2020年3月27日金曜日

2020年3月27日 日経朝刊16面 ●新型コロナで「内定取り消し」 4要件満たなければ無効

「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、4月入社予定の新卒学生らの待遇が不安定になっている。入社予定の会社に内定を取り消されたり、当面の自宅待機を指示されたりした場合、法的にはどう理解し、どう対応すればいいのだろうか。」という記事である。
まず、「厚生労働省によると、3月25日時点で新型コロナの影響で学生の内定を取り消した会社は20社、計30人が確認された」とし、「様々な会社で内定取り消しが発生する可能性がある」と続けた上で、「内定は、法的には企業と入社予定者の間に労働契約が交わされた状態を指す」ので「労働契約法が定める「解雇権の乱用」の規定が適用されるため、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない内定取り消しは無効」としている。
そこで、「確認しておきたいのは、整理・解雇の要件」とし、「企業が深刻な経営悪化などを理由として内定を取り消すことは整理解雇として認められる。ただし(1)人員整理の必要性がある(2)解雇回避のために最大限の努力をした(3)解雇対象者の選定が合理的(4)手続きが妥当――の4つの条件をすべて満たすことが必要」と解説している。
したがって、「内定を取り消すのは非常にハードルが高く、業績見通しが厳しいといった程度では認められない。労働問題に詳しい嶋崎量弁護士によると、内定取り消しが有効になるのは倒産が不可避だったり、倒産を避けるため整理解雇が欠かせなかったりする場合に限られる。」と述べている。
その上で、「内定取り消しより可能性が高い」のは、「企業が内定者に4月以降に自宅待機を命じたり、入社辞退を強要したりすることだ」としているが、「企業側の責任で社員を休業させた場合は、労働基準法に基づき社員に平均賃金の60%の休業手当を払わねばならない。」ことになる。
記事では、嶋崎弁護士の「立場の弱い学生などは、企業側の働きかけに応じてしまうケースも考えられるが、応じる必要はない。会社側が事実上、一方的に内定を取り消す権利はないので、簡単に応じてはいけない」との指摘で結んでいる。

この記事で理解しておかなければならないのは、就活で内定段階まで到った場合、学生であっても、労働者として保護されるという点である。こうした保護は、実は、アルバイトの場合にも適用されるものが多い。就活をするのなら、次の『知って役立つ労働法』などを参照して、最低限の知識は、身に着けておいた方がいいだろう。
https://www.mhlw.go.jp/content/000507287.pdf
一方、厚生労働省は、内定取消が重大な事態であるので、有期契約労働者、パートタイム労働者及び派遣労働者の雇用維持等に対する配慮と併せて、経済団体等に要望を行っている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10497.html
やっと内定に到ったのに、それを取り消されるのではたまったものではないだろうが、新たな道へ進むにしても、労働者としての自覚や意識を持つことは大切であり、そのことは、無事に入社できた場合であっても同じである。

なお、下記のNHKの番組「入社式直前 一転の内定取消も… 新型コロナウイルス」では、実際に内定取消にあった学生の生々しい状況が報じられている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200331/k10012358941000.html?utm_int=detail_contents_news-related_001
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200331/k10012360101000.html






2020年3月25日水曜日

2020年3月25日 日経朝刊2面 GPIF、外債比率10ポイント引き上げへ 高利回り投資シフト、円安要因の可能性
2020年4月1日 朝日朝刊4面 年金運用、外債シフト 新年度から 国債利回り見込めず
2020年4月1日 日経朝刊7面 GPIF、海外運用に傾斜 資産構成改定、外債比率25%に 為替リスク高まる

最初の記事は、スクープ的な速報で、「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は資産構成の見直しで、外国債券の比率を10ポイント引き上げて25%とする方針だ。…25%ずつとしている国内外の株式は現状を維持する。」というものである。「見直しは5年半ぶり。30日に開く社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の専門部会に諮り、31日に発表する。」としている。
記事で注目しているのは、「外債と外国株を合わせた外国資産の割合は50%に達し、為替の変動が運用に与える影響は拡大する。」という点で、「地方公務員共済組合連合会と国家公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団の3共済もGPIFと歩調を合わせる見通しで、計約190兆円(19年3月末時点)に上る運用資産の一部が外債投資に向かえば為替相場の円安要因となる。」としている。

