2020年2月29日土曜日

2020年2月29日 日経朝刊28面 定年後のお金、3分法で使う 日常の生活費 年金で賄って

経済コラムニストの大江英樹氏による解説で、「資産管理には「資産3分法」や「財産3分法」という考え方があります。リスク分散のため一つの資産に集中せず、異なる複数の資産で持つべきであるとの考え方です。運用では「株式・債券・不動産」に分けたり、不動産の代わりに金を入れるのも一般的です。」というものである。
その上で、定年シニアが実践したい3分法」として、ご自身の経験をベースに、「(1)年金収入(2)定年後の勤労収入(3)定年までに蓄えた資産や退職金――の3つに区分し、異なる使途に充てるというものです。」を紹介している。特に、年金収入については、「公的年金は定年退職後の日常の生活費に充て、支出すべてを公的年金で賄えるようにコントロールします。」としており、「行き当たりばったりだと老後の生活プランが大きく狂いかねません。」と警告している。

「金を入れるのも一般的」とは思えないが、財産3分法は、現役時代の考え方としても、貯蓄・株式・不動産の3つにリスク分散する方がよいとされている。このアドバイスは、収入源についての3分法ということになる。
しかし、私自身の状況を考えても、公的年金で日常の生活費のすべてを賄うのは、難しいのではないか。実際のところは、なるべくそのように心がけながらも、不足分を私的年金(企業年金や個人年金)あるいは勤労収入や資産の取り崩しで賄っているケースが多いのではないかと思われる。
しかし、このような対応のうち、私的年金による補完対応が、今後は難しくなってくるものと思われる。企業年金における主力であった確定給付型の企業年金制度が減少してきており、退職金を年金として受給できる選択肢がなくなってきているからである。この減少の一方で、退職金の前払資金を個人が運用する確定拠出年金制度(企業型)への切り替えが増えているが、たとえ運用がそこそこうまくいったとしても、定年後に年金として受け取る途は、運用商品の一つである個人年金を購入するしかなく、実際には一時金で受給する人が大半である。この状況は、個人が老後に向けて自身の資金を託す確定拠出年金制度(個人型)においても同様である。
なお、これまでのシニア世代においては、確定給付型の企業年金制度での年金選択は一般的ではなかったが、それには理由があった。老後の安全・安心を図る上でも、住居の確保は重大な問題であり、持ち家を確保することが優先課題だったのである。それ故に、定年退職時において、退職金やそれが変じた企業年金の一時金受給により、住宅ローンの残金を返済するという用途が一般的だったのである。ところが、いざとなった時に売却して資金を得る持ち家の価値の方も、少子高齢化の進展で空き家が大きな社会問題となっているように、急減してきている。
そのような状況下において、年金を選択する退職者は少しづつ増えてきていた。ところが、そのことが、不透明な投資環境の中で、確定給付型の企業年金制度の側の負担を大きくすることになっていったのである。このような年金受給権者の増加が、企業が確定給付型企業年金から確定拠出年金に切り替える最大の要因であると思われる。
かくして、今後は、私的年金に頼りにくい状況になっていく。しかも、公的年金も、同じく少子高齢化の影響で、今後は縮減が避けられない状況にある。そうした状況変化に対しては、どのように対応すればよいのであろうか。
一つは、可能な限り、公的年金の受給を後倒し(年金用語では「繰下げ」)とすることである。繰下げにすれば、年金額は増額されることになる。その理由は、年金の受給期間が短くなるので、受給期待総額が変わらないように増額しても、基本的に年金財政には影響がないからである。この繰下げによる増額率は月あたり0.7%で、65歳からの受給を現在の最長可能年齢である70歳まで繰下げれば、年金額は42%増となる。しかも、それが死ぬまで続くのである。さらに、この最長年齢は75歳まで延長されようとしている。
もう一つは、やはり私的年金を年金として受給する選択肢を拡張することである。現在は、自営業者によっての国民年金基金からの年金受給と、会社員にとっての確定給付企業年金からの年金受給しかないが、後者は、前述したように制度自体が減少しつつある。企業にとっては、退職者の管理が何十年にもわたって必要となる確定給付企業年金の維持は、ますます困難な状況になっている。特に中小企業にとっては、事務管理の負担も大きいであろうし、退職者の視点からしても、一般的に経営基盤が脆弱な中小企業の制度に、虎の子の退職金を預けるのには二の足を踏むこともあるだろう。
このような観点から、私は、確定給付企業年金や確定拠出年金、さらには退職金の資金も受け入れて年金という権利に転換する、次のような「年金給付機構」(仮称)を、長年にわたって提唱している。
いずれにしても、寿命が延びた次の世代は、長く働くことが必要になってくる。その就労の後の老後の所得保障をきっちりと支える必要があることは、これまでと変わるものではない。その点を見据えた私的年金の再構築は、喫緊の課題であろう。
2020年2月29日 日経朝刊17面 (大機小機)新型コロナ、リーマン級だが一過性

