2020年2月26日水曜日

2020年2月26日 日経夕刊5面 会社員の夫65歳、妻の年金は? 60歳未満なら国民年金に加入

問題形式で、「会社勤めで厚生年金に加入しています。先日65歳になり、勤務先から58歳の妻について「第1号被保険者への手続き」をするよう連絡がありました。妻は専業主婦ですが保険料の支払いが必要になるのでしょうか。」という質問に対して、特定社会保険労務士の篠原氏が答えるという記事である。
「一般に夫が厚生年金に入っていれば、扶養される妻は「第3号被保険者」となり、原則60歳まで保険料負担なしで65歳から老齢基礎年金を受け取れます。」という原則を述べた上で、「現制度では厚生年金には70歳まで加入できます。その間、妻の保険料も免除されると勘違いしがちですが、夫が年金受給権の発生する65歳に達すると、60歳未満の妻は国民年金の保険料を納めなくてはならない「第1号被保険者」に切り替わります。5歳以上年の離れた夫婦は注意が必要です。」というのが回答である。以下は、手続き方法などである。

この仕組みは、珍妙に見える。厚生年金被保険者の被扶養者なら第3号被保険者にするというのなら、夫が70歳まで厚生年金に加入していれば、引き続き、被扶養者の妻は第3号被保険者になると考えるのが普通であろう。
とろこが、そうはなっていない。その理由は、厚生年金被保険者が国民年金の第2号被保険者となる期間は65歳到達時までであり、第3号被保険者として取り扱われるのは、第2号被保険者に扶養されている場合だからである。このため、「5歳以上年の離れた夫婦は注意が必要です」ということになるのである。
では、厚生年金被保険者が第2号被保険者となる期間については、国民年金というか基礎年金の給付に反映されるのだろうか。国民年金の被保険者であり、厚生年金の保険料に中には、基礎年金の保険料も含まれているわけだから、当然にそうなっていると考えるのが自然であろう。ところが、これもそうなっていない。
どうなっているかというと、厚生年金被保険者は、60歳以降65歳までの間は国民年金の第2号被保険者にはなるが、国民年金の保険料納付は要しないというか納めていない取り扱いになるのである。したがって、この期間については、基礎年金の給付には反映されず、厚生年金保険料の中に含まれる保険料は、「掛け捨て」の状況になる。
そんなのおかしい、と思う人は多いだろう。この「掛け捨て」状態は、60歳以降ずっと続くので、政府は70歳を超えての就労も推奨してきているが、年金保険料的には、厚生年金に加入し続けると割損の状態が続くということになるのである。
これは、1985年の公的年金の再編成時において、従来の国民年金と厚生年金との保険料と給付の調整を行うに際して、当時の法定定年年齢が60歳であったことから、60歳以上の厚生年金被保険者は一般的ではないとして取り扱われたものと思われる。
しかし、それでも、大卒22歳で会社に入ってずっと厚生年金被保険者であった人が60歳以降も継続して勤務して厚生年金の保険料を支払ったとしても、基礎年金の給付は38年分となってしまうのでは、割り切れないであろう。それでは、旧国民年金と旧厚生年金との再編成に支障をきたすことにもなる。そこで、この場合の60歳を超える期間については、厚生年金側において、40年に満たない2年分の給付を定額部分として特例的に支給するという取り扱いにしているのである。
しかし、それでも、今度は、高卒18歳で会社に入ってずっと厚生年金被保険者であった人は、60歳どころか、58歳時点で基礎年金が40年満額となり、それ以降の期間については、厚生年金側からの定額部分の特例支給も行われないことになる。そこで今度は、長期加入者の特例給付として、「44年以上厚生年金保険に加入している特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前に、退職などにより被保険者でなくなった場合、報酬比例部分に加えて定額部分も支払われます。」ということにしているのである。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/jukyu/2018110702.html
何とも複雑であり、上記のような再編成時のままの対応では、60歳を超えての就労が一般的となり、70歳を超えての就労の促進も図るという状況下においては、早急な整理・見直しが必要であろう。
さて、話を第3号被保険者に戻すと、今では妻が年上の夫婦も珍しくないが、再編成当時においては妻が年下であるのが大勢であり、夫の第2号被保険者を60歳にしてしまうと、60歳到達時点で60歳未満の妻は第3号被保険者の資格を失って第1号被保険者となり、国民年金の保険料を納付しなければならなくなる。これは問題になるということで、妻が夫より5歳年下である間は、第3号被保険者でいられるように、厚生年金被保険者が国民年金の第2号被保険者となる期間を65歳までとしたものと推察される。一方で、国民年金の保険料納付期間は60歳までであるから、60歳以上の厚生年金保険料には国民年金分の保険料は含まれず、基礎年金の給付には反映されないとしたということであろう。
ところが、このことを悪用して、公務員を60歳を超えても確定拠出年金の個人型年金(イデコ)に加入させるという悪辣な企みが進んでいる。憤懣やる方ないが、このことについては、次の「年金時事通信」を参照されたい。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/tusin/19-015.pdf
旧国民年金と旧基礎年金の再編成が行われてから、約45年になる。今回2019年の財政検証を受けた検討でも、その仕組みの抜本的な再検討は行われなかった。どんな制度でも、そんなに長きにわたって大きな点検・調整をしないで続けられるものではない。次回2024年の財政検証に向けて、半世紀を経る基礎年金制度の徹底再検討は、今からが正念場になる。

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