2番目の記事は、上記の記事内容の3月31日の正式発表を受けたものである。過去からの経緯として、「以前はリスクの低い国内債券が大半だったが、14年の見直しで国内外の株の割合を計5割に倍増させた。短期的に資産価値が変動するリスクも高まっているため、今回は株は増やさない判断をした。一方、国債など国内債券に比べて利回りが見込める外国債券を増やすことにしたという。」とし、SMBC日興証券の末沢豪謙アナリストの「米国債などの金利はプラス圏で推移しているための判断だろう。ただ、外国債券は為替リスクもあり、信用力の低い外国債はデフォルト(債務不履行)のリスクもあることに注意が必要」との指摘を紹介している。
そして、政府は「市場の一時的な変動に過度にとらわれるべきではない」(加藤勝信厚労相)との立場だが、中長期的に運用がうまくいかないと将来の年金水準に響く可能性もある、と記事は結んでいる。
■公的年金の運用資産構成(現在→変更後)
 国内株25%→25% 外国株25%→25% 国内債券35%→25%↓ 外国債券15%→25%↑

最後の記事も、朝日記事と同様の内容であるが、「日本国債の投資収益が低迷する中、利回りの高い資産の比率を高める狙いだが、為替変動による短期的な資産変動は大きくなり、海外リスクが高まる。」点に着目している。「実際の運用構成が基本ポートフォリオからずれる許容幅も改める。外国債は目標値から6%、外国株は7%までの乖離(かいり)を認めることとした。これにより、最大で国民の年金積立金の63%が海外の資産で運用される可能性がある。」としている。
その上で、GPIFの高橋則広理事長の「国債は安全な資産ではあるが、金利がマイナスであるものに投資していいのか、ずっと組織の中でも悩んでいた」「海外の方が利回りや物価の上昇率が高いという格差が埋められない中で、利回りを海外に求める結果として外債が増えた」「仮に1%でも10年で約10%になる。100円で購入しても、90円までは問題がない」という発言を引いている。

GPIFの運用資産構成の変更については、2020年3月30日の社会保障審議会資金運用部会に資料が掲載されており、厚生労働大臣からの諮問が、社会保障審議会で了承されている。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10574.html
やはり気になるのは、上記記事にあるような海外投資の割合の大きさと、前回変更されたままの株式投資の割合の大きさである。どちらも、投資収益を大きく変動させるものである。今回のコロナ・ショックによる内外株式の急落で、株式比率の大きい公的年金の資産運用は、民間の企業年金を上回る打撃を受けることになる。資産運用では、短期的に一喜一憂すべきではないが、リスクの大きさが許容できる範囲のものであるのかどうかは、不断の検証やチェックが必要であろう。株頼み、海外頼みが、日本の年金受給者のための資産の運用として適切なのか、疑問が残る。
2020年3月25日 日経 夕刊2面 「年金食堂」無料で月4万食 ロシア