「大機小機」の方は、「新型コロナウイルスによる感染症の拡大は日本経済に大きな影を投げかけている(以下これをコロナショックと呼ぶ)。今後、2020年1~3月期の経済の実態が明らかになるにつれて、このコロナショックの深刻な全体像が見えてくるはずだ。」との論説である。
「ショックが日本経済に影響を及ぼす主なルートは次の3つ」として、①サービス輸出(外国人観光客の消費)の減少、②財の輸出の減少、③不要不急の外出が控えられることによる経済活動の萎縮、をあげている。
そして、「コロナショックの衝撃はリーマン・ショック並みとなりそう」だが、「リーマン・ショック級の影響が出るが一過性」というのが、今回のコロナショックの特徴だとしている。
その上で、「今こそ本物の緊急経済対策の出番」とし、「信用保証などで短期的な売り上げの落ち込みが雇用や経営に影響しないように配慮すべきだろう。」と結んでいる。

コロナショックの影響は、広範にわたっており、「リーマン・ショック」になぞらえる議論が多くなっているが、果して、「リーマン・ショック並み」の規模で、「一過性」ということに収まるのだろうか。そもそも、ここでいう「一過性」の意味が、よく分からない。例えば、「リーマン・ショック」は一過性だったとしているのだろうか。東日本大震災ですら、また発生する可能性が少ないということなら、「一過性」になり得る。
影響が長く広範に続くかどうかという点でいうと、コロナショックは、リーマン・ショックの比ではないのではないか。リーマン・ショックは、突き詰めればカネの問題であり、世界中でカネ不足が起きたことによって、金融機関や企業の活動に制約が生じて、経済活動の停滞をもたらした。コロナショックでも世界的な株価の暴落によって、その様相を呈しているが、さらに深刻だろうと思うのは、ヒトの活動にも大きな制約や影響を及ぼしていることである。上記③の外出抑制による消費レベルにとどまらず、生産現場などの供給レベルにも、大きな影響を及ぼしている。
このコロナショックの震源地が中国であったことは、世界経済を牽引してきたとされる中国の社会・経済体制の脆弱性を浮き彫りにしたといえるであろう。中国からの観光客に依存し、中国での生産に依存してきた日本にとって、その影響は、世界中のどの国よりも大きいのではないか。国内での感染蔓延を抑止するためには、早期に中国からの入国を抑制すべきであったと思うが、そうしなかった(今も全面的にはしていない)のには、こうした依存性があったのであろう。結果として、同じく入国規制を行わなかった韓国では感染者が急増しており、検査体制が整わずに十分な感染検査すら行えていない日本では、感染者数の実態把握すら行えていない。
「一旦感染が収まれば、V字回復になるはず」と記事はしている。どのような事態においても、収束すれば、それまでの抑制が解除され、回復することにはなる。しかし、東日本大震災に見られるように、回復したとしても、惨事の傷跡は長く残り得る。未来志向は大事だが、惨事と向き合って様々な対応を行うことは、それ以上に大事であろう。雇用や経営への影響が短期的な「一過性」で済むようには、私には思えない。

2020年2月27日木曜日

2020年2月27日 日経朝刊11面 韓国出生率 最低0.92 昨年、若者の生活費負担重く
2020年2月25日 日経朝刊2面 (社説)柔軟な働き方が危機に役立つ

「韓国統計庁が26日発表した韓国の2019年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は0.92となった。18年に初めて1を下回り世界最低水準となったが、低下に歯止めがかからない。文在寅(ムン・ジェイン)政権は少子高齢化対策に力を入れるが、成果があがっていないのが実情だ。」という記事である。
「韓国の出生率が低いのは複合的な要因が絡んでいる。漢陽大のハ・ジュンギョン教授は「出産すると職場復帰しにくい労働環境、重い教育費負担、住宅価格の高騰などで、女性が出産をためらっている」と指摘する。」とのことである。
「女性の社会進出が進む一方、育児との両立のハードルはまだ高い。」とのことであり、「若年層の所得の伸びは40代後半~50代に比べて低い。造船や自動車部品など製造業では子育て世代の30~40代がリストラ対象になり、出生率にも影響を与えた」と先の教授は指摘しているそうである。

