌクカ事務局長は「この状況を変えて、女性がもっと大きな機会をつかめるようにできるはずだ」と話したとのことである。
一方、UNDPは、「世界人口の8割を占める75カ国・地域を対象に初のジェンダー社会通念指標を公表。2005~14年に学者によって国際的に実施された世界価値観調査をもとに「女性も男性と同等の権利を有している」「大学は女性よりも男性にとって大事だ」など七つの質問の回答を分析した。」結果として、「75カ国・地域の約9万人のうち、88%(男性91%、女性86%)がいずれかの分野で女性への偏見を持っていた。政治指導者については、「男性の方が女性よりもよくできる」が5割、企業の重役についても4割がそう答えたという。」としている。そのうち、「日本の回答者約2400人で少なくとも一つ以上の質問で偏見がみられた割合は69%。75カ国・地域中、17番目に低かった。」とのことである。
最初の投書の女性が語った状況は、約40年前の1980年頃のことであるが、当時は、「男は仕事、女は家庭」という考え方が浸透していたことを窺わせる。今は、夫婦共稼ぎが主流となっており、若者には、ピンと来ないであろう。なお、「欲」というのは、金銭的な事を言っているのだろうが、働く事による社会との接点・生き甲斐につながる「欲」というか「意欲」は、今では非常に大事なものになっている。
次の記事での報告書のデータについてであるが、記事表題にもしている男女間の賃金格差いについて、独立行政法人労働政策研究・研修機構の『データブック国際労働比較2019』で見てみよう。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/index.html
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/05/d2019_T5-11_T5-12.pdf
上記の「第5-12表フルタイム労働者の中位所得における男女間賃金格差」によると、2017年において、女性の賃金は、男性よりも日本では24.5%低く、韓国で34.6%低いのを除くと、比較対象国中で最も格差が大きい。また、2005年は32.8%低く、おおむね現在の韓国と同様の状況であったことになる。その点では、格差は着実に縮小してみたように見えるが、この表はフルタイムの労働者についてのものであり、非正規労働者は含まれていない。実感では、男性フルタイムと女性非正規との間には、想像を絶する格差がある。
ここで、最初の記事に戻ってみよう。男女間の賃金格差が大きい場合、賃金の低い女性よりも高い男性の方が多く働けるよう、「仕事は男性、家庭は女性」という役割分担の方が家計上は有利になる。当初の40年前なら、賃金格差は相当に大きかったはずなので、周辺の反応も、記述のようなものだった面があるのであろう。
なお、「男性との賃金格差、結婚観に影響」という記事についての、下記のブログも参照されたい。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200302AA26.html
一部に、「女性を優遇するのか」という声もあるようだが、そういう考え方自体に、差別に染まり切った体質が表れてくるのである。
2020年3月8日 朝日朝刊8面 女性の賃金、男性より16%低く―― UNウィメン・UNDP報告
最初の記事は、73歳の女性からの投書で。「35歳のころ、まだ子育て中だった私は、周囲よりひと足先に半日パートへと、つまり、社会へと飛び立った。」が、待っていたのは「子供を放ったらかしにして。子供とお金とどっちが大事なの」「そんなに働いちゃ、お金がたまってしょうがないでしょ」という周囲からのバッシングだったというものである。
「主婦が外で働くのは欲だから。私は外でなんか働かないわ」「そうだよな。俺は妻を働かせないよ」と夫婦そろって私を笑った人たちもいたそうで、「男性は社会で働いてもいいが、女性が社会で働くことは、それほど欲なことなのだろうか――。」と感慨を振り返ったものである。
次の記事は、「国連が定める国際女性デー(3月8日)を前に、UNウィメンと国連開発計画(UNDP)が5日、政治や労働など各分野で女性の置かれた現状をまとめた報告書をそれぞれ発表した。」というものである。