「ロシアで年金受給者に無料で昼食を提供する「年金食堂」が広がり始めた。小さなカフェの取り組みが注目されて支援を集め、3都市で毎月4万食を提供する。背景には貧富の差が縮まらず、多くの高齢者が困窮するロシアの現状がある。」という記事である。
「きっかけはサンクトペテルブルクのカフェだった。17年11月、店主のアレクサンドラ・シニャクさんが高齢男性から代金を受け取るのをためらって無料で食事を振る舞った。本格的に年金受給者に無料で昼食を提供し始めると利用者が増加。借金も膨らみ、家も抵当に入れたが、動画サイトで取り組みが紹介されたことで、食材の提供や寄付、ボランティアが集まり始めた。」としている。
「背景には高齢者の深刻な貧困がある。連邦統計局によると、19年の年金受給者約4600万人の平均受給額は月約1万4000ルーブル(約2万3000円)。政府が定める必要最低限の生活費(約1万1000ルーブル)をやや上回る水準にとどまる。18年には受給開始年齢を段階的に引き上げる年金改革の実施が決まり、全国的な抗議運動に発展した。」としている。
これに対し、「政権も年金改革で低下した支持を取り戻したい考えだ。プーチン大統領が提案した改憲案では「物価に応じて年金支給額を少なくとも年に1回見直す」と明記した。4月22日に予定する改憲の是非を問う全国投票で賛成票を集める狙いもある。独立系調査機関レバダセンターによる世論調査では改憲で支持する点として、「年金の定期的な見直し」が最多の92%を占めた。」という。
その上で、「ただ改憲が生活改善につながるとの期待は薄い。サンクトペテルブルクで月約2万ルーブルの年金で暮らす男性(84)は「大統領が居座るための改憲に希望はない。ソ連時代の方が福祉が充実して安定していた」。貧困層は人口の約13%と高止まりしている。社会主義のソ連に郷愁を抱く国民も増え、レバダセンターの18年末の調査では「ソ連崩壊を残念に思う」との回答が05年以降で最多の66%に達した。」とのことである。
記事では、補足として、「プーチン政権の年金改革」について、「ロシアで2019年から始まった年金の受給開始年齢を男女ともに段階的に5歳ずつ引き上げることを柱とする改革。受給開始年齢は23年までに男性が65歳、女性が60歳になる。プーチン大統領が18年に年金改革法案に署名して成立した。」とし、「財政負担の軽減や労働人口の確保が狙いとされる。発表後にプーチン氏の支持率が約8割から6割台に急落し、抗議運動が広がった。プーチン氏は女性の受給開始年齢の引き上げを当初案の63歳から60歳に見直す譲歩策を示し、理解を求めた。」と記している。

どの国でも、国民は高齢化しており、年金制度の改革が必要であるが、その実行は難しい。そのことが、独裁プーチンのロシアでも例外ではないことを知らしめる記事である。
ロシアの年金制度の概要については、少し古いが、次の「年金シニアプラン総合研究機構」の調査報告を参照されたい。
ロシアの年金改革の柱は、年金支給開始年齢の引き上げだが、60歳を65歳に延長するのは、日本人からすると当然に思えるであろう。それでも反発が強いのは、年金額の水準が低いことに加えて、ロシア人の平均寿命が、今後は高齢化すると想定されているが、現時点では短く(下記のWHO資料86ページでは、2018年の男子で66.4歳)、年金受給期間が僅かな期間になるという点があるようである。
このロシアの状況を、日本とは無縁のものと考えてよいのであろうか。私には、とても、そう思えない。2019年財政検証の結果によれば、基本ケースと考えられるケースⅢ(人口中位)において、基礎年金(1人分)の所得代替率は、2047年度以降は13.2%に下落する。正社員として上乗せの厚生年金を十分にもらえればともかく、非正規労働を長く続けざるを得なかった就職氷河期時代の人々などは、現役世代の1割ちょっとの年金で、高騰していく医療・介護の保険料も賄わなければいけなくなるのである。
対策を考えるのは容易ではないが、少なくとも、長く働く(働ける)ことを基軸とし、国民が分断ではなく連帯して立ち向かわなければならない課題であることは、間違いない。

2020年3月24日火曜日

2020年3月24日 日経朝刊33面 ●(私見卓見)新入社員の評価の意識転換を

この記事の論評については、下記の「年金時事通信」の20-005号として登載しています。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/tusin201405.htm
2020年3月24日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)エントリー社数の目安 コロナ影響考慮し多めに

