2020年3月13日金曜日

2020年3月13日 日経朝刊25面 ●(私見卓見)大学での学業生かす新卒採用を

リクルートワークス研究所の茂木洋之研究員による寄稿で、「2021年卒の就職活動が本格化している。リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」によると20年卒の大卒求人倍率は1.83倍と、企業は採用困難な状況だ。21年卒も続くとみられる。」としている。
そこで、「企業は学生の本分である大学での学業をもっと評価してはどうか」と提案し、背景として、「今の学生はよく勉強する。総務省の「社会生活基本調査」によると、16年時点の学生の1週間あたりの勉強時間は238分と、20年前の1996年(177分)より34%長い。また当研究所の「全国就業実態パネル調査」では「学生時代に勉強していたか」との問いで、今の20代は「勉強していた」という回答が60代より7.5ポイント高い。」という。一方で、「大卒求人倍率調査では新卒採用で学業(成績)をみる企業はわずか6.7%。日本企業は正社員中心の職場内訓練(OJT)を重視し、大学名で学生の潜在能力を判断して採用後に育成してきた。文系では大学で学んだことが企業での仕事に直結しにくい。」としている。
これに対し、「しかし今後は転職市場が発達し、雇用が流動化するだろう。企業も従来のように新卒の学生を一から育てる人的投資を回収できる保証はなく、教育訓練費用は重荷になっている。IT(情報技術)はここ十数年で格段に進歩している。一部の専門能力は大学での育成に期待がかかるはずだ。学生は大学で学ぶことで人的資本を蓄積し、新卒でも即戦力となることが求められるケースも増えよう。IT系のスキルを持つ人材が厚待遇で迎えられるのはその兆しだ。」というのである。
そして、「今後は修士や博士ももっと評価されるべきだ。そもそも教育サービスは労働市場における派生需要で、企業内訓練の一部を大学が負担する流れは自然だ。大学が一様に「就職予備校」となるのは望ましくないが、ある程度は企業のニーズにあう教育が必要だ。」とし、「企業が必要なスキルを身に付けた学生をエントリー段階で選別するには、大学の受講科目や成績、ゼミといった学業が一つのシグナルになる。大学での訓練は、企業にコストがかからない。企業が求める人材を大学が育てれば学生はさらに勉強し、シグナリング機能が高まるだろう。好循環を促し大学での学びと労働市場におけるスキルのつながりを強化すべきだ。」と結んでいる。

主張している内容には、違和感はない。しかし、如何せん、コロナ・ショックで事情は激変した。就職戦線は様変わりし、企業は、手当たり次第に学生を確保するのではなく、採用数を厳選するようになるだろう。そのことは、期せずして、学業成績にも重きを置くようになるはずである。もっとも、「修士や博士」の評価向上については、修得内容と企業ニーズがマッチするかどうかに加え、新卒一括採用などの日本型雇用の変革が必要であろう。
ただし、学生の「勉強」が評価され得るものかどうかには、疑問がある。本来、大学は、知識をつけるというよりは、自ら考え判断する力を養う場ではないかと思う。一方、講義内容からして、「新卒でも即戦力となる」とは到底思えない。そもそも実社会では、問題の解決の前に、問題を発見することが重要になる。「自ら考える力」が必要なのはそのためで、この点では、知識詰め込みを重視してきた日本の教育は、大きく見劣りする。
ともあれ、この論説の言う「採用困難な状況」が続くとは思えない。下記のブログで、すでに内定取消が発生していることにも触れたところである。
こうした新たな厳しい状況に対しては、ここ数年の就活ノハウなど、役には立たないだろう。「大学生の新卒採用が売り手市場なのは、少子化とは関係のない、好景気による一時的なものだ」とし、「不況が来れば氷河期は襲来する」と雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が危惧していた就職氷河期が、コロナ・ショックで予想より早く襲来しそうである。
中小企業にとっては、むしろ人材確保のチャンスになるという氏の力説に、対応できる企業は数少ないだろうが、学生にとっては、この事態こそが、良質の中小企業を見分ける機会となる。「寄らば大樹の陰」で、大企業に傾斜していく気持ちは分かるが、それは、すべての学生が考えるわけだから競争率も高くなり、企業側も、少なくなる採用枠の中では、寄りかかろうとするだけの学生を振り落とすことが必須の状況になる。
投資の世界には、「人の行く裏に道あり花の山」という言葉がある。他人と同じ事をしていたのでは、成果を上げることはできないという意味であるが、例えば、現在急落している株式市場で、多くの人が狼狽売りに走っているが、投資のプロなら、慌てずに、じっと買い場を探しているということになるわけである。これは、人生全般に通じる。「ピンチこそチャンス」なのである。こんな時だからこそ、中小企業に目を向け、可能なら仕事場を訪問して、話を聞いて見るといい。たとえ入社することにはならなくても、実社会の姿を垣間見ることができるだろう。

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