一方、25日の社説では、「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、在宅勤務制度の活用や時差出勤を呼びかける企業が相次いでいる。働く場所や時間を社員が柔軟に選べるようにしておけば震災などの災害時にも役立つ。今回の事態を機に備えを固めたい。」としている。
「新型ウイルスやそれによる肺炎の拡大の抑制策として着目されているのが、会社に出勤せずに働くテレワークだ。在宅勤務が代表的で、通勤の混雑を避けるサテライトオフィス勤務などもある。」とし、「同様に勤務時間帯を柔軟にする方法としては、裁量労働制もある。災害時に企業が人員を確保し、事業を継続する手立てにもなる。生産性向上に資する裁量労働制は、一部の専門職などに限られている対象業務の拡大が見送られたままだ。非常時の備えとしても使いやすい制度への改革が急務だ。」というのである。

韓国の出生率の低下は、想像を絶する。現在の日本の出生率は、全国平均で1.42だそうであるが、それでも、将来の人口は急減し、社会に大きな影響が及ぶものとされている。
韓国の状況には、様々な要因が影響しているとされるが、儒教文化を背景に、家族間での助け合いが強調され、高齢の親を家族内で世話するのが当然とされてきたようである。これは美徳とされてきたが、結局、女性の社会進出を遅らせ、年金制度の発展を阻害する原因ともなったようである。加えて、男尊女卑の風土も色濃く、経済力をつけた女性にとっては、結婚や育児に対する忌避感が大きいと聞く。最も人気が高い結婚相手は、親が公務員である場合で、その理由は親に年金があり、経済的・精神的負担が小さいからだという。
この状況は、日本でも、他人事ではない。つい数十年前まで、日本の女性の置かれた状況は、韓国と同様であった。今は、働き方改革や出産・育児の支援が叫ばれているが、女性の正社員が出産・育児で退職すれば、復職後の働き方は非正規労働者になるという状況は、まだまだ続いているし、そもそも就職の際にも、男女差別は少なからず残っている。

一方、25日の社説の方は、新型コロナウイルスによる非常事態に対して、テレワークなど、柔軟な働き方で対応できる面があることを評価するものである。そのことには異存はないが、かねてからの日経の主張である裁量労働制の拡大を、この時とばかり持ち出していることは、いただけない。
そもそも、働き方改革の推進の中で明白となってきているのは、企業が、きちんとした労働者の勤務時間管理をしてこなかったという事実である。それが、サービス残業や過労死といった社会的問題につながっていたのである。
このような状況の中で、「生産性向上に資する裁量労働制」などというのは、あまりにもそらぞらしい。時間でなく成果で測って報酬を払う、というけれども、労働組合側が危惧しているように、時間管理が労働者の自己責任とされ、結果的に、統計上表れる形式上の労働時間が減少するだけではないのか。そのような実労働時間を反映しない労働生産性など、まったく意味がない。企業は、まず、きちんとした勤務時間管理を行うべきである。違法な時間外労働や、時間外賃金の不払などを起こしている企業における裁量労働制は、適正な運用などできるはずがないのだから、禁止すべきである。
柔軟な労働時間は、労働者にとって有益なものであって初めて意味を持つ。裁量労働制など持ち出さなくとも、出退勤に柔軟性を持たせれば、仕事と家庭の両立に、大きく寄与するであろう。

