2020年3月18日水曜日

2020年3月18日 日経夕刊6面 障害年金、上乗せの条件は? 厚年の加入中に初診日

質疑応答形式の記事で、「50代会社員で4月からは自営業となります。体調に違和感があり、退職したら病院で診てもらおうと考えていましたが、知人から「それでは年金が減るかもしれない」と言われました。どういうことでしょうか。」という質問に、社会保険労務士の望月厚子氏が回答するという形のものである。
まず、「公的年金は定年退職後などの生活を支える「老齢年金」のほかに、公的年金へ加入中などに重い病気やケガに見舞われるリスクに対応する「障害年金」もある」とし、「障害年金の額は原因となる病気などについて初めて医師の診察を受けた日、「初診日」にどの公的年金に入っていたかで違いが生じる」ことを述べている。
そして、「初診日が会社員として厚生年金に加入している期間であれば、年金請求は退職後でも審査に通れば、障害厚生年金が障害基礎年金に上乗せされます。一方、退職して自営業となり、初診日が国民年金の加入者に変わった後だと障害基礎年金のみとなる」としている。
金額等については、「障害基礎年金の額は障害が最も重い1級は約98万円で、年齢条件などを満たす子がいれば約22万円などの加算があります。障害厚生年金は1級なら厚生年金の報酬比例部分の1.25倍となり、条件を満たす配偶者がいれば加給年金が加算されます。これが障害基礎年金と合計されるので支給額が増えます。障害厚生年金は障害が比較的軽い3級でも年金があるうえ、3級よりさらに軽い場合も一時金の制度があります。障害基礎年金は1.2級の年金のみですから、支給の可能性も広がります。」としている。
また、「障害年金の対象の病気などには、がんや認知症なども含まれます。それらの病名だけで障害認定されるわけではなく、国が定めた基準に該当する障害状態にあるかが審査されますが、一般に思われるより対象の幅は広いといえます。」とし、「障害年金の制度をきちんと知り、健康不安や自覚症状があるなら在職中の早い時期に診察を受けるほうが安心でしょう。」と結んでいる。

制度の概要については記事の通りであるが、より詳しくは、次で確認するとよい。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/04.pdf
同じ障害年金でも、障害基礎年金と障害厚生年金とでは、保護の考え方に違いがある。障害基礎年金は、「国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。」(国民年金法第1条)にあるように、国民全体を保護するものであるが、障害厚生年金は、「この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」(厚生年金保険法第1条)となっており、労働者(及びその遺族)を保護するものとなっている。
その違いの表れとして、障害厚生年金においては、記事にあるように、障害の程度が軽い「3級でも年金があるうえ、3級よりさらに軽い場合も一時金の制度」があるわけである。
ただ、1985年の基礎年金創設によって、厚生年金は基礎年金の上乗せの制度とされている。また、働き方の多様化により、労働契約の形をとらずに働いている人も増えている。公的年金において、「国民」と「労働者」とを、どのように区分して取り扱うのかは、今後の大きな課題と考えられる。
なお、障害年金受給者についての最新の資料は次で、情報公開の頻度には問題があると思われる。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000075345.pdf
米国のコロナ・ショックに対する財政対応を、記事で見てみよう。
2020年3月18日 朝日夕刊1面 米、1兆ドル財政出動案 財務長官「米国人に直ちに小切手送付を検討」
2020年3月18日 日経夕刊1面 米、1兆ドル経済対策案 現金給付や給与税免除
2020年3月19日 朝日朝刊3面 米、財政出動1兆ドル検討 危機対応、リーマン規模
2020年3月19日 日経朝刊1面 米、1人1000ドル給付も 1兆ドル経済対策案 与野党、市場にらみ攻防
2020年3月19日 日経朝刊3面 米、短期決戦の巨額経済対策 「雇用維持が先」の声
2020年3月19日 日経夕刊1面 米、現金給付5000億ドル 経済対策案 企業支援にも5000億ドル
2020年3月21日 朝日朝刊4面 1人1200ドル給付 中小に3000億ドル 米、経済対策原案
2020年3月21日 日経朝刊3面 米、現金給付1人1200ドル 共和案
2020年3月24日 日経朝刊2面 米2兆ドル対策、協議難航 大統領選へ駆け引き
2020年3月26日 日経朝刊3面 米与野党、2兆ドル対策合意 過去最大 企業支援に9000億ドル
2020年3月28日 日経朝刊3面 米、企業・個人に安全網 2兆ドル経済対策成立へ
2020年3月28日 朝日夕刊6面 米、2兆ドル超対策成立 史上最大、経済下支え 新型コロナ
2020年3月28日 日経夕刊1面 米2兆ドル経済対策成立 新型コロナ 下院議長「追加策を検討」
2020年3月29日 朝日朝刊8面 2兆ドル超経済対策、成立 米国、史上最大の財政出動 新型コロナ

まず、3月18日の夕刊1面で、朝日・日経ともに、米トランプ政権と米議会が17日(現地)に「個人へ現金を直接配る措置を含め、1兆ドル(約107兆円)規模を視野に入れた大型の財政出動の検討に入った」ことを伝えている。
続く3月19日の報道では、「トランプ大統領は1人当たり1000ドルを目安に3月中にも現金給付する案を主張、給与税の減免も検討する」(日経朝刊1面)、「ムニューシン財務長官が「米国人に直ちに小切手を送ることを検討する」とし、2週間以内に給付したいとの意向を表明」(朝日朝刊3面)を伝えている。ただし、「野党・民主党には休業対策など雇用安全網の充実を求める声も強く、与野党協議では政策の優先順位が問われそうだ」(日経朝刊3面)とし、また、「野党・民主党は現金給付から高所得層を除外するよう求めており、対象や規模を巡って政権と与野党の調整が続いている」(日経夕刊1面)としている。
さらに、3月21日の報道では、共和党原案「年間所得7万5千ドル(約840万円)未満の米国民1人当たり1200ドルの現金給付」(朝日朝刊4面、日経朝刊3面)が報じられている。その後の報道では、「野党・民主党が企業の救済策に反対し、採決が遅れる可能性」(日経3月24日朝刊2面)が指摘されていたが、「トランプ米政権と与野党の議会指導部は25日未明に最終合意」(日経3月26日朝刊3面)と伝えられている。
そして3月28日には、「法案成立の見通し」(日経朝刊1面)から、法案成立(朝日夕刊6面、日経夕刊1面)の報道に到っている。
最後の朝日3月29日朝刊8面では、「米国で27日、史上最大規模の2兆ドル(約220兆円)超の経済対策が決まった」とし、「我が国への戦時レベルの投資だ」(共和党の上院トップ、マコネル院内総務)との認識の下で、経済対策として、「家族4人の平均的世帯当たり計3400ドルの給付や、雇用支援のための中小企業向け融資(予算規模約3500億ドル)、失業給付の拡充(2500億ドル)、航空産業などの産業支援(5千億ドル)などが柱」の対応が行われたとしている。

