2020年3月11日水曜日

2020年3月11日 日経夕刊1面 米政権、給与減税を議会に提案 新型コロナ対策
2020年3月12日 朝日朝刊7面 トランプ減税案、不透明 与党と協議 具体性欠く提案

最初の日経夕刊の記事は、「トランプ米政権は10日、新型コロナウイルスによる景気不安に対処するため、給与税の年内免除を軸とした大型減税を米議会に提案した。給与税は年間の税収が1兆ドル(約105兆円)を超え、全歳入の3割を超える。すべての納税者が減免の対象になれば極めて巨大な財政出動となる。もっとも、税制の立案・決定権を持つ連邦議会には慎重論が根強くあり、経済対策の詳細な設計は持ち越した。」としている。
「トランプ氏は10日、共和党の議会指導部と会談し、減税案の早期成立を求めた。同日記者会見したクドロー国家経済会議(NEC)委員長は「トランプ氏は2020年中の給与税の免除を議会に提案した」と述べた。ただ、同氏は減税規模などの詳細は「近いうちに明らかにする」と述べるにとどめ、トランプ氏も予定していた記者会見には出席しなかった。」と言う。「財政赤字は年1兆ドル規模に悪化しており、米議会には追加の財政支出に異論が根強く残る。トランプ氏は大型減税について20年末までの時限措置を要求したが、景気対策には延長がつきものだ。」としている。
なお、「給与税(Payroll taxes)」とは、「社会保障財源として雇用主と労働者が給与総額の6.2%をそれぞれ納めている。税収は年1.2兆ドルと大きく、全歳入の3分の1に相当する。オバマ前政権も金融危機後の景気対策として、同税率を2ポイント下げ、年収5万ドルの世帯に1000ドルの減税効果をもたらした。仮に給与税の税率をゼロにすれば、減税効果も財政出動の規模も極めて大きくなる。」と解説している。

一方、朝日朝刊の記事は、同じ内容を伝えるものだが、「トランプ米大統領は10日、新型コロナウイルスによる打撃を和らげるための経済対策を巡り、与党共和党と協議した。11月の大統領選をにらむ「選挙対策」の色合いが濃く、野党民主党の反発もあって財政出動の規模は不透明なままだ。」としているが、「ニューヨーク株式市場は、主要企業でつくるダウ工業株平均が急反落」したとしている。
「11月の大統領選に向けて米経済の失速を避けたいトランプ氏は、初期からウイルスの影響を過小評価する発言を重ねてきた。」が、「トランプ氏の協議が終わった午後には経済対策への期待感から急上昇」し、「その後開かれた10日夕の会見にトランプ氏は現れず、カドロー国家経済会議議長によると、提案した減税案は「年末までの給与税の免除」などが柱。中身は具体性を欠き、大規模な財政出動への期待が強い株式市場では失望が広がった。」ということで、「11日は取引開始直後から幅広い銘柄が売られ、ダウ平均はきゅう前日の上げ幅がほぼ帳消しになる場面があった。」としている。
「米国では減税などの財政政策は一義的には議会が担い、下院で多数を握る野党民主党との連携が欠かせない。民主党は感染対策と無関係の減税や企業保護には反対で、有給病気休暇をとらせるための支援といった独自案を準備している。」とのことである。
そして、「本来は「小さな政府」を志向する共和党の保守派も、民主党のオバマ政権下では、2008年のリーマン・ショック後の米自動車大手救済などに反対していた。与野党双方の異論を調整する必要があり、トランプ氏の減税案も大幅な修正が避けられない見通しだ。」が、「一方で、金融政策の限界が強く意識されており、学界では積極的な財政政策を求める論調も勢いを増す。オバマ政権で大統領経済諮問委員会委員長を務めたジェイソン・ファーマン氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、現金支給を軸とした巨額の財政出動を訴えた。」と報じている。

個人的には、トランプ大統領は、大統領選に向けた民主党のサンダース候補が言うように、「史上最悪の大統領」で、再選などもっての他と思っているが、再選に向けた嗅覚には、舌を巻くものがある。政治的には、早くから民主党のバイデン候補を有力な対抗馬と見てウクライナ疑惑などで足を引っ張ってきたが、経済政策などについても、とにかく打つ手が早い。
今回も、コロナ・ショックが深刻と見るや、過小評価してきた発言などなかったように、給与税減税を打ち出し、欧州からの入国一時禁止で株価が暴落するや、国家非常事態宣言で、新型コロナウイルスの検査無料を打ち出している。日替わりで目が回るが、過去の発言に捕らわれることなく、行動が迅速である。
ただし、給与税(Payroll taxes)の引き下げには、大きな問題がある。日経記事では、「社会保障財源として雇用主と労働者が給与総額の6.2%をそれぞれ納めている」とあるが、これは給与税のうちの公的年金税(Social security tax)分であり、比重は大きいものの、他に高齢者・障害者向け公的医療保険(Medicare)分1.45%もある。引き下げれば、公的年金と高齢者・障害者向け公的医療保険の財政を危うくしかねない面があることが懸念されている。
https://www.cnbc.com/2020/03/11/how-a-payroll-tax-cut-could-impact-social-security-and-medicare.html
すなわち、定率の給与税の引き下げは、高所得者ほど有利である一方で、弱者についての公的年金や医療保険の財政を害することに問題があるわけである。記事にある「現金支給を軸とした巨額の財政出動」の提案とはまったく異なる面を持っているのであり、中高所得者向けの選挙対策としては効果的で、株価の持ち直しにも寄与したわけだが、果して、どうなるのであろうか。

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