2020年2月18日火曜日

2020年2月18日 日経朝刊5面 中小への「残業しわ寄せ」監視 4月から労働時間の規制適用 行政指導も視野に

「中小企業について1年間猶予されていた残業時間規制が4月から始まる。「月100時間未満、年720時間」を上限とする規制が先行している大企業からしわ寄せがいく形で、中小の長時間労働が続くことのないように政府は監視を強める。」という記事である。
「残業時間に上限を設けた働き方改革関連法は2019年4月に大企業に適用され、20年4月から中小企業も対象になる。原則は月45時間、年360時間で、労使で合意すれば年720時間以内までは可能。月100時間を超えてはならず、2~6カ月平均で月80時間以内といった内容だ。建設業など猶予期間が続く一部業種を除き、違反すれば30万円以下の罰金か6月以下の懲役となる。」という状況の中で、大企業ではすでに従業員の勤務時間管理が厳しくなっている。その分、無理な短納期発注や休日出社の強制など、下請け中小企業へのしわ寄せが強まっているとの指摘がある。公正取引委員会の幹部も「短納期発注などが目立つ」と話す。」ということが起きているわけである。
「企業への監視を強めるため、経産省と厚生労働省は合同で働き方改革の対策チームを立ち上げた。」と同時に、「公取委や経産省は大企業など約20万社に書面で中小企業へのしわ寄せを防ぐよう要請した。」としている。
だが、「企業側に改革の負担を押しつけるのは限界がある。IT(情報技術)の活用拡大や大企業を含めたサプライチェーン全体の見直しを官民挙げて進めるなど、産業全体の生産性を高める取り組みと働き方改革を同時に進めることが欠かせない。」と記事は結んでいる。

厚生労働省は、「時間外労働の上限規制-わかりやすい解説」という手引きを作成し、掲示している。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
時間外労働が野放しで、そのまま過労死が「Karo-shi」として英語で通用するまでになった過酷な労働環境の改善に向けた措置としては、大きな一歩である。
しかし、今回の改正でも、国際的に見劣りする割増賃金の見直しは行われなかった。
少し古いが、内閣府が2013年10月4日に「第2回経済の好循環実現検討専門チーム」に提出した次の資料を見れば、割増賃金の是正が必要なことは明らかであろう。フランスは週35時間労働であることに注意が必要)。
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/2th/shiryo4.pdf
この資料には、「労働者の方が、あえて残業して、割増賃金を稼ぐ」という懸念も記されているが、労働時間管理は、管理者の重要な責務であり、残業は本来、業務のやむを得ない必要性によって、管理者の命令・指揮下において行われるべきものである。この懸念は、そんな基本的な事すら、日本企業の労働現場では行われていないことを示唆している。
記事では、「中小企業は労働生産性の停滞が続いている。法人企業統計調査を使って中小企業庁がまとめた資料によると、製造業では大企業が09年度から17年度の間に約40%向上した半面、中小企業は11%の上昇にとどまった。非製造業でも同じ期間に大企業が23%、中小企業は8%と改善の幅に差がある。」ともしている。
まず、そもそも日本の労働生産性は低く、2018年の「時間当たり労働生産性は 46.8 ドルで、OECD加盟36カ国中21位」とされている。
https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2019.pdf
ここで、きちんと理解しておく必要性があるのが、「時間当たり労働生産性」の算定方法である。上記の資料では、次のように算定している。
 1時間当たり労働生産性=GDP÷(就業者数×労働時間)
この式から「1時間当たり労働生産性」を引き上げるためには、まず労働時間を減らすことが考えられる。もちろん、それによってGDPが減少したら効果が減殺されるわけだが、そうならないようにするのが「働き方改革」であり、人力をAIなどに置き換える省力化も重要な要素になる。
一方、就業者数については、日本の人口の少子高齢化によって、生産労働人口が減少し、それによってGDPも減少する恐れがあるが、女性や高齢者の就労増加によって、その影響を緩和しようというのも「働き方改革」の一面である。
最後の問題は、分子がGDPでよいのか、という点である。成長がなければ国家は衰退するとされているが、その考え方の下で建設された「箱もの」は、建設時にはGDP増加に寄与したのだろうが、その後の管理では、むしろお荷物となっている状況である。この修繕・維持費用だけで、GDPの数パーセントが必要であるという議論があるが、そのために「箱もの」をまた作れば、将来世代が、その負担を背負うことになる。つまりは、建設のみをプラス要因と考えるGDPの算定方法に問題があるのではないか。この欠陥の象徴が、原子力発電所で、今や廃炉のコストや方法も見通せない状況になっている。
GDPの欠陥や代わりの指標は、ずっと以前から指摘されているが、代替手段のないまま、今日に到っている。しかし、深刻化する温暖化問題に見られるように、GDPというか成長至上主義のツケは増大する一方である。どこかで、AI技術などの進展により、短い労働時間でも基本的な不足のない生活水準が維持できるようにならなければ、人類は破滅に向かうことになるのではないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