UNウィメンの報告書は、「男女の平等性」に関するもので、「世界の国レベルの議会で女性議員が占める割合は25%で、1995年の11%からは改善したが、低水準だった。また、閣僚の半数以上が女性の国は14カ国のみ。8割の国に男女平等についての国家的な計画があるが、資金や人材が投入されているのはその3分の1だった。」「女性の賃金は世界的に見て男性より16%低く、管理職は4人に1人。」としており、ニューヨークで会見したUNウィメンのムランボヌクカ事務局長は「この状況を変えて、女性がもっと大きな機会をつかめるようにできるはずだ」と話したとのことである。
一方、UNDPは、「世界人口の8割を占める75カ国・地域を対象に初のジェンダー社会通念指標を公表。2005~14年に学者によって国際的に実施された世界価値観調査をもとに「女性も男性と同等の権利を有している」「大学は女性よりも男性にとって大事だ」など七つの質問の回答を分析した。」結果として、「75カ国・地域の約9万人のうち、88%(男性91%、女性86%)がいずれかの分野で女性への偏見を持っていた。政治指導者については、「男性の方が女性よりもよくできる」が5割、企業の重役についても4割がそう答えたという。」としている。そのうち、「日本の回答者約2400人で少なくとも一つ以上の質問で偏見がみられた割合は69%。75カ国・地域中、17番目に低かった。」とのことである。
最初の投書の女性が語った状況は、約40年前の1980年頃のことであるが、当時は、「男は仕事、女は家庭」という考え方が浸透していたことを窺わせる。今は、夫婦共稼ぎが主流となっており、若者には、ピンと来ないであろう。なお、「欲」というのは、金銭的な事を言っているのだろうが、働く事による社会との接点・生き甲斐につながる「欲」というか「意欲」は、今では非常に大事なものになっている。
次の記事での報告書のデータについてであるが、記事表題にもしている男女間の賃金格差いについて、独立行政法人労働政策研究・研修機構の『データブック国際労働比較2019』で見てみよう。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/index.html
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/05/d2019_T5-11_T5-12.pdf
上記の「第5-12表フルタイム労働者の中位所得における男女間賃金格差」によると、2017年において、女性の賃金は、男性よりも日本では24.5%低く、韓国で34.6%低いのを除くと、比較対象国中で最も格差が大きい。また、2005年は32.8%低く、おおむね現在の韓国と同様の状況であったことになる。その点では、格差は着実に縮小してみたように見えるが、この表はフルタイムの労働者についてのものであり、非正規労働者は含まれていない。実感では、男性フルタイムと女性非正規との間には、想像を絶する格差がある。
ここで、最初の記事に戻ってみよう。男女間の賃金格差が大きい場合、賃金の低い女性よりも高い男性の方が多く働けるよう、「仕事は男性、家庭は女性」という役割分担の方が家計上は有利になる。当初の40年前なら、賃金格差は相当に大きかったはずなので、周辺の反応も、記述のようなものだった面があるのであろう。
なお、「男性との賃金格差、結婚観に影響」という記事についての、下記のブログも参照されたい。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200302AA26.html
一部に、「女性を優遇するのか」という声もあるようだが、そういう考え方自体に、差別に染まり切った体質が表れてくるのである。
2020年3月6日金曜日
2020年3月8日 朝日朝刊11面 (声)無意識の女性差別、学問の場でも
2020年3月25日 朝日朝刊14面 (声)人事は「性別より実力」望ましい
2020年4月9日 朝日朝刊12面 (声)男女関係なく活躍と証明、目標に
2020年4月9日 朝日朝刊12面 (声)教員採用には多様性考慮が必要
2020年3月25日 朝日朝刊14面 (声)人事は「性別より実力」望ましい
2020年4月9日 朝日朝刊12面 (声)男女関係なく活躍と証明、目標に
2020年4月9日 朝日朝刊12面 (声)教員採用には多様性考慮が必要