まさに、怒涛の10日間であるが、さすがに米国の決断は早いと思わざるを得ない。翻って我が国では、4月7日の緊急事態宣言後ですらも、自粛要請を求める施設の調整に手間取り、東京都による緊急事態措置の発表は4月10日にずれ込んだ。新型コロナは時間との闘いとされている中での時間の浪費であるが、国側には、施設に対する自粛要請は2週間後という意見が強かったそうだから、驚くというより呆然とする。この危機感のなさは、一体何なのだろう。有事立法とか、憲法を踏みにじる対応をしておきながら、最も肝心な国民の命を守るという責務への自覚が、まるで感じられない。
話を米国に戻すと、確かにスピーディな対応であるが、このコロナ・ショックでは、米国の現行制度の脆弱さが露呈している。一つは、言うまでもなく、公的医療の不備である。トランプ政権では、新型コロナ検査を無償としたが、感染していた場合、適切な医療が受けられる保証は、どこにもない。高額な民間保険に入っていなければどうにもならないし、入っていても治療費は高額にのぼるとされている。シカゴなどでは黒人の死亡率は白人の5倍とのことだが、これは医療アクセス格差を反映しているのであろう。
もう一つは、早急な現金給付が行われた裏側には、失業給付が貧弱な面があるようである。このことは、上記の記事の中でも、野党・民主党の「休業対策など雇用安全網の充実を求める声」にも現れている。この現金給付は、まるで「ベーシック・インカム」みたいとする論評があったが、その裏には、欧州と比べて貧弱な雇用安全網があるわけである。
最後に、所得制限について触れておきたい。「金持ちに配る必要があるのか」という反発は分かる。しかし、このような緊急対策では、何よりもスピード感が求められる。いちいち所得審査をしていたのでは、対応が遅れ、手遅れになりかねない。金持ちであろうと、住民登録を元に、一律の給付を行えばよいのでないか。そして、後で年間所得に対する課税で対応すればよいのではないか。日本でも所得制限の話があるが、馬鹿げている。バラマキだと声高に非難する人には、アホな事ばかり言っていないで知恵を出せ、と言いたいところである。

2020年3月17日火曜日

2020年3月17日 日経夕刊2面 ●(就活のリアル)消えゆく製造・販売人材 女性・高齢者層は急減へ

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏による就活理論編である。「今回は、大卒以外の人材、たとえば製造や技能や販売、サービスなどの職務については、どのように補充をすればいいか、を考えておきたい。」というものである。
まず、「こうした人材の欠乏感は大卒ホワイトカラー職のそれとは大きく異なる。」とし、「大卒人材は少子高齢化の中でも30年で1.6倍にも増えている」が、「高卒で働く人は30年前の5分の1にまで減っている。新規人材の基礎数は信じられないほどに細っているのだ。」とし、「加えて、販売やサービス部門では中途参加する人材として、主婦や高齢者のパート労働が今まではあったのだが、先細り感が日に日に色濃くなっている。」としている。
そして、「過去、日本社会には性別役割分担という差別的な風習が色濃く残ったため、既婚女性は家事育児のために、職場を離れる傾向が強かった。」が、「近年は人手不足の中で男女共同参画が進み、家事・育児と並立して既婚女性が継職できる環境が整ってきた。そのため、「主婦パート」の新規就労者がこれまでのようには見込みにくくなりそうだ。」としている。
さらに、「高齢者の就労についても実は今が端境期にある」とし、「就業率が劇的に伸びているのは、65~74歳の前期高齢者のみ」であるが、「2022年以降、第一次ベビーブーム世代が75歳に達するため、彼らが激減していくのだ。」としている。そして、「日本の雇用は、…非ホワイトカラー領域から脆弱になっていく」とし、「採用永久氷河期」ともいえるだろう」としている。
最後に、この難題への対応として、一つは、「AI(人工知能)やIT(情報技術)を用いた無人化・省力化投資」であり、「技能実習生、特定技能資格就労などの外国人材の受け入れなども有力な選択肢」としている。そしてもう一つは、「非ホワイトカラー領域で、今までになかった人材確保術が静かに浸透しつつある」とのことだが、その方法は次回に回すと結んでいる。

