2020年2月26日水曜日

2020年2月26日 日経夕刊5面 会社員の夫65歳、妻の年金は? 60歳未満なら国民年金に加入

問題形式で、「会社勤めで厚生年金に加入しています。先日65歳になり、勤務先から58歳の妻について「第1号被保険者への手続き」をするよう連絡がありました。妻は専業主婦ですが保険料の支払いが必要になるのでしょうか。」という質問に対して、特定社会保険労務士の篠原氏が答えるという記事である。
「一般に夫が厚生年金に入っていれば、扶養される妻は「第3号被保険者」となり、原則60歳まで保険料負担なしで65歳から老齢基礎年金を受け取れます。」という原則を述べた上で、「現制度では厚生年金には70歳まで加入できます。その間、妻の保険料も免除されると勘違いしがちですが、夫が年金受給権の発生する65歳に達すると、60歳未満の妻は国民年金の保険料を納めなくてはならない「第1号被保険者」に切り替わります。5歳以上年の離れた夫婦は注意が必要です。」というのが回答である。以下は、手続き方法などである。

この仕組みは、珍妙に見える。厚生年金被保険者の被扶養者なら第3号被保険者にするというのなら、夫が70歳まで厚生年金に加入していれば、引き続き、被扶養者の妻は第3号被保険者になると考えるのが普通であろう。
とろこが、そうはなっていない。その理由は、厚生年金被保険者が国民年金の第2号被保険者となる期間は65歳到達時までであり、第3号被保険者として取り扱われるのは、第2号被保険者に扶養されている場合だからである。このため、「5歳以上年の離れた夫婦は注意が必要です」ということになるのである。
では、厚生年金被保険者が第2号被保険者となる期間については、国民年金というか基礎年金の給付に反映されるのだろうか。国民年金の被保険者であり、厚生年金の保険料に中には、基礎年金の保険料も含まれているわけだから、当然にそうなっていると考えるのが自然であろう。ところが、これもそうなっていない。
どうなっているかというと、厚生年金被保険者は、60歳以降65歳までの間は国民年金の第2号被保険者にはなるが、国民年金の保険料納付は要しないというか納めていない取り扱いになるのである。したがって、この期間については、基礎年金の給付には反映されず、厚生年金保険料の中に含まれる保険料は、「掛け捨て」の状況になる。
そんなのおかしい、と思う人は多いだろう。この「掛け捨て」状態は、60歳以降ずっと続くので、政府は70歳を超えての就労も推奨してきているが、年金保険料的には、厚生年金に加入し続けると割損の状態が続くということになるのである。
これは、1985年の公的年金の再編成時において、従来の国民年金と厚生年金との保険料と給付の調整を行うに際して、当時の法定定年年齢が60歳であったことから、60歳以上の厚生年金被保険者は一般的ではないとして取り扱われたものと思われる。
しかし、それでも、大卒22歳で会社に入ってずっと厚生年金被保険者であった人が60歳以降も継続して勤務して厚生年金の保険料を支払ったとしても、基礎年金の給付は38年分となってしまうのでは、割り切れないであろう。それでは、旧国民年金と旧厚生年金との再編成に支障をきたすことにもなる。そこで、この場合の60歳を超える期間については、厚生年金側において、40年に満たない2年分の給付を定額部分として特例的に支給するという取り扱いにしているのである。
しかし、それでも、今度は、高卒18歳で会社に入ってずっと厚生年金被保険者であった人は、60歳どころか、58歳時点で基礎年金が40年満額となり、それ以降の期間については、厚生年金側からの定額部分の特例支給も行われないことになる。そこで今度は、長期加入者の特例給付として、「44年以上厚生年金保険に加入している特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前に、退職などにより被保険者でなくなった場合、報酬比例部分に加えて定額部分も支払われます。」ということにしているのである。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/jukyu/2018110702.html
何とも複雑であり、上記のような再編成時のままの対応では、60歳を超えての就労が一般的となり、70歳を超えての就労の促進も図るという状況下においては、早急な整理・見直しが必要であろう。
さて、話を第3号被保険者に戻すと、今では妻が年上の夫婦も珍しくないが、再編成当時においては妻が年下であるのが大勢であり、夫の第2号被保険者を60歳にしてしまうと、60歳到達時点で60歳未満の妻は第3号被保険者の資格を失って第1号被保険者となり、国民年金の保険料を納付しなければならなくなる。これは問題になるということで、妻が夫より5歳年下である間は、第3号被保険者でいられるように、厚生年金被保険者が国民年金の第2号被保険者となる期間を65歳までとしたものと推察される。一方で、国民年金の保険料納付期間は60歳までであるから、60歳以上の厚生年金保険料には国民年金分の保険料は含まれず、基礎年金の給付には反映されないとしたということであろう。
ところが、このことを悪用して、公務員を60歳を超えても確定拠出年金の個人型年金(イデコ)に加入させるという悪辣な企みが進んでいる。憤懣やる方ないが、このことについては、次の「年金時事通信」を参照されたい。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/tusin/19-015.pdf
旧国民年金と旧基礎年金の再編成が行われてから、約45年になる。今回2019年の財政検証を受けた検討でも、その仕組みの抜本的な再検討は行われなかった。どんな制度でも、そんなに長きにわたって大きな点検・調整をしないで続けられるものではない。次回2024年の財政検証に向けて、半世紀を経る基礎年金制度の徹底再検討は、今からが正念場になる。