最初の記事は、53歳の男性(大学教員)による投稿で、「女性に議席などを一定数、割り当てるクオータ制は女尊男卑という学生の声を読みました」という書き出しである。「性差別は東大も例外ではないと昨年、入学式で述べた上野千鶴子氏に反発する男子学生もいました。若い方はあまり女性差別に遭遇していないでしょうが、今も隠れたところで続いています。」と続けている。
そして、「ある大学の教員選考の場での経験」として、夫と共同研究している女性について、年配の男性が「この人が主体の研究か旦那が主体か、わからないね」との発言が、そのまま受け入れられてしまいました、としている。
続けて、「女性差別は表面上はなくなったようでも構造的に続いています。反発した男子学生は、自分がこれまでいかに優遇されてきたか、これからいかに優遇されるかを悟るべきです。」とし、「前記の教員選考委員は全員男性でした。もし半数が女性だったら、あの発言は許されなかったでしょう。差別が差別を生んでいるのです。構造的な差別を無くすには、まず強制的に社会に女性を増やすしかありません。被害者を減らすためクオータ制が必要だと私は考えます。」と結んでいる。
次の記事は、この投稿に対する、62歳の男性(大学講師)による反論投稿で、「違和感を覚えた。クオータ制は女尊男卑いくつかの国立大学で、「女性限定」で教員を採用するケースがあるからだ。男性は、どんなに能力があっても採用されない。男性には著しく不利ではないだろうか。」という書き出しである。
そして、「女性限定で数学教員を募集するある大学」を引き、「男性を排除した結果、能力的に優れた人を採用できなかった場合、この大学にとって損失にはならないのか。」としている。「大学教員の採用や昇進に女性差別があることは否定できない。」としながら、「だからといって、男性教員に対し、採用や昇進で不利な扱いをして良い理由にはならない。」とし、「男女共同参画を目指す際に、「能力がほぼ同等とみなされる時は女性を優先する」というのなら、認められると思う。」としている。
その上で、「私は研究・教育能力が高い人が選ばれるとは限らない大学人事の実情を現場で見てきた。特に性差別は重大な人事上の問題だ。「性別より実力」の原則が貫かれるよう望む。」と結んでいる。
3番目の記事は、42歳の男性(看護師)による投稿で、3月2日朝刊の「朝日新聞社ジェンダー平等宣言」を興味深く拝見しましたとし、「数値目標設定を懸念する声もあった中で、ジェンダー平等の実現への達成目標を具体的に示し、日本の男女格差克服に向けて勇気ある一歩を踏み出した、と感心しました。」というものである。
その上で、「男女平等を単なる理念で終わらせず、格差是正へ積極的に取り組むことは、人材や事業の多様性、可能性を広げるはず。なのに、目先のビジネスへの懸念や適性ある女性の人材不足を指摘する人がいます。それは圧倒的な男性優位の社会に慣れきって、能力本位で人を育てる努力を怠ってきた証左だと思います。」としている。
そして、「医療従事者の中でも看護師は全体の9割以上を女性が占めますが、介護や子育てをしながらきつい交代勤務もこなしている。そして今、新型コロナウイルスの感染者対応でも奮闘しています。」とし、「もっと男性がこのジェンダーギャップに気づき、積極的に変えていくべきではないか。」としている。
4番目の記事は、69歳の男性(元小学校教員)による投稿で、2番目の投稿「人事は『性別より実力』望ましい」に対して、「男だろうと女だろうと、実力のある人が教員になるのは当たり前だ。ただ考える必要があるのは、その「実力」は「誰」がどのような「視点」と「基準」で測るか、ということである。」というものである。
そして、「教育機関の場合、学識以外にも指導力、協調性といった人間性なども必要とされる。採用者側としては、こうした条件を一定水準でクリアした人の中から、できるだけ優秀な人を採用することになる。」が、「採用者側が男性という属性を優先させることは往々にしてある。家事や出産、育児などに多くの時間や体力を費やすことなく、仕事に邁進(まいしん)しやすい男の方が「使い勝手がよい」と考えるからだ。」としている。
その上で、「男女比を考え、女性を積極的に採用することは理にかなっている。さらに言えば、アカデミックな場であれば、多様な意見があった方いい。そうした意味では、障害がある人やマイノリティーを優先的に採用するということも必要だろう。」と結んでいる。