ハナマルキャリア総合研究所の上田晶美代表による就活実務編である。「何社ぐらいエントリーすればいいものでしょうか?」との学生からの質問に対し、「学生が会社にエントリーする数はここ3年間毎年減り続けている。マイナビの調査によれば、2017年卒の3月の平均エントリー数は30.6社、18年卒は27.9社、19年卒は20.7社となっている。売り手市場による影響が大きいと思われるが、インターンシップで事前選考が進んでいることなど、選考手法の多様化も考えられる。」としている。
その上で、新型コロナウイルスの影響を受けている今年について、「エントリーは少なすぎても多すぎても納得内定に結びつかない危険性があるため、ある程度の目安は持っておいた方がいいと思う。」とし、その理由は、「そこから現実的な企業研究が始まるという側面があるからだ。」としている。
そして、「エントリーして説明会に行き、エントリーシートを提出し、筆記試験に受かれば面接に行けるというのが通常の就職試験のパターンになる。その面接も大手企業の場合は3回はある。それらの合否はもちろん会社側から出されるのだが、実は面接が進む過程で学生の方からも検討していくのである。」としている。
続けて、「自分のビジョンに合っている会社かどうか、働きやすい職場なのかどうか、実際に面接のために会社を訪問して、人や会社を見ながら、次の選考に進むかどうか、相性を見きわめていくものなのだ。受けているエントリー数が少なすぎると、その検討過程に入れる会社が少なくなってしまい、ミスマッチが起きてしまう危険性がある。」としつつも「手当たり次第、気になる会社にたくさんエントリーすればいいかというと、それはそれで弊害がある。広げすぎると企業研究が十分できずに内容の薄いエントリーシートになってしまう。通過できず、結局面接に行ける会社は一握りになってしまいかねない。」としている。
最後に、「エントリー数の目安としては今年も20社程度か」としつつ、「新型コロナの影響があり、ウェブでの説明会や面接が増えていることを鑑みると、少し多めにエントリーする方がいいように思う。」と結んでいる。

言っていることは間違いないと思うが、平時の対応という気がする。今や、コロナショックで、就活は非常時のものとなった。「2017年卒の3月の平均エントリー数は30.6社」はおろか、はっきり言って、手当たり次第くらいのエントリーが必要であろう。
もちろん、「広げすぎると企業研究が十分できずに内容の薄いエントリーシート」になる懸念はある。しかし、今年については、「入りたい会社」の前に、「入れそうな会社」を確保することが、最も重要になる。それくらいに、就活をめぐる状況は激変する。
そもそも、エントリーシートには、何を書くのか。次のリクナビの資料を見てみよう。
https://job.rikunabi.com/contents/entrysheet/4570/
この中で、企業によって異なるのは、「志望動機」のみである。後は、企業によって様式が異なる場合はあるだろうが、基本的に同じで構わない。はっきり言って、20社に絞ろうと、50社にしようと、大して手間はかからないのである。
そもそも、その志望動機にしたところで、ほとんどの学生が自社の事など知らないのは、企業にだって分かっている。だから、付け焼刃のもので構わない、ただ一つ重要なのは、学生が自社の事を何も調べずに応募しているのかどうかである。したがって、最低限、その会社のHPとかに目を通し、自分なりに関心を持った仕事の事を加えた方がよい。
もっとも、大会社の場合、何を書いても大学名などで選別してしまうことはあり得る。だから、エントリーシートが通過したかどうかに、過度に重きを置く必要はない。縁がなかったものと考えて、割り切ればよい。とにかく、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」「犬も歩けば棒に当たる(良い意味の方)」なのであるから、玉は、沢山打った方がいいのである。
ただし、一つだけ留意点がある。自分が、応募した会社に出した書類や、その結果は、きちんとファイルして残しておくべきである。その会社のHPの概要も綴じておくとよい。また、面接などに進んだ場合には、その日時、場所、相手方、内容など、いわゆる5W1Hの区分にそって簡記したものを残しておく方がよい。数が多いと、きちんと記録に残しておかないと混乱するからである。
また、内定に向かって順調に進んでいると思える場合であっても、常に、他の候補先や応募可能先はないか、気を配るべきである。うまく進んでいるのに、相手に悪いとか思う必要はない。他にも検討しているか聞かれた場合でも、「御社に絞っています」くらいのことは言って構わない。逆に、学生が企業に他の学生の採用も検討していますかと聞いた場合、「君だけです」というのは明白なウソであり、そうでなければ採用担当は務まらない。もし、それでも気になる(就活に失敗する可能性大だがの)場合には、公務員試験にはチャレンジしていますと言えばいいだろう。
最後に、もう一度言う。エントリーは、可能な限り多くすべきである。ただし、応募先は、きちんと自分で管理すること。後になって焦って数を増やすと、次のリーマンショックの時のような事態に、なりかねない。
https://news.careerconnection.jp/?p=86782