2020年2月25日火曜日

2020年2月25日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル) 志望動機、部署名まで明確に ネットの「模範解答」には注意

就活実務編での、ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による説明である。
「志望動機をどう書いていいかわかりません」。3月1日の就活情報の解禁日が近づき、学生からは具体的な相談が増えてきた、というものである。
記事では、「エントリーシート」での「志望動機が学生にとって一番の悩みの種」とし、「ネット上にはたくさんの模範解答」があるが、疑問があるとし、「どんな部署でなんの仕事をしたいのか、それを調べて、ズバッと書こう。」というものである。

言っていることは、正論ぽく見えるが、学生にとっては、むしろ不安が募るのではないか。就活では、業界や企業の研究をする必要があるとして、そのための本も多く出ているが、企業活動についての実際の知識がない学生にとっては、その中の記述を適当に抜き出すのが精一杯で、ネットの情報に頼るのもやむを得ないといったところだろう。
大事なのは、志望動機の前に、自分が何をやりたいのかを、よく考えてみることだろう。と言っても、それが分かれば苦労はない、ということになるのだろうが、やりたい仕事がはっきりしなければ、ちゃんとした志望動機など、書けるはずがない。
記事では、模範解答について、「これで本当に受かったのか」としているが、私から見れば、やりたい仕事の明確でない学生の志望動機など、その程度のもので、内容については企業もさほどに重きを置いていないのだろうと思える。
そもそも、大手企業なら大量に届く「エントリーシート」の内容になど、採用担当者が個別に時間をかけて吟味しているとは思えない。中には、AI利用のように、いくつかのキーワードが入っているかどうかで選別している企業もあるだろう。
大事なのは、「エントリーシート」がパスするかどうかではなく、就活の中で、自分のやってみたい仕事を見つけ、その仕事を行う上で魅力のある企業を選択することであろう。と言っても、「自分のやってみたい仕事」を見つけるのは、簡単ではない。このことは、就活全般を通じてのテーマであり、社会に出てからも、ずっと考え続けていかなければならないテーマと言えよう。
また、やりたい仕事が決まっても、それを行える企業に採用してもらえるとは限らない。ここが大きなジレンマで、その中で、やりたい仕事を代えたり捨てたりして、とにもかくにも内定を取りたいと焦る状況に陥っていく学生も少なくないだろう。特に、友人たちが次々に内定を取っているようなら、その焦りは増幅することになる。そうなると、自分では意識しなくても、目は血走り、表情は明るさを失って、ますます内定には遠くなる。これが、就活に失敗する学生の典型的なパターンだろうと思われる。
まず、考えて欲しいのは、企業の選択は、これまでの学校の選択のような、偏差値とかで決まるものではないということである。本来は学校の選択でもそうなのだが、有名な企業への就職が、必ずしも充実した職業生活につながるわけではない。この点で、大手企業に内定した学生を羨むといったレベルなら、そもそも真剣な就職活動とは言えない。
もちろん、一般的には、大手企業の方が、中小企業よりも給与も高く待遇も恵まれている。そうした企業への就職を最高の結果と考えるのなら、それも一つの価値観であるが、ありていに言えば、そういう企業には有名大学の学生も大挙して押し寄せるので、競争率も高く、入社後に配属される部署にも、大学名での格差があり得るのが実情である。
充実した職業生活とは何か。私は、自分に向いた、やり甲斐のある仕事に出会うことであると、自分自身の経験にも照らして思う。そのためには、まず、自分のやりたい仕事を、よく考えなければならない。もちろん、学生のレベルの経験や知識で、そんな仕事は簡単には見つけられないであろう。私の場合でも、天職に出会えたのは、会社に入ってから大分経ってからである。しかし、考え続ける努力の中にこそ、光明がでてくる。
話を、「エントリーシート」に戻すと、私は、模範解答に準拠して何ら問題はないと思う。そもそも、学生は文章を書く訓練を十分にしていない。記事では、「ある証券会社に対する合格者の解答」について、「「私は金融業界に関心を持っています。中でも証券業界に関心があるのはこういう理由で、その中で御社を受けるのはこういう理由です」と書かれている。このように3段階に分けて書く意図は何なのだろうか。」としているが、そのように定式化した方が、書きやすいだろうし、問題はない。
記事では、上記の解答は、「その会社が第一志望ではない、といっているようなものだ」としているが、「エントリーシート」の段階で、第一志望を絞り込んでいるわけがないことは、採用担当者にも分かり切っていることである。
アドバイスをするとすれば、模範解答に準拠して構わないが、味付けとして、その企業に特有な事を少し加えた方がよい、ということである。その内容は、その企業のホームページや、その企業名で検索した結果から抜き出せばよい。そもそも、その企業のホームページすら見ないで「エントリーシート」を出すようなら、落ちて当然なのだから。

