官製ワーキングプア
2020年3月16日 朝日夕刊9面 1 正職員と格差、納得できない
2020年3月17日 朝日夕刊7面 2 15年働いた経験、無視ですか
2020年3月18日 朝日夕刊5面 3 「労災に差別」届いた遺族の声
2020年3月19日 朝日夕刊11面 4 非正規こそ労働基本権が必要
官製ワーキングプアについて、現場を踏まえて報じるという4日連続の特集記事である。「約64万人(16年時点)まで膨れあがった非正規。低処遇に苦しむ人が多く「官製ワーキングプア」とも呼ばれる。」としている。
第1回目は、自治労中央執行委員の野角(のずみ)裕美子(59)氏の「私はみなさんと同じ非正規だった。私の仕事は非正規の処遇改善と雇用安定です」という講演での言葉から書き出している。自治労沖縄県本部が設立した非正規公務員の連絡協議会総会での話である。
「自治労は地方自治体の労働組合で構成する全国組織。ナショナルセンター・連合を支える有力組織で傘下の組合員は約80万人いる」が、「総合組織局強化拡大局長という肩書もある野角は、28人いる中央執行委員の一人。その立場は他の委員と大きな違いがある。自治労傘下組合員の多くは正職員だが、野角は非正規労組の出身だ」とのことである。
記事では、「子育てが一段落したころ、野角は東京都町田市の図書館に応募し、採用された」野角氏が、「正職員との格差を感じる」ようになり、「嫌だったのが正職員に賞与がある6月と12月。黙っていても周囲が浮かれているのがわかる。」「仕事は同じ。何の違いがあるのか」」と思ったことや「非正規の同僚が妊娠した時も格差を感じた。正職員が休暇に入る時は祝福されるのに、非正規が休むと微妙な空気が流れる」といった体験に触れている。
そして、「07年ごろ、民間委託の話が浮上したことをきっかけに、非正規労組を立ち上げた」とし、「野角は委員長に名乗りを上げ、一歩一歩、処遇改善を勝ちとってきた」とする。そして、自治労本部から「中央執行委員に」と声がかかったのは13年のお盆直前だったそうである。
問題の背景には、「公務員の法律は、正職員を前提につくられている。各自治体の考えで非正規を増やしてきたため、特別職や臨時職など法律上の採用根拠はバラバラ。賞与を払う根拠もはっきりしていなかった」点がある。
そして、「17年5月に地方公務員法が改正され、今年4月から「会計年度任用職員」という新制度が始まる。非正規のほとんどが新制度に移るとみられるが、新制度への批判は多い。賞与を払う一方、月額報酬を減らそうとする自治体がある。採用が1年ごとで不安定さも変わらない」が、野角は「法改正は水準を上げるためのスタート」「やっと法律に位置づけられる。法改正されて具体的にやることがわかる」と前向きにとらえているとのことである。
最後に、今年1月にあった自治労の中央執行委員会で、「会計年度任用職員の労働条件について要求書を出していない組合が3割もあった」ことに、「2年半前からわかっていたのに。まだまだひとごと。処遇改善は人材確保にもプラス。自治労として取り組むべき課題だ」と野角は驚き、怒りをあらわにしたそうであるが、記事は。「野角の任期は残り2年を切った」と結んでいる。
第2回目の記事は、「2月20日、東京・新宿にそびえる都庁38階の東京都労働委員会の審問室。伊藤信子(67)が大田区の保育園で働けるかどうか。区との話し合いは大詰めだった」との書き出しである。
「15年間、大田区の保育園で働いている伊藤は幼稚園教諭の資格をもつ」そうであるが、「午後4時半から7時半までの3時間、「延長番」と呼ばれる勤務につく」ものの、「最初は公務員になっていいなと思った。ところが、だんだん正職員との差が気になりだした」としている。
そして、「4回の更新上限があった。3年を過ぎたころから不安が募った。1年空ければ再び応募できるが、採用される保証はない。その間の勤務先はどうすればいいのか。組合を作って交渉し、在職したまま応募できるようにした」とし、引き継ぎノートへの「今日はボーナスが出ます」との正職員の書き込みに、「格差がむなしくなってくる」と感じたとしている。
そして、非正規公務員の人たちのための新しい制度「会計年度任用職員」が今年4月から大田区でも始まり、「部署によってバラバラだった勤務パターンが五つに整理された」が、「伊藤と同じ3時間勤務も経過措置の特例としてあった。しかし、伊藤は条件にあてはまらないと言われた」と言う。「延長番」は正職員と伊藤の2人体制。東京都の基準では2人とも保育士資格が必要だという。「月80時間勤務すれば保育士と同じ知識や経験があると認められる可能性があるが、月66時間の伊藤は条件を満たさない」というのである。
そこで、「月66時間でも15年の経験がある。それなのに1年でも80時間経験させればいいというのは矛盾。今までの時間を無視するのは納得できない。なぜ15年がゼロになるのか」と大田区と交渉を続け、「交渉は労働委員会に持ち込まれた。勤務時間を変更した上で、3時間で働き続けられる条件を大田区が提示。2月20日の話し合いでは、これまでの保育実績を考慮して選考することも表明した」と言う。
記事は、「声を出さなければ何も変わらない。みな同じ公務員です」との伊藤氏の声で結んでいる。
第3回目は、「労災手続きがなくても市長に補償請求ができるから北九州市の条例は違法ではない」との書き出しである。この訴訟の原告である森下眞由美(57)氏の娘である佳奈氏は、「大量の薬を飲んで亡くなった。27歳だった」という。
佳奈氏は、12年4月、北九州にある戸畑区役所の子ども・家庭相談コーナーの相談員(非正規職)になったが、翌年1月、佳奈は体調を崩し大分県内の自宅に戻り、うつ病と診断されたそうである。
そして、ご両親は、「自死遺族支援弁護団に連絡し、紹介されたのが佃だ。佃はまず労災を請求した。ところが、労働基準監督署は「対象ではない」。次に北九州市に請求したが、「非正規や遺族の請求は認めていない」と門前払いされた。条例で定める規則がそうなっているというのだ」という。
記事では、非正規公務員の「労災(公務災害)制度は複雑」としている。「民間企業の労働者には労災保険がある。公務員でも土木や建築、運送、教育など「現業」と呼ばれる職場は同じ労災保険の対象。それ以外の地方公務員は、地方公務員災害補償法という別の制度だ」とし、「問題は、佳奈のように、現業でない非正規公務員。法律では各自治体が条例や規則で定めることになっている。総務省の古いひな型では、本人や遺族は申請できないことになっていた」そうで、「自治体によっては規則を変えたり、運用で請求できるようにしたりしているところもある。ところが、北九州市は古いままだった」という。