コロナ・ショックで雇用市場が激変する少し前は、「人手不足倒産・廃業」の動きが目立ってきていた。黒字だが、顧客へのサービスを行う人材がいないので、やむを得ず手じまう、というのである。コロナ・ショックで様相は一変し、外出自粛などで仕事の方が激減し、人の方が余るという現象が生じているが、氏の洞察は、混乱が収まれば、従来、高卒・主婦・高齢者が対応してきた非ホワイトカラー領域は、「採用永久氷河期」になるというのである。一方、コロナ・ショックの出入国規制で、すでに農業や飲食店など多くの分野で不可欠な働き手となっていた外国人材が入国できなくなり、現場では悲鳴があがっているようだが、さらに今後も受け入れを拡大することには異論もあり、私自身も反対である。
この記事の主張を裏付けるものとして、次の内閣府の資料を見てみよう。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_2.html
第2-2-1図「就業者数の変化率(2005年度~2015年度)」では、「就業構造は、第3次産業化が進んでいる」ことが示されている。
第2-2-2図「労働需給ミスマッチの大きい職業」では、「介護サービス等で需要超過、総合事務員等で供給超過」の状況が示されている。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2017/0118nk/n17_2_4.html
上記が、この資料の「第2章 多様化する職業キャリアの現状と課題」のまとめであるが、そこには、次のように記されている。
「AI等がより一般的になると、就業構造の変化はさらに激しくなると予想され、特に既に供給超過である総合事務員等は、機械化による影響を大きく受ける可能性が高い。専門的な知識だけでなく、コミュニケーション能力、状況把握能力等の機械に代替されにくいスキルを習得し、活用していくことが重要である。」
だからと言って、急に専門能力などが身に着けられるわけではないだろう。必要なのは、変化に対応してたゆまぬ努力を続けるという姿勢であり、自分自身で問題を考え、取り組んでいく自主性であろう。就活で内定先が決まっても、そこは終着点ではなく、出発点であるという認識が必要である。
やさしい経済学 日本型雇用、改革の行方
2020年3月17日 日経 朝刊 29面 (1)春季労使交渉の異変
2020年3月18日 日経 朝刊 33面 (2)「三種の神器」の功罪
2020年3月19日 日経 朝刊 31面 (3)経年劣化と時代の変化
2020年3月20日 日経 朝刊 25面 (4)低い労働生産性の実像
2020年3月23日 日経 朝刊 15面 ●(5)熱帯びる人材獲得競争
2020年3月24日 日経 朝刊 33面 (6)「ジョブ型」と「メンバー型」
2020年3月25日 日経 朝刊 32面 (7)成果主義導入の教訓
2020年3月26日 日経 朝刊 29面 (8)苦悩する労働組合
2020年3月27日 日経 朝刊 31面 (9)賃上げ原資の配分方法
2020年3月30日 日経 朝刊 13面 (10)「ジョブ型」普及の課題
2020年3月31日 日経 朝刊 33面 (11)あるべき理想の姿

労働経済学についての第一人者の一人である京都大学博士(経済学)で日本総合研究所の山田久副理事長によるコラム/やさしい経済学欄における全11回にわたる解説である。通して見れば、この問題についての大きな流れや問題の所在を理解することができるであろう。
各回の詳細を紹介することは、著作権に触れるレベルになる可能性もあり、何より、記事に目を通されるのが一番であるから、以下では、ざっと概要を見ることとする。

第1回では、今季の春季労使交渉(春闘)では「本質的な異変」が生じているとして、トヨタの組合が個人の成果に応じた配分に要求を転換したことと、経団連の年功賃金の見直しを通じた年収ベースでの賃上げの主張に触れ、「背景にはデジタル技術革新に伴う産業構造の大変革」があるとし、「本シリーズでは、大きな転換期にある日本型の雇用・賃金制度の現状と、今後の行方を考えます」としている。

第2回では、日本型雇用慣行には、終身雇用、年功賃金、企業内組合という「三種の神器」があるとし、「そのメリットが際立ったのは石油危機後の対応」で、「わが国では組合が企業の立ち直りを優先して賃上げ要求を抑制し、早期のインフレ鎮静に成功」としている。こうした日本型雇用慣行は、「1980年代には日本企業の強さの原動力として世界から称賛」されたが、「その対象は主に大企業に勤める男性正社員」とし、「長時間労働の常態化や転居を伴う転勤など、従業員やその家族の生活へのマイナス面が問題視」されることもあったとしている。

第3回では、「1990年代に入るとデジタル技術が飛躍的に進歩し、商品・事業サイクルは短くなりました。生え抜き重視で内部育成偏重となっていた人材活用の限界があらわになった」とし、「高齢化する日本では年功賃金が高コスト化」し、「企業は正社員の新卒採用を大幅に減らし、低賃金で雇用調整が容易な非正規労働者を増やし」た結果、「正規・非正規の二重構造が社会問題」となったとしている。さらに、正社員の処遇の「成果主義は一部の優秀な人材の処遇を高める一方で、多くの従業員の給与は抑え、全体として人件費を抑制」としている。そして、「日本経済全体としてみれば付加価値額は増えず、労働生産性は低迷を続けた」としている。

第4回では、「労働生産性の向上は、日本企業・日本経済にとって最重要課題」としつつ、「わが国企業の競争力は高い品質」「サービスの品質では日本の方が高いことを示唆」とし、「改善型イノベーション」に秀でているのは、「長期勤続で横並び的に処遇する日本型雇用慣行が、高い職務規律の維持と、組織ノウハウ蓄積に役立った」からとしている。一方で、「革新型イノベーション」の弱さが指摘できるとしている。

第5回では、「経団連が日本型雇用の見直しの必要性をうたう背景には、企業を取り巻く内外環境の激変」があるとし、市場構造が「商品単体/プロダクト・アウト」主体から、「モノ・サービス一体化/マーケット・イン」重視にシフトし、技術構造も「熟練技能/擦り合わせプロセス」重視から、「アルゴリズム化/組み合わせプロセス」重視へと大きく変化している環境では、わが国企業が得意とする「改善型イノベーション」より「革新型イノベーション」が重要になり、それを「先導するプロフェッショナルな人材を外部から調達する場合、生え抜き重視・内部育成偏重の日本型雇用の弱点が大きく露呈」するとしている。

第6回では、経団連が導入を提案する欧米流の「ジョブ型」雇用は「まず仕事ありき」の制度であるが、わが国は「まず人ありき」で、わが国の労働組合は企業別で、「労働者は職業よりも勤め先企業に帰属意識」を持つとしている。さらに、「重要な違いは人材育成の仕組み」とし、わが国では「職場での業務を行いながらの指導が主」で、結果として、「欧米では事業不振を理由とした整理解雇のハードルは低くなりますが、わが国では労働組合の抵抗が強いという違いが生まれてきました」としている。