2020年2月24日月曜日

2020年2月24日 朝日朝刊7面 (記者解説)老後レス時代の生き方

編集委員の真鍋弘樹氏と浜田陽太郎氏による解説という形の論説記事で、「高齢になっても働くのが当たり前、そんな時代がやって来るのだろうか。…老後が消えていく時代の生き方について、「波平さん世代」の記者2人が考えた。」というものである。

真鍋氏は、「支え合い」が前提、働けばメリットも、としているが、「政府は今月初め、「70歳まで働く機会の確保」を企業の努力義務とする関連法案を閣議決定した。いったい何歳まで働けばいいのか……。私もうなだれた一人だ。」と書き出している。
しかし、「高齢で働くことは必ずしも悪い話ではないのかもしれない。」として、「高齢者の希望として「働く場が欲しい」という声が群を抜いて多かったという。」千葉県柏市の調査を紹介している。加えて、「働くことは家に閉じこもりがちな高齢者に明確な外出の目的を与え、活動の幅が有意に広がるなど、健康に良い効果のあることが判明したのだ。」としている。
そして、「職場に行けば仲間がいるというのは大切なこと。高齢になっても働き続けられるようにすることは貧困と孤立の両方を減らす効果がある」という、みずほ情報総研の藤森克彦主席研究員の声も紹介している。
そして、少子化の進展の中では、日本老年医学会も指摘しているように、「高齢者」の定義を変え「、年を重ねても働き続ける選択は、自分自身のみならず、この国に希望をもたらす」ように考えるべであるとしている。
その一方で、「65歳以上の心身の状態はまちまちで、若者並みに働ける人もいれば、介護が必要になる人もいる。」のであり、「健康面で支えが必要な高齢者や、経済的な困難を抱えた人たちも一緒くたにして、「老後に働くのは当然」とばかりに自己責任の論理を押しつける。そんな未来は、悪夢である。」としている。
そして、「人生後半の不安を取り除くセーフティーネットがなければ、喜ぶべきはずの長寿は最大のリスクとなる。働くという「自助」に、社会保障の「公助」を組み合わせ、網から抜け落ちる人を減らすにはどうしたらいいか」については、浜田氏にバトンを渡しつつ、「「高齢になっても働く」という選択は「支え合いの安心」があってこそ。その前提を、社会で共有したい。」と結んでいる。

