2020年3月5日木曜日

2020年3月5日 朝日朝刊3面 休業へ助成なし、フリーランス悲鳴 多様な働き方推進、政権の姿勢と矛盾
2020年3月13日 日経夕刊4面 困窮するフリーランス 新型コロナでイベント自粛
2020年3月6日 日経夕刊1面 「ウーバー・運転手は雇用関係」 仏最高裁判断、事業モデルに影響も

最初の5日付日経記事は、「安倍政権が打ち出した新型コロナウイルスの感染対策に対し、企業に雇われずに働くフリーランス(個人事業主)が怒りの声を上げている。政権は臨時休校に伴って仕事を休んだ保護者の支援策を発表したが、フリーランスは対象にならなかった。多様な働き方」を推進する政権はフリーランスを保護する姿勢を示してきたにもかかわらず、矛盾する対応に与党内からも見直しを求める声が出ている。」というものである。
「厚生労働省は2日、仕事を休んだ従業員に給料を全額払った企業を対象に正規、非正規雇用を問わず、1人当たり日額上限8330円の助成金を出す新制度を発表した。だが、フリーランスや自営業者が対象外とされたことに、女性は「納得できない」と憤る。」というわけであり、「自営やフリーは自己責任なのか。国は多様な働き方を後押しするなら、多様なセーフティーネットも用意するべきだ」と訴えているそうである。
これに対し、「加藤勝信厚労相は参院予算委で「フリーランスの仕事は多様で、このスキーム(枠組み)を適用することは非常に難しい」と答弁。安倍首相は「その声をうかがう仕組みを作り、強力な資金繰り支援をはじめ対策を考えたい」と述べた。」という。
だが、「政府が想定するのは、5千億円の緊急貸し付け・保証枠の活用だが、これは訪日中国人客らの激減などで打撃を受けた観光産業などの支援を念頭に置く。あくまでも返済が必要な「融資」であり、金融機関の審査も受ける。」のであり、「政府の対応に与党内からも不満が出ている。公明党の斉藤鉄夫幹事長は4日、菅義偉官房長官と面会し、「フリーランスは資金繰り(支援)ではとても持たない」などとして対応を求めた。斉藤氏によると、菅氏は「踏み込んでやる」と答えたという。」としている。
最後は、法政大の浜村彰教授の「現行制度の枠組みでは、フリーの人たちに救いの手を差し伸べるのは難しい。セーフティーネットを整えないまま、こうした働き方を政策として進めていいのかという問題が提起されている」との指摘で締めくくっている。

次の13日付日経記事は、少し後のものだが、「新型コロナウイルスの感染拡大が、フリーランスで働く人の生活を脅かしている。イベント自粛や一斉休校の余波でキャンセルが相次ぎ、収入が途絶えるケースが続出。政府も後押しして多様な働き方が広がり始めていたが、冷や水を浴びせられた形だ。」という書き出しである。
「フリーで働く人は案件ごとに業務委託契約を結ぶ場合が多い。会社員と違い、仕事がなくなっても手当や補償が出るわけではない。非常時にはこの差が顕著だ。」とし、「イベント自粛は死活問題」ということになっているわけである。「補償がないと知った上で選んだ道だが、再開のめどが立たず不安」ということであり、「フリーランスで働く際の課題とされていた曖昧な契約や乏しいセーフティーネットが浮き彫りになった。」としている。
また、「政府は一斉休校要請に伴い、雇われる人には休業補償やベビーシッター利用料の支援を打ち出した。委託を受け働くフリーランスも仕事を休んだ保護者に日額4100円を支援し、収入減に対応して生活費の無利子の融資も拡充する。」としているが、フリーランス協会は「休業や補償の概念はフリーランスになじまないと承知している」としつつ「このままでは経済的困窮や自己破産が相次ぐ」と表明し、「政府には自粛要請で仕事が減った人への給付型支援や、自粛するイベントの定義の明確化などを求めていた。」とのことである。
こうした状況に対し、法政大学大学院の石山恒貴教授は「今回見えてきた課題を洗い出し、将来に生かすべきだ」とコメントしており、記事は、「事態の収束は見通せず苦境はなお続きそうだが、まさに今がフリーランスという働き方の将来を左右する分水嶺になるかもしれない。」と結んでいる。
なお、フリーランス協会の平田麻莉代表理事の話として、「仕事が1カ月以上なくなった人も少なくない。不安を抱えるのはフリーランスだけではないのは承知している。フリーで働く選択をしたのも自分たちだ。ただ今回は首相の政治判断の要請があり、意思と関係なく不可抗力で仕事が断たれる状況にある。仕事がなく補償もなければ経済的困窮、ひいては自己破産になりかねない」「関係省庁とも連絡を取り合っており、現行制度の範囲内でできることを懸命に検討してくれている。協会では自粛で仕事が減った人への給付型支援などを求めた。政府の緊急対策に反映された部分も多く感謝している。ただ仕事再開のめどが立たない人は借り入れしにくい。イベント自粛の対象を明確に定義してほしい。難しい判断なのは分かるが、出口がみえない」「リモートワークの普及などで働き方が変わるのは中長期的にはプラスに働くかもしれない。だが短期的には景気減速で業務委託の仕事が減ってシビアになるだろう。場所や時間にとらわれず働けるなら会社員にいったん戻るのも選択肢。働き方を見つめ直すきっかけになるのではないか」を掲載している。