第7回では、「日本企業でも様々な改革」が進んでいるとし、「タレント・マネジメント」や、「新規事業をスピーディーに立ち上げるため中途採用を増やしたり、優秀な人材確保のために既存制度とは別枠で処遇したりする例」もみられるとしている。さらに、「黒字リストラ」で、「業績堅調でも早期・希望退職を募るケース」が一部で出てきたとしている。そして、「人材獲得競争が激化し選別人事の色彩が強まると、「普通の人々」のモチベーション維持が課題となります。この点が新たな成果主義成功のカギ」としている。

第8回では、「わが国の労働組合は企業ごとに組成」という点に触れ、「結果として非正規労働者の労働条件を十分には改善できませんでした」としている。そして、「労働組合は横の連携を深め、一企業の枠を超えた社会全体での雇用保障という発想を持って、非正規も含めた労働者全体の処遇改善に本気で取り組む必要があります。企業も組合の意義を理解し、双方が緊張と協調のバランスのとれた労使関係を構築していくことが望まれます」としている。

第9回では、「市場構造・技術構造の変化を踏まえれば、日本企業は外部の経営資源を積極的に取り入れることが不可欠で、「革新型イノベーション」の担い手である優秀な人材を厚遇することは重要」であるが、一方で、「多くの企業の強みは「改善型イノベーション」に基づく製品・サービスの品質の高さ」にあり、「現場力を維持・向上させるには、労働者の士気を高め、その貢献に広く報いることが必要」としている。そして、「競争力を維持・強化する新たな賃上げ原資配分方法の構築に向け、労使の真摯な議論」が求められるとしている。

第10回では、「革新型イノベーション」には、欧米の「ジョブ型」雇用が有利であるが、それがうまく機能するには、「企業間労働移動を支える社会インフラが必要」で「職業コミュニティー」が重要としている。それには一定の時間がかかるので、「就社型雇用とジョブ型雇用の「ハイブリッド」を目指すのが妥当かつ現実的」というのである。

最後の第11回では、OECDの2018年の報告書の分析に触れ、「労使交渉の在り方として(1)集権的か分権的か(2)産業・部門間の調整度合いが強いか弱いか――で加盟国を分類。それぞれの労働市場のパフォーマンスを比較したところ、米英が分類される分権的タイプより、多くの北部欧州諸国が属する調整度の強いタイプが、総じて優れたパフォーマンスを示していました」としている。そして、日本型と欧米型の「ハイブリッド」雇用システムの構築にも、「セーフティーネットの充実」が必要であり、「持続的な能力開発は個人と企業の共存共栄をもたらすカギです。全ての労働者に十分な教育投資が行き渡るよう、官民協力した支援策が求められます」と結んでいる。

振り返って見ると、よく整理された解説であることが、改めて分かる。しかし、日本型と欧米型の「ハイブリッド」雇用システムの成立・有効性については、疑問がある。
それは、日本で特徴的な企業内組合は、そもそも、経営側が、産業横断的に労働者が団結して経営に介入してくるのを防ぐために容認・推奨してきたものだからである。その結果、従業員は、社会ではなく、会社に関心を持ち、依存するようになっていった。この状況を批判的に表す言葉として、「社畜」がある。この考え方は、労働者に深く染みついており、会社などの組織を守るためなら、犯罪的不正を犯すことも厭わない状況が生まれている。談合問題しかり、自殺者まで出した森友問題しかりである。内部通報システムが十分に機能しない根本原因も同じである。
また、そもそも、企業側は、個々の労働者の職業能力を伸ばすことを最優先に考えているとは言えないのではないか。転勤や配転などには、その必要性が疑われるものも少なくない。人事権という伝家の宝刀で、労働者に威圧を与えていることは随所に見受けられる。
そして、そのような労働者の希望や適性を無視し、あるいは、そうした貢献に公平公正な処遇で報いることを軽視してきた結果が、労働生産性の低下・労働意欲の減退につながっているのではないか。
「革新型イノベーション」によって、個々人の貢献に大きな格差がつくようになった以上、それが賃金や処遇の格差につながることは避けられない。企業内で留意すべきことは、その格差、特に、低賃金層における状況が、産業横断的に見て、許容される範囲のものかどうかの確認であろう。その点では、企業内組合が出て来る余地はなく、産業別組合の力点は、最低賃金の水準の妥当性確保に向かうことになるのであろう。
それでも、労働者や産業によっては、許容水準を超える格差が生まれ得る。そこにこそ必要となるのが、セーフティネットであり、再教育投資である。すなわち、企業は、企業内格差が、特に低賃金の労働者について許容可能な範囲にとどまっているのかどうかを常にチェックする必要があり、政府は、企業内では対応できない格差の拡大に対し、低賃金者には保護を、高所得者には負担を求め、セーフティネットを整備・強化する必要があるということである。もちろん、労働者にも、意欲を持ち、能力を高める努力が要求されよう。
2020年3月17日 日経朝刊16面 パナソニック、AI人材ら採用に力 年収最高で1250万円
2020年3月19日 日経朝刊15面 ソニーの若手・中堅、年収最大250万円高く 横並び見直し

最初の記事は、「パナソニックは16日、人工知能(AI)やデータサイエンスなど先端技術の知見を持つ研究者を採用する新たな方針を発表した。研究実績や保有資格に応じ、年収は750万~1250万円を想定する。新卒、既卒を問わずに募る。新規事業の創出などにつなげる。」というものである。
「博士号取得者ら数人を1年更新の嘱託社員として採用する。雇用期間は最長5年。家電や電子部品といった事業部門をまたぐ本社直轄の研究開発部門で働いてもらう。クラウドやディープラーニング(深層学習)関連など幅広いテーマの研究者を募集し、テーマの持ち込みも受け付ける。」としている。
なお、「2021年度の新卒採用で選考期間の延長を検討していると公表した。新型コロナウイルスの感染拡大で会社説明会の一部が中止になるなど、影響が出ていることに対応する。」とのことでもある。