バトンを受けた浜田氏は、「繰り下げ受給が鍵、備えで年金中継ぎ」として、「「人生100年」時代、安心感を持つために個人の自助努力と社会保障制度を「ベストミックス」させるにはどうすればいいか。参考になるのが「WPP」という考え方だ。」としている。
それは、「働けるうちは長く働く(work longer)。私的年金(private pension)が中継ぎし、最後は公的年金(public pension)で締める。年金の制度と実務に詳しい谷内陽一さん(第一生命)が考案したキャッチフレーズで、2018年の日本年金学会で発表した。」ものとしている。
ここで、「公的年金の受給開始時期は、個人が60歳から70歳の間で自由に選べる。早く受け取る「繰り上げ」受給をすると年金月額は減る。遅くする「繰り下げ」だと増え、70歳からだと約4割増しになる。その分、安心感は増す。国はさらに75歳まで受給開始を待てるようにする方針だ。」というのがカギとしている。
そして、「「繰り下げの勧めは給付をケチりたい政府の陰謀だ」というのは誤解。どの年齢からの受給を選んでも、65歳からの平均余命を生きた場合の受取総額が変わらないよう減額・増額率が決まっているからだ。」としている。
しかし、「こうした準備をしてもなお、不安は残るだろう」として、「健康や病気のこと」という高齢者の不安に触れ、「税や保険料の財源確保は喫緊の課題だ。負担増を国民に説得する姿勢は現政権に感じられないが、それでは「老後レス時代」の安心が得られない、と私は思う。」と締めくくっている。

「老後レス」という少しネガティブな響きのある言葉に対して、不安を和らげる趣のある記事である。不安の源は、知識や認識の不足から来るのだから、記事での年金の「繰り下げ」受給などは、読者も、ちゃんと勉強した方がよいであろう。
 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html
誤解があるように思うのは、65歳になって老齢基礎年金・老齢厚生年金の支給開始の手続き案内が届いた時に、手続きをしなければ自動的に「繰り下げ」の取り扱いになるが、時効期間の5年以内であれば、遡って65歳からの(増額されない)年金を受け取ることができる点である。何も、慌てて支給開始の手続きをする必要はなく、ゆっくり考えて、66歳超70歳までの時点での増額される年金の受給と比較して決めればよいのである。ところが、受給者も年金事務所も、支給開始手続きを急いでいるような気配が感じられる。
受給者の方には、週刊誌情報などに煽られて、「公的年金は破綻するので、早くもらった方がいい」という意識に引きずられている人もいるように思われる。しかし、公的年金が破綻する時は、医療保険などの仕組みも含めて、国が破綻するに等しい状況になるだろう。そういう状況を想定するなら、多少の年金を早くもらったところで、どうにもなるまい。また、もらった年金を銀行預金にしていたら、預金封鎖だってあり得る。さらには、タンス預金にしていたら、振り込め詐欺に狙われる。手元の現金が必ずしも安全はわけではなく、権利としての年金なら詐欺にも遭わないことは、もっと考えてもよいだろう。
一方、年金事務所の方の問題は、支給開始の手続き書類が来ないのは、本人が熟慮して「繰り下げ」の選択をしているのか、何らかの手違いで書類が未着であったり、受給者が忘れて放置しているのかが不明であることではないか。その観点からすると、年金事務所にとっては、支給開始請求の書類が届いた方が安心ということになるであろう。最新の様式は分からないが、年金の支給開始の手続き書類は、かなり難しい。その中に、「繰り下げ」というより、「後日請求を検討」ということを記入できるようになっていればよいのだが、どうであろうか。

違和感があるのは、「WPP」という用語である。記事では、「十数年前、プロ野球の阪神で活躍したリリーフ投手陣は、その頭文字から「JFK」と呼ばれた」ことになぞられた」としている。しかし、わざわざ、このような造語を作る必要があるのか、疑問である。そもそも、この考え方は、目新しいものではなく、私も、2009.10.20号の『エコノミスト』の88-89ページ「年金給付を企業から切り離して第三者機関に」で発表している。
一部に、「つなぎ年金」という用語を嫌っている向きがあるようだが、もともとの英語表記は、「Bridge pension」であり、それには「橋渡し」というイメージが、よく出ている。造語、しかも英語の頭文字表記で、解説をつけないとイメージが分からないようにするのは、似非専門家の自分勝手というものではないか。
用語的には、谷内陽一氏の「継投型」の方が、ずっとイメージが分かりやすい。これは、年金制度だけではない。就職して1社のみで職業生活を終える「完投型」の働き方も、変革を問われている。人生100年時代には、働き方も年金も、「継投型」である必要があるということではないだろうか。