なお、蛇足ながら付言すれば、安倍首相が突如として打ち出した小中高校の3月2日からの休校検討の指示には、大きな問題がある。あまりに唐突であり、25日の政府の専門家会議でも、検討されなかったようである。一説には、新型コロナ感染者が全国最大で感染者が続く北海道知事の休校要請(が評判が良かったもの)を模したものとされているが、教育現場にも波及し、全道的な感染拡大を阻止する緊急性に駆られた北海道と、全国単位とでは、状況が異なる。
すでにマスコミ報道で、多くの弊害が指摘されているが、とりわけ深刻なのが、働く女性の育児への影響である。ある病院では、女性看護師の多くが休業をやむなくされ、外来診療にも影響があるそうである。このような悪影響は、全国的に想定され、重大な時期と言いながら、医療現場の崩壊にもつながりかねない愚策である。
従来より、インフルエンザのような感染症に対しては、学級閉鎖といった措置がとられ、それなりの効果をあげている。リスクの高い高齢者が同居する家庭についての自主休校を認める(その高齢者が児童の世話をすることが可能である)など、効果的な対策は、少し日時をかけるだけで、いくらでも検討できたのであろう。
一方で、新型コロナの検査体制は、世界中で最も貧弱であると言わざるを得ない。緊急対策が必要なのは、その体制の変革であろう。「正しく恐れよ」といいながら、感染者の状況も正しく把握できないのでは、話にならない。きちんと検査すれば、日本の感染者数は、検査体制が拡充している韓国の比ではなく、中国に続く状況になっているのではないかとすら思える。これでは、世界が日本を信用しないのも当然で、東京オリンピック・パラリンピックの開催など、寝言になりかねない。

2020年2月26日水曜日

2020年2月26日 日経夕刊5面 会社員の夫65歳、妻の年金は? 60歳未満なら国民年金に加入

問題形式で、「会社勤めで厚生年金に加入しています。先日65歳になり、勤務先から58歳の妻について「第1号被保険者への手続き」をするよう連絡がありました。妻は専業主婦ですが保険料の支払いが必要になるのでしょうか。」という質問に対して、特定社会保険労務士の篠原氏が答えるという記事である。
「一般に夫が厚生年金に入っていれば、扶養される妻は「第3号被保険者」となり、原則60歳まで保険料負担なしで65歳から老齢基礎年金を受け取れます。」という原則を述べた上で、「現制度では厚生年金には70歳まで加入できます。その間、妻の保険料も免除されると勘違いしがちですが、夫が年金受給権の発生する65歳に達すると、60歳未満の妻は国民年金の保険料を納めなくてはならない「第1号被保険者」に切り替わります。5歳以上年の離れた夫婦は注意が必要です。」というのが回答である。以下は、手続き方法などである。

この仕組みは、珍妙に見える。厚生年金被保険者の被扶養者なら第3号被保険者にするというのなら、夫が70歳まで厚生年金に加入していれば、引き続き、被扶養者の妻は第3号被保険者になると考えるのが普通であろう。
とろこが、そうはなっていない。その理由は、厚生年金被保険者が国民年金の第2号被保険者となる期間は65歳到達時までであり、第3号被保険者として取り扱われるのは、第2号被保険者に扶養されている場合だからである。このため、「5歳以上年の離れた夫婦は注意が必要です」ということになるのである。
では、厚生年金被保険者が第2号被保険者となる期間については、国民年金というか基礎年金の給付に反映されるのだろうか。国民年金の被保険者であり、厚生年金の保険料に中には、基礎年金の保険料も含まれているわけだから、当然にそうなっていると考えるのが自然であろう。ところが、これもそうなっていない。
どうなっているかというと、厚生年金被保険者は、60歳以降65歳までの間は国民年金の第2号被保険者にはなるが、国民年金の保険料納付は要しないというか納めていない取り扱いになるのである。したがって、この期間については、基礎年金の給付には反映されず、厚生年金保険料の中に含まれる保険料は、「掛け捨て」の状況になる。
そんなのおかしい、と思う人は多いだろう。この「掛け捨て」状態は、60歳以降ずっと続くので、政府は70歳を超えての就労も推奨してきているが、年金保険料的には、厚生年金に加入し続けると割損の状態が続くということになるのである。
これは、1985年の公的年金の再編成時において、従来の国民年金と厚生年金との保険料と給付の調整を行うに際して、当時の法定定年年齢が60歳であったことから、60歳以上の厚生年金被保険者は一般的ではないとして取り扱われたものと思われる。
しかし、それでも、大卒22歳で会社に入ってずっと厚生年金被保険者であった人が60歳以降も継続して勤務して厚生年金の保険料を支払ったとしても、基礎年金の給付は38年分となってしまうのでは、割り切れないであろう。それでは、旧国民年金と旧厚生年金との再編成に支障をきたすことにもなる。そこで、この場合の60歳を超える期間については、厚生年金側において、40年に満たない2年分の給付を定額部分として特例的に支給するという取り扱いにしているのである。
しかし、それでも、今度は、高卒18歳で会社に入ってずっと厚生年金被保険者であった人は、60歳どころか、58歳時点で基礎年金が40年満額となり、それ以降の期間については、厚生年金側からの定額部分の特例支給も行われないことになる。そこで今度は、長期加入者の特例給付として、「44年以上厚生年金保険に加入している特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前に、退職などにより被保険者でなくなった場合、報酬比例部分に加えて定額部分も支払われます。」ということにしているのである。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/jukyu/2018110702.html
何とも複雑であり、上記のような再編成時のままの対応では、60歳を超えての就労が一般的となり、70歳を超えての就労の促進も図るという状況下においては、早急な整理・見直しが必要であろう。
さて、話を第3号被保険者に戻すと、今では妻が年上の夫婦も珍しくないが、再編成当時においては妻が年下であるのが大勢であり、夫の第2号被保険者を60歳にしてしまうと、60歳到達時点で60歳未満の妻は第3号被保険者の資格を失って第1号被保険者となり、国民年金の保険料を納付しなければならなくなる。これは問題になるということで、妻が夫より5歳年下である間は、第3号被保険者でいられるように、厚生年金被保険者が国民年金の第2号被保険者となる期間を65歳までとしたものと推察される。一方で、国民年金の保険料納付期間は60歳までであるから、60歳以上の厚生年金保険料には国民年金分の保険料は含まれず、基礎年金の給付には反映されないとしたということであろう。
ところが、このことを悪用して、公務員を60歳を超えても確定拠出年金の個人型年金(イデコ)に加入させるという悪辣な企みが進んでいる。憤懣やる方ないが、このことについては、次の「年金時事通信」を参照されたい。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/tusin/19-015.pdf
旧国民年金と旧基礎年金の再編成が行われてから、約45年になる。今回2019年の財政検証を受けた検討でも、その仕組みの抜本的な再検討は行われなかった。どんな制度でも、そんなに長きにわたって大きな点検・調整をしないで続けられるものではない。次回2024年の財政検証に向けて、半世紀を経る基礎年金制度の徹底再検討は、今からが正念場になる。