そこで、ご両親は、「ここまでの差別があっていいのか?」と17年8月に「請求権を認めない条例は違法」と国家賠償訴訟を起こし、「非正規公務員の労災制度に大きな矛盾があることを世の中に広く知らしめた」というわけである。
その後、「18年7月初め、眞由美は、野田聖子総務相(当時)に手紙を出す。野田からはすぐに見直しを確約する返事が届いた。7月20日には、総務省がひな型を変更して自治体に通知。北九州市も10月に規則を改正し、被災職員本人や遺族も申請できるようにした。眞由美の思いは、政府を動かし、条例も変えた」という。
最後に、「福岡高裁で退けられた国家賠償訴訟はその後最高裁に上告。佳奈の死は上司のパワハラが原因だったとして、補償を求める訴訟も福岡地裁で続いている」と結んでいる。
最後の第4回目は、「非正規公務員問題に取り組むNPO「官製ワーキングプア研究会」の事務所は東京都新宿区にある。2月2日の日曜日、昼過ぎに訪れると、4本の回線にひっきりなしにかかってくる電話の対応にメンバーが追われていた」という書き出しであり、「4月から新制度の「会計年度任用職員」が始まるために開かれた電話相談。「月給が減る」「更新されない」。2日間で計91件の問い合わせがあった」としている。
そして、「安田真幸(まさき)(72)も電話に対応した一人だ。安田は東京都杉並区の元職員。今は、自ら立ち上げた個人加盟ユニオン「連帯労働者組合・杉並」の執行役員だ。40年以上前、大学を卒業して公務員試験を目指し、東京都庁でアルバイトをしていたことがある」が、「半年ほどたった時のことだ。「名前を変えてくれないか」と上司から言われた。アルバイトは半年更新が原則で、本来は半年以上続けられないからだ」ということになり、「「年収が減るだろう」と社会保険を辞退することに合意する書類にサインすることも求められた」ところから、「これは一体何だ?」と疑問が湧いたという。そして、「その後都庁に入り杉並区役所に配属された。区の正職員組合で活動したが、1989年に脱退。個人加盟できる労組を立ち上げた」というわけである。
そして、「会計年度任用職員」制度で安田が一番問題だと考えるのは、労働基本権の扱いだ。地方公務員法(地公法)で公務員の労働基本権は制約されている。スト権はなく、労働協約を結ぶことはできない。非正規公務員も同じ扱いだが、例外がある。「特別職」だ」とし、「特別職は本来専門職で、恒常的な仕事は考えられていない。それなのに、自治体が非正規を増やすときに特別職を使った。非正規公務員の3分の1を占め、学校や保育園など多くの職場にいる」という。そして、「特別職に労働基本権があることを活用して、自治体と団体交渉を行い、労働協約を結んできた労組は少なくない」と、「2000年代に入ると、多くの成果が出始めた」と安田はいうとしている。
「ところが、会計年度任用職員を導入する地公法改正で、特別職として採用する条件は厳格になる。特別職の多くは会計年度任用職員に移り、他の公務員と同じように労働基本権が制約されるため、安田の目には「法改正は労働基本権を奪うのが目的だ」と映る」というのである。
そして、「安田は労働基本権を使って団体交渉をしてきた三つの労働組合とともに17年、法改正が団結権を保護する国際労働機関(ILO)の条約に違反すると申し立てた。不受理にはなったが、ILOにある専門家委員会に働きかけを続けた」ところ、「その後、今年2月に発表された専門家委員会の年次報告書には、安田らの労組名とともに「長年保持してきた労働組合権が奪われないよう労使関係システムの検討を政府に要請する」と書かれた」とし、「報告書自体に拘束力はないが、今後の運動にどう生かしていくか。「正職員は身分保障がされている。不安定な非正規公務員こそ、労働基本権が必要だ」。安田は次の一手を模索している」と記事は結んでいる。
この記事のきっかけとなったのは、「会計年度任用職員」という制度である。これについて、総務省自治行政局公務員部は、次のように説明している。(資料がきちんと閲覧できない状態での掲示は、自己チェックもできていない杜撰さだが。)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638276.pdf
課題であった点として、「厳しい地方財政の状況が継続する中、教育、子育てなど増大し多様化する行政需要に対応するため、地方公務員における臨時・非常勤職員数は増加」し、「これまでにも平成26年総務省通知等により助言を行ってきたが、地方公共団体によっては制度の趣旨に沿わない任用が行われており(課題1・2)、また、処遇上の課題(課題3)もある」状況だったとしている。(3ページ)
課題1:通常の事務職員も「特別職」で任用
課題2:採用方法等が明確に定められていないため、一般職非常勤職員としての任用が進まない
課題3:労働者性の高い非常勤職員に期末手当の支給ができない
そこで、地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律(平成29年法律第29号)が制定されたわけであるが、その概要は、次の通りである。(4ページ)
1.地方公務員法の一部改正【適正な任用等を確保】
(1)特別職の任用及び臨時的任用の厳格化
(2)一般職の非常勤職員の任用等に関する制度の明確化
2.地方自治法の一部改正【会計年度任用職員に対する給付を規定】
○会計年度任用職員について、期末手当の支給が可能となるよう、給付に関する規定を整備する。
そして、これらの内容について、下記のように説明されている。
特別職の任用及び臨時的任用の厳格化(8ページ)
①専門的な知識経験又は識見を有すること
②当該知識経験等に基づき事務を行う労働者性の低い職であること
③事務の種類は、助言、調査、診断又は総務省令で定める事務であること
の全ての要件に該当する職に限定
臨時的任用の適正確保(9ページ)
○臨時的任用は、緊急の場合等、正規の任用手続きを経るいとまのないときに特例的に認められるものであることから、国家公務員の取扱いを踏まえ、「常勤職員に欠員を生じた場合」に限定
○改正法に基づく臨時的任用職員は、フルタイムで任用され、常勤職員が行うべき業務に従事するとともに、給料、旅費及び手当が支給
会計年度任用職員の募集・任用・服務(10ページ)
○募集・任用にあたっては、できる限り広く募集を行うなど、適切な募集を行った上で、競争試験又は選考により、客観的な能力実証を行う必要(常勤職員は競争試験によることが原則)
○会計年度任用職員には地方公務員法の服務に関する規定が適用され、懲戒処分等の対象となる(パートタイムの会計年度任用職員は、営利企業への従事等の制限が対象外)
再度の任用(11ページ)
○再度の任用は、あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理すべきであり、任期ごとに客観的な能力実証に基づき、十分な能力を持った者を任用することが必要