2020年2月23日日曜日

2020年2月23日 日経朝刊1面 投信運用 成功時のみ報酬 農林中金系、個人向けで国内初
2020年2月23日 日経朝刊3面 (きょうのことば)信託報酬 保有者負担の固定管理費
2020年2月26日 日経朝刊7面 野村、信託報酬0%に つみたてNISA向け

最初の記事は、「投資信託の販売競争が激しくなるなか、手数料の改革が加速している。農林中央金庫系の運用会社は4月、投資信託の時価を示す基準価格が最高値を更新した時だけ運用報酬を取る商品を発売する。運用成功時にしか報酬を取らないのは国内の一般個人向け株式投信で初めてだ。」というものである。
「通常は投信を購入すると、残高に応じて一定比率を信託報酬(総合2面きょうのことば)として運用会社、販売会社、事務を管理する信託銀行に支払う。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)が4月に発売する商品は、この運用会社部分をゼロにする。」とのことで、「この投信でも販売会社と信託銀に支払う信託報酬は必要だが、比率は合計で0.3%だ。一般的にアクティブ型投信の信託報酬は計1.5~2.0%のものが多い。」としている。

次の記事は、上記の「きょうのことば」として、信託報酬を説明したもので、「投信を運用する運用会社、販売会社、ファンドの事務を管理する信託銀行のそれぞれの取り分が合算」されており、「国内の公募株式投信の平均では運用会社と販売会社の比率が、それぞれ5割弱を占める。運用会社は成績結果にかかわらず、報酬を固定で受け取ってきた。」としている。

そして、最後の記事は、「野村証券は25日、国内で初めて信託報酬を0%とする投資信託を設定すると発表した。海外株式に投資する投信で、積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)向けの商品。当初10年間、個人投資家はまったく費用がかからずに投信に投資できるようになる。」というものである。この商品では、「野村信託銀行が販売・運用・管理を請け負い、各社が手数料をゼロにする。」としている。

日本での投信の手数料は高いとされてきたが、ネット販売などの拡大により、手数料競争が激化している。背景には、記事のNISAとイデコへの販売拡張の狙いがある。キャッシュレス還元での各社の競争のようなもので、段々と消耗戦の様相を呈してきている。
このような手数料低下については、評価できる点と、首を傾げる点とがある。評価できる点は、従来から高過ぎると言われていた水準が是正され、適正水準に向かう点である。販売手数料は、以前の対面販売からネット販売に移行してきており、引き下げは当然である。ゼロとするのにも、それなりの合理性があるであろう。
また、運用報酬の成果連動型は、当然あり得るものである。成果が上がらなければゼロで、成果が上がった時には多くとるという仕組みは、投資家と運用者とがリスクを共有する仕組みであり、市場経済の中では合理的である。海外では、そのような仕組みも多いようであるから、日本でも、もっと普及すべきであろう。
首を傾げる点は、信託銀行が管理する分の信託報酬である。投信は、販売会社、運用指図者、信託銀行が、それぞれ役割を分担している。その中での信託銀行の役割は、投資資金を管理することで、運用責任は、運用指図者が負っている。販売会社の分の手数料低減、運用指図者の分の成果報酬には、理があるが、信託銀行の資産管理手数料には、水準見直しの余地はあるかもしれないが、ゼロにするいわれはない。記事での野村証券の投信は、「野村信託銀行が販売・運用・管理」としているが、このように3つの機能を一体化させると、利益相反の懸念も出て来る。販売、運用、管理は、それぞれの専門性をベースとすべきものであり、一体化すると効率も低下することになり得る。
このように、投信の手数料競争が激化しているのには、NISAもあるが、確定拠出年金の個人型イデコで、公務員を中心とした加入者が急増していることが背景にあると見られる。一般的には、競争激化によって需給がバランスした適正水準に向かうというのが市場経済の考え方であるが、その前提として独占は排除する必要があり、販売・運用・管理の一体化も、その観点からは問題であろう。日本の投信のコスト関連については、まだまだ見直すべき点が多いように思われる。