2020年2月25日火曜日

2020年2月25日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル) 志望動機、部署名まで明確に ネットの「模範解答」には注意

就活実務編での、ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による説明である。
「志望動機をどう書いていいかわかりません」。3月1日の就活情報の解禁日が近づき、学生からは具体的な相談が増えてきた、というものである。
記事では、「エントリーシート」での「志望動機が学生にとって一番の悩みの種」とし、「ネット上にはたくさんの模範解答」があるが、疑問があるとし、「どんな部署でなんの仕事をしたいのか、それを調べて、ズバッと書こう。」というものである。

言っていることは、正論ぽく見えるが、学生にとっては、むしろ不安が募るのではないか。就活では、業界や企業の研究をする必要があるとして、そのための本も多く出ているが、企業活動についての実際の知識がない学生にとっては、その中の記述を適当に抜き出すのが精一杯で、ネットの情報に頼るのもやむを得ないといったところだろう。
大事なのは、志望動機の前に、自分が何をやりたいのかを、よく考えてみることだろう。と言っても、それが分かれば苦労はない、ということになるのだろうが、やりたい仕事がはっきりしなければ、ちゃんとした志望動機など、書けるはずがない。
記事では、模範解答について、「これで本当に受かったのか」としているが、私から見れば、やりたい仕事の明確でない学生の志望動機など、その程度のもので、内容については企業もさほどに重きを置いていないのだろうと思える。
そもそも、大手企業なら大量に届く「エントリーシート」の内容になど、採用担当者が個別に時間をかけて吟味しているとは思えない。中には、AI利用のように、いくつかのキーワードが入っているかどうかで選別している企業もあるだろう。
大事なのは、「エントリーシート」がパスするかどうかではなく、就活の中で、自分のやってみたい仕事を見つけ、その仕事を行う上で魅力のある企業を選択することであろう。と言っても、「自分のやってみたい仕事」を見つけるのは、簡単ではない。このことは、就活全般を通じてのテーマであり、社会に出てからも、ずっと考え続けていかなければならないテーマと言えよう。
また、やりたい仕事が決まっても、それを行える企業に採用してもらえるとは限らない。ここが大きなジレンマで、その中で、やりたい仕事を代えたり捨てたりして、とにもかくにも内定を取りたいと焦る状況に陥っていく学生も少なくないだろう。特に、友人たちが次々に内定を取っているようなら、その焦りは増幅することになる。そうなると、自分では意識しなくても、目は血走り、表情は明るさを失って、ますます内定には遠くなる。これが、就活に失敗する学生の典型的なパターンだろうと思われる。
まず、考えて欲しいのは、企業の選択は、これまでの学校の選択のような、偏差値とかで決まるものではないということである。本来は学校の選択でもそうなのだが、有名な企業への就職が、必ずしも充実した職業生活につながるわけではない。この点で、大手企業に内定した学生を羨むといったレベルなら、そもそも真剣な就職活動とは言えない。
もちろん、一般的には、大手企業の方が、中小企業よりも給与も高く待遇も恵まれている。そうした企業への就職を最高の結果と考えるのなら、それも一つの価値観であるが、ありていに言えば、そういう企業には有名大学の学生も大挙して押し寄せるので、競争率も高く、入社後に配属される部署にも、大学名での格差があり得るのが実情である。
