2020年3月12日木曜日

2020年3月12日 日経朝刊19面 (大機小機)米国の格差社会化と大統領選挙
2020年3月27日 日経朝刊6面 (FINANCIAL TIMES)コロナ禍、米政治を左傾化

最初の記事は、コラム/大機小機における論説で、「米国の大統領選挙は、民主党の予備選挙がサンダース候補とバイデン候補に絞られた。資本主義の総本山といえる米国で民主社会主義を標榜するサンダース候補が前回に続き、今回の予備選挙でも有力候補となっていることは驚きだ。その背景にあるのは米国の格差社会化といえよう。」という書き出しである。
続けて、「世の中が格差社会になって弊害が目立つようになると出てくるのが社会主義だ。」とし、近代的な社会主義の祖といわれるエンゲルスの「英国における労働者階級の状態」という本を引き、「過酷な労働者階級の生活」の「背景には、人類に大きな発展をもたらした第2次産業革命が英国で激しい格差社会を生んでいたことがあった。」としている。衛生状態の悪い中で、「1831年には、ロンドンでの真性コレラによる死者が数千人に達していたという。何か、最近の新型コロナウイルス騒ぎを思わせるような事態が、格差社会化を背景に起こっていたのである。」としている。
そして、「世界はあらゆるモノがネットにつながる「IoT」や人工知能(AI)の活用による第4次産業革命に突入している。そこで問題になっているのがやはり格差社会化で、それが最も激しいのが米国だ。」とし、「かつての英国と同様に格差社会化の激しい米国で、社会主義が賛同を得るようになってきているのだ。」としている。
最後は、「エンゲルスやマルクスが主張した社会主義と、今日サンダース氏が主張している社会主義とでは、大きく異なる点がある。前者がプロレタリアート独裁を主張して民主主義を否定したのに対して、後者は米国の民主主義の枠内で主張されている。とすれば、それが米国の有権者に受け入れられる可能性は十分にあろう。格差社会化は今や世界中の問題だ。米大統領選から目が離せない状態が続きそうだ。」と結んでいる。

後の記事は、19日付で英フィナンシャル・タイムズに掲載されたUSポリティカル・コメンテーターのジャナン・ガネシュ氏の記事の翻訳で、「サンダース氏が米大統領選で民主党の指名を得ることはほぼないが、彼の「大きな政府が必要」とする考え方は今後も浸透していくという」ものである。
そして、共和党上院議員のミット・ロムニー氏は、2012年の米大統領選挙中に当時の共和党候補だった際には、民主党の現職大統領のオバマ氏を支持する47%の国民は「政府に依存しており、自分たちを犠牲者だと思い込んでいる」と発言したが、今月16日には、「すべての成人の米国民に一律1000ドル(約11万円)を支給するよう政府に求めた。」としている。加えて、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策として、有給休暇や失業保険、栄養支援プログラムの拡大を提案した。」という。
その上で、今回のコロナ危機で得する側として、70代の上院議員でバーモント州選出のサンダース氏を挙げたいとし、民主党の大統領候補になることはないが、「3月上旬には考えられなかったことだが、米政治はここへきて社会民主主義に近い政策が次々と飛び出している。これまで左派的な議論は遅々として進まなかったが、コロナ感染拡大という緊急事態の雰囲気が高まる中、急に勢いを増している。コロナ危機によって、サンダース氏が考える世界のあるべき姿へと社会が変貌しつつある。」としている。
また、「英国は現在、保守党政権であるにもかかわらず、大規模な財政出動を決めつつある。どちらかといえば企業よりとされる大統領が率いるフランスも同じだ。米国が異なるのは、この危機下で家計や企業への支援という短期の議論にとどまっていない点だ。今や根本的な富の再配分の問題まで議論されつつある。だからこそロムニー氏は、常に企業側の立場に立ってきた共和党の議員らしい給与税減税や企業への債務保証だけでなく、踏み込んだ提案をしたのだ。」という。
また、「今回の感染拡大で判明したのは、国民皆保険制度を導入していない限り、国民は誰も医療制度によって保護されていないに等しいという痛いほど単純な真実だ。米国でも皆保険制度が必要だと主張してきたサンダース氏の考え方は異端視されてきたが、長く主張してきたおかげで認められるようになったということだ。」という。
そして、「我々は今、経済学的にどういう考え方が望ましいのかを改めて考え直さなければならない歴史的転換点の入り口にいる」とし、「政府こそが経済に責任を持つべきだ」としたケインズの考え方について、「今なら、国民のコンセンサスを得るまではできないとしても、もう少し大規模で積極的に経済や医療制度に関与する政府が必要だという考え方で合意できる可能性はある。左派はこれまで様々なチャンスを逃してきたが、今回は失敗できないはずだ。」とする。
最後に、「サンダース氏が再び大統領選に出馬することはもうないだろう」が、「過激だとみられた数年、そして今年の予備選挙での躍進、その後、バイデン氏に大差をつけられたが、イデオロギー的には成功した。サンダース氏以外の人物が大統領になり米国が大きな政府を抱えることになるとしたら、同氏が残したレガシーとしては悪くないはずだ。」と結んでいる。

前の記事から次の記事までの間に、サンダース氏が民主党の大統領候補に指名される可能性は、ほぼなくなった。だが、皮肉にも、コロナ・ショックは、氏の提唱してきた政策こそが、危機に陥った米国にとって必要なものであることを明らかにしたのである。
中でも深刻なのが、国民皆保険制度の不在による医療危機であろう。世界で最も豊かであるとされる米国で、医療崩壊の危険が日に日に高まっている。トランプ大統領は、オバマ大統領の施策を次々と覆してきたが、そのツケを払うことになったわけである。
それでも、民主党の大統領選有力候補のバイデン氏が、どのような政策をとろうとしているのかは、あまり見えてこない。世界からの分断を辞さず、国内での分断も助長してきて、サンダース氏から史上最悪とまで言われているトランプ大統領を、米国民がどのように審判するのか、その日は、刻一刻と近づいている。

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