2020年2月22日土曜日

2020年2月22日 日経朝刊5面 転職者数 過去最高に 昨年、正規雇用への転換増
2020年2月23日 朝日朝刊7面 (フォーラム)転勤、ざわつきますか:1 家族の負担
2020年2月28日 日経朝刊17面 UAゼンセン松浦会長「同一労働同一賃金を注視」

最初の記事は、「総務省は21日、2019年の月次平均の転職者数が前年比7%増の351万人となり、比較可能な02年以降で最高になったと発表した。半数近くは若手だが、55歳以上の転職者も同72万人と全体の21%を占めた。堅調な雇用情勢を背景に、非正規雇用から正規雇用への転換も増えた。」との記事である。
「転職者は08年のリーマン・ショック発生後に減少したものの、11年以降は増加傾向が続く。特に女性は出産や育児などを経て働き方を変える人も多く、19年の月次平均は9万人増の186万人で、男性の165万人を上回った。」とのことである。
そして、「有効求人倍率も0.01ポイント低下の1.60倍と、過去3番目に高かった。売り手市場が続くなか、当面は転職市場も活況が続きそうだ。」と結んでいる。

次のフォーラムは、「いまの時代になじみにくそうな転勤について考えます。」というもので、シリーズ第1回のこの記事では、「家族の負担」について論じている。デジタルアンケートに寄せられた声の紹介では、「転居も別居も地獄/同行で再就職できず/独身にしわ寄せ」といったものがあげられている。
「転校後、子どもの精神的安定に母親として神経をすり減らして必死に対応」したのに夫から「うちの子どもはなじんだよな?と夫から言われ」て怒りを通り越してあきれた妻の声、「夫が転勤となり、帯同のため勤務先を辞め」ることとなった母親の「保育園に入っていないと私の再就職もできないし、働いていないと保育園にも入れない」という状況で「家族の負担を会社は何も考えていない」という声、一方で「独身子ナシの公務員」の「様々な生き方、働き方を認めるという建前でしわ寄せにあってる人たちがいることを認識してもらいたいし、平等な異動計画をお願いしたい。」との声などが上がっている。
「雇用側としても広い視野をもつ人材は貴重」とする声もあるが、「マイホーム購入後すぐ単身赴任」「父として後悔せぬため辞退」といった事例もあり、「転勤自体が一概に悪いとは言えないと思う。転勤先での新たな業務や人間関係が刺激に感じられたり、新しい価値観を養ったりする機会となるかもしれないので。ただそれを選ぶかどうかの権利が社員にはあるべきと思う。」としているものもある。
記事へのコメントで、法政大学の武石恵美子教授は、「転勤は戦前、キャリア官僚など一部の層で実施されていたのが、戦後、民間企業に広がりました。一つの会社で安定的に雇用が守られる代わりに「どこにでも行く可能性がある」という契約です。」「転勤は、日本の経済成長に重要な安定的な雇用とセットでした。専業主婦が主流だったために成り立った制度とも言えます。」とし、時代が変わり「夫婦2人が働き続けることを前提にすると、「うちの会社だけ」では済まされません。社会全体で考えるべき問題です。」としている。
また、大和総研の菅原佑香研究員は、武石教授と同様の見解を示しつつ、「本当に転勤にメリットがあるのならば、ライフスタイルの制約が比較的少ない、若手の段階に前倒ししてやっていくべきでは。」とした上で、「勤務地域を限定する「限定正社員」を積極的に増やすことも必要です。…ライフスタイルの変化に応じ、正社員と限定正社員を行き来できるなど、キャリアの柔軟な転換も、これから求められます。」としている。

最後の記事は、正規社員と非正規の不合理な待遇差を禁じる「同一労働同一賃金」(4月から大企業に適用)について、「流通や外食の労働組合が集まり、パートや契約社員などの組合員が6割」のUAゼンセンの松浦昭彦会長へのインタビュー記事である。
「関連法や国のガイドラインは賃金や福利厚生を巡って均等・均衡の待遇を求めている。一時金も、業績など貢献に応じて支給する場合は正社員以外にも支払う必要がある。流通や外食では同じ内容の仕事に正社員やパートらが入り交じって働いており、しっかり守られるか注視する」「個別企業の労働組合から、通勤手当や休暇の制度を正社員と同じように改善させることになったという報告がすでに上がっている。ただ、グレーゾーンなどで色々な動きが出てくると思う。格差改善に向けた情報共有を進めたい」という見解が示されている。