2020年3月23日月曜日

2020年3月23日 日経朝刊5面 ●大卒採用 来春4.2%増 文系11年ぶり減 本社1次集計
2020年3月24日 日経朝刊17面 ●(ビジネス激変 経営者の見方) 企業の新卒採用減も

最初の記事は、「日本経済新聞社が22日まとめた2021年春入社の新卒採用計画調査(1次集計)で、大卒採用計画が20年春実績見込み比4.2%増と11年連続のプラスとなった。文科系は1.4%減と11年ぶりにマイナスに転じた。19年10月の消費増税などの影響もあって非製造業を中心に採用を抑制する動きが目立った。新型コロナウイルスの感染拡大も今後の採用計画への懸念材料となってきた。」という書き出しである。
続けて、「大卒採用計画はリーマン・ショック後に企業の採用意欲が回復した11年度から11年連続でプラスが続いた。プラス幅は前年の7.5%増から鈍化した。製造業は5.2%増、非製造業は3.8%増だった。業種別ではレジャー(14.8%減)、百貨店・スーパー(8.3%減)のほか、空運(28.4%減)や海運(15.4%減)も減少が目立った。一方で電機(7.3%増)や精密機械(5.5%増)が増加した。」としている。
また、「IT(情報技術)人材などを求める動きは依然として堅調で、大卒理工系は11.2%増と前年の10.8%増を上回る。20年春入社で採用計画に対して内定者を確保できなかった未達の比率が9.8%に達し、需給ギャップが拡大しているためと見られる。計画未達はデータの算出を始めた08年以降13年連続となった。」そうである。
一方、「新型コロナの影響で企業業績が悪化し、採用計画を抑制する懸念も高まっている。ディスコの武井房子上席研究員は「小売企業や中国に拠点を構える企業などで採用を抑える動きが出てくる可能性がある」と指摘する。「急激な採用抑制は、社内の組織の年齢構成を維持する上で支障が出るため考えにくい」(浜銀総合研究所の遠藤裕基主任研究員)との声もあった。」と結んでいる。

次の記事は、「新型コロナウイルスの感染拡大で企業の新卒採用活動が揺れている。例年3月から本格化する2021年春入社に向けた企業の採用説明会は大規模イベントの自粛要請で中止が相次ぐ。今後、新卒採用や学生の就職活動はどう変わるのか。就活支援大手ディスコ(東京・文京)の新留正朗社長に聞いたというインタビュー記事である。
まず、新型コロナの企業の新卒採用活動への影響については、「21年春入社の採用活動は不透明になってきた。もともと今年は7月下旬に東京五輪が開幕する予定だったため、選考活動を6月中に終わらせようと考える企業が多かった。ただ、新型コロナで3月に採用説明会を開けない企業が多く、今後の採用スケジュールは後ろにずれるだろう。経済への影響が長引き景気が冷え込むと、企業が採用数を減らす可能性もある」との回答である。
次いで、ウェブ上での採用説明会や面接については、「当社は11年にウェブ説明会のサービスを始めたが、普及には至っていなかった。20年は一気に広がる年になるだろう。ウェブ説明会は地方や海外の学生にとって企業を知る機会創出にもつながる。初期選考などをウェブに置き換えれば、地方や海外の学生にとっても交通費負担が減り、就職チャンスが増える」という見方を示している。
そして、リアルからウェブへの説明会や面接の全面移行については、「ウェブへの全面移行は簡単ではない。学生から人気の高い有名な大手企業はウェブ説明会で学生を集められるが、そうでない企業は集客が難しいだろう。依然としてリアルの採用説明会には利点がある。例えば、合同の採用説明会では、中堅・中小や法人向けビジネスを展開する企業など、学生からの認知度が低い企業は、合同説明会に集まった学生に能動的に働きかけられる」としている。
続けて、ウェブ採用普及に向けた課題については、「企業側にとっては学生が説明をどう受け止めたか捉えにくい。集団面接では誰が発言しているかわかりにくく、評価しにくいという企業の声もあった。一部はウェブに置き換えても、最終面接などでリアルな場で会話をしながら学生を説得したい企業もある」「学生にとっても採用説明会は企業の話を聞くだけでなく、会社全体の雰囲気や社員の表情などから企業を見極めることも大切だ。ウェブでは限界がある。企業にウェブ採用が使われ始め、様々な課題は洗い出される。今後のサービスの質の向上につながるだろう」との見解である。