次の記事は、「ソニーは2020年度、優秀な若手・中堅の従業員の年収を、最大で標準よりも250万円高くする。一般的な係長未満に相当する「上級担当者モデル」の従業員が対象。横並びの給与体系を見直し、貢献度の高い社員に報いる。若手・中堅社員の処遇を改善し、「GAFA」と呼ばれる米IT大手などとの業界の枠を超えた人材獲得競争に備える。」というもので、「19年度から新入社員の初任給にも差をつける取り組みを進めている。人工知能(AI)などの先端領域で高い能力を持つ人材については、年間給与を最大2割増しとしている。」とのことである。また、「20年春の労使交渉で、日立製作所やパナソニックで構成する電機大手の統一交渉には参加していない。電機業界だけでなく他分野にも負けない高水準を示し、優秀な人材確保につなげる。」としている。

AIをはじめとする先端技術の重要性が高まる中、そうした高度専門人材に対する獲得競争が熾烈になってきている。そのことが横並びの春闘にも影響を及ぼしているわけで、年功序列・終身雇用の日本型雇用を破壊する可能性も出てきている。
だが、パナソニックの「1年更新の嘱託社員として採用する。雇用期間は最長5年」では、大した人材は集まらないだろう。これなら博士号を取得したのにもかかわらず非常勤として働くしかない大学教員と大差ないからである。「雇用期間は最長5年」は、正社員と同じ期限のない労働契約への移行を阻止するためだろうが、そこまで「助っ人」として位置付けるのであれば、給与は数千万とする必要があり、「年収は750万~1250万円を想定」なら、言っちゃあ悪いが、中途半端な人材しか集まらないだろう。要するに、まるで分っていない、のである。
ソニーの方は、「新入社員の初任給にも差をつける」とのことであるが、この戦略は、新卒者等の中で先端専門技術の習得上有利な者を特別扱いしようということである。日本の大学教育や新卒採用の状況を踏まえると、一定の効果はありそうだが、問題は入社後である。「優秀な若手・中堅の従業員の年収を、最大で標準よりも250万円高くする」というのでは、はっきり言って「GAFA」への対抗などできるわけはない。これは、高度専門人材の給与が他の社員より大幅に多くなるのを抑止するという考え方だろうが、恐らくは、折角育てた高度専門人材に愛想を尽かされて流出させてしまう、ということになるだろう。
両社ともに、日本的経営というか、社員間のバランスといったものに固執しているわけだが、それ故にグローバル人材獲得競争に敗れつつある、という現実を直視していない。
もっとも、そのような高度専門人材の入社が、社業にどれだけ貢献するものなのか見極めできない、という点はあるのだろう。これはその通りで、社風との相性もあり、入れてみなければ分からない。その点から、パナソニックの嘱託社員というか、有期雇用社員としての採用も分からないではない。問題は、ケチくさい給与水準である。イメージで言えば、雇用期間を5年とした場合、その期間で普通の社員の最低1.5倍くらいの給与にしないと、良い人材が採れるとは思えない。すなわち、普通というか課長クラスの年収が1千万円であるのなら、5年間で7千5百万円が必要ということである。これを5年契約の年間1千5百万円ではなく、1年契約・更新5年までとするなら年間2千万円(5年間になると総額1億円)ということになるだろう。非常に高度な専門人材を1年契約で獲得しようとするのなら、役員並みの給与が必要になるだろう。
このような姿が、現実に起きているのが、日本のプロ野球である。外人枠は特別待遇となっているが、彼らの活躍に依存している球団も多い。そして、有能な日本人選手も、活躍の場と好待遇を求めて、次々と大リーグに向かうようになっている。その先導をしたのが、野茂投手とイチロー野手で、だから彼らは裏切り者と罵られたのである。それでも、彼らの決断と活躍がなければ、日本のプロ野球の水準は低迷していたままだったであろう。
さて、パナソニックやソニーなどの日本企業は、野茂やイチローに匹敵する高度専門人材を育てた上で、その人が望むなら快く外に送り出し、その活躍に拍手を送れるだろうか。問われているのは、そこまでの覚悟であり、度量であろう。

2020年3月16日月曜日

官製ワーキングプア
2020年3月16日 朝日夕刊9面 1 正職員と格差、納得できない
2020年3月17日 朝日夕刊7面 2 15年働いた経験、無視ですか
2020年3月18日 朝日夕刊5面 3 「労災に差別」届いた遺族の声
2020年3月19日 朝日夕刊11面 4 非正規こそ労働基本権が必要

官製ワーキングプアについて、現場を踏まえて報じるという4日連続の特集記事である。「約64万人(16年時点)まで膨れあがった非正規。低処遇に苦しむ人が多く「官製ワーキングプア」とも呼ばれる。」としている。