最初の記事の転職者の状況については、新型コロナウイルスの影響で、大きく変化する可能性がある。「リーマン・ショック発生後に減少」した以上の影響があるのではないか。リーマン・ショックとの比較では、次のブログで論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200229NA17.html

次の転勤に関する記事を、ここで取り上げたのは、日本の転職者の状況には、日本型雇用の影響が大きく影響していると思われるからである。日本型雇用では、年功序列・終身雇用という仕組みによって労働者を企業内に囲い込み、外部への流出を抑止している。企業内組合も、企業第一として、これを黙認している。その結果、雇用保障の代償として、従業員には転勤命令に従う義務があるわけである。また、この転勤命令の発令は、経営者側の裁量によって行われており、記事で武石教授が言及している「他の社員との公平性を担保するために転勤させる」という業務上の必要性がない場合もあり得るし、転勤拒否者には冷遇や解雇などの懲罰的な取り扱いもあり得る。要するに、転勤は従業員の管理ツールの一つとなっており、「社畜」と呼ばれる状況を作り出すものとなっているのである。

最後の「同一労働同一賃金」に関する記事は、上記の二つの記事とは関連が薄いように思われるかもしれないが、密接な関連がある。日本での「同一労働同一賃金」に向けた施策では、「均等処遇」ではなく、「均衡処遇」という用語が用いられている。この「均衡」が問題で、正社員には時間外労働や転勤に関して非正社員にはない制約があるため、同一の労働に対して同一に賃金が支払われなくとも、必ずしも、それだけで違法ということにはならず、総合的な「均衡」を考える必要」があるというのである。
とりわけ、転勤については、上記の記事で菅原研究員が言及している「限定正社員」というものが出てきているが、これは地域限定の雇用契約であるため、転勤に可能性や負担が軽減されるというものである。
しかしながら、労働による成果や貢献以外に、このような転勤可能性を用いて労働者を管理するのは、権利の濫用ではないのか。正社員の転勤を「限定」するという考え方に立つのではなく、転勤を行う労働者の方を、例えば「グローバル社員」といった形で峻別した上で、実際に転勤をした場合に限って手当等で配慮すれば済む話である。そのようにすれば、正社員と非正規労働者との垣根はなくなり、「同一労働同一賃金」の均等処遇につながるであろう。
私自身、何度も転勤しており、単身赴任も行ってきた。当時は、やむを得ないものとして受け入れていたが、家族の負担も大きかった。転勤は、経営側の都合だけでなく、労働者側の都合ともマッチングさせて行うべきものであろう。人事異動を、将棋の駒を動かすような気持ちで行われたのではたまったものではないし、そこに働く可能性のある情実は、組織の公平公正を損なうものではないか。
2020年2月22日 日経朝刊1面 企業の厚生年金、加入逃れ対策強化 雇用保険の情報活用

「厚生労働省と日本年金機構は、厚生年金の保険料支払いを逃れる企業への取り締まりを強化する。2020年度から4年間を集中対策期間として雇用保険の加入者情報を新たに使って、対象の可能性がある約34万件の事業所に適用するよう指導していく。働き手の老後の年金を増やすとともに、加入者の増加で制度の基盤強化につなげる。」との記事である。
「まず加入対象となる従業員らが5人以上いるか家族以外の従業員を雇う法人事業所で未加入を解消する。」としており、「年金機構はこれまで国税庁から源泉徴収に関する情報提供を受け、厚生年金の適用を増やしてきた。」が、「新たに雇用保険の加入者情報を使うことで就業状況を把握し加入義務のある企業をあぶり出す。」とのことである。
「現在、厚生年金の保険料逃れをしている企業は問い合わせに応じないなど悪質の例が少なくない。年金機構はこうした接触が難しい企業への立ち入り検査に向けて専門組織を立ち上げる。」とのことである。