最初の記事だと、2021年春入社の新卒入社の就活も、これまでとあまり変わらないような印象を受けるかもしれないが、そんな事はあり得ない。この1次集計は、3月4日までの回答をベースにしているが、それ以降の状況も激変している。それを、日経平均株価で見ると、次のようになっている。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_market-nikkeistock
すなわち、2月下旬に下落した株価は、3月に入って一段と急落しているのである。また、このアンケートの回答を担当しているのは、人事部などの部局であろうが、基本的な考え方は前例踏襲であろう。「急激な採用抑制は、社内の組織の年齢構成を維持する上で支障が出るため考えにくい」というのは、人事部的には当然の発想であるが、危機に当たっての経営者の判断とは大きな隔たりが生じる。記事で言及しているリーマン・ショックの際には、年齢構成など考える余地もなく、企業は生き残りに必死になった。今回のコロナ・ショックは、リーマン級を超えるものと思われ、とても楽観できる状況にはない。

二つの記事に出て来る就活支援大手ディスコのコメントの要諦は、「21年春入社の採用活動は不透明になってきた」「企業が採用数を減らす可能性もある」という点にある。東京オリンピック・パラリンピックも延期は確実になった。企業が学生の内定を急ぐ必要は、まったくなくなったわけである。採用スケジュールは、夏から秋にかけてにずれ込み、コロナが一段落しなければ、冬場にもかかってくると考えるべきであろう。
学生にとっては、長く辛い就活が続くことになる。当面を考えると、採用試験などの日程が毎年決まっている公務員などに、まず注力した方がよいのではないか。採用数が絞られると、必ず学力テストの比重が高くなる。公務員試験の問題は、その学力を測るバロメーターにもなるから、延期された説明会などで浮いた時間を活用するための格好の準備素材になるであろう。資格試験の勉強に打ち込むのもよい。
とにかく、昨年までの就活ノウハウは、通用しない。これからが長丁場の戦いである。多少の息抜きは必要だろうが、日々、無駄な時間を過ごすことのないようにする必要がある。それはあたかも、大学入試の受験準備に似ている。
2020年3月23日 朝日朝刊29面 ●就活、答えはひとつじゃない 新型コロナ影響、不安な学生へ先輩語る

「来春卒業予定の大学3年生らを対象にした就職・採用活動の説明会が1日、解禁されました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で説明会が中止になるなど、不安も少なからずあるなか、就職活動にどんな心構えで臨めばいいのか、社会人の先輩に聞いてみました。」という特集記事である。

