2020年3月6日金曜日

2020年3月6日 朝日朝刊13面 「パラサイト」が世界席巻 不平等が資本主義を悪夢に

NYタイムズの2月10日付電子版に掲載されたコラムニストのミッシェル・ゴールドバーグ氏による論説の抄訳である。
「ポン・ジュノ監督の「パラサイト」が第92回アカデミー賞で外国語映画として初めて作品賞を受け、単なるすばらしい映画から歴史的な現象へと変貌(へんぼう)した。同作は監督賞、脚本賞と国際映画賞も受賞した。不平等を過激に描いたこの韓国のホラーコメディーは、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞、全米脚本家組合賞脚本賞、全米映画俳優組合賞キャスト賞も受けた。」との書き出しである。
続けて、「外国映画が米国でこれほどの栄誉を受けたことは過去になかった。映画作りのすばらしさに加え、寒々とした社会への目の向け方は、ハリウッドの作品とは違い、共鳴できるものが確かにある。この作品の評価が高いことは、資本主義への信頼が危機にあることの証拠であり、その危機は米大統領選の民主党候補者の指名争いでサンダース氏が有力であることの背景と同じだ。」としている。
その上で、「映画を見た米国人は、韓国が極端に階層化された社会だという印象を受けるかもしれない。その通りかもしれないが、見方によっては米国社会ほど不平等ではない。それゆえにこの映画が描く階層間移動についての運命論は、米国人の伝統的な感覚からかけ離れていて、ひときわすがすがしい。」としている。
そして、「米国人は、社会的階級とは、少なくとも一面では、振る舞いにかかわるものだと捉えがちだ。」のにに対し、「対照的にポン監督が描く世界では、階級を上がることはあまりない。」とし、2013年のスリラー映画「スノーピアサー」では、「救いの道は、仕組みをすべて破壊し、新しいものを始めるしかない。」世界を描いているとしている。そして、「繰り返し繰り返し、「パラサイト」は階級を鉄製のわなとして描く。」とし、「しばらくハリウッド的なエンディングがちらつく。ようやく最後の場面で、それが幻想に過ぎず、元いた場所で動けないでいることがはっきりする。」としている。
そして、「経済協力開発機構(OECD)によると、米国での社会階層間の移動は、韓国と同じくらい活発ではない。例外はあるものの、米国の大衆文化は、頭脳や根性だけではより大きい実質的な勢力には対抗できないという世界を描ききれていない。」とし、最後は、「最近、オカシオコルテス下院議員は、自力ではい上がるなどという考えは「冗談だ」と言って、右派メディアから憤慨と嘲笑をあびた。しかし「パラサイト」が人々の琴線に触れたのは、多くの人々にとって不平等が現代の資本主義をただの冗談ではなく、悪夢へと変えているからだ。」と結んでいる。

一つの映画が、社会の問題を描き出し、それによって人々の考え方や行動に変化をもたらすことは、稀な事ではない。私は、まだ「パラサイト」を見ていないが、この論説にも、その影響が強く感じられる。
記事で言及されているOECDの情報は、次の「社会的流動性の機能不全に対処する行動が必要」(2018年6月16日発表)であろう。
原文は、次である。
日本については、次のように報告されている。
「日本では、親の財産やその社会的優位性が人の人生において重要な役割を果たすと考えている人の割合は、他のOECD諸国に比べて少ない。」が、「日本でも、人々の経済状況は親のそれと相関関係にある。日本における不平等の水準と、ある世代から次の世代への流動性を考慮すると、所得階層の最下層の家庭に生まれた子どもが平均所得を得られるようになるまでには、少なくとも4世代分の時間を要する。」
その上で、日本で優先すべき主要政策として、次の3つを挙げている。
 目標1 労働市場の二重性を縮小することで、労働市場の流動性を高める。
 目標2 雇用における男女格差を解消する。
 目標3 後期中等教育における職業教育の魅力を、実習を重視することで高める。

目標に掲げられた3点は、日本国内でも広く問題として共有されているところであり、着実かつ迅速な対応が迫られている。

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