記事の内容は、当たり前のことで、「加入逃れ対策強化」といっても、この程度のことに過ぎないのか、と思う。同じ厚生労働省の所管である「雇用保険の加入者情報」を、これまで有効活用してこなかったことに呆れる。これでは、厚生省と労働省とを、一体化した意味はないではないか。「問い合わせに応じないなど悪質の例」に対する対応も、手緩いのではないか。そこには、年金保険料の納付をお願いする、というような過去の姿勢が垣間見える。
税も保険料も、国民にとっては同列のものであり、国家を維持する上で欠かせないものである。この観点から、税と保険料の徴収を一元化している国も少なくない。次の論文「国税と社会保険料の徴収一元化の理想と現実」には作成日付がないが、参照の新聞記事からして15年ほど前に書かれたものと思われるが、税に関わる立場から、当時の税務大学校研究部の松田直樹教授によるものである。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/47/matsuda_01/ronsou.pdf
この論文の参照によれば、米国、カナダ、イギリス、アイルランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ハンガリー 、アイスランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、アルベ ニア、アルゼンチン、ブルガリア、クロアチア、エ ストニア、ラトビア、ルーマニア、ロシア、セルビア、スロバニアと、非常に多くの国で徴収一元化が行われているそうである。
論文では、徴収一元化が必ずしも万能の解決策というわけではないとしているが、税と社会保険料の今日的位置づけからしても、事務の効率化の観点からしても、徴収一元化をもっと真剣に考える必要があるのではないかと思われる。

2020年2月21日金曜日

2020年2月21日 朝日朝刊10面 (経済気象台)「高齢者」の捉え方議論を

「全世代型社会保障検討会議の中間報告が昨年12月に公表された」が、「具体的な制度改正は相変わらず高齢者優遇のままだ。これでは、支えてもらう子や孫の世代に申し訳ない気がする。」とする論説である。
そして、「今回の改革では、年齢を基準に「高齢者」と一くくりにする捉え方を見直すことが眼目のひとつである。…本当に困る方に集中して支援する考え方に変えていくことは当然だと思う。」とし、「高齢者による負担のあり方についても同じことが言える。年齢で一律に軽減や免除をするのではなく、負担できる能力、すなわち所得や資産の多寡に応じた負担を求めることが筋である。」というのである。
そして、「問題は負担に公平感を持たせられるかであり、それは所得や資産の適正な把握にかかっている。金融資産の捕捉はそう容易ではないことは事実だが、そのためにもマイナンバー活用の検討を早急に進めるべきである。資産状況の捕捉が進み、負担能力のある人はみな平等に負担せざるをえない状況が作り出されれば、ある程度の金融資産を持つ高齢者なら次世代に負担を押しつけようとはしないだろう。」と結んでいる。

だが、「ある程度の金融資産を持つ高齢者なら次世代に負担を押しつけようとはしないだろう。」という認識は、甘いと言わざるを得ない。そういう気持ちがあるのなら、自分自身の判断でも、対応できることはある。実は、公的年金の給付は、必要性がなければ、辞退できる仕組みになっている。
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/seidokaisei/shikyuteishi/20140421-01.html
しかし、このような「辞退」を選択した者は、どうやら、ほとんどいないようである。私は、政治家や高級官僚など、年金を受給しなくても困らない人達に辞退を促すために。辞退者に「年金勲章」を授与し、その人達のみを受勲の対象にしたらどうかと提案したことがあるが、何のインセンティブもなしに、今日に到っている。
この論説の奇妙な点は、「高齢者」の捉え方を論じながら、その具体的な内容は記述されていないことである。「本当に困る方」というのなら、それは高齢者には限定されない。年齢を問わずに対応を進めるべきであるということなら、「ベーシック・インカム」の考え方に発展して行ってもよさそうだが、その気配は感じられない。結局、「高齢者は優遇されている」という認識をベースに、「負担能力のある人はみな平等に負担せざるをえない状況」を求めているわけだが、そういう状況にならなければ、現状でも仕方がないというようにもとれる。
高齢者の特殊性は、「働きたくても働けない」人の割合が多いということである。肉体的な面だけでなく、精神的な面や社会的な面も影響する。「次世代に負担を押しつけ」を論じる前に行うべきことは、世代内において、助け合いの精神を醸成することであろう。同世代の困窮者に目をやらずに、次世代にばかり目を向けるでは、足元がおぼつかない。世代内と世代間とを俯瞰して考えなければ、「全世代型社会保障」の在り方も、きちんと考察することはできないのではないか。