月をまたがっての論争で、最初の投稿の「クオータ制は女尊男卑という学生の声」は検索しきれなかったが、同様の意見は散見される。朝日新聞朝刊2017年9月15日の声欄には、15歳の男子中学生による「男が傷つく「女尊男卑」の時代」という投書が掲載されていた。興味深いのは、これらの投書がすべて、男性によるものである点である。
男女差別の発想は、今に始まったものではない。1960年代には、「女子大生亡国論」が
声高に語られた。その代表が、早稲田大文学部の暉峻康隆教授による「女子学生世にはばかる」(『婦人公論』1962年3月号)であり、慶應義塾大文学部の奥野信太郎教授(『週刊朝日』1962年6月29日号)である。
この考え方が、現代に到るも払拭されていないことを知らしめたのが、医学部入試における女性差別であった。また、雇用の現場でも、出産・育児という国の将来を担う女性たちを不当に処遇し、非正規労働者に追いやっている現実がある。
そうした社会の歪みを是正しようというのが、「クオータ制」に代表されるアファーマティブ・アクション(affirmative action)で、弱者集団の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境に鑑みた上で是正するための積極的是正措置である。これは、米国などの人種差別の激しいところでは一般的な考え方であり、長年にわたる不利益を是正するためには、一時的な弱者優遇も必要になるという考え方である。その根本思想は、「本来、人間は平等である」という点にある。
そうした考え方が、虐げられてきた女性の能力を開放することにつながってきた。世界の指導者も、例外ではない。ドイツのメルケル首相のように、女性であるばかりでなく、経済格差の著しい東ドイツ出身の指導者など、今や枚挙に暇がない。
今の日本を見ても、長期政権にあぐらをかいて末期症状の安倍総理に比べて、コロナ・ショックにおける小池東京都知事の動きは都民・国民の信頼を集めている。その足を引っ張っているのが、男性で占められている政権やマスコミであることは、もはや国民の眼には明らかなのではないか。
「女尊男卑」と言う男子中学生に聞いてみたい。君は、同い年の女子中学生と同じ環境で競争したとして、相手に勝てますか。少なくとも私には、その確証は持てない。
2020年3月6日 朝日朝刊13面 「パラサイト」が世界席巻 不平等が資本主義を悪夢に
NYタイムズの2月10日付電子版に掲載されたコラムニストのミッシェル・ゴールドバーグ氏による論説の抄訳である。
「ポン・ジュノ監督の「パラサイト」が第92回アカデミー賞で外国語映画として初めて作品賞を受け、単なるすばらしい映画から歴史的な現象へと変貌(へんぼう)した。同作は監督賞、脚本賞と国際映画賞も受賞した。不平等を過激に描いたこの韓国のホラーコメディーは、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞、全米脚本家組合賞脚本賞、全米映画俳優組合賞キャスト賞も受けた。」との書き出しである。
続けて、「外国映画が米国でこれほどの栄誉を受けたことは過去になかった。映画作りのすばらしさに加え、寒々とした社会への目の向け方は、ハリウッドの作品とは違い、共鳴できるものが確かにある。この作品の評価が高いことは、資本主義への信頼が危機にあることの証拠であり、その危機は米大統領選の民主党候補者の指名争いでサンダース氏が有力であることの背景と同じだ。」としている。
その上で、「映画を見た米国人は、韓国が極端に階層化された社会だという印象を受けるかもしれない。その通りかもしれないが、見方によっては米国社会ほど不平等ではない。それゆえにこの映画が描く階層間移動についての運命論は、米国人の伝統的な感覚からかけ離れていて、ひときわすがすがしい。」としている。
そして、「米国人は、社会的階級とは、少なくとも一面では、振る舞いにかかわるものだと捉えがちだ。」のにに対し、「対照的にポン監督が描く世界では、階級を上がることはあまりない。」とし、2013年のスリラー映画「スノーピアサー」では、「救いの道は、仕組みをすべて破壊し、新しいものを始めるしかない。」世界を描いているとしている。そして、「繰り返し繰り返し、「パラサイト」は階級を鉄製のわなとして描く。」とし、「しばらくハリウッド的なエンディングがちらつく。ようやく最後の場面で、それが幻想に過ぎず、元いた場所で動けないでいることがはっきりする。」としている。