最後の6日付日経記事は、「フランス最高裁(破棄院)は4日、米ウーバーテクノロジーズと同社の運転手に雇用関係があるとの判断を下した。ウーバー側の運転手が自由に働き雇用関係は無いとする主張を退けた。運転手の保護につながる一方、同社の負担増となる可能性がある。世界で広がる同様のビジネスモデルにも影響を与えそうだ。」というものである。「米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、最高裁の判断は世界初とみられる。同社は上訴できない。」とのことである。その判断理由について、最高裁は「運転手は独自の顧客を持っておらず、運賃を自由に決められない」などの理由で雇用関係を認めた、とのことである。
そして、「フランスにはウーバーをはじめとするライドシェアサービスの運転手が約3万人いるが、今回の判断でただちに雇用関係が発生するわけではない。ただ個々の運転手が雇用関係を求めたときに、社会保障費などで事業者の負担が増える可能性がある。運賃の上昇につながるシナリオも考えられる。」とし、「同社のような業態は運転手の自由度が高い半面、社会保障などが十分でないとの指摘がなされている。米国でもこれまでに運転手の地位などを巡り、訴えが起きている。」と結んでいる。

フリーランス協会のサイト(https://www.freelance-jp.org/)では、「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会は、独立して活動するプロフェッショナルや、 企業に属しながらキャリアを複線で築くパラレルワーカーの有志が主体となって設立された、 フリーランスによる、フリーランスのための、非営利団体です。」としている。
こうしたフリーランスについて、内閣府が政策課題分析シリーズの【第17回】日本のフリーランスについて-その規模や特徴、競業避止義務の状況や影響の分析-(令和元年7月24日)において取り上げている。
上記が、その時の資料の要旨で、次のように述べている。
「公的統計では、フリーランスに関する直接的な統計はなく、統計のある自営業主(雇人なし)は、長期的に減少傾向にあるが、そのうち特定の発注者に依存する自営業主、いわゆる雇用的自営業等は、増加傾向にある。雇用的自営業等は、本業としてのフリーランスに近く、最近の労働市場の変化の特徴の一つと考えられる。」
「総務省「平成29 年就業構造基本調査」の個票を用いて日本全体の属性に引き延ばすことなどによって、より精緻な形で試算した。その結果、フリーランスの働き方をする者の人数は、副業として従事している者も含め、306 万人~341 万人程度と推計された。」
そのうち、本業としてのフリーランスは、半分から3分の2程度と推計されている。
すなわち、「独立して活動するプロフェッショナル」というイメージではあるが、雇用的自営業等が非常に多いということになっているわけである。
フランスの最高裁判決は、「ウーバー側の運転手が自由に働き雇用関係は無い」という主張に対し、顧客も料金も決められない運転手との契約は、雇用契約に当たると判断したわけである。この基準に従えば、日本の「フリーランス」でも、雇用契約となるものが多いであろう。
しかしながら、そのような法律関係には、まだまだ争点があり得る。そうした状況の中で、コロナ・ショックに見舞われているわけである。リーマン・ショックでは、「派遣切り」が横行したが、これはヒトとの契約を切るものであった。今回のコロナ・ショックでは、モノやサービスの発注を止めるという形になるから、「フリーランス切り」は、企業側としては、はるかにやりやすいのではないか。
この「フリーランス」の救済に当たっては、一つの方法は雇用類似契約への規制であろうが、複数の顧客を持つ本来のフリーランスに対応することは難しい。そうなると、農業者や商店主などの従来型の自営業者を含み、また失業者をも包含するセーフティ・ネットを構築する必要があるからである。いよいよ、ベーシック・インカムの検討の必要性が高まってくるのではないかと思われる。

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