充実した職業生活とは何か。私は、自分に向いた、やり甲斐のある仕事に出会うことであると、自分自身の経験にも照らして思う。そのためには、まず、自分のやりたい仕事を、よく考えなければならない。もちろん、学生のレベルの経験や知識で、そんな仕事は簡単には見つけられないであろう。私の場合でも、天職に出会えたのは、会社に入ってから大分経ってからである。しかし、考え続ける努力の中にこそ、光明がでてくる。
話を、「エントリーシート」に戻すと、私は、模範解答に準拠して何ら問題はないと思う。そもそも、学生は文章を書く訓練を十分にしていない。記事では、「ある証券会社に対する合格者の解答」について、「「私は金融業界に関心を持っています。中でも証券業界に関心があるのはこういう理由で、その中で御社を受けるのはこういう理由です」と書かれている。このように3段階に分けて書く意図は何なのだろうか。」としているが、そのように定式化した方が、書きやすいだろうし、問題はない。
記事では、上記の解答は、「その会社が第一志望ではない、といっているようなものだ」としているが、「エントリーシート」の段階で、第一志望を絞り込んでいるわけがないことは、採用担当者にも分かり切っていることである。
アドバイスをするとすれば、模範解答に準拠して構わないが、味付けとして、その企業に特有な事を少し加えた方がよい、ということである。その内容は、その企業のホームページや、その企業名で検索した結果から抜き出せばよい。そもそも、その企業のホームページすら見ないで「エントリーシート」を出すようなら、落ちて当然なのだから。

2020年2月24日月曜日

2020年2月24日 朝日朝刊7面 (記者解説)老後レス時代の生き方

編集委員の真鍋弘樹氏と浜田陽太郎氏による解説という形の論説記事で、「高齢になっても働くのが当たり前、そんな時代がやって来るのだろうか。…老後が消えていく時代の生き方について、「波平さん世代」の記者2人が考えた。」というものである。

真鍋氏は、「支え合い」が前提、働けばメリットも、としているが、「政府は今月初め、「70歳まで働く機会の確保」を企業の努力義務とする関連法案を閣議決定した。いったい何歳まで働けばいいのか……。私もうなだれた一人だ。」と書き出している。
しかし、「高齢で働くことは必ずしも悪い話ではないのかもしれない。」として、「高齢者の希望として「働く場が欲しい」という声が群を抜いて多かったという。」千葉県柏市の調査を紹介している。加えて、「働くことは家に閉じこもりがちな高齢者に明確な外出の目的を与え、活動の幅が有意に広がるなど、健康に良い効果のあることが判明したのだ。」としている。
そして、「職場に行けば仲間がいるというのは大切なこと。高齢になっても働き続けられるようにすることは貧困と孤立の両方を減らす効果がある」という、みずほ情報総研の藤森克彦主席研究員の声も紹介している。
そして、少子化の進展の中では、日本老年医学会も指摘しているように、「高齢者」の定義を変え「、年を重ねても働き続ける選択は、自分自身のみならず、この国に希望をもたらす」ように考えるべであるとしている。
その一方で、「65歳以上の心身の状態はまちまちで、若者並みに働ける人もいれば、介護が必要になる人もいる。」のであり、「健康面で支えが必要な高齢者や、経済的な困難を抱えた人たちも一緒くたにして、「老後に働くのは当然」とばかりに自己責任の論理を押しつける。そんな未来は、悪夢である。」としている。
そして、「人生後半の不安を取り除くセーフティーネットがなければ、喜ぶべきはずの長寿は最大のリスクとなる。働くという「自助」に、社会保障の「公助」を組み合わせ、網から抜け落ちる人を減らすにはどうしたらいいか」については、浜田氏にバトンを渡しつつ、「「高齢になっても働く」という選択は「支え合いの安心」があってこそ。その前提を、社会で共有したい。」と結んでいる。