そして、「経済協力開発機構(OECD)によると、米国での社会階層間の移動は、韓国と同じくらい活発ではない。例外はあるものの、米国の大衆文化は、頭脳や根性だけではより大きい実質的な勢力には対抗できないという世界を描ききれていない。」とし、最後は、「最近、オカシオコルテス下院議員は、自力ではい上がるなどという考えは「冗談だ」と言って、右派メディアから憤慨と嘲笑をあびた。しかし「パラサイト」が人々の琴線に触れたのは、多くの人々にとって不平等が現代の資本主義をただの冗談ではなく、悪夢へと変えているからだ。」と結んでいる。
一つの映画が、社会の問題を描き出し、それによって人々の考え方や行動に変化をもたらすことは、稀な事ではない。私は、まだ「パラサイト」を見ていないが、この論説にも、その影響が強く感じられる。
記事で言及されているOECDの情報は、次の「社会的流動性の機能不全に対処する行動が必要」(2018年6月16日発表)であろう。
原文は、次である。
日本については、次のように報告されている。
「日本では、親の財産やその社会的優位性が人の人生において重要な役割を果たすと考えている人の割合は、他のOECD諸国に比べて少ない。」が、「日本でも、人々の経済状況は親のそれと相関関係にある。日本における不平等の水準と、ある世代から次の世代への流動性を考慮すると、所得階層の最下層の家庭に生まれた子どもが平均所得を得られるようになるまでには、少なくとも4世代分の時間を要する。」
その上で、日本で優先すべき主要政策として、次の3つを挙げている。
目標1 労働市場の二重性を縮小することで、労働市場の流動性を高める。
目標2 雇用における男女格差を解消する。
目標3 後期中等教育における職業教育の魅力を、実習を重視することで高める。
目標に掲げられた3点は、日本国内でも広く問題として共有されているところであり、着実かつ迅速な対応が迫られている。
2020年3月6日 日経朝刊7面 ノルウェー年金基金、三菱地所本社ビルの一部取得 797億円で
2020年1月29日 日経朝刊7面 「50年先見てESG投資」 ノルウェー政府年金基金CEO
最初の記事は、「世界最大級の政府系ファンド、ノルウェー年金基金は5日、三菱地所が保有する大手町パークビルディング(東京・千代田)の一部を797億円で取得すると発表した。ノルウェー年金基金は株式や債券に加えて、不動産にも分散投資を進めており、日本での不動産投資は2件目となる。三菱地所は簿価(取得価格)が高く利回りが低い不動産を売却し資産効率を高める狙いだ。」というものである。
「ノルウェー年金基金は北海油田から得るノルウェー政府の収入を原資とし、足元で約125兆円を運用する。日本での不動産投資は17年に東急不動産と共同で商業施設5物件を取得して以来、2件目となる。」とし、「三菱地所は優良資産を多く持つ。古くから所有する不動産は簿価が低く不動産利回りが高いが、比較的新しい物件は簿価が高く利回りも低い傾向がある。このため、丸の内の立地であっても資産効率の点から売却を進めている。」と結んでいる。
後の記事は、少し前のものだが、「世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金は、環境・社会・企業統治を考慮する「ESG投資」で運用業界をリードしてきた。近く退任する運用機関のイングベ・スリングスタッド最高経営責任者(CEO)が取材に応じ、ESGは超長期の投資に不可欠だと強調した。トップ退任後も組織にとどまり、新エネルギー分野などの投資戦略に関わる意向も明らかにした。」というものである。
まず、ESG重視の理由については、「(ノルウェーの)将来世代のためのファンドとして50年以上先のことを考えている。長期で投資収益を上げるには世界経済が持続可能な形で成長していくことが欠かせない。50年の時間軸でリターンを確保すべくESGに取り組んでいる」としている。
次に、ESG投資の実際については、「長期で持続可能ではないとみた約240社からこれまでに投資を引き揚げた。一方で環境ポートフォリオも持っており、世界に良い影響をもたらすと考える200社ほどに投資している。水処理技術や代替エネルギー関連などが含まれる」「ノルウェーの人々は兵器やたばこから利益を得たくない。石炭もそれらに加わった。考え方は単純で、社会に有益だと判断した製品やサービスに投資するということだ。撤退対象は3つ。我々が生み出したくないと思う製品をつくる企業、倫理的に擁護が難しい企業、そして30年ほど先を見通してビジネスが持続可能と思えない企業だ」としている。
