2020年3月2日月曜日

2020年3月2日 朝日朝刊26面 「自分の収入だけでは…不安」 男性との賃金格差、結婚観に影響

「フルタイムで働く女性の賃金は、男性を100とすると、73.3――。2018年の厚生労働省の調査結果だ。20代前半の女性は男性とほとんど変わらない賃金を得ているのに、30代に入ると男性の8割ほどになる。非正規雇用の割合が男性の2倍に上り、管理職も少ない。」という書き出しの記事で、参照しているのは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」である。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2018/dl/13.pdf
そんな中、「内閣府の結婚・家族形成に関する意識調査(14年度)によると、結婚相手に経済力があることを求めるのは、20代の未婚の女性が50・9%、男性は7・2%。1985年に男女雇用機会均等法が制定され、女性の就労は進んだが、経済的に男性に依存しがちな構造は根強く残っている。」としている。
上記の意識調査は、次で、「結婚相手に求める条件」は、図表12-1に示されている。
記事でのコメントで、日本女子大・現代女性キャリア研究所長の大沢真知子教授は、「長時間労働によって男性の家事参加が期待できない状況があると分析」し、「自分が育児や家事をして、経済的に支えてくれる人を選ぼう」といった考えは、「現状にあった合理的な選択」と指摘している。
 一方、明治大学商学部の藤田結子教授は、「就活の時点で女性は壁にぶつかってしまう」とし、「大企業の総合職など「一生十分食べていける」職種は男性が優位。女性で採用されるのは、大卒の一部の学生だ。さらに、出産などで離職すると、非正規の職にしか戻れないケースも多い。」ので、「理想は専業主婦、となっても仕方ない。やる気の問題ではない。」としている。
なお、記事での「Dear Girls」は、「世界経済フォーラムの男女格差(ジェンダーギャップ)指数で、日本は過去最低の121位。」であることもあり、「格差のない社会をめざして、朝日新聞が2017年から取り組んでいる企画」の象徴だそうである。

この記事の内容は、女性の就活にも関わってくるものである。記事では、東京都内の保育士の女性(29)が「相手に望む年収は600万~1千万円」とのことであるが、先の「賃金構造基本統計調査」の厚生労働省の第7表に「賃金階級、性、年齢階級別労働者割合(2-1)」として男性の賃金分布が示されているが、この条件の月収50万円以上の所得のある男性は、30〜34歳区分では2.8%(平均は28万9千円)、35〜39歳区分では6.2%(平均は32万5千円)に過ぎない。言って見れば、「高嶺の花」の状況なのである。
このことは、皮肉な事だが、女性の社会進出にも関わっている。同じ資料の「第1表 性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移」を見ると、男子に対する女子の賃金は、記事にあるように、2018年(平成30年)は73.3%だが、1999年(平成11年)は64.6%だったのであり、大きく縮まってきている。このことは、もちろん望ましいことであり、男女平等に向けてさらに進めていくべきことであるが、その結果として起きてきたこと、起きていくことは、頭に入れておく必要がある。すなわち、賃金総額が変わらないとすれば、男女間の賃金格差の縮小は、配分の変更によるのであり、男性の相対的にもらい過ぎの賃金が下落し、女性の相対的に搾取されていた賃金が上昇することによるのである。決して、男性の現在の賃金水準に向けて、女性の賃金が上昇していくわけではないのである。そして、このような賃金の配分変更は、年功序列・終身雇用の見直しを背景に、今後、加速していく可能性がある。そうなると、男女の賃金格差が大きい時に成り立っていた「専業主婦モデル」は、成立しなくなる。「理想は専業主婦」は、今後を考えれば、願望から妄想の域に入っていくのではないか。
一方で、記事のもう一つの例の「広告会社で働く都内の女性(29)はアプリで知り合った3人の男性から、「働き過ぎだよ」と異口同音に言われたことがひっかかっている。「仕事をバリバリする女性より、ご飯を用意して家で待つ女性がいいのかな」」という状況についての男性の見解もまた、実情を無視したものと言わざるを得ない。男女の賃金格差がなくなっていければ、経済合理性からも、共働きが増えるのが当然であり、「男女共同参画白書(概要版) 平成30年版」に見られるように、そうなっている。
このような時代の変化の中での働き方については、私も、WEB論文『一人前の社会を目指して ~ 日本社会の構造変革の方向』(2012年1月)で、見解を示しているところである。
その中で、「人材を、意欲と能力、もっと明確に言えば、貢献に応じて1人前に処遇する社会」を目指すべきとした思いは、さらに強まる一方である。

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