2020年2月10日月曜日

2020年2月10日 日経夕刊2面 今年の賃上げどうなるの? 成果反映の動きが加速
2020年2月11日 日経朝刊1面 三菱UFJ銀、一律の賃上げ廃止へ 評価重視に
2020年2月11日 日経朝刊2面 (社説)デジタル時代に賃金が上がる基盤固めを
2020年2月12日 日経朝刊4面 (中外時評)雇用改革、経団連の本気度

最初の夕刊の記事は、「今春の賃上げ交渉の特徴などについて、大友由美さんと藤里美さんが水野裕司編集委員に聞いた。」という体裁のものである。
今年の場合、先導役のトヨタ自動車の動きについて、「労組が今春、賃上げに関して新制度導入を提案します。基本給を底上げするベースアップ(ベア)について、人事評価によって個々人の上げ幅に差をつける内容です。労組は一律のベア要求を基本にしてきました。トヨタの動きは他企業への影響も大きいだけに、日本の賃金制度にとって転換点となるかもしれません。」としている。
そして、「経団連は今年の交渉開始を前に、終身雇用や年功序列に象徴される日本型雇用の見直しを重点課題に掲げました。」とし、「賃金のうち、職務や成果に応じて決める部分は大きくなっていくでしょう。景気回復には賃上げが重要だと思います。」としている。

実際の動きも出てきている。次の記事では、「三菱UFJ銀行の労使は今年の春季労使交渉で、行員ごとの人事評価に基づいて賃上げ率を決める方式で合意する見通しだ。一律の賃上げをやめることになる。」としている。「日本の労使による交渉は賃金水準を一律で底上げするベースアップ(ベア)を軸に議論されてきた。」が、「産業界では労使ともに優秀な人材には賃金を手厚く配分し、企業の競争力につなげるべきだとの認識が強まっている」とのことである。

次の社説では、「経営環境が不透明さを増すなかだからこそ、できるだけ外部要因に左右されず、継続的に賃金を上げていける土台を固めたい。」としながらも、「デジタル化の急速な進展で企業の競争はかつてなく激しい。業種の垣根を越えた競争が広がり、新しいビジネスモデルを引っ提げた新興企業が次々に台頭する。個人の創造性や専門性は今まで以上に問われる。成果に応じた報酬制度の拡充は不可欠だ。」としている。「能力開発の強化策を労使は議論すべきだ。」という主張である。

最後の「中外時評」での論説は、最初の記事の水野裕司上級論説委員によるもので、「経団連が企業向けにまとめた今年の春季労使交渉の指針は日本型雇用の見直しを訴えた点が目を引いた。…職務を明確にした「ジョブ型」雇用を取り入れるよう提案した。」ことに着目したものである。
しかし、「ジョブ型といっても欧米のように雇用保障の緩いかたちではなく、めざす雇用システム改革には曖昧なところがある。日本型雇用は「転換期を迎えている」というが、本気度に疑問もわく。」としている。
それは、経団連の経労委報告で、ジョブ型雇用について、「『欧米型』のように、特定の仕事・業務やポストが不要となった場合に雇用自体がなくなるものではない」としているからである。
その背景には、「本来のジョブ型の導入を避け、日本型雇用の踏み込んだ改革にためらいがみられるのは、企業にとっての利点を守りたいからとも読める。」とし、「日本の正社員は、急な仕事もこなし転勤命令にも従う使い勝手の良い労働力だ。長期の雇用保障の見返りに会社が得るメリットは少なくない。日本型雇用の見直しとは、当たり前のように享受してきた恩恵を手放していくことでもある。」と進めている。
締めくくりは、「経団連内部の保守的な声が思い切った改革に待ったをかけるのだろうか。日本の停滞を破るのは難しくなる。」となっている。

経団連のような旧来型の大企業が主導して、大きな改革を進めるのは、至難の業ということなのであろう。この図式を見ると、幕末の動乱に揺れる江戸幕府が思い起こされる。体制の維持を前提として、幕府も、様々な「改革」を行ったようである。しかし、それらは、因習や前例に縛られた既得権重視の守旧派の中で、効果をあげられなかった模様である。
「ベアを実施している企業でも、すべての組合員一律にというわけではなく、若年層を厚くしたり、職務や資格によって傾斜配分したりすることはありました。」ということだが、「若年層」が成果が高いとは言い切れない。恐らくは、社外の欲しい若年層との給与の比較で、流出を抑制し、流入を図るということなのだろうが、結局、それは、貢献や能力に応じた処遇ではないから、失望を招くことにつながりかねない。
今般のデジタル革命に対する対応にも、その轍を踏みかねない気配がある。明治維新は、様々な苦難を乗り越え、日本の近代化を推し進めたが、その原動力となったのは、開国とともに、旧来の士農工商制から解き放たれた多様な人材ではなかったか。人材鎖国を続けるのか、それとも広く人材を世界に求めるのか、日本の労働市場は、今、大きな分岐点に立っている。

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