2020年3月9日月曜日

2020年3月9日 日経朝刊11面 「仕事と対価」に入念な点検 同一労働同一賃金、来月から

「4月から始まる正規と非正規の従業員の間で不合理な格差を禁じる「同一労働同一賃金」ルールの施行を前に、大企業が対応に追われている。正社員や派遣社員の雇用状況や待遇、各種の手当てなどを確認したり見直したりする過程で、様々な問題が浮かび上がっている。労務トラブルを防ぐためにも「仕事と対価」の入念な点検が必要になっている。」という記事である。
まず、「企業の労務担当者と顧問弁護士の間で、賃金や手当の最終チェックが大詰めを迎えている。4月からは正社員と非正規労働者の業務内容が同じ場合、基本給や手当などの待遇差が禁じられる。」が、「何の職務の対価か説明できない手当が問題→基本給に組み込む方向で調整」というように、「正社員向けの手当」の整理を迫られているそうである。
そして、「4月の施行前に企業がとる対応策は大きく3つ、(1)正規・非正規の職務内容の確認、(2)待遇差がある場合は説明できる理由を明確に、(3)必要ならば賃金体系を見直す、ことだ」としている。
続けて、「正規・非正規の待遇差を禁じる厚生労働省のガイドラインには、対象に「家族手当」や「住宅手当」が入っていない。」が合理的な理由が必要であり、賞与など賃金体系の見直しが必要になる場合もある。としている。
ただし、「正社員の待遇を一方的に下げる「不利益変更」にならないようにすることだ。同一労働同一賃金の制度の趣旨は、非正規社員の待遇を正規並みに引き上げることだ。」が、「企業の中には人件費が増えると警戒するところもある。」とし、「労組は経営側と安易に合意しないことが大切だ」という弁護士のコメントに触れている。
その上で、「日本国内の労働者全体に占める非正規の割合は4割に上る。同一労働同一賃金のルールは、パート、有期雇用、派遣という3タイプの非正規労働者と、無期雇用・フルタイムで働く正規労働者との間の不合理な待遇差を禁じるものだ。」とし、「規定はパートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法に盛り込まれている。企業は職務内容が同じ場合に雇用形態の違いだけで差別的に取り扱ってはならないとする「均等待遇」と、職務内容が違う場合は違いに応じてバランスのとれた待遇にする「均衡待遇」を確保することが求められる。罰則の規定はない。」としている。
そして、「専門家は正規と非正規の待遇差を巡る訴訟は増えると予測する。待遇差を問う裁判も相次いでいる。」とし、最高裁での「物流大手のハマキョウレックス(浜松市)と運送会社の長沢運輸(横浜市)の2つの訴訟」(「精勤手当」など一部手当について不合理な格差に当たると判断)や、東京高裁での「東京メトロの子会社メトロコマース」の逆転判決(契約社員に退職金制度を適用しなかったのは不合理)に触れ、「4月から事業者に説明義務が課されれば、非正規労働者が正規との差額を知りやすくなる。」としている。
その上で、「非正規労働者にとって透明で働きやすい環境が提供できれば優秀な人材を獲得しやすくなる」とし、水町勇一郎東大教授の「魅力的な制度のある会社には人が集まる。経営者は労務担当者と連携し、独創的な改革を進めることが求められている」とのコメントを掲載している。
一方、「同一労働同一賃金のルールを定めるには、労使協議で合意を得ることが前提だ。労働者代表として交渉する労働組合が正社員中心では、非正規の従業員の声は十分、反映されにくい。労組自身も変化が求められている。」とし、「正社員より身分が不安定なことが多い非正規の従業員の待遇改善にも労組の支援が必要だ。だが立場の違いを乗り越えられず、組織化ができていない場合も多い。」としている。
また、「人材派遣会社も、新ルールへの対応が求められる。(1)人材を派遣している先の企業に待遇をあわせるか、(2)派遣会社の労使で協定を結び、同業種・同地域の一般労働者の平均賃金にあわせる方式のどちらかを選ぶことになる。」としているが、多数派になるとみられている労使協定方式を結ぶ場合は、「労働者の過半数で組織する労働組合などと賃金の決め方で合意する必要がある」とし、「人材派遣会社は派遣社員の処遇について、6月の労働者派遣事業の事業報告提出までに対応しなければならず、各社とも準備を急いでいる。」と結んでいる。

いよいよ4月実施が目前に迫った「同一労働同一賃金」に関する記事である。厚生労働省も、「同一労働同一賃金特集ページ」を設けて準備している。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
ガイドラインの概要も示されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000470304.pdf
また、「派遣労働者の同一労働同一賃金について」も掲載されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

一方、関連する訴訟も、記事にあるように増えており、今後も増加が予想されている。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87784
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88627

日本における「同一労働同一賃金」は、欧米の「均等待遇」とは異なり、一定の差別を「均衡待遇」として容認している。しかし、そのレベルの是正ですら、このような大騒ぎになるのであるから、これまで、いかに不当な差別が横行していたのかが分かる。不十分であるとは思うが、雇用慣行を変えるきっかけとなることには期待したい。

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