2020年3月6日金曜日

2020年3月6日 日経朝刊5面 年金資金でデジタル革新 経団連・GPIF・東大
2020年3月27日 日経朝刊5面 経団連・GPIF、デジタル革新へ投信や指数開発

前の記事は、「デジタル技術を使った企業や社会の革新を投資によって促す仕組み作りが動き出す。年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はスマート社会の実現を後押しする投資方針を検討。経団連は投資先選定の参考になるよう技術情報などの開示を企業に求める。気候変動で関心が高まるESG(環境・社会・企業統治)投資をモデルに、資金調達の面から変革を促す。」というものである。
「経団連、GPIF、東京大学は2019年6月に着手した共同研究の報告書を20年3月下旬にまとめる。」とし、「人工知能(AI)などをうまく活用したスマート社会「ソサエティー5.0」の実現を目標に掲げ、デジタル革新につながる投資の促進に向けた3者の行動計画を盛り込む。」という。「世界最大規模の機関投資家であるGPIFは、投資原則に「ソサエティー5.0の実現も考慮する」方針を明記する方向で検討する。委託先の運用機関はGPIFの投資原則に基づいて株式や債券を売り買いするので、デジタル革新を担う企業に年金の運用資金が向かいやすくなる。」とのことである。
一方、「こうした投資マネーの流れを後押しするため、経団連は会員企業などに対し、スマート社会の実現に役立つ技術・サービスといった情報開示の充実を促す。東大は学内の関連する先端技術の情報を集約し、企業との共同研究を後押しする。」としている。「官民挙げた次世代産業政策」は、ドイツや中国にもあるが、資金調達の面からもデジタル革新を促す仕組みは「海外にもない」(経団連)という。
「報告書はデジタル革新がもたらす経済効果の試算も盛り込む。ソサエティー5.0の実現が中長期的な投資収益の拡大につながると示すためだ。試算では、無人運転技術やシェアリングサービス、家庭用ロボットなど約70の先端技術を「ソサエティー5.0の実現に役立つ技術」と定義。すべての技術を社会に広く普及させた場合、30年に760兆円の新たな市場が生まれ、名目国内総生産(GDP)を250兆円押し上げると推計した。」とする。
そして、「内閣府は現実的な成長率が続けば29年度の名目GDPは637兆円になると試算している。これをもとに、経団連などはスマート社会が実現すれば、30年の名目GDPが900兆円に達するとはじいた。試算は経済統計の研究などを専門とする野村浩二慶大教授に依頼した。」とのことである。
その上で、「経団連などは経済効果も明示し、投資マネーを日本企業のデジタル技術やサービスに呼び込みたい考えだ。ただ技術開発が進んでも、法体系が整わなければ、社会実装がなかなか進まない可能性もある。一時的に規制を凍結して新技術の実証を進める「サンドボックス」制度の活用をはじめ、政府が規制緩和を加速することもスマート社会の実現には欠かせない。」と結んでいる。

後の記事は、前の記事の報告書が26日に公表されたことを受けたものである。経団連の中西宏明会長は同日の記者会見で「環境に限らず社会課題の解決に向けて、企業が投資を誘うメッセージを出していくべきだ」と語ったとし、GPIFの高橋則広理事長は「短期的な課題を克服し長期のリターンを年金受給者に供給できると信じている」と指摘し、「足元の金融市場は新型コロナウイルスの感染拡大で混乱しているが、デジタル革新への投資促進が長期的な収益拡大につながるとの認識を示した。」という。
その上で、「投資を促す指数としては、指数算出会社がつくるESG指数がある。また経済産業省と東京証券取引所は2020年からデジタル技術を活用して事業モデルの抜本的な変革に取り組む企業を「デジタルトランスフォーメーション銘柄」として選ぶ。経団連などはこれらを参考に新しい指数の設計を検討する。」とし、「GPIFは、投資原則に「ソサエティー5.0の実現も考慮する」方針を明記する方向で検討する。委託先の運用機関はGPIFの投資原則に基づいて株式や債券を売り買いするので、デジタル革新を担う企業に年金の運用資金が向かいやすくなる。」としている。

言及されている3月26日に公表された報告書は、次の通りである。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/026.html
方向性については、異論はない。相対的に遅れているとされるデジタル革新に取り組む必要性は高まっているから、積極的に推進してもらいたい。しかし、違和感を感じるのは、ここに年金資金が大きく関わってくる点である。
デジタル革新が立ち遅れたのは何故なのか。その最大の理由は、人材の育成であろう。初期段階においては、日本は世界をリードしていたとの評価すらあった。しかし、その先進性を理解せず、次のエピソードのように、高度な人材や続く世代のやる気を失わせたのである。まず、その認識が出発点ではないのか。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200309NA14.html
なのに、まず出て来るのが、カネである。人材に関わるのは、東京大学中心ということのようだが、地球と人類社会の未来に貢献する「知の協創の世界拠点」と胸を張って言えるだけの実績や覚悟を有しているのか。とても、そうは思えない。
カネについての危惧は、後の記事にも感じる。投資の基準となる指数について、「経団連などはこれらを参考に新しい指数の設計を検討」としているが、投資において選別されるべき企業の集合体が、その投資指標の設計に関わるのは、不適切そのものではないのか。例えば、会長企業の日立が対象から漏れることなど、考えられないであろう。
そもそも、ESG投資が、「短期的な課題を克服し長期のリターンを年金受給者に供給できる」というのであれば、指数をいじくる必要はない。基準となる指数は、市場全体を表すものであるべきである。ESG投資というのは、一つの視点に立脚したアクティブ投資の一つであり、その成否は、パフォーマンスによって判定されるべきものであろう。「短期」ではなく「長期」というのなら、それでもよいが、例えば、過去10年程度のデータで検証する必要があるだろう。今後のことは誰にも分からない中で、ただ「長期」というのでは無責任極まる。

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