第1回目は、自治労中央執行委員の野角(のずみ)裕美子(59)氏の「私はみなさんと同じ非正規だった。私の仕事は非正規の処遇改善と雇用安定です」という講演での言葉から書き出している。自治労沖縄県本部が設立した非正規公務員の連絡協議会総会での話である。
「自治労は地方自治体の労働組合で構成する全国組織。ナショナルセンター・連合を支える有力組織で傘下の組合員は約80万人いる」が、「総合組織局強化拡大局長という肩書もある野角は、28人いる中央執行委員の一人。その立場は他の委員と大きな違いがある。自治労傘下組合員の多くは正職員だが、野角は非正規労組の出身だ」とのことである。
記事では、「子育てが一段落したころ、野角は東京都町田市の図書館に応募し、採用された」野角氏が、「正職員との格差を感じる」ようになり、「嫌だったのが正職員に賞与がある6月と12月。黙っていても周囲が浮かれているのがわかる。」「仕事は同じ。何の違いがあるのか」」と思ったことや「非正規の同僚が妊娠した時も格差を感じた。正職員が休暇に入る時は祝福されるのに、非正規が休むと微妙な空気が流れる」といった体験に触れている。
そして、「07年ごろ、民間委託の話が浮上したことをきっかけに、非正規労組を立ち上げた」とし、「野角は委員長に名乗りを上げ、一歩一歩、処遇改善を勝ちとってきた」とする。そして、自治労本部から「中央執行委員に」と声がかかったのは13年のお盆直前だったそうである。
問題の背景には、「公務員の法律は、正職員を前提につくられている。各自治体の考えで非正規を増やしてきたため、特別職や臨時職など法律上の採用根拠はバラバラ。賞与を払う根拠もはっきりしていなかった」点がある。
そして、「17年5月に地方公務員法が改正され、今年4月から「会計年度任用職員」という新制度が始まる。非正規のほとんどが新制度に移るとみられるが、新制度への批判は多い。賞与を払う一方、月額報酬を減らそうとする自治体がある。採用が1年ごとで不安定さも変わらない」が、野角は「法改正は水準を上げるためのスタート」「やっと法律に位置づけられる。法改正されて具体的にやることがわかる」と前向きにとらえているとのことである。
最後に、今年1月にあった自治労の中央執行委員会で、「会計年度任用職員の労働条件について要求書を出していない組合が3割もあった」ことに、「2年半前からわかっていたのに。まだまだひとごと。処遇改善は人材確保にもプラス。自治労として取り組むべき課題だ」と野角は驚き、怒りをあらわにしたそうであるが、記事は。「野角の任期は残り2年を切った」と結んでいる。

第2回目の記事は、「2月20日、東京・新宿にそびえる都庁38階の東京都労働委員会の審問室。伊藤信子(67)が大田区の保育園で働けるかどうか。区との話し合いは大詰めだった」との書き出しである。
「15年間、大田区の保育園で働いている伊藤は幼稚園教諭の資格をもつ」そうであるが、「午後4時半から7時半までの3時間、「延長番」と呼ばれる勤務につく」ものの、「最初は公務員になっていいなと思った。ところが、だんだん正職員との差が気になりだした」としている。
そして、「4回の更新上限があった。3年を過ぎたころから不安が募った。1年空ければ再び応募できるが、採用される保証はない。その間の勤務先はどうすればいいのか。組合を作って交渉し、在職したまま応募できるようにした」とし、引き継ぎノートへの「今日はボーナスが出ます」との正職員の書き込みに、「格差がむなしくなってくる」と感じたとしている。
そして、非正規公務員の人たちのための新しい制度「会計年度任用職員」が今年4月から大田区でも始まり、「部署によってバラバラだった勤務パターンが五つに整理された」が、「伊藤と同じ3時間勤務も経過措置の特例としてあった。しかし、伊藤は条件にあてはまらないと言われた」と言う。「延長番」は正職員と伊藤の2人体制。東京都の基準では2人とも保育士資格が必要だという。「月80時間勤務すれば保育士と同じ知識や経験があると認められる可能性があるが、月66時間の伊藤は条件を満たさない」というのである。
そこで、「月66時間でも15年の経験がある。それなのに1年でも80時間経験させればいいというのは矛盾。今までの時間を無視するのは納得できない。なぜ15年がゼロになるのか」と大田区と交渉を続け、「交渉は労働委員会に持ち込まれた。勤務時間を変更した上で、3時間で働き続けられる条件を大田区が提示。2月20日の話し合いでは、これまでの保育実績を考慮して選考することも表明した」と言う。
記事は、「声を出さなければ何も変わらない。みな同じ公務員です」との伊藤氏の声で結んでいる。

第3回目は、「労災手続きがなくても市長に補償請求ができるから北九州市の条例は違法ではない」との書き出しである。この訴訟の原告である森下眞由美(57)氏の娘である佳奈氏は、「大量の薬を飲んで亡くなった。27歳だった」という。
佳奈氏は、12年4月、北九州にある戸畑区役所の子ども・家庭相談コーナーの相談員(非正規職)になったが、翌年1月、佳奈は体調を崩し大分県内の自宅に戻り、うつ病と診断されたそうである。
そして、ご両親は、「自死遺族支援弁護団に連絡し、紹介されたのが佃だ。佃はまず労災を請求した。ところが、労働基準監督署は「対象ではない」。次に北九州市に請求したが、「非正規や遺族の請求は認めていない」と門前払いされた。条例で定める規則がそうなっているというのだ」という。
記事では、非正規公務員の「労災(公務災害)制度は複雑」としている。「民間企業の労働者には労災保険がある。公務員でも土木や建築、運送、教育など「現業」と呼ばれる職場は同じ労災保険の対象。それ以外の地方公務員は、地方公務員災害補償法という別の制度だ」とし、「問題は、佳奈のように、現業でない非正規公務員。法律では各自治体が条例や規則で定めることになっている。総務省の古いひな型では、本人や遺族は申請できないことになっていた」そうで、「自治体によっては規則を変えたり、運用で請求できるようにしたりしているところもある。ところが、北九州市は古いままだった」という。
そこで、ご両親は、「ここまでの差別があっていいのか?」と17年8月に「請求権を認めない条例は違法」と国家賠償訴訟を起こし、「非正規公務員の労災制度に大きな矛盾があることを世の中に広く知らしめた」というわけである。
その後、「18年7月初め、眞由美は、野田聖子総務相(当時)に手紙を出す。野田からはすぐに見直しを確約する返事が届いた。7月20日には、総務省がひな型を変更して自治体に通知。北九州市も10月に規則を改正し、被災職員本人や遺族も申請できるようにした。眞由美の思いは、政府を動かし、条例も変えた」という。
最後に、「福岡高裁で退けられた国家賠償訴訟はその後最高裁に上告。佳奈の死は上司のパワハラが原因だったとして、補償を求める訴訟も福岡地裁で続いている」と結んでいる。