○不適切な「空白期間」は是正する必要※「空白期間」とは新たな任期と前の任期との間に一定の期間を設けること
会計年度任用職員の給与水準(12ページ)
○会計年度任用職員の初任給決定については、職務経験等の要素を考慮して定めることが適当。
○会計年度任用職員の給与水準については、基本的には常勤職員の給料表に紐付けた上で、上限を設定することが適当。
会計年度任用職員に対する給付の考え方(全体像)(13ページ)
フルタイム:給付体系給料・旅費・手当を支給可能
パートタイム:報酬・費用弁償・期末手当を支給可能
会計年度任用職員の勤務時間・休暇等(14ページ)
○職務の内容や標準的な職務の量に応じた適切な勤務時間を設定すること
○国の非常勤職員との権衡の観点等を踏まえ、必要な休暇等の制度を整備すること
以上の全体像をざっと見ると、この改正自体が悪いようには思えない。これに対する問題点を指摘したものとして、自治労連新潟公務公共一般労働組合の坂井雅博執行委員長による「論文『会計年度任用職員』導入による公務員制度の大転換」がある。
https://www.jichiken.jp/article/0080/
論文では、「公務運営のあり方そのものをも、変質させる危険性」に言及し、「「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務運営」の原則が崩されている実態を追認し、固定化するものでもあります。ここには、非正規化をすすめてきた政府や地方自治体の責任には、いっさい触れられていません。それどころか、住民の暮らしに密着した仕事のほとんどを、非正規職員に担わせることを正当化するものとなっています。」としている。
しかし、自治労自体の責任は、どうなのか。正規職員の利権を守るために、非正規職員についての格差を黙認・温存していたのではないのか。第1回目と第2回目の記事では、嫌だったのは「正規職員との格差」とされている。それは、自治労が正規職員の利益を最優先してきたことを物語るものではないのか。
もちろん、移行期の問題として、兼業禁止や給与減額→賞与への振り替え、といった問題は生じている。では、自治労に、正規職員の分を削っても非正規職員の賞与に回すべきだとの思いはあるのか。第1回目では、「会計年度任用職員の労働条件について要求書を出していない組合が3割もあった」とされているところである。
第3回目の労災の問題は、新制度によって、基本的に解決するのではないかと思われるが、ここにも自治労の支援は窺われない。
第4回目の労働基本権の問題は、非正規職員だけの問題ではない。くだんのILOの専門家委員会の年次報告書は、ちょっとWEB上では確認できなかったが、「日本の公務員の労働基本権問題(ILO第87号条約「結社の自由・団結権保護」)」について、基準適用委員会(CAS)の個別審査案件になっていることは確認できる。
http://www.jichiro.gr.jp/intr/7743
「不安定な非正規公務員こそ、労働基本権が必要」とする見方には、賛成できない。制度のハザマの中で、非正規職員が有していた唯一正規職員より有利なものであった労働基本権が奪われることに対する怒りは分かるが、本来、正規・非正規を問わずに確保されるべき労働基本権ではないのか。
総括して言えば、『会計年度任用職員』の導入は、まだ正規・非正規の格差が広範に残る中で、十分なものとは言えない。しかし、それでも「同一労働同一賃金」の方向に向けた一定の改善ではある。同じ公務員として、さらに同じ労働者として、正規・非正規の格差の解消のために、一致協力して臨むべきであろう。
2020年3月16日月曜日
2020年3月15日日曜日
2020年3月15日 日経朝刊2面 ●公務員の転職希望が急増 大手サイト登録最高/20代、外資やITへ
「公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。」という記事である。
「人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。」としている。30代女性の「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」との声も掲載されている。
「新卒者の減少に加え、人手不足で転職市場が活況になっていることも一因とみられる。」「民間企業との人材獲得競争もあり、公務員の志望者は減少している。」と記事はしているが、「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」ということで、「2019年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。」とのことである。
「慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。」ということで、「有能な若手の流出は組織の人員構成をいびつにし、将来の行政機能の低下も懸念される。年次主義の見直しや業務プロセスの効率化などの改革が欠かせない。」と記事は結んでいる。
就活事情からすると、コロナ・ショックで雇用が安定している公務員への就職希望は増えるものと思われるが、その途もバラ色というわけにはいかないようである。
2019年8月の「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000540524.pdf
52ページの「もう、拘牢省とは言わせない。」という叫びには、切羽詰まったものが感じられる。
やり甲斐が感じられない一因としては、長期の安倍政権の中で、国民のための業務遂行が、政権のための辻褄合わせに堕している点もあるのではないか。森友事件が典型的であり、自殺した若手官僚の妻の訴えは、多くの官僚にとって他人事ではないであろう。
政権の危機感のなさは、コロナ・ショックで緊急事態宣言が出された今になってすら蔓延している。何としても集団感染を回避しようとしている東京都の施設に対する営業自粛要請に、国が難癖をつけているのである。理容室・美容室のような濃厚接触場所への自粛要請は当然ではないか。ホームセンターは議論がありそうだが、百貨店まで対象外にしようとするのは訳が分からない。恐らく、対象となりそうな業界が、必死に政治家に働きかけているのであろう。
そもそもの強制力を伴わない自粛要請の効果に対してすら諸外国は懐疑的だが、現場の必死の思いに冷水を浴びせる国の姿勢には、呆れかえるしかない。恐らく、その無意味な交渉の矢面に立たされているであろう厚生労働官僚が、やる気を失ったとしても、「むべなるかな」としか言いようがない。この国は、今や崩壊の瀬戸際にある。