さらに、「企業側の変化」については、「特にこの5年で大きく変わった。今や気候変動のような問題は多くの取締役会で何らかの議論が交わされている。10年前なら自分たちのビジネスには無関係だと言っていたであろう企業も、そうは考えなくなった」「企業に求めたいのは情報開示のさらなる拡充だ。サステナビリティー報告書は重要で、持続可能性に関する戦略やリスク管理について明確にしてほしい。二酸化炭素(CO2)やメタンをどれくらい排出しているのか、規制が今後強化された場合の必要な削減量、そのための費用など知りたいことはたくさんある」との見方である。
記事では、補足として、ノルウェー政府年金基金は、「北海油田から得るノルウェー政府の収入を原資とする年金ファンド。足元の運用残高は約10.5兆クローネ(約125兆円)で、政府系ファンドで世界最大。株式や債券、不動産に分散投資し、日本株も7兆円程度持つ。運用は中央銀行傘下のノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)が担う。」と記述している。
下記は、ノルウェー政府年金基金について、在ノルウェー日本国大使館が2014年3月にまとめた資料である。
https://www.no.emb-japan.go.jp/Japanese/Nikokukan/nikokukan_files/pension_fund_global.pdf
また、在日ノルウェー大使館も、次のように説明している。
https://www.norway.no/ja/japan/norway-japan/news-events/news/5/
この基金は、「石油・天然ガスからの収入が得られなくなった将来のノルウェー国民の年金資金等に備えるため、ノルウェー大陸棚の石油・ガス事業からの国の収入を積み立てている基金」で、ノルウェー政府と直結したものである。
当面で言えば、石油・天然ガスによる収入で困ることはないから、資産運用についても、「50年先」という長期の視野を持つことができるわけである。年金資産の運用としては、理想的とも言えよう。ただし、基金は年金給付は行わないが、投資収益の4%以下を国家予算に繰り入れるものとしているから、毎年の投資収益率に無関心というわけにはいかない。恐らく、大手町パークビルディングへの投資も、安定的なインカム収益に期待してのものであろう。
一方、石油・天然ガスといった地球温暖化の元凶に依存しながら、環境重視のESG投資に傾斜しているのは、皮肉な事だとも言えよう。「責任ある投資」ということで、「基金の投資対象企業の監視・除外指針には、基本的人道主義に反する兵器(クラスター爆弾や核兵器など)を製造している企業には基金の資産を投資しない」と定められているそうである。世界的な年金資産運用の動向を見る上で、このノルウェー政府年金基金の動向ウォッチは欠かせない。
2020年1月29日 日経朝刊7面 「50年先見てESG投資」 ノルウェー政府年金基金CEO
最初の記事は、「世界最大級の政府系ファンド、ノルウェー年金基金は5日、三菱地所が保有する大手町パークビルディング(東京・千代田)の一部を797億円で取得すると発表した。ノルウェー年金基金は株式や債券に加えて、不動産にも分散投資を進めており、日本での不動産投資は2件目となる。三菱地所は簿価(取得価格)が高く利回りが低い不動産を売却し資産効率を高める狙いだ。」というものである。
「ノルウェー年金基金は北海油田から得るノルウェー政府の収入を原資とし、足元で約125兆円を運用する。日本での不動産投資は17年に東急不動産と共同で商業施設5物件を取得して以来、2件目となる。」とし、「三菱地所は優良資産を多く持つ。古くから所有する不動産は簿価が低く不動産利回りが高いが、比較的新しい物件は簿価が高く利回りも低い傾向がある。このため、丸の内の立地であっても資産効率の点から売却を進めている。」と結んでいる。