最後の第4回目は、「非正規公務員問題に取り組むNPO「官製ワーキングプア研究会」の事務所は東京都新宿区にある。2月2日の日曜日、昼過ぎに訪れると、4本の回線にひっきりなしにかかってくる電話の対応にメンバーが追われていた」という書き出しであり、「4月から新制度の「会計年度任用職員」が始まるために開かれた電話相談。「月給が減る」「更新されない」。2日間で計91件の問い合わせがあった」としている。
そして、「安田真幸(まさき)(72)も電話に対応した一人だ。安田は東京都杉並区の元職員。今は、自ら立ち上げた個人加盟ユニオン「連帯労働者組合・杉並」の執行役員だ。40年以上前、大学を卒業して公務員試験を目指し、東京都庁でアルバイトをしていたことがある」が、「半年ほどたった時のことだ。「名前を変えてくれないか」と上司から言われた。アルバイトは半年更新が原則で、本来は半年以上続けられないからだ」ということになり、「「年収が減るだろう」と社会保険を辞退することに合意する書類にサインすることも求められた」ところから、「これは一体何だ?」と疑問が湧いたという。そして、「その後都庁に入り杉並区役所に配属された。区の正職員組合で活動したが、1989年に脱退。個人加盟できる労組を立ち上げた」というわけである。
そして、「会計年度任用職員」制度で安田が一番問題だと考えるのは、労働基本権の扱いだ。地方公務員法(地公法)で公務員の労働基本権は制約されている。スト権はなく、労働協約を結ぶことはできない。非正規公務員も同じ扱いだが、例外がある。「特別職」だ」とし、「特別職は本来専門職で、恒常的な仕事は考えられていない。それなのに、自治体が非正規を増やすときに特別職を使った。非正規公務員の3分の1を占め、学校や保育園など多くの職場にいる」という。そして、「特別職に労働基本権があることを活用して、自治体と団体交渉を行い、労働協約を結んできた労組は少なくない」と、「2000年代に入ると、多くの成果が出始めた」と安田はいうとしている。
「ところが、会計年度任用職員を導入する地公法改正で、特別職として採用する条件は厳格になる。特別職の多くは会計年度任用職員に移り、他の公務員と同じように労働基本権が制約されるため、安田の目には「法改正は労働基本権を奪うのが目的だ」と映る」というのである。 
そして、「安田は労働基本権を使って団体交渉をしてきた三つの労働組合とともに17年、法改正が団結権を保護する国際労働機関(ILO)の条約に違反すると申し立てた。不受理にはなったが、ILOにある専門家委員会に働きかけを続けた」ところ、「その後、今年2月に発表された専門家委員会の年次報告書には、安田らの労組名とともに「長年保持してきた労働組合権が奪われないよう労使関係システムの検討を政府に要請する」と書かれた」とし、「報告書自体に拘束力はないが、今後の運動にどう生かしていくか。「正職員は身分保障がされている。不安定な非正規公務員こそ、労働基本権が必要だ」。安田は次の一手を模索している」と記事は結んでいる。

この記事のきっかけとなったのは、「会計年度任用職員」という制度である。これについて、総務省自治行政局公務員部は、次のように説明している。(資料がきちんと閲覧できない状態での掲示は、自己チェックもできていない杜撰さだが。)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638276.pdf
課題であった点として、「厳しい地方財政の状況が継続する中、教育、子育てなど増大し多様化する行政需要に対応するため、地方公務員における臨時・非常勤職員数は増加」し、「これまでにも平成26年総務省通知等により助言を行ってきたが、地方公共団体によっては制度の趣旨に沿わない任用が行われており(課題1・2)、また、処遇上の課題(課題3)もある」状況だったとしている。(3ページ)
 課題1:通常の事務職員も「特別職」で任用
 課題2:採用方法等が明確に定められていないため、一般職非常勤職員としての任用が進まない
 課題3:労働者性の高い非常勤職員に期末手当の支給ができない
そこで、地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律(平成29年法律第29号)が制定されたわけであるが、その概要は、次の通りである。(4ページ)
 1.地方公務員法の一部改正【適正な任用等を確保】
  (1)特別職の任用及び臨時的任用の厳格化
  (2)一般職の非常勤職員の任用等に関する制度の明確化
 2.地方自治法の一部改正【会計年度任用職員に対する給付を規定】
   ○会計年度任用職員について、期末手当の支給が可能となるよう、給付に関する規定を整備する。
そして、これらの内容について、下記のように説明されている。
  特別職の任用及び臨時的任用の厳格化(8ページ)
   ①専門的な知識経験又は識見を有すること
   ②当該知識経験等に基づき事務を行う労働者性の低い職であること
   ③事務の種類は、助言、調査、診断又は総務省令で定める事務であること
   の全ての要件に該当する職に限定
  臨時的任用の適正確保(9ページ)
   ○臨時的任用は、緊急の場合等、正規の任用手続きを経るいとまのないときに特例的に認められるものであることから、国家公務員の取扱いを踏まえ、「常勤職員に欠員を生じた場合」に限定
   ○改正法に基づく臨時的任用職員は、フルタイムで任用され、常勤職員が行うべき業務に従事するとともに、給料、旅費及び手当が支給
  会計年度任用職員の募集・任用・服務(10ページ)
   ○募集・任用にあたっては、できる限り広く募集を行うなど、適切な募集を行った上で、競争試験又は選考により、客観的な能力実証を行う必要(常勤職員は競争試験によることが原則)
   ○会計年度任用職員には地方公務員法の服務に関する規定が適用され、懲戒処分等の対象となる(パートタイムの会計年度任用職員は、営利企業への従事等の制限が対象外)
  再度の任用(11ページ)
   ○再度の任用は、あくまで新たな職に改めて任用されたものと整理すべきであり、任期ごとに客観的な能力実証に基づき、十分な能力を持った者を任用することが必要
   ○不適切な「空白期間」は是正する必要※「空白期間」とは新たな任期と前の任期との間に一定の期間を設けること
  会計年度任用職員の給与水準(12ページ)
   ○会計年度任用職員の初任給決定については、職務経験等の要素を考慮して定めることが適当。
   ○会計年度任用職員の給与水準については、基本的には常勤職員の給料表に紐付けた上で、上限を設定することが適当。
  会計年度任用職員に対する給付の考え方(全体像)(13ページ)
    フルタイム:給付体系給料・旅費・手当を支給可能
    パートタイム:報酬・費用弁償・期末手当を支給可能
  会計年度任用職員の勤務時間・休暇等(14ページ)
   ○職務の内容や標準的な職務の量に応じた適切な勤務時間を設定すること
   ○国の非常勤職員との権衡の観点等を踏まえ、必要な休暇等の制度を整備すること