まず、DeNA会長・南場智子さん(57)の話であるが、自身の体験談として、「コンサルタント会社(マッキンゼー・アンド・カンパニー)に勤める先輩に誘われて行った説明会で格好良さにひかれ、たまたまその会社に内定しました。一番ダメな例です。自分の将来についてちゃんと考えなかったし、他の選択肢も考えていなかった。だから、入社してから苦労しました。先輩の指示の意味もわからず、焦って夜遅くまで働いて寝不足になる。周りの評価を気にして、自信がなくなる悪循環に陥っていました。」とし、「「昨年10月のDeNAの内定式では、内定者に「自分のことをうんと好きになってきてほしい」と話しました。期待に応えられない悔しさや同期との比較が気になり自信がなくなってしまう中で、自分の個性を大切にしてほしいという願いからでした。」としている。
そして、「これは、就活生にも言えると思います。就活では、足りないところをどう見せるかばかりを考えるのではなく、自分の大好きなところはどんなことかを考えてきてほしいと思います。DeNAでは自分らしさを出せるように、面接や内定式でも思い思いの服装で参加してもらっています。」とし。「会社は多様な人材がいる方が発展します。ただ、あえて言えば表面的には静かな人でも、アグレッシブな人でも良いのですが、芯は「真面目で頑張り屋」な人を求めたい。」としている。
続けて、「状況が悪いときでも、組織が強ければ必ず乗り越えられる。仕事に真摯(しんし)に取り組む社員の存在はすごく頼もしく感じます。だから、私は採用を大事にしています。」とする。
一転して、「日本の教育には、一つの答えを正しいとする価値観があります。そして「間違えない達人」をつくるんです。就職活動でも、企業や会社に偏差値や序列があるかのような情報が出回り、大企業に向かっていく。でも、職業選択に偏差値なんてあるわけないじゃないですか。夢中になって仕事をして社会貢献するという醍醐味を知ることで人は成長できるのです。」とし、「日本は少子高齢化など様々な問題に直面しています。前例がないわけだから、その対処方法にはユニークさが必要になる。「こうであらねばならない」ではなく、自分の個性を解き放って成長してほしいです。」と結んでいる。

一方、作家の万城目学さん(44)は、「私はいわゆる就職氷河期世代です。4回生(4年生)の時には、小説家になりたいという漠然とした気持ちがあるような段階で就職活動をしました。何をやりたいかもわからず、とりあえずネームバリューのある企業に応募しましたが、一次面接で落ちてばかり。途中で「もうええか」と就活をやめてしまいました。その後、小説を書き始めたのですが、書きながら「すぐには小説家にはなれない」と感じ、翌年に再び就職活動をしました。」としている。
そして、「1回目があったので、就活は本気で取り組まないといけないことはわかっていました。そこで私が立てた戦略はあまり働かない会社に入ろう、ということです。今思えば、ずいぶん上から目線かもしれませんね。当時は説明会で、モーレツに働くことを社員が武勇伝のように語る会社がたくさんありました。小説を書くためには仕事以外の時間がほしいし、家族とも過ごしたいし、土日は家にいたい。だから、そういった会社は選択肢から外しました。」とし、「本当に面接での受けが悪かったですね。僕は、具体的な作業を一緒にしたら、だれよりもできるという自信はあるんです。でも、面接では自由闊達(かったつ)にしゃべれない。わずかな時間でフィーリングが合うというタイプではないんですね。僕の場合は、採用課長が最終面接でうまく声をかけてくれて、なんとか素材メーカーから内定をもらいました。」としている。
その上で、「就職活動って苦しいですよね、良いことないですもん。私も落ち込んではノートにぽつんと黒電話の落書きを描き、「鳴らない電話」と名付けていました。就職活動のような苦行には、メンタルの持ち方が大事かもしれません。すごく結果の悪かった日でも、明日のためには気持ちの切り替えが大切です。引きずるともっと自信がなくなるので、忘れることがいいんじゃないでしょうか。」とし、「本当は1秒でも早く内定を取って就活を終えてほしいですけれど、そうもいかない。就活生は本当につらいですよね。今は売り手市場だからって、自分の時より楽だとか言いたくもないし、いつかは決まると言うのも無責任だし。ただ、働き出したら、もっと多くの悩みに出合います。たいしたことないんですよ、その会社に行けるか、行けないかは。あまり大きなことと捉えすぎないでほしいです。」と結んでいる。

