2020年2月22日土曜日

2020年2月22日 日経朝刊5面 転職者数 過去最高に 昨年、正規雇用への転換増
2020年2月23日 朝日朝刊7面 (フォーラム)転勤、ざわつきますか:1 家族の負担
2020年2月28日 日経朝刊17面 UAゼンセン松浦会長「同一労働同一賃金を注視」

最初の記事は、「総務省は21日、2019年の月次平均の転職者数が前年比7%増の351万人となり、比較可能な02年以降で最高になったと発表した。半数近くは若手だが、55歳以上の転職者も同72万人と全体の21%を占めた。堅調な雇用情勢を背景に、非正規雇用から正規雇用への転換も増えた。」との記事である。
「転職者は08年のリーマン・ショック発生後に減少したものの、11年以降は増加傾向が続く。特に女性は出産や育児などを経て働き方を変える人も多く、19年の月次平均は9万人増の186万人で、男性の165万人を上回った。」とのことである。
そして、「有効求人倍率も0.01ポイント低下の1.60倍と、過去3番目に高かった。売り手市場が続くなか、当面は転職市場も活況が続きそうだ。」と結んでいる。

次のフォーラムは、「いまの時代になじみにくそうな転勤について考えます。」というもので、シリーズ第1回のこの記事では、「家族の負担」について論じている。デジタルアンケートに寄せられた声の紹介では、「転居も別居も地獄/同行で再就職できず/独身にしわ寄せ」といったものがあげられている。
「転校後、子どもの精神的安定に母親として神経をすり減らして必死に対応」したのに夫から「うちの子どもはなじんだよな?と夫から言われ」て怒りを通り越してあきれた妻の声、「夫が転勤となり、帯同のため勤務先を辞め」ることとなった母親の「保育園に入っていないと私の再就職もできないし、働いていないと保育園にも入れない」という状況で「家族の負担を会社は何も考えていない」という声、一方で「独身子ナシの公務員」の「様々な生き方、働き方を認めるという建前でしわ寄せにあってる人たちがいることを認識してもらいたいし、平等な異動計画をお願いしたい。」との声などが上がっている。
「雇用側としても広い視野をもつ人材は貴重」とする声もあるが、「マイホーム購入後すぐ単身赴任」「父として後悔せぬため辞退」といった事例もあり、「転勤自体が一概に悪いとは言えないと思う。転勤先での新たな業務や人間関係が刺激に感じられたり、新しい価値観を養ったりする機会となるかもしれないので。ただそれを選ぶかどうかの権利が社員にはあるべきと思う。」としているものもある。
記事へのコメントで、法政大学の武石恵美子教授は、「転勤は戦前、キャリア官僚など一部の層で実施されていたのが、戦後、民間企業に広がりました。一つの会社で安定的に雇用が守られる代わりに「どこにでも行く可能性がある」という契約です。」「転勤は、日本の経済成長に重要な安定的な雇用とセットでした。専業主婦が主流だったために成り立った制度とも言えます。」とし、時代が変わり「夫婦2人が働き続けることを前提にすると、「うちの会社だけ」では済まされません。社会全体で考えるべき問題です。」としている。
また、大和総研の菅原佑香研究員は、武石教授と同様の見解を示しつつ、「本当に転勤にメリットがあるのならば、ライフスタイルの制約が比較的少ない、若手の段階に前倒ししてやっていくべきでは。」とした上で、「勤務地域を限定する「限定正社員」を積極的に増やすことも必要です。…ライフスタイルの変化に応じ、正社員と限定正社員を行き来できるなど、キャリアの柔軟な転換も、これから求められます。」としている。

最後の記事は、正規社員と非正規の不合理な待遇差を禁じる「同一労働同一賃金」(4月から大企業に適用)について、「流通や外食の労働組合が集まり、パートや契約社員などの組合員が6割」のUAゼンセンの松浦昭彦会長へのインタビュー記事である。
「関連法や国のガイドラインは賃金や福利厚生を巡って均等・均衡の待遇を求めている。一時金も、業績など貢献に応じて支給する場合は正社員以外にも支払う必要がある。流通や外食では同じ内容の仕事に正社員やパートらが入り交じって働いており、しっかり守られるか注視する」「個別企業の労働組合から、通勤手当や休暇の制度を正社員と同じように改善させることになったという報告がすでに上がっている。ただ、グレーゾーンなどで色々な動きが出てくると思う。格差改善に向けた情報共有を進めたい」という見解が示されている。

最初の記事の転職者の状況については、新型コロナウイルスの影響で、大きく変化する可能性がある。「リーマン・ショック発生後に減少」した以上の影響があるのではないか。リーマン・ショックとの比較では、次のブログで論評している。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/02/20200229NA17.html

次の転勤に関する記事を、ここで取り上げたのは、日本の転職者の状況には、日本型雇用の影響が大きく影響していると思われるからである。日本型雇用では、年功序列・終身雇用という仕組みによって労働者を企業内に囲い込み、外部への流出を抑止している。企業内組合も、企業第一として、これを黙認している。その結果、雇用保障の代償として、従業員には転勤命令に従う義務があるわけである。また、この転勤命令の発令は、経営者側の裁量によって行われており、記事で武石教授が言及している「他の社員との公平性を担保するために転勤させる」という業務上の必要性がない場合もあり得るし、転勤拒否者には冷遇や解雇などの懲罰的な取り扱いもあり得る。要するに、転勤は従業員の管理ツールの一つとなっており、「社畜」と呼ばれる状況を作り出すものとなっているのである。

最後の「同一労働同一賃金」に関する記事は、上記の二つの記事とは関連が薄いように思われるかもしれないが、密接な関連がある。日本での「同一労働同一賃金」に向けた施策では、「均等処遇」ではなく、「均衡処遇」という用語が用いられている。この「均衡」が問題で、正社員には時間外労働や転勤に関して非正社員にはない制約があるため、同一の労働に対して同一に賃金が支払われなくとも、必ずしも、それだけで違法ということにはならず、総合的な「均衡」を考える必要」があるというのである。
とりわけ、転勤については、上記の記事で菅原研究員が言及している「限定正社員」というものが出てきているが、これは地域限定の雇用契約であるため、転勤に可能性や負担が軽減されるというものである。
しかしながら、労働による成果や貢献以外に、このような転勤可能性を用いて労働者を管理するのは、権利の濫用ではないのか。正社員の転勤を「限定」するという考え方に立つのではなく、転勤を行う労働者の方を、例えば「グローバル社員」といった形で峻別した上で、実際に転勤をした場合に限って手当等で配慮すれば済む話である。そのようにすれば、正社員と非正規労働者との垣根はなくなり、「同一労働同一賃金」の均等処遇につながるであろう。
私自身、何度も転勤しており、単身赴任も行ってきた。当時は、やむを得ないものとして受け入れていたが、家族の負担も大きかった。転勤は、経営側の都合だけでなく、労働者側の都合ともマッチングさせて行うべきものであろう。人事異動を、将棋の駒を動かすような気持ちで行われたのではたまったものではないし、そこに働く可能性のある情実は、組織の公平公正を損なうものではないか。

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