「公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。」という記事である。
「人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。」としている。30代女性の「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」との声も掲載されている。
「新卒者の減少に加え、人手不足で転職市場が活況になっていることも一因とみられる。」「民間企業との人材獲得競争もあり、公務員の志望者は減少している。」と記事はしているが、「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」ということで、「2019年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。」とのことである。
「慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。」ということで、「有能な若手の流出は組織の人員構成をいびつにし、将来の行政機能の低下も懸念される。年次主義の見直しや業務プロセスの効率化などの改革が欠かせない。」と記事は結んでいる。
就活事情からすると、コロナ・ショックで雇用が安定している公務員への就職希望は増えるものと思われるが、その途もバラ色というわけにはいかないようである。
2019年8月の「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000540524.pdf
52ページの「もう、拘牢省とは言わせない。」という叫びには、切羽詰まったものが感じられる。
やり甲斐が感じられない一因としては、長期の安倍政権の中で、国民のための業務遂行が、政権のための辻褄合わせに堕している点もあるのではないか。森友事件が典型的であり、自殺した若手官僚の妻の訴えは、多くの官僚にとって他人事ではないであろう。
政権の危機感のなさは、コロナ・ショックで緊急事態宣言が出された今になってすら蔓延している。何としても集団感染を回避しようとしている東京都の施設に対する営業自粛要請に、国が難癖をつけているのである。理容室・美容室のような濃厚接触場所への自粛要請は当然ではないか。ホームセンターは議論がありそうだが、百貨店まで対象外にしようとするのは訳が分からない。恐らく、対象となりそうな業界が、必死に政治家に働きかけているのであろう。
そもそもの強制力を伴わない自粛要請の効果に対してすら諸外国は懐疑的だが、現場の必死の思いに冷水を浴びせる国の姿勢には、呆れかえるしかない。恐らく、その無意味な交渉の矢面に立たされているであろう厚生労働官僚が、やる気を失ったとしても、「むべなるかな」としか言いようがない。この国は、今や崩壊の瀬戸際にある。
2020年3月15日 日経朝刊32面 社会人とは何か? 山崎ナオコーラ
「社会人」という不思議な日本語がある、という書き出しの作家山崎ナオコーラ氏による随筆である。「「収入を得られる職業に就いている人」を指しての使用が多いように思う。主婦や主夫、年金生活者が含まれない文脈で使われているのをよく見かける。さらに、正社員のみを指すような文章を見かけることもある。フリーター、派遣社員、芸術家、休業者などは「社会人」という言葉で表現されることが少ない。定収入信仰だ。」としている。
続けて、「けれども『大辞林』で「社会人」を引いてみると、「(1)学校や家庭などの保護から自立して、実社会で生活する人。(2)(スポーツなどで)プロや学生ではなく、企業に籍を置いていること。(3)社会を構成している一人の人間。」とある。(2)のイメージが強くて、企業の雰囲気が漂う言葉になっているのかもしれない。」とする。
そして、「スポーツに関係のないシーンで使われる「社会人」は(1)と(3)の意味のはずであり、主婦もフリーターも芸術家も真に「社会人」だ。それなのに、会社に通って、礼儀正しく過ごし、自分の収入で生活する、というイメージは根強い。」と言う。
しかし、「とはいえ少しずつ変わってきているのかもしれない」とし、「フリーランス」のご自身のお子さんの保育園入園での経験を記している。そして、「働き方の多様性が認められる社会が始まっているのではないか。派遣社員もフリーターも「社会人」だ。私も、きっと堂々と働いていい。明るい光に感じられた。」としとぃる。
その上で、「おそらくこれからは、雑談で雰囲気を動かしたり、消費の選択で経済社会を動かしていく主婦や主夫もはっきりと「社会人」と呼ばれるようになる。いや、…あと5年で主婦と主夫という言葉はなくなる。…家庭運営者も「社会人」だ。」としている。
一方、「主婦の年収を計算して社会評価に繋(つな)げようという考え方も世間にあるが、私は反対だ。家庭運営者は、パートナーに雇われているのでも、家族を顧客と見なしているのでもない。社会を良くする高度な職業だ。年収で社会評価を下す時代は終わりだ。もう、金は物差しにならない。」とし、「よく「女性の社会進出」「女性が輝く社会」といったフレーズを見かけるが、これもおかしい。どうも、「金に繋がる職業に就くことが社会進出」「収入を得ることで、やっと輝ける」という意味が透けて見える。」と続けて、「コーヒーを飲むだけの小説でも経済小説になり得ると考えている。育児も介護も趣味もすべて社会活動だ。」と結んでいる。
興味深い視点である。私自身の経験からして、「社会人になる」とか「社会で出る」というのは、学生時代を卒業して会社に入る、という感覚を持っていた。と同時に、この随筆には、「社会人」という言葉への反発と憧憬が窺われて、その点も新鮮だった。
一方で、「世間」という言葉がある。「世間様に顔向けできない」とか「世間の風は冷たい」とか、すぐにはマイナスのイメージしか出てこないが、これは「社会」よりも、もっと範囲の広いもので、「家庭」外の世界を意味するように思われる。
山崎氏が最初に挙げている「社会人」のイメージからは、「会社人間」という言葉が出て来る。会社第一主義に染まった人々という感じだが、「会社」か「社会」かという価値観の相克の場面でも使われる。並びとしては、「家庭」→「社会」→「国家」ということになり、勤め人にとっては、「会社」が「社会」の大きな要素を占めるということになるのだろう。「社会」には、「地域」や「世間」というものも含まれるのだろう。
ともあれ、いろいろな考えの浮かぶ随筆である。