後の記事は、少し前のものだが、「世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金は、環境・社会・企業統治を考慮する「ESG投資」で運用業界をリードしてきた。近く退任する運用機関のイングベ・スリングスタッド最高経営責任者(CEO)が取材に応じ、ESGは超長期の投資に不可欠だと強調した。トップ退任後も組織にとどまり、新エネルギー分野などの投資戦略に関わる意向も明らかにした。」というものである。
まず、ESG重視の理由については、「(ノルウェーの)将来世代のためのファンドとして50年以上先のことを考えている。長期で投資収益を上げるには世界経済が持続可能な形で成長していくことが欠かせない。50年の時間軸でリターンを確保すべくESGに取り組んでいる」としている。
次に、ESG投資の実際については、「長期で持続可能ではないとみた約240社からこれまでに投資を引き揚げた。一方で環境ポートフォリオも持っており、世界に良い影響をもたらすと考える200社ほどに投資している。水処理技術や代替エネルギー関連などが含まれる」「ノルウェーの人々は兵器やたばこから利益を得たくない。石炭もそれらに加わった。考え方は単純で、社会に有益だと判断した製品やサービスに投資するということだ。撤退対象は3つ。我々が生み出したくないと思う製品をつくる企業、倫理的に擁護が難しい企業、そして30年ほど先を見通してビジネスが持続可能と思えない企業だ」としている。
さらに、「企業側の変化」については、「特にこの5年で大きく変わった。今や気候変動のような問題は多くの取締役会で何らかの議論が交わされている。10年前なら自分たちのビジネスには無関係だと言っていたであろう企業も、そうは考えなくなった」「企業に求めたいのは情報開示のさらなる拡充だ。サステナビリティー報告書は重要で、持続可能性に関する戦略やリスク管理について明確にしてほしい。二酸化炭素(CO2)やメタンをどれくらい排出しているのか、規制が今後強化された場合の必要な削減量、そのための費用など知りたいことはたくさんある」との見方である。
記事では、補足として、ノルウェー政府年金基金は、「北海油田から得るノルウェー政府の収入を原資とする年金ファンド。足元の運用残高は約10.5兆クローネ(約125兆円)で、政府系ファンドで世界最大。株式や債券、不動産に分散投資し、日本株も7兆円程度持つ。運用は中央銀行傘下のノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)が担う。」と記述している。
下記は、ノルウェー政府年金基金について、在ノルウェー日本国大使館が2014年3月にまとめた資料である。
https://www.no.emb-japan.go.jp/Japanese/Nikokukan/nikokukan_files/pension_fund_global.pdf
また、在日ノルウェー大使館も、次のように説明している。
https://www.norway.no/ja/japan/norway-japan/news-events/news/5/
この基金は、「石油・天然ガスからの収入が得られなくなった将来のノルウェー国民の年金資金等に備えるため、ノルウェー大陸棚の石油・ガス事業からの国の収入を積み立てている基金」で、ノルウェー政府と直結したものである。
当面で言えば、石油・天然ガスによる収入で困ることはないから、資産運用についても、「50年先」という長期の視野を持つことができるわけである。年金資産の運用としては、理想的とも言えよう。ただし、基金は年金給付は行わないが、投資収益の4%以下を国家予算に繰り入れるものとしているから、毎年の投資収益率に無関心というわけにはいかない。恐らく、大手町パークビルディングへの投資も、安定的なインカム収益に期待してのものであろう。
一方、石油・天然ガスといった地球温暖化の元凶に依存しながら、環境重視のESG投資に傾斜しているのは、皮肉な事だとも言えよう。「責任ある投資」ということで、「基金の投資対象企業の監視・除外指針には、基本的人道主義に反する兵器(クラスター爆弾や核兵器など)を製造している企業には基金の資産を投資しない」と定められているそうである。世界的な年金資産運用の動向を見る上で、このノルウェー政府年金基金の動向ウォッチは欠かせない。
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