2020年3月3日火曜日

2020年3月3日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)人手確保 「買い手市場」事務職で 熟練者は異動、他領域で活用

就活理論編を担当する雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による説明で、「前回までは、「遠くない将来に来る不況期の採用について」考えてきた。今回は、当面まだ続く好況期に、どうやって人を手当てするかについて、ヒントとなる話をしておこう。」というものである。
「実は、史上最高の人手不足といわれる中でも、求人職種によって、渇望感には差がある。営業や製造、エンジニアなどはもう、絶望的なほどに人材が足りない。一方で内勤職、とりわけ、事務職やアシスタント職に関しては、それほど採用が難しいとは言えない。」とし、「新卒採用ともなると、女子大や短大を卒業予定の学生たちの事務職志向は強い。一方で企業は一般職事務員の採用を絞っているため、昨今でも買い手市場感が漂う。この温度差を採用戦術に利用するのだ。」というのである。
その骨子はいたってシンプルとし、「長らく内勤だった熟練事務職社員を営業や生産管理などの「人手不足」領域に社内異動させるのだ。そして、空席となった事務職のポジションで新卒採用を行う。こうすることで、本来なら営業や生産管理を募集しなければならなかったところが事務職の新規採用で済む。求人職種転換がなされたといえる。」とする。
氏は、「これを進めている会社を少なからず知っている」とし、「本人の「気持ち」の問題」が大きいが、「そこをクリアできた企業は、ある面、「運」があった。」とし、「社長が亡くなり、事務担当だった妻がそのあとを継いだ。もしくは、離婚で実家に帰った社長の娘が、事業に携わるようになった。」という例を上げ、「内勤から営業に人が異動でき、結果、新規採用は内勤事務職で事足りる体制となっている。」というのである。

就活についての記事とされているので、これを読んだ学生は、ちょっと違和感を覚えるかもしれない。この記事もそうだが、ここ数回の海老原氏の説明は、企業側、それも中小企業に向けられたものだからである。だが、氏の提言が中小企業に容れられれば、就活の状況にも大きな変化が生まれることになる。
事務職志向が強いのは、何も、「女子大や短大を卒業予定の学生たち」だけではないだろう。「営業や生産管理」は、新入社員がいきなり活躍できるような職種ではない。大手企業なら、まず事務的な仕事に就かせた上で、少し時間を経てから、そうした仕事に配置転換することが多いのではないかと思われる。ただし、「製造、エンジニア」といった技術的知識を要する職種については、このことは当てはまらない。
氏は、「事務職で請求や納品、支払いなどを管理していたスタッフは、顧客や商品、製造工程などについて、かなりよく知っている。基礎知識についてはバッチリだ。」としている。確かに、新人に比べれば、会社の内外の事をよく知っているから、営業などでの戦力化は期待できる。
ただ、「本人の「気持ち」の問題」は簡単ではない。対人接触が苦手として、事務的仕事を選んだ人もいるだろうからである。しかし、こうした配置転換を受け入れることは、本人にとっても、良い機会になる。こなせる仕事が増えることは、それだけ活躍の場を広げ、不況になって企業を離れざるを得なくなった場合の求職でも有利だからである。
実は、これは、欧米流の「ジョブ型雇用」に対する「日本型雇用」の特殊性を利用するものである。「ジョブ型雇用」なら、事務の仕事で採用された人が営業に回ることなど考えられない。しかし、日本型雇用では、事務職だろうと職種限定の雇用契約ではないから、そのような配置転換も可能である。そして、このことが、不況になっても解雇を避けるという企業行動につながってきたものとされている。
実は、日本的雇用のこの部分は、評価する向きも多い。新卒一括採用から社内教育による戦力化の過程は、欧米にみられる若年層の高い失業率を避ける上で、効果を発揮しているという見方である。問題は、その仕組みの流れが延々と定年まで続き、専門性の向上や人材の流動化を阻害していることにある。その観点から、採用方法を、10年程度の有期雇用による育成枠採用と、5年程度の有期雇用の即戦力採用とに分けてはどうかと、私は考えている。
ともあれ、「当面まだ続く好況期」への対応ということだが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、「遠くない将来に来る不況期」は、もはや目前に迫っているのではないか、という状況になってきた。しかし、氏が述べている「新規採用は内勤事務職」とし、「熟練事務職社員を営業や生産管理」に社内異動させるという方式は、不況期においても有効なのではないか。それなら、新規採用を極端に減らす必要はなく、むしろ優秀な人材を獲得するチャンスなのかもしれない。企業経営者にとっては、不況期こそ、経営手腕が問われる時期なのである。

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