「社会人」という不思議な日本語がある、という書き出しの作家山崎ナオコーラ氏による随筆である。「「収入を得られる職業に就いている人」を指しての使用が多いように思う。主婦や主夫、年金生活者が含まれない文脈で使われているのをよく見かける。さらに、正社員のみを指すような文章を見かけることもある。フリーター、派遣社員、芸術家、休業者などは「社会人」という言葉で表現されることが少ない。定収入信仰だ。」としている。
続けて、「けれども『大辞林』で「社会人」を引いてみると、「(1)学校や家庭などの保護から自立して、実社会で生活する人。(2)(スポーツなどで)プロや学生ではなく、企業に籍を置いていること。(3)社会を構成している一人の人間。」とある。(2)のイメージが強くて、企業の雰囲気が漂う言葉になっているのかもしれない。」とする。
そして、「スポーツに関係のないシーンで使われる「社会人」は(1)と(3)の意味のはずであり、主婦もフリーターも芸術家も真に「社会人」だ。それなのに、会社に通って、礼儀正しく過ごし、自分の収入で生活する、というイメージは根強い。」と言う。
しかし、「とはいえ少しずつ変わってきているのかもしれない」とし、「フリーランス」のご自身のお子さんの保育園入園での経験を記している。そして、「働き方の多様性が認められる社会が始まっているのではないか。派遣社員もフリーターも「社会人」だ。私も、きっと堂々と働いていい。明るい光に感じられた。」としとぃる。
その上で、「おそらくこれからは、雑談で雰囲気を動かしたり、消費の選択で経済社会を動かしていく主婦や主夫もはっきりと「社会人」と呼ばれるようになる。いや、…あと5年で主婦と主夫という言葉はなくなる。…家庭運営者も「社会人」だ。」としている。
一方、「主婦の年収を計算して社会評価に繋(つな)げようという考え方も世間にあるが、私は反対だ。家庭運営者は、パートナーに雇われているのでも、家族を顧客と見なしているのでもない。社会を良くする高度な職業だ。年収で社会評価を下す時代は終わりだ。もう、金は物差しにならない。」とし、「よく「女性の社会進出」「女性が輝く社会」といったフレーズを見かけるが、これもおかしい。どうも、「金に繋がる職業に就くことが社会進出」「収入を得ることで、やっと輝ける」という意味が透けて見える。」と続けて、「コーヒーを飲むだけの小説でも経済小説になり得ると考えている。育児も介護も趣味もすべて社会活動だ。」と結んでいる。
興味深い視点である。私自身の経験からして、「社会人になる」とか「社会で出る」というのは、学生時代を卒業して会社に入る、という感覚を持っていた。と同時に、この随筆には、「社会人」という言葉への反発と憧憬が窺われて、その点も新鮮だった。
一方で、「世間」という言葉がある。「世間様に顔向けできない」とか「世間の風は冷たい」とか、すぐにはマイナスのイメージしか出てこないが、これは「社会」よりも、もっと範囲の広いもので、「家庭」外の世界を意味するように思われる。
山崎氏が最初に挙げている「社会人」のイメージからは、「会社人間」という言葉が出て来る。会社第一主義に染まった人々という感じだが、「会社」か「社会」かという価値観の相克の場面でも使われる。並びとしては、「家庭」→「社会」→「国家」ということになり、勤め人にとっては、「会社」が「社会」の大きな要素を占めるということになるのだろう。「社会」には、「地域」や「世間」というものも含まれるのだろう。
ともあれ、いろいろな考えの浮かぶ随筆である。
2020年3月15日 日経朝刊8面 ●新型コロナ、中国の新卒採用市場に打撃
「新型コロナウイルスの感染拡大の影響が中国の大学生の就職活動にも及んでいる。」との記事である。「求人企業による新卒採用イベントなどが中止になったほか、人の移動が制限されて面接会場に行けなかったり、春節(旧正月)休暇後に大学に戻れなかったりするなど、多くの学生が苦慮している。」という。
記事では、「2020年夏に卒業したら学習塾の講師として働くことになっていた。だが、内定をもらっていた塾の担当者から突然、「しばらく自宅で待機するように」との連絡があった。中国政府当局からの要請で当面、塾を閉鎖せざるを得なくなったためだ。授業再開のメドは立っておらず、途方に暮れている。」学生の例が紹介されている。
そして、「新型コロナの感染拡大は中国経済を直撃し、事業拡大をためらうだけでなく、新卒者採用を手控える企業も急増している。中国の求人サイト「BOSS直聘」が春節明け後の3週目に掲載した大学卒業予定者向けの求人件数は前年同期比44%減となった。運営会社によると、業種別では広告業界などは70%超の大幅減となり、減少幅が比較的小さい医療業界でさえも、前年同期を8.8%下回った。」とし、「中国では大卒者が右肩上がりに増えており、20年夏が終わるまでに最大で874万人規模の新卒者が労働市場に加わる見通しだ。だが、そのうち何人が就職できるかは不透明な状況だ。」という。
また、「これまでの努力がすべて水の泡になった」と嘆く大学生の例も紹介されており、「専攻はコンピューター工学で、卒業後は「中国のシリコンバレー」と呼ばれる広東省深圳市でキャリア人生を始めるつもりだった。就職希望の3社での面接日程もすでに決まっていた。」が、「公共交通機関などが停止となるなど人の移動が大きく制限され、面接会場に行くことができなかった。インターネットを使った面接を行う企業も増えている」が、「大学にすぐに戻れそうにないし、いつ卒業できるかわからない。こんな人を企業が雇うはずがない」と語っていると言う。
また、「新卒者ではなく、即戦力となる経験者の採用を優先する企業も目立つ。」とし、「斬新なアイデアを持つ若い人材は貴重な存在だが、新卒者を雇う余裕はない」という経営者のコメントがあり、採用者は「いずれも経験者で、新卒者は含まれていない」という例もあるとのことである。
最後に、「新卒者の就職を促そうと、政府当局は企業に採用活動期間の延長を要請したほか、軍や農村部の政府機関で新卒者採用数を増やす方針を明らかにした。深圳や北京などの都市部では人の移動制限が段階的に緩和され、平常時に戻る兆しが出てきた。だが、就活生への打撃はあまりにも大きい。」と結んでいる。
中国の就職事情は知らなかったが、こと新型コロナがらみとなると、中国で起きていることは、世界中に飛び火することになりそうである。現在、欧米各国で起きている大都市の封鎖やイタリアでの医療崩壊などがそうであるが、新卒者の就活も、その一つであろう。
就職予定先の企業から自宅待機を要請されて途方に暮れる、いつ卒業できるか分からない状態で就活を強いられる、経験者優先で新卒者は採用されない、といった記事の状況は、確実に日本にも訪れるであろう。「就活生への打撃はあまりにも大きい」わけで、身を引き締めて就活に臨む必要がある。もはや、昨年までの就活状況ではない。
