2020年3月5日木曜日

2020年3月5日 日経朝刊2面 (真相深層)「未払い残業代払って」急増

「企業が未払いの残業代を請求されるケースが増えている。人手不足で転職者が増え、新しい会社に移る前後に残業代の支払いを求める人が増えた。4月からは法改正で請求できる期間も延長される見通しだ。働き方の見直しが進み、企業も厳格な労務管理を迫られる。」との記事である。「過払い金返還訴訟を手がけてきたアディーレ法律事務所には最近、未払い残業代の相談が多く寄せられるようになった。」という。
この「残業代を巡るトラブルが増えている背景には2つの要因」すなわち、「①働き方改革の本格化で当局の監視が厳しくなったこと、②人手不足を一因とする転職者数の増加」があるとしている。
そして、「本人が実際に何時間働いたかを証明」できなくても、「企業が労働時間を記録している場合が多く、請求すれば会社から開示してもらえる」という。一方、「企業には誤解もある。業務手当や職務手当という名目で毎月一定額の固定残業代を払っていたとしても、労働契約や就業規則などに明記されていなければ認められない。また時間外労働によって生じる残業代が固定残業代を超えた場合は差額分を支給する必要がある。」としている。なお、「未払い残業代が生じやすいのは中小企業」だが、「労働者側の主張がおかしくない限り、一定額を支払って早めに和解することを勧めている」との弁護士のコメントを記している。
加えて、「4月に施行される予定の法改正の影響」があるので、「企業はトラブルを避けるため、これまで以上に「残業させる場合は明確に命令を出すようになるだろう」(労働問題に詳しい日本大学の安藤至大教授)」とし、「「1カ月あたり100時間未満」をはじめとする19年4月に大企業に適用された残業時間の上限規制は、20年4月から中小企業にも適用されるようになる。「仕事の付け回し」をやめ、所定の時間で仕事を終えられるのかどうか。働く社員も企業側も、それぞれが効率的な働き方と労働時間の管理に向き合わなければならない局面にさしかかっている。」と結んでいる。

記事にある未払賃金についての「法改正で請求できる期間も延長される見通し」については、国会に提出されている次の法案を参照されたい。
https://www.mhlw.go.jp/content/000591650.pdf
また、時間外労働の上限規制については、法改正済であり、次のように、大企業は2019年4月から導入済で、中小企業についても2020年4月から導入される。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
法改正によって「効率的な働き方と労働時間の管理」の推進が必要となっている背景には、日本人の労働時間が、まだまだ長い点がある。次の労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」からの「一人当たり平均年間総実労働時間(就業者)」の比較を参照されたい。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/06/d2019_G6-1.pdf
単純な各国間比較には適さないとされてはいるものの、やはり日本の労働時間が長いことは間違いないであろう。加えて、日本では、「サービス残業」という隠れた未払い残業が依然として広範に残っているものと思われる。だからこそ、この記事のように、未払い残業代が大きな問題となるわけである。
この事業主の不法行為に対して、労働基準法では、記事でも言及しているが、「付加金」というペナルティを課している。
(付加金の支払)
第百十四条 裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内(法改正案では、当分の間は三年以内)にしなければならない。

これは、行政による処分にかかるものであるが、労働者側も、単なる未払い賃金のみならず、悪質な場合には、「裁判になり企業側の対応が悪質と判断された場合は、制裁として未払い分と同額の付加金が課される可能性がある。」(記事での安西愈弁護士のコメント)のであるから、上乗せ請求を行う余地があるだろう。
公正な労使関係は、緊張感の中で育まれる。依存や遠慮は、労使どちらにとっても、ためにはならない。

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