バトンを受けた浜田氏は、「繰り下げ受給が鍵、備えで年金中継ぎ」として、「「人生100年」時代、安心感を持つために個人の自助努力と社会保障制度を「ベストミックス」させるにはどうすればいいか。参考になるのが「WPP」という考え方だ。」としている。
それは、「働けるうちは長く働く(work longer)。私的年金(private pension)が中継ぎし、最後は公的年金(public pension)で締める。年金の制度と実務に詳しい谷内陽一さん(第一生命)が考案したキャッチフレーズで、2018年の日本年金学会で発表した。」ものとしている。
ここで、「公的年金の受給開始時期は、個人が60歳から70歳の間で自由に選べる。早く受け取る「繰り上げ」受給をすると年金月額は減る。遅くする「繰り下げ」だと増え、70歳からだと約4割増しになる。その分、安心感は増す。国はさらに75歳まで受給開始を待てるようにする方針だ。」というのがカギとしている。
そして、「「繰り下げの勧めは給付をケチりたい政府の陰謀だ」というのは誤解。どの年齢からの受給を選んでも、65歳からの平均余命を生きた場合の受取総額が変わらないよう減額・増額率が決まっているからだ。」としている。
しかし、「こうした準備をしてもなお、不安は残るだろう」として、「健康や病気のこと」という高齢者の不安に触れ、「税や保険料の財源確保は喫緊の課題だ。負担増を国民に説得する姿勢は現政権に感じられないが、それでは「老後レス時代」の安心が得られない、と私は思う。」と締めくくっている。

「老後レス」という少しネガティブな響きのある言葉に対して、不安を和らげる趣のある記事である。不安の源は、知識や認識の不足から来るのだから、記事での年金の「繰り下げ」受給などは、読者も、ちゃんと勉強した方がよいであろう。
 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html
誤解があるように思うのは、65歳になって老齢基礎年金・老齢厚生年金の支給開始の手続き案内が届いた時に、手続きをしなければ自動的に「繰り下げ」の取り扱いになるが、時効期間の5年以内であれば、遡って65歳からの(増額されない)年金を受け取ることができる点である。何も、慌てて支給開始の手続きをする必要はなく、ゆっくり考えて、66歳超70歳までの時点での増額される年金の受給と比較して決めればよいのである。ところが、受給者も年金事務所も、支給開始手続きを急いでいるような気配が感じられる。
受給者の方には、週刊誌情報などに煽られて、「公的年金は破綻するので、早くもらった方がいい」という意識に引きずられている人もいるように思われる。しかし、公的年金が破綻する時は、医療保険などの仕組みも含めて、国が破綻するに等しい状況になるだろう。そういう状況を想定するなら、多少の年金を早くもらったところで、どうにもなるまい。また、もらった年金を銀行預金にしていたら、預金封鎖だってあり得る。さらには、タンス預金にしていたら、振り込め詐欺に狙われる。手元の現金が必ずしも安全はわけではなく、権利としての年金なら詐欺にも遭わないことは、もっと考えてもよいだろう。
一方、年金事務所の方の問題は、支給開始の手続き書類が来ないのは、本人が熟慮して「繰り下げ」の選択をしているのか、何らかの手違いで書類が未着であったり、受給者が忘れて放置しているのかが不明であることではないか。その観点からすると、年金事務所にとっては、支給開始請求の書類が届いた方が安心ということになるであろう。最新の様式は分からないが、年金の支給開始の手続き書類は、かなり難しい。その中に、「繰り下げ」というより、「後日請求を検討」ということを記入できるようになっていればよいのだが、どうであろうか。

違和感があるのは、「WPP」という用語である。記事では、「十数年前、プロ野球の阪神で活躍したリリーフ投手陣は、その頭文字から「JFK」と呼ばれた」ことになぞられた」としている。しかし、わざわざ、このような造語を作る必要があるのか、疑問である。そもそも、この考え方は、目新しいものではなく、私も、2009.10.20号の『エコノミスト』の88-89ページ「年金給付を企業から切り離して第三者機関に」で発表している。
一部に、「つなぎ年金」という用語を嫌っている向きがあるようだが、もともとの英語表記は、「Bridge pension」であり、それには「橋渡し」というイメージが、よく出ている。造語、しかも英語の頭文字表記で、解説をつけないとイメージが分からないようにするのは、似非専門家の自分勝手というものではないか。
用語的には、谷内陽一氏の「継投型」の方が、ずっとイメージが分かりやすい。これは、年金制度だけではない。就職して1社のみで職業生活を終える「完投型」の働き方も、変革を問われている。人生100年時代には、働き方も年金も、「継投型」である必要があるということではないだろうか。