「新型コロナウイルスの感染拡大の影響が中国の大学生の就職活動にも及んでいる。」との記事である。「求人企業による新卒採用イベントなどが中止になったほか、人の移動が制限されて面接会場に行けなかったり、春節(旧正月)休暇後に大学に戻れなかったりするなど、多くの学生が苦慮している。」という。
記事では、「2020年夏に卒業したら学習塾の講師として働くことになっていた。だが、内定をもらっていた塾の担当者から突然、「しばらく自宅で待機するように」との連絡があった。中国政府当局からの要請で当面、塾を閉鎖せざるを得なくなったためだ。授業再開のメドは立っておらず、途方に暮れている。」学生の例が紹介されている。
そして、「新型コロナの感染拡大は中国経済を直撃し、事業拡大をためらうだけでなく、新卒者採用を手控える企業も急増している。中国の求人サイト「BOSS直聘」が春節明け後の3週目に掲載した大学卒業予定者向けの求人件数は前年同期比44%減となった。運営会社によると、業種別では広告業界などは70%超の大幅減となり、減少幅が比較的小さい医療業界でさえも、前年同期を8.8%下回った。」とし、「中国では大卒者が右肩上がりに増えており、20年夏が終わるまでに最大で874万人規模の新卒者が労働市場に加わる見通しだ。だが、そのうち何人が就職できるかは不透明な状況だ。」という。
また、「これまでの努力がすべて水の泡になった」と嘆く大学生の例も紹介されており、「専攻はコンピューター工学で、卒業後は「中国のシリコンバレー」と呼ばれる広東省深圳市でキャリア人生を始めるつもりだった。就職希望の3社での面接日程もすでに決まっていた。」が、「公共交通機関などが停止となるなど人の移動が大きく制限され、面接会場に行くことができなかった。インターネットを使った面接を行う企業も増えている」が、「大学にすぐに戻れそうにないし、いつ卒業できるかわからない。こんな人を企業が雇うはずがない」と語っていると言う。
また、「新卒者ではなく、即戦力となる経験者の採用を優先する企業も目立つ。」とし、「斬新なアイデアを持つ若い人材は貴重な存在だが、新卒者を雇う余裕はない」という経営者のコメントがあり、採用者は「いずれも経験者で、新卒者は含まれていない」という例もあるとのことである。
最後に、「新卒者の就職を促そうと、政府当局は企業に採用活動期間の延長を要請したほか、軍や農村部の政府機関で新卒者採用数を増やす方針を明らかにした。深圳や北京などの都市部では人の移動制限が段階的に緩和され、平常時に戻る兆しが出てきた。だが、就活生への打撃はあまりにも大きい。」と結んでいる。
中国の就職事情は知らなかったが、こと新型コロナがらみとなると、中国で起きていることは、世界中に飛び火することになりそうである。現在、欧米各国で起きている大都市の封鎖やイタリアでの医療崩壊などがそうであるが、新卒者の就活も、その一つであろう。
就職予定先の企業から自宅待機を要請されて途方に暮れる、いつ卒業できるか分からない状態で就活を強いられる、経験者優先で新卒者は採用されない、といった記事の状況は、確実に日本にも訪れるであろう。「就活生への打撃はあまりにも大きい」わけで、身を引き締めて就活に臨む必要がある。もはや、昨年までの就活状況ではない。
2020年3月14日土曜日
2020年3月14日 朝日朝刊7面 春闘、賃上げ率2%割れ ベア見送り相次ぎ 連合初回集計
今春闘の状況を伝える記事で、「連合は13日、今春闘で経営側から回答を得た労働組合について、1回目の集計結果を発表した。基本給の水準を引き上げるベースアップ(ベア)と、年齢を重ねると自動で増える定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は平均で1・91%。前年の初回集計を0・25ポイント下回り、7年ぶりに2%を割り込んだ。米中貿易摩擦などの影響で業績が悪化した製造業を中心に、ベア見送りが相次いだことが響いた。」というものである。
「会見で神津里季生(りきお)会長は、18年からベア額を非公表としているトヨタ自動車が今春闘でベアゼロを公表したことを挙げ、「経営側がことさらにベアゼロと言ったのか、釈然としない。この局面でマイナス心理を出すことはあってはならない」と述べた。
としているが、「今春闘は新型コロナウイルスの影響も受けている。全日本空輸は一時金の協議を延期し、ホンダの一時金の回答は11年ぶりの満額割れとなった。」と記事はいう。
最後に、明治安田生命保険チーフエコノミストの小玉祐一氏の「新型コロナが落ち着いたとしても、賃上げが鈍ることで、個人消費はさらに弱まる。景気回復のペースは遅れる可能性がある」とのコメントで結んでいる。
上記のトヨタ自働車の「ベアゼロ」の発表については、下記ブログで論評した記事に記されているが、「ベアの有無は毎年公表している」(経営側)とされている。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200310NY01.html
連合の神津会長としては、昨年まで好業績で春闘相場を引っ張ってきたトヨタが、「ベアゼロ」とするのは経営判断だとしても、マイナス心理が波及しないように、黙っていて欲しかったということなのであろう。
トヨタがベア額を非公表としてきたのは、自社の水準が春闘相場の目安となることを嫌ってのことであろうが、「ベアゼロ」も、対外的にではなく、対内的なメッセージの色合いが強いと思われる。とにもかくにも、トヨタは内向きの会社だと思う。
そのトヨタが、「ベアゼロ」を宣言し、その先には定昇も含めた賃金改革までも匂わせているように思われるのは、トヨタといえども、経営のグローバル化の波には抗しきれないからであろう。
事業の中核の自動車製造現場も、ITを利用した自動運転技術の台頭で、激変が起きている。かつての奥田会長は、「経営者はリストラするなら腹を切れ」といい、「終身雇用を維持しているトヨタは事業の変革に対応できない面がある」として格付けを引き下げた格付会社に激怒し、結局、業績によって事実上撤回させた。
そのトヨタが、日本的経営をどのように変革して、グローバル競争に対応しようとするのか。豊田社長が本気であるのなら、目が離せない。
今春闘の状況を伝える記事で、「連合は13日、今春闘で経営側から回答を得た労働組合について、1回目の集計結果を発表した。基本給の水準を引き上げるベースアップ(ベア)と、年齢を重ねると自動で増える定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率は平均で1・91%。前年の初回集計を0・25ポイント下回り、7年ぶりに2%を割り込んだ。米中貿易摩擦などの影響で業績が悪化した製造業を中心に、ベア見送りが相次いだことが響いた。」というものである。
