2020年3月5日木曜日

2020年3月5日 日経朝刊5面 GPIF、外債増で円高抑制も 月内にも運用配分見直し

「世界最大規模の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は月内にも運用資産の構成を見直す。焦点は金融緩和で利回りがマイナス圏で推移する国債など国内債券の扱い。市場では現在35%の目安を引き下げ、代わりに外国債券の比率を高めるとの観測が出ている。外債に資金が向かえば円高を抑える方向に働く可能性がある。」との記事である。
「GPIFの主な運用先は国内債、国内株、外国債、外国株の4つ。今はそれぞれ資産の35%、25%、15%、25%を目安としている。これらの比率を定めた「基本ポートフォリオ」は年金財政の持続性を保つ観点から、市場の動向を踏まえつつ原則として5年に1度見直す。」とし、「社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の専門部会が4日、長期の実質的な運用利回りを1.7%とすることを了承した。これを受けて月内にも新たな基本ポートフォリオを策定し、2020年度から運用する。」とのことで、「過去には14年10月に大きな見直しがあった。国内株と外国株についてそれぞれ12%としていた構成比率をどちらも25%まで拡大。マイナス金利政策で収益性が下がった国内債は60%から35%に引き下げた。」としている。
また、「GPIFの運用規模は約160兆円と巨額だけに市場に与える影響も大きい。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「14年の見直しは日経平均株価を2000円程度押し上げる効果があった」と分析する。」とし、「足元では新型コロナウイルスの感染拡大が内外の株価の重荷になっている。外資系証券の日本株セールス担当者は「相場のてこ入れ策として政権が株式比率を引き上げるのではないかとの期待がある」と話す。海外をみると、たとえば石油収入を運用するノルウェー政府年金基金は株式が7割を占める。」としている。
一方で、「ただ国民の保険料を預かるGPIFが「資産の過半をリスク運用するのは現実的ではない」(厚労省幹部)との見方が支配的だ。株式の運用比率は既に計50%に達する。特に時価総額で世界の1割にとどまる日本株は現状の25%でも高く、自国資産が運用の中心となる「ホームカントリーバイアス」がかかりすぎているとの指摘がある。」とし、「国内債はマイナス金利政策の長期化が影を落とす。14年度末に41%だった国内債比率は19年3月末には26%に下がった。GPIFは基本ポートフォリオの見直しを控え、19年度に限って四半期ごとの資産比率を非開示としている。野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算では、直近の19年12月末は23%まで低下しているとみられる。」とのことである。
続けて、「GPIFの高橋則広理事長は19年7月に「国内の債券に再投資するのはなかなか難しい」と表明した。新たな投資先として有力なのが外国債だ。西川氏の試算では12月末に18.5%と、目安の15%からずれる許容幅の上限19%ぎりぎりに達している。西川氏は「次期ポートフォリオで外債の比率は22~25%まで高まりそうだ」と読む。」とし、「米ドルやユーロといった外貨建ての外国債を購入するには、円を売って外貨を入手する必要がある。外債の比率を高めれば為替は円安に振れる。仮に25%まで上がれば、数兆円分の円売り圧力になる。足元では米長期金利が過去最低圏に沈み、新規で外債を買い進めるのは難しい。それでも基本ポートフォリオで外債比率を上げておけば、円高を抑える余地が残ることになる。」と結んでいる。

今回は、記事全文を引用する形になったが、コロナ・ショックで公的年金の資産運用にかかるGPIFによる運用資産構成(基本ポートフォリオ)の変更は、重要性と難易度を増している。運用資産の規模から、「市場の中のクジラ」と呼ばれる公的年金資産の運用動向は、記事にあるように、株式・債券・為替等の市場動向に大きな影響を及ぼすため、市場関係者も注目し、神経をとがらせているわけである。
まず、2020年3月4日の社会保障審議会の資金運用部会の資料を見てみよう。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09926.html
まだ議事録が公開されていないので、決定事項は、この記事などの報道に基づくこととなるが、加藤厚生労働大臣から社会保障審議会会長への「年金積立金管理運用独立行政法人の中期目標の策定について」の諮問が2020年2月28日に行われており、それを受けて、資金運用部会で検討が行われているわけである。中期目標の期間は、令和2年4月から令和7年3月までの5年間とされている。
その上で、中期計画(案)が次のように示され、了承されたとの報道である、
https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/000602937.pdf
「長期的に積立金の実質的な運用利回り(積立金の運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたものをいう。)1.7%を最低限のリスクで確保することを目標とし、この運用利回りを確保するよう、年金積立金の管理 及び運用における長期的な観点からの基本ポートフォリオを定め、これを適切に管理する。」
なお、記事にあるGPIFの現行ポートフォリオ(平成26年10月31日変更)については、次の資料「GPIFの次期運用目標等について」の1ページにも表示されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/000554276.pdf
記事では、「株式比率引き上げ期待」「ホームバイアス批判」「円高抑止効果」と様々な思惑が飛び交っているが、共通しているのは、日本国民の老後の所得保障のための資金であるという認識の欠落である。もちろん、投資に価値感を持ち込むのは危険であるが、さりとてマネーゲームのための資金ではないことは、常に念頭に置くべきであろう。
また、株式比率を高めたことから、コロナ・ショックによる世界株式の大幅下落で、現時点での資産運用結果には、甚大な影響が出ていることは間違いない。個人の資産であるなら、自己責任での買い場になるかもしれないが、集団ヒステリーに陥りやすい日本人の気質からすると、株式売却の声が大きくなるかもしれず、売却を実施すれば、回復の余地はなくなる。
基本ポートフォリオは、そのような事態においても冷静さを取り戻せるように機能するものであり、現状では株式比率が大きく下落しているのあろうから、購入に向かうはずであり、それが投資行動の方向性としては正しいと思える。
問題は、それでもリスク資産の株式比率が高いのではないかという点であり、私は、過去にも次のように危惧を表明している。
http://www.ne.jp/asahi/kubonenkin/company/tusin/16-014.pdf
年金資金は、収益性重視で運用すべきものではなく、安定性にも最大限の配慮が必要なものである。次期基本ポートフォリオの組成にあたっては、そのことを十分に踏まえるべきである。

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