そして記事では、「リクルートキャリア就職みらい研究所が3月6~8日に企業の人事担当者へ行った調査では、2021年卒の採用活動に新型コロナウイルスの感染拡大の影響が「ある」との回答が58.4%、「現時点ではないが、今後は影響がありそう」との回答が29.7%だった。」とし、「影響が「ある」「ありそう」と回答した人事担当者685人に課題を聞いたところ「採用スケジュールの見直し」を挙げた人が76.6%で最も多かった。具体的な影響としては、グループ面接に影響があるとしたのが248人、エントリーシートなど書類選考に影響があるとの回答が180人だった。書類選考への影響では、日程を変更して実施する予定とする企業が50%にのぼった。」としている。
また、「採用予定数を当初の計画から変更するかを尋ねると、「変更しない」が48.2%と半数近くを占めた。「(増減を)検討中」と答えた企業は29.5%、「減らす」とした企業は12.7%だった。同研究所の増本全所長は「依然として企業の採用意欲はあるが、スケジュールを遅らせる企業が多い。学生は不安になると思うが、冷静に志望企業のスケジュールを確認することや積極的な情報収集を心がけてほしい」と話す。」とし、「「会社説明会は3年生の3月、面接は4年生の6月解禁」とする大学生の就職・採用活動の日程ルールは、2020年春に卒業する学生まで主導してきた経団連に代わり、政府がルールをつくり、企業に守るように要請している。」が、「就職活動は前倒しされている。就職情報会社ディスコの調査では、説明会解禁の3月1日時点で内々定を得た学生は前年実績より2.0ポイント多い15.9%だった。」としている。

コロナ・ショックの状況下でも、「説明会解禁の3月1日時点で内々定を得た学生は前年実績より2.0ポイント多い15.9%」というのは驚きだが、「内々定」というのは、「内定」とは異なり、口約束レベルのものであり、また、コロナ・ショックによる状況激変で、非常に不安定な状態になるであろう。「内定取消」には社会的な批判も大きく、補償問題が出て来る可能性があるが、面接解禁の6月より前の「内々定」は、掟破りの行為であるから、関係する企業だけでなく学生側にも問題があるとみなされるはずで、言ってみれば風前の灯の状況になる。
記事のお二人の話を見てみると、南場智子氏は、会長という経営者の立場に立っており、学生からすると、思い出話的な印象になるだろう。ただ、「自分の個性を大切にしてほしい」という点は、確かに重要なことで、就活の中では見失いがちであるから、しんどい時は、少し休息をとって、自分は何をしたいのかなど、目前の就活の事ではなく、自分の未来を考える時間を取った方がいい。「職業選択に偏差値なんてあるわけない」のは、結婚と同じようなものだと考えればいい。誰もが憧れるスターと結婚しても、それで幸せになれるとは限らない。長い人生と、この人となら一緒に歩める、という気持ちが大事であろう。しかも、その幸せは、結婚したらつかめるというものではない。夫婦がお互いにたゆまぬ努力を重ねて初めて、結婚生活の幸せが手に入るのである。就職だって同じ事で、一番大事なことは、この会社なら自分なりにやっていけそうと感じられることである。それは、規模でも給与でもなく、他人が羨むかどうかではない。自分自身を大切にしなければ幸せになれないのは、就職でも同じである。
一方の万城目学氏の方は、「小説家になりたい」という思いを大事にしつつ、「すぐには小説家にはなれない」というか、要するに、食っていかなければならないということで、就職活動をしたのであろう。「あまり働かない会社に入ろう」というのはもっての他の考え方だが、「具体的な作業を一緒にしたら、だれよりもできるという自信はある」ということだから、無駄な時間は過ごしたくないということであり、実は、こういう人は非常に仕事ができることが多い。限られた時間を、いかに有効に過ごすか、というのは人生の大きなテーマであり、そういう考え方の人には無駄な動きが少ないからである。その上で、氏は「就職活動って苦しい」としながら、「たいしたことない」と言い切る。長い人生において、あの学校に受かったら、あの会社には入れたら、あの人と結婚できたら、と転機になりそうな事はありそうに思えるものだが、そうなったとしても、そうならなかったとしても、人生は続いていく。「決定的な瞬間」というのは、実は、ありそうでないものなのである。例えば、オリンピックで金メダルを取れれば死んでもいいと思っていても、そうなればなったで、その後の人生は続く。人間の人生の価値を決めるのは、所詮、自分自身以外にはない。「人もうらやむ」なんて、どうでもいいのである。自分で自分を褒めてあげられるかどうか、頑張った自分を一番良く知っているのは、貴方自身なのだから。