「会見で神津里季生(りきお)会長は、18年からベア額を非公表としているトヨタ自動車が今春闘でベアゼロを公表したことを挙げ、「経営側がことさらにベアゼロと言ったのか、釈然としない。この局面でマイナス心理を出すことはあってはならない」と述べた。
としているが、「今春闘は新型コロナウイルスの影響も受けている。全日本空輸は一時金の協議を延期し、ホンダの一時金の回答は11年ぶりの満額割れとなった。」と記事はいう。
最後に、明治安田生命保険チーフエコノミストの小玉祐一氏の「新型コロナが落ち着いたとしても、賃上げが鈍ることで、個人消費はさらに弱まる。景気回復のペースは遅れる可能性がある」とのコメントで結んでいる。
上記のトヨタ自働車の「ベアゼロ」の発表については、下記ブログで論評した記事に記されているが、「ベアの有無は毎年公表している」(経営側)とされている。
https://kubonenkin.blogspot.com/2020/03/20200310NY01.html
連合の神津会長としては、昨年まで好業績で春闘相場を引っ張ってきたトヨタが、「ベアゼロ」とするのは経営判断だとしても、マイナス心理が波及しないように、黙っていて欲しかったということなのであろう。
トヨタがベア額を非公表としてきたのは、自社の水準が春闘相場の目安となることを嫌ってのことであろうが、「ベアゼロ」も、対外的にではなく、対内的なメッセージの色合いが強いと思われる。とにもかくにも、トヨタは内向きの会社だと思う。
そのトヨタが、「ベアゼロ」を宣言し、その先には定昇も含めた賃金改革までも匂わせているように思われるのは、トヨタといえども、経営のグローバル化の波には抗しきれないからであろう。
事業の中核の自動車製造現場も、ITを利用した自動運転技術の台頭で、激変が起きている。かつての奥田会長は、「経営者はリストラするなら腹を切れ」といい、「終身雇用を維持しているトヨタは事業の変革に対応できない面がある」として格付けを引き下げた格付会社に激怒し、結局、業績によって事実上撤回させた。
そのトヨタが、日本的経営をどのように変革して、グローバル競争に対応しようとするのか。豊田社長が本気であるのなら、目が離せない。
2020年3月14日 日経朝刊19面 加給年金 誤解多く もらい損ねや後日返還も
「厚生年金に20年以上加入した人(以下、夫の場合で説明)が原則65歳になったときに年下の配偶者(同、妻)がいれば年39万円の「加給年金」が加算される。年金版の「家族手当」と呼ばれる制度だ。妻が65歳になると加給年金は打ち切られ、代わりに妻の年金に「振替加算」がつく。しかし加給年金や振替加算の仕組みは非常に複雑で誤解も多い。もらい損ねや、逆に過払いに伴う返還義務も発生しやすい。」との記事である。
この「誤解でよくあるのが加給年金は妻を持つ人だけがもらえるということ。実際には65歳未満の妻のほか、一定年齢までの子供がいれば受給可能だ。」とし、年齢差が大きいほど有利だ。」と説明している。「妻は事実婚も対象だが、子供は法律上の子であることが必要。」とのことである。
「対象者の有無は原則、本人が65歳になった時点で判断される」ので、「再婚する時期を迷っているなら65歳未満がお得」(社会保険労務士の内田健治氏)というコメントも掲載されている。
そして、「妻らには年収850万円未満(または経費を引いた所得655万5000円未満)という条件があり、妻の年収が850万円以上の人は加給年金の受給をあきらめがちだ。しかし、おおむね5年以内に退職などで850万円未満に減るのが確実な場合は例外。勤務先から就業規則などに関する証明書をもらい、年金事務所に出せば加給年金がもらえる可能性がある。」と言う。
ただし、「老齢年金の繰り下げ受給との関係は要注意だ。基礎年金も厚生年金も受給開始は原則65歳からだが現在、最高70歳まで開始を繰り下げられ、遅らせるほど増額になる。ただ加給年金は厚生年金とセットの仕組み。厚生年金を繰り下げると加給年金はもらえないままになる。加給年金を受けたい場合は基礎年金だけの繰り下げにするのも選択肢だ。」としている。
その上で、「要注意なのは妻が受給権を得るまでは夫に加給年金が出ること」で、「例えば夫が65歳になったとき妻が60歳で、妻の受給開始年齢が63歳であれば、3年間もらえる。」が、誤解が多いとしている。
一方で、「はもらいすぎ」のケースもあるとし、「妻の厚生年金加入が20年以上の場合、妻の受給権発生時点で夫の加給年金は原則打ち切りになる。これを知らずに受給停止の届け出をしないと払い続けられてしまい、その分は後に返還しなければならなくなる」とし,
「こうした過払いは年金事務所ごとに年に数件以上発覚し続けている」(関西地方の年金事務所長)とのことである。
一方、「振替加算」は、「金額は妻の生年月日で異なり、80代は年20万円弱もらえる人もいるが、若いほど減り最低は年約1万5000円。1966年4月以降に生まれた人に振替加算はない。」というもので、「年上の夫に加給年金がついていれば、妻の65歳時点で振替加算は自動的に出る」が、年上妻は、「夫が65歳になると妻は振替加算をもらえる」が「自動ではなく、夫が65歳になる時点で振替加算の請求をする必要がある」のである。また、「
妻が年下でも、基礎年金を繰り上げ受給し夫に加給年金がつく前に妻が年金をもらい始めている場合は、請求しないともらえないことがある。」という。
最後に、都内のある年金事務所の職員は「最近も80代女性で本来なら年20万円弱ある振替加算が十数年分漏れていたのがわかった。時効期間である5年分しか払えなかった」と語る。特に振替加算の金額が大きい高齢女性の場合、疑問があれば積極的に年金事務所に問い合わせることが大事だ、と付け加えている。
加給年金・振替加算の仕組みは、次の通りである。
非常に複雑で、社会保険事務所でも間違えて大きな問題になったことがある。
プロでも間違えるのだから、個人でチェックするのは難しくはあるが、個人の場合には、自分のケースだけを考えればよいのであるから、丹念に調べれば、中身を理解することができるであろう。年金は大事な自分の財産なのだから、知らないで済ませるような事は避けた方がよい。最低限、きちんと年金事務所で説明してもらう必要があるだろう。
2020年3月14日 日経朝刊9面 仏統一地方選 年金焦点に 改革強行、与党に反発強く
「フランス統一地方選が15日と22日に実施される。地方選ながらマクロン仏大統領が主導する年金改革が最大の焦点だ。マクロン氏はパリなど主要都市で勝ち、内政の安定や欧州連合(EU)の求心力維持につなげたい考えだ。だが、年金改革への反発で政権支持率は2~3割台と低迷しており、与党「共和国前進」は苦戦を強いられている。」という記事である。
