2020年2月27日木曜日

2020年2月27日 日経朝刊11面 韓国出生率 最低0.92 昨年、若者の生活費負担重く
2020年2月25日 日経朝刊2面 (社説)柔軟な働き方が危機に役立つ

「韓国統計庁が26日発表した韓国の2019年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は0.92となった。18年に初めて1を下回り世界最低水準となったが、低下に歯止めがかからない。文在寅(ムン・ジェイン)政権は少子高齢化対策に力を入れるが、成果があがっていないのが実情だ。」という記事である。
「韓国の出生率が低いのは複合的な要因が絡んでいる。漢陽大のハ・ジュンギョン教授は「出産すると職場復帰しにくい労働環境、重い教育費負担、住宅価格の高騰などで、女性が出産をためらっている」と指摘する。」とのことである。
「女性の社会進出が進む一方、育児との両立のハードルはまだ高い。」とのことであり、「若年層の所得の伸びは40代後半~50代に比べて低い。造船や自動車部品など製造業では子育て世代の30~40代がリストラ対象になり、出生率にも影響を与えた」と先の教授は指摘しているそうである。

一方、25日の社説では、「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、在宅勤務制度の活用や時差出勤を呼びかける企業が相次いでいる。働く場所や時間を社員が柔軟に選べるようにしておけば震災などの災害時にも役立つ。今回の事態を機に備えを固めたい。」としている。
「新型ウイルスやそれによる肺炎の拡大の抑制策として着目されているのが、会社に出勤せずに働くテレワークだ。在宅勤務が代表的で、通勤の混雑を避けるサテライトオフィス勤務などもある。」とし、「同様に勤務時間帯を柔軟にする方法としては、裁量労働制もある。災害時に企業が人員を確保し、事業を継続する手立てにもなる。生産性向上に資する裁量労働制は、一部の専門職などに限られている対象業務の拡大が見送られたままだ。非常時の備えとしても使いやすい制度への改革が急務だ。」というのである。

韓国の出生率の低下は、想像を絶する。現在の日本の出生率は、全国平均で1.42だそうであるが、それでも、将来の人口は急減し、社会に大きな影響が及ぶものとされている。
韓国の状況には、様々な要因が影響しているとされるが、儒教文化を背景に、家族間での助け合いが強調され、高齢の親を家族内で世話するのが当然とされてきたようである。これは美徳とされてきたが、結局、女性の社会進出を遅らせ、年金制度の発展を阻害する原因ともなったようである。加えて、男尊女卑の風土も色濃く、経済力をつけた女性にとっては、結婚や育児に対する忌避感が大きいと聞く。最も人気が高い結婚相手は、親が公務員である場合で、その理由は親に年金があり、経済的・精神的負担が小さいからだという。
この状況は、日本でも、他人事ではない。つい数十年前まで、日本の女性の置かれた状況は、韓国と同様であった。今は、働き方改革や出産・育児の支援が叫ばれているが、女性の正社員が出産・育児で退職すれば、復職後の働き方は非正規労働者になるという状況は、まだまだ続いているし、そもそも就職の際にも、男女差別は少なからず残っている。

一方、25日の社説の方は、新型コロナウイルスによる非常事態に対して、テレワークなど、柔軟な働き方で対応できる面があることを評価するものである。そのことには異存はないが、かねてからの日経の主張である裁量労働制の拡大を、この時とばかり持ち出していることは、いただけない。
そもそも、働き方改革の推進の中で明白となってきているのは、企業が、きちんとした労働者の勤務時間管理をしてこなかったという事実である。それが、サービス残業や過労死といった社会的問題につながっていたのである。
このような状況の中で、「生産性向上に資する裁量労働制」などというのは、あまりにもそらぞらしい。時間でなく成果で測って報酬を払う、というけれども、労働組合側が危惧しているように、時間管理が労働者の自己責任とされ、結果的に、統計上表れる形式上の労働時間が減少するだけではないのか。そのような実労働時間を反映しない労働生産性など、まったく意味がない。企業は、まず、きちんとした勤務時間管理を行うべきである。違法な時間外労働や、時間外賃金の不払などを起こしている企業における裁量労働制は、適正な運用などできるはずがないのだから、禁止すべきである。
柔軟な労働時間は、労働者にとって有益なものであって初めて意味を持つ。裁量労働制など持ち出さなくとも、出退勤に柔軟性を持たせれば、仕事と家庭の両立に、大きく寄与するであろう。

なお、蛇足ながら付言すれば、安倍首相が突如として打ち出した小中高校の3月2日からの休校検討の指示には、大きな問題がある。あまりに唐突であり、25日の政府の専門家会議でも、検討されなかったようである。一説には、新型コロナ感染者が全国最大で感染者が続く北海道知事の休校要請(が評判が良かったもの)を模したものとされているが、教育現場にも波及し、全道的な感染拡大を阻止する緊急性に駆られた北海道と、全国単位とでは、状況が異なる。
すでにマスコミ報道で、多くの弊害が指摘されているが、とりわけ深刻なのが、働く女性の育児への影響である。ある病院では、女性看護師の多くが休業をやむなくされ、外来診療にも影響があるそうである。このような悪影響は、全国的に想定され、重大な時期と言いながら、医療現場の崩壊にもつながりかねない愚策である。
従来より、インフルエンザのような感染症に対しては、学級閉鎖といった措置がとられ、それなりの効果をあげている。リスクの高い高齢者が同居する家庭についての自主休校を認める(その高齢者が児童の世話をすることが可能である)など、効果的な対策は、少し日時をかけるだけで、いくらでも検討できたのであろう。
一方で、新型コロナの検査体制は、世界中で最も貧弱であると言わざるを得ない。緊急対策が必要なのは、その体制の変革であろう。「正しく恐れよ」といいながら、感染者の状況も正しく把握できないのでは、話にならない。きちんと検査すれば、日本の感染者数は、検査体制が拡充している韓国の比ではなく、中国に続く状況になっているのではないかとすら思える。これでは、世界が日本を信用しないのも当然で、東京オリンピック・パラリンピックの開催など、寝言になりかねない。

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