2020年2月23日日曜日

2020年2月23日 日経朝刊1面 投信運用 成功時のみ報酬 農林中金系、個人向けで国内初
2020年2月23日 日経朝刊3面 (きょうのことば)信託報酬 保有者負担の固定管理費
2020年2月26日 日経朝刊7面 野村、信託報酬0%に つみたてNISA向け

最初の記事は、「投資信託の販売競争が激しくなるなか、手数料の改革が加速している。農林中央金庫系の運用会社は4月、投資信託の時価を示す基準価格が最高値を更新した時だけ運用報酬を取る商品を発売する。運用成功時にしか報酬を取らないのは国内の一般個人向け株式投信で初めてだ。」というものである。
「通常は投信を購入すると、残高に応じて一定比率を信託報酬(総合2面きょうのことば)として運用会社、販売会社、事務を管理する信託銀行に支払う。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)が4月に発売する商品は、この運用会社部分をゼロにする。」とのことで、「この投信でも販売会社と信託銀に支払う信託報酬は必要だが、比率は合計で0.3%だ。一般的にアクティブ型投信の信託報酬は計1.5~2.0%のものが多い。」としている。

次の記事は、上記の「きょうのことば」として、信託報酬を説明したもので、「投信を運用する運用会社、販売会社、ファンドの事務を管理する信託銀行のそれぞれの取り分が合算」されており、「国内の公募株式投信の平均では運用会社と販売会社の比率が、それぞれ5割弱を占める。運用会社は成績結果にかかわらず、報酬を固定で受け取ってきた。」としている。

そして、最後の記事は、「野村証券は25日、国内で初めて信託報酬を0%とする投資信託を設定すると発表した。海外株式に投資する投信で、積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)向けの商品。当初10年間、個人投資家はまったく費用がかからずに投信に投資できるようになる。」というものである。この商品では、「野村信託銀行が販売・運用・管理を請け負い、各社が手数料をゼロにする。」としている。

日本での投信の手数料は高いとされてきたが、ネット販売などの拡大により、手数料競争が激化している。背景には、記事のNISAとイデコへの販売拡張の狙いがある。キャッシュレス還元での各社の競争のようなもので、段々と消耗戦の様相を呈してきている。
このような手数料低下については、評価できる点と、首を傾げる点とがある。評価できる点は、従来から高過ぎると言われていた水準が是正され、適正水準に向かう点である。販売手数料は、以前の対面販売からネット販売に移行してきており、引き下げは当然である。ゼロとするのにも、それなりの合理性があるであろう。
また、運用報酬の成果連動型は、当然あり得るものである。成果が上がらなければゼロで、成果が上がった時には多くとるという仕組みは、投資家と運用者とがリスクを共有する仕組みであり、市場経済の中では合理的である。海外では、そのような仕組みも多いようであるから、日本でも、もっと普及すべきであろう。
首を傾げる点は、信託銀行が管理する分の信託報酬である。投信は、販売会社、運用指図者、信託銀行が、それぞれ役割を分担している。その中での信託銀行の役割は、投資資金を管理することで、運用責任は、運用指図者が負っている。販売会社の分の手数料低減、運用指図者の分の成果報酬には、理があるが、信託銀行の資産管理手数料には、水準見直しの余地はあるかもしれないが、ゼロにするいわれはない。記事での野村証券の投信は、「野村信託銀行が販売・運用・管理」としているが、このように3つの機能を一体化させると、利益相反の懸念も出て来る。販売、運用、管理は、それぞれの専門性をベースとすべきものであり、一体化すると効率も低下することになり得る。
このように、投信の手数料競争が激化しているのには、NISAもあるが、確定拠出年金の個人型イデコで、公務員を中心とした加入者が急増していることが背景にあると見られる。一般的には、競争激化によって需給がバランスした適正水準に向かうというのが市場経済の考え方であるが、その前提として独占は排除する必要があり、販売・運用・管理の一体化も、その観点からは問題であろう。日本の投信のコスト関連については、まだまだ見直すべき点が多いように思われる。