「選挙では、市町村にあたる約3万5千の自治体の地方議員約50万人を選ぶ。任期は6年。原則、拘束名簿式比例代表制をとり15日の第1回投票で候補を絞る。22日の第2回投票で当選した議員のうち通常第1党から首長が選ばれる。共和国前進は新しい政党のため初めて統一地方選に臨む。地方基盤を持たず、大都市を中心に候補者約1万人を立てている。」とのことである。
争点として、「共通して関心が高いのが年金改革だ。政府は42種類ある年金制度を一本化する改革案を2月に国民議会(下院)に提出。野党が4万を超える修正案を出して対抗したことから3月、決議なしに下院を通すという強硬手段を使い、法案を上院に送った。」とのことであるが、「憲法が認めた手続きだが仏調査会社が5日発表した世論調査によると、強硬手段は認められないと考える有権者が7割に上った。選挙で与党に逆風に働くとみられる。」としている。
記事は、「新型コロナの感染拡大も不確定要因となっている。新型コロナの感染を恐れる高齢者の棄権で投票率が下がれば、若者の支持者が相対的に多い極右国民連合が勢いづく可能性がある。」と結んでいる。
年金が政治や選挙の争点となる状況は、世界各国で生じている。まず、フランスの年金制度について見てみよう。それについては、厚生労働省の資料に加え、公益財団法人の年金シニアプラン総合研究機構が、次のように整理している。
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/shogaikoku-france.pdf
https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/France2018.pdf
上記の資料では、年金改革の内容には、あまり触れていないが、次のJETROのサイトに概要が掲載されている。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/ba381238697d01bf.html
要点は、分立している制度の一本化であるが、少子高齢化がフランスでも進行していることからすると、当然の方向性に思える。しかし、それは既得権への挑戦にもなる。
それ故、大規模なストライキなどが行われているのであるが、そうした状況については、次のブログ「年金改革なんで反対してるの?フランスの年金について考える」が参考になるだろう。
https://mousouadvisor.com/reforme-des-retraites/
翻って、日本の状況を見ると、1985年の年金大改革で、分立していた制度が再編され、全国民共通の基礎年金と、被用者についての厚生年金(その後に共済年金も一元化)という非常にシンプルな体系になっている。課題が残ってはいるが、今後の少子高齢化の一層の進行に向けて、先人の行った大改革は、日本にとっての大きな拠り所となっているように思う。なお、この大改革の内容について知りたい方は、次を参照されたい。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/densi-nenkin-oni.pdf
「フランス統一地方選が15日と22日に実施される。地方選ながらマクロン仏大統領が主導する年金改革が最大の焦点だ。マクロン氏はパリなど主要都市で勝ち、内政の安定や欧州連合(EU)の求心力維持につなげたい考えだ。だが、年金改革への反発で政権支持率は2~3割台と低迷しており、与党「共和国前進」は苦戦を強いられている。」という記事である。
「選挙では、市町村にあたる約3万5千の自治体の地方議員約50万人を選ぶ。任期は6年。原則、拘束名簿式比例代表制をとり15日の第1回投票で候補を絞る。22日の第2回投票で当選した議員のうち通常第1党から首長が選ばれる。共和国前進は新しい政党のため初めて統一地方選に臨む。地方基盤を持たず、大都市を中心に候補者約1万人を立てている。」とのことである。
争点として、「共通して関心が高いのが年金改革だ。政府は42種類ある年金制度を一本化する改革案を2月に国民議会(下院)に提出。野党が4万を超える修正案を出して対抗したことから3月、決議なしに下院を通すという強硬手段を使い、法案を上院に送った。」とのことであるが、「憲法が認めた手続きだが仏調査会社が5日発表した世論調査によると、強硬手段は認められないと考える有権者が7割に上った。選挙で与党に逆風に働くとみられる。」としている。
記事は、「新型コロナの感染拡大も不確定要因となっている。新型コロナの感染を恐れる高齢者の棄権で投票率が下がれば、若者の支持者が相対的に多い極右国民連合が勢いづく可能性がある。」と結んでいる。
年金が政治や選挙の争点となる状況は、世界各国で生じている。まず、フランスの年金制度について見てみよう。それについては、厚生労働省の資料に加え、公益財団法人の年金シニアプラン総合研究機構が、次のように整理している。
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/shogaikoku-france.pdf
https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/France2018.pdf
上記の資料では、年金改革の内容には、あまり触れていないが、次のJETROのサイトに概要が掲載されている。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/ba381238697d01bf.html
要点は、分立している制度の一本化であるが、少子高齢化がフランスでも進行していることからすると、当然の方向性に思える。しかし、それは既得権への挑戦にもなる。
それ故、大規模なストライキなどが行われているのであるが、そうした状況については、次のブログ「年金改革なんで反対してるの?フランスの年金について考える」が参考になるだろう。
https://mousouadvisor.com/reforme-des-retraites/
翻って、日本の状況を見ると、1985年の年金大改革で、分立していた制度が再編され、全国民共通の基礎年金と、被用者についての厚生年金(その後に共済年金も一元化)という非常にシンプルな体系になっている。課題が残ってはいるが、今後の少子高齢化の一層の進行に向けて、先人の行った大改革は、日本にとっての大きな拠り所となっているように思う。なお、この大改革の内容について知りたい方は、次を参照されたい。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/densi-nenkin-oni.pdf
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