以上の全体像をざっと見ると、この改正自体が悪いようには思えない。これに対する問題点を指摘したものとして、自治労連新潟公務公共一般労働組合の坂井雅博執行委員長による「論文『会計年度任用職員』導入による公務員制度の大転換」がある。
https://www.jichiken.jp/article/0080/
論文では、「公務運営のあり方そのものをも、変質させる危険性」に言及し、「「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務運営」の原則が崩されている実態を追認し、固定化するものでもあります。ここには、非正規化をすすめてきた政府や地方自治体の責任には、いっさい触れられていません。それどころか、住民の暮らしに密着した仕事のほとんどを、非正規職員に担わせることを正当化するものとなっています。」としている。
しかし、自治労自体の責任は、どうなのか。正規職員の利権を守るために、非正規職員についての格差を黙認・温存していたのではないのか。第1回目と第2回目の記事では、嫌だったのは「正規職員との格差」とされている。それは、自治労が正規職員の利益を最優先してきたことを物語るものではないのか。
もちろん、移行期の問題として、兼業禁止や給与減額→賞与への振り替え、といった問題は生じている。では、自治労に、正規職員の分を削っても非正規職員の賞与に回すべきだとの思いはあるのか。第1回目では、「会計年度任用職員の労働条件について要求書を出していない組合が3割もあった」とされているところである。
第3回目の労災の問題は、新制度によって、基本的に解決するのではないかと思われるが、ここにも自治労の支援は窺われない。
第4回目の労働基本権の問題は、非正規職員だけの問題ではない。くだんのILOの専門家委員会の年次報告書は、ちょっとWEB上では確認できなかったが、「日本の公務員の労働基本権問題(ILO第87号条約「結社の自由・団結権保護」)」について、基準適用委員会(CAS)の個別審査案件になっていることは確認できる。
http://www.jichiro.gr.jp/intr/7743
「不安定な非正規公務員こそ、労働基本権が必要」とする見方には、賛成できない。制度のハザマの中で、非正規職員が有していた唯一正規職員より有利なものであった労働基本権が奪われることに対する怒りは分かるが、本来、正規・非正規を問わずに確保されるべき労働基本権ではないのか。

総括して言えば、『会計年度任用職員』の導入は、まだ正規・非正規の格差が広範に残る中で、十分なものとは言えない。しかし、それでも「同一労働同一賃金」の方向に向けた一定の改善ではある。同じ公務員として、さらに同じ労働者として、正規・非正規の格差の解消のために、一致協力して臨むべきであろう。

2020年3月15日日曜日

2020年3月15日 日経朝刊2面 ●公務員の転職希望が急増 大手サイト登録最高/20代、外資やITへ

「公務員の人材流出が増えている。大手転職サイトへの公務員の登録数は最高水準にあり、国家公務員の離職者は3年連続で増加した。特に外資系やIT(情報技術)企業に転じる20代が目立つ。中央省庁では国会対応に伴う長時間労働などで、若手を中心に働く意欲が減退している。若手の「公務員離れ」が加速すれば、将来の行政機能の低下を招く恐れがある。」という記事である。
 「人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。」としている。30代女性の「省庁で働いてもつぶしがきかない。『最後のチャンス』と30代前半までに民間転職を考える人は多い」との声も掲載されている。
「新卒者の減少に加え、人手不足で転職市場が活況になっていることも一因とみられる。」「民間企業との人材獲得競争もあり、公務員の志望者は減少している。」と記事はしているが、「生きながら人生の墓場に入った」「一生この仕事で頑張ろうと思うことはできない」ということで、「2019年8月、厚労省の若手職員で構成する改革チームが働き方に関する提言をまとめた。」とのことである。
「慶応大大学院の岩本隆特任教授の調べによると、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。」ということで、「有能な若手の流出は組織の人員構成をいびつにし、将来の行政機能の低下も懸念される。年次主義の見直しや業務プロセスの効率化などの改革が欠かせない。」と記事は結んでいる。

就活事情からすると、コロナ・ショックで雇用が安定している公務員への就職希望は増えるものと思われるが、その途もバラ色というわけにはいかないようである。
2019年8月の「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」は、次の通りである。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000540524.pdf
52ページの「もう、拘牢省とは言わせない。」という叫びには、切羽詰まったものが感じられる。
やり甲斐が感じられない一因としては、長期の安倍政権の中で、国民のための業務遂行が、政権のための辻褄合わせに堕している点もあるのではないか。森友事件が典型的であり、自殺した若手官僚の妻の訴えは、多くの官僚にとって他人事ではないであろう。
政権の危機感のなさは、コロナ・ショックで緊急事態宣言が出された今になってすら蔓延している。何としても集団感染を回避しようとしている東京都の施設に対する営業自粛要請に、国が難癖をつけているのである。理容室・美容室のような濃厚接触場所への自粛要請は当然ではないか。ホームセンターは議論がありそうだが、百貨店まで対象外にしようとするのは訳が分からない。恐らく、対象となりそうな業界が、必死に政治家に働きかけているのであろう。
そもそもの強制力を伴わない自粛要請の効果に対してすら諸外国は懐疑的だが、現場の必死の思いに冷水を浴びせる国の姿勢には、呆れかえるしかない。恐らく、その無意味な交渉の矢面に立たされているであろう厚生労働官僚が、やる気を失ったとしても、「むべなるかな」としか言いようがない。この国は、今や崩壊の瀬戸際にある。